中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

企業文化が表れる中国IT企業の「社食」

中国の大企業は社員食堂に力を入れている。中国人は食事を大切に感じていて、「食事がまずい」という理由で転職を考えるからだ。中国企業家雑誌が、中国IT企業大手の「京東」「アリババ」「網易」の社食を訪ね、各社の企業文化を探った。

 

「食事に不満」で転職を考える中国人

中国人が会社を辞めて転職する理由の1位は「報酬に不満」、2位は「上司や周りとうまくいかない」で、そこは世界共通だが、3位にくるのが「食事に不満」だ。ある程度の規模の企業になると社員食堂を設けるのは当然で、食事が美味しいかどうか、価格が妥当かどうかも、社員の満足度に大きく影響する。

IT企業の社食をのぞいてみると、充実しているだけでなく、その企業の文化がよく表れている。

 

本社の2階から5階までが社食。京東の「美食城」

ECサイト「京東」(ジンドン)の創業者、劉強東(リュウ・チャンドン)は、貧しい家庭に生まれながら、自分でお金を稼ぎながら大学進学し、京東を大企業に育てた苦労人だ。そのため、典型的な中国人の兄貴気質があり、京東の創業時には、自分のお金で社員に食事をご馳走するということが多かった。ともに食事をとることで、社員を慰労し、絆を深めてきた。そのため、京東では「食」を重要視している。

京東の社食は、本社ビルの2階から6階までの5フロアにもなる。総面積は2万平米。これは東京ドームのグランド2つ分に近い。中国には、さまざまなレストランが入ったビル「美食城」があるが、まさに京東の本社は美食城なのだ。400種類以上のメニューがあり、昼食だけでなく、朝食や夕食もここでとる社員がけっこういるという。

2階は北方料理で、麺や水餃子などが中心。3階は西北のイスラム料理が中心で、牛肉麺や串焼きなどが中心。4階は四川などの南方料理で、焼きガチョウや鍋料理が中心。5階は少し高級な中華料理で、個室があり、商談などに使う。6階は海外料理で、日本料理、東南アジア料理、韓国料理などがある。

昼の時間に食事を取れない忙しい社員のために、13時以降はすべての料理を3割引にしている。また、スマホから料理を予約することもでき、予約した料理は3階にある保温箱に入れられる。これをスマホで開けて、食堂で食べたり、デスクで食べたりする。

「食事をとる」という点では、京東の社食は最も充実をしている。

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▲京東の社員食堂の内装はいたって普通。しかし、5階は個室中心で、商談や接待にも利用できるフロアも.用意されている。

 

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▲京東の社食は5フロアもあり、フロアごとに違った料理を楽しめる。6階では日本料理も食べられる。

 

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▲京東の社食は美食城。北京ダックの四川料理版である焼きガチョウが並ぶ。


最先端技術で自主改良したアリババの「未来食堂」

アリババの社食は、アリババらしく未来食堂となっている。アリババの社食は、杭州市のアリババ本社の9号棟にあり、そのうちの1階、2階、5階、8階が食堂になっている。中国起業家雑誌が取材できたのは5階部分のみだったが、これでも面積は4700平米あり、アメリカンフットボールの競技場の面積にほぼ近い。毎日、4000人以上の社員がここで食事をするという。

アリババの社食が未来食堂と呼ばれるのは、顔認証技術を採用しているからだ。以前のアリババの社食は、昼時になると10分以上行列をしなければならないのが当たり前だった。これが問題となり、社員から食堂システムの改善研究が自主的に始まった。こうして生まれたのが、画面からメニューを選び、顔認証でアリペイ決済するシステムだった。

単に決済を効率化するだけでなく、データも分析し、どのようなメニューが好まれるかによりメニューを改善したり、また、個人別のデータも分析し、栄養バランスや摂取カロリーなども表示し、社員が自分の食の健康を考えられるようになっている。

また、残業などをする社員のために、保温箱も用意されている。事前に注文をしておくと、料理が保温箱に収められ、食堂の営業時間が終わっても、保温箱から食事を取り出して食べることができる。

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▲アリババの「未来食堂」。レストラン部分は特に大きな特徴はないが、裏では最先端技術が使われている。

 

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▲アリババの社食では、当然顔認証システムが利用できる。社食の混雑を緩和するために、社員たちが自主的に開発したもの。

 

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▲アリババの社食は、デザートやスイーツも充実をしている。

 

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▲社食には保温箱が設置され、時間外でも食事をとることができる。スマホに送られてくる暗証番号を入力してドアを開ける。

 

味が自慢で、他社社員もこっそり食べにくる「網易」

ポータルサイト「網易」(ワンイー)の社食は、北京市中関村の本社の地下1階にある。面積は5000平米で、大企業の社食としてはさほど広くはない。しかし、毎日メニューが変わるのが特色で、ウェブからその日のメニューが閲覧できるようになっている。味も評判がよく、近くの新浪(シンラン)、百度バイドゥ)の社員も隠れてやってきて食事をしているという。

京東やアリババのようなゆったりとした社食ではないが、環境には気を使っている。音楽演奏を入れたり、妊娠をしている女性社員のための優先席を設けたり、また好評なのがテラス席を用意している。

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▲網易の社員食堂は、地下にあり、スペースはやや狭目。しかし、味は抜群で、近所の百度や新浪の社員もこっそり食事をしていくという。

 

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▲いつも混雑しているため、妊娠した女性の専用席も確保してある。

 

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▲網易では、社食のスペースが狭いために季節のいい時期にはオープンテラス席も用意している。

 

中国人の生活の中心は「食」

中国人の理想の生活の中心にあるのは「食」だ。それも高級料理というよりは「うまいもの」をふんだんに食べられることを好む。しかも、大勢の仲間と楽しく食べることを好む。他のIT企業でも、ほぼ例外なく社食には力を入れているのは、人材を確保するためでもある。

美味しくない食事を提供されることは、「会社から大切にされていない」と感じる。食事の不満で転職を考えるというと大人げないように聞こえるかもしれないが、社員を大切にしない企業に未来はないと考えるようだ。中国の企業を訪問する機会があったら、社内を見学するよりも、CEOに会うよりも、社食で食事をした方がその企業をよく理解できるかもしれない。

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物流も集中から分散へ。新小売の要は物流革命

中国のアリババや京東(ジンドン)が目指している「新小売」は、販売方法もそうだが、物流にも大きな改革が必要になる。展開する店舗を倉庫にも利用し、そこから周辺の顧客に30分配送するという「分散型倉庫」が大きなカギになる。その実現手法は、アリババと京東では大きく異なっていると網経社が解説している。

 

集中物流の旧小売、分散物流の新小売

生鮮食料品を3km以内に30分配送するアリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)。「新小売」という名称から「新時代の販売方法」と見られることが多いが、実は「新時代の配送物流」でもある。

既存のECサイトのように大規模な配送センターを設置し、そこから宅配をする集中方式の場合、巨大倉庫と配送車に大規模な冷蔵、冷凍施設が必要になってくる。さらに集中物流方式では、配送時間を24時間よりも縮めることは難しい。つまり、冷蔵、冷凍車で24時間近く商品を輸送することになり、品質の劣化も懸念される。

新小売では、フーマフレッシュ各店舗の冷蔵、冷凍設備を分散型倉庫として利用する。そこから各顧客までの配送は30分配送なので、保冷ボックスなどでじゅうぶん対応できる。30分配送は、顧客が「自宅で待てる時間」というユーザー体験を重視したものであるだけではなく、低コストで生鮮食料品を配送できる時間でもあるのだ。

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▲新小売スーパー「フーマフレッシュ」の上海市の配置図。青い部分が配達地域で、それぞれの中心にフーマフレッシュの店舗がある。店舗は配送倉庫の役割も担う分散型物流網が構築されつつある。

 

アマゾンが築いてきた収集物流方式

アマゾンは、ECサイトの運営をしながら物流革命を起こしていった。「アマゾンは小売業が本質ではなく、物流業が本質だ」とまで言う人もいる。

アマゾンの採用した方式は、集中物流だった。巨大な倉庫、巨大な物流センターを建設することで、効率化が図られ、物流コストは大きく下がっていく。現在、アマゾンの物流コストは、販売額の1.0-1.5%程度だと言われている。リアル小売である米国の大型スーパー「Kマート」は8-9%、百貨店のシアーズは5%程度と言われるているので、アマゾンの物流は圧倒的に強い。物流センターを大型化して、数を絞ることで、倉庫面積を10-25%圧縮できると言われ、これが低コスト化に大きく寄与している。

アマゾンは20年かけてこの物流構造を構築してきて、現在北米には75の物流センターと25の仕分けセンターがあり、12.5万人の人が働いている。クリスマスセールシーズンには12万人が臨時雇用される。

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▲新小売スーパー「フーマフレッシュ」では3km圏内に30分配送する。店舗を倉庫としても利用し、注文が入るとスタッフが商品をピックアップ。バッグに入れ、これをリフトで天井のレールにあげる。そのままバックヤードに送られ、配送されるという仕組みだ。

 

既存企業との提携連合で分散物流網を築くアリババ

新小売戦略を進めるアリババ、そして無界小売という名称でアリババを追撃する京東は、集中型のアマゾンの物流に対して、分散型の新小売の物流網を構築していかなければならない。

アリババは、傘下の物流企業「菜鳥」の株式持分を増やし、今後5年で1000億円の資金を投じて、物流網を整備していくことを発表した。目標は中国国内に24時間以内、海外に72時間以内の配送を実現することだ。

さらに、ECサイト「Tmall」でも即時配送のネットワークを利用して、2時間配送を始め、Tmallでも生鮮食料品の販売を強化していく。

アリババは、このような物流網を、既存企業と資本提携をしながら構築していく戦略で、すでに主な物流企業との提携を進めている。

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▲アリババは、外部企業と資本提携などを通じて、分散型物流網を構築しようとしている。

 

集中物流をベースに、分散物流にも対応する京東

アリババの新小売を追撃する京東も、昨年、京東物流という子会社を設立し、物流網の整備に着手をしている。

京東は、アリババのECサイト「Tmall」のライバルで、自前の物流網をすでに構築している。アリババが物流系企業と資本提携する形で物流網を整えてきたのと違い、京東は自前で構築をしてきた。その意味ではアマゾン型であり、これまでECサイトが中心であったため、アマゾンと同じような集中型物流網だ。日本のアマゾンの倉庫面積が16カ所で約74万平米(公開拠点のみの総計)であることを考えると、すでに相当巨大な物流網を構築していることがわかる。

これを京東物流は、積極的にテクノロジーを利用することで、新小売に適した分散型にも対応できる物流網に変えていく。すでにドローン配送、無人カート配送などは実現しており、さらに無人倉庫、無人配送拠点なども技術開発も進めていく。

アリババ、京東ともに手法は異なっても、今まではアマゾン型の物流網の構築を目指してきた。しかし、新小売の成功により、物流網もアマゾンのような集中型から、新小売の分散型に転換することになり、独自の物流方式を構築していくことになる。

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▲京東は独自で集中型物流網を構築してきた。設備面積は、日本のアマゾンの10倍以上に達している。今後は、新小売に対応するため分散型物流に対応していく必要がある。そこにテクノロジーを導入して、ドローン配送、無人カート配送などを始めている。

 

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▲独自の物流網を構築している京東は、無人テクノロジーの開発も積極的に進めている。ドローン配送、無人カート配送などはすでに一部の地域でサービスを始めている。

 

 

 

深圳の自動運転バスの試験運行が300日を突破

深圳市で試験運行を続けている自動運転バス「アルファバ」の試験運行日数が300日を超えた。試験運行は第2段階に入り、来年からは乗客を乗せた試験運行を始める。アルファバは、世界で最初の自動運転バスの営業運行を目指していると電池中国網が報じた。

 

300日の試験運行を経て、第2段階に入る

2017年12月2日、深圳市の福田保税区で、深圳バス集団の4輌の自動運転バス「アルファバ」が試験運行を始め、現在、300日を超えた。

この「アルファバ」は、人間用の運転席も備えられ、状況に応じて、自動運転と有人運転を使い分けることができる。試験運行期間中は、運転手が同乗し、緊急時には人間が操作する。すでにソフトウェアを1.5に一度アップデートしているが、300日を超えたところで、2.0にアップデートされ、車両も6台に増やされる。

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▲現在試験運行をしている4台の自動運転バス。車両も6台に増強される。

 

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▲追加投入される新型車両。前部に2台のカメラが搭載され、画像解析により、障害物を感知する。

 

完全自動運転ではなく、運転手の業務負担軽減を目指す

アルファバには、5つのミリ波レーダー、4つのレーザーレーダー、前部に2つのカメラが装備され、周辺環境をセンシングしている。

アルファバは、L4の自動運転(一定の条件下での自動運転)だが、L5の完全無人運転を目指しているわけではないようだ。広東省交通運輸計画研究センターの張希シニアエンジニアは、「自動運転技術は、公共交通の運転手の疲労度を大きく抑えることができ、公共交通の安全性を大いに高めます。自動運転バスは、地下鉄のように時間に正確な交通機関とし、乗客の利便性を高めることを目指しています」。

アルファバの開発をした海梁科技の胡剣平会長は言う。「バスが、狭い道の通り抜け、渋滞など特殊な状況に遭遇した時、運転手は運転を人工知能に任せるのです。そのため、実際の道路での試験運行を重ねてきました。公共交通としては、中国で唯一の実際の道路での試験運行になります」。

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▲運転手は同乗するが、基本的に運転はしない。緊急時には手動運転に切り替える。

 

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▲試験運行は、閉鎖区間ではなく、公道で行われている。一般車両が通行する中での試験が重ねられ300日を超えた。

 

バス技術の開発競争が進む深圳市

深圳市は、歴史の浅い大都市であるため、地下鉄の総営業キロ数が285kmと、北京の608km、上海の637km、広州の391kmに比べて少ない。そのため、バスの技術開発に力を入れている。バス停でスマホで呼べば5分でやってくるライドシェアミニバス「U+BUS」も深圳バス集団が試験運行を続けている。

2.0にアップデートされたアルファバの試験運行は、いよいよ来年から、実際の乗客を乗せる試験運行を始める。

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▲アルファバのバス停。現在は一般の乗客が乗ることはできないが、来年より乗客を乗せた試験運行が始まる。

 

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▲車内にはすでに交通カード、QRコードの精算機が設置され、乗客を乗せた試験運行への準備も終わっている。

サウンド&ライト都営バス

サウンド&ライト都営バス

 

 

キャッシュレス化の陰で問題化する若者の金融意識

中国教育部(文科省に相当)は、各地の高校に金融理財、金融安全の概念を樹立する教育を行うように通達を出した。その中では、「先消費」に対する知識を教え、行きすぎた消費をしないように節約意識を醸成するように求めている。スマホ決済が普及をし、信用決済で消費をする「花唄青年」の増加を懸念したものだと無錫日報が報じた。

 

クレジット機能が付与されるスマホ決済

中国でQRコード方式のスマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」が一気に普及したのにはさまざまな理由がある。いちばん大きいのは、日常の決済に便利ということだが、クレジット機能が自動的に付加されるということも大きい。いわゆるツケ払いやリボ払いのようなことができるのだ。

中国ではクレジットカードはほとんど普及をせず、以前は銀聯カードが唯一と言ってもいいキャッシュレス決済手段だった。しかし、銀聯カードデビットカードなのでクレジット機能はない。銀行口座の残高の範囲内で支払いができるだけだ。銀聯カードにクレジット機能を追加することもできるが、その際はクレジットカードと同じような事前審査が必要になる。当時の中国は与信プラットフォームが整備されておらず、クレジット機能を付加するハードルは高かった。収入がない大学生などはもちろん審査ではじかれる。

 

若者の4人に1人が利用するクレジット機能

ところがアリペイでは、花唄(ホアベイ)と呼ばれるクレジット機能が審査手続きなしで申し込める。アリペイは過去の消費履歴が分析できるので、その状況に応じて利用限度額が500元(約8200円)から5万元(約82万円)の間で決められる。これを「先消費、後返済」として、アリババはプッシュしていった。花唄を使うと、タオバオやTmallなどのECサイトで買い物をしても支払いは翌月9日でよく、その時に全額返済をすれば、利子や手数料などは一切かからない。

支払いが難しい場合は、分割払いにもできる(この場合は利子が必要になる)。お金がなくても買い物ができると、中国の消費行動を変えるぐらいまで普及をした。

アリペイの金融系サービスを運営しているアントフィナンシャルが公開した「2017年若年層消費生活報告」によると、90年代生まれ(20代)は中国に1.7億人いるが、そのうち、花唄を利用可能な状態にしている人が4500万人いるという。若者の4人に1人が花唄を利用していることになる。

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▲花唄のネット広告。「買い物をしたくなったら花唄!タオバオ、Tmallでお買い物。翌月10日までに返済。アリペイから返済。0費用」というもの。陽気なイラストがかえって怖い。

 

給与のほとんどが返済に回る「花唄式青年」

きちんと返済をしていれば何も問題もなく、消費生活の選択肢を広げることができるが、返済が滞ると信用スコアが落ち、利用限度額が下がったり、最悪の場合は利用ができなくなる。

この花唄は、特に手持ちのお金が少ない大学生や若者の間に広まり、2015年からスタートした花唄サービスも4年目に入り、そろそろ負の面が議論されるようになってきた。

ひとつは、花唄で破綻をするとアリペイに付属した芝麻信用(ゴマ信用、ジーマ信用)スコアが著しく低下し、日常生活にも支障が出るほどになること。もうひとつは、花唄式青年という言葉が生まれ、給与が出るとそのほとんどが返済に回ってしまい、そのストレスからさらに花唄により買い物をするようになるという悪循環に陥ることなどだ。

 

独身の日セールがきっかけで先消費、後払い生活に

無錫日報は、実際に花唄を利用している若者に取材をした。今年大学を卒業したばかりの雪さんは、上海で働いているが、大学2年生の時から花唄を利用している。イヤホン、デジタルカメラ、キーボードなどを花唄の分割払いで買った。「最初はあまり使わなかったのですが、独身の日のセールをきっかけに、先消費、後払いのサイクルにはまってしまいました。大学の時も毎月1000元(約1万6000円)は使っていて、ほとんどは日常の買い物でしたが、今では毎月2600元(約4万2000円)の限度額いっぱいまで使ってしまいます。給料が出たら返済しています。何かを買う時は、花唄で支払うのが普通で、銀行口座の残高には手をつけず、余額宝(MMF金融商品)に入れています」。

雪さんは、花唄は、クレジットカードのような機能だが、審査を受ける必要がなく使えるところがいいとし、自分の消費習慣は確実に変わったという。

雪さんの場合は、花唄をうまく使いこなして、消費生活を楽しんでいる例だ。

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▲花唄のネット広告。「気持ちいい、気持ちいい。花唄を使えば、余分なお金がなくても、買える、買える、買える」。中国社会は、日本よりも借金に対して寛容だが、広告のコピーはあまりにも率直すぎる。

 

限度が上がり、給料が追いつかなくなる

一方で、問題が起き始めている人もいる。社会に出て2年目の禾さんは、最近出産をしたため、子ども用品を花唄で買っている。「毎月5000元(約8万2000円)ほど、多い月では1万元(約16万円)ぐらい使います。しかし、給料が追いつかなくなってきました」。子どものおもちゃ、ベビーカー、ベビー服など、子どもにはできるだけいいものをたくさん買ってあげたいと思い、ついつい買ってしまう。支払いができない月は、スマートフォンから分割払いに変更をする。クレジットカードと違って、このような返済方法の変更も、スマホの中から簡単にできる。

「でも、いつの間にか利用限度額が1万6000元(約26万円)に上がっていたのです。これ以上使ったら、とても返済ができません。以前の私は月光族(毎月給料を使い切ってしまう。「光」はすべてなくなるという意味)でしたが、今では月欠族になりました」。

 

分割払いにすると利子が乗ってくる

アントフィナンシャルの発表によると、スマートフォンなどの高額商品を購入する時、20代の76%が分割払いにするという。無錫日報の記者の周辺にも、花唄の分割払いを利用した経験がある若者は多い。

その中の陶さんは、先月、読書用のデスクと椅子のセットを2000元(約3万3000円)ほどで購入した。これを花唄の分割払いにした。花唄の分割払いでは、3ヶ月払いでは2.5%、6ヶ月払いでは4.5%、12ヶ月払いでは8.8%の利子の支払いが必要になる。「最初は、利子はそれほど高くないと思ったのですが、実際に支払ってみると負担は大きく、もう一括払いができないほど手持ちのお金がなくなっています」。

中国青年報の2000名の大学生のアンケート調査によると、77.8%の大学生が、自分や周辺で花唄を利用していると回答している。江南大学でチューターをしている王さんは、学生が花唄を使うことに問題を感じているという。「成年であれば、自分の行為に責任を持つのは当たり前です。でも、大学生というのはまだ乳ばなれが完全にできているわけではありません。先消費、後払いは、大学生の消費価値観に大きな影響を与えてしまう可能性があります。消費教育が不足していると感じています」という。

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▲花唄の現金化の広告。指定する商品を花唄で購入すると、現金が振り込まれる。花唄の限度額を現金化する仕組み。このような業者が無数にいる。

 

キャッシュレス化の前に必要な消費教育

キャッシュレス化が、通貨を電子化するだけのことであれば何も問題はない。しかし、そこに必ず金融ビジネスが入り込み、借金をして消費するということが広まっていく。それは正しく使えば、消費の選択肢を広げ、生活を豊かにしてくれるが、その前提となるのは、個人がしっかりとした消費価値観を持っているということだ。そのためには、中学や高校で金融教育をしておく必要がある。教育のないキャッシュレス化による消費拡大は、いつか破綻をする。

借金問題 解決バイブル

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中国主要IT企業が縮小モード。米国との貿易摩擦が影響か

中国主要IT企業で、リストラ、求人縮小が10月から続いている。SNS上の噂レベルのものもあるが、多くの人材企業が「求人が絞られている」と感じていると、新京報が報じた。記事には触れられていないが、米国との貿易摩擦が影を落としていることも大きいようだ。

 

IT業界の求人数は51%減少

中国IT企業のリストラ、求人縮小が続いている。アリババ、京東はリストラを行ったと報道され、さらにファーウェイは、求人を全面停止する旨の内部文書の存在がメディアで報道され、すぐに反応して否定し、世界中で優秀な人材を求めているとコメントする事態になった。

個々の企業のリストラ、求人停止については、誤報SNSでの噂話に過ぎないものもあるが、中国IT企業全体の人員縮小が始まっていることは明らかだ。人材企業の猟聘によると、IT企業の求人数は10月に入って急速に落ち込んだという。さらに、人材企業の智聯招聘によると、2018年第3四半期のIT業界の求人数は、昨年度同時期よりも51%も減少したという。

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▲中国で開催される会社説明会の様子。大量の人材を成長する企業が吸収をしてきた。調整期に入ると、このような人々の行き場が失われる。

 

二次試験に進めるのは100人に1人。狭くなるIT業界への「門」

アリババに毎年、卒業生を送り出している杭州電子科技大学の某教授が新京報の取材に匿名で応えた。「毎年、アリババには30名から40名の卒業生が就職をしますが、今年は10名程度でした」。

一方で、北京理工大学計算機科学系の某教授によると、百度、テンセント、美団、アリペイなどの大手IT企業のエンジニアの求人はさほど減少していないという。

ただし、狭き門になっていることは間違いない。テンセントの一次筆記試験は30万人もの学生が受験をするが、突破して二次試験の面接に進めたのは3000人にすぎなかった。アリババも同様だが、SNS上では「本当に二次試験に進めた人はいるのか?」という書き込みが見られるほど狭き門になっている。

 

頭打ち感とスタートアップの整理期がシンクロした

中国就業研究所の曽湘泉所長は、このような現象には2つの理由があると解説している。これまでIT企業は、モバイルインターネット人口の拡大とともに成長をしてきたが、スマートフォンが行き渡り、頭打ち感が出てきたこと。もうひとつは、膨大な数のスタートアップが創業したが、その多くが退場する生存周期がシンクロをして、ちょうど今年に撤退するベンチャー企業が重なることがあるという。

インターネット人口が頭打ちになることによって、特にソフトウェア、アプリ、ゲームといったビジネスが壁に直面しており、今後は各企業間の競争が熾烈になる。その競争に耐える体力を蓄えるために、人員の数を絞り始めているのではないかという。

 

産業全体が縮小モード、投資資金不足を懸念

北京理工大学企業管理研究センターの張永冀主任は、別の角度から解説している。求人が縮小しているのはIT企業だけでなく、程度はゆるいもののほぼ全産業に及んでいるという。2018年第4四半期の求人数の減少はさらに厳しくなるものと予想され、猟聘の分析によると、2019年の求人数減少がさらに厳しくなる可能性を排除できないという。

そのため、中国企業の多くが株価の低迷に至っている。張永冀主任は言う。「外部資本の株価低迷が、負の空気感を形成してしまいました。上場企業はどこも今までの拡大政策を続けることが妥当なのかどうか、調整政策に舵を切るべきではないかと考え始めています」。

アリババ、テンセント、京東、百度の株価は下がり続けている。香港市場など中国街の市場に上場している美団、シャオミーなどは今のところ安定しているが、株価低迷は免れないだろうと見られている。

 

米国との貿易摩擦の影響も否定できない

記事では触れられていないが、米国との貿易摩擦で、中国の輸出関連企業の業績が悪化しているのは紛れもない事実で、動きの速いIT企業がいち早く不況感を感じ取って、自社を守るために調整政策に舵を切っているというあたりが真相のようだ。

しかし、無謀とも言える拡大政策を進めて、夢のある話題で消費者を惹きつけることが中国IT企業の成長力の源泉になっていた。調整政策をとることで、中国IT企業の魅力が一気に失われてしまう懸念もある。この調整期をどう乗り越えるか。中国IT企業の底力が試されることになる。

 

アリババが宇宙から独身の日セールを支援。宇宙からの自撮りも

アリババが11月11日の独身の日セールを前にして、驚きの計画を発表して話題になっている。それは「一站一星計画」というもので、ミニ宇宙ステーションと通信衛星を打ち上げ、宇宙から独身の日キャンペーンを行うのだと動点科技が報じた。

 

本当に衛星を打ち上げてしまったアリババ

この「一站一星計画」が発表された時は、ネットでは、引退を目前にしているジャック・マー会長の「最後のホラ」ではないかというコメントも見られた(ジャック・マーは、過去、数々の計画を発表し、その度にホラ吹きと揶揄されたが、数年以内に次々と実現してきた)。しかし、これはホラではなく本当の話で、すでにミニ宇宙ステーションはすでに打ち上げに成功している。

ミニ宇宙ステーション「キャンディーカン」の打ち上げは、10月25日に行われた。約20kgのキャンディーカンは上海で組み立てられ、山西省の太原衛星発射センターに運ばれ、長征4号により打ち上げられた。

アリババは「独身の日セール期間中、世界の消費者に宇宙から喜びを分かちあうために打ち上げる」とコメントした。キャンディーカンというネーミングも、子どもがいちばん喜ぶキャンディーが詰まっているという意味合いだという。

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▲キャンディーカンを搭載した長征4号。本来なら廃棄してしまう上部のロケット上段を利用し、そこにも機材を搭載するミニ宇宙ステーションだという。

 

宇宙からの自撮り、お年玉の雨などのキャンペーン

キャンディーカンにはカメラが搭載され、独身の日セール中に、衛星が撮影した写真を地上のスマートフォンに送るというイベントも計画されている。キャンディーカンは90分で地球を1周し、居住地域の上にくると、越境ECアプリ「AliExpress」に告知が表示され、ユーザーが写真撮影を依頼。宇宙から自撮り撮影をしてくれる(もちろん、人の姿が見えるほどの縮尺にはならない)。

また、紅包(ホンパオ、お年玉。QRコードを読み込むとアリペイでお金を受け取る)を衛星から大量配布する「紅包雨」のイベントも計画されている。

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▲キャンディーカンの心臓部。見る限り、特殊な装置はない。カメラで、地上の消費者の「宇宙からの自撮り」をする。

 

ミニ宇宙ステーションと通信衛星の2機が宇宙へ

このキャンディーカンは、写真を見る限り、ミニ衛星に見えるが、アリババはミニ宇宙ステーションと呼んでいる。これはロケット上段も利用するからだという。ロケット上段は、衛星を放出した後は、捨ててしまい、スペースデブリとなるか、大気圏に突入して燃え尽きるかのいずれかだった。キャンディーカンは、放出をせずにロケット上段のまま軌道に投入するため、ロケット部のスペースにも機器を搭載できる設計なのだという。

また、来年打ち上げ予定の「Tmall国際号」は、通信衛星で正式軌道上に投入されると報じられている。

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▲太原衛星発射センターでのキャンディーカンの打ち上げの瞬間。多くの観客、メディアが集まり、独身の日セールのキャンペーンとしては、これだけでも大成功だった。

 

議論されるアリババの本当の目的

アリババは、以前から宇宙系の研究機関と共同研究、研究開発を進めていて、特にSLAM技術(Simultaneous Localization and Mapping、惑星探査車などが自走しながら周囲の地図を作成していく技術)と自動運転技術に力を入れていることから、地上の自動運転車を衛星と組み合わせたシステムの開発を構想しているのではないかという見方もある。また、地上のIoT機器と連携させることを構想していると解説するメディアもある。一方で、アリババがコメントしているように、純粋に独身の日セールのキャンペーンのために打ち上げたのではないかと見る向きもある。

アリババが始めた独身の日セールは、今年でちょうど10周年を迎える。当初は「独身の日」だったものが「購物狂歓節」や「網購狂歓節」という名前に変わり、昨年からはアリババのTmallなどでは「全球狂歓節」という名前に変わっている。独身の日セールは、中国だけのものではなくなり、海外在住の中国人、中国系住民も爆買いをする日になってきた。アリババとしては、セールの規模を拡大するために、地球規模のイベントにしたいと考えているようだ。

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人工知能が電話をかける。宅配業務は大きく効率化

中国の宅配便配達員は、荷物を届ける前に、届け先に電話をして、在宅かどうか、宅配ボックスに入れるかどうかなどを確認する習慣がある。しかし、この電話をかける作業は大きな負担になる。そこで菜鳥科技は、AI会話アシスタントを開発し、宅配便配達員の電話業務を肩代わりすることにした。精度は高く、これが人間だと思い込んでいる人も多いと天下網商が報じた。

 

宅配便からかかってくる電話の主は人工知能

朝8時すぎ、杭州に住んでいる邸晨さんは、寧波からの電話を受けた。女性の声で「おはようございます。私は菜鳥のAI会話アシスタントです。宅配荷物がございます。簡単受け取りをご利用になりますか?」というものだった。邸晨さんは「はい。マンションのフロントに預けてくれればいいです」と答えた。

ECサイトでの買い物好きの邸晨さんは、このような電話を何回も受けて、いつもマンションのフロントに荷物を預けてもらっていた。自分で受け取ってサインをする必要もなく、不在でも受け取ることができて便利に感じていた。しかし、その電話の女性がAIロボットであることには気がついていなかったという。

この電話は、アリババ傘下の菜鳥科技(ツァイニャオ)が開発したAI会話アシスタントで、今年の独身の日セールから、中通や円通、申通、韵達、天天などの宅配便企業で採用された。配達員がこれから届ける顧客に、AIアシスタントによる電話がされ、その結果が配達員にフィードバックされる。今まで、配達員が自分で電話をしていたのと比べて業務効率はまったく変わる。

 

配達員は1日3時間電話に時間を費やす

宅配便企業「中通」の配達員、季周浩さんはその日193個の荷物を宅配する。荷物につけられたQRコードを読み取りながら、自分の三輪車に配達地域ごとに整理をしながら積み込んでいく。中通の業務アプリには、すでにAI会話アシスタントが電話で確認をした、直接配達、宅配ボックス、フロント預けなどの情報が表示されている。

季周浩さんはこの仕事を始めて2年ほどで、毎日約200個の荷物を配達している。以前は、配送先のマンションや建物の入り口で、いちいち配達先に電話を入れなければならなかった。部屋まで上がっていってから不在であるとか、在宅であっても宅配ボックスやフロントに預けてほしいという要望があるからだ。また、最近は事前に電話連絡をすると、ドアの前に置きっぱなしでいいということも増えてきた。電話記録が受け取りサインの代わりになる。

「1回の電話に1分かかるとすると、毎日3時間以上電話をしていることになります。仕事終わりには声が枯れて声が出なくなることもありました」と言う。

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▲配達員の業務アプリの中には、その日配達すべき荷物の一覧が表示される。AI会話アシスタントを導入すると、電話確認の結果、どこに届けるべきかも表示されるようになった。

 

電話にまつわる不在、方言の問題

1ヶ月ほど前、中通は菜鳥のAI会話アシスタントを導入し、業務アプリの中から利用できるようになった。中通は30人ほどの配達員を選んで、試験導入をすることから始めた。季周浩はその30人のうちの一人に選ばれたのだ。

朝、荷物のQRコードを読み取って、三輪車に積み込む時に、裏ではAI会話アシスタントが配達先に電話をかけている。どこに届ければいいのか、その情報は業務アプリに表示される。「電話確認は簡単ではありません。相手が出なければ、時間をおいて何度もかけてみなければなりません。さらに方言の問題もあります。向こうの言うことがよくわからない、こちらの言うことがうまく伝わらないということから電話が長引いたり、行き違いが起きることもありました」。

AI会話アシスタントは、話すのは標準語のみだが、中国各地の方言を聞いて理解することができる。電話の問題は解消され、配達員は自分で電話する必要がなくなり、季周浩さんの仕事の効率は大きく改善された。

 

人間のように会話のキャッチボールができるAI

このAI会話アシスタントは、人工音声で一方的に内容を伝えるだけでなく、先方の人間が話す言葉を理解し、それに見合った言葉を返す。つまり、会話が成立する。季周浩さんは「まったく人間みたいです」と言い、顧客の中には邸晨さんのように人間だと思い込んでいる人も多い。電話の声の女性が配達にくるのだと勘違いして、部屋まで届けてもらうことにした独身の男性が、季周浩さんが届けにきてがっかりするということもあったそうだ。


【智能物流】「菜鳥語音助手」首度登場!

▲菜鳥のAI会話アシスタントは、人間と対話ができる。菜鳥がデモを公開している。このデモは初期のもので、現在はこれよりも洗練されている。以下、対話の内容。

「こんにちは、私は菜鳥会話アシスタントです。あなたに午前中に…」

「(被せるように)こんにちは」

「こんにちは。あなたに午前中に文一西路588号にお届けする中通の宅配便がございます。お受け取りできますか?」

「どちらさま?」

「私は菜鳥会話アシスタントです。宅配配達員に代わってお電話をして、確認をさせていただいています。あなたに午前中に文一西路588号にお届けする中通の宅配便がございます。お受け取りできますか?」。

「午前中は外出しています」

「では、どちらにお届けしましょうか?配送員にお伝えします」

「何の荷物?」

「配送伝票によると、書類となっております。どちらにお届けしましょうか?配送員にお伝えします」

「じゃあ、家のドアの前に置いてくれればいいです」

「ドアの前にお届けでよろしいですか?(返事がない)いらっしゃいますか?ドアの前にお届けでよろしいですか?」

「それでいいです」

「わかりました。ご要望を配送員に伝えます。よろしくお受け取りください。お答え…」

「(被せるように)あ、そうだ。中通の宅配荷物がもうひとつあると思うんだけど、今日届けられますかね?」

「しばらくお待ちください。あなた様宛の宅配荷物がもうひとつございました。お届けは明日になっています」

「明日は出張だからいないな。菜鳥の公共宅配ボックスに入れてもらえる?」

「承知しました。お宅の北門にある菜鳥公共宅配ボックスにお届けでよろしいですか?」

「はい」

「わかりました。よろしくお受け取りください。お答えいただきありがとうございました」

「ありがとう。では」

「失礼いたします」

 

AI会話アシスタントの美人先生

菜鳥AI会話アシスタントは、話すことと聞くことが同時にできるデザインになっている。アシスタントが話している間に相手がかぶせて話すということはよくある。それをまったく問題にしない。これが利用者に人間らしさを感じさせている。また、話すのは標準語のみだが、聞く方は方言も理解ができる。

このAI会話アシスタントには美人教師がいる。菜鳥の方美婷(ファン・メイティン)だ。菜鳥に入社して4年目の彼女は、入社時からこのAI会話アシスタントの開発に携わっていた。目標は、人間のように自然な会話ができるAIで、人間から人間だと思われることを目標としてきた。

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▲AI会話アシスタントの開発した「美人先生」方美婷さん。4年がかりで開発をし、人間と間違えられるレベルまで育ててきた。

 

ニーハオの後の1秒の空白が人間らしさを感じる

それには、音声の抑揚、速度なども重要だが、それ以外にも人間心理に関する試行錯誤が必要だったという。例えば、「ニーハオ、こちらは菜鳥AI会話アシスタントです」と一気に言ってしまうと、電話を切られてしまう確率が高くなる。合成音声だということに気づかれて、セールスかなんかだと思われ、電話を切られてしまうのだ。

試行錯誤の結果、「ニーハオ」の後に、1秒ほどの空白時間を置いて、それから「こちらは…」と続けることが電話を切られる確率が最小になることを突き止めた。こちらの「ニーハオ」の後に、人間は自然に「ニーハオ」と反復する。そこに被せるように「こちらは…」と人間なら絶対にしない。被せるように話してしまうことは、人間らしくない行為なのだ。1秒の間をおくことで、この「人間らしくない」印象を払拭することができる。

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▲アクセントや抑揚だけでなく、現場の声を会話アシスタントに活かす努力を重ねてきた。今年の独身の日セール期間中には毎日100万通以上の電話を人工知能が肩代わりする予定だ。

 

独身の日には人工知能が毎日100万通の電話をかける

菜鳥AI会話アシスタントの試験導入が始まってほぼ半年。85%以上の相手がアシスタントに回答をしてくれ、正確に相手の要望を聞きとれた正解率は95%から97%だという。15%の相手は、電話にでないか、電話に出ても途中で切ってしまったことになる。

この回答率を上げるために、様々な工夫をしている。「こちらの電話番号の問題も改善する予定です。多くの人は、見知らぬ電話番号や、ましてや他都市からの電話番号であると、そもそもでない人がいるのです。そのため、各地域の電話番号を取得し、どの顧客に対しても省内から電話をするようにする予定です」。

ただし、将来は、菜鳥AI会話アシスタントが世間から認知され、ひとつの番号から全国の人に電話をするというのが理想だという。

今年の独身の日セールから、5つの宅配便企業で、菜鳥AI会話アシスタントが導入、試験運用される。このセール期間、菜鳥AI会話アシスタントは毎日少なくても100万通の電話をすることになるという。菜鳥AI会話アシスタントの女性の声は、中国で最も有名な「声」になるかもしれない。