顔認証駐車場、顔認証レストランなどを次々と開業しているアリババが、現在研究中なのが「靴認証」だという。関連会社アントフィナンシャルが試験開業したコンビニ「WithAnt」で、この靴認証が試験運用されていると科米事が報じた。
スマホを使わない「無感支付」
アリババは昨年杭州市に無人スーパーを開業したのを皮切りに、小売業の決済方式を変える店舗を次々と開業している。アリババが目指しているのは「脱スマホ認証」だ。決済をするのにスマホを使うのではなく、スマホがなくても買い物をして決済ができるようにすることが目標だ。そのために、顔認証技術などの研究を進めている。
スマホがなくても、サービスを利用して決済ができるという点も大きなメリットだが、決済ステップが不要になるという点も大きい。例えば、アリババとケンタッキーフライドチキンが、杭州市に協働して開業したカジュアルレストラン「KPro」では、顔認証が利用されている。来店客は、入り口付近にあるタッチパネルで、メニューと座席を選ぶ。この間に顔認証が行われている。注文をしたら、選んだ座席に座っていると、料理が運ばれてくる。食べたら、そのまま帰ることができる。決済は自動的にアリペイで行われているというものだ。スマートフォンを持っていなくても利用ができ、決済というステップがまるまる不要になる。このように、決済を意識しないでいい決済方式を、アリババは「無感支付」と呼んでいる。
99%の顔認証認識率を100%にする補助手段
しかし、問題は、顔認証の認識率は100%ではないということだ。アリババは「99%」という数字を出しているが、それでも1%の人は認証がうまくいかない。そういう場合は、スマートフォンで認証をして利用することになるが、ここをなんとかしないことには「脱スマホ」にならない。
そこで、アリババが提供している駐車場の無感支付では、顔認証と自動車のナンバーを組み合わせて認証を行っている。駐車場の出入り口のゲートで一旦停車をすると、カメラでドライバーの顔と車のナンバープレートを読み取る。この2つを併用して認証を行うので、100%の認識率になる。その代わり、登録をしていない友人の車やレンタカーで利用することはできない。
▲アリババが提供する無感支付は、すでに駐車場で使われている。ドライバーの顔認証と車のナンバーを併用して認証を行う。
1対Nでは、生体認証だけでは100%にならない
顔認証や指紋、声紋といった生体認証では、1対1の場合は技術的なハードルは低い。スマホのロック解除やログインなどに使う場合で、あらかじめ自分の生体情報を登録しておき、それとの差異を測定して認証を行う。個人のスマホを他人が利用するということは現実にはきわめて稀なことだと思われるので、同一と判定する差異量のハードルを下げてしまえば、ほぼ100%の認証率になる。
しかし、決済に使う場合は、1対Nの生体認証になる。入力された生体情報を元に、データベースに登録されている多数の情報を検索して、それが誰であるかを特定する。差異量のハードルを下げてしまうと、別人として認証されてしまう可能性が高まるので、どうしても100%の認証率を確保することができない。そこで、別の認証方法と組み合わせる必要があるのだ。
WithAntで試験運用される靴認証
アリババの関連会社、アントフィナンシャルは、杭州市の同社ビル内に無人販売店「WithAnt」体験店をオープンした。現在販売しているのは、自社グッズや飲料などの日用品で、社外の人間も利用できるが、多くはアントフィナンシャルの社員が利用し、試験運用をしている。
このWithAntでは、顔認証で個人を識別するが、補助手段として靴認証が使われている。原理は簡単で、靴に電子タグを挿入し、これを感知するというものだ。技術的にはさほどのものではないが、目の付けどころは面白い。
▲WithAntで試験運用されている靴認証。電子タグ入りの靴を履いて、ゲートを通過するだけで認証が行われる。
意外に便利な靴というウェアラブル
ウェアラブルの場合、腕時計が一般的だが、実用上は使いやすいとは言えない。腕時計の場合、「家に忘れてきた」「今日は腕時計をしたくない」「別の腕時計を使いたい」ということがあり、決済のために特定の腕時計をしなければならないのなら、スマートフォンを持ち歩いた方がはるかに便利だ。
しかし、靴であれば、電子タグを挿入するだけなので、持っている靴すべてに電子タグを入れることも難しくない。しかも、外出中に「靴をどこかに置き忘れてくる」ということもまず起こらない。靴認証であれば、ゲートを通過するだけで認証ができる。
もちろん、電子タグが剥落するのではないか、電子タグを盗まれるのではないかという課題もある。しかし、WithAntでは顔認証が基本で、靴認証はあくまでも補助手段という考え方なので、このような課題もあまり神経質になることもないように思われる。
靴認証は、正式運用されているのではなく、あくまでも実験中、試験運用中だ。しかし、今後、スマホ決済の先の脱スマホ決済=無感支付が、決済方法の主流になっていくことはほぼ間違いない。
▲どの商品を選んだかは画像解析で認識。店内に入って、商品を通って、外に出るだけで決済が行われる。
▲入り口右手にあるタッチパネルの前を通過するだけで顔認証が行われる。靴認証は、認証の補助手段として使われる。