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インターネットの中心はもはやテキストではなく、ショートムービーに

検索広告大手の「百度」の独占時代は終わり、アリババも検索アプリ「夸克」をリリースし、バイトダンスもTikTok上で新たな検索エンジンを開発すると宣言をした。しかし、もはや検索対象はテキストではなくなりつつある。ショートムービーがインターネットコンテンツの中心になろうとしていると連線Insightが報じた。

 

バイトダンス、アリババ、百度の検索三国時代が始まる

中国版TikTok「抖音」(ドウイン)のSNS化を進め、テンセントのWeChatとの競争が激化しているバイトダンスだが、2021年2月には、張楠(ジャン・ナン)CEOが、Tik Tok用の検索エンジンを開発して、Tik Tokを人類文明のムービー百科事典にすると宣言をした。当然ながら、検索広告大手である百度バイドゥ)は、心穏やかではないはずだ。

さらに、アリババは検索アプリ「夸克」(クォーク)をリリースしている。「検索」というジャンルは、過去のものになったとも思われていたが、百度、アリババ、バイドダンスの三つ巴の競争になっている。ただし、以前と違っているのは、検索する内容がテキストではなく、ショートムービーだということだ。

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▲バイトダンスの張楠CEOは、今日頭条のアカウントで、新たな検索エンジンの開発に着手することを宣言した。

 

検索エンジンはもはやインターネットの入り口ではなくなっている

従来のテキスト検索はもはやインターネットの入り口にはなっていない。以前は、グーグル検索やYahoo!などの検索系サイトをポータルページにして、そこから何かを検索して、インターネットにアクセスをするという使い方をしていた。しかし、スマートフォンの時代になり、アプリが入り口になると、検索することなくコンテンツにアクセスできるようになった。その後に、自分の求めるコンテンツにアクセスしたい場合に検索機能を使うようになっている。

「コンテンツ生態系検索趨勢研究報告」(極光、巨量エンジン)によると、ネット利用者がどこで検索を行なっているかを分析した結果によると、検索アプリ、検索サイトを使う割合は22.6%にすぎず、77.4%はショートムービー、SNS、ECなどのコンテンツサービスで検索を行なっていた。

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▲ネット利用者が検索を行った場所の分析。検索アプリで検索をする人は、もはや22.6%しかいない。多くの人が先にコンテンツがある場所にいって、それから検索をするようになっている。「コンテンツ生態系検索趨勢研究報告」(極光、巨量エンジン)より作成。

 

情報の中心はもはやテキストではなくショートムービー

また、求める情報別に検索場所の順位を調べると、ショートムービーが上位にくる。つまり、ショートムービーが次世代の検索アプリになっているのだ。

これは生活関連の知識を調べたい時のことを考えるとよくわかる。例えば、以前であれば、鏡が汚れているので掃除をしたい場合、「鏡 掃除」などでテキスト検索をする。検索結果の中のテキストは、何らかの記事であることが多く、それを読まなければならない。しかも、記事というのは、余計な導入から始まる。例えば、「家の中にいくつの鏡があるか、あなたはご存知ですか? それをいつもピカピカにしておくのはたいへんなことだと思われている方も多いかと思います」など、記事としては必要な導入であっても、検索してたどり着いた人にとっては、不必要な情報が多い。

一方、ショートムービーを検索すると、わずか15秒か30秒の動画で、掃除の仕方を理解することができる。尺が短い分、導入や挨拶のような余計な情報が省かれているのだ。

まるで、封書で手紙をやり取りしていた時代から、突然、メッセンジャーで連絡を取り合う時代になったような感覚だ。

つまり、張楠CEOの言う「百科事典」とは、伝統的なアカデミックな百科事典ではなく、現代人が知りたいことの百科事典なのだ。

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▲各ジャンルの情報を求めている時に、どのアプリで検索するかを尋ねた結果。多くの人が、ショートムービーでまず検索をすると回答している。「コンテンツ生態系検索趨勢研究報告」(極光、巨量エンジン)より作成。

 

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▲「鏡 掃除」で検索をすると、テキストよりも先にショートムービーが表示される。動画の方が、多くの人にとって理解しやすい。

 

検索エンジンも結果表示にムービーを重視

このような動きに、百度も対応をしている。すでに百度アプリでは、何かを検索すると、動画、ショートムービーがある場合は、上位に表示されるようになっている。アリババのクォーク、バイトダンスの「今日頭条」でも、ショートムービー、動画が上位に表示されるようになっている。

ネットの中心的コンテンツが、テキストからムービーに移行しようとしている。

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▲アリババの検索アプリ「夸克」。検索をすると、動画がある場合は、動画が先頭に表示される。

 

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百度の検索アプリでも、動画、ショートムービーが上位に表示されるようになっている。

 

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▲バイトダンスのニュースアプリ「今日頭条」でも、動画、ショートムービーが検索結果の上位に表示される。

 

広告コンテンツもバナーからムービーに

なぜ、各テック企業は、テキスト検索からムービー検索への移行を進めているのか。それは広告がテキスト、静止画から、ショートムービーに移り始めているからだ。典型的なバナー広告は、ディスプレイの面積を占有し、ユーザーにとってはじゃまなノイズになっている。PCの時代はそれでも許容ができたが、ノートPCになると問題を感じる人が増え、スマホになると不満を感じる人が増える。

一方、ショートムービー広告は、通常のコンテンツの間に挟められるが、わずか15秒程度であり、嫌ならすぐに飛ばすことができる。また、広告クリエイティブも進化して、多くの公告ショートムービーが、鑑賞するコンテンツとしても成立するような内容のものが増えている。

ショートムービー広告は、バナー広告と比べると、リーチ率(接触率)は低いかもしれないが、エンゲージメント(反応率)は高い。しかも、バナー広告はリーチ率が高いといっても、それは消費者が見ているページに表示されたというだけで、消費者は広告を脳内で消去して見ていないことが多い。

広告というお金を生む源泉が、テキスト、静止画からムービーに移る中で、各テック企業はテキスト検索からショートムービー検索に移ろうとしている。