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アルゴリズムvs人間店長。業務効率では人間の完敗。しかし、アルゴリズムが成長の限界をつくっている未来型コンビニ「便利蜂」

セルフコンビニ「便利蜂」が苦しんでいる。セルフレジを基本にし、スタッフは接客をせず店舗運営だけを行うという運営手法で拡大してきたが、ここへきて、閉店、リストラが続いている。店舗運営はすべてアルゴリズムによって決められるが、アリゴリズムが洗練されれば洗練されるほど、効率化はするものの、個性が失われていく。アリゴリズムの限界が成長の限界になっているのではないかと注目されているとTech星球が報じた。

 

セルフコンビニ「便利蜂」の経営難

創業して5年で3000店近くと急拡大をした新興コンビニチェーン「便利蜂」(ビエンリーフォン)の経営が苦しくなっている。閉店、リストラ、ボーナスの取り消しなどが起きている。

便利蜂は、無人コンビニの中で唯一生き残ったと言われるコンビニチェーン。無理に無人化をするのではなく、スタッフは常駐をして商品の品出し、管理などの作業を行い、来店客はセルフレジまたは専用アプリで決済をして購入する。さらに、近隣には配達もするという「セルフ決済+宅配」という理にかなった無人コンビニ形態にたどり着き成功した。特に、大都市でありながらコンビニが少なく、コンビニ砂漠と呼ばれてた北京で受け入れられ、未来型のコンビニとして注目されていた。

▲セルフコンビニ「便利蜂」。スタッフは常駐しているが接客はしない。アルゴリズムが支持をする商品管理系の業務に専念をする。コンビニが少なく、コンビニ砂漠と呼ばれた北京を中心に急拡大をした。

 

アルゴリズム運営で急拡大、アルゴリズム運営による経営難

創業者の庄辰超(ジュワン・チェンチャオ)は、子どもの頃から数学が得意で、北京大学を卒業し、2005年5月に旅行サイトの検索サービス「去哪児」(チーナール)を起業し成功をした。2016年1月に去哪児を売却し、便利蜂を起業した。

そして、便利蜂の特徴が、独特のアルゴリズムによる管理だ。仕入から販売まで、独自のシステムを構築し、効率を極限にまで高めている。このアリゴリズムの優秀さが成功の鍵だと言われていた。しかし、現状の経営難を迎えて、アルゴリズムにも限界があることがわかった。いったい、アルゴリズム運営のどこに問題があったのだろうか。

▲便利蜂では、基本がセルフレジ。自分で商品をスキャンし、スマホ決済などで支払う。監視カメラにより、万引きなどの対応策もされている。

 

U字成長曲線を描くコンビニビジネス

コンビニのビジネスモデルは、そもそもがU字型成長をする傾向がある。出店をし始めた時には利益が出るが、拡大を始めると、利が薄いたために、店舗同士での売上の奪い合いが起こり始め、店舗あたりの売上が下がり始める。ここで、運営コストなどを下げる適切な手を打たないと、チェーン全体が赤字経営となってしまう。このため、盲目的な拡大により、失敗をしてしまうコンビニチェーンは少なくない。

2017年、北京を中心として拡大をした「好隣居」は、創業15年目で、8400万ドルで身売りをすることになった。2018年、「隣家」は資金がショートをし、168店舗が突然に閉店した。同年、蘇寧の蘇寧小店は大きな損失を出し、蘇寧から独立をして運営されることになった。さらに同じ年に、京東は5年をかけてコンビニに参入する計画を断念している。その多くが、急速な拡大による店舗売上の減少を乗り越えることができず、U字型成長曲線の底の部分で破綻をすることになった。

 

U字型成長に成功をした便利蜂

このコンビニにとって厳しい状況となった2018年、創業して間もない便利蜂はそれまで既存のERPシステムを使っていたが、これを独自のアリゴリズムに基づいたシステムに入れ替え、この優秀さにより業務効率があがり、コンビニ冬の時代となった2018年を乗り切り、他チェーンが撤退する中で生まれた空白市場を獲得して成功曲線をつかむことができた。

便利蜂は、創業以来、従業員に高等数学の試験を行なっている。この成績が悪いと降格されるケースもある。試験は微積分など大学レベルの内容だ。

強制ではなく、希望者のみが受験する仕組みだが、データサイエンティスト、アナリスト、運営、プロダクトマネージャーなどの職種に就くためには、この試験に合格をする必要がある。大学の数学など学んだことがない文系学部の出身者でも合格することが必要で、高等数学が便利蜂の共通言語になっている。創業者の庄辰超も、2019年にこの試験を受けていて91点をとったという。

さらに、百度、美団、ケンタッキーなどからデータサイエンス、アルゴリズム、AIなどのCTO級人材をスカウトすることも行なっていった。

▲便利蜂では、従業員に高等数学の試験を行なっている。強制ではなくあくまでも希望者のみだが、合格をしないと就けない職種がある。高等数学が便利蜂の共通言語になっている。

 

アルゴリズムと人間店長の対決実験

こうして生まれた独自アルゴリズムはどの程度優秀なのか。便利蜂内部である実験が行われた。10人の店長とアルゴリズムを対決させたのだ。セブンイレブンで経験を積んだ10人の店長に、一人一店舗をまかし、1週間をかけてSKU(商品種類数)を10%減少させる改善を行わせた。同じことを独自アルゴリズムに基づいて行い比較をした。

すると、人間の側は売上が5%低下をしたが、アルゴリズム側は0.7%しか低下をしなった。SKUを低下させることにより、運営コストが下がるため、アルゴリズム側は利益率が確実にあがるが、人間側は利益率が上がるかどうかわからない。

便利蜂は、このような実験を通じて、ある結論を得る。「人間が介在をすると、業務効率は確実に低下をする」という人間にとってはなんとも受け入れ難い事実だった。創業者の庄辰超は、運営プロセスのすべてを自動化することを目標にした。

 

惣菜の味付けもアルゴリズムが決める

庄辰超では、お惣菜の味付けもすべてアルゴリズムが決める。すべての食品は酸甘苦辛の味が数値測定され、じゃがいもの硬さ、豆の扁平度、炒める時間などもすべてが測定され、A/Bテストを行い、売れるものが正解だとして標準化をされていく。在庫数もすべてはアルゴリズムが管理をし、消費期限を考慮して製造数が決められる。

しかも、チェーンすべてに同じ味付けの商品を配送するのではなく、地域、店舗による違いも考慮され、その店に適した味付けの食品がカスタマイズされて配送される。

 

アルゴリズムの奴隷となった人間

しかし、大きな問題が存在した。それは店舗スタッフが、アルゴリズムの奴隷となってしまったことだ。店舗スタッフは、業務中、来店客と接触することはほとんどない。専用のタブレット端末と向き合いながら仕事をする。

アルゴリズムは、消費期限が近づいているのにまだ売れていない商品があるとアラートを出してくる。スタッフはこの商品を手前に出す、あるいはポップをつけて販促活動をするなどして売り切らなければならない。消費期限がきてしまった場合は、タブレットのカメラで商品を撮影し、報告の後、廃棄をする。

その他の業務もすべてはタブレットが指令をし、その業務が完了したことを写真を撮影して報告する必要がある。ある従業員は「1日の業務時間の1/3は、写真撮影をしている」とまで言う。

しかも、各業務には標準時間が定められていて、タブレットは指令ともにカウントダウンを始める。たとえば、店頭調理品を盛り付けて提供するまでの標準時間は40秒で、この時間以内に作業を完了しないとスタッフの評価が下がることになる。

この業務システムは常に進化をしていて、現在では、店内の防犯カメラ映像をAIで解析することにより、30以上のチェックポイントが自動で検査されるようになっている。たとえば、床やカウンターの上にゴミが乗っていると自動的にスタッフにタブレットにアラートが飛ぶ。

▲便利蜂では、基本がセルフレジ。自分で商品をスキャンし、スマホ決済などで支払う。監視カメラにより、万引きなどの対応策もされている。

 

ワンオペ標準となった店舗運営

このような効率化を突き詰めた結果、1店舗の運営は1人のスタッフでじゅうぶんまかなえるようになった。いわゆるワンオペが標準となった。しかし、多くの店舗で12時間勤務のワンオペが行われており、休憩時間はもちろん、食事の時間やトイレに行く時間も取れない。食事は、事務室で店内監視カメラを睨みながら食べ、トレイは来店客が途切れた時に行くしかない。夜間は、不用心なので入り口のドアを施錠し、トイレに行き、戻ってきたら鍵を開けるという具合になっているという。

店舗スタッフは、せめて8時間シフトにするか、あるいは複数のスタッフが重なる時間を設け、業務環境を改善してほしいと本部に申し入れているが、人手不足の時代でもあり、なかなか改善されないという。

ある店舗スタッフは、不満を述べる。「店内の監視カメラは、万引きなどを監視するのではなく、スタッフの監視に使われています。私たちは、店内では常に業務のために動き回っていないと、監視カメラに補足をされ、評価が下げられてしまうのです。便利蜂のアルゴリズムは確かに素晴らしいものだと思いますが、人間は機械ではありません。効率的なアルゴリズムのためにスタッフが消耗をすることになっています」。

 

ヒット商品は生み出せないアルゴリズム

しかし、アルゴリズムは無駄を排除してくれるが、ヒット商品はつくってくれない。ヒット商品は人間にしか生み出すことができない。

2021年、中国ではコーヒーがブームになった。一度は縮小した瑞幸珈琲(ルイシン、ラッキンコーヒー)が再び拡大をし、スタンド型のMannerも拡大中。さらにはM StandやSeesaw、アルジェブライストといったサードプレイス型カフェも人気となり、大型投資を獲得している。

これを見て、2021年3月に、便利蜂もコンビニコーヒー「不眠海」を始めた。平均単価15元という安い価格帯で、コンビニコーヒーとしては最高レベルの品質だと評判になった。便利蜂も力を入れクーポンなどを配布し、実質3元から5元で飲める状況をつくり出し、滑り出しは上々だった。

しかし、アルゴリズムはそう判断をしなかった。サイドメニューであったより価格の低いミルクティーなどの方がより利益が望めるとして、ミルクティーなどの販売強化をスタッフに指示をした。さらに、アルゴリズムは低品質の牛乳を使った方がより利益率が高くなると判断し、街中のミルクティースタンドとたいして品質の変わらない商品を出すことになっている。

 

tamakino.hatenablog.com

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アリゴリズムを強化すればするほど平凡になっていくジレンマ

便利蜂のアルゴリズムは優秀だが、それが特徴のないコンビニに向かわせている。これにより、次の成長曲線が描けない状況のまま停滞をすることになってしまった。

便利蜂は2020年に「3年以内に1万店出店」を目標に掲げた。しかし、現在は3000店であり、その目標には遠く及ばない。2021年には目標出店数を4000店に修正したが、それでも後1年で達成できるかどうかは微妙なところだ。便利蜂はコロナ禍を理由に掲げているが、次の成長が見えてこないのはそれだけの理由ではないようだ。優秀なアルゴリズムで成長が可能なのか。便利蜂はコンビニ業界だけでなく、多くの小売業からも注目をされる社会実験となっていて、その真価が今問われようとしている。