中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

空港は人工知能が運営する。ETエアポートブレイン

アリババ系のアリクラウドが開発した「ETエアポートブレイン」が、北京首都空港、杭州蕭山空港などに導入されている。人工知能技術を利用して、人の手に負えない複雑な業務を自動化するものだ。すでに駐機スポットの利用効率は10%上昇、安全検査の効率は3倍になっていると天下網商が報じた。

 

時間がかかる中国空港の安全検査

中国の空港の快適さが大きく変わろうとしている。どの空港でもそうだが、悩みのタネは安全検査。丁寧に、厳格に検査をすることはいたしかたないが、ちょっとしたことで長い行列ができて、予想以上の時間がかかってしまう。安全検査にどのくらい時間がかかるかわからないからと、飛行機を利用するときは早めに空港に到着するように心がけている人も多いはずだ。

中国の空港では、荷物検査も厳格だが、本人確認も厳しい。セキュリティ担当者が、身分証の写真と航空券、本人の顔を照らし合わせて、本人であるかどうかを確認する。身分証のデータベースから、兄弟がいる場合や双子であることが判明している場合などは、かなり厳しくチェックをするという。また、整形をしている場合も、身分証の写真と容貌が異なっていることがあり、時間がかかる。

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▲顔の撮影は通路を歩いてくる10秒間の動画を撮影し、その中から鮮明な静止画を自動抽出して、身分証データベースの顔写真と比較をする。

 

人工知能が顔認識で本人確認

杭州蕭山国際空港では、現在アリババ系のアリクラウドが開発した「ETエアポートブレイン」を6月6日から導入している。蕭山空港第3ターミナルの25レーンある国内線の安全検査レーンのすべてにカメラが設置され、本人確認の判断を人工知能が行うようになった。現在のところ、識別率は99.6%で、1レーンで対応できる乗客の数は3倍以上に増え、しかも運用わずか1ヶ月で、5人の問題のある身分証を使用しようとした乗客を摘発した。

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▲記者が、カツラをかぶり、口紅をつけ、女性のフリをしたが、難なく本人だと判定された。

 

クラウド処理であるため追加整備は原則不要

ETエアポートブレインの利点は、すべてがクラウド処理であるため、新たな設備が不要であるという点だ。端末も従来現場で使っていたノートPCをそのまま使い、ネットワークも従来から使っていたものをそのまま利用する。新たに設置した設備は、広角カメラぐらいだ。

ETエアポートは、安全検査レーンを歩いてくる乗客の動画を10秒ほど自動的に撮影し、その動画の中から適切な静止画を切り出し、身分証の写真と照合する。

天下網商の記者が、実際にETエアポートブレインの顔認証を試してみた。本来は、かけていない眼鏡をかけてみると、本人相似度は78%となり、本人だと判定された。次に、他人の身分証を使ってみると、本人相似度は12%となり、本人ではないと判定された。さらに、カツラをつけてみたり、口紅などの化粧をしてみたが、いずれも本人相似度は70%以上で本人だと判定される。

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▲ETブレインはクラウドで動くので、既存のネットワーク、PCなどの設備をほとんどそのまま利用できる。杭州蕭山空港では、新たに設置したのは、顔撮影用の広角カメラぐらいだった。

 

本人確認の効率は3倍に

2017年、蕭山国際空港は3500万人の乗降客が利用した。蕭山国際空港情報管理部システム運用センターの朱林凱副経理は、天下網商の取材に応えた。「1人の安全検査官は、1時間で100人程度の本人確認をしなければなりません。しかし、双子であるとか、整形をされている方がいた場合、どうしても時間がかかるのです。また、お子さん、老人、障害のある方は、同行者のサポートが必要で、これも時間がかかります。しかし、このシステムでは、同行者と一緒に歩いてこられても、システムは全員の顔識別を並行して行うので、安全検査の効率は大幅に向上しました」。

 

1日分の駐機スポット割り当てを50秒で計算

このアリクラウドの「ETエアポートブレイン」では、顔認証はひとつの機能にしかすぎない。中心になっているのは、空港の業務管理に人工知能を応用することだ。北京首都国際空港では、ETエアポートブレインがすでに本格導入されていて、駐機スポットのスケジューリングが人工知能により行われている。

北京首都国際空港では、毎日1700機の飛行機が、駐機スポットを利用し、ボーディングブリッジによりターミナルと接続し、乗客の乗降を行っている。しかし、駐機スポットは300しかなく、しかも、飛行機の大小により、利用できる駐機スポットが異なるので、どの飛行機がどのスポットをいつ利用するか、適切な割り当て計画を作成するのが難しい作業になっていた。特に飛行機に遅延が発生した場合、混乱が生じることになる。

北京首都国際空港では、昨年の12月にETエアポートブレインを導入、このスケジューリングを人工知能に任せるようにした。ブレインは、1700機の駐機スポット利用のスケジュールを、わずか50秒で計算する。遅延が発生した場合も、50秒以内に自動再計算する。

これにより、駐機スポットの利用効率は10%上がり、これは毎日2万人の乗客が、搭乗口で待たされることなく、飛行機に乗り込めることになる。


ET大脑详情页 航空大脑

▲ETエアポートブレインのデモ映像。航空機の駐機スポットの割り当てをわずか50秒で計算する。遅延が発生した場合も自動再計算される。駐機スポットの利用効率は10%上昇した。

 

空港だけでなく、都市、医療などの効率を改善するETブレインシリーズ

アリクラウド人工知能技術を利用したETブレインシリーズは、航空だけではなく、都市、農業、工業、医療、環境という合計6アプリケーションが現在リリースされている。いずれも、人工知能を応用して効率化を図ろうというものだ。

例えば、ET都市ブレインは、交通量、交通事故発生などに合わせて、交通信号を制御し、交通の流れを円滑にするというもの。すでに杭州市が導入を進めている。

このETブレインシリーズが、今後の中国の都市インフラの効率を変えていくことになるかもしれない。注目をしておく必要がある。


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▲ET都市ブレインは、渋滞、交通事故の発生を監視して、適切な部署にプッシュ通知をしたり、交通信号を自動制御して、都市の道路を円滑にする。すでに杭州市で試験運用が始まっている。