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Tik Tokのバイトダンスが検索エンジンの開発へ。百度との競争は激化

バイトダンスの張楠CEOが、ショートムービー時代の検索エンジンを開発すると宣言をして話題を呼んでいる。中国で検索エンジンと言えば、百度の独壇場だったが、バイトダンスはこの牙城を崩そうとしていると創造一下が報じた。

 

Tik Tokが検索機能を開発。百度とも競争激化

バイトダンスが、抖音(ドウイン、Tik Tok)のSNS化を進め、テンセントのSNS「WeChat」とポジションが重なり始めている。テンセント側はWeChatからTik Tokへのリンクを遮断、独自にWeChatにTik Tokそっくりのショートムービー共有サービス「視頻号」(チャネルズ)を追加するなど対抗策をとっている。これに対して、バイトダンスは遮断措置の解除を求めて裁判に訴えるなど対立が激化している。

それだけではなく、バイトダンスはBATの一角である百度バイドゥ)のポジションも脅かそうとしている。

バイトダンスの張楠(ジャン・ナン)CEOは、同社のニュースキュレーションサービス「今日頭条」の中の個人アカウントで、Tik Tok用の検索エンジンを開発することを表明した。

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▲バイトダンスの張楠CEOは、「今日頭条」で、ショートムービー時代の検索エンジンを開発することを宣言し、多くの人の支援、参加を募っている。百度との競争が激化すると見られている。

 

ショートムービー時代の検索エンジンを開発する

それによると、今や世の中の表現、創作物の多くはムービーになっている。だとしたら、情報を調べるには、テキストで検索をするのではなく、ムービーを検索する方が理にかなっている。すでにTik TokのMAU(月間アクティブユーザー数)は5.5億人になっていて、人々は知らないことがあると、まずTik Tokを開いて検索をしてみるという習慣が生まれている。

そのため、Tik Tokを人類のムービー百科全書にしたい。しかし、ムービー検索を開発するのは簡単なことではない。この1年で、バイトダンスはムービー検索に多くのリソースを投入する。興味のある研究、プロダクト、運営の領域の人は、ぜひバイトダンスに加わって手伝ってほしいというものだ。

 

単なるタグ検索ではないムービー検索エンジン

このTik Tok用の検索エンジンの開発は、今始まったものではない。すでに2019年8月には、「0から独自の検索エンジンを開発する」と宣言をしている。2年間の研究開発期間を経て、開発が本格化したのだと見られている。

Tik Tokには、すでに検索機能が備わっている。キーワードで検索をすると、それに関連するショートムービーが見つかるというものだ。Tik Tokにムービーを投稿すると、まず画像解析が行われる。その内容は非公開だが、ムービーの中に映っている物の物体認識が中心になっているのではないかと言われている。現在の検索機能は、この物体認識によるタグを検索しているものだと考えられる。バイトダンスはこれから新たに検索エンジンを開発すると宣言しているのだから、このような単純なものではないはずだ。それがどのようなものになるかはまだわからないが、バイトダンスの技術力と発想力を考えると、検索エンジンの歴史を変えるものになるのではないかと期待をする声が集まっている。

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▲現在の中国版Tik Tokの検索画面。ショートムービーには、AIによるタグがつけられているため、そのタグをテキスト検索するというもの。

 

時代はテキストからムービーに移っている

21世紀以前、インターネットは巨大な図書館だとみなされ、本の索引を検索するという手法が検索エンジンの中心となった。この手法を洗練させたのがグーグルだった。そして、2011年にグーグルは、画像検索を公開し、テキスト検索の次に一歩を踏み出した。

この数年で、インターネットの中心はテキストや画像から、ムービーに移り始め、YouTubeやTik Tokが最も消費されるコンテンツになってきた。そのために、効率的にムービーを検索する仕組みが必要になっているのだ。それは、ムービーにつけられたタグをテキスト検索するなどというものではなく、より精度の高い、ほしいムービーがすぐに見つかるものでなければならない。

それがどんなものになるか。今後1年で明らかになる。

 

時代の役割を終えたテキスト検索エンジン

バイトダンスはそのつもりはなく、自分たちのやるべきことをやっているだけだと思うが、世間は、この検索エンジン宣言によって、バイトダンスと百度の関係に注目をしている。

百度の業績が2019年に著しく落ち込んだのは、百度そのものが検索広告の企業からAIの企業に大転換をしていることもあったが、ネット広告の主軸が検索広告からTik Tokなどのショートムービー広告に移ったことも大きかった。当時、元「南方週末」の記者がネットに発表した「検索エンジン百度はすでに死んだ」という文章が話題を呼んだりした。

この筆者が、2015年に百度の李彦宏(リー・イエンホン、ロビン・リー)CEOをインタビュー取材した時、ロビン・リーはすでに検索エンジンが時代の役割を終えたことを認識していたという。スマホアプリが全盛になっていた当時、ロビン・リーはこう答えたという。「多くの企業が独自のアプリの開発を行なっていることはわかっている。もう検索エンジンに頼らなくてもよくなり、企業はアプリを通じて消費者に対して適切な情報提供をすることができるようになる。消費者が、スマホ時代になって、検索ということに時間を使わなくなっていく。それは私たちにとって大きな問題になる。消費者がサービスを求める時は、まずアプリを利用するだろう。検索エンジンは情報しか提供できず、サービスは提供できないからだ」。

つまり、百度は、飲食店の前で、勝手に「おいしい餃子はこちらです」と呼び込みをしていて、以前は飲食店の売上に貢献をしていたため、目をつぶってもらっていたが、今では飲食店が自分たちでお客を呼び込むことができるようになった。そうなると、人の商売を利用をして、小銭を稼ぐ「勝手に呼び込み」は目障りな存在となり、追い払われることになったのだ。

そのため、ロビン・リーは、百度の最大の成功プロダクトである検索広告を追求するのではなく、背水の陣で、AIに大転換を始め、それが2020年になってようやく実を結び始めている。

 

検索エンジンは、新たな時代に突入する

バイトダンスのTik Tokの検索エンジンがどのようなものになるのかはまだわからない。しかし、単なるテキスト検索で、ムービーに付加されたタグを検索するなどという単純なものではないことは確かだ。その機能であれば、すでにTik Tokに備わっている。1年後に、どのような検索エンジンが登場するのかは想像もつかないが、テキスト検索エンジンの時代が終わったことは確かだ。検索は21世紀になって、次世代検索へと進化を始める。