中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

クラスター発生リスクの高い地域を予測する機械学習モデルを百度が開発

クラスター発生リスクの高い地域を予測する機械学習モデルを百度バイドゥ)が開発した。病院などの生活関連施設が遠い地区は、移動距離が長くなるので感染リスクが高くなるという考え方に基づいている。この論文は、アメリ人工知能学会に採択されたと夕小瑶が報じた。

 

クラスター発生リスクの高い場所を予測する学習モデル

この学習モデルはC-Watcherと名付けられ、論文は「C-Watcher: A Framework for Early Detection of High-Risk Neighborhoods Ahead of COVID-19 Outbreak」(https://arxiv.org/abs/2012.12169)としてすでに公開され、AAAI 2021に採用された。

C-Watcherは、住宅地のどの場所からクラスターが発生するリスクが高いかを事前に予測するものだ。

従来、このようなデータは、疫学調査から得られる。しかし、疫学調査は事後であり、事前に予測をすることは難しく、また粒度も粗いため、対応策の取りようがなかった。

しかし、事前に小区(町内会規模)単位で、クラスター発生リスクが予測ができれば、都市全体を移動制限するのではなく、その小区だけを移動制限することで、効果的に都市全体の感染リスクを下げることができる。小さな小区に限定したロックダウンであれば、生活物資や生活サービスの支援も容易で、最小限の犠牲で、最大限の感染予防効果を得ることができる。

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▲エピセンターとなった都市で地域の特性を学習し、対象都市から感染リスクの高い地区を浮かび上がらせる。

 

住民の移動距離が長い地区は、感染リスクが高くなる

C-Watcherの学習データは、百度地図から得られるさまざまなデータだ。考え方はシンプルで、対象の小区の周辺にどのような施設が、どの程度の距離であるかをデータ化したもの。例えば、病院、バス停、学校、飲食店などだ。

このような生活に必要な施設までが遠い小区は、住民が長距離を移動することになるので、感染リスクが高まるという考え方が基本になっている。逆に、半径1km以内に病院や学校、飲食店が完備している小区では、住民の移動距離が短くなるので、感染リスクが低いと考えられる。

このような考え方を基本とし、実際の移動手段、移動量などを学習させていく。

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▲C-Watcherの基本的な考え方は、病院、飲食店、バス停、学校など生活関連施設までの距離が遠い地区は、移動距離が長くなるので、感染リスクが高くなるというものだ。

 

クラスター多発都市を学習し、参照都市でテストをする

C-Watcherの学習とテストには2つの都市データが必要となる。まず、エピセンターとなったクラスターが多発をした都市のデータを使って学習を進める。次に、対象の都市と地理的環境が似ていて、エピセンター都市ほどクラスターが発生していない参照都市のデータを使い、テストを行い学習モデルの調整をしていく。

その結果を、まだクラスターがほとんど発生していない都市に適用すると、事前に感染リスクの高い小区が予測できる。

実際には、武漢を含む16のエピセンター都市で学習を進め、5つの参照都市でテストを行い、10の対象都市について高リスクの小区を予測した。

現在、その結果はわかっているので、このC-Watcherの性能が評価できる。すると、他の機械学習モデルに比べて高い性能を示すことがわかった。

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クラスターが多発したエピセンター都市のデータを学習し、対象都市と地理的条件が似ている都市を参照都市として使い、学習モデルの精度を高めていった。

 

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▲さまざまな機械学習モデルとC-Watcherの精度を比較したもの。多くの都市で、他の学習モデルよりも高い精度を示した。

 

感染症に強い町づくりにも貢献できる

すでに新型コロナが終息をしている中国で、このC-Watcherが直接役に立つことは少ないが、今後、同様のアウトブレイクが発生した場合は、事前に高リスク地区を予測し、効果の高い予防対策を実施することが可能になる。

また、小区と生活施設の関係で感染リスクが決まるという知見から、感染症に強い都市計画を立てることも可能になる。

AAAI2021は、リモートで開催され、9034の論文が提出され、7911の論文が審査をされ、最終的に1692の論文が採用された。採用率は21%になる。その中で、百度は24の論文が採用され、人工知能の学会での存在感を増している。

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▲C-Watcherの論文に掲載されている学習モデルの構造。

 

 

春節紅包(お年玉)は、テック企業にとってユーザーを拡大する絶好のチャンス

今年の春節では、12のテック企業が総額2200億円のお年玉を消費者に配布をした。テック企業がこのような大規模なお年玉を配布するのは、ユーザーを地方と中高年に拡大する絶好のチャンスだからだと店小魚が報じた。

 

12のテック企業が配ったお年玉は総額2200億円

中国の新年となる春節旧正月)。この季節には、各テック企業が消費者に向けて大量の紅包(ホンバオ)を消費者に向けて配布をするのが恒例になっている。紅包とはお年玉のことで、さまざまな方法で取得をするとスマホ決済で受け取ることができる。紅包を受け取るには、当然ながらそのサービスのアカウントを持っている必要があるため、紅包を配布することで、一気に新規ユーザーを増やすことができることから、紅包大戦に参加するテック企業は年々増え、今年は12の企業が参加をし、その配布総額は132億元(約2200億円)を超えた。

昨年は10の企業が参加をし、合計で約60億元の紅包が配布をされたので、今年は倍以上に伸びていることになる。

今年は、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)、ショートムービー「Tik Tok」「快手」が初参加となり、いずれも大型の紅包配布を行ったことが、総額が伸びた大きな要因になっている。

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▲各テック企業が配布した紅包の総額。どのテック企業も大規模な紅包を配布し、新規ユーザーを獲得しようとする。京東、WeChat、QQは、配布額を非公開にしている。各企業の公告より作成。

 

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▲各サービスが春節に間に獲得した新規ユーザー数。この1週間で、数百万人から1000万人規模の新規ユーザーを獲得する。Mob研究院のデータより作成。

 

紅包で一気にアリペイと肩を並べたWeChatペイ

この紅包という機能は、テンセントのWeChatが最初に搭載をした。基本的な機能はWeChatペイの送金機能だが、金額を範囲で指定し、くじの要領で金額がランダムに決まるというものだ。配布をする側では、紅包を送る人を指定し、金額の範囲設定や総額を決めておくと、自動的に按分をしてくれる。

WeChatペイは、アリペイに遅れて2013年8月にリリースされた。当時、スマホ決済の世界ではアリペイのシェアが圧倒的で、アリペイに追いつくために、テンセントは2014年の春節期間に紅包をキラーサービスとしてリリースし、大量の紅包を配布した。

この紅包を取得するために、WeChatペイを開通させた利用者は800万人にのぼり、これはアリペイがスタートしてから7年目のユーザー数に相当する。アリババの創業者、ジャック・マーは「アリペイの7年を、たった1週間で追いつかれてしまった」と慌てたという。

翌2015年の春節では、さらに拡大し、10億件の紅包が取得され、2000万人の新規ユーザーを獲得した。たった1年で、WeChatペイはアリペイのライバルとなるほど成長をした。ここから、春節の紅包は、新規ユーザーを大量に獲得する機会だと認識されるようになる。

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▲新年には、椅子に座る年長者に対して、ひざまずき、頭を床につけて、口上を述べる儀礼が行われる。この時に年長者が紅包を配る。

 

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▲紅包とは赤い祝儀袋のこと。お年玉だけでなく、婚礼のお祝いなどにも使われる。スマホ決済には、紅包を取得したり、送ったりする機能が備わっている。

 

アリババはクエストタイプのお年玉で対抗

2018年の春節では、アリババは対抗して「集五福」キャンペーンを行った。これは5つのクエストが用意され、それを実行すると5枚の福カードを集めることができる。クエストは単純なものが多く、万歩計機能をオンにして100歩歩くとか、アリペイに家族登録をするとか、アリババのサービスを使わせるものだ。

5枚の福カードが集まると抽選に参加をすることができ、花唄(ホワベイ、消費者金融サービス)の借入金が帳消しになったり、家族応募では最高で4万8888元(約82万円)の賞金があたるというものだ。

2018年の集五福は人気となり、2017年の独身の日セールの15倍のアクセスがあり、淘宝網タオバオ)のサービスがシステムダウンしてしまうほどだった。2015年の春節期間の流量は4.9万テラバイトだったが、2020年には271.6万テラバイトと55倍にも増えている。

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▲アリババの春節の定番となった「集五福」。5つのクエストを完結して、5つの福の字を集めると、さまざまな特典が受けられるというもの。

 

春節紅包は、中高年にユーザーを拡大する絶好のチャンス

2019年には、百度が、大晦日の番組である「春晩」の公式紅包スポンサーになり、Tik Tokが同番組の公式SNSとなった。ここから、紅包大戦の主役はTik Tokや快手などのショートムービーサービスに移っていく。

今年2021年にはソーシャルEC「拼多多」が公式紅包スポンサーとなる予定だったが、過重労働などの不祥事が起きたため辞退、代わってTik Tokを運営するバイトダンスが公式紅包スポンサーの座についた。

春晩という番組は、「中国の紅白歌合戦」とも言われるが、歌だけでなく、踊りや寸劇、マジックなども披露されるバラエティ番組で、感覚的には大演芸大会だ。当然ながら、都市の若者はほとんど見ない。見るのは、地方の中高年が中心で、家族揃って春晩を見るというのが幸福な光景のひとつになっている。

大家族が集まり、全員で春晩を観て、祖父母、両親世代は楽しそうにしている傍で、若い世代や子どもたちは退屈そうにスマホをいじっているというのが典型的な光景だ。

ここがテック企業にとっては、新規ユーザーを拡大する大きなチャンスになっている。スマホリテラシーの高い若い世代の多くは、すでにユーザーとなっているが、中高年はそうではない。そこに紅包を配るということで、新規登録をしてくれる。中高年はそのサービスがどんなものであるかもよくわからないし、登録の仕方もよくわからない。しかし、そばにスマホに慣れた子どもたちがいるので、聞きながら登録をすることができる。

通常時にはなかなかリーチできない層にアプローチしていける機会になっている。テック企業のサービスが「リテラシーの高い人だけのもの」から「国民的サービス」に成長するためにも、春節の紅包は重要な施策のひとつになっている。

 

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  • 発売日: 2015/11/05
  • メディア: オフィス用品
 

 

ソーシャルEC「拼多多」にショッピングカート機能がない深い理由

ソーシャルEC「拼多多」には、ショッピングカートの機能がない。商品ページの購入ボタンをタップすることですぐに購入ができる。このカートがないということが拼多多の成長を支えるひとつの要因になっていると首席創業智庫が報じた。

 

ソーシャルEC「拼多多」にはカート機能がない

ECサイトではお馴染みの「カート」機能。買いたい商品はカートの中に入れ、後でまとめて注文と精算をするのが一般的な買い物の方法だ。淘宝網タオバオ)、京東(ジンドン)のいずれにもカート機能がある。

しかし、この2つのECに並ぶほど成長した拼多多(ピンドードー)にはショッピングカートの機能がない。商品のページから直接購入する仕組みで、後でまとめて買うということができない設計になっている。このショッピングカート機能がないということが、拼多多の特長となっている。

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▲拼多多にはカート機能がない。商品ページのいちばん下に購入ボタンが用意されているだけだ。

 

商品ではなく、購入者をまとめたい拼多多

そもそもカート機能はなぜ存在するのか。それは主に運営側の都合による。複数の商品をまとめ買いしてもらうことで、決済処理は1回で済み、発送もまとめて行える。業務負担を減らすことができる。

しかし、これは配送センターを持っているECの場合で、ソーシャルECである拼多多では業務負担を減らすことにならない。

拼多多の基本は、複数の人がまとまることで購入する団体購入だ。ある人がある商品を買いたい場合、その商品が「24時間以内に10名」などの成立条件があり、あと9名を集めなければならない。そのため、SNS「WeChat」を使って、商品のリンクを友人などに送り、あと9名を集めようとする。これが、その商品の宣伝となっている。SNSを使って、消費者が商品情報を拡散してくれる。これが拼多多の爆発力を生んでいる。

販売業者からすると、設定した10名ごとに注文が入り、発送を行うことができ、業務負担が小さくなる。一般のECでは、配送センターがあり商品を一括管理しているが、拼多多の場合は無数の販売業者がそれぞれに発送業務を行う。そのため、カートよりも人がまとまってくれた方が効率的なのだ。

もちろん、「24時間以内に10名」などの条件を満たさない場合、購入は不成立となるが、現実には不成立になることがないように、各業者は条件設定を工夫している。

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▲拼多多では、日用品が驚きの安さで販売されている。当初は地方都市、農村の利用者が多かったが、現在では都市部にも広がり、拼多多の成長を支えている。

 

カートは離脱率をあげてしまう

しかし、拼多多がカート機能を採用しない最大の理由は、離脱率を抑えるためだ。カート方式のECでは、買いたい商品があったらまずカートに入れる。そして、カートを開き決済をする。しかし、この時に、購入を思いとどまり、カートから削除してしまうことが結構ある。

このようなカゴ落ち率は、各ECとも公開はしていないが、50%を超えているのが一般的で、70%を超えるECもあると言われる。つまり、カートに入れられた商品の70%は実際には買われないのだ。

このようなカゴ落ちを避けるには、冷静になって買い物を再考する時間を与えない方がいい。購入ボタンを押してから、決済までのプロセスを最短にする必要がある。拼多多は、購入ボタンを押したら、すぐに決済なので、このプロセスが最小化されている。つまり、カートという機能はない方が優れているのだ。アマゾンも「カートに入れる」他に「今すぐ買う」ボタンを設置し、カートを介さない購入方法を提供している。

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淘宝網タオバオ)にはショッピングカート機能がある。しかし、このカートを開いた段階で、思い直して、購入をやめてしまう商品が出てくることになる。

 

拼多多の顧客はカートのアナロジーになじみがない

また、カートを採用しないのは、ユーザー体験を最適化するという目的もあった。拼多多は2015年に、都市部ではなく、地方都市や農村の中高年向けに激安をウリにして成長が始まったECだった。当時、地方ではECを使う人が少なかった。スマートフォンやPCの普及率も低く、都市部で買われているような商品は高くて手が出ない。そこに激安商品を投入し、地方在住者にもECの楽しみを提供した。これが受けた。そのため、都市住民からは「貧乏人のEC」という悪口を言われることもあった。

地方の中高年は、スマホリテラシーが高くない。そういう人にとっては「いったんカートに入れて、それから決済」という2段構えのやり方は、わかりづらく、離脱率を高くしてしまう。買いたいと思ったら、商品ページからワンタップで買える。このダイレクトな操作感が必要とされた。

また、都市住人は、大型スーパーで買い物をすることが多く、ショッピングカートがどういうものであるかがわかっている。ECのカートを見れば、それが何のメタファーであるかがすぐに理解できる。

しかし、地方都市住人は、大型スーパーでの買い物経験が少なく、公設市場で対面で購入することが多く、ショッピングカートを使った経験も少ない。そういう人にとって、カートというのは理解しづらいメタファーになる。

 

農村から都市へ逆伝播した拼多多

地方から始まった拼多多だが、現在は都市部でも使われるようになり、それが拼多多の成長を支えている。以前は「安かろう、悪かろう」の商品が多く、偽物、偽ブランド商品も多数出品されていたが、運営の努力により品質面は安定をしてきている。一方で、激安価格はそのままだ。

さらに、9.9元(約160円)でiPhone 12やドローン、五菱の自動車「宏光」を抽選販売するなど、都市住人の若者をターゲットにしたキャンペーンを連続して行っている。

さらに、都市の若い世代では、買い物の断片化が進んでいる。これは必要なものはその時に買ってしまうというもので、以前のように「週末に大型スーパーに行き、まとめて買う」ということをしなくなっている。そのため、若い世代の間では、買い物の断片化に対応したECやコンビニの需要が高まり、百貨店やショッピンモールの需要が頭打ちになっている。すでに百貨店やモールも、ライブコマースや新小売など、断片化に対応する施策を打てないところは沈み始めている。

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▲大きな話題になっている9.9元販売キャンペーン。iPhoneやドローン、自動車などが抽選で9.9元(約160円)で買えるというもの。

 

ECにカートは不要の時代になっている

拼多多で、商品を見つけたけど、買おうかどうか考えたいという場合、どうしたらいいのだろうか。それには商品のブックマークの機能がある。一般的なECでは、カートがこのブックマークとして使われている。一方で、ブックマークの機能も搭載しているため、ユーザーは買いたい商品の候補を、ブックマークに入れるべきか、カートに入れるべきか迷うことになる。これは「なんか使いづらい」という悪いユーザー体験となる。

カートというECの伝統的な機能は、もはや時代の役割を終えたのかもしれない。少なくとも、中国の若い世代は、ダイレクトに商品が購入できるカートレスの拼多多のようなユーザー体験を好むようになっているようだ。

 

 

PCゲームの不作、スマホ版の登場、コロナ禍の三重苦にあえぐネットカフェ

ネットカフェがコロナ禍により苦しんでいる。PUBGなどのヒットゲームが登場し、eスポーツが楽しめる施設して盛況だったが、スマホ版の登場、ヒットゲームの不作、コロナ禍により、営業再開ができずにいるネットカフェが急増していると燃経済が報じた。

 

コロナ禍で苦しむネットカフェ

コロナ禍の影響で、ネットカフェが苦しんでいる。調査会社「天眼査」の調査によると、2020年のネットカフェの増加は2796店だったが、閉鎖(倒産)が1万2888店に及んだ。2020年末に営業をしているネットカフェは12万4818店となる。

台湾出身で、中華圏のポップス界で圧倒的な人気を誇る周杰倫(ジョウ・ジエルン、ジェイ・チョウ)も2017年に、eスポーツの人気を先取りして、深圳市南山区に2000万元(約3.3億円)をかけて、ネットカフェ「魔杰咖」をオープンし、北京、上海と店舗を広げていたが、2020年に休業したままになっている。

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▲人気アーティスト、ジェイ・チョウが経営するネットカフェ「魔杰咖」。高級感のある空間になっていて、人気も高かったが、コロナ禍により営業を停止したままになっている。

 

地方のネットカフェは、春節に一時的な賑わいが戻るも

春節休みの間、地方のネットカフェには久しぶりの賑わいが戻ってきた。今年の春節は、感染拡大防止のため、故郷に帰らず現地で年越しをすることが奨励されたが、帰郷をする人がいないわけではない。しかし、実家に帰ってもやることがないので、学生時代を思い出してネットカフェに行きゲームを楽しむ人が多かった。同じように同級生が自然に集まり、同窓会のようになり、ネットカフェに賑わいが戻ったという。

しかし、春節休みが終わると、帰郷者は都会に戻っていき、再びネットカフェは閑散としてしまった。

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▲2017年頃のネットカフェ。PUGBの登場により、eスポーツが遊べる娯楽施設として多くの人で賑わった。

 

PUBG人気でネットカフェが盛り上がった2017年

ネットカフェが最も盛り上がったのは2017年だ。韓国のPUBGが開発したバトルロイヤルゲーム「PlayerUnknown’s BattleGrounds」(PUBG)が大ヒットをしたからだ。現在では、テンセントがスマホ版を開発して運営しているが、当時は高性能のゲーミングPCでないとプレイできないため、多くの人がネットカフェに行き、PUBGを楽しんだ。さらに、フォートナイトというヒットゲームも続き、ネットカフェはどこも行列をしないと入ることができないほど盛況だった。

しかし、2020年のコロナ禍により営業自粛を余儀なくされる。3月になり、感染状況が落ち着き、ネットカフェは再開を目指していたが、多くの都市で感染を拡大する拠点となりかねないと見られ、営業再開が認められなかった。結局、ネットカフェが再開できたのは6月になってからで、経営的には大きな打撃を受けた。

さらに、PUBGやフォートナイトのブームも落ち着き、その後に続くヒットゲームが登場しない。再開したネットカフェは閑散としたままになっている。

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▲PUBG(PC版)の利用者数の推移。2018年がピークとなっており、その後は低下をしている。スマホ版がリリースされたことが大きく影響している。ネットカフェにとっては、PUBGに続くヒットゲームが出てこないことが大きなマイナス要因になっている。SteamChartsのデータ。

 

闇ネットカフェから始まった中国のネットカフェの歴史

中国のネットカフェの歴史は90年代の「闇ネットカフェ」に始まる。小学校や中学校の近くの人目につきづらいスペースに、PCを並べて、子どもたちからわずかなお金をとって遊ばせる。家庭用ゲーム機では遊べない刺激的なゲームが遊べる。きちんと営業許可を取っているわけではないので、闇ネットカフェと呼ばれた。

1996年になると上海や北京などの都市に、きちんと店舗として営業するネットカフェが生まれ始めた。しかし、料金が高かっため、利用客の多くはネット環境を求めている外国人や国内のビジネスマンだった。ネット環境がまだ貧弱だった当時の中国で、ネット検索をしたり、電子メールを使ったり、IP通話をするために使われた。

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▲地方では闇ネットカフェが今でも営業している。人目につかないスペースにPCを並べて、遊ばせるというものだ。主な顧客は地元の小学生や中学生だ。

 

ネットカフェの転機となった藍極速の火災事故

大都市でネットカフェが増えていくと、「50万元の投資が半年で回収でき、後は儲かるだけ」というおいしい投資案件としてネットカフェが注目されるようになり、急速に地方にも広がっていった。

2002年6月、北京市海淀区のネットカフェ「藍極速」で、火災事故が発生する。ネットカフェのスタッフともめた4人の高校生が報復のために放火をしたものだった。避難経路の確保や訓練をしていなかった店長は、来店客を避難させることができず、店内にとどまるように指示をしてしまったため、25人が焼死をするという悲惨な結果になった。

しかし、この事件がきっかけとなり、「インターネットアクセスサービス営業場所管理条例」が定められ、ネットカフェの営業は免許制となり、闇ネットカフェの多くが消え、正式営業をするネットカフェは成長期に入る。

それにともない米国の「World Warcarft」(WoW)、韓国の「The Legend of Mir 2」という2つのオンラインゲームが中国でも流行し、ネットカフェの人気は2005年にピークを迎える。

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▲ネットカフェ「藍極速」の火災事故の状況。ドアに近い場所に放火をされたため、来店客は逃げ場を失ってしまった。奥の窓から6人が救出、1人が自力脱出をしたが取り残された25人が焼死するという大きな事件になった。

 

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北京市海淀区の公共安全館に焼け残った備品が展示されている。

 

浮き沈みを繰り返すネットカフェビジネス

しかし、この頃から高性能のPCの価格が下がってきて、自分でPCを購入し、自宅でオンラインゲームを楽しむ人が多くなり、次第にネットカフェの営業は苦しくなっていった。2011年には、ネットカフェは倒産ラッシュとなり、それは「もはやネットカフェというビジネスは死んだ」とまで言われるほど深刻なものだった。

しかし、そこに、米「League of Legends」(LoL)、米「Dota」などのeスポーツとしても楽しめるゲームが登場し、ネットカフェはeスポーツイベントなどを開催することで息を吹き返した。

特に、快適な空間が重要視されるようになり、高級感のあるインテリア、ゲーミングチェアなどが用意され、ネットカフェは「ゲームオタクの穴蔵」から「大人が楽しめるゲームバー」に変貌した。

2017年になると「PUBG」「フォートナイト」が登場し、ネットカフェはeスポーツの大会が行われる場所にとなった。ジェイ・チョウがネットカフェビジネスに進出するように、ネットカフェはもはやナイトクラブと並んで、都会の最先端の遊びが楽しめる場所になっていった。

それが、PUBGに続く人気ゲームが登場しない空白時代に、コロナ禍が襲うという不運によって、ネットカフェは立ち直りのきっかけをつかめないままでいる。

 

 

突如売れ始めたEV。鍵は「クルマのスマホ化」。EV化率は5.4%に

2020年後半からEVが好調に売れ始めた。コロナ禍により、パーソナル空間を維持しながら移動できる自動車に注目が集まり、このタイミングで車を買うのであればEVと考える人が増えているからだ。人気の要因になっているのはデジタルな機能の搭載で、クルマのスマホ化が鍵になっていると経済日報が報じた。

 

生産が追いつかない五菱のMINI EVのヒット

中国のEVが突如として売れ始めた。2020年はコロナ禍の影響により、世界の自動販売は20%も下がった。しかし、新エネルギー車(電気自動車EV+ハイブリッド+再生可能エネルギー車)は、世界で43%も一昨年から伸び、中国でも10.9%の成長となった。

特に目立っているのが、代歩車と呼ばれる小型EVで、五菱(ウーリン)の宏光MINI EVは、価格が3万元(約49万円)以下ということから、かつてないヒット商品となっている。若い世代の間では、MINI EVを改造することが流行し始め、昔、日本で流行した玩具「チョロQ」の改造の実車版のような様相になってきている。

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▲五菱の宏光MINI EV。価格は3万元を切るという安さで、通勤用に買う人が多い。また、サイズが小さく可愛らしいことから、若い女性の間でも人気になっている。

 

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▲宏光MINI EVは、小さくデザインも可愛らしいため、改造をする人たちが増えている。チョロQの改造の感覚をそのまま実車で行っている。

 

中級車以上でもテスラ、BYD、ニーオに人気が集中

しかし、EVの人気はそれだけではない。中級車から高級車も売れている。上海蔚来汽車(ニーオ)の2021年1月のナンバー交付台数は7225台となり、2020年1月から352.1%も伸び、4倍以上となった。ニーオでは、これで6ヶ月連続して交付台数の記録を更新し続けている。

そして、テスラも数回にわたって価格を下げる改定を行なったため、人気の的となっている。

テスラ、BYD、ニーオの3強に、五菱という代歩車が加わることで、EV市場を牽引している。

しかし、なぜ、一時は低迷していた新エネルギー車市場に活気が戻ってきたのだろうか。経済日報は、3強のメーカーの北京の販売店を取材して、その原因を探った。

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▲中国の新エネルギー車販売台数。2019年にいったん頭打ちになり、EVシフトが危ぶまれたが、コロナ禍により2020年に再び上昇に転じた。乗用車市場信息聯席会(CPCA)のデータより作成。

 

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▲2020年1月のEV販売メーカー別ランキング。五菱が圧倒的に売れている。乗用車市場信息聯席会(CPCA)のデータを元に作成。

 

セダン、SUVと車種が増えた

ひとつの大きな理由は、車種が増えてきて、消費者が選択できるようになったことだ。テスラの北京華貿店には、モデル3を中心に、SUVタイプのモデルY、モデルXが販売されている。

ニーオの北京藍色港湾にあるニーオ未来空間では、3タイプのSUV、3タイプの高級車が並べられている。

BYDの北京国瑞店では、セダンタイプの漢EVとSUVタイプの唐が並べてある。

どのEVメーカーでも、セダン、SUVが選べるようになっており、さらにグレードが細かく設定されている。

数年前のEVと言えば、選択の幅が狭く、買うか買わないかを決めるしかなかったが、現在ではさまざまな車種の中から選べるようになっている。

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▲北京藍色港湾にあるニーオ未来空間。体験試乗にきた人が多くいた。自動車販売店には珍しい賑わいとなっている。

 

価格がこなれてきた

もうひとつの理由が価格がこなれてきたことがある。テスラのモデル3は25万元(約410万円)、ニーオのES6は35万元(約580万円)から。BYDは22.98万元(約380万円)と、価格はまだまだ高いものの、ガソリン車の高級車と比べると高いとも言えなくなっている。

車が必要だけど購入するのは経済的に厳しいという人たちが代歩車を購入するようになり、ガソリン車の高級モデルを購入していた人たちがEVに流入をしてきているということのようだ。

 

オートパイロット機能が人気の最大の要因

高級車を購入するような人たちをEVは満足させることはできているのだろうか。購入者に話を聞くと、自動車に対する魅力が確実に変化をしていることがわかる。従来のガソリン車は、走りという自動車としての基本性能、インテリア、外観デザインなどが魅力のポイントだった。

その3つのポイントは今でも変わらないが、内容が変化をしている。走りの性能は、ガソリン車はスポーツドライビングが基準になっていた。そのためにレースイベントを行い、そこで好成績を残すことが販売にも結びついていた。しかし、実際の街中の走行では、スポーツドライビングをすることは滅多にない。高速道路でも、速度を出すのではなく、安定して走りたいというニーズが強くなっている。

多くの購入者がオートパイロット機能に魅力を感じている。テスラのモデル3では、6万元(約100万円)で、自動運オプションをつけることができ、車線を認識するオートステアリングなどが利用できるようになる。また、将来提供される完全自動運転にも対応していることが人気の理由にもなっている。

ニーオはNIO Pilot、BYDはDiPilotという自動運転システムを搭載し、部分的自動運転が可能となっている。

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▲テスラの北京華貿店。オートパイロット機能がついたモデル3に人気が集まっている。

 

鍵になっているのはEVの「スマホ化」

インテリアに関しては、伝統的なガソリン車のデザインを引き継いでいるが、購入者が注目をしているのは「機能」だ。大型タッチパネルが搭載され、ナビゲーションだけでなく、Wi-Fi接続や音楽ストリーミングサービス、SNSを利用できるなどさまざまな機能が備わり、多くが運転中にも操作できるように音声操作、音声応答をするように工夫されている。

また、テスラモデル3では、10人まで運転手を記憶してくれる。ボタンを押すだけで、その運転手の体格に合わせて、シートの位置、ハンドルの位置、ミラーの位置を自動調整してくれる。さらに、乗り降りする時は自動でシートを下げ、ハンドルを上げてくれる。家族で共用する場合に便利な機能で、こういうユニークな機能に人気が集まっている。

つまり、自動車はスマホ化をしているのだ。従来の車のインテリアはデザインだったが、EVでは機能の方が注目をされるようになっている。若い世代では、車を避ける人も多かった。その理由は運転中にはスマホがいじれないというものだった。スマホがいじれないということは、無味乾燥な時間をすごさなければならない。1日は24時間しかないのに、車を運転するために、なぜ1日何時間も無駄な時間を費やさなければならないのかという考え方だった。現在のEVは、こういう考え方の人にも受け入れらる機能を備えるようになっている。

 

販売方法も体験とオンラインをうまく組み合わせている

また、販売方法もデジタル化が進んでいる。この点ではテスラが最も進んでいる。テスラの店舗にいくと、ウェブへの登録かアプリのダウンロードをするように勧められる。オプション品の購入やデザインの選択はすべてアプリからできるようになっている。

アプリでオプション品を品定めして、店舗で現物を見て、わからない部分を店舗スタッフに尋ねるという買い方になっている。以前の販売店では、入るなりにスタッフがつき、興味のないオプション品についてもスタッフの長々とした説明を聞かなければならなかった。販売をデジタル化したことにより、スタッフの言葉に惑わされずに、自分が主体となって購入することができ、納得度が大きく向上した。

デジタル化でテスラに遅れをとっているニーオとBYDだが、それぞれに工夫をしている。ニーオでは、WeChatのグループを作り、購入希望者が自由に質問をできるようになっている。また、車種の特徴はショートムービーにしてあり、店舗以外の場所でじっくりと見ることができるようになっている。

BYDではアフターサービスをクラウド化し、専用アプリから申し込みをすると、BYDのどの店舗でもアフターサービスを受けられるようにしている。

 

EVのメンテナンスフリーさを評価する人も

さらに、購入者の中には、EVはメンテナンスが不要という点を評価している人も増えている。そもそも、3ヶ月に一度のオイル交換という煩わしいものが不要だ。ガソリン車に比べて部品点数も圧倒的に少なく、構造も単純であるため、故障率も小さい。メンテと言えば、夏前にエアコンのフィルターを交換するぐらいだ。この手軽さを気に入っている人が増えているという。

また、近年バッテリー技術の進化が目覚ましく、満充電航続距離は伸び続けている。中級車以上では、よほどの長距離移動でない限り、充電ステーションの場所をさほど気にしなくてもいいレベルになっている。自動車にまつわるさまざまな煩わしさから解放されたい。そう考えている消費者がEVを選び始めている。

 

まだEV化率は5.4%。目標の20%に届くか

といっても、新エネルギー車の2020年の販売台数は136.7万台。ガソリン車も含めた自動車販売台数は2531.1万台。新エネルギー車割合は5.4%にすぎない。しかも、自動車販売全体は3年連続減少の中での割合だ。まだまだ特別な人がEVを購入しているのであって、消費者の主力軍がEVに目を向けているという段階には達していない。

2020年11月、国務院は「新エネルギー車産業発展規則の配布について(2021ー2035)」の中で、2025年の新エネルギー車販売割合目標を20%前後としている。あと4年で20%を達成することができるか。まだまだ、EVは普通の人も受け入れられる工夫を重ねていく必要がある。

 

 

テック企業にとっての春節。テックサービスを地方と高齢者に伝播をさせる重要な時期

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明日、vol. 063が発行になります。

 

中国が1月1日の正月よりも、1月下旬から2月上旬にかけての旧暦による旧正月春節を盛大に祝うことはご存知の方も多いと思います。新年になって最初の満月の日は元宵節と呼ばれ、春節から元宵節までの2週間(旧暦なので、月は必ず新月の日から始まります。そこから満月になる元宵節までは15日間になります)が、正月の期間です。最初の1週間は休みとなり、次の1週間は仕事に出ますが、新年の挨拶回りなど和やかな空気の中で仕事をするのが一般的でした。

春節の休みの間は、実家に帰省し、家族三代、四代が勢揃いをして、大晦日には日本の年越しそばにあたる「年夜飯」を食べ、春節期間にはお節料理にあたる「年味」を楽しみます。中国では、農村で生まれ、都市に働きに出ているという人が多いので、この季節には大量の人が帰省する「春運」と呼ばれる民族大移動が行われます。

鉄道、長距離バスなどは大量に増発されますが、それでもチケットを購入するのは至難の技で、毎年、春運の時期には、鉄道駅やバスターミナルは限界を超えた混雑になっていました。

 

それでも帰省をするのは、中国人の文化の中で、家族全員が集まって食事をするのが最大の幸福という考え方があるからです。儒教の影響が色濃く残っているのだと思います。

また、都市に定住をして、子どもができると、初めて親の気持ちが理解できるようになります。子どもが遠くに行っていて、簡単に会うことができないというのはどれだけ寂しい気持ちになるかという親の気持ちが理解できるようになり、春節ぐらいは顔を見せに帰りたい、孫の顔を見せてやりたいと思うのです。

また、農村で子どもが生まれた場合、親は子どもを実家の両親に預けて、親だけで都会に出て働く例も少なくありません。農村で生まれた子どもは、農村の戸籍が作られるため、都市に連れていっても、都市の学校に通わせることができません。近年では、都市戸籍を取得するハードルはだいぶ低くなりましたが、それでも、その都市に貢献できる何か(経済的な成功や秀でた特殊技能)がなければ、都市戸籍は取得できません。ちょうど、外国人が日本国籍を取得するのと同じくらいの難しさがあります。

そういう親は、自分の子どもと会えるのが春節ぐらいしかありません。ですから、大混雑をする中、なんとしてでも実家に帰ろうとするのです。

 

このような春節の習慣が毎年続いていましたが、今年は大きく異なり、さまざまな新しい考え方、言葉が生まれています。言うまでもなく、新型コロナの感染予防で長距離移動が非推奨となったからです。

国家衛生健康委員会は長距離移動をする場合は、7日以内にPCR検査を受けて陰性であることを証明することを義務づけました。また、多くの都市では、長距離移動から戻った場合は、7日間から14日間の自宅隔離またはホテル隔離を求めています。春節の休みは1週間なのですから、勤め人は、会社を1週間休まなければならなくなります。そのため、多くの人が帰省せずに働いている都市で年越しをすることを選びました。

このような現地で年越しをして、帰省をしない人のことは「原年人」(原地過年的人の略語)と呼ばれるようになりました。新華社の報道によると、1億人が原年人となり、現在地で年を越したと見られています。

今年の春節期間の旅客輸送量は9841.6万人となりました。春節前に帰省した人が加算されていませんが、行って戻ってくることを考えると、帰省したのは5000万人以下だと推定できます。今年は、帰省するよりも、現地で年越しをした人の方が多かったと思われます。

 

これに伴い、生まれた新しい言葉が「雲拝年」と「雲紅包」です。雲とはクラウドのことです。拝年は新年の挨拶のことで、紅包はお年玉を入れる赤いポチ袋のことです。伝統的な春節では、その家の年長者が椅子に座り、家族はその前で、叩頭と呼ばれる拝礼をします。ひざまずいて、額を床につける丁寧な挨拶です。叩頭をしながら「新年おめでとうございます」などの口上を述べると、年長者がお年玉を入れた紅包を渡すというものです。この習慣は、農村では現在でも普通に行われていますし、都市でもさすがに叩頭まではしませんが、新年の口上を述べ、お年玉をもらうということが行われています。

それが今年は帰省ができないので、SNS「WeChat」や「抖音」(ドウイン、Tik Tok)などのビデオ通話機能を使って、新年の挨拶をします。そして、お年玉はWeChatペイで送金するということになりました。

チェーン展開をしているレストランなどでは、個室に大型モニタを設置して、同じ時間に異なる支店とビデオ通話で結び、遠く離れている家族がリモート会食できるサービスを行うところも出てきました。

 

面白いのは、今年の新年の挨拶の口上は、以前とは異なるものが流行しました。もちろん、冗談半分でのものですが、「おじいさま、新年おめでとうございます。現金でもアリペイでもWeChatペイでもかまいません」という口上がTik Tokを媒介として拡散し、流行しました。

なお、お年玉は大人でももらいます。縁起物なので、額は少額ですが、年長者から年下へ贈るものなので、拝年をした人には必ず渡します。春節が明けて、企業が仕事始めになる日には、CEOがロビーに立ち、出勤する社員全員に紅包を配るという企業も少なくありません。

このように、帰省できないことにより、様変わりをした春節ですが、もうひとつ大きな要因がスマートフォンです。ネットサービスは、都市にいても、農村に帰っても、ほぼ変わりなく利用することができます。そのため、ゲームで遊んだり、ECで買い物をすることもできるわけです。

今回は、今年の春節にどのような変化が起きたのかをご紹介します。

 

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高鉄駅に登場した自動運転カート。荷物運びだけでなく、改札口まで案内をしてくれる

中国版新幹線である京張高鉄の清河駅で試験運用が進んでいた荷物を運んでくれる自動運転カートが正式運用になった。高鉄の電子チケットをかざすことで、荷物を運んでくれるだけでなく、乗るべき改札口まで案内をしてくれるものだと人民鉄道網が報じた。

 

高鉄駅に導入された自動荷物カート

北京北駅から張家口までを結ぶ全長174kmの京張高鉄(中国版新幹線)が2019年12月30日に開通をしている。この京張高鉄は、北京冬季五輪北京市と競技場を結ぶ重要な路線となる。途中には、万里の長城の観光名所として有名な八達嶺長城駅もある。

この京張高鉄は、北京五輪の戦略路線ということもあって、さまざまなテクノロジーが導入されている。その中でも、話題になっているのが荷物を運んでくれる自動運転カートだ。中国科学院自動化研究所と鉄科院電子研究所が共同開発したもので、京張高鉄の清河駅で開通当初から試験運用されていたが、1年後の2020年12月には正式運用が開始されている。

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▲清河駅で正式運用されている自動運転カート。高鉄の電子チケットをかざすと、荷物を運びながら改札口まで案内してくれる。

 

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▲2019年末に開通した京張高鉄。北京と北京五輪の競技場がある張家口を結ぶ。途中には有名な観光地である八達嶺長城もある。

 

荷物を運ぶだけでなく、改札口まで案内もしてくれる

高鉄のチケットは、電子化が進んでいて、多くの人がスマホの電子チケットか、ICつき身分証に紐付けられる電子チケットを使っている。この自動運転カートに荷物を乗せ、電子チケットをかざすと、荷物を運んでくれるだけでなく、改札口まで道案内をしてくれる。もちろん、人を識別して、自動で避けながら走行する。

荷物には盗難防止用のベルトがかけられるようになっているが、重量センサーも備えられ、電子チケットをかざさずに荷物を取ると、警報がなる仕組みになっている。荷物を乗せたら、あとは自動運転カートの後をついていけば、自分が乗る高鉄の改札口までたどり着ける。荷物は最大100kgまで運搬できる設計になっている。

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▲盗難防止のためのストラップも備えられ、また、チケットを再度かざさずに荷物を下ろすと、重量センサーが感知をして、盗難だと認識して警告音が鳴る。

 

「途中でトイレに寄りたい」にも対応

この自動運転カートには、駅舎内の精密地図データが搭載されている。そのため、自動運転カートにしたがって改札まで移動する途中で、トイレや飲水所、キヨスクなどによりたい時は、パネルで設定をすると、そこに寄るルートを計算して案内をしてくれる。

また、乗車までに時間がある時に、駅舎内のレストランで食事をしたい、専用待合室でゆっくりとしたいという場合は、追従モードにすることもできる。服装などから持ち主を認識して、人の後ろをついていくというものだ。

高鉄の駅は非常に広いため、重い荷物を持って歩き回るのは疲れるものだ。自動運転カートであれば、その煩わしさから解放され、荷物の盗難の不安も軽減される。

今後、この自動運転カートは京張高鉄を中心に、高鉄の各駅に広がっていくことになる。また、空港でもすでに同様の自動運転カートの運用が始まっている。

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▲電子チケットをかざすとのるべき改札口まで人を案内してくれる。途中でトイレや売店によることも設定可能。