中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

続々と登場するスマート駐車場ビジネス。カギは無人化とデータ化

中国の都市部では圧倒的に駐車場が足りていない。このまま放置をすると、成長する自動車産業に水を浴びせかねない。そこで、駐車場問題を解決するさまざまなスタートアップに投資が集まり、さまざまな企業が生まれていると物聯世界が報じた。

 

駐車場が足りないのに自動車は売れ続ける

中国都市の深刻な慢性疾患。それは駐車場不足だ。多くの人が、自分の車で出かけると駐車場探しで煩わしい思いをしたことがあると答える。滴滴出行のようなライドシェアが普及したのも、駐車場不足が大きく影響している。

駐車場不足はあまりにも深刻なので、それを嫌って自動車の売れ行きが頭打ちになりそうだが、そうはならない。自動車は今でもよく売れ、増え続け、さらに駐車場不足問題を深刻化させている。

大都市ではすでに自動車を嫌って、「自動車のないライフスタイル」を採る人が若年層を中心に増え始めているが、地方都市ではまだまだ「自動車を持つことが夢」と考える人が多い。駐車場不足は大都市でも深刻な問題だが、地方都市では路上駐車が増え、深刻な自動車渋滞の原因となっている。

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▲たびたび話題になる成都市の駐車場。500平米のスペースに70台が止まっている。パズルのような状況になっていて、1台を出すのに大騒ぎになることも多い。


3台に1台が駐車ができない!

公安部の統計によると、2017年末で自動車は2.17億台。免許保有者は3.42億人。2017年に新規登録された自動車は2813万台で、史上最高となった。保有台数が100万台を超えている都市は全国に53あり、200万台を超えているのが24都市、300万台を超えているのが7都市ある。

駐車場の不足率は常に50%を超えていると推計される。つまり、2台の車が駐車をしていると、1台の車は常に駐車場を捜してうろうろしていることになる。

駐車場ビジネスは好調で、中国の1級都市、2級都市の市場規模は4200億元(約6.9兆円)に達し、2021年には1兆元(約16.5兆円)を突破すると見られている。このうち駐車場収入が7800億元(約12.8兆円)、パーキングメーターが2000億元(約3.3兆円)になると予測されている。

この市場を狙って、スマート駐車場関連のスタートアップが続々と生まれている。

 

捷順科技:AIスマートパーキング

捷順科技(ジエシュン)は、早くから駐車場ビジネスを手がけており、スマート駐車場やスマートドアロックなどを提供している。2018年2月、アリババ系のアントフィナンシャルが2億元(約33億円)を投じて、捷順科技の子会社の順易通信科技と、スマート駐車場システムを共同開発をした。

すでに港珠澳大橋珠海道路で、スマート駐車場を開業している。18のゲートがあり、2500台が駐車できる。無人ゲートで、ナンバーを自動読み取りし、顔認証でオンライン決済が可能。2018年前半の収入は134万元に達し、昨年同時期よりも653.41%も増加した。

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港珠澳大橋珠海道路のスマート駐車場。料金所はあるが、原則的に無人。ナンバー読み取りと顔認証で、管理をする。2500台が駐車できる。

 

唯伝科技:ゲート、料金所不要のスマートパーキング

2012年8月に創業した唯伝科技(ウェイチュアン)は、IoTによるスマート機器を提供し、駐車場だけでなく、エネルギー、農業、畜産、金融などの分野に、クラウドシステムKitLinkを提供している。

駐車スペースに磁力で車両の有無を判別するIoT磁力センサーを設置することで、駐車場の空きスペースの数と場所を把握し、専用アプリを使うことで、運転手が自分で駐車料金を決済する。料金所のようなものは設ける必要がなく、運転手もそのまま駐車場に入って、空きスペースに勝手に駐車をすればいい。車を出すと、駐車時間が自動計算され、それに応じた料金がスマホ決済から自動的に徴収される。

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▲駐車スペースに車両センサーを埋め込み、専用アプリから料金を支払う。運転手は、空いているスペースに車を止め、用事が済んだら出発するだけ。料金は自動的に決済される。登録をしていない人が止めた場合は、すぐに公安に通知が飛び、駐車違反の切符が切られる。

 

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▲画像解析により、どの駐車スペースが空いていて、何台止まれるかがリアルタイムでわかる。場内で空きスペースに誘導をしたり、地図アプリに対してAPIを公開し、地図アプリから空き駐車場を検索できるようになる。

 

艾科智泊:スマートパーキングメーター

艾科智泊(アイカジーボー)は、道路上の駐車スペースに、磁力センサーを埋め込んだスマートパーキングメーターを提供している。パーキングメーターは、ネット接続されているため、アプリから空いている駐車スペースを検索できる他、管理側では料金を支払わずに駐車していることも把握ができる。

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▲道路に設置されるパーキングメーターも磁力センサーを使い、完全無人化される。人による管理が不要になると、24時間利用できるようになるのが魅力だ。こちらも、勝手に止めた場合は、すぐに公安に通知が飛び、駐車違反として処理される。

 

無人化をすることで24時間営業が可能になる

この他にも、各都市、各地方に同様のテクノロジーを活かしたスマート駐車場ビジネスのスタートアップが続々と登場している。スマート駐車場が狙っているのは2つだ。

ひとつは無人化をすること。無人化をすることにより、人件費の削減を狙うのではなく、24時間365日営業を実現する。以前の中国は夜11時を過ぎると、街には人がほとんどいなくなっていたが、今の大都市は不夜城になりつつある。レストランやカフェも朝方まで営業している店が増えてきたし、24時間コンビニも当たり前になってきている。駐車場を24時間営業にすることで、自動車の利用時間帯を分散させることができる。駐車スペースを有効利用することができ、道路の渋滞もわずかではあるが緩和させる効果がある。

 

データ化することで、空き駐車場への誘導ができる

もうひとつは無人化をするためにセンサー類を使うため、リアルタイムで空きスペースの把握ができるようになる。駐車場管理会社は、空きスペースを把握することで、立体駐車場などでは電光掲示板により駐車スペースへの誘導ができるようになり、駐車場内での接触事故を減らすことができる。

さらに、この空きスペースデータは、多くの駐車場がAPIを公開しているため、地図アプリなどから「付近の空き駐車場」を検索できるようになりつつある。運転手の利便性が上がるだけでなく、駐車場を探してうろうろしている自動車を減らすことで、渋滞を緩和させる効果もある。

 

成長する自動車産業をさらに成長させる鍵が駐車場問題の解決

中国の自動車熱はまだまだ高く、地方都市を中心に自動車が売れているが、この駐車場問題が足かせとなって、大都市では「若者の車離れ」が始まっているという報道もある。自分の車を持つよりも、ライドシェア、レンタカー、シェアカーを使いこなすライフスタイルを都市の若者たちは選択するようになっているというのだ。だとすると、駐車場問題が自動車産業の成長を阻害することになりかねない。そのため、今、スマート駐車場分野への投資が増えている。しばらくは、スマート駐車場がホットな領域になりそうだ。