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拼多多がタオバオに迫る勢い。しかし、客単価を上げるという大きな課題も

拼多多の月間アクティブユーザー数がトップのタオバオに迫る勢いになっている。しかし、地方企業製品、農産品を主力販売品とする拼多多は、客単価があがらないという課題を抱えている。この課題をクリアできるかどうかが、拼多多の今後の成長速度を決める鍵になると表外表里が報じた。

 

まとめ買いしづらい農産品をセールの目玉にした拼多多

今年の11月11日の独身の日セールは、各ECとも大幅に記録更新をして成功に終わった。しかし、異変も起きている。

ひとつはアリババ、京東は例年の11月11日だけの単日セールではなく、11月1日から11日までの11日間にセール期間を延長した。また、急成長するソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)は、農産品をセールの目玉としたことだ。

農産品をセールの目玉商品にすることは得策ではない。なぜなら、消費期限が短いためにまとめ買いをする人が少ないからだ。日用消耗品の多くは消費期限が長いかないため、セール期間に大量のまとめ買いをしてくれる。家電製品や電子機器は単価が高い。

農産品はまとめ買いもされず、単価も安く、セール品としては不利。なぜ、拼多多は農産品を目玉にしたのだろうか。

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▲拼多多のWeChatミニプログラム。農産品や地方企業が製造した加工食品、日用品が主体であるため、客単価があがらない。人気の商品はいずれも10元(約160円)以下だ。

 

地方弱小企業を全国区にする拼多多

拼多多はソーシャルECとして急成長をし、MAU(月間アクティブユーザー数)では京東を抜き第2位となり、淘宝網タオバオ)に迫る勢いを見せている。同じ商品を買う人の人数が増えるほど安くなる仕組みで、購入者を募るためにSNS「WeChat」で商品情報が拡散をしていく。これがプロモーション効果となり、大量の商品が売れるという仕組みだ。

拼多多は、中国の地方企業を活性化させた。地方にも、優れた製品を作れる企業、優れた農産品を生産できる農家はたくさんあるが、全国展開をするためのプロモーション、物流、営業などのノウハウがないために地方企業の地位に甘んじている。それが拼多多を利用すると、SNSでの拡散がプロモーションとなり、流通は宅配便物流を使うことで、全国に販売できるようになる。地方の企業、農家は拼多多を利用することで売上を大幅に増やすことができている。

 

客単価を上げることが課題の拼多多

拼多多の勢いは止まらない。2020年Q2のアクティブユーザー数は7.42億人に達し、第1位のタオバオの8.01億人に迫ってきている。

しかし、拼多多の課題は、そもそもが地方企業の安価な製品をさらに安く売るために流通総額が小さく、利益率も低いことだ。これを解消するためには、「ユーザー数の増加」「客単価の増加」「購入頻度の増加」の3つが必要だが、ユーザー数の増加は、ほぼ限界に達していて期待できない。

そこで、客単価と購入頻度を高める工夫をしているのが拼多多の現在だ。その手法は「100億補助」と呼ばれるもの。拼多多側が100億元の資金を用意し、特定の商品に対して購入補助を行う。これにより、消費者は実質的に仕入れ値以下の激安価格で商品を購入することができる。

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▲拼多多とタオバオの月間アクティブユーザー数の比較。拼多多はトップのタオバオに迫る勢いを見せている。しかし、客単価が上がらないというのが大きな課題になっている。

 

客単価が限界に達している拼多多

しかし、このような施策も限界に達しようとしている。2020年Q2時点での年換算平均客単価は1857元で、2020Q1からわずか0.81%しか伸びなかった。100億補助の効果が薄れてきているのだ。

さらに、販売する製品のジャンルでも、拼多多は苦しい立場に追い詰められつつある。多くの消費者が日用雑貨や化粧品などを購入するときはタオバオを使い、家電や電子製品を購入するときは京東を使う。それはそのECの顔であり、信頼感があり習慣になっている。

例えば、京東はCD-Rなどの記録メディアを販売するショップから始まり、電子製品と家電製品のECで成長をしてきた。大手メーカーの製品を扱い、また、中国のほぼ全土で24時間配送を達成し、質の高い製品がすぐに宅配されるという信頼を得ることに成功した。

これにより、次第に日用雑貨もついで買いとして購入されるようになり、日用雑貨を購入するようになると、購入頻度があがるようになる。京東の30日間留存率(アプリを開いてから30日以内に再度開く率)は、2018年頃から急上昇をしている。

つまり、そのECの顔となるジャンルの製品での顧客満足度を高め、信頼感を得て、それから日用雑貨、食品などの購入頻度が高い商品の購入に結びつけていく。これにより、客単価と購入頻度を高めていくことができる。

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▲京東は、電子製品と家電製品の販売が主体で、この分野では消費者の信頼を得ている。日用雑貨製品を扱うことで、電子、家電のついで買いを促すことで成長をしてきている。そのため、電子、家電の販売額比率は年々下がっている。

 

農産物を「顔」にせざるを得なかった拼多多

拼多多はこのようなタオバオや京東が得意としているジャンルの製品が弱い。地方企業の製品が中心となっているため、価格は安く、品質はそこそこというものが多い。さらには、売ることを優先して、大手メーカーとそっくりのロゴや商標を使い、権利侵害の訴訟も起きている。

一方で、農産品に関しては地方企業を主軸とする拼多多にとっては、高い品質の商品を低価格で提供することができる。そのため、拼多多は、農産品を「ECの顔」とする戦略を取っている。

ただし、農産品には賞味期限があるために、まとめ買いをすることができず、購入頻度は上がる。しかし、単価が安いために客単価を上げることが難しい。

拼多多は、タオバオを脅かすところまで成長をしてきたが、タオバオを追い越すには「客単価の増加」がどうしても必要になる。ここに対しては、拼多多はまだ有効な施策を打ち出せていない。客単価を上げることができるかどうか、それが今後、拼多多がさらに成長できるかどうかの大きな鍵になっている。

 

 

育てると、本物の果物がもらえるゲーム。課題になっている新規顧客獲得コストを下げる効果

果樹を育て、実ると本物の果物が自宅に送られてくる育成ゲームがさまざまなネットサービスで採用されている。これに夢中になる人も多数現れている。ネットサービスでは、上昇する新規顧客獲得コストを下げる効果と、アプリを毎日開く効果を期待していると南方週末が報じた。

 

果樹を育てると、本物の果物が送られてくるゲーム

各ネットサービスが、アプリ内にゲームを導入する動きが広がっている。すでに、スマホ決済「アリペイ」、EC「天猫」(Tmall)、EC「京東」、ソーシャルEC「拼多多」、生活サービス「美団」、即時配送「ウーラマ」などが導入をしている。さらに、10月には、ライドシェア「滴滴出行」が、猫を集めて育てるゲームを導入した。滴滴出行によると、10月末の段階で、5.4億匹の猫が集められたという。

このようなゲームの多くは、果樹などを育てるものだ。毎日アプリを開いて、木に水や肥料をやる。すると、果樹が育っていき、実がなる。ここがポイントだが、実がなると、ほんとうの果物が一箱自宅に送られてくる。バーチャルな木を育てて、本物の果物がもらえるというゲームなのだ。

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滴滴出行が始めた猫を集めるゲーム。ARで風景の中にいる猫を探して集める。全部集めると現金が還元される。すでに5.4億匹の猫が集められた。

 

果物集めに夢中になる人も

手間はかかるが、果物がもらえる。このようなゲームに夢中になる人が続出している。広州市で働くデザイナーの郭佳さん(仮名)は、美団などのゲームにより、10月は3箱の果物を受け取った。1箱は1.5kgほどで、とても一人では食べきれない量だ。これがすべて無料なのだ。「きちんと数えているわけではありませんが、1年前から始めて、今までに少なくても20箱は果物をもらっています」。

ただし、これだけの果物をもらうにはコツがある。果樹を早く育てるには、肥料が必要になる。肥料は、サービスを利用することで一定量がもらえる。つまり、果物は一種の還元ポイントなのだ。

この肥料をどれだけたくさんもらうかがポイントで、例えば、美団でハンバーガーとコーラとポテトを注文するとき、まとめて注文せずに、3つを別々に注文する。注文回数に応じて肥料がもらえるからだ。同僚がコーヒーを飲みたいというときは、代わりに注文をしてあげ、お金を後で精算する。注文したことによって肥料がもらえるからだ。

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▲アリペイの果樹を育てるゲーム。果物が実ると、本物の果物が自宅に送られてくる。



他人の注文も代行し、肥料を集める

上海で企業に勤務する20代の李青さん(仮名)も、このゲームに夢中になっている人の一人だ。彼女は1年ほど前からこのゲームを始め、11箱の果物を獲得した。先月受け取ったキウイのいくつかが傷んでいた。それを顧客センターに告げると、お詫びとして15元を受け取った。

李青さんは、果物をもらうために、会社では昼前に同僚のデリバリー注文係を自ら買って出ている。同僚の注文を取り、美団で注文をし、代金を精算する。それにより大量の肥料を獲得し、ゲーム内の果樹を促成栽培している。

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▲アリペイの鶏を育てるゲーム。玉子を産むと、それが貧困地域の子どもたちに寄付をされると社会貢献ができるゲーム。

 

上昇する新規顧客獲得コストを果物ゲームが抑えてくれる

このような過度な果物取得に対して、サービス提供側はどう考えているのだろうか。過剰に果物が獲得され、困惑をしているのだろうか。サービス提供側は、このような行為を歓迎している。果物をたくさんもらった人がSNSでそのことを広めるにつれ、ゲームに熱中する人が増え、利用率があがり、新規顧客も獲得できるからだ。

ソーシャルEC「拼多多」では、果物がもらえる「多多果園」を始め、2019年Q1だけで1100万人も多多果園のアクティブユーザーが増加をし、1日のアクティブユーザー数は5000万人を超えた。

各ECの現在の最大の課題は「頭打ち問題」だ。もはや多くの人がECを使うようになり、これ以上の新規ユーザーを獲得することが難しくなっている。2013年頃は、流通総額も毎年60%成長をしていたが、2019年のEC流通総額は10.63兆元であり、成長率は17.8%にまで低下をしている。

各ECの新規顧客獲得コストを財務報告書から計算すると、アリババの場合は2018年には390元であったものが、2019年には536元に上昇している。拼多多では2018年に77元であったものが、2019年には197元に上昇している。京東は新規顧客獲得コストの上昇を抑えることに成功しているが、それでも2019年は757元と高止まりをしている。

果物にもよるが、中国の果物価格は安く、ゲーム用の果物納入業者によると、1箱の納入価格は、9.5元から13.5元だという。すると、年12箱だとしても、114元から162元ということになる。これは1人あたりの新規顧客獲得コストに比べて小さい。果物ゲーム目当てに新規加入してくれるのであれば、獲得コストを抑えることに貢献してくれるのだ。

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▲同様のゲームは、さまざまなネットサービスが採用している。新規顧客獲得コストを下げる効果が期待されている。

 

毎日アプリを開く習慣を養成する

さらに、果樹に水をやるために毎日アプリを開かなければならない。肥料を得るためにはサービスを利用しなければならない。果物ゲームはアプリの起動回数を高めることにも貢献してくれる。アプリを開けば、セールや割引などの情報が目に入り、サービスの利用率が上がっていく。

美団は、シェアリング自転車「Mobike」を買収した時、Mobikeのアプリを廃止して、その機能を美団アプリ内に取り込み「美団シェア自転車」に衣替えをした。これはブランディングを整理する意味もあったが、アプリの起動回数を高める工夫のひとつでもあった。シェアリング自転車を利用する人は、乗る時と降りる時の2回アプリを開くので、アプリ起動回数が上がるのだ。シェアリング自転車を使ったついでに美団アプリでフードデリバリーや映画のチケット予約などのコーナーが目に入り、美団のサービスを使ってもらう波及効果もある。

 

会員数と利用回数の頭打ちがネットサービスの課題になっている

中国の生活系サービスは、会員数の伸び、利用回数の伸びが鈍化をしている。そのため、どのサービスでも新規顧客獲得コストを抑えることと、アプリの起動回数を高めることに注力をしている。

この両方の数値を改善する手法として、毎日水をやらなければならない果樹ゲームが注目をされ、多くのサービスで採用されるようになっている。

 

 

コロナ終息後の復調の鍵は「中高年」と「ネットサービス」

コロナ終息後、さまざまな業種が復調をしているが、その中でも目立つのが中高年に対応をしたネットサービスだ。中高年のネット人口は増え続けている。アクティブな中高年が増え、スマートフォンを使いこなすようになっているからだ。また、中高年は信頼度でブランドを選ぶ傾向があるため、一度信頼を勝ち得た企業は復調が早かったと健康産業人が報じた。

 

店舗の客足は戻るのか、永遠に戻らないのか

このコロナ禍で、旅行、飲食、娯楽、日用品小売などが大きな打撃を受けた。特に実体店舗への打撃は深刻だった。しかし、中国の新規感染者数はほぼゼロになったものの、経済に対するコロナ禍の影響は終わっていない。復調をする企業もある一方で、実体店舗の客足は鈍いままで、完全復調がなかなか見えてこない。

言うまでもなく、EC、デリバリー、モバイルオーダーという非接触、宅配のサービスが広まったからだ。感染への不安が解消した今でも、このような非接触サービスを使い続ける人が多く、その分、実体店舗の売上に影響をしている。

これがコロナ禍という一時的な現象で、いつかは以前と同じように戻るのか、それとも消費スタイルが転換をしてしまったのか、関係者の間で大きな議論になっている。

 

コロナ禍でEC化率は20%+で定着

有力な見方は消費スタイルが転換したというものだ。なぜなら、中国は2003年にSARSの感染拡大で同じ体験をしており、その時にアリババや京東(ジンドン)などのEC企業が登場し、一気に中国はEC時代に突入した。

社会総消費に対するECの消費額、つまりEC化率はコロナ前で20%に達していた。それがコロナ禍以降、30%近くになる月もあるほどだった。実体店舗が営業再開を始めるとEC化率はやや下がったが、EC化率は20%代前半を推移している。

なお、「令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子取引に関する市場調査)報告書」(経済産業省)によると、日本のEC化率は6.76%とされている。いかに中国のECが日常生活に浸透しているかがわかる。

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▲社会消費に対するEC消費(EC化率)の変化。コロナ禍以前は20%程度だったが、コロナ禍で急上昇をした。その後落ち着いているが20%前半で推移をしている。

 

ネットサービス復調の鍵は中高年

では、ネットサービスはなぜ素早く復調できたのだろうか。その鍵になっているのが中高年だ。中国の国営企業では、早ければ50歳、遅くとも60歳には定年退職になる。そのため、50歳以上を「老年」に分類することが多い。この50歳以上の中高年に対応した企業が、終息以降素早く復調をしている。

それは、コロナ禍以前にじゅうぶん予測できたことだ。「第46次中国インターネット発展状況統計報告」(中国インターネット情報センター、CNNIC)によると、2020年6月時点の中国のネット利用者は約9.4億人。3年前の2017年6月は約7.5億人であり、いまだに伸び続けている。

しかし、その内訳を見ると、伸びているのは40代以上。特に50代以上の中高年の伸び率が著しい。若年層は人口が減っていることもあり、相対的な割合は減少傾向にある。

つまり、中国のネットサービスの新規顧客は、若年層ではなく、中高年となっているわけで、ここのフォーカスをすることが企業には求められていた。それができていた企業は、終息以降に復調だけでなく成長を始め、それを怠っていた企業は苦しむことになっている。

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▲中国のネット人口。現在、約9.4億人。伸び率は年々鈍化している。

 

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▲ネット人口の世代別変化。30代以下は構成比としては減少をしている。一方で、中高年以上が大きく伸びている。

 

中高年がライブコマースで買い物体験を楽しむ

特に目立ったのは、感染拡大期間に中高年がライブコマースで買い物をする現象だ。ライブコマースは「Tik Tok」「快手」「タオバオライブ」などで、販売業者がライブ配信をし、その場で紹介されている商品を購入できる仕組み。

体験していただければわかるが、フリックするだけで次のライブコマースに切り替えられる使い勝手のよさもあり、見ているだけで、賑やかな商店街を冷やかして歩いているような楽しさがある。買い物をせずに、ただ見るだけというエンターテイメントのひとつとして楽しんでいる人も多い。

 

・思った以上にスマホを使いこなしている中高年

健康産業人では、アンケート調査ではなく、手間をかけて、中高年の訪問調査を行っている。その知見によると、現在の中高年は想像以上にアクティブで、スマートフォンになじんでいる人が多いという。

・常用しているアプリは、WeChat、タオバオ、京東、拼多多、百度、今日頭条、美篇(写真、テキスト主体のSNS

・旅行関連のアプリを多数使っている。携程、飛猪などの予約アプリ、百度地図、高徳地図などの地図アプリ、滴滴出行などのタクシー配車アプリなど。

・金融理財アプリも使っている。中国工商銀行招商銀行など、自分が利用している銀行のアプリを入れ、オンラインバンキングとオンライン投資信託を利用している。

・動画共有アプリをよく使う。優酷、愛奇芸、テンセントビデオなどの映画やテレビ番組が見られる動画アプリや、Tik Tokなどのショートムービーアプリを使っている。以前の中高年はテキスト志向だったが、現在では完全に動画志向になっている。

ライブコマースで桁外れの売上をあげるライブ配信主、網紅(ワンホン)は若い世代がメディアではよく取り上げられるが、近年、目立つのが中高年の網紅だ。販売しているものは、健康食品や旅行、投資信託、車、家など単価の高い商品が中心になっている。

 

中高年に特徴的な「ブランドへの信頼感」の作り方

健康産業人は、終息後、素早く復調し、成長軌道に乗った日用品販売EC企業を紹介している。この企業では、コロナ禍以前から、将来性を考えて、中高年への販売に力を入れていた。

と言っても、中高年向けの特別な商品を用意したわけではない。全世代向けの商品を販売し、そこに中高年向けの視点を持ち込んだ。例えば、緑茶のような飲料を販売するときに、緑茶の成分が生活習慣病予防にどのような効果をもたらすかを説明するというものだ。

この企業は、今年2020年の2月と3月の感染拡大が最も厳しい期間、購入者に無料のおまけとして、消毒液とマスク、サプリメントをつける施策を行なった。中高年はアクティブだといっても、感染拡大期間には、感染リスクを恐れて買い物すら控える人が多かった。そのため、このおまけ策は歓迎された。

それでも、感染拡大期間、売上は50-60%に落ち込んだという。消毒液やマスクを配布したといっても、それだけで必要な量をまかなえるほどではなかったからだ。マスク欲しさにそのECを利用するという人が現れるほどまでではなかった。

しかし、終息後の復調スピードが違った。4月の段階で、昨年の80%程度まで回復をし、6月になると昨年より20%も売上が増えた。

健康産業人は、この企業は消毒液やマスクを配布することで、中高年顧客の信頼を勝ち取ることに成功したと分析している。中高年は、ブランドに関しては保守的で、高機能の新興ブランドが登場し、そのよさを理解していていも、なじんでいるブランドの製品を購入する傾向がある。

中高年の消費行動には、「ブランドへの信頼感」が大きく作用していると指摘している。

 

コロナ禍は想定できなくても、中高年シフトは想定できた

コロナ禍のようなリスクが存在することを予測できた人はほとんどいない。ましてや、それがどのタイミングで起きるかなど予測できるはずもない。しかし、「ネット小売は中高年にフォーカスすべき」「中高年の消費行動はブランドへの信頼感が決め手になる」ということは、コロナ禍以前から明らかになっていたことで、その対応をしていた企業が終息後に業績を伸ばしているという、ビジネスではあたり前のことが起きているにすぎないとも言える。

コロナ禍によって、目先の利益にしか興味がない企業が淘汰され、事業を持続させていくことを考えている企業が生き残る。そのような選別が起こっている。

 

 

コロナ禍のショッピングモール。オンライン対応で成功したのはわずか15%

コロナ禍によりショッピングモールが総崩れになっている。モールの多くは集客力を高めることに意識が向いていたため、オンラインへの対応が遅れていた。それがコロナ禍で集客不能の状態になり、慌ててオンライン対応を始めたものの、多くが失敗をしていると懂一点的30楼が報じた。

 

コロナ禍に対処できたモールはわずか15%

ショッピングモールが苦しんでいる。今年2020年上半期のコロナ禍により、外出が控えられ、ショッピングモールの客足が止まった。当局の指導により、一定期間休業をするショッピングモールも多かった。

そこで、対応策として、ショッピングモールはO2O、新小売に対応し、スマホ注文で宅配をする仕組みを始め、さらにライブコマースを行い、ネット販売に隘路を模索しようとした。

しかし、結果は思わしくないようだ。「感染拡大期間、ショッピングモールが採用したデジタル販売手段」(商業地産デジタル化研究社)の186業者へのアンケート調査によると、91%のショッピングモールが感染拡大期間に何らかのオンライン販売手法を行なったが、結果に満足をしたと回答したショッピングモールはわずか15%で、73%が満足していないと回答している。

オンラインに対応できていなかったモール

この調査によると、多くのショッピングモールが、コロナ禍以前には、O2Oや新小売に対する対応ができていなかったようだ。調査対象のショッピングモールのうち、オンライン会員システムを構築または構築する計画を持っているところはわずか43%で、57%は会員システムそのものが存在しなかった。

2月18日から2月21日というコロナ禍が最も厳しい時期を抜け出して、ようやく減少傾向が見え出した期間、ショッピングモールの新小売による販売数は惨憺たるものだった。この4日間に注文数が100件以下というところが38%もある。500件以下だと75%を超える。まったくお話にならないところがほとんどだった。

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▲2月18日から21日までの新型コロナの感染拡大が最も厳しい時期に、ショッピングモールが受けたオンライン注文件数。100件以下という話にならないレベルのモールが38.82%もあった。

 

集客力を高めることを重視していたモール

このようなショッピングモールのO2O、新小売の失敗には3つの原因があると懂一点的30楼は解説している。一言で言えば「対応が遅すぎた」ということになる。

ひとつ目の理由は準備不足だ。社会消費品販売額(個人消費)のうち、実体商品オンライン販売額が占める割合=EC化率は、2018年が16.5%前後、2019年が20.7%と年々上昇をしている。そのため、2018年頃から多くの小売業がO2O、新小売をテーマに業態改革を始めていた。

2020年に入ると、EC化率は急上昇。6月には29.06%に達する。その後、実体店舗が復調をしてきて、EC化率は下がっていくが、それでも23%程度を維持し、今年2020年合計では25%前後になると見られている。

一方で、ショッピングモールは、集客力ばかりに目を向けてしまい、オンライン販売の仕組みを構築してこなかった。それがコロナ禍により、泥縄で始めてみても、すべての施策が後手に回ることになる。

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▲社会消費品販売額(個人消費に相当)のうちのオンライン購入率。つまり、EC化率は年々上昇している。コロナ禍期間には30%にも達しようとしていた。この統計を見れば、あらゆる小売業がオンラインに対応することは必須だった。

 

オンラインの目抜き通りはすでに占有されている

2つ目の理由が、オンライン販売の世界もすでに目抜き通りは先行者により占有されてしまっているということだ。

最も成功をしたのは、杭州市を中心に26都市50店舗を展開する銀泰百貨(インタイ、Intime)だ。銀泰では、2017年1月という早い段階からアリババと提携して新小売を導入している。スマホ注文により10km圏内2時間配送をするだけでなく、最も成功したのがライブコマースだった。

このライブコマースは、売上を狙ったものではなく、接客品質を上げるためのものだった。ライブコマースに出演するのは、各売り場のスタッフ。自分の担当商品の中から自信を持って推薦できる商品の特長や使い方を紹介する。それを見た利用客が店舗に行くと、出演をしたスタッフが実際にカウンターの中で働いている。ライブコマースが話のきっかけとなり、声をかけやすくなる。スタッフは、レジ係の作業が減り、本来の業務である商品知識を活かしたコンシェルジュ業務に集中できるようになる。

このような改革を行なったところにコロナ禍が起こり、銀泰百貨もコロナ禍により営業自粛をしたが、毎日200以上のライブコマースを配信、1配信あたりの平均視聴者は1.5万人を突破。合計すると、以前の来店客数よりも多くなり、「クラウド百貨店」と呼ばれるようになった。

また、北京など20都市に67店舗を展開する天虹百貨も早くから新小売を導入し、オンライン会員はすでに2600万人を突破している。今年になって、社名も「天虹商場」から「天虹数科商業」に変更し、デジタルシフトを本格化させている。

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▲銀泰百貨は、2017年から新小売に対応し、販売スタッフによるライブコマースを始めていた。これによりコロナ禍でもクラウド百貨店として大きな損失を受けることなく乗り切っている。

 

新小売を前提にした新世代ショッピングモール

また、最初から新小売を前提にしたショッピングモールも登場している。凱徳星商城(カイダーシン、CaptaLand)だ。シンガポール、中国、マレーシアなど5カ国の53都市105ヶ所のショッピングモールを運営し、その多くで、新小売、ライブコマースを前提とした運営を行なっている。

つまり、新小売化は、コロナ禍以前から着手をしているところが数多くあり、コロナ禍が起きた時には、サイバー空間の目抜き通りはこのような先行者によって占拠されていた。ショッピングモールが窮余の策として新小売化を始めても、裏路地のような場所しかすでに空いていなかったのだ。

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▲キャピタランドは、ライブコマースやスマホ注文など新小売を前提にしたショッピングモール。中国、シンガポール、マレーシアなど5カ国53都市105ヶ所のショッピングモールを運営している。

 

EC各社が店舗小売に進出し、オンオフ小売を融合

3つ目の理由が、ECの実体小売への進出だ。ECの成長が頭打ちになっているのは数々の統計が物語っている。2019年のネット利用者は8.54億人で、2018年からの増加はわずか1.6%で、この10年で最低となった。ネット利用者そのものが頭打ちになっている。

その中で、アリババのECでは新規顧客獲得コストが536元、京東では758元となり、利用者数を伸ばすのが難しくなっている。

そのため、各ECは新小売、到家サービスなど、実体小売の領域に進出を始めている。ジャック・マーの予言「オフライン小売とオンライン小売は深く融合し、すべての小売業は新小売になる」が始まっていて、EC側から新小売の山を登り始めているテック企業がいる中で、ショッピングモールは新小売の山を反対側から登っていかなければならない。テック企業は、最初に桁外れの莫大な投資をし、主導権を握ってしまうという手法を取ることが多いので、ショッピングモールがこれに対抗をしていくことは簡単ではない。

 

新小売を軽視していたモールの苦境

結論を言えば、ショッピングモールは新小売への対応が遅すぎた。コロナ禍が起きるまで何もしていなかったところもある。もちろん、経営者にコロナ禍のようなことが起きることを予想し、対応策を練っておくべったというのは厳しすぎるかもしれない。

しかし、一方で、中国のEC化率が年々上昇をしていることも明らかだった。だとすれば、実体小売はECに対する何らかの準備をしておくべきだったと言うこともできる。実体小売そのものが厳しくなっている百貨店業界から、銀泰や天虹などの成功例が登場しているのは、その危機感が後押しをしてくれたからだ。

時代の潮流を考えれば、新小売への対応は必須だった。しかし、高い集客力を持つモールほど現状に満足をし、対応を怠った。それがコロナ禍により、一気にツケが回ってきた状態だ。

ショッピングモールが今から巻き返すのは簡単ではない。モールが巻き返しに成功し、息を吹き返すか、それとも20世紀のビジネスモデルとして消えていくことになるのか、正念場を迎えている。

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限界に達している独身の日セール。それでも記録更新をするアリババ

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 051が発行になります。

 

今年2020年の11月11日独身の日セールも、それぞれのECが大幅な記録更新をして終了しました。アリババの天猫(ティエンマオ、Tmall)は11日単日だけで3723億元(約5.9兆円)を売り上げ、昨年の2684億元から39%増という大幅な記録更新になりました。

しかし、今年で12年目となり、干支が一回りした独身の日セールは金属疲労を起こして限界にきているとよく言われます。その理由の最たるものが返品率の高さです。中国メディアの報道によると、服飾品で30%を超え、その他の日用雑貨でも30%近いと言われます。返品率は公表されていないので正確にはわかりませんが、多くの消費者がこの数字には納得します。なぜなら、多くの人が自分も返品をするからです。

 

日本では、ECで購入したものを返品するというのは、商品に何か問題があった場合だけですが、中国ではEC購入テクニックのひとつとして定着しています。

例えば、洋服や靴を買う場合、表示されているサイズが本当に自分に合うかどうかわかりづらいものです。そこで、3サイズぐらいを購入して、実際に着てみて、合うものを残し、それ以外を返品してしまいます。

また、色違いなども、現物を見ないと素材との関連で判断できないことも多いため、複数の商品を注文して、気に入ったものを残して、それ以外を返品します。返品は何も悪いことではなく、賢い買い物のテクニックのひとつになっているのです。販売業者もこのような返品は織り込み済みで、返品送料を無料にしたり、返金処理を早くするなどの工夫をしています。

 

また、独身の日セールでは、大量の返品が発生することがよく知られています。その原因は満減券と呼ばれるクーポンにあります。満減券は、例えば「1000元購入すると300円割引」という利用条件が設定された定額クーポンです。日本でもまったく同じものがあります。「300円割引!」というクーポンがあって、下の方をよく見ると、小さな字で「ただし、1000円以上ご利用の場合に限ります」と書いてあります。

このような満減券は、人気商品だけでなく、さらなるついで買いを呼び込むために利用されます。例えば、人気の売れ筋商品が960元である場合に、「満1000元減150元」のクーポンを配布します。960元の商品を買おうとしてこのようなクーポンを発見した消費者は考えます。追加で50元のものを買えば得ができる。合計金額は1010元になりますが、クーポンを適用して支払額は860元になります。クーポンなしで960元を知らうよりも100元も得ができるのです。

これでも販売業者は損をしません。販売業者には不良在庫になっていた50元の商品をはかしたい、あるいはその50元の商品を消費者に使ってもらって再購入を促したいなどの思惑があるからです。広告費やプロモーション費用を考えれば、ほとんど経費なしで商品を広めることができます。

 

しかし、消費者にとっては、その商品は本当にほしいものではありません。クーポンを使うために支払額合わせのために購入しただけです。中にはそれが思いがけず気に入ってファンになる人もいるでしょうし、箱も開けずに捨ててしまう人もいるでしょう。でも、多くの人は、その50元の商品を返品してしまうのです。そうすると、クーポンの適用額にはならなくなってしまいますが、多くの販売業者がうるさいことは言わず、素直に50元の返金に応じます。すると、この人は960元の商品を買おうとして、結局810元で購入できたことになります。販売業者は「返品をした」というデータが取れ、その消費者のプロフィールデータの分析精度が上がります。

そのようなことで、独身の日の返品ですら、消費者、販売業者双方が認める買い物テクニックのひとつになっているのです。

 

しかし、返品戦略はもはやあまり賢いテクニックとは呼べなくなっているかもしれません。これをゲームのように楽しんで、1元でも安く買うことに夢中になっている人もたくさんいますが、うんざりしている人も同じようにたくさんいます。

クーポンは満減券だけではありません。それが特定の店舗だけに適用できるのか、カートに対して適用できるかの違いもありますし、さらに割引率が決まっている条件付き定率クーポンもあります。また、紅包(ホンバオ)と呼ばれる現金送付(還元ポイントのような感覚)もあります。

さらにこれが利用できるタイミングであったり、「この商品を買ったら有効」など、さまざまな条件が複雑に組み合わさることになります。これはもはや「頭痛を起こす難解なパズル」とも言われていて、最適な組み合わせを見つけることは至難の業になっています。

なので、独身の日セールと言っても、数年前まではテンションがあがって、会社を休んで作戦を立てていたような人が、今では、日用消耗品をまとめ買いするだけになっていることも増えています。

独身の日セールは「得ができるから買う」というよりも、「他の時期に買うと損をするから買う」感覚になっているのです。

 

「中国ダブル11ネット購入消費信任洞察報告」(iResearch)では、ネット利用者に「今年2020年の独身の日セールで使う金額は、昨年のセールよりも多くする予定か、少なくする予定か」と尋ねました。

結果は40.9%の人が「多くなる」と答えましたが、「変わらない」と「少なくなる」を合わせると46.1%にもなります。数年前までは、11月11日は「中国人が買い物に熱狂する1日」と表現して間違いではありませんでしたが、現在は素直に「買い物に熱狂する日」とも言えなくなっています。

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▲2020年のセールでは、昨年と比べてどのくらいお金を使う予定かを尋ねた結果。「多くなる」が40.1%いたが、「変わらない」「少なくなる」も増えている。「中国ダブル11ネット購入消費信任洞察報告」(iResearch)より作成。

 

となると、ひとつの疑問が湧いてきます。それは、なぜ多くの人が冷めているのに、アリババは昨年比39%増もの好成績をあげることができたのだろうかということです。

それには、アリババのしたたかなデータてクロノジー戦略がありました。今回は、今年の独身の日セールでどうして大幅な記録更新が可能になったのかをご紹介します。

 

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東南アジアでも開催される独身の日セール。アリババとラザダの連携

11月11日には、東南アジア6ヵ国でも独身の日セールが行われる。その中心になっているのはLazada(ラザダ)だ。ラザダは2016年からアリババ傘下となり、技術や資金の支援を受けている。ラザダはアリババにとってもグローバル化の重要な一歩になっていると品玩が報じた。

 

東南アジアでも開催される「独身の日セール」

今年2020年11月1日から11日まで、中国のアリババのEC「天猫」(Tmall)などが中心となって、独身の日セールが行われ、昨年の記録を大きく上回った。独身のセールは今年で12年目となる。

11月11日には、東南アジアでも独身の日セールが開催され、今年で8年目となる。その中心になっているのは、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムでEC、物流、決済サービスを展開するLazada(ラザダ)だ。

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▲東南アジア6ヵ国でECを展開するラザダでも、11月11日に独身の日セールを行う。独身の日セールは、東南アジア全域でのセールになろうとしている。

 

コロナ禍を契機に東南アジアでもECに追い風

例えばタイでは、ラザダの流通額は毎年200%以上、つまり3倍以上の成長をしている。それでも、社会全体の小売総額の3%から5%程度でしかない。タイでは価格の安さよりも、サービスの手厚さを重要視する傾向があり、ECよりも実体店舗がまだまだ好まれる。また、地方都市、農村などではそもそもECで購入する習慣がまだ根付いていない。

しかし、今年2020年の新型コロナの感染拡大により潮目が変わった。2003年に中国でSARSの流行により、アリババの淘宝網タオバオ)の需要が一気に伸びたように、東南アジアでも人との接触を避けたい人たちがラザダを使い始めている。

また、ラザダの共同CEOである劉秀雲によると、高級品専門店は、以前はラザダに出店することに及び腰だった。しかし、2020年3月から現在の間に、50社を超える高級品メーカーがラザダに出店をしている。今年上半期のラザダのタイでの高級化粧品の売上は昨年と比べて540%増加し、購入者数は300%増えたという。

このような追い風にラザダも着々と手を打っている。各国で偽物商品を購入した場合の賠償制度を始めた。もし、偽物ブランド品などを購入してしまった場合は、タイとマレーシアでは価格の最高5倍まで、シンガポールベトナムインドネシアでは最高2倍までの賠償をするという制度だ。さらに、15日以内であれば、無条件の返品ができる制度も始めた。

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▲ラザダでも、中国で流行しているライブコマースを始めている。

 

アリババのテクノロジーを導入するラザダ

ラザダは、2016年にアリババ傘下となり、その最も大きな効果は、物流システムの構築だった。アリババ傘下の菜鳥物流からデジタル化された物流システムを導入し、さらに大型倉庫も整備をしていった。

現在、17の都市に30の大型倉庫を持ち、15の仕分けセンター、400箇所の配送拠点を持つようになった。さらに、6カ国すべてにサポートセンターを開設している。

また、商品点数を増やす点でもアリババ傘下に入ったことが大きな効果をもたらしている。中国メーカーの商品が大量にラザダで販売されるようになった。中国企業も、今後急成長が期待される東南アジア市場に進出をするルートとして、アリババ経由でのラザダへの出品に注目をしている。

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▲ラザダの流通センター。アリババの技術、資金の支援を受け、東南アジア最大のECに成長してきている。

 

現地化がラザダの当面の課題

ラザダは、2012年にドイツのインキュベーター、ロケットインターネットから生まれて、シンガポールで創業されたECだ。当時、東南アジアではアマゾンがまだ浸透していなかったがめ、アマゾンが入る前にその地位を確保しようという狙いだった。

しかし、成長はするものの、なかなか黒字化が達成できず、2016年、アリババが10億ドル(約1000億円)でラザダの経営権を取得した。

ラザダの課題になったのが「現地化」だった。中国系企業となったため、消費者から愛されるのが難しい。特に、政治的に中国との問題を抱えるベトナムなどではラザダに抵抗感を持っている人もいる。

タイ市場CBO(チーフ・ブランディング・オフィサー)であるタイ人のモリーは、この問題を地道な努力で解消しようとしている。「バンコクの有名なチャトチャックのフリーマケットは年に4回、3日間だけ開放されます。その3日間は、誰でも商品を売ることができます。私たちラザダも100種類以上の服飾品、化粧品を出品し、1万人以上の方が訪れました。購入した商品はそのまま持って帰ることもできますし、スマホで注文をして宅配をすることもできます。このような手法で、タイの消費者にラザダを知っていただき、さらにEC購入の利便性を知っていただこうとしています」。

 

東南アジアへの窓口として機能するラザダ

一方で、アリババ傘下に入って以来、ラザダは東南アジアのアリババになることをひとつの目標と定めている。2018年には、アリペイを運営するアントフィナンシャルの技術提供を受けて、独自のラザダウォレットをリリースした。

また、アリババのTmallとの提携を深め、中国ブランドがラザダに進出をする例が増えている。中国企業の多くが、東南アジア市場の成長力に注目をしているが、では具体的にどの国から進出をすべきかと考えると立ち止まってしまう。東南アジア市場と一口でいっても、各国は人種、言葉、宗教、文化それぞれが異なっているからだ。

そのような中国企業にとって、ラザダは東南アジア市場への窓口の役目を果たしてくれる。ラザダに出品をすることで、ラザダが適切な市場に配分をし、販売をしてくれるのだ。

さらに東南アジアのブランドがTmallに進出する例も生まれている。サプライチェーン、物流、管理などすべての面で、Tmallとラザダの融合が始まっている。

 

ラザダはアリババのグローバル化にとって重要な一歩

アリババにとって、ラザダは年々重要なECになってきている。今年2020Q1の決算発表の後のアナリストのリモート会議に出席したアリババの張勇(ジャン・ヨン、ダニエル・チャン)CEOは、こう述べたという。「東南アジアは、アリババのグローバル成長にとって重要な地区です。ラザダは、テクノロジーを活用して、持続的なデジタル小売プラットフォームを確立しました。今度は、人工知能技術を活用して、需要と供給のバランスを取り、持続的な成長が可能になるでしょう。ラザダは、アリババのグローバル化の重要な第1歩です」。

 

 

ファーウェイには定年も年齢制限もない。しかし、淘汰制度がある

ネットで広まるファーウェイの「35歳引退説」を、創業者の任正非が否定した。しかし、同時にファーウェイの研究職や管理職には厳しい淘汰制度も存在することも明らかにした。淘汰制度は、現在の中国の労働法では違法ではないが、近年、問題視もされるようになっている。企業の成長を取るか、雇用の安定をとるか、難しい段階に差し掛かっているとウォール街瞭望が報じた。

 

ネットで広まる「ファーウェイ35歳引退説」

「ファーウェイ35歳引退説」がネットに流れている。34歳、35歳の複数の元ファーウェイ社員が「年齢制限により解雇された」という訴えをSNSなどでしているからだ。このような言動に対して、ファーウェイはこれまで公式には何もコメントしてこなかった。

しかし、創業者の任正非(レン・ジャンフェイ)が、新入社員を前にした訓話の中でこの問題に触れた。

「私たちファーウェイには年齢制限はありません。各人の能力と貢献が、これからのファーウェイの戦略に適合するかどうかだけで判断をします。もし、年齢制限や定年制のようなものがあったら、私が真っ先にリストラされているはずです」。

任正非は、さらにファーウェイは病気退職についても寛容であることを説明した。病気退職をしても、配分された社員株はそのまま保有ができる。医師の証明書などは不要で、上司に申請するだけで可能だという。

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▲ファーウェイ創業者の任正非。35歳引退説を否定した。もしそんなものがあれば自分が真っ先にリストラされていると語った。しかし、ファーウェイの研究職や管理職には厳しい淘汰制度がある。

 

管理職では下位10%が自動的に淘汰される

しかし、ファーウェイはただ寛容であるだけでなく、厳しさも兼ね備えていることを説明した。

ファーウェイの従業員は「一般職」「研究職」「管理職」の3つに分類される。一般職については定年や年齢制限はなく、必要とされるのは経験のみだ。経験があれば、何歳になっても働くことができる。実際、60歳以上(中国国営企業では50歳から60歳が定年)の従業員もたくさんいる。

研究職は、社会変化に迅速に対応をするため、淘汰が行われる。ファーウェイが不要と感じた研究チームは解散させられる。解散となったチームの研究員は、自分のスキルに応じて、他のチームに加入しなければならない。どのチームからも加入を拒否された研究員は失職することになる。

管理職に関しては、成績に応じて、下位10%程度が自動的に解任され、新しい管理職が補充される。企業としての質を維持するためだ。解任された管理職は、一般職、研究職として再雇用をしてもらうか、あるいは辞職をすることになる。

つまり、一般職に関しては寛容だが、研究職と管理職に対しては厳しい仕組みが設けられている。

 

異動は公募制度によって行われる

また、ファーウェイでは、従業員の流動性を高めるため、従業員が主体的に異動をすることができる。各部署が社内公募を出し、それに従業員が応募をし、その秘密は保たれる。移動希望先の責任者が認めれば、異動が成立する。

そのため、上司によるパワハラ、セクハラ問題がまったくないわけではないが、多くの場合、従業員が主体的に異動をすることで解決する。部下が異動ばかりしてしまう管理職は、査定が悪化することで淘汰をされていくことになる。

 

ファーウェイで推奨される「之の字型成長」

ファーウェイで重要視されているのは「之の字型成長」だ。ひとつの部署で経験を積み緩やかに成長し、部署を異動することで新たな能力を開花させ、急速に成長する。そして、再び経験を積みながら緩やかに成長する。急成長だけでなく、緩やかな成長と急成長の両方が必要だと考えられている。

そのために、部署の流動性を高め、研究職と管理職には厳しい淘汰制度が設けられている。このファーウェイの考え方からすれば、ネットで言われる「35歳引退説」は、まったく意味のない愚かな施策になる。

 

中国で問題になり始めた「淘汰制度」

このような淘汰制度は、テック企業の多くが採用をしている。業務の質を高めるには有効な手法だが、一方で、個人の人格を尊重しないことになり、何より残酷な面がある。

現在の中国の法律では、従業員と企業の間の雇用契約の中で、淘汰制度が定められていて、双方が合意をして雇用をされているのであれば違法ではない。しかし、近年、「35歳引退説」や「996問題」(朝9時から夜9時まで週6日働く超過労働問題)が話題になるにつれ、専門家の間でも「淘汰制度」の是非を問う声が上がり、労働法で禁じるべきではないかという声もあがっている。

一方で、淘汰制度を廃止したところで、企業は別の理由で成績不良者を解雇するだけで効果は薄い。やりすぎると、中国企業の成長力を奪ってしまうと反対の声もある。

成長一辺倒で進んできた中国テック企業も、成熟の段階に進んでいる。今までのようにしゃにむに働くことで成長を確保するのか、あるいは別の成長の道を見つけることになるのか、分岐点に差し掛かっている。