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育てると、本物の果物がもらえるゲーム。課題になっている新規顧客獲得コストを下げる効果

果樹を育て、実ると本物の果物が自宅に送られてくる育成ゲームがさまざまなネットサービスで採用されている。これに夢中になる人も多数現れている。ネットサービスでは、上昇する新規顧客獲得コストを下げる効果と、アプリを毎日開く効果を期待していると南方週末が報じた。

 

果樹を育てると、本物の果物が送られてくるゲーム

各ネットサービスが、アプリ内にゲームを導入する動きが広がっている。すでに、スマホ決済「アリペイ」、EC「天猫」(Tmall)、EC「京東」、ソーシャルEC「拼多多」、生活サービス「美団」、即時配送「ウーラマ」などが導入をしている。さらに、10月には、ライドシェア「滴滴出行」が、猫を集めて育てるゲームを導入した。滴滴出行によると、10月末の段階で、5.4億匹の猫が集められたという。

このようなゲームの多くは、果樹などを育てるものだ。毎日アプリを開いて、木に水や肥料をやる。すると、果樹が育っていき、実がなる。ここがポイントだが、実がなると、ほんとうの果物が一箱自宅に送られてくる。バーチャルな木を育てて、本物の果物がもらえるというゲームなのだ。

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滴滴出行が始めた猫を集めるゲーム。ARで風景の中にいる猫を探して集める。全部集めると現金が還元される。すでに5.4億匹の猫が集められた。

 

果物集めに夢中になる人も

手間はかかるが、果物がもらえる。このようなゲームに夢中になる人が続出している。広州市で働くデザイナーの郭佳さん(仮名)は、美団などのゲームにより、10月は3箱の果物を受け取った。1箱は1.5kgほどで、とても一人では食べきれない量だ。これがすべて無料なのだ。「きちんと数えているわけではありませんが、1年前から始めて、今までに少なくても20箱は果物をもらっています」。

ただし、これだけの果物をもらうにはコツがある。果樹を早く育てるには、肥料が必要になる。肥料は、サービスを利用することで一定量がもらえる。つまり、果物は一種の還元ポイントなのだ。

この肥料をどれだけたくさんもらうかがポイントで、例えば、美団でハンバーガーとコーラとポテトを注文するとき、まとめて注文せずに、3つを別々に注文する。注文回数に応じて肥料がもらえるからだ。同僚がコーヒーを飲みたいというときは、代わりに注文をしてあげ、お金を後で精算する。注文したことによって肥料がもらえるからだ。

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▲アリペイの果樹を育てるゲーム。果物が実ると、本物の果物が自宅に送られてくる。



他人の注文も代行し、肥料を集める

上海で企業に勤務する20代の李青さん(仮名)も、このゲームに夢中になっている人の一人だ。彼女は1年ほど前からこのゲームを始め、11箱の果物を獲得した。先月受け取ったキウイのいくつかが傷んでいた。それを顧客センターに告げると、お詫びとして15元を受け取った。

李青さんは、果物をもらうために、会社では昼前に同僚のデリバリー注文係を自ら買って出ている。同僚の注文を取り、美団で注文をし、代金を精算する。それにより大量の肥料を獲得し、ゲーム内の果樹を促成栽培している。

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▲アリペイの鶏を育てるゲーム。玉子を産むと、それが貧困地域の子どもたちに寄付をされると社会貢献ができるゲーム。

 

上昇する新規顧客獲得コストを果物ゲームが抑えてくれる

このような過度な果物取得に対して、サービス提供側はどう考えているのだろうか。過剰に果物が獲得され、困惑をしているのだろうか。サービス提供側は、このような行為を歓迎している。果物をたくさんもらった人がSNSでそのことを広めるにつれ、ゲームに熱中する人が増え、利用率があがり、新規顧客も獲得できるからだ。

ソーシャルEC「拼多多」では、果物がもらえる「多多果園」を始め、2019年Q1だけで1100万人も多多果園のアクティブユーザーが増加をし、1日のアクティブユーザー数は5000万人を超えた。

各ECの現在の最大の課題は「頭打ち問題」だ。もはや多くの人がECを使うようになり、これ以上の新規ユーザーを獲得することが難しくなっている。2013年頃は、流通総額も毎年60%成長をしていたが、2019年のEC流通総額は10.63兆元であり、成長率は17.8%にまで低下をしている。

各ECの新規顧客獲得コストを財務報告書から計算すると、アリババの場合は2018年には390元であったものが、2019年には536元に上昇している。拼多多では2018年に77元であったものが、2019年には197元に上昇している。京東は新規顧客獲得コストの上昇を抑えることに成功しているが、それでも2019年は757元と高止まりをしている。

果物にもよるが、中国の果物価格は安く、ゲーム用の果物納入業者によると、1箱の納入価格は、9.5元から13.5元だという。すると、年12箱だとしても、114元から162元ということになる。これは1人あたりの新規顧客獲得コストに比べて小さい。果物ゲーム目当てに新規加入してくれるのであれば、獲得コストを抑えることに貢献してくれるのだ。

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▲同様のゲームは、さまざまなネットサービスが採用している。新規顧客獲得コストを下げる効果が期待されている。

 

毎日アプリを開く習慣を養成する

さらに、果樹に水をやるために毎日アプリを開かなければならない。肥料を得るためにはサービスを利用しなければならない。果物ゲームはアプリの起動回数を高めることにも貢献してくれる。アプリを開けば、セールや割引などの情報が目に入り、サービスの利用率が上がっていく。

美団は、シェアリング自転車「Mobike」を買収した時、Mobikeのアプリを廃止して、その機能を美団アプリ内に取り込み「美団シェア自転車」に衣替えをした。これはブランディングを整理する意味もあったが、アプリの起動回数を高める工夫のひとつでもあった。シェアリング自転車を利用する人は、乗る時と降りる時の2回アプリを開くので、アプリ起動回数が上がるのだ。シェアリング自転車を使ったついでに美団アプリでフードデリバリーや映画のチケット予約などのコーナーが目に入り、美団のサービスを使ってもらう波及効果もある。

 

会員数と利用回数の頭打ちがネットサービスの課題になっている

中国の生活系サービスは、会員数の伸び、利用回数の伸びが鈍化をしている。そのため、どのサービスでも新規顧客獲得コストを抑えることと、アプリの起動回数を高めることに注力をしている。

この両方の数値を改善する手法として、毎日水をやらなければならない果樹ゲームが注目をされ、多くのサービスで採用されるようになっている。