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アリババに対抗することで成長する美団。ジャック・マーとの確執

アリババのスマホ決済「アリペイ」アプリと美団が似通ってきていることが話題になっている。提供されている生活系サービスが似通っているのだ。美団の創業者、王興は、以前からアリババの創業者ジャック・マーを公然と批判し、アリババに対抗意識を燃やしてきた。その確執が美団を成長させていると程序員小樊が報じた。

 

アリババに対抗意識を持つ「美団」

アリババのスマホ決済「アリペイ」と、美団(メイトワン)のサービスが似通ってきていることが話題になっている。いうずれもフードデリバリー、タクシー、シェアリング自転車、列車予約、ホテル予約、映画館予約などほぼ同じサービスを提供している。美団は決済方法からアリペイを外すなど、対抗意識をあらわにしている。

それだけでなく、美団の創業者、王興(ワン・シン)は、SNSなどで露骨にアリババとジャック・マーを批判する。かつて、アリババは1.5億ドル(約158億円)もの投資を美団に対して行っていたのにだ。多くの人が、ジャック・マーに対する王興の怒りがどこにあるのか訝しがっているが、美団がアリババを仮想敵にして成長してきたことは間違いなく、さらに生活サービスの領域ではアリババを脅かす存在になってきたことも確かだ。

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▲美団アプリ(上)とアリペイアプリ(下)の比較。提供されているサービスが似通っている。

 

グルーポンに刺激を受けて誕生した「美団」

2011年、米国のグルーポンに刺激を受けて、同様のサービスが中国でも流行した。同じ商品を買う人が規定の人数集まると、格安価格で購入できるという仕組みのグループ購入ECだ。当時、中国では5000社を超える業者が登場したと言われ、美団もその中のひとつだった。

生き残りの決め手となったのは、クーポン合戦だった。各社がクーポンを発行し、商品がタダ同然で購入できることから、グループ購入EC全体が盛り上がった。しかし、大量のクーポンを発行するには資金がいる。美団が生き残ることができたのは、アリババがBラウンド投資として、セコイアキャピタルと共に5000万ドルの投資をしてくれたことが大きい。2014年にはアリババはCラウンド投資を行い、最終的に美団の株式の10%から15%程度を取得したと見られている。

 

アリペイはジャック・マーの個人会社?

しかし、その頃から、王興はジャック・マーをSNSなどで厳しく批判をする。それも不満を言うというレベルではなく、内外ともに優れた経営者、リーダーとして知られているジャック・マーの闇の部分を指摘するような内容だった。

2011年には、ジャック・マーは「アリペイ」を私物化していると厳しく批判した。確かにこの当時、アリババとアリペイは不思議な関係にあった。アリペイは元々アリババのプロダクトなのだから、子会社として独立するというのが自然なやり方だ。しかし、当時、アリババとアリペイは独立した会社の体裁になっていた。アリペイの大株主は、ジャック・マー個人が収支をする投資会社数社だったのだ。アリババに対しては、利潤の37.5%をアリペイ関連の知的財産使用料、技術使用料などを支払うという契約になっていた。経済面では、アリババの子会社同然だったが、統治面ではジャック・マーの個人会社同然になっていた。

その後、2014年にアントフィナンシャルが設立され、紆余曲折を経て、アリペイはアントの子会社となり、アントの株式の1/3をアリババが所有するという健全な形になった。

それまでは、「アリババが運営するアリペイ」「アリババの子会社アリペイ」と言い方は、実質的にはその通りだが、会社登記上は誤りという不思議な状態になっていた。

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▲以前のアリペイをめぐる複雑な資本関係。下方、黄色い会社がアントフィナンシャルで、アリペイはその子会社になる。非常に複雑な図だが、要はジャック・マー(馬雲)個人が投資会社を経由して、アントフィアンシャルの株式のほとんどを所有していた。現在は、アリババが株式の1/3を保有する形に改められている。

 

美団を傘下に取り込もうとしたアリババ

その後も、王興はアリババの批判をことあるごとに行っている。アリババは投資をしただけで、アリババのサービスとのシナジー効果を狙った提案をしてもまったく乗ってこない。ビジネス的にもテクノロジー的にもまったく手助けをしてくれないというのだ。もちろん、これは王興の言い分であって、アリババにはアリババの見方があるのだろう。

一方で、美団社内にアリババ文化を浸透させることには熱心だった。つまり、アリババは美団をすでにアリババのパーツのひとつと見做していたのだと王興は主張する。特に2015年に美団が上場の準備を始めると、この矛盾が大きくなっていったという。

・アリババとの決裂。アリババはライバルのウーラマを傘下に

例えば、ジャック・マーは、美団の決済方式(アリペイ、WeChatペイ、ApplePayに対応していた)をアリペイだけに絞るように要求してきたという。もし、美団がアリペイでしか決済できなくなった場合、万が一、アリババと衝突をして、アリペイの提供を停止させられたら、美団のサービスは立ち行かなくなってしまう。

王興は、SNSで「どのような決済方式を使うかは、消費者が選ぶことで、美団が決めることではない」と発言して、この提案を断った。

これはジャック・マーを激怒させた。アリババは保有している美団の株式を、(王興の見方によると)意図的に低価格で売却したため、美団の株価が下落をした。

王興は、「ジャック・マーは不誠実な人だ」と発言して、美団からアリペイの新規登録を停止し、独自の「美団支付」を始めてしまった。そして、テンセントの投資を仰ぐようになる。これにより、アリババは保有している美団の株式すべてを売却した。

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▲美団では、独自の「美団支付」、WeChatペイの決済が基本になっていて、アリペイの新規紐付けは停止されている。

 

アリババに対抗することで成長をしている美団

アリババの投資としては成功だったが、ジャック・マーの美団をアリババグループに取り込もうという戦略は失敗に終わったことになる。

こうして、アリババは美団のライバルであった「ウーラマ」に投資をしていくことになり、結局、2018年4月、アリババはウーラマを完全買収する。創業者であり、外売(フードデリバリー)という新しいサービスを発明した張旭豪(ジャン・シューハオ)は辞任をして、ウーラマを離れることになった。

王興はこれを恐れていたのだろう。自分が作ってきたサービスを資本の力で買収されてしまい、自分は辞任をせざるを得なくなる。アリババの視点からは「サービスをグループ化して、消費者にさらに大きな価値を提供する」ことだが、王興の目から「乗っ取り」に見える。

すでに中国の英雄にも讃えられるカリスマ経営者ジャック・マーを批判する人は、中国にもいないわけではない。しかし、事業面でもアリババに対抗し、挑んでいるというのは王興ただ一人だ。王興は、巨大なアリババに一人で挑んでいる。そして、アリババも無視できないところまで、美団は成長をしてきている。