中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

万物を配達する。日用品に本格参入して、首位に挑むフードデリバリー「ウーラマ」

外売(フードデリバリー)業界は、美団がトップシェア、ウーラマが2位の「631局面」になっていた。しかし、ウーラマは、飲食以外の日用品に本格参入する。蜂鳥即配という新しいブランドも設立し、万物を配達することで、首位の美団に挑むことになると虎嗅が報じた。

 

631局面になっていた外売サービス業界

中国の外売(フードデリバリー)は、餓了麼(ウーラマ)と美団(メイトワン)がシェアを競い合っている。しかし、この数年、美団のシェアが急増し、2020年Q1の売上高シェアでは、美団67.3%、ウーラマ26.9%にまで差をつけられていた。

これは、中国で俗に言われる631局面になっている。シェアが6:3:その他1の状態になると、シェアが固定化してしまうという見方だ。理論的な根拠があるわけではないが、競い合う2社がダブルスコアになると、心理的に競争意欲が失われる。しかも、2位はそれでも大きな市場を確保しているので、無理に競争をしなくても事業を継続していける。そのような心理的な側面から、631局面になるとシェアが固定化すると言われ、フードデリバリー業界はまさにその状態になっていた。

f:id:tamakino:20200915160452j:plain

▲数年前の外売(フードデリバリー)。左の黄色が美団、青がウーラマ、赤が百度百度はウーラマに買収をされた。現在は、黄色の美団と青のウーラマが競い合っている。

 

ウーラマが631局面を打破。店舗ECへの本格進出

しかし、ウーラマはこの見方が間違いであることを証明するかもしれない。新型コロナの感染拡大により、フードデリバリーの需要が急増し、また、仕事を失った人が外売騎手(配達員)になることで、ウーラマ、美団ともに大きく成長した。

その後、新型コロナが終息をし、営業再開、職場復帰が始まると、コロナ特需は落ち着きを見せ始めた。大量の外売騎手を抱えた2社は、消失した特需を補う道を探さなければならない。

そこで、ウーラマが採ったのが、飲食品以外への本格参入だ。以前から、ウーラマではコンビニなどのデリバリーを行っていたが、これを全面展開することで、再び美団に挑もうとしている。

f:id:tamakino:20200915160449j:plain

▲すでにウーラマは書籍に対応している。2時間ほどで配達してくれる。

 

屋内スポーツ用品、文具、雑貨などもデリバリー

今年2020年4月、ウーラマはスポーツ用品の「デカトロン」北京店と瀋陽店のデリバリーに対応をした。コロナ禍で外出しづらい状況が続いていたため、室内で扱えるダンベル、ヨガ用品、また、小さなスペースで楽しめるバドミントン用品など200品目を、スマホからの注文後最短30分で配達する。

さらに、晨光文具、良品舗子、大悦城、中石油昆侖好客などの文具店、雑貨店、ショッピングモール、コンビニなどがウーラマと契約をし、デリバリーに対応をした。

f:id:tamakino:20200915160455j:plain

▲デカトロンの即時配送を始めたウーラマ。室内で利用できるダンベル、ヨガマットなどが好調だという。

 

即時配送の店舗ECなら、店舗も活用ができる

ウーラマによると、飲食店以外の対応が4月から大幅に進み、ペット用品店では以前の6倍、ベビー用品店では以前の3倍以上になっているという。

この提携は、ウーラマにとっても、小売チェーンにとっても合理的なものだ。新型コロナが終息をしたといっても、客足の戻りは鈍い。むしろ、外出しないことが新日常の生活スタイルとして定着する可能性もある。

小売チェーンにとっては、店舗からECに軸足を移す必要があるが、翌日配送のECよりも、店舗在庫を配達して即時配送するデリバリーであれば、店舗とオンラインをうまく組み合わせていくことが可能になる。店舗は、体験をする場にし、販売はデリバリーでというスタイルになっていく。

一方で、ウーラマは膨らんだ外売騎手を活用することができる。デリバリーは、1回に1つの商品を配達するのではなく、複数の配達をいかに効率よく組み合わせて、配達コストを下げるかが鍵になる。この点でも、扱う商品点数、提携店舗数は多ければ多いほどいい。ピックアップ箇所が分散をすればするほど、効率的な配送ルートが算出しやすくなるからだ。

f:id:tamakino:20200915160457j:plain

▲市場の生鮮食料品も配達してくれる。ウーラマは配達というよりも、買い物代行サービスになってきている。

 

万物を配達する即時配送生活プラットフォーム「ウーラマ」

ウーラマは、この方向性に感触を得たのか、7月になると、フードデリバリープラットフォームから即時配送生活プラットフォームに転換することを宣言し、「万物を配達する」として、ウーラマアプリを大幅アップデートした。従来の、飲食品中心ではなく、さまざまな日用品が注文できるようになっている。また、飲食品以外を専門に配達する「蜂鳥即配」というブランドも作った。

 

配達のウーラマ、生活サービスの美団

フードデリバリーというビジネス自体、ウーラマが先鞭をつけたものだ。上海交通大学の学生だった張旭豪(ジャン・シューハオ)が、2008年に、学生たちが集まると、誰かが代表して、全員分のテイクアウト飲食品を買いに行く姿を見て、フードデリバリーのアイディアを得た。そこから、プラットフォームの開発、飲食店との契約を進め、今日のウーラマを築いてきた。

しかし、後発の美団の方がビジネスに長けていた。美団の創業者、王興(ワン・シン)は、利用者のサービス利用の流れが「デリバリーアプリ」→「注文」ではなく、「レストランガイドアプリ」→「来店/デリバリー」→「注文」であることに目をつけ、レストランガイドアプリ「大衆点評」の中からデリバリー注文ができるようにした。

つまり、ウーラマは「配達」が主軸だが、美団は都市で受けられるサービスのひとつとして考えている。そのため、現在の美団アプリでは、フードデリバリー以外にもシェアリング自転車、タクシー配車、映画館チケット、ホテル予約など、さまざまな生活サービスが利用できるようになっている。

これにより、美団の利用者数が伸び、デリバリーしかしないウーラマは631局面に追いやられることになっていた。

 

後の先でトップシェアを維持できていた美団

ウーラマはただ黙って2位の座に甘んじていたわけではなく、美団に何度も挑戦をしている。2018年7月から9月には、30億元の予算を投入し、大規模なクーポン配布を行った。これにより、いくつかの都市ではシェア50%以上を確保することに成功した。しかし、すぐに美団も大規模なクーポン配布を行い、631局面に戻されてしまった。

2019年には、大都市ではなく、地方都市を狙う戦略にでた。これは成功し、フードデリバリーを地方都市に広げることになった。しかし、利益が出るとわかった地方都市には、後から必ず美団が参入してくる。再び、ウーラマは631局面に戻されてしまうのだ。

美団は、もはや先手を打つ必要はなく、「後の先」を取ればいい状態になっていた。

ウーラマの出方を待ち、圧倒的な資金力、知名度で後から参入すれば、ウーラマが開拓した市場の半分以上を獲得できるようになっていた。

 

配達手数料は26%、それでも利益が薄いフードデリバリー

しかし、それが美団の隙を産んだのかもしれない。今年2020年4月、美団と広東省飲食サービス業界協会の間で問題が発生した。美団が飲食店に求める手数料は、新規契約の場合、商品価格の26%にも達していて、これでは飲食店の経営が成り立たないとして、手数料の引き下げ交渉が行われた。

しかし、美団側の主張によると、それでも2019年Q4の平均利益は1件あたり0.2元に満たず、値下げをすることは難しいというものだった。

一方で、ウーラマはコロナ禍期間、社会貢献として4回にわたって手数料の引き下げをおこなった。これにより、ウーラマと契約をする飲食店が30%以上増加し、特に火鍋店は4倍に増加した。

 

利益のでないデリバリー。活路は無人化かシナジーのいずれか

フードデリバリーをこのサービス単体で考えると、とても利益が出るビジネスではない。人が運ばなければならず、以前は農村から安い労働力を調達できたが、現在では、賃金相場も急上昇しており、外売騎手の賃金も、都市で生活をし、結婚し、子育てができるぐらいのレベルには達している。

つまり、フードデリバリーは利益のでないビジネスなのだ。道は2つしかなく、無人配送カートやドローンを導入して無人化をしていく。もうひとつは、他のサービスを展開し、フードデリバリーとのシナジー効果で利益を模索していく道だ。

美団の場合は、都市生活関連のサービスを手広く展開することで利益を生み出そうとしている。ウーラマの場合は、あくまでも配達に軸足を置いて、飲食品以外の幅広い商品を扱うことで利益を生み出そうとしている。

 

万物の配達に進出するウーラマの挑戦

ウーラマでは、すでに牛乳、ベビー用品、書籍、文具、スポーツ用品などの扱いを始めた。また、牛乳などの生鮮品では、配達後、7日、15日、30日などの周期で、注文しなくても配達をする仕組みを導入する。

ウーラマはすでにアリババに買収をされ、アリババグループメンバーとして、アリババの新小売の要の役割も担っている。アリババ新小売の核になっているのは、新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)だが、ここを起点に、アリババも生鮮食料品以外の商品を即時配送するサービスを展開していくことになる。ウーラマの「万物を配達する」戦略とアリババの新小売戦略は当然ながら協調をしているはずだ。

このウーラマの戦略がどこまで美団を揺さぶることができるか。3度目の挑戦が始まろうとしている。