中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

SARSで生まれたEC、新型コロナで生まれた到家サービス

中国の2大ECはアリババと京東。アリババ は、マッチングをするだけで、出荷などはそれぞれの販売業者が行う。京東は、自社で仕入れをし、配送まで行う。京東は元々、北京市中関村でCD-Rなどの販売をする店舗から始まり、SARSの感染拡大によりECに転身をしたという歴史を持っているからだと浮屠説股が報じた。

 

中国のECをリードしてきたアリババと京東

中国のEC企業で、最大規模であるのはアリババ。CtoC型EC「淘宝網」(タオバオ)、BtoB型EC「天猫」(ティエンマオ、Tmall)の2つで最大シェアを握っている。その次の規模であるのが「京東」(ジンドン、JD.com)。現在、そこにソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が猛追をしているが、中国のEC業界はアリババと京東の2強が競い合いながら成長してきた。

 

マッチングのアリババ、自社配送の京東

アリババと京東の2社のスタイルは大きく異なっている。アリババの場合は、販売業社と消費者を商品を介してマッチングさせるスタイルで、発送や配送は販売業社が行う。在庫管理もそれぞれの販売業社が行う。アリババのその前の事業は、Alibaba.comで、これは中国の製造系企業の情報を掲載し、海外企業が中国企業を探し、取引を行うという、会社の出会い系サイトだった。このマッチングサイトの考え方を、インターネット通販に応用したのがタオバオであるため、マッチングに主眼をおいたスタイルになっている。日本のECで言えば、楽天型に近い。

一方で、京東は、自社で仕入れを行い、在庫管理をし、物流を管理し、戸別配送まですべて行う。日本のECで言えば、アマゾン型に近い。

この違いはどうして生まれてきたのだろうか。

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▲京東の創業者、劉強東。現在の京東は、仕入れから配達まですべて自社で行うECを展開し、アリババと競い合っている。

 

 学生起業に失敗をした劉強東

創業者の劉強東(リュウ・チャンドン)は、江蘇省宿遷市の貧しい家庭に生まれた。しかし、勉強はできたために、中国人民大学社会学系に入学、早くお金を稼ぎたい劉強東は、大学4年の時に起業をしている。飲食店を開いて、チェーン展開することを目論んだが、経験の浅さからか、わずか2ヶ月で失敗をしてしまった。調理師は、高い食材を注文したことにして安価な食材を仕入れ、その差額をくすねる。ホール担当者は、注文の一部をレシートを切らずに懐に入れてしまう。劉強東は20万元(約310万円)の負債を負うことになった。

その後、大学を卒業して日系企業に就職。そこでは電子機器の販売管理を担当した。月3000元(約4.7万円)という当時としては高給をもらい、商品知識をつけ、仕事を覚えた。

 

CD-Rの販売店から始まった京東

2年後の1998年、劉強東は自分で貯めた1.2万元(約19万円)を元手に、会社をやめ、北京市中関村にCD-Rやドライブを販売する「京東マルチメディア」を設立した。

この店が、時代に合い、2001年には店舗数が12店舗となり、光ディスクを販売する中国で最大の小売業となった。劉強東が望んでいた成功を手にすることができた。

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北京市中関村にあった京東の前身「京東マルチメディア」。右の白いポロシャツの青年が、創業者の劉強東。

 

SARSの流行でお店は倒産の危機に

ところが、2003年に中国でSARSが流行をする。中国南部から始まったアウトブレイクでは、8096人が感染し、37か国で774人が亡くなった。今日の新型コロナの感染拡大と比べれば数的には小さな規模だが、致死率の高さもあり、人々の恐怖心は新型コロナと同じか、それ以上だったかもしれない。

中国では、多くの人が外出を控えるようになった。これにより、京東マルチメディアの売上も急降下した。店舗拡大をしてしまっているため、何もしなくても毎月50万元(約780万円)以上の経費がかかる。スタッフの安全も考え、すべての店舗の営業を自粛した。劉強東は「お客さんがきてくれないのだから、こっちからお客さんのところに行くしかない」と言ったが、具体的にどうすればいいのかわからない。

 

好意的な書き込みからネット販売に賭ける

劉強東は会う人、会う人に「買い物はどうしているのだ?」と聞いて回った。ある人は「空いている時間を狙って、素早く済ませている」と言ったが、ある人は「インターネットで買った」という。当時、ネット掲示板がすでにあり、そこに販売店が書き込みをすると、消費者が電子メールで注文を入れるということが水面下で始まっていた。

同じ話を4人から聞いた劉強東は、これしかないと考えた。しかし、ネット掲示板に販売案内を出してみたが、反応はまったくない。それでもしつこく掲示板に案内を出していると、コメントがついた。「京東って知っている。中関村にある店で3年ぐらい光ディスクを買っていたけど、ここでは1回も偽物をつかまされたことがない」というものだった。その日のうちに、6件の注文が入った。

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▲京東マルチメディアの店舗。元々はCD-Rなどのメディアを販売する店舗だった。

 

店舗を閉め、ECのみの小売に

店が営業自粛しているのだから、このネット販売に賭けるしかない。注文が入ると、スタッフは配達をして集金もする。これが後の京東のスタイルになった。

2004年1月1日に、正式に京東マルチメディアの通販サイトをオープンし、SARSが終息してからは、店舗とECの両方を提供したが、終息後も人々が外出に慎重であり、ECを利用する人が増えていく。売上は年6000万元(約9.4億円)を突破した。

2004年末には、店舗を閉め、ECに集中することを決意。社内から反対の声も多かったが、劉強東は「企業としては、再びSARSのようなことが起きることに対応しておかなければならない」と言って、強行した。

2007年には投資資金を獲得し、扱う商品を電子関係以外にも広げ、自分たちの物流網を構築し始める。これが今日の京東となっていった。2013年には1225億元(約1.9兆円)の売上となり、10年間で売上額は4000倍以上になった。そして、2014年5月には、米ナスダック市場に上場をする。

 

SARSで生まれたEC、新型コロナで生まれた到家サービス

アリババもECに進出をしたのは、やはりSARSがきっかけだった。Alibaba.comの次の事業として、CtoC型ECに狙いを定めている時に、SARSの感染拡大が起きた。アリババの場合は、社員にも感染者が出て、会社は1週間以上リモートワークになった。と言っても、電子メールと電話しかツールがない時代なので、会社はほぼ機能不全に近かった。

その中で、創業者のジャック・マーは、秘密プロジェクト「タオバオ」の開発を急がせた。開発チームをアリババ創業の地のマンションに隔離し、朝から深夜まで開発を進めさせ、わずか1ヶ月で最初のタオバオのサイトをオープンさせた。

SARSの感染拡大が、中国のECというビジネスを発展させた。そして、今、新型コロナの感染拡大で、新小売、到家サービスが普及をし、生鮮食料品まで短時間宅配してもらうようになっている。すでに、買い物は「お店に行くもの」ではなく、「届けてもらうもの」になっている。

 

 

上場廃止まで取り沙汰される百度の創業以来の危機的状況

百度上場廃止が話題になっている。米中貿易摩擦により、米国財務長官が2021年末までに米国会計基準を採用していない海外企業を上場廃止にすると発言したからだ。その他にも、百度はさまざまな問題を抱えており、創業以来の危機を迎えていると挖掘アルファが報じた。

 

追い詰められる百度上場廃止の可能性も

中国テックの青春時代が終わるのかもしれない。2005年、北京市中関村の百度バイドゥ)が米ナスダック市場に上場したことから、中国テック企業の青春時代が始まった。百度が入居した理想国際ビルは、中関村や中国テック業界のシンボルであり続けた。その百度上場廃止の可能性が出てきている。

その最大の原因になっているのは、ここ数年の百度の業績悪化だ。検索広告を収入源としていた百度は、アポロなどの自動運転テクノロジー人工知能テクノロジーにシフトをしているが、なかなかビジネスとして軌道に乗らない。さらに、米中貿易摩擦の影響でさまざまな問題まで発生している。

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▲ナスダック市場に上場をした時の記念写真。中央が創業者のロビン・リー。ここから中国テック企業の青春時代が始まった。

 

検索広告市場の70%を占めているもののライバルが猛追

検索広告による収入は、未だに百度の収入の67%を占めている。しかし、これが減少を続けていて、2020年Q2は8%減となり、5四半期連続の減収となった。

それでも百度は検索広告市場の70%を占めていて、「検索大手」の名前を譲ってはいない。しかし、ライバルが猛追をしてきている。テンセントは13%成長をし、ビリビリは90%成長、さらにバイトダンスは130%以上と倍増以上の成長を見せている。また、テンセントは百度に次ぐ検索サイト「捜狗」を買収し、検索広告部門を強化する計画を進めている。

百度の根幹である検索広告ビジネスの足元はそうとうにぐらついてきていることははっきりとしている。

 

送客手数料を下げ続けている百度

さらに、問題なのが、百度傘下の動画配信サービス「愛奇芸」(アイチーイー)が、米国証券取引委員会(SEC)の調査を受けていることだ。中国企業のカフェチェーン「瑞幸珈琲」(ラッキンコーヒー)が売上の水増しなどを指摘され、上場廃止となった。これにより、ナスダック市場に上場をしている中国企業に対する目が厳しくなり、愛奇芸もSECの調査を受けることになった。

愛奇芸は売上は毎四半期4%成長をしているもののまだ黒字化ができていない。しかし、収入ベースでは百度の27%が愛奇芸からのものになっている。売上数字は大きく見えても、黒字化ができていない収入では、百度全体の利益率は下がってしまう。

そこで、百度トラフィック獲得コスト(TAC=Traffic Acquisition Cost)を下げ続けている。どの検索エンジンでも、自社サイトだけでなく、他社サイトにも検索窓をつけさせてもらい、利用者がそこから検索をすると、百度はそのサイトに対して一定額の送客手数料を支払う。百度検索を紹介してくれたのと同じことだからだ。

このTACは、検索広告ビジネスでは「トラフィック仕入れ」に相当する。つまり、TACを下げていくということは仕入れ代金が小さくなるということで、利益率を高くしていくことができる。

つまり、愛奇芸の利益率が低いことを、百度側でTACを下げることにより利益率を上げ、帳尻を合わせているのではないかという疑いも出てきている。

 

TACを下げることにより懸念される百度離れ

百度がTACを下げていることは事実で、このこと自体が百度の地位をさらに危ういものにしている。送客手数料を下げていくということは、検索窓をつけるサイト側にとっては送客手数料を値切られることになり面白くない。百度が独占的な地位を保っているときは、それでも仕方なく百度を利用するが、他の検索エンジンも目覚ましい成長をしている。だったら、百度以外の検索エンジンに乗り換えようと考えても不思議ではない。

百度がTACを下げていくと、どこかの時点で百度離れが始まり、一気に百度の独占的な地位が崩壊する可能性も生まれてくる。

 

クラウド事業にも出遅れる

百度の新しい事業の柱は人工知能と自動運転だが、まだ収益が見込める段階には至っていない。この他、クラウドサービスも成長が著しい事業だ。百度百度クラウドの収益を非公開にしているが、「2020年Q2の売上は20億元で、2018年Q4の11億元から大きく成長している」という発表を行なっている。

しかし、百度クラウド事業を始めるのは遅かった。本来、百度のような企業が先鞭をつけるべき事業なのだが、創業者の李彦宏(リ・イエンホン、ロビン・リー)はクラウドについて「新しい瓶に古い酒を詰めただけ」と語ったこともあり、動き出しが遅かった。

その間に、アリババとテンセントがクラウド事業に参入。アリクラウドの2020年Q1の売上は122億元で、百度クラウドはその1/6程度でしかない。

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▲現在の理想国際ビル。著名テック企業が一度はオフィスを構える中国テック業界の聖地。24時間灯りが消えないことから、中関村の宝石と呼ばれている。

 

危うさが出てきている百度の上場

さらに、米国市場での上場にも暗雲が立ち込め始めている。米国財務長官のスティーブン・ムニューシン氏は、来年2021年末で、米国の会見基準を満たしていない海外企業は上場廃止になると発言して波紋を呼んでいる。

ラッキンコーヒーの不正会計に端を発した中国企業の問題は、愛奇芸に飛び火をし、その親会社である百度にも飛び火をしようとしている。米中貿易摩擦やトランプ政権の政策から見て、財務長官の言う海外企業とは、特に中国企業を指していることは明らかだ。

しかも、今年の5月の段階で、百度の創業者ロビン・リーは、「米国の証券市場以外にもたくさん選択肢はある」と述べ、ナスダック市場の上場を廃止して撤退をすることをにおわせるような発言をしている。

アリババがニューヨーク証券市場に上場をしながら、2019年11月に香港市場に重複上場したのも米中貿易摩擦をにらんでリスクを分散させたのではないかと言われている。百度もそれに倣って、重複上場を示唆した発言だと見られているが、ここへきて、米国市場の方から上場廃止の話が出ることになった。突然の上場廃止となれば、百度のように大きくなった企業を運営していくことはほぼ不可能になる。

百度は、中国テック企業のシンボル的存在であり、不夜城となった北京中関村の理想国際ビルは、「中関村の宝石」とまで呼ばれた。その百度が、創業以来の正念場を迎えている。

 

フォクスコンが脱中国を進める中で、頭角を表した中国EMS「立訊精密」

米中貿易摩擦による関税などの関係で、アップル製品の脱中国製造化が始まっている。フォクスコンはすでに中国外生産比率が30%にも達している。一方で、アップルのEMS企業として、めきめきと頭角を表してきているのが立訊精密だ。中国資本のEMS企業として、AirPods ProやiPhoneの製造を請け負っていると遠川科技評論が報じた。

 

世界の工場としての中国の役割は終わった

ブルームバーグの「世界の工場としての中国の時代は終わった。iPhone製造者が語る」という記事が話題になっている。iPhoneなどアップル製品のEMS(Electronics manufactureing Service)で知られる台湾の鴻海精密工業の劉揚偉会長が語った内容を記事にしたものだ。

米中貿易摩擦の関係で、中国で製造した製品を米国に輸出をすると高額な関税がかけられるようになった。また、インドなどでは海外生産された電子製品に高額の関税をかけ、国内生産を促す政策を進めている。

その中で、鴻海精密工業の中国向けブランド名「富士康」、北米向けブランド名「フォクスコン」が脱中国政策を進め、現在、中国外生産比率を30%まで高めている。この中で、劉揚偉会長が「もはや、中国は世界の工場としての役割を終えた」と語ったという。

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ブルームバーグの「世界の工場としての中国の時代は終わった。iPhone製造者が語る」と題された記事。鴻海精密工業の劉揚偉会長が脱中国政策を進めていると語ったという内容。

 

頭角を表してきたEMS「立訊精密」

しかし、アップルが提携するEMS企業はフォクスコンだけではない。近年、めきめきと頭角を表してきているのが立訊精密(リーシュン、ラックスシェア)だ。現在、アップルのワイヤレスイヤホンAirPods Proはすべて立訊精密が製造している。

立訊精密は鴻海精密工との関係が深い。現在の立訊精密の社長である王来春は、以前、フォクスコンの中国人初の女性管理職だった。立訊精密の創業にあたっては、鴻海精密工業創業者の郭台銘の弟が出資をしている。創業当時の立訊精密の仕事の半分は、フォクスコンからの仕事だった。つまり、フォクスコンの下請け企業として、立訊精密は出発をしている。創業当時の立訊精密の社内には、あちこちに郭台銘の名言が貼り出されていたという。

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▲2017年にアップルのティム・クックCEOが、立訊精密のAir Podsを生産する崑山工場を視察した時の写真。右後ろに立っている女性が、王来春社長。

 

仕事を請け負っているEMSを買収することで成長

フォクスコンが巨大企業に成長した戦略は、買収だった。著名メーカーの製造を代行しているEMS企業を次々と買収することで、自動的にその製造業務もついてくる。フォクスコンは、アップルだけでなく、ノキアモトローラ、HP、IBMレノボソニーなどの委託製造を行っているが、いずれも、直接委託契約を獲得したのではなく、既存の委託先のEMS企業を買収して、製造業務も獲得してきた。

立訊精密もこのやり方を学んだ。創業当時の立訊精密の主力製品はコネクタだった。そこで、この業界で「最も金になるアップル製品」のコネクタを製造している聯滔電子を2011年に買収した。これにより、立訊精密はアップルのコネクターサプライヤーになった。

その後も、立訊精密は、アップルとファーウェイに狙いを定め、サプライヤーを次々と買収していき、EMS企業として委託製造を請負える環境を整えながら、成長していった。

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AirPods Proなどの製造で、メキメキと頭角を表している中国資本の立訊精密。元はフォクスコンと関係の深い企業だった。

 

AirPodsの製造業務をインベンテックから奪う

2016年、アップルがワイヤレスイヤホンAirPodsを発表すると、立訊精密は、音響技術を持っている蘇州美特を買収し、音響学の研究を始めた。2017年には、AirPods製造の課題を解決し、不良品率を大きく下げる技術開発をし、AirPodsの製造委託をアップルから獲得する。

それまでAirPodsの製造を請負っていたインベンテックの製造量を超え、2019年にはAirPodsの最大の製造企業となり、AirPods Proに関してはすべてを立訊精密が製造している。

 

ウィストロン買収によりiPhone製造業務を獲得

同時に、立訊精密はMacBookiPadiPhoneのコネクターや内部配線のサプライヤーとしても成長をしていく。AppleWatchやiPhoneがワイヤレス充電に対応をすると、すぐにワイヤレス充電関連の技術研究を始め、ワイヤレス充電関連でもサプライヤーとしての地位を確保しようとしている。

2020年7月には、立訊精密は台湾のウィストロンを買収した。ウィストロンは、EMS企業としてiPhoneの製造の一部を請負っている。つまり、立訊精密は中国資本の企業としては、初めてiPhoneの製造を担当することになる。

もちろん、製造工場は中国ではなく、世界各地に存在している。しかし、それを所有しているのは中国企業である立訊精密だ。世界の工場としての中国の時代は終わりを告げているが、世界の製造業としての中国の時代が始まろうとしているのかもしれない。中国企業はしぶとく製造業を維持しようとしている。

 

スマートフォンサブブランド戦略はどのように機能をしているのか?

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明日、vol. 043が発行になります。

 

みなさんは、中国スマートフォンメーカーの名前をいくつぐらいご存知でしょうか。

米中貿易摩擦などの報道で、華為(ホワウェイ、ファーウェイ)はよく知られるようになったのではないかと思います。また、いわゆる中華スマホに興味がある方は、小米(シャオミ)、OPPO(オッポ)などの名前を耳にしたことがあるかもしれません。

でも、ここまで知っていれば、もはや中国スマホ通です。現在、中国でシェアの高いメーカーのことを「華米ov」と略されることがあって、今触れた3社にvivo(ビーボ)を加えた4社が、中国のシェアのほとんどを握っているからです。

 

しかし、混乱をしてしまうのは、中国のスマホ関係の記事を見ると、あたかもスマホメーカーであるかのような名称がいくつも登場します。例えば栄耀(honer、オナー)、Realme、OnePlus、iQOO、Redmiなどです。

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▲中国スマホメーカーのサブブランド一覧。4強と呼ばれるメーカーすべてがサブブランドを展開している。それぞれに狙っている価格帯が異なっている。

 

これらはスマホメーカーなのでしょうか?答えは華米ovのサブブランドなのです。中国のスマホメーカーが発展をするのに、このサブブランド戦略が大きく貢献をしています。

日本ではスマホメーカーではなく、キャリアがサブブランド戦略をとっています。ソフトバンクはワイモバイルを、auUQコミュニケーションズを経由してUQモバイルという格安SIMキャリアをサブブランドとして展開しています。

このサブブランドの狙いはわかりやすいと思います。もし、ソフトバンク本体が格安SIMを販売したとしたら、ソフトバンクユーザーのほとんどが格安SIMプランに乗り換えてしまい、収益は一気に悪化してしまいます。格安SIMは料金が安い代わりにさまざまな制約があり、そこをわかっている人がうまく使いこなすのであればいいのですが、多くの人がソフトバンクと同じように使えないといってクレームを入れ、混乱することになるでしょう。いわば、「別働隊」を作って、既存ユーザーを混乱させないようにしながら、従来SIMの収益を温存し、格安SIMでのシェアを獲得する戦略です。

 

さらに、サブブランドの仕組みをよりうまく利用しているのがカジュアルウェアのユニクロとGUです。

1998年に低価格のフリースが話題となり、ユニクロが世間に広く認知された頃、「価格破壊の低価格の割に品質は悪くない」と言われ方をすることがよくありました。当時は、まだユニクロの品質に、世間が懐疑的であったことがよくわかる言い回しです。

しかし、生活の中にユニクロが定着してみると、周りのアパレルメーカーが価格を下げてきたこともあり、現在では「普通の価格に、普通の品質のベーシックラインを提供するアパレルメーカー」という感覚になっています。特にこの数年は、品質も上がっていますが、価格も上がっています。

それでも値上げに対する不満があまり出てこないのは、サブブランドのGUがあるからです。GUは昔のユニクロを彷彿とさせる低価格で、しかも、ベーシックライン以外に攻めたデザインのウェアも用意しています。

ユニクロの利用者が、若者から中高年へと広がるにつれ、品質を高め、その分価格はあげる。一方で、それが高いと感じる若者はGUで受け止めるという仕組みです。

ここで重要なのは、GUというサブブランドがあったために、ユニクロは価格と品質を上げていくことができたということです。もし、サブブランドがなければ、「最近のユニクロは高い」というユニクロ離れを起こしていた可能性もあります。

サブブランドは、単なる別働隊というあるだけでなく、サブブランドとの組み合わせで、メインブランドの特性もシフトさせていくことが可能になるのです。

 

中国のスマホメーカー、特にファーウェイと小米はこのサブブランド戦略をうまく使い成長をしていきます。

中国の携帯電話市場は「中華酷聯」時代が長く続いていました。これは中興(ZTE)、華為(ファーウェイ)、酷派(coolpad)、聯想レノボ)の4強のことです。この時代の中国メーカーの携帯電話は、見るべき点は少なく、いわゆる「中華クオリティ」そのもので、安さだけが唯一の長所でした。そのため、スマートフォン市場はノキア、アップル、サムスンの独壇場でした。

しかし、2011年8月に小米が「小米1」を発表したことで、すべてが動き出します。最も刺激を受けたのはファーウェイで、ここからファーウェイは目を見張る性能の製品を投入し、小米と激しい競争をしながら、ノキアサムスンという外国勢を駆逐していくことになります。

この競争の鍵を握っているのが双方のサブブランド戦略でした。今回は、中国のスマホメーカーのサブブランド戦略についてご紹介します。

 

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どこに置いても充電できるワイヤレス充電器。同時に2つの充電も

小米(シャオミ)は、スマート追跡ワイヤレス充電器を発売した。従来のワイヤレス充電器は位置を考えておかないと充電が始まらないという問題があったが、この充電器はどこに置いても充電できる。また、2つまでのデバイスの充電も可能だと 新青年科技が報じた。

 

ワイヤレス充電。2つの問題点

各メーカーから発売されているワイヤレス充電器。Qi(チー)規格に対応し、スマートフォンなどを置くだけで充電ができるというものだ。

しかし、使い勝手に問題を感じている人もいるのではないだろうか。いちばん大きな問題は、充電器のユニットとスマートフォンの充電ユニットの位置を合わせる必要があり、ラフに置くと充電されないことがあることだ。位置合わせを意識して置かなければならない。

もうひとつは、タブレット、ワイヤレスイヤホンやスマートウォッチなどQi対応のデバイスが増えてきたため、1台の充電器では足らなくなっていることだ。ワイヤレス充電は充電速度が遅いために、複数のデバイスがあると充電が間に合わなくなってしまうこともある。なにより、ワイヤレス充電のいいところは「置いておきさえすれば、充電が終わる」と気軽さにあるのに、いつも充電のことを気にしなければならなくなる。

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▲同時に2つのデバイスを充電できる。先に置いた方の充電が終わると、自動的に次のデバイスに充電ユニットが移動をする。

 

置いた場所を追跡して充電してくれる充電器

このような問題を解決するために、小米(シャオミ)から、「スマート追跡ワイヤレス充電器」が発売された。

20cm四方ほどの板状のワイヤレス充電器で、最大の特徴はこの充電器のどこにおいてもいいというものだ。端の方に置いても、緑の光点が現れ、自動でスマホの位置を追跡して移動し、充電を始める。場所を変えても、やはり緑の光点が追跡をし、充電を始める。出力は20Wなので、充電時間はケーブル充電と遜色が無くなっている。

さらに、便利なのが、2台同時に充電できることだ。最初に1台のスマホを置くと、緑の光点が追跡をして、充電を始める。その横に別のスマホやワイヤレスイヤホンを置く。最初のスマホの充電が終わると、緑の光点がもう1台のデバイスに移動して充電を始める。

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▲小米のスマート追跡ワイヤレス充電器。デバイスをどこに置いても充電ができるため、置く位置を考える必要がない。

 

www.bilibili.com

▲スマート追跡ワイヤレス充電器の発表会の様子。創業者の雷軍自ら発表をしている。

 

仕掛けは単純。置いた位置に充電ユニットが移動する

一体どういう仕組みになっているのか。早速分解をして、仕組みを解明した人がビリビリなどに動画を上げ始めている。すると、実に単純な仕掛けであることがわかった。

上面の裏側には、格子状のセンサーが配置され、乗せたものの位置を認識する。内部にはQi充電ユニットとガイドレールが設けられ、センサーで認識した位置に充電ユニットを移動させるというものだ。

アナログ的なメカニズムとデジタルを組み合わせて作られている。仕掛けがわかってしまうと笑ってしまうようなところもあるが、利便性は高い。現在、中国のみの発売で価格は499元(約7800円)となっている。

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▲スマート追跡ワイヤレス充電器を分解した様子。上面に格子状のセンサーがあり、デバイスを置いた場所を認識、その場所に充電ユニットが移動をする。

 

www.youtube.com

▲さっそくさまざまなメディアやブロガーが、分解をして仕掛けを明らかにしている。いかにも中国っぽい仕掛けだが、効果は抜群。

 

 

 

水墨画を筆で描く人工知能。人間を超える創造力を獲得することはできるのか?

清華大学のチームが水墨画を模倣する人工知能を開発した。ロボットアームに筆を持たせ描くために、人間が描いた水墨画と見分けがつかない。しかし、チームが目指しているのは画家の模倣ではなく、人工知能に創造力を持たせることだと雷峰網が報じた。

 

人工知能が筆を持ち、ロボットアームで描く水墨画

2020年8月7日、深圳市の前海華城JWマリオットホテルで、「2020世界人工知能・ロボットサミット」(CCF-GAIR2020)が開催された。この中で、清華大学未来実験室の高峰博士の講演「人工知能芸術とデザイン」が話題になっている。

高峰博士は、研究チームとともに6年間の時間をかけて、「道子智能絵画システム」を開発した。この人工知能は、水墨画を描くシステムだ。水墨画の作家から絵のタッチなどを学習し、写真などを水墨画に変換をする。

また、水墨画はデータで出力するのではなく、絵筆を持ったロボットアームが制作をするため、人間が描いた水墨画と見分けがつかなくなる。

さらに、古代中国の青銅器に見られる饕餮紋(動物の顔を図案化したものと言われている)の学習に成功し、饕餮紋風のデザインを生成することもできるようになった。

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人工知能が描いた水墨画。画家の作風を学習し、写真から水墨画を描くことができる。

 

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▲古代中国の青銅器に見られる饕餮紋を学習した人工知能が生み出したデザイン。精華大学のチームは、人工知能に創造力を持たせる研究を行っている。

 

人工知能は模倣ではない創造力を持つことができるか

高峰博士は、科学と芸術の境界領域の研究をしている。その中で大きなテーマになっているのが、人工知能が人間の芸術を学習して模倣するだけでなく、自らの創作意思を持てるかどうかだという。「現在、ディープラーニングは、人間が設定した目標を達成することができます。これは言い換えれば、自らの意図や発想というのは持っていないということです。創造力や意思は持っていないということです。しかし、いつか人工知能が自らの意思を持つようになる可能性がありますが、私たちは倫理、法律、道徳の面でじゅうぶんな準備ができているでしょうか。私たちの目標は、芸術作品の世界で、自らの創作意図を持つ強いAIを開発することです」。

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▲さまざまな画家の画風を学習して、人工知能が描いた水墨画。ロボットアームを使い筆で描くために、普通の人には画家が描いたものと見分けがつかない。

 

人工知能が描いた水墨画を当てるバラエティ番組

中央電子台のテレビ番組「機智過人」(機械の知能は人を超えるかという意味)の中では、エビの水墨画で有名な画家、斉白石の画風を学習した人工知能が描いた水墨画が扱われた。斉白石の画風を学習した人工知能に、実際のエビの写真を見せ、エビの水墨画を描かせた。

同様に、2人のプロの画家にも、斉白石風のエビの水墨画を描いてもらい、ゲストに3枚の水墨画の中から、どれが人工知能が描いたものかを当ててもらおうというものだ。しかも、判定するゲストの1人は、斉白石の孫娘である斉慧娟さんというもの。100人の観客にも投票をしてもらったが、当てることができたのは100人中16人だった。

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▲テレビ番組「機智過人」で出題された3つの水墨画。ひとつは人工知能が描いたもので、2つはプロの画家が描いたもの。

 

専門家は正解。画家の意図の風格を見抜く

圧巻だったのは、斉慧娟さんがずばりと人工知能が描いた絵を当てたことだ。人間の画家が斉白石の水墨画を模倣して描いたとしても、それは完璧な模倣にはならなず、必ずその画家の風格というものが現れる。墨の濃淡のつけ方、エビの造形、構図などに必ずその人特有の意図が読み取れる。

しかし、人工知能が描いた水墨画は、斉白石の風格を正確に再現していた。斉慧娟さんによると、斉白石が描くエビは正確なエビの形ではない。絵として面白くなるように造形をデフォルメしている。例えば、晩年になると、6節あるエビが5節になり、小ぶりになっている。これは小さなエビを描いたのではなく、小ぶりにした方がエビらしくなるという斉白石の意図なのだ。

人工知能が描いた水墨画は、このような斉白石の意図まで正確に再現をしていた。それで当てることができた。


《机智过人第二季》 厉害了!人工智能“道子”系统挑战画出齐白石大师的神韵! 20181020 | CCTV

▲中央電子台のテレビ番組「機智過人」。人工知能が描いた水墨画と画家が描いた水墨画を並べ、どれが人工知能が描いたかを当てる。会場の観客は当てられなかったが、専門家はずばりと見抜いた。

 

人工知能を進化させられるのは人間だけ

これはAI芸術にとって、どのような評価になるのだろうか。人工知能はまだ人間の芸術家を超えていないということになる。斉白石の画風を精密に模倣することはできるようになり、専門家でも斉白石の水墨画人工知能が模倣した水墨画を区別することは難しい段階まできているが、他の人間の作家と比べると区別できてしまう。それだけ、人間の芸術家には中から滲み出てしまう画風があり、人工知能はこの画風を模倣することはできるが、独自の画風を自ら創り出すことはまだできていない。

人工知能が自らの創造力を持つには、人工知能技術に大きなブレイクスルーが必要で、そのブレイクスルーを起こせるのは人間の創造力だけだ。強いAIが生まれる前夜に私たちは今いるのかもしれない。

筆ペンからはじめる水墨画

筆ペンからはじめる水墨画

  • 作者:小林 東雲
  • 発売日: 2006/09/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

中国伝統商品に若者が注目する「国潮」現象。ブームの駆動力はC2M×老字号

中国の若者の間で、中国の伝統商品に人気が集まる国潮現象が起きている。仕掛け人はソーシャルECの拼多多。ソーシャルECでは、消費者が商品情報を自由にやりとりできる。このコメントをビッグデータ解析することで、老舗企業の商品が若者のニーズを捉えることに成功していると北京日報が報じた。

 

若者の間で広まるレトロモダン志向「国潮」

中国の若者の間に、国産ブランド志向が高まり、「国潮」現象と呼ばれている。国産ブランドといっても中国企業すべてというわけではなく、1900年代前半に創業したレトロモダンのブランドに人気が集中している。日本で言えば、大正モダンの食器や和服が若者の間で見直されている感覚とよく似ている。

海外ブランドを排斥するような民族主義的なものではなく、中国の伝統とモダンの融合を新鮮な目で楽しんでいるようだ。

この仕掛け人は、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)。レトロモダンの中僕ブランド製品をプッシュするキャンペーンを行い、いずれも爆発的な売れ行きを示している。

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▲拼多多が始めている国潮キャンペーン。中国の老舗企業の商品が割引価格で購入できる。

 

ビッグデータから国潮傾向を発見、プロモーションが当たる

拼多多では、消費者、特に若者の購入ビッグデータの分析を進め、その中から「国潮」の傾向を発見し、それに適したブランドとキャンペーン参加の交渉を進めてきた。そして、「中国伝統、文化精髄。拼多多で国潮に乗ろう」というキャンペーンを行った。

キャンペーンの内容は、参加したブランドのライブコマースを行い、同時に専用クーポンを配布するという手法。これが大当たりになり、参加したブランドの商品が次々と売上記録を更新し、このキャンペーンの狙いが的を射ていたことが証明された。

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▲ライブコマースを行うためにバスをスタジオに改造。広告効果もあり、出演者のいる場所に移動する機動力もある。

 

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▲百雀羚と拼多多がコラボをしたライブコマース。百雀羚の商品を紹介し、その場で販売をする。

 

1931年創業のハンドクリーム「百雀羚」

最も成功したのは、1931年に創業した化粧品メーカー「百雀羚」(バイチュエリン)。ハンドクリームが有名で、創業当時からほぼ変わらないデザインのパッケージを使い続けている。

拼多多での売上は昨2019年の売上から10倍以上になった。百雀羚のレトロな感覚と、自然成分を使う誠実さが、20代の若者の心を捉えた。このハンドクリームをきっかけに、百雀羚を買う消費者が急増した。

百雀羚のソーシャルEC事業部の責任者、李進氏が北京日報の取材に応えた。「生産、成分の配合など、私たちには長年蓄積された経験があります。それでも、重要な鍵は消費者の声をいかに聞き取り、消費者の真のニーズを満足させることが必要なのです」。

百雀羚では、C2M(Consumer to Manufacture)の手法を、拼多多上で試してきた。改善した商品を発売すると、ソーシャルECでは、SNSでその商品に対する評価がやりとりされる。それは、一般的なECのレビューのように多くの人に見られることを意識して発言したものではなく、個人の自然なつぶやきや、友人、知人に対して行われるものだ。そのため、中には辛辣な意見もある。

このようなパーソナルなレビューを拾い集め、ビッグデータ解析を行い、改善の方向を調整していく。これを短いサイクルで繰り返していくことで、売上という成果が追いかけてきた。

ビッグデータの解析は、商品名、パッケージの色ばかりでなく、どのような成分を添加するかにまで及んだという。

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▲百雀羚のハンドクリーム。パッケージは創業当時と同じ、自然成分のみ配合という点が、現在の若者に受けている。

 

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▲1931年創業のハンドクリーム「百雀羚」の当時の広告。パッケージは創業当時からほとんど変えずにきた。それが人気の的になっている。

 

1927年創業の運動靴メーカー「回力」

1927年に創業した靴メーカー「回力」(ホイリー)も、国潮で成功をした。中国で最も古いスポーツシューズメーカーで、現在の40代ぐらいの人は、小学校の体育で回力の運動靴を履いていた。いわば、「ダサいメーカー」として記憶されているが、それが今、若い世代に受けている。昔からある定番のF字の形に赤いラインが入ったモデルが人気なのだ。

回力は一時期は人気が低迷して、二度の破産申請をした経験があるが、現在は国潮の波に乗り、業績は好調だ。

通常は130元で販売をしているが、拼多多での販売は流通コストが大幅に削減できることから100元を切る価格で販売をした。すると、いきなりブームになって、1月で13万足が売れた。

回力の国潮ブランド責任者、徐育誠氏が北京日報の取材に応えた。「回力は拼多多から得られるレビュー、販売などのビッグデータを分析し、より若者のニーズに応えることができる商品開発ができる体制を整えていきます。完全なC2M、個別オーダーできる体制を整えたいと考えています」。

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▲回力で最も人気のあるベーシックデザイン。赤いF字のラインが、回力のトレードマークになっている。

 

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▲1927年創業の運動靴メーカー「回力」の当時の広告。中高年にとっては「ダサい」メーカーとして記憶されているが、若者にとっては新鮮でありレトロモダンなメーカーとして認識されている。

 

レトロモダンな漢服もブームに

中国では、この数年、漢服のブームが続いている。中国の伝統的な衣服で、和服の原型となったものだ。しかし、古風な漢服ではなく、鮮やかな刺繍を入れるなど、モダンなデザインになっている。当初はコスプレのひとつとして楽しまれていたが、現在ではイベントやパーティーで着る「新しいフォーマルウェア」として、あるいは日常に着るカジュアルウェアとしても利用が広がっている。20代の若者の間で起きている国潮は、短期的なブームではなく、大きなトレンドのひとつとして見ることができる。

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▲中国伝統の漢服もじわじわとブームになっている。当初は、若い女性がコスプレのひとつとして楽しまれていたが、世代が広がり、パーティなどで着るフォーマルウェアとしても定着しようとしている。

 

ソーシャルECだから実現できるC2M

拼多多では、昨2019年5月から「上海老字号新電商計画」を進めている。これは上海の老舗企業100社に対して、拼多多での商品を販売してもらうために、3年で100億元を投入して、EC化を図り、15億元のクーポン、補助金を負担するというものだ。

このようなプロモーションの成果が早くも現れてきた形だ。鍵は、老舗ブランドの伝統技術とビッグデータ駆動による商品設計だ。拼多多のようなソーシャルECが、爆発的な販売力を示すことができるだけでなく、ビッグデータのソースとしても有用であることが各方面から注目されている。