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一度始めたら辞められなく滴滴ドライバーの罠。あるドライバーの訴え

ニュースキュレーションサービス「今日頭条」を使って、ライドシェアサービス「滴滴」(ディーディー)の批判を3年にわたって行っている滴滴の運転手がいる。多くの人が「そんなに文句があるなら辞めればいいのに」と言うが、この運転手は、滴滴の運転手をいったん始めてしまうと辞められないのだと言う。なぜ、やめられないのか、その理由を滴啊滴啊Dが解説した。

 

高給ではないものの自由があるいい仕事「滴滴」ドライバー

滴啊滴啊Dさんが滴滴の運転手を始めたのは、2018年7月。それから5年以上、貴州省貴陽市で滴滴の運転手を勤め、安全運転ドライバー、優良ドライバーなどの認証を受けている。

始めて最初の1年は、非常にいい仕事だと感じたという。毎月600件ほどの乗務を行い、年間で6800件ほどになった(最初の1ヶ月は、曹操専車との掛け持ちだった。2ヶ月目から滴滴に完全に移籍をした)。これで、滴滴からの収入は13.8万元となった。これに曹操専車からの収入、1万元+があるので、年間収入はほぼ15万元(約250万円)となった。

最初の1年は、滴滴から車をレンタルしていた。月2500元、EV充電代が1500元、合計すると3800元程度で、年間4.8万元となった。

つまり、最初の1年の手取り収入は、収入15万元から経費4.8万元を引いて、ほぼ10万元となった。これは貴陽市でも決して高給とは言えないが、悪くはない収入で、滴啊滴啊Dさんは満足をしていたという。1月8000元程度の収入で、さらに失業給付金があったので、1万元近い収入となる。

それでいて、勤務時間は自由であり、職場の人間関係に悩まされることもない。需要が少ない時間帯には、家族や友人をつれて、生活を楽しんだという。春には花を見に行き、夏には船遊びをし、秋にはバーベキューをし、冬には温泉に入る。隙間時間には、友人と麻雀を楽しむ。滴啊滴啊Dさんは、この生活が気に入った。

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自分の車を使った2年目から悪夢が始まる

悪夢は2年目から始まった。自分の車を持てば、より収入が増えると考えた。また、貴陽市の政策で、ライドシェアのドライバーは車をレンタルするのではなく、自分の車を使うように促されるようになった。レンタルした車を使ったライドシェアで、乗客に対する強盗、猥褻事件が起こり、身分を偽って登録をしていた場合は、捜査も難航するためだ。

そこで、滴啊滴啊Dさんは、自分が持っていた国産車を使おうと思ったが、コンパクトカーであったため、滴滴の使用条件を満たさなかった。そこで、その車を売り、滴滴の条件に合うトヨタレビンのハイブリッド車を購入した。

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▲滴啊滴啊Dさんの滴滴業務アプリの画面。「都市優秀ドライバー」「5年以上勤務」「安全運転」「拾得物のネコババなし」という評価を得ている。有料ドライバーであることは確かだ。

 

自分の車を使っているのに経費が増えて収入が減る

自分の車を使ったからといって乗客が増えるわけではない。その後も月600件程度で、年間収入は15万元程度だった。ところが、経費が大きく増えてしまった。

1:車両代。滴滴では、走行距離60万km以上の車は利用できないことになっている。そのため、車両代14.5万元÷60万km=0.24元で、1km走るごとに0.24元の経費がかかる。

2:ガソリン代:ハイブリッドなので、ガソリン代が必要になる。だいたい1kmあたり0.3元で、毎月5500km走るので、5500km×0.3元=1650元かかる。

3:車両保険:1年目は1.2万元、2年目は0.8万元必要で、合計2万元。24ヶ月で、2万元÷24ヶ月=833元が毎月必要になる。

4:メンテナンス費用:最初の1万kmまでは販売店が無料検査、無償修理をしてくれる。それ以降は、平均して毎月250元程度がかかる。

これを計算していくと、月のコストは4060元、年間コストは4.9万元。滴滴からの収入は年間13.8万元なので、収入は8.9万元。月にならすと7400元となり、なぜか自分の車を使っているのに、収入が減ってしまうのだ。

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▲自動車をレンタルした時の契約書。滴啊滴啊Dさんは、自分の車を使った方が手取りが増えると考えたが、それが間違いの元だった。

 

滴滴の罠。収入は以前の1/3に

しかも、大きな罠が待っていた。滴滴から車をレンタルして運転手をしていた時は、「快車」の仕事が多かった。スマホで呼ばれて、迎えに行き、乗客を乗せるというもので、単価が高い。それだけ収入も多くなる。しかし、自分の車であると、拼車(相乗り)、特恵車(割引乗車)の業務が増える。これは運転手の報酬が著しく下がる。

結局、自分の車を買って最初の20ヶ月の手取り収入は6万元に満たないものになってしまった。月に直すと3000元程度で、以前の1/3になってしまったのだ。

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▲自分の車を滴滴で利用する申請の時の書類。自動車ローンが残ってしまっているので、今、滴滴を辞めると大きな損になってしまう。辞めるに辞められない状態になっている。

 

ハイブリッド車やEVは中古価格が早く下がる

もちろん、滴滴はいつでも辞めることができる。しかし、残りの自動車ローンは自分で支払わなければならない。車が手元に残るといっても、滴滴の仕事をするために買ったもので、自分が使うのであれば、もっと小さな国産車でじゅうぶんだ。売却をしようと思っても、ハイブリッドやEVはバッテリーの劣化があるため、ガソリン車と異なり、中古価格は大きく下がってしまう。

今、滴滴をやめて車を売ったら、大きな損を被ってしまうことになるのだ。車をレンタルする場合と自分の車を使う場合でどのような違いが生まれるのか、事前にきちんと調べなかった自分の落ち度だと言え、ここまで差があるとは思っていなかった。滴滴は自由な働き方ができるが、詰所のようなものがあるわけではないので、他のドライバーたちと話す機会も少ない。このような仕事に関する情報も入ってきづらいのだ。

 

猛烈に働くのか、余裕のある生活を取るのか、議論が起きる

このような滴啊滴啊Dさんの訴えに対して、共感するコメントもあれば、反発をするコメントもある。反発をするコメントの多くは、1日に平均180km程度しか走行していないのは、ドライバーとして怠け者であり、それでは稼げないのも当たり前だというものだ。

一方、共感するコメントは、滴啊滴啊Dさんぐらいの働き方で、収入は多くなくても、春には花を見て、夏には船に乗るという生活を楽しめる暮らしが成立しないのが、今の中国の大きな問題だというものだ。社会階層の上から下まで、毎日血と汗を流し、くたくたになるまで働かなければ生活が成り立っていない今の中国社会に疲れている人も増えているようだ。