中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

金と技術は出しても、口は出さない戦略で、ECを成長させるテンセント

中国第2位のEC「京東」の大株主はテンセントで、株式比率は創業者の劉強東より大きい。しかし、京東は種類株を発行していて、テンセントの議決権は4.5%に過ぎない。テンセントは、ECに対して、金と技術は出すけど口は出さない戦略で、ECを育てることに成功してきたと益企財経課堂が報じた。

 

ECに出資をして支援をする戦略のテンセント

アリババにはSNSがないが、テンセントにはECがない。このことが、アリババとテンセントの競争を膠着させている。各領域で直接対決することは少なく、がっぷり4つに組み合って、互いに動くことができない状態になっている。

テンセントは2005年に、アリババの淘宝網タオバオ)に対抗して、拍拍網(パイパイ)をスタートさせている。タオバオが手数料問題で業者の反発を受けた時、販売業者の乗り換えキャンペーンを行って、アリババと深刻な対立をした。しかし、その後、拍拍網の業績は振るわず、2014年に、自社でECを運営することを断念し、既存のECである京東(ジンドン)に出資をして、技術的な支援に回る戦略を取るようになった。続いて、拼多多(ピンドードー)にも出資をし、拼多多はテンセントのSNS微信」(ウェイシン、WeChat)を活用して急成長した。流通総額のトップ3は、タオバオ、京東、拼多多と、そのうちの2つをテンセント系が占めるようになっている。

f:id:tamakino:20210614102342j:plain

▲テンセント創業者のポニー・マー(左)と、京東創業者の劉強東(右)。テンセントは金と技術は出しても口は出さない戦略で、ECを育てることに成功した。

 

京東の大株主はテンセント

2014年3月に、テンセントは京東に2.15億ドル(約240億円)を出資し、さらに拍拍網などを譲渡し、当時まだ未上場だった京東の株式の15%を取得した。これにより、京東の役員に人材を送り込んでいる。

その後、2回株式を取得し、現在、テンセントは京東の株式の17.8%を取得し、京東の最大株主となっている。

これは、創業者の劉強東(リュウ・チャンドン)の保有株式比率を超えている。京東は創業者の会社ではなくなり、テンセントの支配下に置かれているのだろうか。

f:id:tamakino:20210614102346j:plain

▲テンセントがかつて運営していたEC「拍拍網」。タオバオに対抗したものだったが、まったく相手にならなかった。これ以降、テンセントはECに出資をして、支援する戦略に切り替えた。

 

テンセントの議決権は4.5%、創業者の議決権は79%

京東は、国内の株式市場ではなく、米ナスダック市場に上場をしている。ナスダックでは、種類株の制度がある。A株とB株があり、価格は同じだが、議決権はB株がA株の20票分ある。つまり、議決権のある株と、ほぼない株を分けることにより、株主の統治と配当を分離しているのだ。

これにより、テンセントは最大株主でありながら、議決権は4.5%しか持っていない。一方、創業者の劉強東は、株式割合は少なくてもB株を持っているため、議決権割合は79%を保有している。つまり、京東は劉強東が統治できるようになっている。

f:id:tamakino:20210614102350j:plain

▲2017年に浙江省烏鎮で開催された世界インターネット大会終了後の食事会の写真。京東の劉強東と美団の王興が企画をしたため「東興食事会」と呼ばれる。中心にはポニー・マーが座っている。さらに、小米(シャオミ)の雷軍、滴滴の程維、快手の宿華、バイトダンスの張一鳴など、テンセント系の経営者、投資家が勢揃いしている。

 

ECを育てることでアリババに対抗するテンセント

テンセントにとって、これでまったくかまわない。拼多多や美団(メイトワン)に対しても同様で、株式は保有しているものの、議決権割合は小さい。テンセントのねらいは、その企業を支配して、自分たちでECを運営することではなく、運営は創業者に任せ、配当のみをもらう。同時に、テンセントのエンタープライズ支援ビジネスにより支援をすることで、自社のビジネスを拡大する。いわば、口は出さないが、金と技術は出す大株主なのだ。

2014年に、テンセントが京東に出資をした時、京東は難しい局面にいた。全国配送網が京東の生命線だとして、整備を進めていたが、資金調達が難航をしていた。テンセントはこのタイミングで、大規模投資を行なっている。劉強東にすれば、テンセントの馬化騰(マー・ホワタン、ポニー・マー)は恩人でもあるのだ。拼多多や美団に対しても、資金調達に困っているタイミングで大規模出資をしている。テンセントはECを運営することでは失敗をしたが、ECを育てることでは大きな成功をしている。

 

四川省で9億円のイーサリアムを盗んだ男は、高卒の独学ハッカー

四川省内江市で、5500万元(約9.4億円)相当の暗号資産イーサリアムが盗まれる事件が起きた。その犯人は、高卒で自分で暗号資産技術を学んだ男性であったことから話題になっていると紅星新聞が報じた。

 

禁止でも取引される暗号資産

中国での暗号資産の取引は、マネーロンダリングに悪用されるとの理由から2017年以来、取引所の開設が禁止をされている。しかし、VPN経由で海外の取引所を利用したり、OTCプラットフォーム(個人取引を可能にする仕組み)を利用して、あいかわらず暗号資産の取引が活発だ。2017年の措置の段階では、中国がビットコイン全体の7%を保有し、取引の80%を占めていて、取引所禁止措置以降、この数字は落ちているものの、その幅はさほど大きくはないのではないかとも言われる。

f:id:tamakino:20210612082741j:plain

▲逮捕された犯人。高卒で独学でIT技術を学び、ソフトウェア開発会社を経営していた。

 

暗号キーを肌身離さず持ち歩いても盗まれた

事件が発覚したのは昨2020年9月25日、内江の隆昌市在住の男性が、自分が保有するイーサリアム数千枚が消えていることに気がついた。しかし、男性は自分が保有しているイーサリアムにあまり注意を払っていなかった。なぜなら、スマートコントラクトを利用し、価格が購入時の3倍になったら売却するように設定してあったからだ。暗号キーはスマートフォンに入れ、ほぼ肌身離さず持ち歩いていたし、取引に使っているPCにもパスワードを設定している。まさか盗まれるとは思っていなかったからだ。それが消えていた。

この男性は、最初は家族や親友を疑ってしまったという。スマホを触れる機会があるのはそれぐらいしかいないからだ。しかし、どう見ても、自分の周りに犯人はいそうもない。そこで、内江市公安局に通報をした。

f:id:tamakino:20210612082721p:plain

▲被疑者は、山東省済寧市にいるところを捜査員に囲まれて逮捕された。妻や娘がいる前での確保だった。

 

www.bilibili.com

▲紅星新聞の動画による報道

 

地元民間企業に捜査協力を依頼

通報を受けた内江市公安局も戸惑った。なぜなら、暗号資産の盗難事件など扱ったことがなかった。暗号資産の名前ぐらいは多くの警官が聞いたことがあったが、具体的にどのようなものであるのかはよく知らなかった。

そこで、地元のテック企業に協力を依頼した。これにより、9月30日に盗まれたイーサリアムは、アイルランド、オランダ、米国、シンガポールなど10カ所以上の取引所で、ビットコイン、テザーなどの暗号資産、米ドルなどに交換されていることを突き止めた。

内江市公安局ネットセキュリティ部隊の譚叡副隊長は、紅星新聞の取材に応えた。「暗号資産の保有者は匿名ですが、取引所での取引者の特定は可能です。被疑者は取引所でイーサリアムを他の暗号資産に交換した後、1万以上のウォレットに次々と移し替えて行きました。公安の捜査を撹乱するためです。しかし、私たちは北京時間の朝9時から夜9時の間に操作が集中していることなどから、被疑者は中国国内にまだいると判断しました」。

さらに、シンガポール、米国、オランダなどの14件の国際捜査協力を求め、70以上の海外取引所の情報を入手し、操作した暗号資産アドレスは2万以上にのぼった。

そして、今年の3月になって、ようやく山東省済寧市で被疑者を確保、ビットコイン4.17枚、テザー47万枚、ビットコインキャッシュ77枚、マンション3つ、ベンツ1台、宝飾品などを押収した。

f:id:tamakino:20210612082737p:plain

▲内江市公安局では、暗号資産盗難事件の捜査経験が少なかったため、地元のテック企業に捜査協力を依頼して、取引所の記録を追跡した。

 

独学でIT企業を創業、暗号資産技術も独学

この被疑者は、専門高校を卒業後、広告デザインの仕事をしていたが、独学でIT技術を学び、ソフトウェア開発企業を創業していた。その後、暗号資産に興味を持ち、この被疑者と被害者はネットの中で知り合いになっていた。被害者は、その中で、あるスマートコントラクトソフトウェアを使っていることをSNSで紹介していたが、被疑者はそのソフトウェアに脆弱性があることを知っていた。これにより、そのソフトウェアの脆弱性を利用して、被疑者のイーサリアムを盗み出した。

被疑者はすでに数百万元の現金を手にしており、マンションや高級車を購入していた。この時の時価で、被疑者が盗み出したイーサリアムは5500万元(約9.4億円)相当になると試算されている。

f:id:tamakino:20210612082732p:plain

▲犯人が盗んだイーサリアムを現金化して購入したベンツ。

 

f:id:tamakino:20210612082726p:plain

▲取調べは、コロナ対策でビニールを貼った面会室を利用して行われた。

 

技術はあっても、稼げない現実

この30歳の被疑者には、1歳になる女の子がいる。広告デザインの仕事をしているときに結婚し、幸せな家庭を築いていたが、子どもを育てるのには経済力が必要だと考え、自分でJavaPHPを学び始めた。ネットのオンライン動画や短期スクールにも通い、次第にアリババクラウド上のソフトウェア開発の仕事が入るようになった。

しかし、仕事はつらいのに、報酬は一般的なものだった。その時、知り合いがビットコインの投機について教えてくれた。被疑者はすっかり夢中になり、自分で分析や自動売買のソフトウェアの開発までした。

2016年にイーサリアムのことを知り、被疑者はイーサリアムの将来性に比べて、価格が安く低迷していると感じ、イーサリアムを買い始める。その時、ネットで、イーサリアムのあるスマートコントラクトソフトウェアにバグがあり、簡単なパスワード解析で侵入できるという情報を発見した。まさに、そのソフトウェアを使っている人がネットの知り合いにいた。

被疑者は言う。「イーサリアムへの投資は失敗でした。2017年に国内取引所の開設が禁止になった時に、価格が暴落したからです。たぶん100万元以上の含み損になっていたと思います。ソフトウェアの脆弱性を利用して、他人のイーサリアムを新しく作ったウォレットに移してみると簡単にできてしまいました。怖くなり、しばらくは何もしなかったのですが、お金をなんとかしなければならなかったのです」。

世間は、大学や大学院のコンピューター科学専攻の人ではなく、専門高校卒業で、独学で知識を蓄えた人でも簡単にハッキングができてしまうことに驚いた。それでも、中国での暗号資産熱が収まる気配はない。中国政府は暗号資産の取り締まりをさらに強化することを発表している。

 

 

EVシフトの陰で、廃棄バッテリーが問題化。リサイクルは確立しても、闇に流れる廃棄バッテリー

EVシフトが本格化すると同時に、廃棄バッテリーによる環境汚染が指摘されている。EVメーカーはリサイクルの仕組みを確立しているが、多くの廃棄バッテリーがこの正規ルートに乗らないことが問題だと央視網が報じた。

 

EVシフトで廃棄バッテリーによる環境汚染が問題化

中国で電気自動車が売れ、EVシフトが本格化をしている。EVと再生エネルギー車を含む新エネルギー車の2020年の販売台数は136万台で、2021年第1四半期は51.5万台となり、昨年同時期の2.8倍になった。

しかし、それに伴って、廃棄されるバッテリーの量も増えている。ある試算では、2020年には20万トンのバッテリーが廃棄されたが、その多くが正規のリサイクルルートではなく、闇市場に流れているとも言われる。現在の販売台数から推測をすると、2025年には78万トンのバッテリーが廃棄される計算になり、不適切に処理されたバッテリーによる環境汚染を警告する専門家もいる。

f:id:tamakino:20210611111305p:plain

▲EVシフトの立役者となっているのは、日本の軽自動車に相当するA00級と呼ばれる小型車だ。航続距離は短いものの、通勤と買い物に使われる。

 

リサイクルは確立されているものの、闇ルートに流れる

バッテリー回収とリサイクルの仕組みはすでに確立している。2018年に国家工信部、科技部、環保部などの7部門が共同して「新エネルギー車動力蓄電池回収利用管理暫定法」が制定されている。この中では、自動車メーカーが主体となってリサイクルの仕組みを作り、回収する責任があるとされている。

主な自動車メーカーは、すでにこのリサイクル仕組みを作り上げ、きちんと実行されているが、多くのバッテリーがこのルートに乗らない。なぜなら、廃棄バッテリーは売れるからだ。分解をすれば、希少金属など資源が回収できるため、小さな町工場が分解をして、お金になる部分を取り出す。残った有害物質をきちんと処理をすればまったく問題はないが、現実問題としてどう処理されているかはわからない。

また、消費者もバッテリーが劣化をしたら、正規販売店で交換をするのが基本で、この場合は廃棄バッテリーは正規のリサイクルルートに乗る。しかし、より安く交換をしてくれる民間工場もある。そちらで廃棄バッテリーがどのように処理されるかは、多くの消費者が気にしていない。正規ルートに乗せる工場もあれば、分解業者に売却してしまう工場もある。

f:id:tamakino:20210611111311p:plain

▲車体は10年以上乗ることができるが、バッテリーは5年ほどで交換する。正規ディーラーで交換すればリサイクルされるが、民間工場の場合、廃棄バッテリーがどうなるかはわからない。

 

車両とバッテリーの耐久年数が異なることが問題

難しいのは、車両とバッテリーの耐久年数が異なっているということだ。ガソリン車であれば、自動車メーカーは誰に販売をしたかを把握することができ、転売をされても誰が所有をしているかは把握することが可能だ。

しかし、EVの場合は、バッテリーの寿命は5年程度だが、車体の方は10年以上利用できる。つまり、多くの人が、何回かバッテリーを交換して自動車を利用することになる。自動車メーカーは車体を誰が所有しているかは把握できるが、正規販売店以外でバッテリー交換をされると、廃棄バッテリーがどの程度生じているのかすら把握ができない。

f:id:tamakino:20210611111316p:plain

▲以前、問題になっていた充電ステーション不足はだいぶ解消されている。これもEVが売れ始めた要因のひとつになっている。

 

バッテリーの所有者を把握する仕組みが求められる

専門家が恐れているのは、不正規の分解ルートに流れた廃棄バッテリーが環境中に不法投棄されることだ。バッテリー内には毒性の高い重金属が含まれており、土地や水に深刻な悪影響を与える。

EVシフトが進むのは環境にとっていいことだが、自動車メーカーが車体だけでなくバッテリーも把握する仕組みを作り、回収するルートを確立させないと、今度は廃棄バッテリーが環境を汚染することになりかねない。

 

 

永輝の新小売スーパーが大量閉店。原因は、コロナ禍よりも需要に合わせた変化をしなかったこと

永輝が運営している新小売スーパー「超級物種」が大量閉店し、店舗数が半減している。コロナ禍の影響とも言えるが、コロナ禍で消費者の需要が変わったのに、業態を変化させなかったことが真の原因だと南方都市報が報じた。

 

永輝の新小売スーパーが大量閉店

チェーンスーパー「永輝」(ヨンホイ)が展開していた新小売スーパー「超級物種」(チャオジーウージョン)が大量閉店をしている。2020年5月末には、54店舗を展開していたが、現在公式アプリに案内されている店舗は20店舗ほどとなり、半分以下になってしまっている。

その理由は、やはりコロナ禍の影響だ。しかし、業態を変化させてこなかったことも大きい。

f:id:tamakino:20210610110541j:plain

▲飲食店ガイド「大衆点評」を開くと、多くの超級物種の店舗が「一時営業休止」になっている。

 

2016年に始まった新小売スーパー戦争

2016年、アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、オンライン小売とオフライン小売を融合する「新小売」(ニューリテール)という概念を提唱し、その具体例として新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)の展開を上海市で始めた。

当初の新小売スーパーは、「生鮮スーパー+地域EC+レストラン」というものだった。普通のスーパーと同じように店頭で生鮮食料品を買うこともできるが、半径3km圏内であればスマホで注文して30分配送してもらうこともできる。また、店舗内のイートインコーナーで、販売されている食材を使った料理を食べることもできる。

このアリババの動きを見て、2017年、永輝は超級物種の展開を始める。1年で、26店舗を出店した。同じ年、美団(メイトワン)が「掌魚生鮮」を展開し、翌年ブランド名を「小象生鮮」に改名、2018年には20店舗を出店した。また、蘇寧(スーニン)は、「蘇鮮生」(スーフレッシュ)を展開、2020年には300店舗を出店している。

2018年には、京東(ジンドン)が「七鮮超市」(セブンフレッシュ)を展開、50店舗を出店している。

2018年、2019年は、このような多数のプレイヤーが参加する「新小売戦争」の状況となった。この影響で、既存のスーパーは大きな打撃を受けた。既存スーパーを母体とする永輝は、いち早く危機感を感じ取り、自ら超級物種の展開を始めたが、結果は惨敗という状況になってしまった。

f:id:tamakino:20210610110545j:plain

f:id:tamakino:20210610110529j:plain

▲永輝スーパーが、アリババのフーマフレッシュに対抗して始めた新小売スーパー「超級物種」。店内で食事ができるイートインに力を入れていた。

 

需要の高い地域に集中出店したアリババ

一言で言えば、新小売スーパーは、アリババのフーマフレッシュの一人勝ちだ。ひとつは店舗数の多さだ。フーマフレッシュは現在200店舗+と、絶対数そのものは多くはないものの、アリババの淘宝網タオバオ)などのビッグデータ解析により、需要の高い地域に集中して出店している。

1つの店舗が半径3km圏内をカバーし、複数店舗で大都市の高需要地域を面でカバーする戦略であるため、効率のいい物流、配送が可能になる。各店舗間で商品の融通も可能であるため、商品ロスも抑えられる。

一方、その他の新小売スーパーは、店舗数が少なく、孤立した点として出店をするため、効率があがらない。

 

社区団購に市場を蚕食された超級物種

さらに大きかったのが、コロナ禍以降、社区団購(シャーチートワンゴウ)が拡大したことだ。社区団購は地域に密着した個人商店を拠点とし、事前にスマホや電話、店頭などで注文し、加盟店に配送される商品を受け取りに行くのが基本。しかし、地域密着店であるため、配送などもしてくれる。スマホも使うのが難しい、歩いてスーパーに行くのもしんどいという高齢者を中心に使われていたが、コロナ禍以降、テック企業が続々と参入し、安さと利便性に惹かれて若い世代も利用するようになっている。

特に利便性を感じているのが、単身世帯や二人世帯だという。このような少人数家庭にとって、既存スーパーが販売する生鮮食料品は量が多すぎる。白菜は1個でも多すぎる。かといって、半切りにしてある白菜は鮮度が落ちているのではないかと不安になる。しかし、社区団購では、地域の注文を加盟店がまとめてプラットフォームに発注するため、店主が融通を効かして、白菜半分の注文も受けてしまう。店主が配送されてきた白菜を半分に切り、再包装し届ける。余ってしまったら、店頭で安く売ってしまうか、自分で食べる。そういう融通が効くところが社区団購の魅力だ。

 

スタイルを変化させるフーマ、変えなかった超級物種

しかし、最も大きな問題は、業態をニーズに合わせて変えてこなかったことだ。超級物種は、コロナ禍になっても、創業した4年前と同じ古いスタイルをそのまま維持をしていた。そのため、「店頭」「オンライン」「イートイン」の3つの収益の柱のうち、コロナ禍で店頭とイートインが総崩れになってしまった。

アリババのフーマは、着々とスタイルを変化させている。創業時のスタイルは「店頭」「オンライン」「イートイン」で、セールスポイントはエビやカニなどの新鮮な海産物だった。店内に大規模な生簀を用意し、そこに生きたエビやカニを入れた。内陸部の店舗では、そのこと自体が珍しく、初期には多くの来客を引き寄せた。

しかし、海産物は商品の足が早い。衛生的には問題がなくても、不快なにおいが出始める。単価が高いため、商品ロスの額が大きい。スーパーでは扱いの難しい商品だ。そのため、販売だけでなく、イートインの食材として使うことで、商品ロスを減らそうとした。

しかし、フーマフレッシュの侯毅(ホウ・イ)総裁は、これは、追従してくる新小売スーパーに対する罠だったとも言う。「海鮮のイケスは私のアイディアで始めたものですが、営業的にはほとんど失敗でした。でも、これはフーマフレッシュのフォロワー、ライバルに対する罠でもあったのです。フォロワーが海鮮売場を拡大している間に、フーマフレッシュは海鮮売場の縮小を始めています」。

f:id:tamakino:20210610110533j:plain

▲フーマフレッシュがオープンした時、アリババの創業者ジャック・マーがカニを持って大喜びする写真がメディアで報道された。これで、フーマは海鮮に強いスーパーというイメージがつき、客を惹き寄せる魅力のひとつとなった。しかし、これはライバルに対する罠でもあった。

 

f:id:tamakino:20210610110538j:plain

▲フーマフレッシュが海鮮を目玉商品をしていたため、超級物種でも海鮮を拡大。しかし、海鮮は足が早く、単価も高いので、商品ロスの額が大きくなる難しい商品だ。

 

イートインから半調理品の販売へシフト

さらに、コロナ禍でイートインのビジネスも大幅に縮小をしている。当然ながら、店舗にくる客数が激減をしたからだ。その代わりに、半調理品の販売を大幅に拡大をした。ひとつはレトルト、冷凍などで、そのまま温めるか、食材を1つほど加えるだけで食べられる食品。もうひとつが、回鍋肉なら回鍋肉用に食材をカットし、セットしたパッケージだ。自分で味付けを調整して調理して食べることができる。さらに、野菜や肉、魚も特定のメニュー用にカットしたパックの販売も始めている。

つまり、フーマの店舗にきて、食事をして、買い物をして帰るという消費シナリオが激減をし、フーマに注文し、30分で宅配し、簡単な調理をして自宅で食べるという消費シナリオが急増したのだから、それに合わせて商品のラインナップを考えてきた。

この基本的なことが、販売業者目線しかない他の新小売スーパーには難しいようだ。客から学ぶのではなく、ライバルの新小売スーパーが何をしているかを気にして、そこから学び追従することになっている。

 

新業態だけでなく、本体も苦しむ永輝

永輝の内部の人が匿名で南方都市の取材の応えた。「超級物種の大量閉店は、上層部が決定したこと。新小売スーパーというビジネスモデルと永輝の組織がうまく噛み合わなかったことが原因。前向きな決断ではない」。

永輝は、超級物種で構築したスタッフや配送網を、社区団購に転用し、そちらでリベンジをする計画だという。本体の永輝スーパーも、コロナ禍以降、新小売スーパーや生鮮EC、社区団購に押されて業績は厳しくなっている。超級物種だけの問題ではなく、永輝本体が大きな転換をしなければならない状況になりつつある。

 

 

無人カート配送が普及前夜。なぜ、テック企業は無人カートを自社開発するのか?

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 076が発行になります。

 

中国版TikTok「抖音」(ドウイン)を見ていると、よく見かけるのが「守衛vs騎手」の仁義なき戦いの映像です。

大学、オフィスビル、マンションなどには守衛がいて、訪問予約をしていない外来者を入れないようにしています。そのため、フードデリバリーの騎手(正規には配送員ですが、一般には騎手=ライダーと呼ばれます)も入れないようにしているところが多いのです。

ひとつはセキュリティ上の問題です。騎手であれば自由に入れてしまうのであれば、悪意のある人が騎手の格好をして易々と侵入できてしまうようになります。しかし、本質的な理由は、その大学やオフィスビル、マンションなどの規定が古く、フードデリバリーに対応してなく、「関係者以外は敷地内に入れない」という規定のままで、守衛はそれを忠実に守っていることにあります。

しかし、騎手の方も困ります。守衛に止められているので、玄関まで取りにきてほしいと利用客に連絡すると、素直にきてくれる人もいますが、中には、なんでドアまで届けないんだとクレームを入れる人もいます。それが、美団(メイトワン)やウーラマなどのプラットフォームに対するクレームであればいいのですが、多くの場合、騎手個人に低評価をつけるという形になります。それで、騎手はなんとか中に入れてもらおうとしますが、それでは守衛が規定違反を指摘される。それで揉めごとになり、場合によっては、暴力沙汰に発展することもあります。

プラットフォームでは、騎手の身分証を作り、中に入れるようにする協議を進めていますが、各施設との個別交渉になることもあり、中々話が進まないようです。

 

一方で、新しくできたマンション、オフィスビルでは無人カートをうまく利用しているところもあります。デリバリー騎手や宅配スタッフは、玄関付近にある無人カートに商品を入れることで配送完了。無人カートやロボットが個別の部屋に運びます。このような無人カートやロボットはエレベーターにも対応していて、自分でエレベーターに乗って目的階にいくことができます。

エレベーターメーカーと通信プロトコルを策定し、赤外線などのワイヤレス通信でエレベーターを操作できるようになっている例もありますが、そのためには最新のエレベーターに交換する必要があるため、エレベーターに音声入力の機能を後付けし、無人カート側は音声でエレベーターを操作する仕組みも採用されています。

特に、新しいマンションでは、この無人カートがほぼ標準装備になろうとしていて、スマートフォンや室内の操作パネルに、商品が到着したことが表示され、簡単な操作で、無人カートをドアの前や自室のある棟の前まで呼ぶことが可能になっています。つまり、走る宅配ボックスとして使われています。

また、宅配企業によっては、荷物量の多いマンション、オフィスビルに対しては、専用の無人カートを用意し、配送ステーションから公道を走行して、目的の施設に荷物を運ぶということも始まっています。

 

無人カートが公道を走行するためには、交通信号を理解し、交通ルールを理解する自律走行が必要となりますが、技術的にはすでにクリアできています。

無人カートの利用も、すでに実証実験の段階は終わり、実践投入が始まっています。美団は北京市で、30台の無人カートを投入し、契約したテックパーク(IT専門の工業団地)やマンションにフードデリバリーを1日1往復から2往復させています。また、上海、深センでも試験運用を行なっています。3年以内に1万台の無人カートを投入する計画です。

京東(ジンドン)は、全国7都市13カ所の大学に宅配便を100台の無人カートで配送しています。2021年末には1000台規模、2022年には5000台規模、2025年には5万台規模にする計画です。

アリババも子会社の菜鳥物流(ツァイニャオ)を通じて無人カート配送を杭州、上海、成都、北京の大学内、杭州の契約マンション内で行っています。具体的な拡張計画は発表していませんが、他の都市の大学やマンションなどにも広げていくとしています。

 

つまり、無人カートは導入前夜ではなく、すでに導入が始まっていて、普及が始まる前夜と言った方が正確です。しかし、なぜ、各EC、デリバリー企業は無人カートの開発を行うのでしょうか。よく言われるのは「人件費が節約できる」で、それも理由のひとつですが、最も大きな目的というわけではありません。

また、以前、よく言われたドローン配送ではなく、なぜ無人カート配送にいくのでしょうか。今回は、無人カート配送の現状をご紹介し、そして、無人カート配送のメリット、さらになぜドローン配送ではないのかということをご紹介します。

 

続きはメルマガでお読みいただけます。

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

今月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.075:アリババをユーザー数で抜いて第1位のECとなったピンドードー。そのビジネスモデルのどこがすごいのか?

 

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

 

アリペイのビジネスは大幅縮小か。金融業界と同等の規制を受けることに

アリババのスマホ決済「アリペイ」は、建前上はアリババ独自のポイントを扱うサービスであり、金融サービスであるかどうかが曖昧なまま規制の網をかいくぐってきた。しかし、それが金融業界と同等の規制を受けるようになる。アリペイのビジネスは大幅縮小せざるを得ないと小小潮潮が報じた。

 

罰金が課せられたアリババの二選一行為

アリババのスマホ決済「支付宝」(ジーフーバオ、アリペイ)が大きく変わることになる。

2021年4月、中国国家市場監督管理総局(市場監管総局)は、アリババに対して、市場での支配的な地位を濫用して、「反壟断法」(独占禁止法)に違反する行為があったとして、2019年の営業収入の4%である182.28億元(約3000億円)の罰金を課すことを発表した。

問題となった行為は、「二選一」(二者択一)と呼ばれる排他行為だ。アリババは2015年から、自社のECで商品を販売する業者に対して、他のプラットフォームでは開店しないように迫り、それを無視する販売業者に対して、アリババECの規則や、データ提供、アルゴリズムなどの技術手段を用いて、不利な状況を作り出した。

つまりわかりやすく言えば、タオバオだけに出店するように求め、それを無視する業者には、利用者動向のビッグデータを提供せず、検索結果の下位にしか表示されないようにするなどの冷遇をし、販売業者に圧力をかけたというものだ。タオバオか、それ以外かを選ぶ二選一を事実上強要した。

 

アリペイも消費者金融機能を分離

しかし、それだけでは終わらなかった。アリペイを運営するアントグループは、人民銀行(中央銀行)、銀行保険監督管理委員会、証券監督管理委員会、国家外滙局と会談をし、スマホ決済「アリペイ」にも独占禁止法に抵触しかねない行為があると指摘され、改善をせざるを得なくなっている。

ひとつはアリペイと「花唄」(ホワベイ)「借唄」(ジエベイ)の分離だ。花唄、借唄というのは、アリペイの中から利用できる消費者金融機能。特に人気なのが花唄だ。アリペイの芝麻信用(ジーマクレジット)により、借りられる限度額が算出される。つまり、「借金をすれば、これだけ使える」という額が表示される。そのまま買い物などの決済をすると、自動的に借入され、商品が購入できる。「借金を申し込む」という心理的ステップがないために、若い世代から「先消費、後払い」として人気になっている。借唄も、ジーマクレジットによって限度額が算出され、申し込みをすると、瞬時にアリペイ残高に送金され、お金を借りられるというもの。この2つがアリペイから分離されることになる。

f:id:tamakino:20210609140816j:plain

▲アリペイの消費者金融機能「花唄」。芝麻信用(ジーマクレジット)により、利用限度額が自動算出され表示される。そのまま買い物などの決済ができ、翌月以降返済をしていく。

 

アリペイから分離をし、他の決済方式にも対応へ

問題となっているのは、花唄、借唄がアリペイからしか利用できないことだ。お金を借りるといっても、それはアリペイでの決済にしか利用できない。これが問題とされ、借りたお金は銀行口座や他のスマホ決済にも入れることができるようにし、消費者の選択権を守るべきだとされた。

この花唄、借唄は若い世代からは歓迎されているが、社会的には問題も指摘されている。それは借金をすることへのハードルが低くなり、破綻をする人も少数ながら現れ始めているからだ。アリペイなどでお金が借りられなくなった人は、違法な闇金融に手を出し、さまざまなトラブルに巻き込まれている。

花唄では利用者拡大のために、1ヶ月以内に返済をすれば利息が0元で、なおかつ借入額に応じたポイント還元のキャンペーンを行うこともあり、このような時は、優先する決済を「花唄」に設定してしまう人も多い。1ヶ月以内に返済をすれば、利息はなく、ポイントだけ稼げるからだ。このようなキャンペーンに対しては、消費習慣を破壊するという批判の声もあがっていた。

 

規制を逃れていたアントグループ

アントグループは、個人信用調査機関の免許を取得していない。免許を取得していないので、中央銀行監督官庁の規制から逃れている。アントグループは、アリババの子会社であるので、淘宝網タオバオ)やアリペイの利用履歴などの膨大なビッグデータから独自に分析をして、ジーマクレジットを算出している。

ところが、ライバルの銀行は、タオバオやアリペイを持っていないので、借り入れをするときは書類審査という従来の方法で個人信用を審査しなければならない。これは信用調査コストの点で勝負にならない。そのため、アントグループも監督官庁の監督を受けるようにし、業界の規制を守らなければならなくなった。これがどのような影響を及ぼすかはこれからだが、常識的に考えて、ジーマクレジットや花唄などの利用手続きが複雑化し、利息などが上がる可能性がある。

 

準備金の規制も受けることに

花唄、借唄では、現在、準備金の額の100倍まで貸し出しが行われているが、これを10倍までに制限される。アントグループが花唄や借唄で、貸し出しを行うには、準備金を用意しておかなければならない。10万円を貸すのに、10万円の準備金があれば、それを貸すことができる。もし、その10万円が返済されず、焦げ付いたとしても、準備金はなくなり、業績には響くが、アントグループ本体が倒産してしまうようなことはない。

しかし、これまでアントグループは、準備金の100倍までの貸し出しを行なっていた。もし、返済されない事故率が上昇すると、アントグループの存続にも関わってくる。しかし、返済事故を起こした人のジーマクレジットの点数は著しく下がり、花唄を利用できなくなるか、限度額が大きく制限されることになる。このような仕組みで不良な消費者を排除することで、事故率を低く抑えることに成功しているので、100倍まで貸し出しても問題ないというのが、アントグループのロジックだ。

しかし、これが10倍までに制限される。つまり、アントグループは事業規模を1/10にまで縮小させるか、現在の10倍の準備金を用意する必要が出てきた。

 

余額宝にも利用者保護の仕組みを導入

アリペイのキラーサービス「余額宝」(ユーアーバオ)も規模が縮小されることになりそうだ。余額宝は、アリペイの中から24時間出し入れができる投資機能。集めたお金をアントグループが国債などに再投資し、手数料を引いて、利用者に還元をする。一時期は利回りが6%を超え、7%に迫ったこともあり、アリペイの利用者増に大きく貢献した。しかし、現在は2%を割り込むところまで利回りが低下をしている。

中国の経済が成長期にあったため、大きな問題にはならなかったが、投資商品であるために、今後、経済状況によっては、利回りがマイナスになるということもあり得る。しかし、その場合に、利用者を保護する仕組みは用意されていなかった。すべて利用者の自己責任となる。

そこで、監督官庁の監督を受け、消費者保護の仕組みを導入することになる。つまり、余額宝も規模が縮小されるか、利回りがさらに低下をすることになる。

f:id:tamakino:20210609140820j:plain

▲アリペイのキラーサービスだった「余額宝」も、以前は6%越えの高利回りを誇っていたが、現在は2%を切る水準まで低下をしている。

 

今後は銀行の金融サービスと同等の規制を受けることに

アリペイは、中国の金融業界を大きく変えてきた。アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン)が、「銀行が変わらないのであれば、私たちが変えてみせる」とタンカを切ったその通りのことを実行してきた。

しかし、銀行側から見ると、不公平に映っていた。アリペイは、あくまでもアリババ独自のポイントを扱っているので、書面上は金融サービスではないことになり、金融関連の規制を受けずにきた。銀行に言わせれば、「こちらは何かをやろうとすれば、消費者保護などの規制を考えて設計しなければならない。まったく勝負にならない」ということになる。

それが、金融サービスと同等の規制を受けることになる。今までは、銀行が行っているサービスを、テクノロジーを使って効率化して、実現することで、銀行から多くの顧客を奪ってきた。しかし、今後は、銀行と同じ土俵の上で戦わなければならなくなる。アリババとアントグループの底力が試される時期に入った。

 

 

なぜ中国テック企業は国内市場ではなく、ナスダック市場に上場をするのか?

中国テック企業は、成功をすると、その多くが米国のナスダック市場に上場をする。中国にも国内の株式市場があるのに、なぜわざわざ海外の株式市場に上場をするのか。それには6つの理由があると毒舌財経が報じた。

 

米国で上場をする中国テック企業

中国には、上海と深圳に証券取引所があり、ここに上場するのはA株(普通株)と呼ばれる。しかし、テック企業の多くが中国ではなく、米国のナスダック市場などに上場をする。アリババ、京東(ジンドン)、網易(ネットイーズ)、携程(シートリップ)、愛奇芸(アイチーイー)、ビリビリ、中国移動、中国聯動など、みな米国で上場をしている。それには主に6つの理由がある。

f:id:tamakino:20210608104326p:plain

▲米ナスダック市場に上場する中国企業は増えている。ナスダックも中国企業を積極的に勧誘している。

 

国内市場は審査基準が厳しい

国内A株は審査基準が厳しいということが最も大きな理由だ。例えば、直近3会計年度の利潤の合計が3000万元以上、営業収入の合計が3億元以上などの数々の基準をクリアしなければならない。

つまり、規模が大きくて、安定して利益が出ている企業しか上場できない。しかし、テック企業の多くは当初は赤字だ。特に、プラットフォームやサブスクリプションビジネスは、当初は赤字になるほど資金を投下して市場を取る必要がある。いったん市場をとってしまえば、長期にわたって安定的に収益がもたらされる。

米国市場では、上場基準が緩く、投資家はこのようなビジネスモデルの将来性を評価してくれる。つまり、ナスダックには上場できても、上海や深圳取引所には上場できないという企業がたくさんある。

 

審査に必要な時間が長い

国内A株は審査にかかる時間が長い。短くても2年、長いと5年ほど審査に時間がかかる。テック企業の場合、これほど長い時間がかかると、上場準備をした後で企業の姿がすっかり変わってしまうこともあり得る。そもそも、企業は上場をして、資金を調達し、それで成長したいと考えている。しかし、資金調達ができるのが5年後などというのはテック企業にとってはあまりにも長すぎる。

ナスダック市場などは、一般的には審査期間は半年から1年。テック企業の成長速度に合っている。

f:id:tamakino:20210608104516p:plain

▲国内株式市場も改革は行なっている。従来は核準制度(証券監視委員会が事前に審査を行う)制度だったが、注冊制度(登録申請のみする制度)に移行をしていく。

 

配当と議決権を分離した種類株制度がない

国内A株には種類株制度が存在しない。例えば、京東の創業者、劉強東(リュウ・チャンドン)は、京東の株式の15%しか所有をしていない。しかし、70%以上の議決権を持っている。いわゆる種類株を発行していて、議決権のない株式、議決権割合の異なる株式が発行できる。こうすることで、資金を調達しながら、議決権を保持して企業を円滑に運営している。

しかし、国内A株は1株1議決権の普通株しか発行できないので、資金を調達しようとすれば経営者の議決権が少なくなり、企業運営が難しくなる。買収に対する対策もしなければならなくなる。そのような業務は、テック企業にとって本質的なものではないので、種類株が発行できるナスダック市場を選ぶことになる。

 

国内株式市場は成長が遅い

国内A株は、このような事情があるため、成長速度の速い企業が避けるため、市場全体の成長が遅い。そのため、多くの資金が株式ではなく、不動産に投資をされてしまう。不動産価格は、ナスダック市場並に上昇をするが、株式市場はなかなか上昇しないということになっている。

f:id:tamakino:20210608104605j:plain

▲国内株式は、以前は高齢者の娯楽のひとつになっていたが、成長速度が遅いため、最近は人気が落ちているようだ。

 

上場後の株式売却禁止期間が長い

スタートアップ企業に出資をするベンチャーキャピタル=投資会社のビジネスモデルは、将来有望な企業に出資をして、株式を買う。上場したら、その株価が大幅に上昇するので、売却をして利益を得るというものだ。

ところが、国内A株は、上場後の売却禁止期間が長い。発行企業は12ヶ月は株式を売却することができず、株主も12ヶ月以内は5%、24ヶ月以内は10%までしか売却をすることができない。

テック企業は変化が激しいので、投資会社としては上場をしたら、さっさと株式を売却して、別のスタートアップ企業に投資をして、育てていきたい。しかし、国内A株ではその動きが遅くなるため、投資会社や投資家が、国内上場にいい顔をしない。

 

国際的な認知度を得ることができる

さらに米国で上場するということは、米国市場に対する知名度、信用度があがり、米国での事業を可能にする道も見えてくる。

このようなことから、テック企業の多くが米国で上場をする。中国の株式市場は、いわば古い仕組みのまま改革が進んでいないということだ。中国のテック企業が驚異的な成長ができた裏には、ナスダック市場などに上場ができたということも大きく影響している。

中国政府としては、テック企業が米国市場に上場をして、海外の資金を中国に流入させることができ、都合がいいと考えているのかもしれない。国内株式市場は、明らかに国営企業のような古い体質の企業向けに設計されたまま、改善されていく様子がない。しかし、事業を国際展開している中国テック企業はそうは多くなく、テンセントとバイトダンスを除けば、多くの企業が国内市場を対象に事業を行なっている。テック企業が米国市場に上場をするということは、中国で生まれた利益が海外の投資家に配当されるということでもある。

中国のテック企業も、成熟をし始めて、収穫の時期に入っている。今後、中国の株式市場の改革が行われる時期がやってくるかもしれない。