中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国EC関係者が常用する数値指標の公式4つ。大きなKPIを小さなKPIに分解する

中国のEC関係者は、数値指標を常に気にしている。分析ツールが豊富にあるため、リアルタイムで自動で表示される環境が整っているからだ。その中でも次の4つの公式が極めて重要だという。公式を理解していると、数値指標をあげるための具体的な施策がわかるようになるからだと璽承電商が報じた。

 

具体的な施策に結びつけるための公式理解

ECビジネスを展開するマーケティング部門では、さまざまな暗号のような名前の数値指標が使われている。PV(ページビュー)、CV(コンバージョン)などは広く知られるようになっているが、UU(ユニークユーザー)、UV(ユニークビジター)、直帰率あたりになると、マーケティング関係者以外あまり知らない/使わないのではないだろうか。

中国のECにも同様の数々の数値指標がある。しかし、日本と異なるのは、ECに関わる人すべてがその数値を気にしているということだ。マーケティング担当者だけではなく、エンジニアもバイヤーも営業も気にしている。もちろん、どこまで理解しているかは別だが、数値指標の変動をチェックしている。

もうひとつ大きな違いが、ひとつの数値指標の変動を見るだけでなく、その数値指標の公式を意識していることだ。その数値指標がどのような式で計算できるのかを知っておけば、公式の各項目を上げる/下げる施策を打つことで、目的の数値指標を改善できるようになる。

例えば、重要指標「ビジター価値」を上げようと考えると具体的な施策がなかなか思いつかないが、「ビジター価値=客単価×コンバージョン率」という公式を理解していれば、ビジター価値をあげるには「客単価をあげる施策」「コンバージョン率をあげる施策」の2つを行えばいいということがわかる。

このような数値指標の中でも、関係者全員が理解しておかなければならないのが次の4つだという。

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▲公式を理解しなければならない理由は、具体的な施策に結びつくから。販売額は4つの項目の掛け算となる。つまり、販売額をあげるには、4つの項目それぞれを上げていく施策を打てばいいことになる。

 

1:販売額=インプレッション×クリック率×コンバージョン率×客単価

販売額というのは売上の合計だから、単純に足算をして計算するのが普通。それをこのような複雑な式にしているのには意味がある。ECビジネスで最も重要な販売額をこのような公式で理解しておくと、この式を変換することで、さまざまな数値指標が理解できるようになるからだ。

インプレッションとは、ある商品がウェブなどに表示された回数のこと。そのうちの何人かがクリックをし、商品の購入ページを表示する。全員が購入に至るわけではない。実際に購入に結びついた割合がコンバージョン率だ。つまり、実際に購入に結びついた人数と客単価を掛け算すると販売額になる。

例えば、ある商品Aが1日に1000回ウェブやアプリ上で表示をされた。そのうちの40%の人=400人がクリック/タップをして、商品の購入ページを見た。そのうちの60%の人=400×60%=240人が実際に購入をした。平均の客単価は150円だった。すると、販売額は1000×0.4×0.6×150=3万6000円となる。

 

販売額をあげるには、4つの項目をあげる施策を打つ

この公式はさまざまな指標を考える上での基礎公式となるだけでなく、ECビジネスで最も重要な販売額をあげるにはどうしたらいいかがわかってくるという点でも重要だ。販売額をあげるには4つの項目の数値をあげればいいのだ。

インプレッションをあげるには、キャンペーンを行う、より多くのECに出品をするなどがある。クリック率をあげるには商品の表示方法を魅力的なものに変える。コンバージョンをあげるにはクーポン配布などの施策を行う。客単価をあげるには商品の質をあげたり、セット販売をするなど、具体的な施策は商品によって異なるが、販売額をあげる策を4つの項目ごとに具体的に考えていくことができる。

常に4つの数値変動を追跡し、下がった数値項目に対してテコ入れをするということも可能になる。

このような理由で、これは最も重要な公式だとされている。

 

2:ビジター価値=客単価×コンバージョン率

ビジター価値とは、商品の購入ページを見た人の平均客単価。この数値指標が重要なのは、商品の値上げ、値下げの判断に利用できるからだ。

商品を値上げをすると、客単価は上がる。しかし、一方で、コンバージョン率は下がることになる。そのため、適切な値上げをした場合は、客単価×コンバージョン率で計算されるビジター価値は変動しないはずということになる。

逆に言えば、ビジター価値が上昇をしている場合は、値上げが可能になる。一方で、ビジター価値が下落している場合は、値下げを考えなければならなくなる。

先ほどの例で言えば、150円×0.6=90円と計算される。

 

1の公式から、施策目標を立てやすい公式に変換をする

しかし、なぜ、客単価×コンバージョン率でビジター価値が計算できるのだろうか。

ビジター価値というのは、本来は販売額/ビジター数で計算できる。これがビジター価値を定義する公式となる。1の公式を理解していれば、ここからビジター価値の公式が導き出せる。

販売額=インプレッション×クリック率×コンバージョン率×客単価だが、ビジター数というのは、インプレッション×クリック数、つまり購入ページを訪れた人の数なので、販売額=(インプレッション×クリック率)×コンバージョン率×客単価=ビジター数×コンバージョン率×客単価となる。

この式を、ビジター価値=販売額/ビジター数に代入すると、(ビジター数×コンバージョン率×客単価)/ビジター数となり、分母分子の両方にビジター数が現れることから約分することができ、コンバージョン率×客単価となる。

 

3:ROI=ビジター価値/クリック単価

ROI(Return On Investment)とは、ECビジネスの場合は費用対効果のこと。よく、ビジネスの現場では売上がKPIとして使われることが多いが、それはあくまでも仮目標であって、本来は利益を最大化することが最終目標だ。極端な話、100円の商品を売るのに100円のクーポンをつけて販売をすれば、売上は100円になるが、利益は0円になってしまう。

利益の最大化に重要になるのがROIだ。どれだけの経費をかけて、どのくらいの売上になったかを表してくれる数値指標となる。

このROIを最大化するには、ビジター価値を高めればいい。クリック単価というのは商品購入ページを開いてもらうためにかかったプロモーション費用など。クリック単価を小さくすることでもROIを上昇させることができるが、クリック単価には運営経費など固定費も含まれており、簡単に下げることは難しい。プロモーション費用などを削って下げても、今度はビジター価値(客単価×コンバージョン率)のコンバージョン率が下がり、ビジター価値まで下げてしまうことになる。そのため、ROIを高めるにはビジター価値を高めるのが基本的な考え方になる。

 

ビジター価値を高めると費用対効果も上がる

ROIの本来の定義は「販売額/経費」だ。しかし、今までの公式から、販売額=インプレッション×クリック率×コンバージョン率×客単価となり、経費=インプレッション×クリック率×クリック単価となる。

これをROI=販売額/経費に代入すると、ROI=(インプレッション×クリック率×コンバージョン率×客単価)/(インプレッション×クリック率×クリック単価)となり、「インプレッション×クリック率」は分母分子の両方に現れるので約分することができ、ROI=(コンバージョン率×客単価)/クリック単価となる。

ここで、2の式からコンバージョン率×客単価=ビジター価値なので、

ROI=ビジター価値/クリック単価となる。ここから、ROIを高めるにはビジター価値を高めればいいということがわかる。

 

4:損益分岐ビジター価値=クリック単価/粗利率

ビジネスをする時に、ROIとともに重要なのが、商品の損益分岐点だ。損益分岐点とは利益0の状態のこと。それ以上であれば利益が出て、それ以下であれば赤字となる。そのため、損益分岐点を死守することが、ビジネスにとっては継続できるかどうかを決めることになる。

しかし、損益分岐点を常に意識するのは難しいので、損益分岐点になるビジター価値を計算しておくことが重要だ。ビジター価値が損益分岐ビジター価値を上回るように施策を打てばよくなる。ビジター価値を高めるには、ビジター価値=客単価×コンバージョン率の公式から、客単価とコンバージョン率を高める施策を打てばいいということがわかる。

 

損益分岐点はビジター価値で見る

損益分岐点というのは、経費と粗利が同じになっている状態。例えば、150円で販売している商品の仕入れ値が100円だとすると、粗利は50円となる。さらに、運営やプロモーションなどの経費が50円かかっている場合、利益は0円になってしまう。黒字にするには、粗利をあげる(値上げする、仕入れ値を安くする)、経費を下げるなどをしなければならない。

ROI=販売額/経費だが、損益分岐点では経費と利益が同じになっているので、損益分岐ROI=販売額/粗利と表すことができる。

粗利は販売額×粗利率なので、これを代入すると、損益分岐ROI=販売額/(販売額×粗利率)となり、販売額が分母分子に現れるので約分でき、損益分岐ROI=1/粗利率となる。仕入れ値が100円、販売価格が150円の商品では、粗利は50円、損益分岐ROIは1/50=0.02となる。

ところで、3の公式より、ROI=ビジター価値/クリック単価なので、損益分岐ROI=ビジター価値/クリック単価=1/粗利率となる。

ビジター価値/クリック単価=1/粗利率の等式に両辺にクリック単価をかけて整理をすると、損益分岐ビジター価値=クリック単価/粗利率という式が得られる。粗利率は販売価格と仕入れ値から計算ができるので、クリック単価がわかれば、損益分岐ビジター価値が計算できる。

常にビジター価値を追跡し、この損益分岐ビジター価値を超えるように、ビジター価値を高める施策を打っていけば、損益分岐点を超えることができる。ビジター価値を高める方法は、ビジター価値=客単価×コンバージョン率なのだから、客単価、コンバージョン率をあげることを考えればいい。

 

大きなKPIを小さく具体的なKPIに分解をしていく

数学が苦手な人にはややこしく感じるかもしれないが、中学1年生で習う等式の性質程度のテクニックしか使っていない。

EC関係者がこのように等式をいじってさまざまな公式を導き出すのは、大きなKPIを小さく具体的なKPIに分解をしていくことができるからだ。

損益分岐点を超えろ」と言われても、具体的に何をしたらいいのかはピンとこない。しかし、損益分岐ビジター価値という数値目標を設定し、同時にビジター価値を高めるには客単価とコンバージョン率をあげればいいということがわかっていれば、客単価をあげる施策、コンバージョン率をあげる施策という具体策を打てるようになる。

中国の場合、この程度のことは、タオバオに安価な商品を出品している個人でも行っている。なぜなら、この手の数値指標を自動計算してくれる分析ツールが無数にあるからだ。

もちろん、全員が背景にある理論を理解しているわけではない。しかし、表示される数値をあげるためにはどのようなことをすればいいのかという事例は豊富に紹介をされているので、ゲームキャラクターのパラメーターを上げるように施策を行っていく。そのゲーム感覚が、業界全体の成長につながっている。

 

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教育の原点に立ち返る。ジャック・マーがつくったアリババ学校

アリババの経営陣が出資をして開校した雲谷学校の始業式が行われ、ジャック・マーがスピーチをした。大学は将来学生不足となるため、大学進学を心配することなく、素晴らしい自己を育てることを目指すと述べたと小桔灯が報じた。

 

アリババ経営人がつくった雲谷学校

9月初め、杭州市西湖区雲谷にある雲谷学校の始業式が行われた。この学校は、ジャック・マーを始めとするアリババの中心メンバーが出資をして、2017年に開校した。小学校は各学年20人のクラスが3つ、中学校は各学年24人のクラスが2つある。最終的には幼稚園から高校までの15年制の学校を目指している。

合計10億元以上投資された非営利学校で、敷地面積は220ムー(東京ドーム3個分)。原則的にアリババの従業員の子弟のために開設された。

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杭州市にある雲谷学校の完成予定図。数期に分けて工事が行われている。完成すると東京ドーム3個分の面積になる。

 

親が毎日自問自答すべき3つのこと

今年は新型コロナの感染拡大などもあり、始業式にはジャック・マーが登場し、1時間以上にわたる講演を行い、雲谷学校の意義などについて語った。主な内容は4つだが、その中で、将来の大学は学生不足になると語り、話題になっている。

「雲田に学校を開設したのは、利益を求めてではなく、アリババ従業員の子弟の問題を解決するためです。これからの20年で、教育のあり方は大きく変わりますが、そのひとつの理想的な教育モデルを示そうと考えました」

「多くの家庭で、母親はいつも気を揉み、父親は叱ってばかりいます。子どもが小さいうちは、母親が主に子どもの教育を考え、子どもが大きくなると父親が主に子どもの教育を考えるでしょう。親は毎日、次の3つのことを自問自答しなければなりません。ひとつは「今日、自分の子どもを他人の子供と比べるようなことはしなかったか」。2つ目が「成績ばかりを気にしていないか」。最後に「子どもの言うことに耳を傾けず、尊重していない態度を取らなかったか」です。このような問題を解決するために、雲谷学校はあります」。

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▲雲谷学校の授業を視察するジャック・マー。理想の学校を作ることは、ジャック・マー個人の夢のひとつだった。

 

大学は将来学生不足になる

「親は、子どもが大学に進学できるのか、質の高い大学に入れるのかということを心配します。そのために、小中高の成績が気になってしまうのです。しかし、心配することはありません。中国は出生率が下がり続けているので、将来、大学は学生を探すのが難しくなります。なので、大学に入ることを目標にした教育を与えるのではなく、教育の原点に立ち返って、最も素晴らしい自己を養成することを目指すべきです。これが将来成功するためのかけがえのない基礎になってくれます」。

 

教育は投資であって、投機ではない

「少年班(課外活動。中国では芸術教育、スポーツ教育などの課外活動が盛んで、多くの子どもが過密スケジュールになり、疲弊していることから社会問題にもなっている)には反対します。子どもの教育は投資ですが、投機ではありません。子どもの成績が悪いからと落胆することはありません。目の前の成績よりも、20年後にどのような人になってほしいかを考え、そこから子どもにどのような教育を与えるべきかを考えればいいのです」。

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▲外国人教師も多く招聘され、英語教育にも力を入れている。国際人を育てるのが雲谷学校の目標。アリババ従業員の子弟が多く通っている。

 

引退して教師に戻った「元教師」

ネットでは、少子化により、大学の学生不足が起こるので、大学進学を心配することはないというジャックマーの主張には異論も上がっている。少子化で大学生の数も減ることは必然だが、質の悪い大学が淘汰をされるだけで、優れた大学に学生が集中することは変わらない。むしろ、競争は厳しくなるのではないかという意見もある。

雲谷学校では、ジャック・マーらしく、英語教育とICT教育が行われ、外国人講師も招聘している。ジャック・マーは元教師だった。アリババを引退するとき、引退後の生活をどうするのかと問われて、「また、教師に戻ります」と答えた。その言葉通りに、ジャック・マーは教育事業を行っている。

 

タオバオのライブコマースを支える低遅延、高効率圧縮、アーカイブの技術

コロナ禍により急拡大をしたライブコマース。アリババのEC「タオバオ」では、2016年からライブコマースを行っていて、現在でも58%のシェアを保っている。人気の理由は、商品だけでなく、背景にある技術が他のプラットフォームよりも進んでいるからだと電商在線が報じた。

 

コロナ禍により飛躍的に成長するライブコマース市場

新型コロナの感染拡大をきっかけに急速に広がったライブコマース。外出が控えられる中で、まるで商店街やモールで買い物をしているかのような体験ができることから多くの消費者に受け入れられた。営業自粛、営業時間短縮をせざるを得ない商店主も、閉店している店内から商品販売ができるライブコマースに注目をした。

2020年のライブコマース市場は1.16兆元(約18兆円)と、昨年から211%成長をすると見込まれている。

主なライブコマースプラットフォームは、アリババのEC「淘宝網」(タオバオ)、中国版Tik Tok「抖音」(ドウイン)、ショートムービー「快手」(クワイショウ)だが、流通額シェアではタオバオが58%を占めている。

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▲ライブコマース師城は、2018年から若い女性やオタク層に支持され成長してきたが、コロナ禍により一般消費者にも急拡大。2020年は18兆円市場になると見込まれている。「中国ライブコマース生態研究報告2020年」(iResearch)より作成。

 

老舗ライブコマース「タオバオライブ」のシェアは58%

タオバオのシェアが高いのは当然といえば当然。ライブコマースの老舗だからだ。タオバオは2016年4月からライブコマースを行っている。タオバオの商品を販売するタオバオ達人によるライブコマースだが、驚異的な売上を上げるpapi醤、薇(ウェイヤー)、李佳琦(リ・ジャーチ)などのスター達人=網紅(ワンホン)を生み出してきた。

それだけではなく、タオバオのライブコマースプラットフォームの技術レベルは一歩先を行っている。これにより、多くの配信主がタオバオを選び、多くの消費者がタオバオのライブコマースを利用している。

 

遅延が小さいタオバオライブの技術は3年先を行く

例えば、11月11日の独身の日セールでの薇のライブコマースは、同時に300万人以上が視聴する。この流量で、遅延をほとんどおこなさないというのは驚異的だ。ライブコマースは一方通行ではなく、視聴者がチャットで質問ができ、それに配信主が答えることができるのがキモなのだから、遅延は可能な限り小さくしなければならない。

タオバオのライブコマースチームによると、100万人の視聴者がいる状態でのタオバオのライブコマースの遅延は1.5秒以内だという。一般的なライブコマースでは5秒から10秒の遅延が発生する。また、動画が停止をして読み込み中になるスタッター率も、業界の平均値の55%と低い。

タオバオライブコマース製品責任者の岱妍氏は、電商在線の取材に応えた。「タオバオライブコマースの遅延解消技術は、この業界の少なくとも3年先をいっています」。

遅延が起こらないことで、視聴者は快適な体験を得ることができ、それは当然購入率に影響していく。タオバオライブコマースチームでは、低遅延技術を投入することで、年間数十億元の流通額増加に貢献していると考えている。

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▲ライブコマースの内容も進化をしている。このライブコマースは、漁港で漁船の入港を待ち構え、水揚げした水産品をすぐにライブコマースで販売する。視聴者からのリクエストを受けて、特定の水産品を探し、漁師との価格交渉までライブ配信される。

独自の高圧縮エンコーダーを開発したタオバオ

また、動画圧縮技術も独自開発を行っている。一般的にはx265ライブラリのエンコーダーを使って動画圧縮をするが、タオバオチーム独自開発のs265エンコーダーは、x265に比べて40%も帯域を節約できるという。

当然ながら、人間の視覚を研究して、「人間の目が鈍感な部分は粗くして圧縮率を稼ぐ」ということをしているが、これもタオバオライブコマースに特化した設計を行っている。というのは、ライブコマースでは宝飾品や衣類、化粧品が売られることが多いので、宝飾品の細部、衣類の質感、肌の質感に関わるところを粗くすることはできないからだ。どこを圧縮せずに、どこを圧縮するか。その小さな調整の積み重ねを経て、40%もの効率化を実現してきた。

また、音声も背景ノイズを除去する処理を行なっていて、これで視聴者にとって聴きやすく、なおかつデータ量を減らす工夫をしている。

 

アーカイブをサポートする唯一のライブコマース

また、タオバオは唯一アーカイブをサポートしているライブコマースになっている。過去のライブ配信をいつでも見ることができる。ライブ配信ではないので、質問をすることなどはできないが、それ以上のメリットがある。それは、商品ごとのタグが表示されることだ。複数の商品が紹介された過去放送では、商品タグも表示されるので、自分が期になる商品のライブ放送部分だけを見ることができる。

このアーカイブは配信主にもメリットがある。ライブ配信だけでなく、過去の放送からも商品が購入できるため、ロングテールを取りにいくことができる。現在、人気の配信主となっている林珊珊の場合、15%の売上が過去放送からの購入になっているという。

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アーカイブから過去のライブ配信を再生すると、商品ごとのタグが打たれている(下部のタイル状のタグ)。これをタップすると、その商品の解説部分にジャンプをすることができる。商品が決まっているなら、ライブ配信よりもアーカイブの方が使い勝手がいい。

 

アバターによるバーチャルライブコマースにも挑戦

さらに、タオバオライブコマースチームは、新しいテクノロジーに挑戦をしている。vTuberのようなバーチャルキャラクターによるライブコマースを始めている。

配信主は、毎日4時間のライブ放送をするのが限界。しかし、バーチャルキャラクターなら24時間放送ができる。事前に商品ごとのトークや動作などをプログラミングしておく必要はあるが、ライブコマースをするよりも配信主の負担は大きく減少する。人工知能によるチャットボット機能もあり、視聴者からの質問に回答することもできる。

これにより、定番商品はバーチャルで、新製品、プッシュしたい商品は人間の配信主が行うという使い分けができていけるようになる。

林珊珊が試験的にバーチャルキャラクターによるライブコマースを行ったところ、14.6万人が視聴するという成果が得られている。その他のバーチャルキャラクターによるライブコマースも好調で、平均して10万人近い視聴者が集まるようになっている。

ライブコマースの老舗であり、先端開発も行っている。タオバオライブがライブコマースのトップランナーである時代はまだまだ続きそうだ。

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タオバオライブが試験運用を始めたアバターによるバーチャルライブコマース。あらかじめシナリオを作成しておくことで、24時間無人でライブコマースが可能になる。人工知能チャットボットにより、視聴者からの質問に応答することも可能。

人気ライブ配信主「林珊珊」のバーチャルライブコマースでは14.6万人が試聴をした。

 

 

杭州市で走る5Gバス。信号情報の背面表示がドライバーに好評

杭州市で5Gバスの乗客を乗せた試験運行が始まっている。背面パネルに交差点の信号情報を表示する工夫がされており、背後のドライバーからも交差点状況がわかると好評を得ていると杭州生活網が報じた。

 

乗客を乗せた試験運行が始まった5Gバス

浙江省杭州市の蕭山地区で、8月下旬から5Gスマートバスの試験運行が行われている。試験運行は乗客を乗せるもので、大きな問題が起きていないことから、状況を取りまとめ精査した後、正式運行に切り替えられる。

5Gスマートバスが投入されたのは、鴻寧路から蕭山城南までの705路線。この路線に2台の金色の万向集団製造のEVバスが投入されている。

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杭州市で試験運行が始まった5Gバス。自動運転ではないが、道路環境情報をリアルタイム取得することで、安全運行に寄与する。

 

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▲車内は普通のバスと変わらない。ただし、バス路線は5Gエリアになっているので、乗車中に5G通信を利用できる。

 

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▲5Gバスの試験路線となった705路。杭州市の新市街を走る。



有人運転だが、5Gによりスマート化されるバス

5Gに対応したといっても、無人運転ではなく、通常のバスと同じ、運転手による運転が行われている。5Gに対応することでどのようなメリットがあるのだろうか。

ひとつは乗客がバス内で5G通信を利用できるようになることだ。乗客はバスに乗っている間、自分のスマホで映画やドラマなどの重たいストリーミングコンテンツをストレスなく楽しめるようになる。

 

道路情報を取得し、安全運行に寄与

しかし、5Gに対応する本当の意味は、道路情報を5G通信で取得することで、バスの安全運行に寄与できるようになることだ。

大きな交差点の100m手前になると、運転手に対して音声でそのことを知らせ、モニターには信号のリアルタイム状況が表示される。青、赤の残り秒数も表示されるので、運転手はその情報を見て、速度を調整できるようになる。

信号を目視するだけだと、突然黄色になって、スピードを上げて交差点を通過する、やっぱり間に合わず急停車するということが起こる。100m手前から信号状況がわかると、運転手は間に合わなければ、交差点の手前から速度を落とすようになる。

また、歩行者が横断歩道を信号無視して渡っていることも検知され、その情報も表示をされる。

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▲運転席のモニターには、交差点の100m手前から信号の残り時間が表示される。これを見ることで、急ブレーキなどの操作を避けることができる。


交差点情報の背面情報表示が市民から歓迎されている

さらに、これは便利だと話題になっているが、交差点の信号情報、歩行者の信号無視情報をバスの後方パネルに表示をしたことだ。

バスの後方を走る乗用車は、バスに視界を遮られて、信号の状況がまったく見えなくなる。バスが信号に間に合わず、急停車をした時など、後方の乗用車は反応が遅れ、バスに追突してしまう可能性がある。また、歩行者が横断歩道を信号無視で渡っている時、バスは青信号であるのにもかかわらず、速度を落とす。この時、後方の乗用車は、バスの後方から車線変更をして、速度を上げて交差点を通過しようとする。この時、信号無視の歩行者と接触をしてしまうことがある。

交差点の状況が、バスの後方にいてもわかるようになり、このような事故を防ぐとともに、後方の運転手のストレスも軽減される。

このアイディアは、ドライバーからの評判もよく、事故抑止の効果も見込めることから、他の5Gバスにも取り入れられるようになりそうだ。

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▲市民から歓迎されているアイディア。バスの背面に交差点信号の残り時間を表示する。バスの後ろでは信号が見づらいことから歓迎されている。

 

 

 

貧困を撲滅するタオバオ村の成功例と失敗例

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 044が発行になります。

 

アリババという企業とその創業者である馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、中国人にとって特別な存在です。近い将来、ジャック・マーは、偉人として教科書に載ることになるでしょう。

ジャック・マーが多くの人の尊敬を集めるのは、ビジネスを使って中国社会の課題を解決してきたからです。よくテック企業が創業する時に、創業者は「テクノロジーを使って世の中を変えたい」と口にします。しかし、実際に世の中を変えられる起業家はごくわずかでしかありません。中には上場に成功した時点で、本当はそこが出発点であるのに、ゴールに達したかのようにフェードアウトしてしまう起業家もいます。そういう人を非難するつもりはありません。長期間にわたって情熱を持ち続けることは、普通の人には簡単なことではないのです。

 

例えば、アリババは浙江網商銀行という銀行を傘下で運営しています。俗に「ジャック・マー銀行」などとも呼ばれています。

このジャック・マー銀行が面白いのは、利益がものすごく少ない銀行であることです。少しも儲かっていない。中国で最も利益を上げているのは中国工商銀行ですが、浙江網商銀行の年間の利益は、工商銀行の1日分にも満たないのです。

ところが、貸付顧客数は1200万人を超えていて、中国の主要銀行の中では頭抜けて多くなっています。第2位の建設銀行の5倍以上もあります。つまり、小口融資を基本にしている銀行なのです。浙江網商銀行は、中国版マイクロファイナンスなのです。

 

この浙江網商銀行は、中国の貧困農村の問題を解決する手段のひとつとして設立されました。中国の農村の貧困問題というと、とにかく貧しく、教育もなく、土地も痩せてという悲惨だらけのイメージをお持ちの方も多いかもしれません。しかし、実際はそうでもないのです。

まず、土地の地味は豊かなので、食べ切れないほどの作物が取れます。中国というのは世界の中でも土壌が最も豊かな国です。だからこそ、先史時代から人が住んで文明が興ったのです。

ところが、問題は、気候が厳しいために、栽培できる作物が小麦などに限られてしまうことです。同じものばかり大量にできる。飢えることはありませんが、食事としては味気ないものになります。そのために、中国は粉物文化が異常に発達しました。包子から餃子、小籠包、麺、饅頭。食感もそれぞれカリカリからモチモチまで、さまざまなものがあります。すべて原材料は小麦です。単一の食材しか手に入らない中、どうにかして食事を楽しもうとする先人の知恵です。

 

単一の作物しかできず、政府の政策として食材価格は安く抑えられているため、農村の最大の課題は現金収入に乏しいことです。作物は山ほどとれますが、売ってもたいした金額になりません。

一方で、近代化が進むと、農民もテレビやスマートフォンが欲しくなります。でも、そのお金がない。子どもを大学とまでは言わなくても、高校や専門学校ぐらいには進ませてあげたい。でも、そのお金がない。病気になったので医者に行きたい。でも、そのお金がない。生きていくということでは豊かな農村ですが、現代社会の生活を享受しようとすると圧倒的にお金が足りない。これが農村の貧困問題です。

 

これを解決する優れた方法は、小麦ではなく、より価値の高い作物を作り、高く売ることです。高級果物や特産物などを作ればいいのです。しかし、今度は、温室を建てたり、苗を買ったりするお金がない。

そこで、浙江網商銀行は、このような資金を貸し出す事業を行っています。温室を建てる資金を借りて、高級果物の栽培に成功をする。災害に見舞われた時、耕作地を放棄するするしかないところまで追い込まれても生活資金を借りて、耕作を継続する。そういう目的のために融資が行われます。

しかも、融資の実行が早い。浙江網商銀行では「310方式」を採用しています。310方式とは「スマホから3分で融資の申請ができ、1秒で審査と融資が実行され、人の介在は0」というものです。スマホから融資を申請すれば、瞬時に希望額がスマホ決済のアリペイに送金されます。銀行窓口に行く必要はありません。

この迅速な融資に使われているテクノロジーが「芝麻信用」(ジーマクレジット)=信用スコアです。芝麻信用はアリペイの口座の動きによって信用スコアが算出されるというものです。どんなものに支出をするかで、その人の経済的な信用力を計算します。この信用スコアがあるために、融資の審査が一瞬で終わるのです。災害に見舞われた農家にとっては、310方式は何よりもありがたいものです。

貸出金利も日利息0.03%と一般の銀行よりもかなり低く、信用スコアが高ければさらに利息が低くなります。

 

かといって、浙江網商銀行は慈善事業ではありません。利息も取りますし、わずかとは言え利益も出します。さらに、浙江網商銀行を利用して経済的に余裕が出た農民たちは、アリババのタオバオやフーマフレッシュを使うことになるでしょう。しっかりと、将来のアリババの顧客の育成もしているのです。

ここがジャック・マーの素晴らしいところです。社会貢献を慈善事業ではなく、営利事業として企画できる人なのです。

営利事業にする意味は持続性です。ジャック・マーは超人ではありません。いつか亡くなります。その資産は、法的に定められた人が相続することになります。もし、慈善事業として社会貢献をしていた場合、その相続人がジャック・マーの慈善事業を継続するかどうかはわかりません。

しかし、営利事業として行い、少ないとは言え投資家にはリターンがあり、従業員は給料がもらえるのであれば、社会貢献という使命に共感をした人が投資をし、働きます。必要とされる限り、永遠に続いていきます。浙江網商銀行がなくなる時は、社会課題が解決されて、浙江網商銀行が必要とされなくなった時です。

ジャック・マーは早くから、今日のソーシャル・アントレプレナー社会起業家)と共通する考え方を持っていたのです。

 

ジャック・マーのもうひとつの社会貢献事業=営利事業が「淘宝村」(タオバオ村)です。これは2009年からアリババが進めている大プロジェクトです。

農村の貧困を解決するために、農村の特産物をタオバオで販売する基地やインフラを提供するというものです。その道のりは簡単ではありません。成功例も出てきていますが、失敗例も出てきています。今回は、そのような成功例と失敗例を紹介しながら、この遠大なプロジェクト「タオバオ村」についてご紹介します。

 

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vol.041:休日消費に起きている変化。キーワードは即時配送、到家サービス、家族

vol.042:EC「京東」のライフサイクル手法。ビッグデータ解析によるマーケティング

vol.043:スマートフォンサブブランド戦略はどのように機能をしているのか?

 

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新小売スーパー「フーマフレッシュ」が既存スーパーの限界記録を突破。宅配効率は20倍

アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が、1日の注文量2万件を突破する記録を達成した。これは店舗型スーパーの限界値を超えるもので、スマホ注文が可能なフーマフレッシュでは、さらにまだ伸び代が残されている。この効率を支えているのはレールシステムを始めとするフーマフレッシュの店舗デザインにあると深圳新聞網が報じた。

 

コロナ禍で定着をした新小売スーパー「フーマフレッシュ」

アリババが2016年から始めている新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)。スマホアプリから注文をすると、生鮮食料品を半径3km圏内に30分配送してくれる。店舗で購入して、持ち帰ることも、重たいものであれば宅配をしてもらうこともできる。その時々の都合に合わせて、「店舗で/スマホで」注文し、「持ち帰る/宅配」を自由に組み合わせることができる。

以前から、既存スーパーの市場を蚕食する台風の目となっていたが、新型コロナ感染拡大により、外出や人との接触を避ける消費者からの注文が殺到。注文量は店舗により4倍から9倍に増加。一部の店舗では、30分配送が維持できず、前日までに配送時間を予約する方式に一時切り替えるほどだった。

新型コロナが終息してからも、その利便性を体験した消費者が利用し続け、売上は大きく増加している。

 

既存スーパーの限界記録を超えたフーマフレッシュ

そのフーマフレッシュで記録が生まれた。フーマフレッシュの第1号店である上海市浦東金橋店で、8月18日の注文数が2万件を超えた。店舗の客数は6000件で、70%がスマホからの注文ということになる。

この記録はフーマフレッシュにとってきわめて重要だ。なぜなら、浦東金橋店は5000平米という大型店だが、この面積のスーパーで店舗営業でだけであれば、1日の客数は2万人というのが限界だからだ。

このフーマフレッシュの記録は、従来のスーパーの限界を突破したことになる。しかも、70%がオンライン注文なのでまだまだ伸び代がある。オンライン注文は、理屈上は青天井で伸ばすことができるからだ。

ちなみに「全国スーパーマーケット協会」(http://www.j-sosm.jp/index.html)の統計によると、売り場面積1600平米以上のスーパーで、1日の来客数が3000人を超えているのは、平日で22.6%、週末で37.3%となっている。フーマフレッシュの記録は、来客数2万人に相当するので、この記録がいかに桁外れであるかがわかる。

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▲フーマフレッシュの天井にはレールシステムが張り巡らされている。スタッフがピックアップした商品はバッグに詰められ、バックヤードに送られる。バックヤードには配達スタッフが控えている。

 

膨大なスマホ注文を処理するレールシステム

この膨大な注文を支えているのが、フーマ独自のレールシステムだ。フーマフレッシュの店内の天井にはレールシステムが張り巡らされている。スマホ注文が入ると、スタッフが専用バッグを持って、商品をピックアップ。これをレールで天井に吊り上げ、バッグはバックヤードに送られる。バックヤードでは、配達地域別に自動で振り分けられ、電動バイクに乗った配送スタッフに渡される。そして、配送が行われる。

ピックアップに10分、移動に10分、配達先で玄関を開けて受け渡しに10分。これで30分配送が実現されている。

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▲スタッフがピックアップした商品バッグは、リフトで天井レールに乗せる。

 

ゾーン式レイアウトでピックアップ効率を高める

フーマは、配送料は無料になっているが、これだけの宅配システムを設置して、コスト面はどうなっているのだろうか。当然、コストはかかるが、すべての面に置いて究極の効率化が行われている。

まず、店舗のレイアウトが違っている。一般的なスーパーでは、来店客を回遊させるようにレイアウトを組む。多くの場合、価格変動の大きな生鮮食料品から変動の小さな食料品に回遊するようにする。野菜、魚、肉、加工食品と巡ることになり、来店客はまず安くなっている野菜に目をつけ、献立を考えながら買い物ができるという消費者視点のレイアウトだ。

スマホ注文を主体にしているフーマフレッシュでは、このような来店客視点ではなく、ピックアップスタッフ視点のレイアウトになっている。ゾーン式なのだ。野菜は野菜ゾーン、果物は果物ゾーンと分けられていて、通路は広く取られている。これによりピックアップ効率が高まっている。

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▲フーマフレッシュの商品棚レイアウトは、従来のスーパーのような回遊式になっていない。ゾーン式になっており、ピックアップ作業の効率が優先されている。

 

ピックアップ効率は既存スーパーの3倍、配達効率は20倍

また、レールシステム研究開発技術の責任者、曹海涛氏によると、このレールシステムは常に効率が計測され、改善作業が行われているという。例えば、ある店舗で1つの注文で14個の商品をピックアップする場合、スタッフはピックアップをして、レールシステムにバッグを乗せるところまで133歩必要だった。これが伝統的なスーパーのレイアウトで、バックヤードに届けるとなると540歩必要になる。つまり、一般スーパーの宅配に比べて3倍の効率で動けることになる。

さらに、冷蔵保存不要の加工食品などは、バックヤードの倉庫で追加をするなど効率化が図られ、曹海涛氏によると「伝統的なスーパーが1つの宅配注文を発送する間に、我々フーマフレッシュは20件の宅配注文を処理することができます」と言う。

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▲注文の商品は、スタッフの端末に表示される。バーコードを読むことでピックアップ完了になる。

 

既存スーパーも始めた「到家サービス」

フーマフレッシュは、このようなシステムを日々計測し、日々改善している。新型コロナの感染拡大後、既存スーパーもこぞって宅配=「到家サービス」に対応を始めている。しかし、伝統的なスーパーの構造の中で、スタッフがピックアップをして、宅配をするために、フーマフレッシュほどの効率はあげられず、注文量が増えれば増えるほどコストが上がっていく状態になっていると思われる。

新小売スーパー、生鮮EC、既存スーパーは、現在、宅配サービスをめぐって競い合っているが、今後、宅配を利用する消費者が広がるとともに、コスト負担に耐えきれないところから脱落をしていくことになる。生鮮食料品の小売業は、遠からず「洗牌」の季節を迎えることになりそうだ。

 

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卸売業者の都市もライブコマース転換。始まる「小売店の中抜き」

コロナ禍により、定着をしたライブコマース。卸売業者が集まる臨沂市では、以前からライブコマース基地の設置が進んでいた。それがコロナ禍により、ライブコマース需要が急増し、ライブコマースへの転換が成功軌道に乗っていると中国新聞週刊が報じた。

 

数千人がライブコマース、3億人が視聴のライブコマース基地

夜8時、山東省の地方都市、臨沂市にあるライブコマース基地の中にある20室のミニスタジオには「ライブ中、入室禁止」のプレートが掲げられ、基地のいちばん忙しい時間が始まる。中では、ライブコマースが行われているのだ。

他の基地も併せて合計数千人がライブコマース放送を行い、わずか1日で累積3億人が視聴する。翌日、150万件の商品の発送作業が行われる。それが臨沂市のライブコマース基地の毎日だ。

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▲ベビー用品専門のライブコマース基地。店舗営業とライブコマースの両方ができるようになっている。

 

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▲ライブコマースの機材はスマホでじゅうぶんなので、店舗内にセットを組んでしまうことも多い。

 

南の義烏と並ぶ卸売業都市「臨沂」

臨沂市は小さな地方都市だが、地の利がいい。北京と上海を結んだ線の中間点にあたり、さまざまな商品の卸売業が発展をしてきた。海外では浙江省の義烏が有名だが、中国国内では「北の臨沂、南の義烏」と呼ばれる。

臨沂には卸売市場が134カ所もあり、商店は6.5万軒、従事者は30万人もいる。2000ルート以上の物流路線が設定され、全国から商品が集まり、全国に商品が送られる。

ここにライブコマース基地がすでに10カ所もできている。ライブコマースを配信するためのスタジオがあり、販売する商品用の倉庫があり、宅配便の発送拠点があり、さらにライブコマースを成功させるためのセミナールームがある。

臨沂は新型コロナの感染拡大以前から、このようなライブコマース戦略を進めていたため、現在全国各地からライブコマース基地の視察が相次いでいる。

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▲各地方の市政府の関係者などの視察が相次いでいる。これは伝統的な卸売市場。店舗を構え、卸販売を行う。これが変わろうとしている。

 

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▲ライブコマース基地を視察する市政府関係者。多くの卸売業が小売店への卸から、直接消費者に販売ができるライブコマースに比重を置き始めている。

 

卸売市場が過剰になり、凋落が始まった2018年

このライブコマース基地の事業を始めたのは、山東省の新谷数字科技。同社の聶文昌会長は、ECでの販売業が盛んな杭州、義烏、広州などの都市を視察したが、当時、ライブコマースを本格的に手掛けている企業はなかった。聶文昌会長は、ライブコマース基地をどのようなものにするか、自分たちで考えなければならなかった。

臨沂でベビー用品の生産販売、ライブコマースをする郭峰さんが中国新聞週刊の取材に応えた。4、5年前、臨沂は北の義烏として有名になり、地の利もいいことから、卸売市場に店舗を持つ費用は高騰し続けた。権利料は、数十万元から100万元を超えることもあったという。この人気に、周辺の県、市が卸売市場の建設を競い合って始め、今度は卸売市場が過剰になってしまい、2018年ごろから出店費用が下がり始め、空き店舗も目立つようになっていった。

 

コロナ禍以前からライブコマースへのシフトが始まる

新谷数字科技は、このような状況に目をつけて、ライブコマース基地ビジネスに目をつけた。ライブ配信ができるミニスタジオを20室設置し、著名な網紅(ワンホン、インフルエンサー)を招いて、ライブコマースを行うなどの活動をしてきた。

その中からスターも生まれてきている。快手でライブコマースを行い女性用の靴を販売する「超級丹」は422万人のファンを獲得している。

また、臨沂で10年以上アパレルの卸売をしてきた王芯妍さんは、店舗で毎日3万元から5万元の売上を上げて成功していたが、2018年の夏にライブコマースに挑戦してみた。卸売市場は夕方5時に閉館し、ライブコマースは消費者が夕食を取った後の午後8時がゴールデンタイムになるので都合がよかった。小さなスタジオ用の店舗を借りて、2018年末には5万人のファンを獲得し、店舗の2倍の売上が上がるようになっている。

このような成功例により、臨沂の卸売業者が続々とライブコマースを始めることになった。

2019年末の卡思データが調査した快手のライブコマース都市ランキングによると、多くは北京、ハルピンなどの大都市だが、地方都市である臨沂が第9位にランクインした。

臨沂のライブコマース基地は、限界を迎えた旧来型の卸売市場を改革するために始められたが、一定の成功を収め、そして、2020年に新型コロナが拡大し、対面取引が壊滅する中、ライブコマースが注目されるようになった。結果的に、転ばぬ先の杖となったのだ。

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▲臨沂から生まれたライブコマースのスター「超級丹」。女性用シューズ販売を手がけ、400万人以上のファンを獲得している。


業者が最も恐れるのはアカウントの凍結

ライブコマース基地では、ミニスタジオ、倉庫、発送といったインフラ機能を提供しているだけではない。ライブコマースを行う商店に対するコーチングも行っている。

配信主にとって課題はファンを拡大することであり、最も心配なのは配信アカウントの凍結だ。

人気配信主の超級丹は、始めたばかりの頃、大きな失敗をしている。誤って、ナイキによく似たブランドロゴがついているシューズを販売してしまったのだ。これにより、快手からアカウントが1日間凍結され、ライブコマースができない状態になった。さらに、配信主のランクも降格をされ、検索をしても下位にしか表示されなくなってしまった。結局、超級丹は新しいアカウントを取り直して、1からやり直しをしている。

何が違反になり、何が違反にならないかは刻々と変わっていく。その情報は、快手のサイトに掲載されるが、忙しい配信主はすべてをチェックしきれない。また、ルールに定義されてなく、快手側に問合せをしなければ分からないような問題もある。

そこで、新谷数字科技は快手と業務提携を結び、快手から数人の講師を派遣してもらった。そこで、セミナーや講義を行い、臨沂の配信主のスキルアップを図っている。

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▲ライブコマース基地内のスタジオエリア。防音個室で、日本のカラオケルームにそっくりだ。

 

ライブコマース基地が起業のホットスポットになっている

このようなハード、ソフト両面の支援を行うライブコマース基地には、ライブコマースで起業をしようという若者が集まり始めている。

内モンゴル自治区出身の張丹丹もその一人だ。彼女は美容クリームのライブコマースを始めた。25元で仕入れ、送料に5元がかかるので、30元以上で売らないと利益が出ない。しかし、多くのライブコマースで同じものが29.9元で販売をされている。それでも人気が出れば、違う展開も可能だと考え、1ヶ月毎日4時間のライブコマースを配信した。しかし、注文はわずか900件で、初期投資などで2万元の赤字になってしまった。

その張丹丹が、臨沂のライブコマース基地のことを知り、入居をした。ライブコマース基地には、さまざまなメーカー、卸会社とのコネクションがあり、相談をすることで低価格で仕入れられる業者を紹介してもらえる。人気商品であれば、共同仕入れも可能となり、さらに卸価格を下げることが可能になる。

また、倉庫は共有をすることになるので、1業者あたりの負担は小さくなる。さらに、送料もライブコマース基地全体で宅配企業と大口契約を結んでいるので単価は1.6元になる。

ライブコマース側は、送料のうち0.1元を手数料としてもらう、入居費用、使用料をもらうなどして売上を上げている。いずれも1業者あたりの負担はごくわずかだが、動く商品の数が多いため、十分、収益を挙げられている。また、配信主に行うセミナー、授業は高額だが、多くの配信主が受講したがり、予約待ちの状態が続いている。

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▲ベビー用品専門ライブコマース基地に立っている広告。「人材養成」「サプライチェーン」「ショートムービー」「基地輸出」の4つの業務内容が記されている。

 

アリババも進めるライブコマース基地建設

夏に新型コロナが終息をすると、新谷数字科技の聶文昌会長はにわかに忙しくなった。全国で、卸売業者がライブコマースに活路を求め、聶文昌会長にライブコマース基地を設立してほしいという話が相次ぎ、全国各地を飛び回ることになった。臨沂にいられる時も、全国からの視察が相次いで、その応対に追われている。

アリババは4月に「春雷計画2020」を発表した。各省に100カ所のタオバオライブコマース基地を設置するという計画だ。また、快手もすでに全国に20カ所のライブコマース基地を設置済みだ。

このような大資本のライバルも登場し、新谷数字科技もライブコマース基地の拡大を急いでいる。しかし、アリババや快手と違って、新谷数字科技は地方都市にライブコマース基地を展開することに意味があると考えている。地方の卸売業者も、ライブコマースをするのが当たり前になろうとしている。

卸売業者というのは、小売店に販売をするのが従来の考え方だった。個人に販売するには購入点数が小さすぎて商売にならなかった。ところが、ライブコマースでは売り先は個人でも、まとまった数が売れる。つまり、卸売業者がライブコマースを始めるということは、BtoBからBtoCへの転換であり、「小売店の中抜き」が始まるということなのだ。