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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

注目されるソーシャルEC。信頼関係に基づくソーシャルグラフが購入の連鎖反応を起こす

ECが誕生して20年。すでに従来型のECの成長は頭打ちになっている。その脱出口として注目されているのがソーシャルECだ。ソーシャルECでは、消費者同士の信頼関係が消費を生んでいると母嬰前沿が報じた。

 

EC第3の脱出口「ソーシャルEC」

中国でECの普及が始まって20年。ECは中年の時期を迎えている。都市部ではほぼ普及をし、市場が飽和し、頭打ち感が出てきている。そのため、各EC企業は脱出口を探っている。主な脱出口は2つだ。

1)下沈市場

2)新小売

下沈市場は市場を拡大させる。つまり、成長の余地がある地方都市、農村、低所得者層を狙う考え方だ。代表的なものはアリババの「農村タオバオ」。地方都市や農村に出店し、ECの配送拠点とするだけだけでなく、地元の農産品、特産品を集めて、EC「タイバオ」にも出品するという拠点だ。地方にEC購入の習慣を根づかせる狙いがある。

新小売は、オンライン購入体験とオフライン購入体験を融合し、生鮮食料品市場に進出をするという考え方だ。代表的なものは、アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」。店舗で購入することも、スマホで注文して30分配送してもらうことも可能。

しかし、第3の脱出口がにわかに注目されている。それがソーシャルECだ。

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▲下沈市場を狙う農村タオバオ。成長の止まったECを成長させる戦略をになっている。

 

ECは成長がストップ、ソーシャルECが牽引をしている

「中国ソーシャルEC業界研究」(iReserch)によると、2019年のソーシャルEC流通総額は、推計値で1兆3166.4万元(20.68兆円)になる。わずか5年前にはほぼゼロに等しかった。

EC全体の流通総額は現在でも成長しているが、これはソーシャルECの流通総額も含めているもので、並べてみると、ECの成長のほとんどはソーシャルECの伸びによるものであることがわかる。

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▲ECの流通総額は現在でも伸びている。しかし、従来型ECとソーシャルECに分けてみると、流通総額の成長のほとんどはソーシャルECの伸びによるものであることがわかる。「中国ソーシャルEC業界研究」(iReserch)より作成。

 

拼多多の成功により、各ECもソーシャル化に対応

ソーシャルECの台風の目となっているのは、拼多多(ピンドードー)だ。会員数、月間アクティブユーザー数では、京東を抜いて、アリババに次ぐ第2のECサービスに成長をし、創業わずか3年で、香港とナスダックに上場を果たしている。

各ECもソーシャルECに注目をして、サービスの展開を始めている。京東は「京東拼購」、網易は「網易一起拼」、蘇寧易購は「蘇寧拼購」を始めている。

このような総合ECが、ソーシャルECを始めるだけでなく、専門性のあるソーシャルECも続々と登場している。例えば、女性向け商品に特化したソーシャルEC「小紅書」「蘑菇街」、小さな子どもがいる若いお母さんに特化したソーシャルEC「雲集」「三里人家」などがある。いずれも限定的な市場の中でのビジネスなので、ビジネス規模は小粒だが、ソーシャルECの爆発力を活かして成長してきている。

 

消費の連鎖反応が起きるソーシャルEC

乳幼児向けビジネスメディア「母嬰前沿」が、北京で開催した「2019中国実態母嬰大会」に、三里人家の創業者、心然(シン・ラン)が登場し、「0から20億元へ:ソーシャルECの連鎖反応の法則」というプレゼンテーションを行い、ソーシャルECの爆発力はどうして生まれるのかを解説した。

ソーシャルECとは、商品を買いたいと思う人が、その商品情報を、共同購入者を募るために、テキストSNS、ビジュアルSNSなどで拡散するという点が通常のECとは異なっている。多くの場合、SNSではリアルな友人知人と繋がっているために、口コミの電子版のような感覚だ。

もし、紹介をした友人知人もその商品を購入した場合、紹介をした人には割引や優待クーポンなどのインセンティブが与えられる。

この仕組みで、なぜソーシャルECは爆発力を生むことができるのか。心然は、この爆発力を「核分裂連鎖反応」と呼んでいる。SNS上で、口コミが拡散し、核分裂の連鎖反応のように購入者が広がっていく。

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▲北京で開催された「2019中国実態母嬰大会」に、三里人家の創業者、心然が登場し、ソーシャルECの強さの秘密を語った。消費者同士の信頼関係ソーシャルグラフが消費を生み、核分裂のような連鎖反応を起こしていくと語った。

 

ソーシャルECの強みは3つ

心然は、ソーシャルECの優れた点は3つあると言う。

1)商品の流通効率

2)購入決定効率

3)決済効率

商品の流通率に関しては、一般的なECと基本的には同じだ。オフラインで買い物をするときには、店舗に足を運ばなければならず、しかも目指す商品の在庫があるかどうかはわからない。ECであれば、すぐに購入することができ、在庫切れもほとんどない。

これは当たり前のことに思えるかもしれないが、下沈市場と呼ばれる地方都市、農村では極めて大きなメリットになる。百貨店のように大量の商品を在庫している小売店が少なく、アクセスには大きなコストがかかるからだ。

ましてや、三里人家の乳幼児用品のように専門性の高い小売店は、地方都市では少ないか、存在しないこともある。それでも、地方都市の若いママは、大都市の若いママと同じように、乳幼児商品を必要としている。専門性の高いソーシャルECほど、下沈市場では有利になっていく。

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▲幼児用品に特化したソーシャルEC「三里人家」の創業者、必然。専門性の高いソーシャルECが、規模は小さいものの急成長をしている。

 

購入決定率が高いソーシャルEC

ソーシャルECは、決定効率も高い。小売店やECで購入をするときは、性能で商品を比較し、商品が決まっても複数のECで販売価格を比べたりする。あるいはレビューを読んで、買うかどうかを再考したりする。

しかし、ソーシャルECでは、リアルな知り合いからの紹介で商品と出会う。その知り合いのことが信頼できるのであれば、消費者は買うかどうかをあまり考えない。すぐに購入を決定してしまう。商品を検討するのではなく、紹介者との人間関係や信頼関係が購入決定に大きく寄与している。

これも一般的なECよりも、専門性の高いソーシャルECがその傾向が強く現れる。三里人家の場合は、若いママが集まってSNSのグループを作っている例が多く、そこで悩み相談や気晴らしのおしゃべりを楽しんでいる。そのグループに商品情報が流れ、知り合いが「使ってみたけど、とてもよかった」というコメントがあるだけで、購入決定率が大きく上昇する。

 

離脱を起こさないミニプログラム

日本では、キャッシュレス決済がスピーディーで利便性が高いと言われているが、すでに中国では「対面のキャッシュレス決済は面倒」という感覚が生まれている。アリペイやWeChatペイの利便性の高さは、ミニプログラムを使って、スマホ内で購入から支払いまでが完結することにある。例えば、航空機のチケットを購入するのであれば、アリペイ内の航空機チケットの内蔵ミニプログラムをタップすると、航空機の便が検索できる。そのままタップするだけで、購入、決済が行われ、電子チケットが保存される。

ソーシャルECでも、同じように、SNSに送られてきた商品情報をタップするだけで、ミニプログラムが起動し、ワンタップで購入ができ、決済、配送が自動的に行われる。この利便性が、離脱率をきわめて低く抑えている。

 

消費者同士の信頼関係が消費を生んでいく

さらに、ソーシャルECは、知人の間での人間関係を強める作用をしていると心然は言う。AさんがBさんに商品を紹介したとき、Bさんは「いい商品を紹介してくれてありがとう」とSNSでお礼を言う。一方で、Aさんは商品の割引、優待クーポンを受け取るので、「買ってくれてありがとう」とSNSでお礼を言う。

しかも、2人は同じ商品を買っているので、その後もSNSで使い方や感想などをやり取りする。

いい人間関係が築けるため、商品を紹介されたBさんは、別の知り合いにも同じ商品を紹介する。こうして、核分裂の連鎖反応のように、消費者が等比級数的に増えていくのだ。

心然は言う。「信頼のないところに消費は生まれない」。従来はメーカーと消費者、小売店と消費者の間ので信頼関係が消費を生んでいた。しかし、ソーシャルECは、消費者同士の信頼関係が消費を生んでいる。

従来のSNSの「顔見知りペース」のソーシャルグラフではなく、消費を媒介にした「信頼ベース」のソーシャルグラフをいかに構築していくが、ソーシャルECの成功の鍵になる。