中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

エンジニアはつらいよ。ミーム動画で遊ぶエンジニアたち

ネット上では、誰がオリジナルの作者なのかもはやわからなくなっているミーム画像、ミームGIFが出回っている。エンジニアたちは、このようなミームを拡散するのが大好きで、知乎などのQ&Aサイトに、そのようなミームを集めたまとめ記事が投稿されることがある。

 

誰の著作物かもはやわからなくなっているミーム

ネット上にはミーム画像、ミーム動画が存在している。元々は誰かの著作物なのだろうが、改変されることを繰り返して、もはや原著作者が誰だかわからなくなっているような画像、動画だ。あるいは原著作者が、勝手に二次利用されることを容認、黙認しているものだ。

ミームとは遺伝子に対応するものとして、遺伝学者リチャード・ドーキンスが作った言葉。文化も遺伝子と同じように、模倣を繰り返しながら継承されていくというものだ。ミームは、ミミック(模倣)、メモリー(記憶)などの言葉から作った言葉だという。

 

エンジニアたちは自虐的なGIF画像が大好き

ソフトウェアエンジニアは、このようなミーム画像が大好きで、特にGIF画像がお気に入りだ。データも軽く、再生時間も短いので、疲れた時に再生して、気持ちを整えるのだろう。

特にエンジニアは、自虐的なミームが大好きで、Q&Aサイト「知乎」や画像掲示板「百度貼巴」などには、このようなミームが無数に投稿され、面白いものはまとめ記事に転載をされている。

その中から、面白いものを紹介してみたい。エンジニアの感覚は世界共通なので、日本人エンジニアでも、面白さを共有できると思う。

 

インターン実習生の仕事ぶり

 

インターン実習生がバグ探し業務をしている様子

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インターン実習生がコーディングしたプログラムをテストするエンジニア

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インターン実習生の仕事ぶりを見守るベテランエンジニア

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ソフトウェアエンジニアの日常

 

▼バグを出してしまったエンジニアの様子

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▼退社直前に仕事を頼まれてしまったエンジニア

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▼システムを初めて経営陣にデモをした時のエンジニア

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▼新卒エンジニアの初めての仕事ぶり

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▼休日出勤をするエンジニア

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戦うエンジニアたち

 

ブレークポイントの設定を間違えてテスト実行してしまった様子

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ソースコードを読んでいたら、数年前に自分が書いたコードと出くわした

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▼テストもほとんどできずに、運用を始めてしまったシステム

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▼すべての不具合に対処したはずなのに…

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▼テスト環境では素晴らしかったのに、運用してみたら…

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▼初めてテスト運用をするエンジニアの様子

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▼インフラエンジニアの辛さがわかるGIF

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▼インフラエンジニアにUIを設計させたら、こうなった

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▼運用を止めずに、バグをフィックスするエンジニア

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▼顧客企業がいまだにIEを使っていると聞かされたエンジニア

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▼進捗の遅れている案件に、ヘルプ派遣されたエンジニア

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▼where条件を記述するのを忘れて、deleteを実行してしまった

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▼初めてCSSに挑戦したエンジニアの仕事ぶり

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▼顧客の要求に従ったら、こうなった

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▼神と呼ばれるエンジニアの仕事ぶり

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▼なぜかわからないけど、動いているので、絶対にいじるな!

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エンジニア ネジザウルスGT φ3~9.5mm用 PZ-58

エンジニア ネジザウルスGT φ3~9.5mm用 PZ-58

 

 

京東、網易、アリクラウドなどが「豚の顔識別技術」開発の競争に。養豚業の痛点は「個体識別」

豚の顔識別テクノロジーの開発が激しい競争になっている。中国では2020年から死亡した豚の完全無害化処理が義務付けられるが、この際の個体識別を現在は保険会社の調査員が行なっている。これを顔識別技術を使って効率化できるかどうかが焦点になっていると毎日安全資訊が報じた。

 

養豚業の高コスト問題を解決する豚顔識別テクノロジー

豚の顔識別により、個体識別をしようという研究開発が盛んになっている。最も大きな問題は中国の養豚業が国際的に遅れていることだ。小規模農家が多いために、生産コストが高い。米国の養豚業の2倍ほどになってしまうために、米国から豚肉を空輸しても、国内産豚肉よりも安く販売することができる。価格競争力がまったくないために、養豚業を効率化してコストを下げることが喫緊の課題になっている。

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▲この分野での最大手「京東農牧」の壁面広告。「スマート養豚を広めれば、家を建てたり車を買ったりできるのも早くなる」というような意味。中国は農業大国だが、産業としては遅れていて高コスト体質になっている。そのため、テクノロジーで体質改善しようという動きが活発になっている。

 

死亡した豚の無害化処理にかかる費用がネックになっている

さらに、国務院は2020年から死亡した豚の完全無害化方針を打ち出している。食品安全の観点から、豚が死亡した場合は必要な防疫処理を行って、完全無害化をしてから処理することを義務付けるものだ。

もちろん、小規模農家にとって費用負担が重圧となる。そこで、養豚保険制度が整備された。農家は保険料を支払うことで、万が一、豚が死亡して無害化処理を行った場合には、保険会社から無害化処理にかかった費用が支給されるというものだ。

ところが、この保険会社の経営が成り立たない。支給金額の80%は国が補助をしているが、それでもすでに保険会社全体で16億元(約250億円)の累積赤字を抱えている。このまま2020年から無害化処理が義務付けられると、保険そのものが破綻をする可能性も高い。

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▲死亡した豚の無害化処理が義務付けられるが、その費用負担は農家にとっては厳しい。そこで無害化保険が広まっている。ところが、この保険が個体識別の手間がかかりすぎて、存続が危ぶまれている。

 

人が確認していた死亡豚の個体識別を顔識別で

保険会社の経営が苦しい理由のひとつが、豚の死亡した時には調査員が現地に行って、登録されている個体情報を参照して、個体識別をしなければならないことだ。耳につけたタグ、身体的な特徴から登録個体であることを確認して、保険金支給の手続きに入る。

この確認作業は、豚が死亡してから処理が行われる間に行う必要があるため、調査員が調査できるタイミングは短く、感染症などで大量死が出ることも考えると、大量の調査員を待機させておく必要がある。ここにコストがかかってしまう。

これがもし、豚の顔識別技術が開発できれば、調査員が現地に行かなくても、豚の写真を送ってもらうだけで個体識別ができ、保険会社のコストを大きく下げることができる。

保険費用も半分以下にできると見積もられていて、無害化処理の義務化の成否は、豚の顔識別技術が開発できるかどうかにかかっている。

さらに、豚舎に監視カメラを導入して、個体ごとの行動を監視し健康管理をすることで、病気の早期発見、予防や肉質の向上なども期待されている。

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▲生き物としては可哀想な気もするが、効率化のため、豚が方向転換できない幅の柵で飼育する方法が中国でも一般的になってきている。このような方式の豚舎であれば、顔認識カメラなどの導入もしやすい。

 

豚の顔は環境により大きく変化していく

しかし、豚の顔識別は簡単ではない。最も大きな課題は、豚の顔は年齢とともに大きく変わっていくことだ。年齢が高くなるにつれ、顔にも脂肪が乗り、シワができる。このシワのでき方は、遺伝的に決まっているわけではなく、生育環境によって異なってくる。そのため、子豚時代の顔から、成年豚の顔を予測することが難しい。一般に、豚は110日から120日の周期で、幼年期、童年期、成年期と育っていき、その度に、環境の影響を受けて、顔が大きく変わる。

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▲豚の顔識別技術の難しい点は、豚の顔が環境によって予測できない変化をすること。特に脂肪によるシワは予測がほとんど不可能。

 

豚舎で継続追跡することで個体の識別度をあげる

この問題を乗り越えるためには、豚舎の中に監視カメラを設置し、顔が変化をしていく豚の顔を毎日追跡していくしかない。しかし、今度は照明、角度などをどうするかという問題が生じるし、豚の顔を写すには顔の正面にくるようにカメラを低い位置に設置する必要があるが、豚がレンズを舐めてしまう、ぶつかって破損するという問題も考えておかなければならない。

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▲豚の顔を撮影するためには、カメラを低い位置に設置する必要があるが、好奇心の強い豚はカメラを舐めたり、つついたりしてしまう。実用には、研究室の中にいてはわからない数々の問題を解決しなければならない。

 

京東農牧の神農ブレインを筆頭に、網易、アリクラウドが参入

この分野で最も進んでいるのは、ECサイト「京東」傘下の京東農牧だ。豚の顔識別だけでなく、その個体識別を利用して、健康状態、生育状態などをモニターし、換気、温度などを管理するシステムを開発している。中国農業大学と共同で、人工知能「神農ブレイン」(人工知能)、「神農システム」(SaaS)を開発し、導入農家では、養豚のコストを30%から50%低減し、飼料飼料量は8%から10%減少し、出荷までの日数も5日から8日短縮しているという。

中国では毎年7億頭の豚が出荷されている。仮にこのシステムがすべての農家に導入されたとすると、500億元(約7800億円)のコストが節約できる計算になる。

この他、2016年には網易が「網易黒豚」、2018年にはアリクラウドがETブレインを養豚業に応用する試みを始めている。養豚業が人工知能によってアップデートされようとしている。

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▲京東農牧の神農システムの画面。個体識別をした上で、食事量、バイタルなどを管理し、疾病の兆候を検出したり、より商品価値を高める飼育法を提示する。

 

 

旅行好きな大学生たちは、交通費をケチって、ホテルにお金を使う

95年以降生まれのZ世代は、インドア派であり、あまり旅行にいかない。ところが、同じZ世代でありながら、大学生は旅行好きだ。しかし、交通費は節約をし、その分、滞在先にお金を使うという面白い傾向がわかったと21世紀経済報道が報じた。

 

消費傾向ががらりと変わるZ世代

世界的にミレニアル世代(80年以降生まれ)とZ世代(95年以降生まれ)では、考え方や消費傾向が大きく変わることが指摘されている。ミレニアル世代はPCを使うデジタルパイオニア世代、Z世代はスマートフォンを使うデジタルネイティブ世代。

Z世代は、SNSを使って社交をし、自分のプライバシーを大切にする。また、米国の場合、子ども時代に9.11同時多発テロを経験し、大きなショックを受けているため、社会課題への関心が高い。消費では、他人が認めるブランドではなく、本質的な価値を重要視するなど、それ以前の世代とは大きく異なる世代であると言われている。

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マーケティングでは世代をXYZの3世代に分けることが多い。それぞれに消費傾向が大きく異なっている。特にZ世代は傾向が大きく変わると指摘されている。

 

精神的な充足を追求する中国のZ世代

中国でも状況はよく似ていて、特にミレニアル世代は「貧しい中国の体験があってから豊かになった」世代だが、Z世代は「豊かな中国しか知らない」世代であると指摘されている。

そのため、ミレニアル世代は「消費=幸福」だった。消費に積極的であり、新しいものに飛びつき、外食好き、旅行好き。人と対面で付き合うことを好む。急成長する中国の個人消費の原動力となってきた。

しかし、Z世代は「消費≠幸福」であり、精神的な充足感を求める。消費は合理的であり、自分の個性を表現できるもの、自分が独自に発見した価値が感じられる商品を購入する。家の中で過ごすことを好み、外売(フードデリバリー)、ストリーミングなどのサービスをよく利用する。人とはSNSを介して交際する。外売、配達してくれる新小売スーパー、SNSと組み合わされたEC、ショートムービーといった新しいサービスの普及の原動力となっている。

Z世代もすでに20-25歳になり、そろそろ消費の主役になろうとしている。この影響で、中国の消費傾向はこれから大きく変わっていくとみられている。

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▲Z世代は自室を自分好みに飾り、家の中で過ごすことを好む。すでにPCは使わなくなり、スマホタブレットを使う。自分の好きなものに対しては積極的に消費をする。

 

旅行に行かないZ世代。しかし、大学生は旅行好き

Z世代は旅行にあまり行かない。家の中で過ごすことを好む。旅行予約サイト「

去哪児網」が公開した「2019大学生出行データ報告」によると、全世代の平均では年間3.45回飛行機を利用した国内外の旅行をしている。Z世代の平均は2回でしかない。

ところが、この報告書で世間が驚いたのは、同じZ世代でも大学生だけに限ったデータを見ると4.4回になる。Z世代は旅行に行かない世代なのに、同じ世代でも大学生だけは他の世代よりも旅行に行くということがわかったのだ。

21世紀経済報道は、その理由を卒業旅行の習慣が定着したことにあると分析している。調査でも大学生の9割以上が「卒業旅行に行きたい」と答えている。

就職をしてしまうとしばらくは旅行に行く暇もないことがわかっているため、最後の自由時間だと考えているのだと思われる。

 

格安の移動手段を好む大学生

面白いのは、大学生は確かにZ世代の傾向とは異なり、旅行に積極的だが、その旅行の内容がいかにもZ世代的なのだ。

まず、交通費は徹底的に節約をする。飛行機も、午前0時から2時、早朝5時から9時、夜20時から22時という便に集中をする。大学生は、この時間帯は他の時間帯の3倍利用している。夜行便や早朝便は一般旅行客やビジネス客にとって使いづらいため、運賃が安めに設定をされているからだ。

また、国内でも中国版新幹線「高鉄」ではなく、一般鉄道の寝台列車、特急などを利用する傾向にある。2018年、去哪児網ではZ世代の一般鉄道のチケット購入が26.3%増加した。こちらも高鉄よりも安上がりだからだ。

つまり、大学生は旅行に行くといっても、交通費は節約をする。

 

滞在先ホテルにはお金を惜しまない「窮路富住」

ところが宿泊するホテルに関してはお金を使う。中国には「窮家富路」という成語がある。これは「家では質素に暮らしても、旅にはお金を使う」という意味で、旅は何があるかわからないので、普段は節約していてもお金をたくさん持っていけという戒めのひとつだ。

交通費は節約するのに、ホテルにはお金を使う大学生の旅行スタイルは、この成語をもじって、「窮路富住」(交通はケチって、宿泊にはお金を使う)と評されている。

大学生はもちろん半数以上が宿泊費の安いビジネスホテルを利用するが、その割合は減少し、リゾートホテル、高級ホテルの割合が増えている。

Z世代特有の「インドアで快適にすごしたい」という感覚が表れている。

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▲大学生は経済的余裕はあまりないので、海外でも格安のビジネスホテルを利用する人が多い。しかし、ビジネスホテル利用者は減少し、リゾートホテル、高級ホテルの利用者が伸び始めている。

 

人気渡航先は都市よりもリゾート

この「快適にすごしたい」は、人気渡航先にも表れている。国内の場合は、歴史的な観光スポットが多い、北京、上海、西安などが上位にきて、一般の旅行者と大きな違いはないが、海外となるとガラリと変わる。ほとんどが東南アジアのリゾート地で、大都市というとソウル、東京、シンガポールのみ。渡航先についても、滞在先でのんびりとすごせる場所を好んでいるのだ。

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▲大学生に人気の渡航先。全世代では日本が人気の渡航先の1位になるが、大学生のランキングでは東京は9位。圧倒的に南国リゾート地に人気がある。

 

Z世代が消費の主役になり、変わる消費傾向

現在、中国の大学生は約3700万人。この大学生たちが、卒業後に同じように旅行をすることになるのか、それとも同世代のZ世代と同じく旅行に消極的になるのかはまだわからない。

中国の旅行会社は、Z世代が消費の中心になるに従い、旅行産業の成長空間が小さくなっていくのではないかという危機感を抱いている。現在は、大学生の「窮路富住」スタイルを理解して、高級ホテル+格安夜行便という組み合わせの学生向けパック商品を販売するようになっている。

Z世代が消費の主役になるにつれ、海外旅行も都市型からリゾート型へ、買物・観光型から滞在型へと変化していくことが予想される。アジア圏の観光地では、この変化を意識した観光開発も必要になるのかもしれない。

 

ケンタッキー、スターバックス、カルフールの中年の危機。救うのは新小売テクノロジー(下)カルフール編

中国に進出した外資系企業の多くが、中年の危機に陥いり、伸び悩んでいる。これを打ち破るには、中国法人で決断ができる自律性と新小売テクノロジーを取り入れていくことが重要だと媒介360が報じた。

 

中年の危機を脱出するには新小売テクノロジー

中国に進出した外資系企業は例外なく、いつか中年の危機を迎える。中国市場で生き残るには、変化の速さに追従していくことが条件となるが、外資系企業の場合は、海外にある本社の判断を仰がなければならないため、決断のスピードがどうしても遅くなるからだ。中国企業でも市場の変化についていくのに必死であるのに、決断ができない中国支社を置いても、無数の龍がうねっているような中国市場で、埋没して終わってしまう。

ケンタッキー、スターバックスは、中国で決定が下せる仕組みづくりをし、アリババの新小売テクノロジーを取り入れることで、回復の道を模索し、それなりの成果が出始めている。

 

テンセントとアリババの波間に沈没をしたカルフール

対照的なのが、カルフールだ。カルフールは一時、テンセントに売却されるという報道が流れたが、カルフール側が否定。しかし、テンセントと業務提携をし、テンセントのスマート小売テクノロジーを導入して、回復の道を模索していた。

ところが、2019年6月になって、家電量販店チェーン「蘇寧易購」に売却されることが決定した。蘇寧易購は、アリババ系の企業だ。当然、テンセントとの業務提携は白紙に戻されることになる。アリババ系列に入って、カルフールがどのようになるかはまだ見えていない。カルフールの名前が残り、そのまま営業を続けるのか、あるいは解体されて、アリババの新小売の仕組みのパーツになる可能性もある。

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▲中国の小売は、アリババ系とテンセント系に集約されている。カルフールはテンセントと業務提携をしていたが、一転して、アリババ系の蘇寧易購に買収されることになった。

 

スーパー文化を中国にもたらしたカルフール

フランスの大手スーパー「カルフール」は、1996年に上海と深圳に進出をし、中国人の生活を大きく変えた。それまで中国人が見たことがない輸入食品が、大量に陳列されていたからだ。毎日市場に食品を買い物に行き、食事を作るという中国人の生活が、週末に車でカルフールに行き、まとめ買いをする生活に変わった。現在、華南地域を中心に236店舗を展開している。

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▲1996年という早い時期にカルフールは中国に進出をした。「家が楽しく福がくる」という中国名(発音はジャーラーフーで、カルフールの音を取っている)は、中国人にも親しみやすく、中国の大型スーパーの文化をもたらした。

 

2016年から急激に業績が悪化

しかし、2016年頃から急速に経営が悪化をした。コンビニの進出、新小売スーパー、生鮮ECなどの利用者が増え、食料品は新小売スーパーやECで配達をしてもらい、足りないものは近くのコンビニで補うという生活スタイルに変わり、わざわざ大型スーパーまで行く人が減り始めたのだ。

もともとカルフールは利益率を抑えて、大量に販売することで成り立っていたため、小さな影響が経営には大きな打撃になった。2017年には売上が5.4%のマイナスとなり、採算が悪化している店舗の撤退を始めている。この頃から、たびたび身売り報道が出て、カルフールは撤退するのではないかという観測が立つようになった。このような報道がイメージを低下させ、さらなる客離れを起こすという状況に陥っていた。

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▲テンセントと提携して、顔認証セルフレジを導入。「レジに並ばなくていい」ことで回復の道を探ろうとした。

 

テンセントのテクノロジーを導入して新小売スーパー 化

カルフールが選んだ道は、テンセントとの提携だった。テンセントの持つWeChatペイ(スマホ決済)、顔認証決済、セルフレジ、電子タグなどの技術の全面導入を始めて、カルフールを新小売スーパー(新小売はアリババの用語で、テンセントではスマート小売と呼んでいる)化していった。

店内に「WeChatスキャン購入」コーナーも設けた。来店客はこのコーナーの商品であれば、WeChatミニプログラムで商品バーコードをスキャンするだけでWeChatペイ決済が行われ、そのままカバンに入れて、専用通路から外に出られる。飲料を1本だけ買いたいという時に、わざわざレジに並ぶ必要がない。

また、一般レジにもWeChatペイ顔認証セルフレジを全面導入して、「スーパーはレジで行列をしなければならない」というイメージを刷新しようとしていた。

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▲テンセントと提携してスキャン購入コーナーも新設をした。専用の入り口で、WeChatで個人認証して入場し、あとは自分で商品のバーコードをスマホでスキャンする。これで決済が行われるので、そのまま商品を持って外に出ることができる。

 

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▲スキャン購入では、自分で商品のバーコードをスキャンして決済をする。そのまま商品を持って帰ることができるので、飲料を1本買いたい時などには便利な仕組みだ。

 

敗北の理由は中国人を排除した経営

しかし、結果は、アリババ系の蘇寧易購への身売りだった。蘇寧易購は、カルフールの株式の80%を48億元(約757億円)で購入して、大株主となった。一見、大きな金額に見えるが、カルフールのライバルであった永輝スーパーの企業価値が1000億元(1.57兆円)であることを考えると、叩き売りに近い。

カルフールがなぜここまで落ちたのか。その理由を中国メディアは、中国人を排除していたことにあるとしている。カルフールの中国台湾地域の総裁は、2011年からティエリー・ガニエル氏が務めているが、それ以前から代々フランス系外国人であり、経営陣に中国人はいなかった。このため、中国の消費者の感覚や市場状況に疎かったのではないかと言われる。

また、中国企業との提携も頑なに拒否をし続けた。カルフールカルフールだけでビジネスをし、当初はそれでうまくいっていた。ところが2016年ごろから、どうにも隠しようがないほど、収益が悪化していた。

 

自前の物流網を構築しなかったカルフール

そもそもカルフールは、中国では自前の物流網を構築しなかった。メーカーに直接店舗まで配送させるのだ。各店舗の店長が、Aというメーカーの商品を発注する。Aというメーカーは、その注文に応じて、各店舗まで配送をしなければならない。ずいぶんな話だが、メーカーにとっては、カルフールの強い販売力が魅力だったのだ。

これにより、中国のカルフールは低コストで、ビジネスを展開することができた。さらに、思わぬ効果も生まれた。各店舗の中国人店長が、商品の発注数を決め、さらには実売価格も決められた。地域の事情をよく知っている店長が、最適な販売手法をとることで、各店舗の売上が上がっていったのだ。

 

店舗の裁量権が奪われ、人材流出も

しかし、永輝、大潤発などの国内系スーパー、米ウォルマートなどが、自前の物流網を構築して、売上を上げてきた。一括購入、大量仕入れによるコスト圧縮、物流が即応できるため欠品が起こらない、鮮度の高い食料品を提供できるなどの点で、カルフールは遅れをとるようになっていった。

ガニエル総裁は、2015年にカルフールの大改革を行なった。仕入れセンターと自前の物流網の構築に踏み切ったのだ。しかし、これが店長の裁量権を奪ってしまった。発注数は、本部からの割り当て数を無視することができなくなり、実売価格も本部からの指示を無視することができなくなっていった。

さらに、売上が不振であったため、賃金カットも行われていった。優秀な店長スタッフ、店舗スタッフがこの頃から流出をし始める。

ますます苦しくなるカルフールを立て直そうと、ガニエル総裁はテンセントとの業務提携を決断した。しかし、V字回復とはいかなかったようだ。

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カルフールを改革した中国台湾地区のティエリー・ガニエル氏。経営陣をフランス系外国人で固めて、中国人を排除したのが、カルフールの敗因だと指摘されている。

 

あらゆる決断が一歩遅れるカルフール

このようなガニエル総裁の一連の改革は、カルフールとしたら、相当に思い切った改革だ。しかし、すべてが一歩遅く、後追いの後手にしかすぎない。

経営陣がフランス系外国人で固められているため、経営陣は中国人消費者の感覚を理解できない。状況が悪化をして、報告書として提出されてから、問題に気がつく。それから対応策を練り、対応をする。あらゆることが一歩遅れるのだ。これがカルフールの衰退を招いた最大の原因だと、多くのメディアが指摘をしている。決断スピードを速めて、新小売テクノロジーを取り入れて、回復の道を模索するケンタッキーやスターバックスとは対照的だ。

蘇寧易購に買収されたカルフールは、当面、蘇寧易購の生鮮ECと組み合わされて活用することになる。「カルフール」という名前がいつまで残されるか、それは保証されていない。

 

ケンタッキー、スターバックス、カルフールの中年の危機。救うのは新小売テクノロジー(中)スターバックス編

中国に進出した外資系企業の多くが、中年の危機に陥いり、伸び悩んでいる。これを打ち破るには、中国法人で決断ができる自律性と新小売テクノロジーを取り入れていくことが重要だと媒介360が報じた。

 

中年の危機を脱出するには新小売テクノロジー

中国に進出した外資系企業は例外なく、いつか中年の危機を迎える。中国市場で生き残るには、変化の速さに追従していくことが条件となるが、外資系企業の場合は、海外にある本社の判断を仰がなければならないため、決断のスピードがどうしても遅くなるからだ。中国企業でも市場の変化についていくのに必死であるのに、決断ができない中国支社を置いても、無数の龍がうねっているような中国市場で、埋没して終わってしまう。

ケンタッキー、スターバックスカルフールは、中国市場で地位を築いた「成功組」だが、この数年、やはり中年の危機を迎えている。この危機を脱出するために、3社ともテクノロジーを活用した新小売手法を取り入れている。

 

グローバル経営をしていたスターバックス

スターバックスは、1999年に北京市に1号店を開店して以来、次々と店舗を拡大していき、現在では148都市、3500店舗を展開している。中国に「コーヒーを飲む」という習慣を定着させたカフェチェーンだ。

しかし、中国で起き始めたテクノロジーの変化からは、距離を置いていた。以前、中国の人は、アリペイ、WeChatペイのスマホ決済について「スターバックス以外どこでも使える」と言うことが多かった(現在は、もちろん対応している)。また、急速に普及した外売(出前)にも対応していなかった。スターバックスにとって、中国市場は米国市場の次に大きな市場になっていたのに、中国の動向よりも、グローバル基準での経営を優先させていたのだ。

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故宮博物院の中にあったスターバックス。気をつけていないと見逃してしまうほど地味な店舗。故宮博物館を訪れる外国人観光客のために開店したのだと思われる。現在は、故宮の景観と合わないとして批判が出たため、閉店している。

 

ラッキンコーヒーという強力なライバル出現

ところが2018年になって、唐突に中国スターバックスの経営が悪化する。2018年第2四半期には、中国での売上が昨年同時期の-2%成長となり、利益率も26.6%から19%に下落をした。マイナス成長になったのは初めてのことではないが、今回のマイナス成長は深刻だった。トレンドとして成長から縮小に変化したことがはっきりとしていたからだ。

その理由は明らかだった。2018年に創業したスタートアップ「ラッキンコーヒー」が異常な勢いで成長して、市場を蚕食されてしまったからだ。2018年1月1日に北京と上海で開店したラッキンコーヒーは、5月には500店舗を超え、500万杯のコーヒーを販売した。9月には1000店舗を突破、年末には2000店舗を突破している。2019年中に2500店舗を展開し、2020年にはスターバックスの店舗数を超える予定。さらに、2021年までに1万店舗を展開する計画を発表している。

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▲異常な成長をし、創業3年足らずでナスダック上場を果たしたラッキンコーヒー。スタンド店が基本になっていて、事前にスマホで注文決済して、取りに行く。コーヒーをテイクアウトして飲むという中国の習慣にもマッチして、急成長し、スターバックスを脅かしている。

 

行列しなくていいモバイルオーダーで急成長したラッキンコーヒー

異常とも言える拡大スピードだが、決して無謀ではない。その武器は、スマートフォンを活用したスマートオーダーにある。カフェでは注文をするのに行列をし、商品をもらうのに行列をし、コーヒーを手にしたまま空いている席を探さなければならない。この悪いユーザー体験を、スマートオーダーによって一新した。

店舗に行った場合は、最初に空いている席を探して座る。それからスマホでコーヒーを注文する。この時にスマホ決済で支払いも済んでしまう。できあがるとプッシュ通知が送られてくるので、カウンターに取りに行けばいい。

また、これから店に行くという時に、路上で注文しておいてもいい。店に着いた時にはコーヒーができあがっている。もちろん、外売(出前)にも対応している。

ユーザー体験を一新しただけでなく、レジ要員、接客要員がほとんど不要になり、人件費も削減できた。その分を豆の品質を上げることに使い、世界的に有名なバリスタと契約して、中国人好みのコーヒーの味を研究している。

ラッキンコーヒーは「行列ができない人気店」で、忙しい都市部のビジネス客、若者たちの心をつかむことに成功した。

 

スターバックスはアリババと業務提携

スターバックスが選んだ道は、アリババとの業務提携だった。アリババのもつ新小売テクノロジーを活用し、餓了麼(ウーラマ、外売)、盒馬鮮生(フーマフレッシュ、新小売スーパー)、タオバオECサイト)、アリペイ(スマホ決済)、口碑(コウベイ、グルメ案内)などのアリババの持つサービスとの全面提携を図っていった。

最大のメリットは、来店客の身分がわかるようになったことだ。それまでの店舗にくる客は「匿名」だった。しかし、スマホ決済やスマホ注文を使うことで、利用客の属性がわかる。このビッグデータを解析することにより、決め細い施策が打てるようになった。

 

中国人の7割はコーヒーをテイクアウトする

さらに大きいのが、出前に対応したことだ。それまでスターバックスのコーヒーは、店舗に行くしか手に入らなかった。それがウーラマによる出前だけでなく、新小売スーパー「フーマフレッシュ」にも店舗を展開し、「外送星厨」として、出前にも対応した。これにより、店舗ではカバーできなかった地域にもスターバックスコーヒーを届けることができるようになった。

中国人の7割はコーヒーをテイクアウトする。店舗内で飲みたいと思う人は3割でしかない。オフィスや自宅、公園などにテイクアウトして飲むというのが主流の習慣なのだ。居心地のいいインテリアを入れて、快適な空間でコーヒーを楽しんでほしいというスターバックスの考え方は、中国ではミスマッチを起こしていたことになる。アリババとの提携によって、このミスマッチが解消されつつある。

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▲中国で普及をしている外売(デリバリー)にもスターバックスは対応した。ラッキンコーヒーの登場により、危機感を持ったスターバックスは急速に中国式を取り入れるようになった。

 

中国の消費者に寄り添い始めたスターバックス

スターバックスはグローバル感覚から、完全に中国感覚に変わった。2019年2月、スターバックスECサイト「Tmall」を通じて、「スターバックス猫の手グラス」を発売した。二重構造の保温グラスで、内側が猫の手の形をしているというものだ。従来の意識が高く、おしゃれなスターバックスとは相容れない、中国的な可愛いルックスのグラスだ。これを3000個発売したところ、1分で完売してしまった。

また、コーヒーをカスタマイズしたいけど、注文が面倒、よくわからないというスターバックス初心者のために、スマホ用オーダーカードの配布も始めた。コーヒーのサイズ、種類、ミルクや砂糖の量などをあらかじめカードに登録しておくと、それを提示するだけで、自分好みのコーヒーがオーダーできるというものだ。カスタマイズコーヒーを楽しんでみたいけど、注文が面倒、よくわからないと避けていた人たち、スターバックスの最大のセールスポイントである「パーソナライズされたコーヒー」を楽しんでもらおうというものだ。

スターバックスは、グローバル経営を中国に押し付けるのではなく、中国の消費者を理解し、中国式を取り入れることで、再び成長する道を探っている。

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スターバックスオフィシャルの猫の手グラス。二重の保温グラスだが、内側が猫の手の形になっている。スターバックスのイメージとは合わないデザインだが、大人気商品となり、3000個限定が1分で完売した。

 

 

ケンタッキー、スターバックス、カルフールの中年の危機。救うのは新小売テクノロジー(上)ケンタッキー編

中国に進出した外資系企業の多くが、中年の危機に陥いり、伸び悩んでいる。これを打ち破るには、中国法人で決断ができる自律性と新小売テクノロジーを取り入れていくことが重要だと媒介360が報じた。

 

中年の危機を脱出するには新小売テクノロジー

中国に進出した外資系企業は例外なく、いつか中年の危機を迎える。中国市場で生き残るには、変化の速さに追従していくことが条件となるが、外資系企業の場合は、海外にある本社の判断を仰がなければならないため、決断のスピードがどうしても遅くなるからだ。中国企業でも市場の変化についていくのに必死であるのに、決断ができない中国支社を置いても、無数の龍がうねっているような中国市場で、埋没して終わってしまう。

ケンタッキー、スターバックスカルフールは、中国市場で地位を築いた「成功組」だが、この数年、やはり中年の危機を迎えている。この危機を脱出するために、3社ともテクノロジーを活用した新小売手法を取り入れている。

 

2012年から停滞するKFC

ケンタッキーフライドチキン(KFC)は、1987年11月に北京市の前門に1号店を開店して以来、大きな成功をして、現在では全土に5000店舗を展開している。中国に西洋式のファストフードを本格的に定着させた。ハンバーガーという中国人に馴染みのない食べ物ではなく、馴染みのあるチキンでありながら、調理法、味付けは西洋風というところが成功の要因だった。

しかし、2012年に唐突に転換点を迎える。2012年、中国での売上は68.98億ドル(約7500億円)だったが、ここから停滞時期に入り、2015年になっても69.09億ドルとほとんど伸びなかった。KFC、ピザハット、タコベルなどを運営する米ヤム・ブランズ本体の売上も中国売上の停滞などもあり、下落し始めた。

ヤム・ブランズはこの局面を打開するため、成長の可能性が感じられなくなったヤム・ブランズ中国を売却し、投資先を見つけ、中国資本の現地企業として独立させることにした。結果的にこれが中国のKFCを復活させることになる。

2016年9月、アリババ傘下のアントフィナンシャルと春華集団が4.6億ドル(約500億円)を出資することになった。これはつまりKFCもアリババ傘下に入ることになる。

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▲1987年、北京市前門のKFC1号店の開店式典。当時は「アメリカ式田舎鳥」という売り方で、中国人にも馴染みのある揚げ鳥でありながら、味付けがアメリカ風というところから人気になった。

 

アリババの出資を受け、中国独自路線が始まる

KFCはアリババ傘下に入ることにより、アリババが推進している新小売のテクノロジーや考え方を導入して、新たな成長空間を見出している。

2017年、KFCはアリババのECサイト「Tmall」に出店している旗艦店で、一年クーポンを1999元で販売して、話題づくりをした。これは365個分のチキンがどの店でも購入できるクーポンで、有効期限は1年というもの。定価の半額程度になる。発売日には40分で売り切れるという人気になった。

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▲爆発的に売れた一年クーポン。有効期限は1年で、365個のチキンが購入できる。価格は1999元(約3万1000円)だが、定価の半額程度でチキンが買える。わずか40分で完売したという。

 

会員制度を磁気カードからスマホ決済連動の電子化へ

さらに大きかったのが、アリババのプラットフォームを使って、KFC会員制度を刷新したことだ。従来は紙のカードや磁気カードでポイント還元を行なっていた程度だったが、スマホ決済「アリペイ」と連動するスマホ会員に移行した。利用者は、アリペイで支払いをするだけで、自動的にポイント還元やクーポン優待が受けられるようになった。キャッシュレス決済とポイントカードを一緒にしたのだ。

これにより、利用者の利便性が上がっただけでなく、決め細いクーポンの配信ができるようになった。さらに、ネットでも商品そのものやクーポンを購入できるようになった。

最も大きいのは、会員の個人情報と購入履歴が明確になったため、ビッグデータ解析による経営が可能になったことだ。

 

顔認証決済などのテクノロジーを取り入れた高級業態「KPRO」

アリババの新小売テクノロジーを使って、異なる業態への進出も成功させた。2017年11月に浙江省杭州市慶春路に開店したKPROだ。新小売テクノロジーを応用した未来型店舗になっている。

入り口付近に大型のタッチパネルがあり、来店者はまずここからメニューを選び、選択する。そのまま、顔認証でアリペイ決済ができる。それから空いている席の一覧図が出るので、席を選び、そこで待っていると料理が運ばれてくる。食べ終わったらそのまま帰ればいいだけというものだ(現在は、注文後に小さなデバイスを持って、空いている席に座っていると、そのデバイスの位置を目指して、スタッフが料理を運んでくれるように改められている)。

メニュー内容もKFCとは大きく異なり、野菜を中心にしたヘルシーメニューだ。健康のために油物を食べたくないというヘルシー志向の若者に受けている高級業態になる。

KPROは杭州だけでなく、北京、上海にも展開をしている。

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▲KFCの高級業態「KPRO」。いち早く顔認証決済を取り入れたことで話題になった。料理は有機野菜を中心としたヘルシーメニュー。

 

決済と会員制度を連動させたことが復活の鍵に

KFCが復活できたポイントは、O2O(オンラインtoオフライン)の風通しがよくなったことだ。店舗に行ってチキンを買うだけでなく、スマホから注文、購入、出前などができるようになったことで、購入チャンネルが広がった。

特にスマホ決済と会員制度を連動させたことが大きい。利用者はごく普通にアリペイで決済をするだけで、会員になっていれば、ポイント還元やクーポン優待が受けられる。支払いをして、会員カードを提示するという面倒がなくなった。会員カードを忘れた、持ってこなかったということがなくなったのだ。

 

中国独自のキャンペーンも展開

Tmallのセール期間、KFCはゲームによって店舗に人を引き寄せるゲームイベントも行っている。Tmallアプリの中からゲームにアクセスすると、GPS情報に基づいて、近くにいるTmallのマスコットの猫のいる近くのKFC店舗がわかる。KFCの店内に入ると、カメラを通してAR技術によって猫が表示され、その猫を捕まえると景品がもらえたり、お得なクーポンがもらえるというものだ。

オフラインの店舗、オンラインの注文の2本立てでではなく、会員制度とゲームイベントなどで、オフラインとオンラインを連結、融合させようという試みが功を奏している。

このようなO2O施策により、KFCは再び成長をし始めている。

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▲アリババのECサイト「Tmall」のセール期間中に行ったARゲーム。店舗内でスマホARを使ってTmallのマスコットの猫を見つけると景品やクーポンなどがもらえるというもの。

 

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▲Tmallのセール中に行った街頭広告。パネルにはハンバーガーの黄色、ポテトの赤、コーラの黒が回転して現れ、図形や文字を描く。パネルが回転していく様が面白い。

 

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投資家たちの熱い視線を浴びるのは人工知能ではなく、ザリガニ3.0経済

中国でザリガニが3回目のブームとなっている。インフルエンサーが主導し、“インスタ映え”する食べ物と認識されているようだ。スタートアップが続々登場するだけでなく、既存ファストフードもザリガニメニューを出し始めたと投中網が報じた。

 

人工知能の3倍の市場があるザリガニ経済

調査会社IDCが公開した「中国人工知能ソフトウェア及びアプリケーション(2018年下半期)追跡」によると、2018年の中国の人工知能市場は17.6億ドル(約1900億円)に達し、2023年には119億ドル(約1.3兆円)に達すると見られている。また、CSG科大智能研究院の龍偉則院長は、2020年には中国の人工知能産業は1000億元(約1.6兆円)市場になると見ているという。

ところが、投資家たちの熱い視線が注がれているのは、人工知能ではなく、ザリガニだ。中国農業農村部が公開した「中国ザリガニ産業発展報告(2018)」によると、2017年のザリガニ産業の市場規模は2685億元(約4.2兆円)に達し、2016年よりも83.15%増加した。このまま推移するとすると、2019年は3000億元(約4.7兆円)を突破する大きな市場となる。

つまり、ザリガニ産業は、人工知能産業の3倍の市場規模があるのだ。この大きな市場に無数のスタートアップが登場して、そこに投資家の資金も流れ始めている。

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▲中国で3回目のブームとなっているザリガニ。中華風の甘辛の味付けで、けっこう美味しい。手袋をつけて、手で剥いて食べる。そのスタイルも楽しまれているようだ。

 

W杯で火がついた第3次ザリガニブーム

2018年夏、ロシアで開催されたワールドカップの中国人観客のために、数十万匹のザリガニが武漢からロシア各地に列車で輸送された。ワールドカップの観客たちが喜んでザリガニを食べている姿が中国国内で報道されると、中国国内でも一気にザリガニ人気が高まった。美団はワールドカップ初日に全国で153万匹のザリガニを出前をした。ワールドカップ期間、フーマフレッシュなどの新小売スーパー、美団、餓了麼などの外売などを合計すると1億匹のザリガニが中国で食べられた。サッカーを見ながら、ザリガニを食べるというのが一種の定番の楽しみ方になったようだ。

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▲外売(デリバリー)を利用して、自宅でテレビを見ながら、スナック代わりに食べるというもの受けている。

 

若い世代に浸透した“インスタ映えする”ザリガニ

現在はザリガニ3.0時代に入っている。最初のザリガニブームは2001年に始まった。甘辛く煮たザリガニは、ビニール手袋をつけて殻を開けながら食べるその姿の面白さとあいまって、各地にザリガニ専門レストランが生まれた。手頃な価格で、美味しく、味付けは中華風というところが受けた。

2013年からはO2Oのザリガニ2.0時代に入る。外売サービスが普及し、自宅で映画やスポーツを見ながら食べる人が急増した。お腹が膨れるスナックの感覚だ。この間に、大資本のチェーンがザリガニ市場に参入し、個人商店が淘汰された。

そして、2015年からは網紅(ワンホン)がザリガニ3.0時代をリードした。大規模チェーン店が網紅と契約をし、ザリガニを食べている姿をライブ配信させる。これを見た若い層がザリガニを食べ始めるというサイクルが生まれている。大資本のチェーン店が店舗展開を加速している。

深圳では、2015年に13のチェーンが800店舗を出店していたが、2018年には3541店舗と4倍以上に増えている。

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▲ザリガニ大食い大会に出場した網紅(ワンホン=インフルエンサー)の密子君。ザリガニ3.0ブームは、このような網紅が牽引している。

 

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▲密子君は大食いで有名な網紅で、20kgのザリガニを食べて優勝した。過去には4kgのお米を水だけで食べて、大食い大会に優勝したこともある。大胃王と呼ばれている。

 

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▲ザリガニ3.0ブームは、若い世代に受け入られている。インスタ映えする食べ物として認識されているようだ。

 

スタートアップだけでなく、ファストフードもザリガニ

この状況を見て、スタートアップも続々参入している。「熱辣生活」(B+ラウンド)、「堕落蝦」(Bラウンド)、「信良記」(Bラウンド)、「松哥油燜大蝦」(Aラウンド)、「大蝦来了」(Aラウンド)などが主なプレイヤーだ。

いずれも若者向けに味付けを変えたり、スマホから席の予約や注文ができるなどの工夫をしている。

また、既存の飲食チェーンもメニューにザリガニを加えている。ケンタッキーはザリガニハンバーガーを発売し、ピザハットはザリガニピザを発売した。ザリガニは過熱気味のブームになっている。

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▲ファストフードもザリガニメニューを出している。投資資金も流れ込み、投資家の間ではザリガニが熱い話題になっている。

 

早くも始まる淘汰整理。生き残りをかけるザリガニ経済

例によって、中国の常として、ブーム=淘汰整理の時期に入っている。ザリガニの旬は5月から9月で、問題は冬の間は冬眠してしまうということだ。そのため、冬はザリガニの供給量が減り、仕入れ価格が高騰する。そのため、ザリガニレストランは「4ヶ月儲け、4ヶ月損をする」と言われている。

生き残りのポイントは、長期の持続力だ。ザリガニをメニューの中心にして、いかにサイドメニューで固定客をつかむか。そこが生き残りのカギになると見られている。