中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

音楽ストリーミングサービスで焦点になる「AIリコメンド」。開発を始めるテンセントと網易

アリババの「蝦米音楽」などがサービスを停止したことで、中国の音楽ストリーミング市場はテンセントと網易の2社が競争をする状況になっている。そこで焦点になっているのがAIリコメンドだ。AIが次に曲を選ぶことで、快適さを提供する競争が始まっていると媒体が報じた。

 

中国の音楽ストリーミングはテンセントと網易が独占

中国の音楽ストリーミングサービスは、騰訊(タンシュン、テンセント)と網易(ワンイー、ネットイース)の2社が市場をリードしている。サービス別の2020年の月間アクティブユーザー数(MAU)では、「QQ音楽」「酷狗音楽」「網易雲音楽」「酷我音楽」の順となっているが、網易以外の3つのサービスは、騰訊音楽娯楽(テンセントミュージックエンターテイメント)傘下のサービスでありテンセント系だ。

この他、Apple Musicもサービスを提供しているが苦戦をしている。中国の音楽ストリーミングは月額課金が数百円の安さで、音楽ファイルをダウンロードし、他の再生アプリなどにも移すことができるようになっているからだ。GoogleYouTube Musicはサービスを提供していない。Spotifyはテンセントと提携することで、中国市場に参入している。

価格、自由度、国内曲の充実度の点で、海外系ストリーミングサービスは国内系に太刀打ちができていない。

f:id:tamakino:20211011113007p:plain

▲中国音楽ストリーミングサービスの2020年月間アクティブユーザー数のシェア。「QQ音楽」「酷狗音楽」「酷我音楽」の3つはいずれもテンセント系であるため、テンセントと網易の2社が音楽ストリーミング市場を独占している。「2020中国オンライン音楽業界報告」(Fastdata)より作成。

 

AIにより楽曲の類似度を判定するPlex

その中で、唯一、利用者数は多くないものの固定ファンがついているのがPlexだ。リコメンドアルゴリズムや音質にこだわったサービスで、コアな音楽ファンから支持をされている。

そのPlexが、新しいリコメンドシステムSuper Sonicを実装した。音楽のリコメンドシステムは、一般的には音楽にタグ付けをすることで行われる。音楽ジャンルやテンポ、言語、使用楽器などのタグをつけていき、それを元に類似度を計算し、リスナーが好む音楽と類似度が高い楽曲を推薦するという考え方だ。

しかし、Plexは、AIを活用して、自動で音響的なパラメーターを50種類以上抽出して、楽曲をN次元空間の中にマッピングをしていく。これにより、リスナーが好む楽曲と距離が近い、つまり音響的に近い曲を推薦していくというものだ。

計算量は膨大になるが、一度マッピングさえできてしまえば、次々とサウンド的に似ている曲がかかり続けることになる。

 

音楽のDNAを分析する手法がトレンド

音楽をアーティスト名やジャンルといった外形的なタグで分類するのではなく、サウンドや雰囲気、感情といった角度で分類し、リスナーの感覚に響くようなリコメンドをしようという試みは、Pandora Radioが先駆けて行っている。

Pandoraは2000年にMusic Genome Projectをスタートさせた。これは音楽の専門家が、1つの楽曲についてリズムやテンポ、雰囲気、コード進行、ギターエフェクトといったものを、450種類の観点から、0から5評価のタグづけしていくというものだ。1つの曲の分析をするのに15分から30分はかかるという。

つまり、楽曲のDNAを解析しようというもので、専門知識を持つ専門家を起用したが、Plexはほぼ同じことを人工知能にやらせようとしている。

いずれにせよ、ジャンル、歌手といった外形的なタグ分類だけでは、リスナーを満足させることができなくなっている。

 

遅れていた中国の音楽ストリーミングのリコメンドシステム

中国の音楽ストリーミングは、このような最先端のリコメンドシステムからは遅れをとっている。QQ音楽は、基本的にタグづけによる楽曲分類がベースになっている。ただし、中国特有の「国風」「都市フォーク」「大衆流行」などのタグを採用し、さらに楽曲だけでなく、PV(プロモーションビデオ)がある場合は、映像のタグづけも行う。

このようなタグから、楽曲をマッピングし、リスナーが好む曲から最も距離の近い楽曲をリコメンドするという考え方だ。

 

直近の履歴から「今の気分」を分析する

網易雲音楽は、サービス内に掲示板やSNSの機能があり、リスナー同士が楽曲を評価し、紹介し合えるようになっている。これがリコメンドシステムにとっては貴重な情報源となっている。SNS内での書き込みを自然言語解析し、一人のリスナーの好みを分析していく。

また、リスナーの今の気持ちに即しようという工夫もされている。過去に聞いた楽曲すべてから次の曲をリコメンドするのではなく、あえて一定時間以内に聞いた楽曲だけを元にリコメンドする機能がある。音楽は、時と場合によって、聞きたい音楽の方向性が大きく異なってくる。元気を出したい時はアップテンポの曲、静かに落ち着きたい時はスローな曲を聞きたい。そのため、最近聞いた曲だけを元にすることで、今の気持ちにぴったりの楽曲をリコメンドしようという考え方だ。

 

リコメンドの可解釈性が鍵に

最適なリコメンドシステムの構築は簡単ではない。Plexのような深い分析をしたからリスナーが満足するとは限らない。単純なタグづけだけだからリスナーが不満に感じるとも限らない。

清華大学のリコメンドシステムの研究では、可解釈性が注目された。ECサイトのおすすめ商品を表示するリコメンドシステムで、なぜその商品が推薦されたのかがユーザー自身にも理解できる場合、購入率があがったという。例えば、旅行パック商品を購入後に、スーツケースが推薦されれば、その理由がユーザーにもわかり、可解釈性が高い。一方、ユーザーにも推薦の理由がよくわからない可解釈性が低い推薦にはあまり反応しない。

このことを考えると、リコメンドシステムは深い分析、分類をすればいいというものではないことがわかる。「知らなかった意外な曲まで紹介してくれる」という評価は、「なんだかわけのわからない曲ばかり紹介してくる」という低評価と裏腹なのだ。

その点、音楽や映像コンテンツのリコメンドで、過去に聞いたり、観たりしたコンテンツの具体的な名前を挙げ、「Let it Beがお好きなあなたへ」「ビートルズがお好きなあなたへ」という紹介の仕方は、心理的な可解釈性を大きくあげ、リスナーの満足度をあげることができる簡単な方法だ。

音楽のリコメンドシステムは、もはや20年の歴史を持っている。ユーザー分析、コンテンツ分析が中心に複雑化、高度化をしてきたが、リスナーの満足度に着目したリコメンドシステムが必要になってきている。テンセント、網易ともに、AIを活用したリコメンドシステムの開発を始めている。

 

 

シャオミが自動車製造に参入。自動車業界とは無縁の素人集団による挑戦が話題に

小米が自動車製造に乗り出す。その子会社「小米汽車」の幹部が公表されたが、自動車業界を背景にした人が一人もいないことが話題になっている。ネットでは、「自動車づくりをなめている」という批判、「素人だから斬新な発想ができる」という期待の両方の声が上がっていると晩点LatePostが報じた。

 

小米が自動車製造に参入

スマートフォンメーカーである小米(シャオミ)が自動車製造に乗り出す。2021年1月に、小米の役員会で電気自動車(EV)の研究開発に着手することが決定され、3月にはEV製造をする子会社を100億元(約1700億円)の資本金で設立することが発表された。その子会社には、小米創業者の雷軍(レイ・ジュン)CEOがCEOとなり、雷軍は「私の人生最後の大規模な創業になる」と語った。そして、9月1日に正式に「小米汽車」の設立が発表され、主要メンバーの写真が公開された。

f:id:tamakino:20211007113531j:plain

▲小米の自動車製造子会社「小米汽車」の幹部たち。自動車業界関係者が一人もいないことが話題になっている。

 

自動車業界出身者がいない新会社幹部

しかし、この中に、自動車製造業界を背景にした人が一人もいないことが話題になっている。

前列左から、

小米副総裁、首席財務官:林世偉。2020年入社。前職は、小米傘下の金融会社「天星数科」副会長。

小米共同経営者、シニア副総裁:張峰。2016年入社。大型家電、ノートPC、テレビの責任者。

小米共同創業者、執行役員、シニア副総裁、組織部部長:劉徳。小米の高級従業員の人事を担当。

小米共同経営者、総裁:王翔。2015年入社。財務、行政対応、人事などを担当。

小米創業者、会長CEO:雷軍。

小米共同創業者、シニア副総裁、金融会社「天星数科」会長:洪

小米共同経営者、シニア副総裁:盧偉氷。2019年入社。国際部の責任者。

小米シニア副総裁:祁燕。2012年入社。プラットフォーム、政府対応などの責任者。

小米副総裁:何勇。2018年入社。前職は湖北省政府の北京駐在所副主任。現在は小米の地域本部に従事。

このようにすべてが小米の幹部であり、自動車産業を背景にした人はいない。

後列の8人も、ほとんどが小米のエンジニアであり、自動車産業を背景にした人はいない。

小米は、BMW中国のデザイナーでiシリーズのエクステリアを設計していた李田原氏を招聘したことを発表しているが、この人が唯一と言ってもいい自動車業界出身者になる。

f:id:tamakino:20211007113534p:plain

▲自動車製造の記者発表では、どのような自動車になるのか触れられることはなかった。

 

素人集団の挑戦に賛否両方の声

つまり、小米は素人集団で自動車製造に挑むことになり、それが話題を呼んでいる。SNSでは、自動車産業関連(と思われる)人たちからは「自動車づくりをなめている。自動車は素人がつくれるほど簡単なものではない」という声があがり、それ以外の人からは「素人だからこそ、自由な発想で斬新な車ができる」という声があがっている。米テスラに対する批判、期待と同じような声があがっている。

ネットメディア「テンセント科技」が3月に行なった読者アンケートでは、「期待をする」が63.1%で、「期待できない」が36.9%となった。

f:id:tamakino:20211007113613p:plain

f:id:tamakino:20211007113617j:plain

▲ネットでは、ネット民が勝手に想像した予想図が出回っている。1999元(約3万5000円)という価格ももちろんジョーク。「0元で充電ステーション付」というのも、小米のスマートフォンの発表にありがちなフォーマットをもじったもの。

 

成功した小米家電の手法を踏襲か?

小米は小米汽車についてまだ多くの情報は公表していない。どのような自動車になるのかの予想図も公表してなく、ネットでは小米ファンたちが勝手に想像して作成した完成予想図が出回っている。

しかし、小米はすでに自動運転開発企業「深動科技」(DeepMotion)を7700万ドル(約85.7億円)で買収することを発表している。また、LiDAR(ライダー)の製造企業である「禾科技」、4Dミリ波レーダー製造企業数社、自動運転計算チップ製造企業の「黒芝麻」などに投資をしている。小米汽車の従業員数は300人程度になると見られている。

小米は多数の家電製品を製造販売し、家電の領域でもテレビや炊飯器、電動歯ブラシ、スマートゴミ箱などというヒット商品を生み出している。しかし、これらの多くは小米が直接製造しているわけではない。買収した子会社、投資をした企業が製造し、小米の担当者が開発の段階から関わり、小米傘下ブランドとして販売をしている。自動車もこのような家電製品と同じ手法で製造されるのだと見られている。

自動車も、いよいよ家電製品と同じ手法で製造ができるコモディティ製品になってきている。

 

 

機械学習によるリコメンドがトレンド。EC「京東」、音楽サービス、TikTokのリコメンドシステム(下)

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 094が発行になります。

 

今回は、リコメンドシステムについてご紹介します。

前回の続きになります。前回は、EC「京東」(ジンドン)のリコメンド、音楽ストリーミングサービスのリコメンドについてご紹介しました。

ECでは利用者の行動履歴に注目した協調フィルタリングやランキング学習が使われ、音楽ストリーミングではコンテンツ側の類似度に注目した分析が使われることをご紹介しました。今回は、中国版TikTok「抖音」のリコメンドシステムについてご紹介します。

 

前回ご紹介した利用者の履歴に注目した学習、コンテンツの類似度に注目した学習のいずれも抖音では使うことができません。

抖音では、ショートムービーを検索したり、気に入った配信主をフォロー(注目、ファン登録)して見ることもできますが、基本は流れてくるムービーを見るという使い方です。これはすべて運営側が利用者個人に合わせてリコメンドされたムービーです。

このリコメンドを行うには、利用者の視聴傾向を分析するだけでは不十分です。どのジャンルのムービーが好みかという分析をすることは可能です。しかし、例えば、同じダンス映像であっても、好みは人によりさまざまです。素人が一生懸命踊ったほのぼのとした映像が好きな人もいれば、プロフェッショナルが踊ったレベルの高い映像が好きな人もいます。

また、抖音は誰でも自由に投稿ができますから、仲間内でしか価値がわからない映像も山ほどあります。例えば、少女がダンスを踊って、恥ずかしくなって途中でやめてしまうというような映像は、知り合いの間では楽しめる映像になりますが、知らない人にとっては面白くもなんとない映像になってしまいます。そのようなものはリコメンドしないようにしなければなりません。

 

また、前回紹介した協調フィルタリングも利用できません。協調フィルタリングでリコメンドするコンテンツを炙り出すには、多くのコンテンツの視聴履歴のデータが必要になります。NetflixAmazon Primeのような映像サービスであれば、膨大なアーカイブがあって、その視聴履歴も溜まっているため、協調フィルタリングの手法が使えます。

しかし、抖音の場合、その日に投稿されたばかりのムービーを、その日のうちにリコメンドしなければなりません。つまり、視聴履歴データがない状態で、協調フィルタリングをしなければならないのです。これは不可能で、協調フィルタリングのコールドスタート問題と呼ばれています。

音楽ストリーミングサービスのように、コンテンツ側に注目した分析することもできません。Super Sonicのようなコンテンツの類似度分析は計算量が多く時間がかかります。音楽ストリーミングサービスは多くの楽曲アーカイブを持っているので、その計算をあらかじめしておくことができます。しかし、抖音の場合は、その日に投稿されたばかりのムービーを、その日のうちにリコメンドしなければならないのです。どうしたらいいでしょうか。

 

さらに、抖音の人気の秘密は、「普通の人が、面白いコンテンツさえつくれば、一夜にして人気者になる」という爆発力です。これが「私も有名な存在になれるかもしれない」と若い人を惹きつけています。見る側の人も「いつも新しい流行が起こる。新しい人気者がどんどん登場してくる」という高速で流行が回転していく感覚に惹きつけられるのです。

これはリコメンドを人力に頼る従来のSNSでは起こせないことです。一般的なSNSでは、人が転載をすることで拡散をしていきます。この拡散が爆発する時というのは必ず大量のフォロワーを抱えるインフルエンサーが介在をしています。2016年に「PPAP」(ピコ太郎)のムービーが全世界に拡散をしましたが、そのきっかけになったのはジャスティン・ビーバーリツイートをしたことでした。つまり、既存のSNSの流行は、メガインフルエンサーが決めているのです。

この構造は、流行をビジネスにしたい人には理解しやすく、収益モデルも作り出しやすいため人気になっていますが、流行を楽しみたい、文化面だけに興味があり、ビジネス面にはあまり興味がないという若い世代にとっては、マスメディアの構造と変わらず、面白く見えないのです。

そのため、抖音では、無名の若者が一夜にしてスターになる仕組みがどうしても必要でした。

 

抖音では、なんでもない普通の人が一夜にして全国レベルの有名人になっていたということがたびたび起こります。

2018年には成都甜甜(チャンドゥーティエンティエン)という女性が、一夜にして全国的な有名人になる「事件」が起きました。成都甜甜は、成都市に住む普通の女性でしたが、ウェブ番組の街頭インタビューに答えたわずか15秒程度の映像が猛烈に拡散し、人気となったのです。

その街頭インタビューは「結婚相手の男性にはどのくらいの月給が必要ですか」というものでした。多くの女性が具体的な金額を答える中で、成都甜甜ははにかみながら、「時々ご飯を食べに連れていってくれればいいです」と答え、その様子が純情で可愛らしいと一気に人気になったのです。

その後、スマホメーカーOPPO(オッポ)を始めとする企業が、ウェブCMなどの出演をオファーし、現在でもタレント、モデルとして活動しています。わずか15秒の映像で人生が変わった例です。

 

https://www.douyin.com/video/6595542992088468740?previous_page=app_code_link

成都甜甜が有名になるきっかけになった映像。ウェブメディアの街頭インタビューに答えたわずか15秒の映像が猛烈に拡散をした。

 

最近、抖音の中から彗星のように登場したスターが井川里予(ジンチュアン・リーユー)です。日本人風の名前で活動していますが、杭州市生まれの中国人で、現在、浙江経済職業技術学院に通う専門学校生です。まったくの無名状態から、たった2つのムービーにより、2週間足らずで1300万人のファンを獲得しました。

この2つのムービーには、ヒットする要素がいくつも重なっています。まずダンスがアイディアに溢れていることです。うまいかどうかはともかく、今までになかったフリを取り入れていて、しかもセクシー系と純情系がうまくミックスされています。

そのため、「純欲天花板」(純情セクシーの天井)と呼ばれるようになりました。また、ファッション、髪型もムービーごとに変える工夫もしています。高度なダンステクニックではない分、真似をしやすく、この「真似しやすい」というのが抖音で流行するひとつのポイントになっています。

さらに、使った音楽もヒットしました。原曲は、「出山」(花粥)で、この曲は中国の民間伝承などを元にした歌詞と中国風の伝統音楽の要素を取り入れ、現代風にアレンジした曲で、アート好きの都市生活者の間で聞かれる曲です。井川里予は、この曲をEDM風にアレンジした「出山DJ版」を使って、自分のダンスを披露しました。この曲の新鮮さも手伝って、井川里予の人気を高めました。

現在では、無数の人が「井川里予を踊ってみた」ムービーを投稿する状態になっています。

 

https://www.douyin.com/video/7008363777620053283?previous_page=app_code_link

▲井川里予の映像をまとめたムービー。ムービーごとに髪型やファッションを変える、真似しやすいダンス、新鮮な音楽など複数のヒット要素が込められている。この映像を発表する前、井川里予はアイドル活動をしていたが、大きな人気を得ることはできないでいた。

 

なぜ、抖音では、このような爆発的な拡散が起こるのでしょうか。それはリコメンドシステムの仕組みに理由があります。このAIを使ったリコメンドシステムは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の雑誌「MITテクノロジーレビュー」が選ぶ2021年版の「世界を変える10大テクノロジー」(https://www.technologyreview.jp/s/239046/10-breakthrough-technologies-2021/)のひとつにも選ばれることになりました。

抖音には毎日数百万件のショートムービーが投稿されます。これをすべて配信していたら、つまらないムービーもたくさんあるわけですから、視聴者にとってはつまらないムービーが流れてくるだけのつまらないサービスになってしまいます。面白いムービーだけをリコメンドして、次から次へと面白いムービーばかり流れる状態をつくるにはどうしたらいいでしょうか。

今回は、抖音のリコメンドシステムについてご紹介します。

 

続きはメルマガでお読みいただけます。

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

今月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.092:「テンセントの壁」が崩れ、ネットのオープン化で何が変わる?異なる流量戦略を持っているWeChatとアリペイのミニプログラム

vol.093:機械学習によるリコメンドがトレンド。EC「京東」、音楽サービス、TikTokのリコメンドシステム(上)

 

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

 

成都市地下鉄が顔認証改札を正式導入。マスク付き認証にも対応し、顔パス乗車が再び動き始めた

成都市地下鉄が今年2021年9月1日から顔認証改札の正式運用を始めた。マスクをしたままでも認証ができる。顔認証はコロナ禍により停滞をすることになったが、再び普及が始まっていると紅星新聞が報じた。

 

2019年が元年も2020年に停滞した顔認証

中国では2019年が顔認証元年となり、さまざまなシーンで顔認証が導入されていった。企業での出退勤管理、マンションの玄関などにも導入される例が増え、地下鉄の改札への導入も進み、アリペイやWeChatペイのスマホ決済も商店に顔認証レジの導入を進めていた。コンビニなどにも導入されていたため、決済方法の主流になるほどまではないにしても、よく見かける珍しくない決済方法と感じられるほど普及が進んでいた。

しかし、それが2020年初めのコロナ禍ですべてが止まり、後退をすることになった。地下鉄などの公共交通機関の利用にはマスク着用が義務付けられたため、顔認証を使うにはマスクを一時外す必要があることから、多くの人が顔認証ではなく、QRコードNFCによるタッチ決済を使うようになった。

 

マスク不要とともに動き始めた顔認証

感染拡大がほぼおさまり、街の人は表を歩く時はマスクをずらす人、していない人もかなり増えてきている。公共交通、商店内ではマスク着用が必要なものの、街の風景としては以前の光景が戻りつつある感覚だ。

その中で、顔認証が再び動き出している。四川省成都市の地下鉄に顔認証改札が導入され、9月1日から利用ができるようになっている。しかも、マスクをしたままで顔認証が可能になっている。

成都地下鉄では今年初めから顔認証設備の導入を始め、実証実験を繰り返してきた。マスクをしたままでも問題がないという結果を得て、正式運用にいたった。

f:id:tamakino:20211006100342j:plain

成都市地下鉄に導入された顔認証決済改札。今年2021年初めから実証実験を行い、マスクをつけたままでも顔認証の誤認識が実用レベルで小さいことを確認し、9月から正式運用を始めた。

 

段階的に顔認証を進める成都地下鉄

ただし、当初は限定的な運用から始めるようだ。地下鉄に乗るには、「現金、スマホ決済でチケットを購入する」「プラスティックの交通カードを使う」「スマホで乗車をする」の3通りがあり、スマホの場合、成都地下鉄の公式アプリ「成都地鉄」の他、スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」の乗車コードを使う方法、成都市の地下鉄、バス、タクシー、ガソリンスタンドなどでコード決済、NFC決済ができる「天府通」を使う方法がある。このうち、今回、顔認証が可能になったのは「成都地鉄」アプリのみになる。

f:id:tamakino:20211006100345p:plain

▲顔認証端末。マスクをつけたままでも認証ができる。実際は、改札でいったん立ち止まる感覚だが、コード決済、NFC決済でもいったん立ち止まる人が多く、従来とほぼ同じ使用感が得られる。

 

顔認証とコード乗車の組み合わせも可能

また、顔認証とコード決済を組み合わせることも可能だ。顔認証で改札に入って、コード決済で出ることもできる。顔認証端末が用意されていない改札を利用したい場合などに利用できる。さらに、入出場に異常があった場合、別の駅の改札に近づいた段階で、事前に異常が起きていることをプッシュ通知してくれる。このため、改札を通る段階になって前回の処理に問題があることに気がついて慌てるということは起きないように工夫されている。

他都市の地下鉄でも顔認証改札の導入、実証実験が行われている。公共交通では、まだしばらくの間マスク着用が続くことになるが、少しづつ、以前の日常が戻ってきているようだ。

 

従来の5倍の検査効率。高鉄、地下鉄などの安全検査で導入が進むテラヘルツ波利用のボディースキャナー

中国では至るところで安全検査が行われるが、人の渋滞が発生することや、コロナ禍ではスタッフが接近することが問題になっていた。そこで、従来の5倍の検査効率を持つテラヘルツ波利用のボディースキャナーの導入が進んでいると霹靂火科技が報じた。

 

地下鉄でも安全検査が行われる中国

中国ではいたるところで手荷物検査がある。バッグ類はベルトコンベア式のX線スキャナーに入れ、本人はボディースキャナーを通り抜ける。日本の空港で行われる保安検査とほぼ同じだ。これが中国版新幹線「高鉄」、長距離列車、公共施設はもちろん、地下鉄でも行われている。改札に行く前に安全検査を受けなければならない。

ルールであり、地下鉄内の安全を確保するために多くの人が受け入れているが、やはり面倒には感じているようだ。特に朝夕のラッシュ時には安全検査による渋滞が起きる。これがイヤで、安全検査のない路線バスを利用する人も多い。

f:id:tamakino:20211005092148p:plain

▲博微太赫兹信息が開発したテラヘルツ波を利用したボディースキャナー。人は通り抜けるだけで安全検査が完了する。従来の5倍の人数を検査できる。

 

安全検査はソーシャルディスタンスが保てない

2020年のコロナ禍でこの安全検査が議論となった。安全検査により、持ち込み不可の物体と疑われるものが発見された場合は、スタッフが荷物を開けさせたり、ハンディ検査器で体を検査することがある。この時、ソーシャルディスタンスより近い距離になり、さらに「腕を上げてください」「ポケットの中身を見せてください」という会話をするため、感染リスクがきわめて高い行為なのではないかというものだ。

 

注目されたテラヘルツ安全検査装置

この議論が機になって、テラヘルツ安全検査装置の導入が進んだ。テラヘルツ波は、電波と光の間の周波数帯(0.1から10テラヘルツ)の電磁波。光のように直進性があり、電波のように透過性がある。持ち物検査には非常に都合のいい性質を持っているが、適切なテラヘルツ波検出器の開発が難しく、工業製品の異物検査などの小規模な利用にとどまっていた。

中国では、国のセキュリティ施策もあり、早くからテラヘルツを公共安全検査に利用する研究開発が進み、2016年のG20杭州サミットで初のテラヘルツ安全検査装置が使用され、それ以来、商用化が進んでいた。

f:id:tamakino:20211005092152p:plain

▲管理画面。遺物を持っている場合は、赤く強調表示される。

 

従来型の5倍のボディースキャンが可能

最も大きなメリットは、人は安全圏装置の中で立ち止まる必要はなく、普通の速度で歩いて通り抜ければいいということだ。従来のゲート式では1人ずつ通り抜ける方式で、1時間に300人程度が検査できていた。一方、テラヘルツ検査装置では、連続して通り抜けることができるため、1時間に1500人が検査できる。これで安全検査による渋滞が大きく軽減されることになる。

また、同様に検査人数を上げるために、米国などではX線を照射するボディースキャナーが導入されているケースもあるが、人体への放射線の影響を懸念する人もいる。テラヘルツ波X線よりもはるかに光に近い領域の電磁波なので、このような不安もない。

f:id:tamakino:20211005092156p:plain

▲警備員が立っているところから入り、人が出てきているところから外へ出る。通り抜けるだけでよく、横並びにならなければ一緒に通ることができるため、検査効率が大幅に向上した。

 

主要都市の地下鉄、高鉄駅に導入が進むテラヘルツ

技術開発は、国営企業の中国電子科技集団(CETC)の第38研究所、第50研究所が中心となって行い、系列会社の博微太赫兹信息科技(ブレインウェア・テラヘルツ・インフォーメーション・テクノロジー)が製造を行なっている。

すでに西安昆明などの空港、北京、広州、上海などの地下鉄、高鉄駅、公共施設や大規模イベントなどに導入されている。

f:id:tamakino:20211005092201j:plain

安徽省合肥市地下鉄で実際に運用されている例。荷物をX線検査きのベルトコンベアに乗せ、自分はボディースキャナーを通り抜ける。

 

 

主要テック企業が過去最大級の新卒採用計画をスタート。大きく変わる人材に対する考え方

テック企業の就活シーズンが始まり、主要企業の採用計画が過去最大級になっている。ひとつは、コロナ禍、政府による規制などがあったにも関わらず業績が好調なことがある。もうひとつは、企業の人材に対する考え方が変わり、優秀な人材は育成すると考えるようになったからだと三石財経雑談が報じた。

 

過去最大の採用計画を進める主要テック企業

9月になり、中国の就職活動のシーズンが始まった。騰訊(タンシュン、テンセント)は、技術、プロダクトなど5種類の職種で7000人の新卒生を採用する計画を発表した。昨年は5000人であったため、40%拡大したことになる。

今年は「史上最大の採用計画」をうたうテック企業が多く、どこも大型の採用計画を進めている。バイトダンスは4000人以上、アリババは113職種、アリババ傘下のアントグループは昨年の2.5倍、京東(ジンドン)は昨年よりも3割多い。また、今年初めて、新卒採用に参加をした小米(シャオミ)はいきなり5000人の採用計画を公表した。

 

優秀な人材は見つけるのではなく育てる

各社が採用計画を拡大する理由は2つある。ひとつは人材に対する考え方が大きく変わったことだ。以前は、優秀な人材というのはすでに存在するという見方だった。そのため、優秀な人材は、優秀な学生や他社から高給で引っ張ってくるという考え方だった。

しかし、スキルは高くても、企業文化になじめない人は、結局パフォーマンスを発揮できないということを実感するようになり、テック企業は、優秀な人材は育てるものという考え方に変わっている。これにより、新卒を大量に採用し、育成に力を入れるようになっている。

f:id:tamakino:20211004105446p:plain

▲各テック企業の初任給を年収換算した最低値と最高値(単位:千元)。オファーにはSP、A、Bなどのランクがあり、部門やオファーランクで報酬は大きく違ってくる。

 

規制があってもテック企業の業績は好調

もうひとつは、各テック企業の業績が好調であることがある。百度は2021年Q2の財務報告書を公開したが、市場の売上予測である310億元を上回る314億元だった。独占禁止法による巨額の罰金を支払ったアリババも2021年4月ー6月の売上は2057.4億元となり、34%の増加となった。純利益は428.4億元となり8%の減少となったが、巨額罰金として支払った分を考慮すると、20%前後利益が伸びていることになる。

 

年に18ヶ月支給も増加傾向

初任給も上昇をしている。多くのテック企業では、開発、アルゴリズム、製品などの部門ごとにSP、A、Bというランクづけをしたオファーを出す。この部門とランクにより月給が決まる。また、月給はボーナスを含め、年に14ヶ月分から18ヶ月分支給される。テンセントの場合は、16ヶ月支給と18ヶ月支給の2通りで採用をする。これにより年収が決まってくる。

今回主要テック企業の採用で、最も報酬が低いのは、小米、京東のプロダクト部門のBオファーの18.2万元(約310万円)だった。一方、最も報酬が高いのは拼多多のアルゴリズム部門のSSPオファーの68.4万元(約1180万円)だった。もちろん、SPオファー以上は研究職であり、大学院などでの研究実績も問われるため、誰もなれるわけではなく、募集も数名にすぎない。

多くの学生にとって、初任給が年収換算で30万元(約520万円)を超えるかどうかが焦点になっているようだ。

 

 

香港もいよいよキャッシュレス社会へ。普及の鍵は景気刺激策の電子クーポン配布

香港でスマホ決済の普及が加速している。その決め手になったのは、電子消費券をスマホ決済に対して配布するようにしたことだ。昨年、現金を配布したが、業務負担は大きく、経済効果も薄かった。香港政府は2024年にも現金がほとんど使われない無現金社会になる可能性が出てきたと香港商報が報じた。

 

キャッシュレス決済の2つのレイヤー

キャッシュレス決済には2つのレイヤーがある。ひとつはクレジットカードや交通カードのようなプラスティックカードを利用するもの。もうひとつは、QRコード決済やNFCを利用したスマホ決済で、日本ではiD、QUICPayなどの電子マネー、PayPayなどのコード決済、ApplePay、GooglePayなどがある。

カード型のキャッシュレス決済は、お金の電子化にとどまってしまう。一方、スマホ決済はスマホの機能と連動することで、決済シーンを変えることができる。例えば、モバイルオーダーやフードデリバリー、クラウド決済、個人間送金などが可能になる。つまり、キャッシュレス決済の中でもスマホ決済が普及をすることで、決済シーンが変わり、新たなビジネスが生まれる成長空間が生まれてくる。

 

カード型キャッシュレスの普及がスマホ決済普及の障壁となった

アジア圏で、この上位レイヤーであるスマホ決済の普及が遅れていたのが、日本、台湾、香港だった。この3地域は、早くから交通カードとクレジットカードというカード型キャッシュレス決済が浸透をしたために、消費者はそれでじゅうぶんな利便性を感じ、かえってスマホ決済の普及を阻むことになっていた。

高額消費とECはクレジットカードで、少額消費は交通カードで、それ以外の小規模店舗では現金でというのがこの3地域の基本的な決済スタイルになっていた。しかし、コロナ禍により、キャッシュレス決済の利用率が高くなるだけでなく、スマホ決済も急速に普及を始めた。

香港でも状況は同じだが、その進み方は早く、2024年には現金がほとんど使われない無現金都市になる可能性も生まれてきている。

f:id:tamakino:20211001091814p:plain

▲電子消費券を受け取れる4つのキャッシュレス決済。「アリペイ」「WeChatペイ」は中国のスマホ決済であるため、避ける人が多く、なかなか普及をしなかった。しかし、電子消費券の配布により、急速に利用者を増やしている。

 

香港でもクレジットカード+交通カードが基本スタイルだった

香港で使われる交通カードが「八達通」だ。日本のSuicaと同じように、地下鉄やバス、商店などで利用できる。この他、クレジットカードを使うというのが一般的だった。中国のアリペイ香港、WeChatペイHKの他、香港独自のコード決済「Tap & Go」もあるが、利用者はなかなか増えなかった。それがコロナ禍で急速に利用率があがっている。

f:id:tamakino:20211001091817p:plain

▲香港政府は電子消費券をスマホ決済に配布することで、経済復興とキャッシュレス決済の促進を同時にねらい、配布業務の負担も大きく減った。

 

スマホ決済を普及させた電子消費券

その決め手になったのが、電子消費券だった。コロナ後の経済復興を加速するため、香港政府は8月から市民に向けて電子消費券の配布を始めている。その額は5000香港ドル(約7.1万円)で、香港政府が指定したスマホ決済でのみの受取となり、なおかつ2021年末という消費期限がある。

香港政府は2020年に1万香港ドルの現金を市民に配布をしたが、現金ではその多くが貯蓄にまわってしまい、経済効果が薄かった。また、配布作業も膨大で大きな負担となった。そのため、今回はキャッシュレス決済に電子消費券を配布することで、事務手続きを大幅に省力化し、なおかつ消費期限を設けることで、確実に消費に結びつけ、経済復活の足掛かりにしたい考えだ。

実際、香港の商店、ECは8月、9月は盛況になり、特に個人経営の小規模店舗の伸びが著しいという。商店側もこの電子消費券の配布に合わせ、セールを行い、相乗効果で個人消費が復活している。

f:id:tamakino:20211001091804p:plain

▲調査会社Kantarによる「電子消費券をどのスマホ決済で受け取ったか」に対する回答。多くの人がなじみのある交通カード「八達通」で受け取ったが、「アリペイ」「WeChatペイ」「Tap&Go」といったスマホ決済で受け取った人も半数近くになった。

 

GDP0.7%の押し上げ効果

調査会社Kantarによると、半数の人が5000香港ドルを3回以下の買い物で使い切ってしまい、24%の人が自分のお金もチャージをして買い物をしたという。6割が店舗の対面決済に使い、4割がECで買い物をした。

中文大学商学院の李兆波シニア講師によると、今回の電子消費券により、香港のGDPを0.7%ほど上昇させる効果があるという。日常の消費に回るだけでなく、家族での食事や百貨店での買い物など大型の消費にも結びついているという。

f:id:tamakino:20211001091807p:plain

▲電子消費券の配布により、多くの店舗がスマホ決済に対応をした。

 

2024年には現金決済は1.6%まで低下する

以前は、クレジットカード決済が強く、店舗の対面決済の56%を占めていた。次が現金の26%、スマホ決済の14%と続いてた。このうちの現金が大きく減り、スマホ決済が伸びたことにより、スマホ決済は2024年には36%となり、現金は1.6%になると予測されている。つまり、2024年頃に香港は、現金がほとんど使われない無現金社会になると見られている。

香港政府は、経済の状況を見極め、必要があれば、電子消費券の配布を追加で行い、経済の復興とキャッシュレス決済の普及を促したい考えだ。

f:id:tamakino:20211001091821p:plain

▲電子商品券の配布に合わせて、各商店もセールを行い、個人消費の回復に大きく寄与している