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倒産した16人のスタートアップ起業家のリアル。それぞれの苦しみ(3/4)

中国のスタートアップ倒産件数が減少をしている。しかし、起業数も減っているため、これは中国経済停滞のシグナルだ。倒産する理由はさまざまで、燃財経では、倒産をした16人のスタートアップ創業者に話を聞いた。分量が多いため、隔日で4回に渡ってご紹介する。

 

起業家のリアル。苦しみはそれぞれに

「幸福な家庭は同じように幸福だが、不幸な家庭はそれぞれに不幸だ」とトルストイは言った。スタートアップも成功する企業は同じように成功するが、失敗するスタートアップにはそれぞれに失敗要因があるのかもしれない。

テック企業調査ポータル「IT橘子」によると、2019年のスタートアップ倒産件数は336件。近年のピークだった2017年の2145件から比べると大きく減少した。しかし、スタートアップ倒産件数が少ないことはいいシグナルではない。もともとが95%のスタートアップは4年以内に倒産をするもので、倒産件数が少ないということはそれだけ起業する母数自体が減っているということだ。

倒産件数が少ないのは、起業を目指す人が減っているという、経済の倦怠感の現れでもある。

失敗をするスタートアップはどのような原因で失敗をしているのか。燃財経は16人の失敗した起業家を取材した。

張震、32歳。ヘッドハンティング

2019年は、ネット関連企業はどこも苦しみました。昨年のネット企業の業績悪化により、今年の前半からは、どこの企業も採用を厳しく絞るようになりました。特に大企業でその傾向が顕著で、私たちのようなヘッドハンティング企業にとって、非常に苦しい状況です。

以前は、1年で60から70社の企業から依頼がありました。しかし、2019年はわずか数社まで落ち込みました。利益が伸びないどころか、30%近い赤字です。社員の多くは、企業の人事部に転職をし、ライバル企業の中には保険販売会社に商売替えするところ、倒産するところなども出てきています。

ヘッドハンティング業界は、参入障壁がないので、競争は熾烈です。特に中国の人材市場は、成果報酬というのが慣習になっているため、人材を紹介しても、雇用されない限り、手数料が入ってきません。

ヘッドハンティングを求める企業の数がそもそもさほどは多くない、収入が入ってくるまでに長い時間がかかるというリスクの多いビジネスモデルだったのに、以前は、人材バブルだったので成長することができました。しかし、市場環境が悪化すると、ビジネスモデルが持っていたリスクが露わになって、業績は急速に悪化してしまったのです。私たちは、自分の墓穴を自分で掘っていたようなものです。

この状態が短期で改善されることはないと感じています。何か別の仕事を探さないとどうにもなりませんが、起業しているのにアルバイトをするのは抵抗もあります。私の人生の大きな転換点を迎えていると感じています。

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電子タバコは中国でも広まっているが、文房具店や雑貨店、ネットなどで簡単に手に入ることから、未成年の電子タバコ利用が社会問題となり、ネット販売が禁止となった。関連業者は大きな打撃を受けた。

 

張洲、34歳。ミニプログラム開発

私たちはミニプログラムの委託開発を行っていました。その他、ソフトウェア、アプリの委託開発などなんでもやりました。スタートアップにとって最も重要なのは、高速の成長であり、そうでなければ倒れます。停滞をしているぐらいなら、会社を解散して、新たな機会をつかみにいくべきです。

そう考えて、会社を解散した時、会社にはまだわずかですがお金が残っていました。そのお金で、みんなで大酒を飲み、さらにベトナムに旅行に行きました。株式は紙屑になったので、このお酒と旅行が起業に対する報酬となりました。

その後、私は自分で車を運転して、北京から雲南まで行きました。運転しながら、起業のことを振り返っていました。半年前、友人の話に心を動かさなければ、企業のことなど考えなかったでしょうし、相談できる友人がいなければ、きっと恐ろしくて起業していなかったでしょう。

会社が高速で成長している時は、友人に相談する時間もありません。今は、大酒を飲むこと以外、自分の痛手を克服する方法を知りません。今では、外に出ず閉じこもって、一人で傷を癒しています。創業者は孤独という言葉の意味がわかりました。

 

六六、28歳。VR開発

2017年にVRが話題になった時、VRに関する革新的なアイディアを持っていたので、数人の友人と起業をしました。しかし、地方都市在住であったため、新しい情報が入ってくるのは遅く、投資家を探すのも簡単ではありません。2019年の業界全体の停滞により、ついに資金が底をつき、従業員の給料も払うことができなくなり、会社を閉じなければならなくなりました。

これは、私にとって、2回目の起業であり、2回目の失敗です。以前失敗した時は、半月間、部屋に閉じこもり、灯りもつけず、スマートフォンも触りませんでした。子どもの頃から、何をやってもうまくできてきて、初めての挫折だったのです。

その経験があったため、今回の失敗もつらくはありますが、以前よりは痛みは小さく済んでいると思います。

今回の起業では、あらかじめ心の準備がありました。共同創業者と、今回の成功の確率は20%程度しかないが、それでもやってみたいという話をしていた記憶があります。そのため、会社が倒産しても、共同創業者は私に対して恨み言ひとつ言いませんでした。私はそのことに感動していました。私たちは、失敗をすることで、人間的に成長できたと思います。

私は、起業の失敗は、惨めなことばかりではないと感じています。

 

程禹、27歳。電子タバコ

11月1日に、国内での電子タバコのネット販売が禁止になった時、私たちは大きな投資案件がまとまり、実行する直前でした。「これですべてが終わった」と頭を抱えました。

その時、私と共同創業者は別の都市で仕事をしていて、禁止令が出るとすぐに集まろうかとも考えましたが、集まってもどうにかなるものでもありません。

夜中の2時か3時まで電話会議をしましたが、みな混乱しています。私は苦渋の決断をしました。もうどうしようもないと、自分を説得しました。それから1週間で残務処理をし、従業員の行き先を決めました。

4人の共同創業者は集まり、食事も取らずに、さまざまな酒を飲んで解散しました。その日、私は一人で上海に行き、ひたすら寝ました。そして、起きると、元気を取り戻していました。残念だったのは、突然の禁止令に対応する時間がまったくなかったことです。でも、「もし禁止令が突然出なかったら」などと考えても仕方ありません。後手に回ったことは間違いないのです。

このような事態は予測しておかなければならなかったことです。しかし、創業から7ヶ月という短い時間で、第3世代まで製品を発売し、いずれも売れ行きは悪くありませんでした。投資も順調に進んでいました。それで、最悪の事態に備えることを怠ってしまったのです。

お金で経験を買い、成長する。それが起業だと思っていましたが、それだけでなく、情勢をよく見ることも必要だったのです。

316日配信に続く)