中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

倒産した16人のスタートアップ起業家のリアル。それぞれの苦しみ(4/4)

中国のスタートアップ倒産件数が減少をしている。しかし、起業数も減っているため、これは中国経済停滞のシグナルだ。倒産する理由はさまざまで、燃財経では、倒産をした16人のスタートアップ創業者に話を聞いた。分量が多いため、隔日で4回に渡ってご紹介する。

 

起業家のリアル。苦しみはそれぞれに

「幸福な家庭は同じように幸福だが、不幸な家庭はそれぞれに不幸だ」とトルストイは言った。スタートアップも成功する企業は同じように成功するが、失敗するスタートアップにはそれぞれに失敗要因があるのかもしれない。

テック企業調査ポータル「IT橘子」によると、2019年のスタートアップ倒産件数は336件。近年のピークだった2017年の2145件から比べると大きく減少した。しかし、スタートアップ倒産件数が少ないことはいいシグナルではない。もともとが95%のスタートアップは4年以内に倒産をするもので、倒産件数が少ないということはそれだけ起業する母数自体が減っているということだ。

倒産件数が少ないのは、起業を目指す人が減っているという、経済の倦怠感の現れでもある。

失敗をするスタートアップはどのような原因で失敗をしているのか。燃財経は16人の失敗した起業家を取材した。

 

宋梓雯、36歳。生鮮食料B2B

私たちは農産物物流を効率化するスタートアップで、日常の業務は主に倉庫に常駐しています。そこで、倉庫作業員と一緒に仕事をしています。作業員たちは寮生活をしており、とても純朴な若者ばかりです。私たちの社長が倉庫を視察に来た時などは、いちばん甘いピーマンを選び出して、社長に試食させたりします。私たちの会社が危うくなり、給料の遅配が起きた時も、「経営者が逃げるなんて思っていない、待っているから」と言ってくれました。

起業して1年ほどで、計画不足から、支出を絞るようになり、最後には資金がショートして事業の継続が難しくなっていきました。そこにアリババや美団が、私たちの業界にも進出してきました。私たちは弾かれかねません。それでも、節約をしてコストを下げるぐらいしか対抗策がなかったのです。

会社がいよいよ危なくなると、私たちは、作業員に率直にそのことを告げました。給料も次の週の分までしか支払えないと告げました。すると、彼はみな不思議そうな顔で、「こんな大きな会社が、こんな短期間でダメになるなってあるのか?」と言います。彼らのほとんど地方都市出身者です。一度就いた職業は、定年まで勤めるというのが彼らの感覚です。しかし、北京での起業というのは、高速で出ててきて、高速で消えていくものなのです。

私たちの投資家は、私たち経営陣の身の振り方に就いてもいろいろ考えてくれました。しかし、創業当時から就いてきてくれた作業員たちに、私たちは結局、何もしてあげることができなかったのです。それが心残りです。

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▲農産系の起業は地方都市で増えている。従来の農産品物流は効率が悪く、出荷できずに廃棄されてしまうロスがかなり多い。そこを効率化して、安く安心できる農産物を届けるスタートアップが多く生まれている。新小売スーパーや生鮮ECとの契約を狙っている。

 

馮冬、28歳。農産品EC

私は地方都市で農産品のECを起業しました。今年で4年目になります。大学を卒業後、実家に帰ることを選び、小学校の同級生たちと起業する道を選びました。私の家は農家の親戚が多いため、農家が出荷できずに農産物を持て余してしまうことあることを知っていて、これを解決することで商機が生まれると考えたのです。

農業の世界も、この数年、機械化、自動化、大規模化が進んではいるものの、実態は多くは個人農家で、せいぜい親戚友人が集まって企業化している程度です。

2年前、親戚の農家が100ムーの畑に植えたひまわりが病害にあってしまい、半分のひまわりが売り物にならなくなってしまいました。私は残りの半分を市場に出すのではなく、私たちのチャンネルを使って価格の高い市場に出してみてはどうかと提案しました。そして、実際に、高値で売ることができ、その農家は最終的に半分の出荷で利益を出すことができたのです。

私は、親戚の農家のことでもあり、助けてあげるのは当然だと思っていました。しかし、共同創業者は「それは、ビジネスではない」と言います。農家ではなく、私たちの会社がもっと儲けられたはずだというのです。

それ以来、人の弱みにつけ込んで儲けるような発想をする共同創業者たちと、溝ができてしまいました。ビジネスとは残酷なものだとは思いますが、人の道を踏み外していいわけではありません。

今年になると、さまざまなコストが上昇し、元々利潤の薄いビジネスであったために、競争力を失いました。農民たちには、自分たちで販売組織を立ち上げ、自分たちで販売チャンネルを開拓するような動きもあり、私たちのようなECは次第に不要になっていったこともあります。それで結局、事業の継続が難しくなり、倒産せざるを得なくなりました。

振り返ってみると、この残酷な世の中では、私のような人間は成功できないのだと思います。どこかの企業に属して仕事をするのが向いているのでしょう。まずはこれから先の生活を安定させて、それからもう一度起業する気持ちがあるかどうか、自分に聞いてみようと思います。

 

羽帆、42歳。中古車EC

会社が倒産した時、私は車で出かけている最中でした。電話でそのことを聞き、慌ててしまい、車をガードレールにぶつけてしまいました。その夜にも、車をバックさせている時に、別の車にぶつけてしまいました。私は3年間車を運転していますが、減点が6点あるだけで、事故を起こしたことはありませんでした。

私たちの会社は、2018年に創業して、中古車のECを運営しています。倒産の原因は資金ショートです。昨年の10月頃から財務状況が悪化をしましたが、投資案件がまとまりそうなので、あまり心配はしていませんでした。12月になって、リストラをせざるを得なくなり、120人の社員が40人にまで減りました。その時、私は知らされていませんでしたが、投資案件がキャンセルになっていたのです。

今年の2月になって、創業者から「辞職してほしい」と言われました。その時初めて知ったのですが、私は共同創業者だとばかり思っていたのですが、実はただの従業員だったのです。だとしたら、法律では解雇予告期間3ヶ月+1ヶ月の合計4ヶ月分の給与を受け取る権利があります。しかし、会社にお金はまったくありません。裁判を起こしても、ないところからは取りようがありません。今でも、4ヶ月分の給料は未払いの状態になっています。

この会社の問題は、伝統的なモデルとECのモデルが衝突を起こしていたことです。創業者は、伝統的な中古車販売の経験が10数年もあり、伝統的な手法を変えようとしませんでした。私たちは、アプリやミニプログラムを通じて、新規顧客を獲得しようと考えていましたが、創業者たちのチームは、伝統的な手法で顧客を獲得し、その顧客にアプリやミニプログラムを使わせるという意味のないことをやっていたのです。

また、会社の体制も伝統的なもので、階層の下の人間には情報を共有しません。投資案件が取消になったこともごく一部の人間しか知らなかったのです。

 

万蕭、35歳。電子タバコ製造

私は、電子タバコOEM製造をしています。11月に電子タバコのネット販売が禁止になると、とても慌てました。

私たちが製造した電子タバコバイスは、ECサイトタオバオ」で電子タバコバイスを販売する業者に納入しています。禁止令が出ると、すぐに電話がかかってきて、発注を取り消すというのです。しかし、倉庫にはすでに製造した200万個の在庫があります。これは正式な発注に基づくものです。しかし、先方は「商品はもういらない、代金も支払わない」と言います。

数日すると、タオバオやTmallの私たちたちの納入先すべてが、電子タバコの販売を中止しました。倉庫には合計で500万個の電子タバコがありましたが、出荷できません。

資金繰りも一瞬で悪化し、80人いた工員を10人にまで減らしました。私が保有している自社株も、それぞれの工員の半年分の給料に相当する分を分け与えました。工場を閉鎖し、製造機機も売り払いました。ただ、1ライン分だけは知り合いの工場に運び込み、いつでも稼働できるようにしています。

私は2013年に今の工場を創業し、事業も順調だったので、深圳市にマンションを2つ購入しました。それが突然の倒産で、私の7年はまったく無駄になってしまったのです。

創業するまでは、いつもお金に困っていましたが、創業してからは金回りもよくなりマンションを買いました。しかし、政策の影響で倒産というのはあまりにつらい。結局、事業の方は7年間で何の利益も生み出しませんでした。一方で、マンションの方は順調に値上がりをしています。私の事業は、マンションよりも儲からない投資だったのです。深圳市には、私のように起業して儲ける人よりも、家で毎日遊んでいてマンションに投資をして儲けている人の方が多いのかもしれません。

しかし、私は根っからの起業家です。企業に勤めるつもりはありません。工場の残務整理が終わったら、別の起業機会を探すつもりです。

 

 

人口ボーナス消失とZ世代。経済縮小が始まる

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。
明日、vol. 011が発行になります。

 

中国では、新しいテクノロジーを活用したビジネスが次々と生まれてきています。彼らは、やる前に考えるのではなく、やってから考える人たちなので、中国は、新しいテクノロジー、新しいビジネスの実験場になっている観があります。しかも、「失敗は成功の母」の言葉通り、たくさんの失敗もやってくれます。100の新しい挑戦が生まれたら、99はだいたい失敗です。
中国はせっかく1つの成功例と99の失敗例をセットで提供してくれているのですから、私たち日本人が学ばない手はない。それがこのメルマガの趣旨です。

 

一方で、「中国なんかに学ぶことは何ひとつない」とおっしゃる方もいます。その気持ちもとてもよくわかります。なぜなら、日本人の目から見ると、中国人の研究開発やビジネスの進め方はとても危ういものに映るからです。
日本であれば、しっかりと議論をし、綿密な計画を立てて着手するようなことでも、中国人はあまり考えずに見切り発車してしまいます。そして、案の定、想定もしていなかった事態が起きて、常に対応におおわらわで、120%の全力疾走を強いられる。多くの企業がその途中で転けてしまい、うまいこと切り抜けた企業のみが総取りをして、急成長をする。日本人の感覚からすると「めちゃくちゃ」と言ってもいいぐらいです。

 

しかし、これはどちらが正しいということではありません。日本の計画的で慎重な進め方は、平常運転に向いた手法です。列車を毎日同じ時刻表で走らせるなどというのは得意中の得意。しかし、新しいことを始めるには、時間がかかります。
一方で、中国の見切り発車、走りながら考える的な進め方は、新しいことを始めるのに向いた手法です。新しいことというのは、誰もやったことがないのですから、何が起きるかは誰もわかりません。それなのに、始める前に考えても意味はないのです。どうせ、やってみれば想定外のことばかり起こるわけですから、人より早く始めて、たくさんの経験を積んだ方が有利なのです。ただし、みなさんよくご存知の通り、平常運転には向きません。「こんな単純なことで、なんでこんなことが起きるのだ」というのは、中国に行った日本人の誰もが経験しています。
これにより、特にここ20年は、中国で次々と新しいテクノロジーを活用したビジネスが生まれてくることになりました。

 

ただし、この中国的な手法がうまくハマったことの前提には、30代、40代という主力の消費者であり主力の労働力である人口が増えて続けてきたということがありました。消費市場が拡大を続けていたので、多少の失敗は、市場の成長に隠れて吸収をされていたのです。だから、大胆に新しいことを行うことができ、多少の失敗を気にすることなく、前に進めていました。
しかし、これからは違います。いよいよ、若者の数が減少に転じます。中国の主力消費市場が縮小に転じることになるのです。ビジネスが縮小をしていくばかりでなく、今までのような大胆なビジネスの進め方はできなくなります。日本と同じように、小さな失敗が命取りになりかねない時代に入ります。


この「人口ボーナス消失問題」は、多くの経営者の頭を悩ませています。今も、新しいテクノロジー、新しいビジネスが次々と登場していますが、その多くは、この人口ボーナス消失問題を見据え、新しい市場を探ろうという狙いを持っているものばかりです。
中国経済は、改革開放以来、右肩上がりの成長を続けてきて、日本のメディアが「今度こそ中国経済は崩壊をする」と論評しても、それを物ともせずに乗り越えてきました。しかし、人口ボーナス消失ばかりはどうにもなりません。改革開放以来、最大の高い壁ではないかと思います。中国経済は試される時期に差し掛かっています。
しかも、時間がありません。さまざまな産業に、この人口ボーナス消失問題の悪影響が現れ始めているのです。


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人工知能も混乱する中国の道路状況。自動運転の前に必要な道路環境整備

中国でも自動運転によるロボタクシーの営業運行が始まっている。現在は、エリアを限定して、その範囲内での運行だ。しかし、このエリアを拡大していくには大きな問題がある。それは道路環境が標準化されていないという問題だと智車科技が報じた。

 

歩行者を歩行者と認識できないケースが存在する

自動運転車の普及が始まり、それに伴い、自動運転車の交通事故も起きている。2018年3月、ウーバーの自動運転車がアリゾナ州で試験走行中に世界で初めての自動運転車の死亡事故を起こした。

乗車していた監視員がスマートフォンの操作をしていて、前方を注意していなかったということも問題になったが、テクノロジー的には、被害者となった女性をシステムが歩行者だと認識できなかったことが大きな問題だ。自転車を押していたため、画像解析から歩行者ではなく、障害物だと認識。衝突5.6秒前に検知はしたものの、歩行者ではないという判断だったため、行動の予測をしなかった。車両の前に「障害物」が移動した時、車両の時速は69kmであり、回避行動が間に合わなかった。

テスラは2016年に左折するトレーラーとの左直事故(日本の右直事故に相当)を起こしている。牽引されている長いトレーラー部分が、銀白色であったため、日光を反射し、車両としてうまく認識できなかったことが原因だ。

 

人工知能にとって認識が難しい交通環境が多く存在する

このような問題は、システムが認識できない交通要素が、実際の路上には数多く存在しているということを示している。

智車科技は、中国の交通状況はまさにこのようなバラエティに富んだ交通要素がふんだんにあるため、この問題が、中国の自動運転の発展の大きな障害になっていると指摘をしている。

中国の都市部には、構造化されていない道路がたくさんある。古い時代からの道路を舗装しただけで、通行も多くはないため、センターラインや標識などの整備がされていない道路だ。多くは、近隣住民の生活道路であるため、人が運転をするのであれば、互いに譲り合って運転すれば問題はないものの、自動運転システムは道路状況が把握できない。

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▲生活道路や敷地内の私道では、レーンマーク、標識などが整備されていないことが多い。近隣の人しか利用しないため、人間であれば、互いに譲り合って利用するが、これも自動運転システムは混乱をする。

 

標識類も誤認識を起こしやすい状況

また、構造化されている道路でも、混乱を招きかねない道路指示があちこちにある。2車線道路であったものの、交差点では左折専用3車線に変わる。直進マークと右左折マークが重なってプリントされている道路もある。交差点での渋滞圧を減らすための工夫だ。

これもそこを毎日運転している地元ドライバーにとっては、状況がわかっているので問題はないものの、自動運転システムは混乱をすることになる。

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▲交通指示に関しても、矛盾したものが無数にある。地元の人はわかっているので、問題は起きないが、自動運転システムは混乱をする。

 

ガイドラインに従っていない交通信号も

また、交通信号、道路標識には、国際的なガイドラインにあたる「ウィーン条約」があるが、日本と同じく、中国も批准をしていない。さらに問題なのは、国内のガイドラインもあるものの、現実には守られていないのが現状だ。

その都市の交通状況により、交通信号にもさまざまなタイプのものが生まれ、さらに道路標識でさえ、言葉で指示をする看板を掲示するケースがある。

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▲左が、国際的なガイドラインで定められた交通信号。しかし、実際には右側のようにさまざまな交通信号が存在する。それぞれの地域によって、見やすい、理解しやすい形になっている。これが自動運転システムを混乱させる。

 

歩行者に見えない歩行者、車両に見えない車両

また、大きな問題が、電動バイクや三輪車などで、中国の場合、積載量などに関する規制もあるものあまり守られていない。大量の荷物を積載した電動バイクは都市を歩いているとよく見かける。

画像解析により、障害物、歩行者、車両などを識別する自動運転システムが、このような異形の車両を、果たして車両として認識できるかどうかはかなり疑問だ。2018年のウーバーの交通事故のようなことが中国でも起きる可能性がある。

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▲積載量をまるで無視した車両。このような車両は、自動運転システムの画像解析では、車両と認識されない可能性がある。

 

人間は交通ルールも守らない

さらに問題なのが、高速道路に歩行者、電動バイクなどが入り込んでしまうこと。高速道路は、最短距離で場所を結ぶため、地方の歩行者や都市部の電動バイクにとっては、便利な陸橋代わりとなるため、違法侵入が後を絶たない。

これも人間が運転をしていれば、驚きはするものの、回避をして、大事にはならない。しかし、自動運転システムにとっては想定外のことであり、大事故につながりかねない。

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▲歩行者通行不可の高速道路、陸橋に侵入する人、二輪車が跡を絶たない。交通ルールが守られないという単純な問題ではなく、歩行者の利便性を考慮した道路環境になっていないのが原因だ。

 

自動運転の前に交通状況を標準化する必要がある

智車科技は、中国の道路状況を、世界標準に合わせることがまず重要だとしている。さらに、世界標準だけではなく、中国独特の三輪車、電動バイクなどについても自動運転システムが学習をする基準を作ることが必要になるとしている。

また、過積載、高速道路への侵入などについては、交通ルールを徹底するだけではなくならない。それぞれ理由があって、違法だとわかっていてその行為を行なっているのだから、その理由を解消する施策を講じていく必要がある。例えば、地方の高速道路で歩行者が侵入してしまうのは、下道を歩くよりも早く移動ができるからだ。であれば、高速道路脇に歩行者専用の陸橋を用意するなどの対応が必要になる。

 

自動運転エリアの拡大には課題が山積み

このような対応まで考えると、自動運転車が全国どこでも通行できるようになるまでには長い時間がかかる。

当面は、自動運転車が走行可能なエリアを定めて、その中の交通環境を整備し、そのエリアを徐々に拡大していくという形で自動運転車が広がっていかざるを得ない。

つまり、自動運転車走行可能エリアは、交通環境も合理的かつシンプルに整備せざるを得ないが、これは人間にとっても運転がしやすい。自動運転車による事故率の減少に加え、人間の運転による事故率の減少も期待をすることができる。

すでに、各都市で、固定バス路線、交通環境が整備されたエリアでのロボットタクシーなどのL4自動運転の営業走行が始まっている。しかし、エリアを拡大していくにはいくつもの課題を解決しなければならない。

 

 

 

倒産した16人のスタートアップ起業家のリアル。それぞれの苦しみ(3/4)

中国のスタートアップ倒産件数が減少をしている。しかし、起業数も減っているため、これは中国経済停滞のシグナルだ。倒産する理由はさまざまで、燃財経では、倒産をした16人のスタートアップ創業者に話を聞いた。分量が多いため、隔日で4回に渡ってご紹介する。

 

起業家のリアル。苦しみはそれぞれに

「幸福な家庭は同じように幸福だが、不幸な家庭はそれぞれに不幸だ」とトルストイは言った。スタートアップも成功する企業は同じように成功するが、失敗するスタートアップにはそれぞれに失敗要因があるのかもしれない。

テック企業調査ポータル「IT橘子」によると、2019年のスタートアップ倒産件数は336件。近年のピークだった2017年の2145件から比べると大きく減少した。しかし、スタートアップ倒産件数が少ないことはいいシグナルではない。もともとが95%のスタートアップは4年以内に倒産をするもので、倒産件数が少ないということはそれだけ起業する母数自体が減っているということだ。

倒産件数が少ないのは、起業を目指す人が減っているという、経済の倦怠感の現れでもある。

失敗をするスタートアップはどのような原因で失敗をしているのか。燃財経は16人の失敗した起業家を取材した。

張震、32歳。ヘッドハンティング

2019年は、ネット関連企業はどこも苦しみました。昨年のネット企業の業績悪化により、今年の前半からは、どこの企業も採用を厳しく絞るようになりました。特に大企業でその傾向が顕著で、私たちのようなヘッドハンティング企業にとって、非常に苦しい状況です。

以前は、1年で60から70社の企業から依頼がありました。しかし、2019年はわずか数社まで落ち込みました。利益が伸びないどころか、30%近い赤字です。社員の多くは、企業の人事部に転職をし、ライバル企業の中には保険販売会社に商売替えするところ、倒産するところなども出てきています。

ヘッドハンティング業界は、参入障壁がないので、競争は熾烈です。特に中国の人材市場は、成果報酬というのが慣習になっているため、人材を紹介しても、雇用されない限り、手数料が入ってきません。

ヘッドハンティングを求める企業の数がそもそもさほどは多くない、収入が入ってくるまでに長い時間がかかるというリスクの多いビジネスモデルだったのに、以前は、人材バブルだったので成長することができました。しかし、市場環境が悪化すると、ビジネスモデルが持っていたリスクが露わになって、業績は急速に悪化してしまったのです。私たちは、自分の墓穴を自分で掘っていたようなものです。

この状態が短期で改善されることはないと感じています。何か別の仕事を探さないとどうにもなりませんが、起業しているのにアルバイトをするのは抵抗もあります。私の人生の大きな転換点を迎えていると感じています。

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電子タバコは中国でも広まっているが、文房具店や雑貨店、ネットなどで簡単に手に入ることから、未成年の電子タバコ利用が社会問題となり、ネット販売が禁止となった。関連業者は大きな打撃を受けた。

 

張洲、34歳。ミニプログラム開発

私たちはミニプログラムの委託開発を行っていました。その他、ソフトウェア、アプリの委託開発などなんでもやりました。スタートアップにとって最も重要なのは、高速の成長であり、そうでなければ倒れます。停滞をしているぐらいなら、会社を解散して、新たな機会をつかみにいくべきです。

そう考えて、会社を解散した時、会社にはまだわずかですがお金が残っていました。そのお金で、みんなで大酒を飲み、さらにベトナムに旅行に行きました。株式は紙屑になったので、このお酒と旅行が起業に対する報酬となりました。

その後、私は自分で車を運転して、北京から雲南まで行きました。運転しながら、起業のことを振り返っていました。半年前、友人の話に心を動かさなければ、企業のことなど考えなかったでしょうし、相談できる友人がいなければ、きっと恐ろしくて起業していなかったでしょう。

会社が高速で成長している時は、友人に相談する時間もありません。今は、大酒を飲むこと以外、自分の痛手を克服する方法を知りません。今では、外に出ず閉じこもって、一人で傷を癒しています。創業者は孤独という言葉の意味がわかりました。

 

六六、28歳。VR開発

2017年にVRが話題になった時、VRに関する革新的なアイディアを持っていたので、数人の友人と起業をしました。しかし、地方都市在住であったため、新しい情報が入ってくるのは遅く、投資家を探すのも簡単ではありません。2019年の業界全体の停滞により、ついに資金が底をつき、従業員の給料も払うことができなくなり、会社を閉じなければならなくなりました。

これは、私にとって、2回目の起業であり、2回目の失敗です。以前失敗した時は、半月間、部屋に閉じこもり、灯りもつけず、スマートフォンも触りませんでした。子どもの頃から、何をやってもうまくできてきて、初めての挫折だったのです。

その経験があったため、今回の失敗もつらくはありますが、以前よりは痛みは小さく済んでいると思います。

今回の起業では、あらかじめ心の準備がありました。共同創業者と、今回の成功の確率は20%程度しかないが、それでもやってみたいという話をしていた記憶があります。そのため、会社が倒産しても、共同創業者は私に対して恨み言ひとつ言いませんでした。私はそのことに感動していました。私たちは、失敗をすることで、人間的に成長できたと思います。

私は、起業の失敗は、惨めなことばかりではないと感じています。

 

程禹、27歳。電子タバコ

11月1日に、国内での電子タバコのネット販売が禁止になった時、私たちは大きな投資案件がまとまり、実行する直前でした。「これですべてが終わった」と頭を抱えました。

その時、私と共同創業者は別の都市で仕事をしていて、禁止令が出るとすぐに集まろうかとも考えましたが、集まってもどうにかなるものでもありません。

夜中の2時か3時まで電話会議をしましたが、みな混乱しています。私は苦渋の決断をしました。もうどうしようもないと、自分を説得しました。それから1週間で残務処理をし、従業員の行き先を決めました。

4人の共同創業者は集まり、食事も取らずに、さまざまな酒を飲んで解散しました。その日、私は一人で上海に行き、ひたすら寝ました。そして、起きると、元気を取り戻していました。残念だったのは、突然の禁止令に対応する時間がまったくなかったことです。でも、「もし禁止令が突然出なかったら」などと考えても仕方ありません。後手に回ったことは間違いないのです。

このような事態は予測しておかなければならなかったことです。しかし、創業から7ヶ月という短い時間で、第3世代まで製品を発売し、いずれも売れ行きは悪くありませんでした。投資も順調に進んでいました。それで、最悪の事態に備えることを怠ってしまったのです。

お金で経験を買い、成長する。それが起業だと思っていましたが、それだけでなく、情勢をよく見ることも必要だったのです。

316日配信に続く)

 

 

スマホカバーに100元札。じわじわと広がっている奇妙な流行

最近、スマートフォンのカバー裏に百元札を入れている人が増えている。スマホ決済が普及をし、現金を使う機会がほとんどなくなっているが、スマホのバッテリー切れ、故障などの時は、自宅に帰ることすらできなくなる。そこで、万が一の時のために、百元札を入れておくのだと柚柚科技が報じた。

 

お金がお金を呼ぶ縁起をかついでいる

不透明なカバーの裏にわからないように百元札を入れておくのであればわかる。ところが、多くの人が、わざわざ透明なカバーに、見えるように百元札を入れておくのだ。これはどういうことだろうか。

ネット民によると、一種の縁起物なのだという。「お金がお金を呼ぶ」ために、見えるようにしておくという。

百元札が見えるようにしてしまうと、スリやひったくりに合う危険が高まりそうだが、そこはあまり気にしていないようだ。

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スマホの透明カバーに100元札を見えるように挟んでいる人が増え始めている。いざという時のための備えだが、見えるようにしておくと、お金がお金を呼び、縁起がいいのだという。

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▲すべての種類のお札を入れている人もいる。

 

・最も売れているのは透明カバー

スマホ関連グッズ販売業者によると、スマホカバーの中では、透明カバーがもっとも売れているという。安価であることもあり、百元札や自分の気に入ったイラストを切り抜いて入れることができ、オリジナル感を出すことができるからだという。

中には、緊急時の現金ではなく、海外の紙幣を入れたりする人も増えているという。

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▲元々は、不透明のカバーの裏に100元札を隠し、バッテリー切れなどが起きても、家に帰れるようにする工夫から始まった。

 

透明カバーでオリジナリティーを出すのが流行り始めている

元々は、いざというときのための工夫だった。自宅に帰るための交通カードを入れたり、硬貨を入れている人もいる。しかし、それが次第に縁起を担ぐためのものになったり、オリジナリティを出すためものになっている。

スマホが大画面化して、紙幣のサイズに近づいてきているため、納まりがよくなったことも、このような不思議な流行が生まれる要因になっているという。

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▲イラスト付き透明カバーに100元札を入れて、オリジナリティーを出す人も。

 

 

倒産した16人のスタートアップ起業家のリアル。それぞれの苦しみ(2/4)

中国のスタートアップ倒産件数が減少をしている。しかし、起業数も減っているため、これは中国経済停滞のシグナルだ。倒産する理由はさまざまで、燃財経では、倒産をした16人のスタートアップ創業者に話を聞いた。分量が多いため、隔日で4回に渡ってご紹介する。

 

起業家のリアル。苦しみはそれぞれに

「幸福な家庭は同じように幸福だが、不幸な家庭はそれぞれに不幸だ」とトルストイは言った。スタートアップも成功する企業は同じように成功するが、失敗するスタートアップにはそれぞれに失敗要因があるのかもしれない。

テック企業調査ポータル「IT橘子」によると、2019年のスタートアップ倒産件数は336件。近年のピークだった2017年の2145件から比べると大きく減少した。しかし、スタートアップ倒産件数が少ないことはいいシグナルではない。もともとが95%のスタートアップは4年以内に倒産をするもので、倒産件数が少ないということはそれだけ起業する母数自体が減っているということだ。

倒産件数が少ないのは、起業を目指す人が減っているという、経済の倦怠感の現れでもある。

失敗をするスタートアップはどのような原因で失敗をしているのか。燃財経は16人の失敗した起業家を取材した。

呉秀易、29歳。AIデバイス電子タバコ販売

今年の初めに電子タバコのビジネスを始め、それまでのAIデバイスのビジネスを整理しました。以前の事業を閉じて、新しい事業にピボットするのは、私にとっては精神的にものすごくキツかった。

いちばんキツかったのは、スタッフを解雇しなければならないことでした。能力のある人なのに、新しいビジネスにとっては価値が高くない人を解雇しなければならないのです。その人の問題ではなく、会社がピボットをして新しいチャンスをつかむために仕方のないことでした。

私は、主要なスタッフと食事をし、ピボットすることを打ち明け、彼らの考えを聞きました。すると、みな、明日から会社には来ず、辞めるというのです。創業からずっと一緒にやってきた仲間です。いちばんつらいことは何かと問われれば、仲間との別れだと思います。

次につらかったのが、投資家との関係です。私は最初、AIデバイスの事業を清算して、新会社で電子タバコの事業を始めるつもりでした。しかし、投資家たちは、新しい会社の株式を要求したのです。新会社の私の株式は、大いに希釈されてしまうことになりました。

ピボットをしたのは、新しいチャンスをつかみたいということもありましたが、もうひとつは投資家とスタッフのことを考えた結果でもあります。電子タバコの業界も競争が厳しいですが、新しい投資はなるべく受けないように、倒産させないように運営をしていけば、チャンスはあると思っています。

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▲中国でも紙巻きタバコの売上は年々減少しているため、電子タバコはちょっとした起業ブームになった。しかし、加熱式はともかく、リキッドタイプのものは違法薬物が使われているものが登場する恐れがあり、ネット販売が禁止になった。このため、多くの電子タバコ業者が苦境に立たされている。

 

マイク、31歳。ドローン製造

2018年5月に創業し、2019年末に会社を解散しました。

私はエンジニアで、創業当時、世界でも私たちのようなドローンを開発している企業はなく、開発をすれば必ず受け入れられると信じていました。そこで、2人のパートナーと自己資金で会社を設立し、私たち3人は無給で働きました。理想的なテック系のスタートアップだったと思います。

半年でサンプル品を生産できるところまで漕ぎ着けました。11月から、サンプルを持って営業を始めましたが、その過程で、自分たちの甘さを知りました。私たち3人はビジネスのことを何も知らなかったのです。製品を大量生産をするには大きな資金が必要になるということも知りませんでした。私たち3人は、いいものさえ開発すれば、それから投資家を探せばなんとかなると思っていたのです。

しかも、サンプル品を持ってあちこちを回ると、「これは売れないよ」という声ばかり聞こえてきます。

何か大きな問題があって、私たちの会社が倒産したというわけでありません。サンプル品を作った後は、それぞれが生活のために別の仕事をするようになり、いつの間にか会社に誰もこなくなっていたのです。

失敗というのは、ある瞬間の選択を間違うことではなく、長いプロセスで起こるものだということも知りました。私は、自分の開発したドローンでこの世界を変えたいと思っていましたが、ある日、家に帰ると母親が私の好きな料理を作ってくれました。私のやるべきことは、世界を変えることではなく、この両親との暮らしを永遠のものとして変えないことなのだということを悟りました。

今では、起業とは子どものおもちゃのように飛びつくものではなく、自然の成り行きによって起きるものだと考えています。各自がそれぞれの領域でじっくりといい仕事をしていれば、いろいろな条件が成熟してきて、自然に起業することになる。そういうものだと理解しています。

社会に出て仕事に慣れてくると、私の一生はこんなものなのかと疑問に思えてきます。起業は、平凡な人生に対する抵抗です。しかし、残酷です。この経験で、私は物事を堅実に考えるようになりました。

 

楊璨、31歳。ゲーム開発

勤めていた会社を離職して874日。私は再びその会社のビルの前に立っていました。この3年間、リアルな夢を見ていたとしか思えません。私は100万元以上の借金を背負い、創業して、失敗した。でも、それは夢ではなく、現実だったのです。

2017年5月24日、私は広州市のあるゲーム大手企業を辞職し、ゲームジャムで知り合った数人の仲間とゲームスタジオを起業しました。広州市の天河区の古いビルの一室を借り、そこに8台のPCを置きましたが、ものすごく狭い。5ヶ月後には複数の部屋があるマンションを借り、そこに10人のメンバーが寝起きを共にし、ゲームの開発を続けました。

最初に作ったのはパズルゲームで、Steam上で公開しましたが、評判にもならず、収入はほとんどありません。それで、より大掛かりなゲーム開発に挑戦することにしました。

私たちは会社ではありましたが、実際は自分の好きなことをやっているメンバーの集まりにすぎず、業務管理は適当で、業務効率は最低でした。これが失敗の原因のひとつです。

秋になると、資金が苦しくなってきましたが、子育てシミュレーションゲーム「チャイニーズペアレント」のような独立スタジオが成功していることに刺激を受け、私たちはあきらめずに開発を続けました。

私は美術系の出身で、原画やモデリングはできましたが、ゲームのキモはシステムで、私と共同創業者の間には路線の違いが出てきました。そのために、労力や資金も無駄に浪費しました。今思えば、メンバーのそれぞれの情熱が大きすぎたことが、起業の失敗の最大原因だと思います。

今年の9月になって、共同創業者が私にこう言いました。「もう、無理だ。続けられない」。私は引き止める言葉をかけましたが、この会社がもう難しくなっていることは明らかです。結局、私は彼らが離職することに同意しました。

その日、仕事終わっても、私は3時間もただ椅子に座っていました。何も考えることができませんでした。天の時は得られず、地の利も得られず、人の和もなくなりました。それから1ヶ月間、私は会社を整理し、従業員の行き先を決め、そして昔の上司に話をし、以前勤めていた会社に戻ることになりました。

3年の間に描いた原画、作ったモデリングは売らずに持っています。いつかゲームとして日の目を見る機会もあるかもしれないと思っているからです。しかし、今は、起業したことでできたしまった借金をきちんと返していかなければならないのです。まずはそこからです。

 

王銘銘、25歳。占いサイト運営

2019年9月19日、私は共同創業者という立場で、あるスタートアップ企業に加入しました。この日は、9が多く縁起のいい日(9は久と発音が同じ)でしたが、このスタートアップ企業は長続きはしなかったのです。

この会社は、オンライン占いサイトを開発、運営する企業です。周りの友人たちは、うまくいかないのではないかと忠告してくれました。私も、実は、占いなど信じていません。人生とは予測のできないことの連続だと思っています。しかし、創業者はこのビジネスの可能性を語り、1年で数千万元の収入があると太鼓判を押すとまで言いました。同様のビジネスモデルの経営者と話をしても、確かに利益の出るビジネスのようです。それが本当であるかどうかはともかく、私はリスクを取って冒険してみることが好きな質なのです。

最初は楽観的でいられました。どんどん人が増えていき、最初の1ヶ月で2人から7人になりました。ウェイボーやWeChatで、提携している占い師にトラフィックを流すというのが私たちの仕事です。しかし、2ヶ月経ってみると、1カ月の収入は1万元前後で頭打ちになってしまいました。このビジネスが簡単ではないと悟りましたが、少なくとも年末まではなんとか続けようと考えていました。

しかし、この年は市場環境が悪すぎました。投資家は慎重になり、私たちの経営数字がよくなかったために、投資家が一人も得られなかったのです。毎月数十万元の支出があるため、創業者は焦り始めました。

12月になっても突破口は開けなかったため、私は離職することを申し出ました。その夜、私と共同創業者、中心メンバーは一緒に大酒を飲み、会社を解散することが決まりました。

私が参加する時、株式の5%の出資をしましたが、結局、紙屑となりました。そのことは後悔していません。私は賭けに負けたのです。

私は今は元の仕事に戻っています。しかし、起業した頃を懐かしく思うことがあります。共同創業者と一緒に努力をし、投資家にビジネスモデルを説明し、将来の大きな利益に期待を膨らませる。今は、すべてを上司が決め、私はその通りに仕事をするだけです。

(3月12日配信に続く)

 

急成長するオンラインシルバー経済。高齢者もスマホからECを利用する時代に

京東ビッグデータ研究員は、「2019中老年オンライン消費情勢報告」を公開した。オンラインでの高齢者関連の販売額が成長をしている。中高年の人口が増え、スマートフォン利用率が伸びていることが要因だ。また、子どもが親を心配して注文する「関懐型消費」も多く、銀髪経済(シルバー経済)が注目されるようになっている。

 

立ち遅れる中国のシルバー産業

世界には、高齢者向け商品が6万種類あると言われているが、中国で流通しているのはわずか2000種類にすぎない。高齢者向けの商品、生活サービス、医療、娯楽の4つの領域で、中国は諸外国に比べて遅れている。しかし、だからこそ、「シルバー経済」は成長空間の大きい有望産業だと考えられている。

京東ビッグデータ研究院がECサイト「京東」の購入データを分析した結果、この3年、高齢者商品の販売数は毎年、平均39%という急成長を示していることがわかった。特に、伸びが著しかったのが、オンライン生活サービス、日用品、調理器具、家具だった。

 

高齢者人口が子どもの人口を初めて超える

中国国家統計局によると、2018年末での中国の人口は13億9538万人となった。このうち、0歳から15歳までの人口は2億4860万人、60歳以上は2億4949万人。60歳以上の人口が初めて15歳以下の人口を超えた。60歳以上は全人口の17.9%となり、中国も本格的に少子高齢化が始まっている。

さらに、高齢者のネット利用が進んでいる。「第44回中国インターネット発展状況報告」によると、2019年6月時点で、50歳以上のネット民は2018年末の12.5%から13.6%に増加している。また、平均アクセス時間は1日4時間近くになっている。

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▲ネット利用者の年齢構成。60歳以上は6.9%となり、無視できない割合になってきた。それに伴い、高齢者のEC利用額も急成長している。

 

伸びる生活関連派遣サービス

このような背景があり、この3年で、高齢者向け商品の販売数は毎年平均39%伸び、2019年には2017年と比べて商品種類数も78%増えている。

その中で、昨年から急速に需要が増えているのがオンライン生活サービスだ。スマートフォンなどから、清掃、介護、設置、修理などのサービスを注文することができるというものだ。

このようなサービスは、以前から街中にあり、電話で派遣を頼むことができたが、多くは少数のスタッフが何でもやるということからサービス品質が高くないという問題や、価格が不透明という問題が生じることもあった。

これをチェーン展開する企業が提供することで、サービス内容に応じて専門スタッフを派遣することができ、価格も明快になった。また、オンラインで質問や相談をすることもでき、さらに利用者のレビューを参考にすることで、安心して利用することができる。このようなことから、このサービスが急速に広がり始めている。

2019年の重陽節(9月9日)前後の期間、京東上で注文されたオンライン生活サービスの27%が、異なる場所での購入だった。つまり、別の都市に住んでいる息子や娘などの家族が、実家への派遣を注文している。

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▲2019年の高齢者のEC商品で、昨年からの伸び率ランキング。清掃、介護、修理などの専門スタッフを派遣してもらうオンライン生活サービスの伸び率が、34倍と急成長している。

 

子どもが親のために注文する関懐型消費

高齢者向け商品の販売が伸びている要因のひとつが、別都市に住んでいる息子、娘が親のために購入するという「関懐型消費」(関懐は、中国語で気にかけるという意味)だ。オンライン生活サービスの中には、サービスを実行後、注文主(子ども)に対して、撮影した写真や生活の様子の簡単なレポートを送ってくれるものもある。

高齢者向け商品の購入者のうち、48%は80年代生まれ(30代)と90年代生まれ(20代)になる。高齢者向け商品を高齢者自身(56歳以上)が購入しているのは13%にすぎない。

つまり、シルバー経済が伸びているのは、2つの要因が重なっているからだ。

1)高齢者自身がスマホを使うようになり、ECを利用するライフスタイルに変化をしている。

2)親子で別都市に住むことが多いという事情から、子どもが親の生活を心配して、生活サービスを派遣したり、商品を贈る「関懐型消費」が伸びている。

 

注目されるシルバー消費

ただし、このようなシルバー経済は、地域差も大きい。最も多いのは華東地区の江蘇省安徽省浙江省で、多くの農村、地方都市の若者が仕事を求めて、上海や杭州などの都市にいくということが関係しているのかもしれない。一方で、西南、西北などの西部の消費は少ない。

すでにシルバー経済は、急速な伸びを占めているが、西部ではほとんど見られない。つまりは成長空間は広大だということだ。各方面からシルバー経済が注目をされている。