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データ駆動経営の成長と限界。人とAIは協調できるのか。AIコンビニ「便利蜂」の挑戦

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今回は、AIコンビニ「便利蜂」についてご紹介します。

 

北京を中心に2800店舗を展開するコンビニチェーン「便利蜂」(ビエンリフォン)は、徹底したデータ駆動経営をすることで、創業わずか5年で2800店舗という急成長をしたコンビニです。

そのデータ駆動経営ぶりは徹底をしています。店舗スタッフには専用のタブレットが渡され、そこにやるべきタスクが通知されてきます。便利蜂では、すでに店内の業務を約400のSOP(Standard Operating Procedures、標準作業手順)に整理されていて、必要に応じて、どのSOPを行うべきかの指示が入ってきます。

すべてのSOPには標準時間も定められていて、タブレットはカウントダウンを始めます。スタッフは指示通りの仕事を時間内に終えて、終了したことを示す写真を撮影し、報告を行います。スタッフは毎月、タスクの消化率などで評価され、給与などが改定されていきます。

便利蜂では、自分でどの仕事をすべきかを判断することはありません。すべてAIが判断をして人に命じてきます。多くの人にとって、ゾッとしない仕事かもしれませんが、逆に考えれば言われたことだけをこなせばいいので、ある意味楽な仕事なのかもしれません。

 

店舗スタッフは接客もしません。来店客は基本はセルフレジで自分で商品のバーコードを読み取らせてスマホ決済をします。または、専用アプリがあれば、商品棚から商品を取ってバーコードをスキャンして決済することもできます。万引きが簡単にできてしまうように思えますが、店内には防犯カメラが設置されていて、AIが画像解析により、決済をせずに商品を持ち帰ったことを検知します。万引きをした客は、アプリ経由で請求を受け、それに応じないとアカウントがバンされ、アプリの利用もセルフレジの利用もできなくなる仕組みです。

 

2017年頃から、中国では無人コンビニの創業ブームが起こりました。中国でもコンビニは大都市を中心に増え続けていましたが、その成長が今ひとつな理由が利益が小さいということでした。コンビニの売上は店舗面積の割に大きいのに、なかなか利益を出すことができません。運営コストが大きすぎるからです。

だったら、運営コストを下げることができれば利益を出すことができます。「2021年中国コンビニ発展報告」(中国チェーンストア経営協会)に、標準的なコンビニのコスト構造が掲載されています。

粗利は25.8%ですが、さまざまなコストがかかるために営業利益は2.4%になってしまいます。

▲標準的なコンビニの粗利は25.8%。そのうち、8.2%が人件費で、利益は2.4%しか出ない。人件費を圧縮すれば利益を大きくすることができるというのが無人コンビニの発想だった。「2021年中国コンビニ発展報告」(中国チェーンストア経営協会)より作成。

 

その中でも大きいのが8.2%を占める人件費です。ここをなくしてしまえば、10%近い利益が出せると考えたのが無人コンビニでした。

しかし、ご存知の通り、無人コンビニはうまくいきませんでした。最大の理由は完全無人化ができないからです。店舗は無人にしても誰かが商品を搬入して並べなければなりません。スタッフが巡回をして行いますが、コンビニの密度がまばらであると、非常に効率の悪い作業になります。普通のコンビニのように、配送スタッフは配送専門で行い、店舗スタッフが他の業務をしながら合間の時間に陳列を行うというのが結局は効率がいいのです。

この問題を解決するには、店舗で扱う商品品目(SKU=Stock Keeping Unit)を抑えることです。商品数を抑えることで、陳列の時間を短縮し、巡回スタッフが効率よく店舗を回れるようになります。しかし、そうなると今度は商品品目が少なく、せっかくコンビニに行ったのに目的の商品が売っていなかったということが起こります。コンビニは日用品がそろっていることは最低条件ですが、「こんなものまで置いてあるんだ」と思わせる意外性も重要です。それが価格は安いけど遠いスーパーや量販店に行くよりも、価格は高めだけど近いコンビニに足を運ばせるようになるのです。

無人コンビニは、コンビニというよりキヨスク売店に近いイメージになってしまいました。

しかし、無人コンビニがまったく見込みのないビジネスだったわけではありません。中国では経済発展により、街中のコンビニの24時間化が進みましたし、さらには高鉄駅やバスターミナル、空港の24時間化が進んでいきました。当然、施設の中にコンビニが必要になります。しかし、利用者の多くない深夜帯にスタッフを配置することは高コストになるため、昼間は有人、夜は無人というハイブリッド型のコンビニも生まれてきました。

このハイブリッド型コンビニは、政策により最低時給を大幅に引き上げた韓国で、深夜帯の人件費を削減するために採用され、日本でも採用の動きがありました。

しかし、そこにコロナ禍がやってきたため、駅や空港の24時間化も停止となっています。せっかく見つけた無人コンビニの居場所でしたが、コロナ禍により失ってしまいました。

新型コロナが完全に終息をすれば、駅や空港の24時間化も再び始まるため、無人コンビニの技術も再び採用されることになるかもしれません。

 

便利蜂は、このような無人コンビニとは異なる路線のものです。人間のスタッフが最低1人は常駐をしています。人件費は無人コンビニほど大胆に削減できるわけではありませんが、同時にAIを最大限活用することで業務効率を究極まで高め、無駄を排除することで、人件費とその他のコストを圧縮させ、利益を出すことをねらっています。

そのため、便利蜂は小売業の企業というよりは、完全なテック企業で、百度バイドゥ)や美団(メイトワン)、ケンタッキーフライドチキン(KFC)といった企業からAI、データサイエンスのCTO(テクノロジー責任者)級の人材をスカウトしてきています。

余談ですが、中国のKFCは、アリババと協働して顔認証決済レストラン「K Pro」を展開するなど、テックレベルの高い企業です。

さらに、便利蜂では社内で数学の試験を行なっています。内容は大学レベルの高等数学で、義務ではありませんが、合格をしないと上位の職位に就くことはできません。高等数学、AI、データサイエンスが社内の共通言語になっているのです。

 

このように、AI、データサイエンスなどの高等数学に特化をした企業づくりをした上で、有名なある実験を行いました。それは人間店長とAI店長にコンビニを経営させてみて、どちらかが勝つかという対決をさせたのです。

セブンイレブンなどコンビニの店長経験がある10人に1人1店舗をまかし、AI店長と対決をさせます。ルールは1週間でSKU(商品品目)を10%削減するというものです。どの商品を削減するかは店長に任せられます。普通にやってしまえば、販売する商品が10%減るのですから、売上も10%減ることになってしまいます。店長には過去の経営データも渡されているので、削減しても影響のない商品を見つけ出し、それを削るというのが店長の仕事になります。

便利蜂は、このような実験を大量に行い、すべての判断をAIが行うようにして、コンビニを経営するというのが基本になっています。

このデータ駆動経営により、便利蜂は急成長をしました。しかし、現在、2800店舗になったところで、頭打ちが起こり、店舗の閉店、賞与カット、リストラが始まっています。データ駆動経営により急成長をしたのに、データ駆動経営により限界が生まれてしまっています。

今回は、便利蜂のデータ駆動経営についてご紹介し、どこに利点があり、どこに問題があるのかをご紹介します。

 

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