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コロナ感染拡大防止に大きく貢献した健康コード。全国統一をし、感染症に強い国づくりへ

コロナ禍期間、中国人の誰もが利用していた健康コード。位置情報から濃厚接触を判定し、色で感染リスクを表示してくれるというものだ。この健康コードは各地方によってそれぞれに運営されているが、感染症に強い国づくりのために、全国統一、データ構造の共通化が進められていると中国新聞週刊が報じた。

 

移動履歴から感染リスクを割り出す健康コード

中国の新型コロナ感染予防策として、大きな力になったのが健康コードだ。スマートフォンのアプリまたはミニプログラムで、自分の感染リスクが赤、黄色、緑の3種類の色のQRコードで表示をされる。公共施設、鉄道駅、空港などでは出入りの際に、その場所を示したQRコードを読み込んだり、自分のQRコードをスタッフに提示をする必要がある。移動履歴から、クラスターが発生した箇所を通ったかどうかにより、感染リスクを判定している。

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▲健康コードはいたるところで、提示とスキャンが求められる。公共施設を利用するときは提示が求められ、その場所を表すQRコードのスキャンをする。写真は、社区(町内会)の入口で、健康コードのスキャンを求めているもの。

 

アリババの地元、杭州市から始まった健康コード

この健康コードは、省、市などの地方政府が主体になり、テック企業に依頼をして開発をし、運用をしている。省級の最初の健康コードは浙江省のもので、2020年2月13日午後8時34分に最初の健康コードが表示された。その40時間後にテスト公開が行われ運用が始まった。この最初に表示された健康コードは中国国家博物館に収蔵されることになった。

この浙江省健康コードの手本となったのが、浙江省杭州市余杭区の健康コードで、アリババが開発をしたものだ。杭州市余杭区政府は感染状況が落ち着いたのを見て、経済を回しながら感染を再拡大させない方法を模索し、地元企業であるアリババと協議を重ね、2020年2月5日午前5時から余杭健康コードの運用が始まった。この状況を見た杭州市政府は、24時間後に、余杭健康コードの利用を杭州市全体で運用するように求め、杭州健康コードが誕生した。そして、2月13日には浙江省に運用地域が広げられ、浙江健康コードとなった。

さらに、他の地方でもこの浙江健康コードを手本に1週間ほどで100都市で運用が始まった。2月15日には、国務院辨公庁電子政務辨公室は、アリババ子会社であるアリペイとアリクラウドに対し、全国共通の健康コードシステムの研究開発を依頼した。これにより、ほぼ全国で健康コードが利用されるようになった。

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▲最初の健康コードは、杭州市余杭区がアリババに開発依頼をしたもの。それが杭州市でも使われるようになり、浙江省はこれを元に浙江健康コードの運営を始めた。健康コードはわずか2週間で中国全土に広がった。

 

各地方政府が地元テック企業に開発を依頼

中国の南西にある貴州省貴陽市でも健康コードの開発が始まった。貴陽市政府は、国営企業である雲上貴州ビッグデータに開発を依頼し、2月13日に開発が始まり、6日後の2月18日には最初のバージョンが公開されている。

しかし、開発は簡単ではなかった。健康コードの開発チームはわずか6人で、開発だけでなく、貴州省政府や衛生健康委員会、公安との打ち合わせもある。3人2チームに分け、12時間ごとの交代制で開発をした。

貴州健康コードは、紫、赤、橙、黄色、緑の5色の表示をする。紫は集中治療が必要な人で、赤は入院が必要、橙は自己隔離、黄色は定期的なPCR検査が必要、緑はリスクがないというものだ。

 

4つの情報を集約して感染リスクを判断

健康コードが基本データとして利用しているのは主に4種類ある。ひとつは公安が保有している住民基本データだ。2つ目が、体温、症状など利用者の自己申告で入力するデータ。3つ目が公共施設、鉄道駅、空港などで利用者がQRコードをスキャンした位置情報と通信管理部門がキャリアから提供を受けた位置情報履歴で、これで危険なエリアに立ち寄ったかどうかを判断する。最後が、衛生部門が提供する診断情報などだ。

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▲鉄道駅でも出入りに、健康コードの提示と位置情報を表すQRコードのスキャンが求められる。このような立ち寄り情報と携帯電話基地局の情報から移動履歴を割り出し、陽性者との接触履歴を割り出す。

 

最初は範囲を大きく取り、徐々に範囲を狭めていく

通信管理局は、感染リスクの判定に「時空伴随」という概念を提案した。携帯電話の基地局データから800m四方の矩形セルを設定し、同じセルの中に10分間以上いると「接触」と判断される。後に陽性が判明した人が出ると、この陽性者が立ち寄ったセルに10分以上いた人は全員が高リスクだと判断される。

この方式は、アップルとグーグルがBluetoothを利用した接触追跡技術(10m以内に15分)に比べて接触範囲をかなり大きく取っている。そのため、初期は同じマンションで陽性者が出ると住人全員の健康コードが赤くなったり、バスに乗っていて渋滞に出会っただけで健康コードが赤くなるなどの問題も生じた。

通信管理局がセルを大きく取り、リスクを大きく取ったのは、新型コロナの症状の重さや致死率などが確定をしなかったためだ。その後、知見が積み重なっていくとともに、このセルの大きさは縮小されていっている。

 

全国で使える統一健康コードへ

しかし、問題は健康コードは地方ごとの運用であったということだ。多くの都市で、外部から入ってきた人がウイルスを持ち込み、市中での感染を広げていっている。外部から入ってきた人は、入る時にその地方の健康コードを利用する仕組みが広がっていったが、入る前のリスクに関してはノーチェックとなっていた。

そこで工信部は、移動をした場合は過去14日間の移動記録を利用して、健康コードでのリスク判断をするように通達を出した。しかし、健康コードは地方ごとに開発をされたためデータ構造などが異なっており、簡単にデータを移動させることはできない。

そこで登場したのが、「ワンコード健康コード」だ。「西安ワンコード」「陝西ワンコード」などで、陝西省では西安市の健康コードを陝西省全体で使うようにした。このような省単位での統一が図られていった。

さらに2020年3月の段階では、貴州省広東省浙江省ではデータ構造の共通化を進め、データ交換が可能になる仕組みの開発が始まっている。2020年後半には、中央政府が「全国一体化政務サービスプラットフォーム」を設立し、共通データ構造を定め、対応する健康コードであればデータ交換ができるようになった。

 

スマホを使わない人にも紙の健康コード

また、健康コードはスマホのアプリまたはミニプログラムであるため、スマホを利用していない人は使えないという問題がある。その多くは子どもや老人だ。これに対応するため、多くの健康コードが家族情報の入力を可能にした。子どもや老人が外出をする時は、家族が同行をし、家族のスマホに当人の健康コードも表示される。

さらに、一人で外出をする必要がある人のために、身分証があればどのPCやスマホからでも健康コードをプリントアウトできる機能も導入された。同行者不在で外出をする時は、この紙の健康コードを携帯して外出をする。プリントした時間も記載され、多くの都市で24時間有効などの制限をかけている。

 

今後の感染症にも応用できる健康コード

この健康コードは「健康コード」という名称であり、「新型コロナ感染拡大コード」ではない。新型コロナが感染をしても、また別の感染症が拡大をする可能性もある。さらに、危険度は大きくないもののインフルエンザなどの感染拡大にも有効だ。新型コロナが終息をしても、この健康コードの仕組みは、感染に強い国づくりの一環として運用し続けられていく。