中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

「人民元が発行停止になる」デマが広がる

中国で人民元の紙幣、硬貨が製造停止になるというデマが広がった。中央電視台がデンマークの事情を報道したニュース映像が、中国のものと誤解されてウェイボーで拡散したためだと名城蘇州網が報じた。

 

SNSを駆け巡った現金廃止のデマ

「みんなが愛してきた人民元の製造が停止された。中央銀行は発行を停止し、中国は無現金社会時代に入る。この発展スピードについていける?」。そういうメッセージがウェイボーやWeChatを駆け巡った。

このメッセージには、中央電視台のニュース動画がつけられている。そこには「無現金時代。中央銀行が発行停止。スマホ決済が流行」という字幕がついている。さらにキャスターが「商店が現金支払いを受け付けなけれならない法律規定が廃止され、レストラン、衣類店、ガソリンスタンドなどが次第に無現金時代に入っていく」と報道している音声までつけられている。

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▲問題になったデマメッセージ。中央電視台のニュース動画がついているが、左下を見ると「丹麦」(デンマーク)と記されていて、中国の話ではないことがすぐにわかるはずだが、これが拡散し、多くの人が誤解をした。

 

デンマークで始まっている無現金社会

しかし、この動画をよく見ると、左下に「丹麦」(デンマーク)と書いてある。この動画のニュースは、2017年6月12日の中央電視台の「ニュースライブ」で、デンマークの状況を伝えたものだった。

デンマークでは、2017年1月にすでに造幣所の閉鎖を決定し、紙幣と硬貨の製造を停止している。硬貨についてには海外で少量の生産をしているが、2030年に完全に廃止する計画だ。同時に、公共サービス以外の商店で、現金支払いを拒否できるようにする規制緩和を順次行なっている。

決済は、中央銀行が発行しているデビットカード「Dankort」が主流になっていて、このデビットカードやクレジットカードに紐づけられるスマホ決済「MobilePay」が2013年からサービスを始め、多くの人がMobilePayを使うようになっている。

このニュースが誤って、あるいは意図的に、中国のことであるかのように誤解する形で広まったというわけだ。

 

中国の法定通貨はあくまでも人民元

2月26日になって、北京日報はウェイボー、WeChatなどの公式アカウントで、このメッセージがデマであると注意を促し、この騒ぎは収束に向かった。

中央銀行は昨年7月、無現金社会に対してメッセージを発している。キャッシュレス決済が社会発展にもたらす効果は大きいが、中国は人口が多く、地域差も大きく、都市と農村の不均衡も大きい。消費者が決済方法に求めるものはさまざまで、現金での支払いを好む人も広く多く存在する。中国の法定通貨はあくまでも人民元であり、どのような組織も現金支払いを拒否することはできない。また、キャッシュレスツールを広める場合も、「非現金」の概念を過度に強調するものであってはならないとしている。

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人民元が発行停止になるというデマが流れ、北京日報などのメディアは否定するメッセージを発表した。



都市部では90%でも、全体では60%

中国の都市部では、90%以上がキャッシュレス決済になっているように見える。現金そのものを目にする機会が激減している。しかし、中国全体でのキャッシュレス決済比率はまだ60%を超えたところで、韓国や北欧には及ばない。人口の半分が都市人口になっていることを考えると、農村などではまだまだ現金の方が主流な決済手段だ。

農村部でもWeChatペイは広く使われているが、銀行口座との紐づけをせずに使っている人も多い。銀行口座と紐づけないと、チャージができない、ネット決済ができない、顔認証決済ができないなどの不便があるが、日常の対面決済はできる。チャージは、商店に行って、20元の現金を渡して、20元をWeChatペイに送ってもらうことで可能だ。

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▲農村部でもスマホ決済は普及をしているが、露店や商店などの少額決済に使うのが一般的だ。日本の流通系電子マネーの使われ方とよく似ている。

 

農村部では電子マネー的に使われるスマホ決済

要するに、キャッシュレス決済といっても、日本の流通系電子マネーカード的な使い方をしている。目が悪くなり、指先の感覚も鈍っているお年寄りにとっては、小銭を扱わないだけでも十分な利便性がある。一方で、銀行口座への紐づけは、中国特有の特殊詐欺を警戒してしない人も多い。地方公安でも、大きな額の決済をしないのであれば、銀行口座の紐づけを外すか、あるいは別の決済用の銀行口座を作ってそちらを紐付け、メインの銀行口座をスマホ決済に紐付けないことを勧めている。

中国の都市部は、間違いなくキャッシュレス先進国だが、国全体を見ると、キャッシュレス先進国とは呼べない。中国のキャッシュレス政策は、まだまだこれからいくつもの高い山を越えていかなければならない。

 

投げ売りが止まらない電気自動車EV

電気自動車(EV)を使ったカーシェアリングサービスが不調で、各サービスが資産であるEVの販売を始めている。この影響でEVの中古市場価格が暴落していると第一電動が報じた。

 

相場の半値以下で買える中古電気自動車

EVの安売りが止まらない。中古相場2.3万元程度の康迪K10が8000元、中古相場2万元程度の知豆D1が1万元、中古相場3.1万元から5.8万元程度の北汽新能源EC200が3万元(1万元=約16万円)。2017年発売モデルの多くが新車価格の半分程度になり、2015年発売モデルになると、新車価格の1割を切っているものもある。電気自動車や新エネルギー車の投げ売りが始まっている。

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▲EVカーシェアリング蕃茄出行で使用されていたEV「北汽新能源EC200」は、走行キロ1万km程度のものが半値以下で中古市場に出ている。

 

カーシェア企業が投げ売りを始めている

投げ売りをしているのは、EVを使ったシェアリングサービスを運営している企業。カーシェアに使ったEVなどを低価格で売り出している。カーシェアに使われた車は、一人のオーナーではなく、いろいろな人が乗る。そのため、同じ走行キロであっても、車の状態はよくないことが多い。中古価格はどうしても安くなってしまうのだ。

例えば、2015年5月に発売になった康迪K10は、新車価格が15.08万元(約250万円)。これが政府の補助金を使って4.88万元(約80万円)で購入できた。それが8000元(約13万円)で売られている。しかも、走行キロ数はほとんどゼロで、まとめて1500台が売りに出されている。

2017年8月に発売になった北汽新能源EC200は、新車価格が15.88万元から16.48万元(約270万円)だった。これが政府の補助金を使うと、5.68万元から6.28万元(約104万円)で購入できた。これがシェアリングサービスで1年使われて、走行キロ1万キロ程度のものが3万元(約50万円)で売られている。

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▲康迪K10。フル充電で150kmの走行が可能。

 

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▲北汽新能源EC200。フル充電で162kmの走行が可能。


事業の黒字化が難しく、売り食いが始まった

なぜこんなことになっているのか。ある関係者は「EVのシェアリング業車の8割は今や中古車販売業者になっている」という。理由は「シェアリングビジネスは痩せるばかりで、車を売って少しは太らないとならない」と説明する。つまり、シェアリング事業の黒字化が難しいため、いよいよ資産を売却して売上を確保し始めたということだ。

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▲小魂狗租車のEVも大量に中古市場に流れている。事業の黒字化が難しいため、運転資金を確保するために、資産の売却が始まっている。

 

淘汰が始まっているEVカーシェア

EVシェアリングサービスは無数に登場したが、すでに淘汰の時期に入っている。2017年3月に倒産した友友用車を皮切りに、巴歌出行、途歌は給料の未払いが発生し、易到用車は経営難が伝えられている。多くのシェアリングサービスが資金不足により綱渡り状態の経営になっていて、資産を売却して運転資金を確保しなければならないところに追い込まれている。彼らが最も恐れているのは、投資資金が途絶えることだ。投資家たちが首を振った瞬間に、倒産を免れなくなる。

もちろん、すべてのシェアリングサービスがこうなっているわけではない。複数都市でサービスを展開する企業だけでも30社以上あり、ローカルなものまで含めるとその数は相当なものに登る。このサービスの淘汰が始まっている。

 

中古車市場への影響が大きすぎる

心配されるのは、中古車市場への影響だ。あまりに低価格の投げ売りであるため、この傾向が続くと、一般の中古車市場は太刀打ちすることができなくなってしまう。シェアリングサービスは無限に車を持っているわけではないので、時期が過ぎれば中古車価格も適正なものに戻るだろうが、それを乗り切ることができない中古車業者も出てくることになる。

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▲有車出行のEVも中古市場に流れている。

 

格安中古EVを農村などに流す仕組みが必要

第一電動の筆者である電動汽車観察者は、このような低価格中古車を、農村や地方都市に優先して販売する仕組みが必要だと訴えている。EVに対しては、多くの人がちゃんと使えるのかどうか、充電は煩わしくないのかなど不安を持っている。そのため、最初は中古車を購入し、それから新車に乗り換える人が多いという。

この低価格中古車を、まだ、EVがほとんど普及していない地区に販売をすることができれば、このEV普及にとって難しい事態をEVの普及策に転換することができると提言している。

超小型電気自動車COMS コムス CANプローブ

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出前対策から生まれたシェアリングキッチンビジネス

中国で普及する外売サービス。外売アプリを開いた時に、近隣店舗一覧に表示されなければ注文もしてもらえないということから、キッチンを共有するシェアリングキッチンサービスが始まっていると好奇心研究所が報じた。

 

一般客は利用できない謎の店舗

中国でもはやなくてはならなくなったサービス「外売」。ほぼどこのレストラン、ファストフードの料理でもスマホで注文し、届けてもらえる出前サービスだ。日本でも、ウーバーイーツが同様のサービスを提供している。

ところが、美団(メイトワン)や餓了么(ウーラマ)などの外売アプリの注文画面に表示される店舗一覧で、そこに行っても店舗が見当たらない謎の店が存在することが話題になっている。

例えば、美団のアプリに「dicos(吉刻美食城店)」という店舗情報が表示されるのに、その住所に行ってもdicosの店舗はない。吉刻美食城というビルも見つからないが、吉刻という看板ロゴだけが見つかり、「外売配達員はこちら」という掲示が見つかる。一般の客は入ることができない。

これは複数のレストラン、ファストフードが集まったシェアリングキッチンで、すでに200以上のシェアリングキッチンが存在する。シェアリングキッチンは吉刻だけでなく、熊猫、黄小逓などのスタートアップがシェアリングキッチンを運営している。吉刻はすでに米国のクラウドキッチンに買収をされていて、熊猫は5000万ドル(約55億円)の投資を募集中、黄小逓はプレAラウンド投資を獲得した。

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▲dicosの吉刻美食城店の住所に行ってみると、そこに店舗はなく、「外売配達員の受け取りはこちら」という看板が見つかる。

 

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▲現在のシェアリングキッチンの開設状況。当然ながら、北京、上海の大都市に集中している。

 

地理的なSEO対策から生まれたシェアリングキッチン

このようなシェアリングキッチンは、外売専用として、オフィスビルやマンションが密集しているものの、賃貸料が安い場所に開設される。広さはさまざまだが、ここに3店舗から10店舗のレストラン、ファストフードのキッチンだけが入居をする。美団などの外売アプリを開くと、現在の自分の場所から近い店の一覧が表示され、店を選んで、メニューの中から料理を注文する。そのため、顧客が多い場所に店舗がないと、注文をしてもらえない。しかし、そのような場所は、賃貸料も高く、店舗を出店するのは簡単ではない。それで、キッチンだけ置いて、外売の利用客を獲得しようというものだ。

いわば、外売の地理的なSEO対策のようなもの。これに目をつけたシェアリングキッチンビジネスが興り始めている。

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▲シェアリングキッチンの廊下。各部屋がキッチンになっていて、さまざまな飲食店が入居をしている。

 

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▲外売配達員は、このような各飲食店専用の窓から商品を受け取り、配達をする。

 

各種手続きが取得済みであるためすぐに開店ができる

レストラン側から見た場合、シェアリングキッチンはありがたいサービスに映る。例えば、北京市の場合、レストランを開店するには、衛生許可証、従業員健康証、食品営業許可、消防許可などが必要で、店舗面積は最低でも60平米でなければならない。手続きには3ヶ月ほどかかるのが普通で、その間、さまざまな検査に立ち会わなければならない。

しかし、シェアリングキッチンの場合、このような許可は、シェアリングキッチン全体ですでに取得済みなので、入居時に再申請をすればいいだけだ。必要な調理器具を持ち込むだけで、すぐに営業が始められるのが魅力だ。

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▲シェアリングキッチンは、客席がなく、キッチンだけ。複数の飲食店が入居をする。そこに外売の配達員が商品を受け取りにくる。外売サービス専用のキッチンだ。


成長の限界をどう打破するかが大きな課題

黄小逓の創業者、黄献興は好奇心日報の取材に応えた。「原則として、3km圏内の1ヶ月の外売注文量が100万件以上の場所を選んで、シェアリングキッチンを設置しています」。

しかし、シェアリングキッチンビジネスの限界が早くも見えてきている。このビジネスは、商業ビルなどのフロアを賃貸して、そこに厨房設備を入れ、ファストフードに貸し出すという又貸し業にすぎないからだ。

そこで、より広いフロアを賃貸して、そこにシェアリングキッチンと、客席を設置したフードコートをオープンする例も見られるようになってきた。外売の需要と来店の需要の両方を取りに行くという発想だ。

しかし、そもそもシェアリングキッチンは、外売需要は多いが、人の流量が少ない場所に設置し、家賃コストを抑えながら、外売売上を上げるというものだったのだから、フードコートを出店すると、家賃コストが上昇するか、あるいは人の流量が少ないため店舗売上が上がらないかという問題を抱えることになる。

それでも、大都市ではシェアリングキッチンが増え続けている。シェアリングキッチンは、始まったばかりの新しいビジネス。成長するまで、まだまだ紆余曲折がありそうだ。

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▲シェアリングキッチンだけでは成長に限界があるので、客席を設けて、複数のキッチンを入居させ、フードコート形式にする工夫もされている。

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行動解析まで行われるようになる公安部の監視カメラ

監視社会中国では、駅、バス、地下鉄、モール、劇場、路上などの至る所に1.7億個の監視カメラが設置されている。映像から顔認証をして瞬時に個人特定する「天網システム」はあまりにも有名になっている。しかし、公安部では、さらに進んだ監視技術が開発されていると中国経済網が報じた。

 

顔だけでなく問題行動も検知する監視カメラ

公安部の監視カメラシステムを開発しているのは、国営企業の中国電子科技集団(CETC)。ここの創新センターの公安業務責任者の林暉氏が、昨年から関係カンファレンスなどで「公安映像ビッグデータ分析領域における人工知能の最先端応用」というプレゼンテーションを行っている。

この内容によると、人々の行動を監視し、問題行動を発見するとアラートを出すというところまで監視カメラは進化をしている。

 

映像定位人流量分析技術

監視カメラ映像から自動的に人を認識、人通りの多さ、人の密度、歩行速度などを自動計測する。人の密度が一定以上になると、アラートが発生されて、警察官が急行することになる。人工知能により、単なる混雑なのか、暴動などにつながる異常な密集なのかも判断できるという。

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▲映像定位人流量分析技術。監視映像から人の密集度を計測し、しかもそれが単なる混雑なのか、暴動につながりかねない異常な密集なのかも人工知能が判別をする。

 

禁止区域異常侵入警報技術

中国には軍事関係施設の前など、路上であっても、写真撮影が禁止されている場所がある。このような場所では、警備員が立っていて、立ち止まっているだけでも警告を受けることがある。

しかし、これからは、警備員がいなくても、撮影禁止地区でないかどうか、掲示などをよく確かめなければならなくなる。監視カメラ映像内にバーチャルな禁止区域を設定することができ、その中でカメラやスマホで撮影をする、敷地内を覗き込むという動作を検知し、アラートが発せされ、警察官が急行する。

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▲禁止区域異常侵入警報技術。監視カメラ内に、禁止区域をバーチャルに設定し、その中で写真撮影などの禁止行為が行われるとアラートを発する。

 

人員異常行為警報技術

監視カメラ映像から、殴り合いなどの暴力行為を検知してアラートを発する。しかも、ただのふざけ合いなのか、本気の殴り合いなのかも判定をして、人工知能が警察官が急行すべきかどうかも提案してくれるという。

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▲人員異常行為警報技術。喧嘩などの暴力行為を検知して、アラートを発する。


ボディサイン識別技術

中国で、トラブルに遭遇して、周囲に助けを求められる人がいない場合、人を探すよりも、監視カメラを探して、そちらに手を振った方が早いかもしれない。監視カメラに向かって、大きく手を振る動作を検出して、助けを求めているというアラートが発せられる。

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▲ボディサイン識別技術。監視カメラに向かって手を振ると、緊急事態発生と認識して、警察や救急にアラートを発する。

 

外観識別追跡技術

複数のカメラがあるようなモールなどでは、服装などの外観をキーにして、異なるカメラを使って、その人物を追跡することができる。容疑者の追跡にも利用されるが、迷子の子どもの捜索にも使われるという。迷子ぐらいで言われるかもしれないが、つい最近まで親は子どもの誘拐を不安に感じていた。現在では、誘拐事件はめっきり減っているが、それでも人混みで子どもとはぐれた場合は、緊急性を要する捜索になる。

カメラが異なると、光源などが異なるため、外観から同一人物と判定するのはかなり難しいが、それでも90%程度の正解率に達しているという。

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▲外観識別追跡技術。複数の監視カメラをネットワーク化し、対象の服装などから移動を追跡する。犯人捜査や迷子の捜索に使われる。

 

携帯物体識別技術

監視カメラ映像から、問題のある物体を手に持っている人と、その物体を識別する。撮影をしようとするスマホ、刃物類などだ。

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▲携帯物体識別技術。その人が手にしているものを判別する。カメラ、スマートフォン、刃物など。

 

急成長する監視カメラ市場

この他、警察での取調べの最中に容疑者を撮影し、顔の表情や小さな動作から嘘をついているかどうを判別する技術などもある。さらに、ネットのライブ配信も監視対象となっていて、公序良俗に反する行為が行われるとアラートが発せられる。

中国商産業研究院が以前公表した数字では、中国の監視カメラ関連市場は、2010年には242億元(約3900億円)であったものが、2016年には962億元(約1.57兆円)に増加し、2018年には1192億元(約1.95兆円)になると予測している。

 

2020年までに監視カメラのネットワーク化を完了

この分野で重要な政策は、996政策と620講話だ。996政策は、2020年までに全国の監視カメラのネットワーク化を完了するというもの。620講話では、公安部の情報化を「天網」「天算」「天智」の3つの柱で行なっていくという内容だ。監視しカメラ映像から得られる情報から、顔認証などによって個人特定する「天網」、大量のデータを高速処理する能力を確保する「天算」、人工知能を応用する「天智」の3つだ。

なお、創新センターがプレゼンテーションを行っている各技術が、すでにどの程度実際に運用されているかについては公表されていない。あるものはすでに運用されているのだろうし、あるものはまだ研究途上にある。しかし、いずれこのような技術が運用されるようになることは疑いはない。

 

新小売スーパーの主戦場は広州。フーマフレッシュが圧倒的に強い理由(下)

広州市に、「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を始めとする新小売スーパーの4強が相次いで開店し、新小売戦争が熱い地域になっている。そのあおりを受けて、地元発の新小売スーパーが営業停止に追い込まれるなど影響が出ていると界面新聞が報じた。

 

フーマ進出のあおりで破綻をした地元勢

アリババの新小売スーパー「フーマフレッシュ」が昨年4月に広州市に進出をして約1年。フーマフレッシュの強さは圧倒的で、他の新小売スーパーだけでなく、地元のスーパーなども苦しい立場に追い込まれている。

フーマのライバルは、他の新小売スーパーだけではない。広州には広州発の新小売スーパー「食得鮮」(シーダシエン)が、フーマ進出前から定着していた。

その食得鮮の経営が昨年後半から明らかにおかしくなっていった。離職した従業員から未払い分の給料を請求されるなど、経営が苦しくなってきたことが次第に外に漏れるようになり、2018年11月、12月に1店舗ずつ一時閉店をする事態となった。今年1月になって、営業を再開したが、1週間ほどで再び営業を中止。旧正月である春節のためにシステムを改定中、従業員に春節の休みを与えるためなど、食得鮮はいろいろな説明をしているが、一部の店舗は商品棚などが持ちされたもぬけの殻状態になっていることがネットワーカーたちから報告され、事実上の経営破綻だと考えられている。明らかにフーマ進出の影響だ。

2018年上半期、食得鮮は、上半期の売上は4.1億元(約67億円)で、昨年同時期の583%増だという華々しい数字を発表した。そのわずか数カ月後には経営危機に追い込まれていたことになる。

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▲店舗での公告では、春節のための長期休業と書かれているが、多くの人が実質的な破綻に追い込まれたのだと見ている。

 

生鮮ECサービスから始まった「食得鮮」

食得鮮は、2014年に起業したスタートアップだが、元々は生鮮ECだった。店舗はなく、スマホで生鮮食料品の注文を受け、市内に設置した4箇所の倉庫から、広州市全域に3時間配送するというサービスだった。

2016年になって、フーマフレッシュなどの新小売スーパーが登場したのを見て、体験店舗の出店を始める。来店をして購入することもできるし、「店倉合一」で、店舗を倉庫がわりにして、店舗から3km以内には1時間配送をするサービスを始めた。

2018年4月にフーマフレッシュの広州一号店が開店すると、食得鮮は6月、12月、翌年1月と新店舗を増やし、一時期5店舗までになった。しかし、11月にはすでに営業困難になった店舗を閉店し始めている。

元々利益が出ない態勢であるところに、フーマの進出に対抗しようとして、無理に出店をしてみたものの、資金が続かず、体力負けしたということのようだ。

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▲ネットで拡散している食得鮮の店舗写真。シャッターが閉まったまま開業する様子はない。

 

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▲同じくネットで拡散している映像。店舗内の商品ケースなどが撤去されていて、もぬけの殻の状態。改装工事が始まるわけでもなく、多くの人が破綻したと見ている。

 

最大の問題は、宅配システムの二重投資

食得鮮も紆余曲折はあるものの、店舗+宅配という新小売スーパーの形になっている。フーマは成功しているのに、食得鮮はなぜ失敗してしまったのだろうか。

最大の問題は、宅配システムが二重投資になってしまったことだ。生鮮EC時代からある市内全域の3時間配送と、店舗が周辺3kmに行う1時間配送が別建てになっている。新小売スーパーは、配送コストをいかに抑えるかが鍵になるのに、大きなコスト負担を背負うことになっていた。

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▲店頭に液晶パネルを置き、そこで食得鮮とECサイトの商品価格の比較情報を掲載している。食得鮮がどこのECサイトよりも安いということを強調するためだ。

 

禁断の「安さ競争」に踏み込んでしまった食得鮮

店舗とECも別建てになってしまっていた。売っている商品は同じものであっても、消費者から見ると、別物になっていた。フーマは、店舗を倉庫だけでなくショールームとしても活用するために、さまざまな手法で人を呼び込む。その目玉が、通常店よりもさらに大きな生簀で、そこに大量の生きた魚やカニがいる。広州は海鮮の街で、市内に大きな海鮮市場がある。フーマはそれに対抗するように大きな生簀と水槽を用意して、しかもレストランエリアでは、その海鮮をその場で調理してもらい食べることができる。この料理も、人を惹きつけることが目的なので、利益はほとんど乗せていないため、格安で食べることができる。

そして、店内を見て、商品の質の高さを知ってもらい、スマホから注文してもらうというのがフーマの考え方だ。

一方、食得鮮は海鮮品を扱っていない。市内に大きな海鮮市場があるために、扱っても売れないだろうという判断だった。それは正しい決断なのかもしれないが、では店舗の魅力をどこにつくるのか。食得鮮は、「安さ」の競争を始めてしまった。

店内に液晶パネルを設置し、主要なECサイトの価格一覧を表示するようにした。「食得鮮がいちばん安い」ということを訴えるためだ。しかし、そのためには、利益を削ってでも、格安の商品を用意するしかなく、利益率はどんどん削られていく。苦しくなればなるほど、価格を下げて、余計に苦しくなるという悪循環に陥っていった。

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▲食得鮮では、次第にカゴのまま、パッケージのままの商品陳列が増えていく。安さを強調するための演出だったが、やればやるほど、手抜き、低品質のイメージがついていった。


「既存ビジネスを守り、新規ビジネスを追加する」は必ず破綻する

食得鮮の経営手法を批判することは簡単だが、食得鮮は日々のビジネスをする中で、さまざまな模索をしてきたのだろう。しかし、追加をしていく形でビジネスを拡大していくと、どうしても「既存ビジネスの利益は守った上で、新しいビジネスを上乗せしていく」ということになりがちだ。配送システムの二重投資がまさにそうなっている。食得鮮は、オンラインとオフラインを合体することはしたが、融合させることは結局できなかった。

また、相手の動きに合わせて、自分も動くというのは、負けではないにしても、先々の選択肢が限定されてしまうことも考えておくべきだった。広州には大きな海鮮市場があるから海鮮は扱わない、フーマが出店するから食得鮮も出店して対抗する。このような考えが、将来の選択肢を奪っていき、最後には身動きが取れなくなっていった。

と、外野が後から批判することは簡単だ。食得鮮は、広州発のスタートアップとして生き残りと成長を意識して、5年間もがき続けてきた。日々の忙しい仕事をこなしながら、全体も俯瞰するというのは、現実には簡単なことではない。

結局、食得鮮は、最初からオンラインとオフラインを融合したモデルを作ったフーマフレッシュに対抗することはできなかった。フーマはやっぱり強かった。

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新小売スーパーの主戦場は広州。フーマフレッシュが圧倒的に強い理由(上)

広州市に、「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を始めとする新小売スーパーの4強が相次いで開店し、新小売戦争が熱い地域になっている。そのあおりを受けて、地元発の新小売スーパーが営業停止に追い込まれるなど影響が出ていると界面新聞が報じた。

 

広州市が新小売スーパーの戦場になっている

中国4大都市といえば、北京、上海、広州、深圳。大雑把にいって、北京と上海は人口が2000万人、都市のGDPが1.5兆元。広州と深圳が人口1000万人、都市のGDPが1兆元という感覚だ。

中国全土にビジネスを展開しようと思うのであれば、まずはこの4都市を攻略することが必要になる。しかし、広州は最後になることが多い。北京と上海は巨大な都市で、さまざまな人が暮らしているため、市場を発見しやすい。深圳は若い都市で、市民の年齢も若く、テクノロジーを使った新しいビジネスであれば受け入れられやすい。

一方で、広州市は、伝統的な中国都市の典型だ。華南地域の中心地としての歴史が長く、伝統的な産業構造もしっかりしている。この広州で、新しいスタイルのビジネスを成功させることができれば、華南地域、さらには中国全土も攻略できる道が見えてくる。

各新小売スーパーとも一昨年から広州市に進出をし始めた。広州を制したものが中国を制すと激しい競争になっている。

 

新小売スーパー4強が続々と広州市に出店

2018年4月に最初に進出したのは「フーマフレッシュ」(アリババ)。それに「超級物種」(永輝)が続き、昨年末には「スーフレッシュ」(蘇寧)、「7フレッシュ」(京東)と瞬く間に新小売スーパーの4強が出そろった。

広州市での新小売スーパー競争が始まってちょうど1年。やはりフーマフレッシュは強かった。2019年3月には、広州市8店目を出店した。年内に10店舗体制にする予定だ。

一方、「超級物種」は現在2店舗、スーフレッシュ、7フレッシュは1店舗で、今後の店舗展開の計画は明らかにしていない。

この影響で、地元のスーパーや地元のスタートアップ新小売「食得鮮」の業績が急速に悪化してしまった。一言で言えば、フーマフレッシュが地元勢を駆逐している状況になっている。

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広州市最初のフーマフレッシュ「天河曜一城店」の休日の様子。店の外まで行列ができ、人の流れが変わった。フーマフレッシュは、この人気を宅配ECに誘導していき、現在では宅配EC売上比率が50%を突破している。

 

新小売スーパーの基本は「店倉合一」

フーマフレッシュはなぜ猛烈な勢いで店舗数を増やしていくのか。ひとつには営業成績が好調であること、母体の資金力が桁外れなこともあるが、フーマの戦術は「ひとつの都市に複数店舗を展開して、市内全域をカバーする」ことだからだ。

新小売スーパーは「スーパーだけど、宅配もする。レストランも備えている」と説明されることが多いが、その本質は生鮮ECサービス。しかし、従来の宅配物流そのままでは、新鮮な生鮮食料品を短時間で宅配するのは難しく、冷蔵設備、冷蔵車など高コストの設備投資が必要になる。

そこでフーマは、「配達先のそばに倉庫を置く」という逆転の発想をした。つまり、フーマの店舗は、店舗機能よりも倉庫機能の方が比重が高い。最近では「店倉合一」(店舗と倉庫の一体化)という言葉もよく使われるようになった。フーマでは、店舗から周囲3km圏内を「フーマ区」と定め、その地域の家庭に30分配送を行なっている。

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広州市の現在のフーマ区の様子。西南に2つのフーマ区が隣接しているが、まだ飛び地状態になっていて、効率はよくない。2019年内に10店舗にする計画で、フーマ区で埋め尽くすことで、より配送効率が上がっていく。

 

店舗は倉庫、ショールーム、小売店

フーマフレッシュにとっての店舗は、「倉庫>ショールーム>小売店」という3つの機能を持っている。消費者は徒歩や自転車、自動車で行ける店舗に行き、実際に自分の目で生鮮食料品の品質を見極めることができる。それで安心をして、スマートフォンから宅配注文ができるようになる。

ショールーム機能としては、人を引き寄せなければならない。そこで、販売している商品を利用した料理を提供している。ほとんど利益は乗せていないという。なぜなら、これも「フーマの食材を使えば、こんなに美味しい料理が作れる」というプレゼンテーションのひとつだからだ。

さらに、内陸都市では珍しい豊富な海産物も販売している。これも客寄せの目玉のひとつ。水槽に生きた魚や蟹がいるため、小さな子どもがいる親子が、よくやってくる。さらに、週末になるとさまざまなイベントを開いて、人を惹きつける。

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▲フーマフレッシュで提供される料理は、すべて販売されている食材を使っている。あくまでも食材品質のプレゼンテーションなので、利益をほとんど乗せずに料理を提供している。

 

宅配EC比率を上げて、売上を青天井で上げていく

フーマフレッシュの売上は、60%以上が宅配ECになっている。店舗に来て、品質を自分の目で確認しているので、安心して注文できるからだ。週末には、親子で食事をしに来て、商品を見て、その場で宅配注文し、家に帰るという人もけっこういる。自分で重たい荷物を持って帰らなくていいからだ。

宅配EC比率が高いために、単位面積あたりの売上は、同規模スーパーの4倍近くになっているという。宅配ECの比率を上げていけば、単位面積当たりの売上は、理論上は無限にあげていくことができる。新小売スーパーはここを狙っている。

 

大きな問題となる宅配システムコスト

しかし、フーマ以外の新小売スーパーは、宅配EC比率を公開していないところも多く、20%弱ではないかと言われている。なぜ、フーマだけ宅配比率を上げることができるのだろうか。

宅配をするには、宅配スタッフを用意しておかなければならない。これはスーパーにとって、かなり大きなコストになる。そのため、宅配スタッフをいかに効率的に動かすかが鍵になる。注文が少ない時は宅配スタッフは遊んでしまうことになる。しかし、注文が多すぎると30分配送ができなくなり、遅配が起きる。スーパーとしては、消費者の信用を失う遅配を避けるため、ピーク時に合わせて宅配スタッフを用意せざるを得ない。これが固定費となり、経営を圧迫する。

そのため、多くの新小売スーパーは、経営を圧迫しない程度の宅配スタッフしか用意しないため、宅配注文を積極的に取りにいくことができない。宅配注文が少なければ、既存のスーパーと大差ないことになるし、宅配注文が多ければ配送システムがパンクをしてしまう。このジレンマを乗り越えることができずにいる。

 

多店舗展開、全域カバーで宅配EC比率を上げていく

ところが、フーマは宅配注文を積極的に取りにいっている。むしろ、店舗に対して宅配比率を上げる目標設定までしているほどだ。フーマの店内で買い物をして、セルフレジで支払いをしていると、スタッフが寄ってきて、「その商品、宅配もできますよ」と声をかけてくる。フーマでは宅配比率を上げるためにさまざまな努力と工夫をしている。

それで配送システムがパンクをしない秘密が「多店舗展開」だ。フーマの宅配スタッフは、身分としては店舗に属してはいるが、その店舗だけの配送をするのではない。ほぼ全員が「遊軍」なのだ。A店で荷物を受け取り、A地区に配送、その後、B店に行き、B地区に配送、再びA店に戻りと、ダイナミックに動いている。場合によっては、A店で荷物を受け取り、隣接するB地区に配達するということもある。

これができるのは、配達地域である「フーマ区」が隣接をして、市内をカバーしているからだ。配送スタッフが有機的に動けるため、配送スタッフの効率は極限まで高められている。勤務時間中は常に動き回っていることになる。配送の割り当てシステムは相当に練り上げられているのだと思われる。

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上海市のフーマ区の様子。複数のフーマ区が隣接をしているため、配送スタッフが遊軍として複数のフーマ区を縦横無尽に活動することができる。これにより、配送効率が上がるため、宅配注文を積極的に取りにいくことができている。

 

出店場所よりも、宅配地域の設定がより重要

2018年春に、広州に最初のフーマフレッシュが進出という話が広まると、地元広州の小売業者たちは、恐れるとともに、意外な思いをした。なぜなら、フーマは天河曜一城に出店をするというからだ。

地下鉄の「華師」駅から数分の場所だが、駅の東側は華南師範大学が広がっていて、フーマが出店する前の道は、人通りがあまりなく、スーパーには適さない場所だったからだ。一応、小さなモールにはなっているものの、この5年で、3度も改装しているようなビルだ。しかも、フーマはその2階に入居した。つまりは店舗には適さない場所なのだ。

しかし、この小売業者たちは、フーマのビジネスモデルを理解していなかった。フーマが場所を決めるのに最も重要視するのが、配達地域である「フーマ区」だ。宅配ECを最優先に考えているので、最もお金を使い、最もECを利用する属性の住人が多い半径3kmのフーマ区を最初に設定する。それには、スマホ決済「アリペイ」から得られる膨大なデータ分析の裏付けがある。

フーマ区が設定できれば、店舗はどこでもいいとまでは言わないが、アクセスのいい場所であれば、こだわる必要はない。店舗は、店でもあるが、本質は倉庫なのだ。

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▲1号店の天河曜一城店は、地下鉄「華師」駅から10分ほどかかり、立地はよくない。五山路の東側は大学で、フーマフレッシュの前の道は人通りも少ない。しかし、フーマが出店したことで人の流れが変わったと言われる。

 

物珍しさから来店する客を宅配注文に誘導していく

オープンすると、今まで人通りの少なかった道が様変わりした。オープンしてしばらくは常に長蛇の列ができ、現在でも週末はかなりの混雑だという。特に広州の人は夜が遅いのか、夕方から閉店時間の午後10時の間の宅配注文が多く、夜間売上では、フーマ全店舗の記録を更新するほどだったという。

当初は、物珍しさから来店した客が行列を作っていたが、フーマフレッシュはこれを丹念に宅配ECに誘導し、2019年に入って宅配EC売上比率が50%を突破した。フーマフレッシュ全店の宅配EC売上比率は60%弱なので、広州でも、フーマフレッシュが理想とする販売スタイルが取れるようになっている。

実は、広州市には地元発の新小売スーパースタートアップ「食得鮮」(シーダシエン)がフーマフレッシュよりも早く営業を始めていた。しかし、フーマフレッシュが進出すると、そのあおりを受けて実質的に営業停止に追い込まれてしまった。

なぜ、食得鮮はフーマフレッシュに負けることになってしまったのか。その理由を次回、ご紹介したい。

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▲フーマが広州市で最初に開店した天河曜一城店。集客力の弱いショッピングモールの、しかも2階という悪い場所。しかし、背後にはタワーマンションがいくつもあり、「フーマ区」としては絶好の場所だった。

 

 

 

EC時代でも生き残るしぶとい3つの業種

ECが発達した中国では、昔ながらの個人商店が消えていっている。大都市ではすぐに再開発されてショッピングモールになってしまうが、地方ではシャッターが閉じたままのシャッター商店街のような場所も生まれている。しかし、その中でも生き残るしぶとい3つの業種があると天天快報が報じた。

 

シャッター商店街でも生き残るしぶとい業種

日本でも各地に存在するシャッター商店街中小企業庁平成27年度に行った「商店街実態調査」によると、空き店舗率は平均で13.17%、さらにチェーン店舗の割合が7.3%。現在の状況については、「繁栄している」2.2%、「繁栄の兆しがある」3.1%に対して、「衰退している」35.3%、「衰退の恐れがある」31.6%となっている。活気のある商店街は約5%、6割以上が衰退を感じている商店街ということになる。

ところが生き残っているしぶとい業種がある。食堂、居酒屋、床屋、美容室、マッサージ店という自分の体を持っていかなければならないサービス。クリーニングのようにネット化が難しいサービス。仏花を扱う花屋、処方箋薬局などお寺や病院といった施設と共存する小売業などだ。

 

中国でもシャッター街が生まれている

中国でも、ECが急速に普及をしたため、街中の個人商店が次第に衰退している。最近ではアリババが「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)とスーパーとECを融合した生鮮食料サービスを始めたため、街中の八百屋、果物屋、肉屋、魚屋といった生鮮食料品店も影響を受け始めていると言われる。

その中で、天天快報は、ECの影響を受けず、しぶとく生き残っている3つの業種を紹介している。

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▲100円ショップなどで販売される日用品の大規模問屋街、浙江省義烏市もシャッター街が現れ始めている。ECの普及により、オンラインで取引できるようになってきたからだ。

 

理髪店:ECでは買えない散髪サービス

日本と同じ理由で、理髪店もしぶとく生き残っている。ただし、理髪店同士の競争はあるという。以前は、シャンプーをして、カット、ドライヤー、髭剃り、眉毛剃りなどサービスを多くしていくのが流行だったが、現在は、自分好みの髪型に仕上げてくれる理髪店が人気で、その地域ごと、世代ごとに人気の理容師がいる。また、一人の理容師が1日に対応できる客数には限界があるため、人気店になれば経営は安定しているという。

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▲伝統的な床屋もしぶとく生き残っている。路上で床屋を開くケースもけっこうある。写真は、老人などに対する感謝イベント。無料で散髪サービスを提供している。

 

マッサージ店:うまくいかないECの派遣サービス

マッサージもECで注文して、自宅などに派遣するサービスがある。しかし、あまり使われていない。マッサージを受けるには、固い寝台や足湯を入れる大きな桶などが必要で、このようなものを持参して訪問すると、どうしてもコストがかかり、価格が高くなる。近所にあるのであれば、自分で行って、そこで店主や知り合いと世間話をする方を多くの人が好んでいる。

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▲地方にある足裏マッサージ店。こんな店でもけっこうお客はくる。多くのマッサージ師が中学を卒業してすぐに修行をするので、技術レベルが高いからだ。

 

酒タバコ店:ネットで話題になる「謎の店」

中国旅行をされた時に、店内が金ぴかに光っている酒とタバコが置いてある店を見たことがある人も多いはず。この酒タバコ店は、中国の若者にとっても謎の店のようで、ネットでしばしば「客がいるところを見たことがないのに、どうしてつぶれないの?」と話題になる。

この酒とタバコは贈答品なのだ。結婚式、中秋、春節といった時に、酒とタバコを送り合う習慣がいまだに残っている。多くの店が中秋と春節の売上が、全体の6割程度なのだという。また、レストラン、企業の贈答品などの固定客をつかんでいる店も多い。

贈答品中心なので、多くの人が割引については厳しい要求をしない。ほぼ定価に近い価格で販売できるため、利益率は高い。一般客がまったくこなくても、経営には影響しないのだ。

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▲赤と金色でピカピカ光っている酒タバコ店。中国の若いネット民からも「なんでつぶれないの?」と不思議がられている。贈答品需要があるため、一般客はこなくてもいいのだ。

 

店舗を構え、存在を認識してもらうことが大切

このようなビジネスであれば、店舗すら不要のような気がするが、「あそこにお店がある」ということを知ってもらうことで、大口客をつかむことができる。お客は入らなくても、人通りの多い場所に出店し、窓を大きくし、ドアも透明にし、赤や金ぴかの商品を並べて目立つことが重要なのだ。

最近では、スーパーやECでも酒タバコは買える。しかも、酒タバコ店よりも安く買える。しかし、割引で安く買ったものを人に贈るというのは、中国人にとって、相手をバカにしていることにつながってしまう。そのため、高くても昔からある酒タバコ店で購入する。

中国はどこの都市でも、猛烈な勢いでショッピングモールが建設されている。勢いのある杭州市では、2019年中に20カ所のショッピンモールがオープンする予定だ。すでにモール同士の競争になっていて、人気がない廃墟のようにしか思えないモールも見られるようになっている。

日本でも進行している個人商店の消滅も、中国では倍速で進んでいる。