中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ライドシェア離れが進行中。滴滴出行はこの危機を乗り越えられるか

中国版ウーバーと呼ばれるライドシェア「滴滴出行」(ディーディー)が曲がり角を迎えている。ドライバーのなり手が減少し、乗客も少なくなっているというのだ。そのきっかけとなったのは、5月5日に起きた傷ましい事件。ディーディーのドライバーが乗客の女性を殺害するというものだった。それ以来、乗客の減少が続いていると天天快報が報じた。

 

一気に普及した中国ライドシェア

中国の都市部では、以前から慢性的にタクシーが不足しているため、ライドシェアが一気に普及をした。特にタクシーがスマホで呼べるようになってからは、タクシーは走っているものの、ほとんどが迎車で乗れないということが多くなり、どうせスマホで呼ぶなら、料金の安いライドシェアを利用するというのは当然の流れだった。最大手の滴滴出行(ディーディー)は、あっという間に拡大し、ウーバーチャイナも買収してしまった。

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▲ディーディーのライドシェアは、ごく普通の乗用車に乗せてもらう。中国では、乗客は前側の助手席に座るのが一般的だったが、この事件以降、後部座席に座る乗客が増えているという。

 

乗客が殺害されるという傷ましい事件

ところが、5月5日に痛ましい事件が起きた。祥鵬航空の客室乗務員、李明珠さんが、鄭州空港で乗務が終わり、実家のある済南市に夜行列車で帰るため、夜11時50分頃、鄭州駅までディーディーのライドシェアを利用した。ところがこの運転手にレイプされ、殺害されてしまったのだ。

李さんが、若く誰もが認める美人であったこと、乗車中に運転手の異変に気づいた李さんが、SNS「WeChat」で同僚に助けを求めていた生々しいログが遺族により公開されたことなどから、世間の関心を惹きつける大事件となった。

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▲殺害された李さんの遺族が公開した同僚との生々しいやりとり。「私がきれいだと言っている。キスさせてくれって言っている。気持ちが悪い」「そいつは変態ね。空港にまだつかない?」「幸いなことに助手席じゃなくて、後部座席に座っている」「電話をかけて。夫がいるふりをして、もうすぐく空港に着くと言いなさい。出発ロビーで私を待ちなさい。今から、電話する」。同僚は電話をしたが、李さんが意外に落ち着いて、本人もだいじょうぶと言うので安心をした。しかし、最悪の結果となった。同僚も、深く傷ついている。

 

運転手に毎回顔認証で本人確認させるルール

ディーディーでは、すぐに対応策を打ち出し、女性客は女性ドライバーの車にしか乗車できない措置をした。さらに、現状を調査してみると、架空の運転手アカウントを作って、実際には別人が運転している例が見つかったことから、乗客を乗せるときは、運転手は毎回、スマホで顔認証をしなければならないルールを定めた。今回の殺害犯も父親のアカウントを使って運転手をしていた。

しかし、これがライドシェアの利便性を損なってしまい、5月、6月は乗客が大幅に減っているというのだ。

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▲右が殺害された李さん。客室乗務員という憧れの職業について、誰もが認める美人だった。左は運転手だった犯人。犯人も水死体で発見された。自殺と見られている。

 

旧型スマホや回線状況により10分以上もかかる顔認証

まず、運転手が毎回顔認証をしなければならないというのがたいへん評判が悪い。運転手は、最新のスマホを持っているわけではない。安価な旧型のスマホを使っている人も多い。それでも、ルート案内や業務には差し支えないのだが、顔認証には問題がでる。カメラの解像度が不足していることや、電波をうまくつかめないことから、認証失敗が多く、場合によっては10分以上も時間がかかってしまうことがあるのだという。当然、乗客は焦れて、他の車を探すということになる。

そのような体験を何度かした乗客は、ライドシェアではなく、公共交通機関やタクシーを利用するようになってしまう。

 

運転手への優待施策も打ち切られ始めている

運転手のなり手も少なくなっている。元々、ライドシェアには構造的な問題がある。タクシーと比べて、かかっているコストは基本的に同じなのに、料金は安い。それだけ運転手の報酬が低いのだ。

それでも、運転手のなり手があるのは、ディーディーが運転手を集めるため、さまざまな優待策を打ち出していたからだ。「1日何組以上乗車させるとボーナス」「ラッシュ時間は報酬○%アップ」などで、運転手を優遇することで、運転手を集めていた。

ところが、ビジネスが軌道に乗ってきたため、このような優待策が続々と打ち切られている。運転手としては、これでは生活ができないと、他の仕事に移る人が増えている。

 

問題の多い「お客様絶対」の評価システム

もうひとつは、ユーザー評価の悪い面が出てきていることだ。中国には、日本のような「お客様を大切にする」というマインドはない。その中で、どうやって質の高い接客サービスを実現するか。その方法がユーザー評価だった。乗客が利用した後に、スマホで運転手の評価をする。その評価が低い運転手は、報酬条件が落とされたり、場合によっては乗務禁止の措置を受ける。

中国のユーザー評価の特徴は、低評価をつけられたら、乗客側に問題があったとしても、低評価とみなすというもの。そのため、乗客には絶対口ごたえしないという中国ではあり得ない接客が実現できている。

しかし、そのことを知っている悪い乗客は、運転手に無理な注文を出したり、わがままな要求をしたりすることもある。上目線で失礼な言葉使いをする乗客もいるという。それでも運転手は、低評価をつけられないために我慢をしなければならない。それに嫌気がさして、やめてしまう運転手も多い。

 

運転手不足が乗客離れにつながる悪いサイクルが始まっている

運転手不足は、配車不足に直結し、平均待ち時間を悪化させ、乗客の利便性を損なうことになる。それで乗客離れも起きている。

痛ましい事件後の一時のことなのかもしれないが、ディーディーが何か手を打たないと、ディーディー離れにつながるのではないかと懸念されている。いずれにせよ、一気に普及した中国ライドシェアが、次のステージに進むための踊り場を迎えていることは確かだ。

 

スマホのアリペイアプリで電子政府を実現している南京市

江蘇省南京市は、約400の行政サービスにスマホ決済「アリペイ」アプリの中からアクセスできる電子政府を実現している。全国の都市から視察が相次いでいると愛听聞が報じた。

 

約400の行政サービスがスマホで利用できる江蘇省南京市

電子政府というとエストニアが有名だ。行政サービスの99%がネットで完結するという。しかし、南京市はエストニアよりも便利かもしれない。約400の行政サービスにスマホの中からアクセスできるのだ。南京市の夏は暑く、外を出歩くのも危険な日があるほど。そんな日でも役所の用事がスマホで済んでしまう。

すべての行政サービスが電子化されているわけではないが、市民がよく使うサービスはスマホひとつで用が済むようになっている。

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江蘇省では、行政サービス専用のアプリも開発し、以前から電子政府化に積極的だった。

 

生活関連サービスのほとんどがアリペイの中からアクセス可能

この電子政府を実現するポイントになったのが、スマホ決済「アリペイ」アプリだ。アリペイアプリには「ミニプログラム」という機能がある。これはアリペイアプリの中で動かせるアプリのようなものだ。最もよく使われるのは、中国版新幹線「高鉄」の予約ミニプログラムで、アリペイの中からタップをして、列車を検索、空き座席数もリアルタイムでわかる。列車を選んで購入をすれば、代金はアリペイで支払いができる。後は、駅に行き、自動発券機でスマホと身分証をかざして、チケットを発券するだけだ。

この他、タクシーやライドシェアを呼ぶミニプログラム、出前を注文するミニプログラムなどさまざまなものがあり、現在でもどんどん増えている。

キャッシュレス決済ができるだけでも便利なのに、こういった生活関連のサービスが使えるため、アリペイアプリは現代の中国人にとってなくてはならないものになっている。

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▲アリペイの中にはミニプログラムが追加できる仕組みがあり、多くの生活関連サービスが提供されている。アリペイは、もはや中国人にはなくてはならないアプリになっている。

 

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▲アリペイアプリの中から中国版新幹線のチケット予約もできる。支払いはもちろんアリペイ決済。同じ路線の飛行機も同時に表示されるところが便利。

 

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▲アリペイには、交通カード、チケット、身分証などを収納する機能もある。ここにも対応してくれると、すべてがアリペイアプリの中で完結するようになる。

 

電子政府化に最も積極的な江蘇省と南京市

地方政府もこの波に乗り、現在、多くの都市で光熱費の支払いはアリペイの中からできるようになっているし、税金の支払いもアリペイからできる、交通違反の罰金もアリペイから支払えるという都市が多くなっている。

このようなアリペイへの対応が最も積極的なのが、江蘇省とその首都である南京市だ。納税、各種申請などから始まり、バスや地下鉄の運行状況、道路の渋滞情報、大学入学試験である高考の結果閲覧、結婚登記の申請、ビザの申請、医療機関の検索、社会ボランティア団体の検索、法律相談、営業許可書申請など400もの行政サービスが、アリペイアプリの中からできるようになっている。

特に評判がいいのが、手続き費用のかかる申請関連で、手続き費用は申し込みとともに、そのままアリペイで支払うことができ、書類ができあがったら取りにいくか、郵送してもらえばいい。

わざわざ役所に足を運ばなくてもいい、窓口に並ばなくていいと大好評なのだ。

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江蘇省のアリペイ内のミニプログラム。約400の行政サービスがアリペイの中から利用できるようになった。

 

バス運賃もアリペイ支払いに対応

南京市では、バスの運賃も完全にアリペイ支払いに対応をすることにした。それまでは現金か、「金領通」という南京市のプリペイドカードを使って、バスに乗車していたが、アリペイアプリのカードなどを収納できる機能を生かして、電子化してしまった。アリペイに金領通を入れると、アリペイのQRコードをかざすだけでバスに乗車ができるようになる。バスの場合、カードへのチャージがバス車内か営業所でしかできないため不便だったが、アリペイに対応したことでオートチャージができるようになった。

南京市は、この金領通の電子化に相当力を入れているようで、運用が開始された1週間、先着50万名まで、バス料金を半額にするキャンペーンをおこなった。このキャンペーン目当てで、多くの南京市民が、バスカードを電子化したと思われる。

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▲南京市では、バスのアリペイ決済を周知するため、先着50万名にバス代を半額にするという大キャンペーンを展開した。

都市競争に重要な優秀な大学と住みやすさ

地方政府という役所なのに、まるで小売店のようなキャンペーンを実施して、競うようにして電子化を進めている。その理由は、厳しい都市間競争があるからだ。中国で、現在成長しているのはIT系の企業が主役。IT企業は、オフィスがどこにあってもかまわない。税制上有利な都市を選ぶだけでなく、人材を確保するため、レベルの高い大学があり、卒業生がその都市に居続けたいと思うような都市にブランチオフィスを開設する。

南京市には南京大学があり、卒業生が南京市は暮らしやすいので、郷里に帰らずすみ続けたいと思ってもらうことが、IT企業を呼び込むことになる。そのため、行政サービスの利便性を高めておく必要があるのだ。

電子政府化を怠ける都市は、あっという間にIT企業のオフィスが移転してしまい、大きな税収と大量の高額所得者を逃してしまうことになる。競争があるから行政も進化する。中国は、その競争があるから全体として成長をしている。

 

宅配の無人カート配送。北京で正式運用が始まる

6月18日、ECサイト「京東」が、北京市海淀区の中関村地域で無人カートによる宅配配送を始めた。今まで、試験運用は各都市で行われてきたが、正式運用は初めてのことになると36クリプトンが報じた。

 

6月18日のセールに無人カートが正式運用開始

6月18日は、ECサイト「京東」の創立記念日であり、毎年京東では大セールを催していた。他のECサイトもそれに追従し、中国では11月11日独身の日に次ぐ、ECサイトの大セール日となっている。当然、宅配便も大量に増えるため、京東ではこの日に合わせて、20数台の無人カートを投入した。1台のカートに約30個の荷物を収納でき、時速15kmで公道を走行する。レーダーと対物センサーを搭載し、障害物や通行人、車両を認識し、衝突を回避できるだけでなく、画像解析により信号も認識でき、交通ルールを守りながら自動走行ができる。

このような自動運転宅配カートの試験運用は各都市で行われているが、正式運用は初めてのことになる。京東では、今後も投入車両、カバー地域を増やしていきたいとしている。

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▲中国では、道路の脇に、バイクと自転車の通行帯がある道路が多い。無人カートはその二輪車の通行帯を走行する。障害物を感知したら、減速、停止する戦術で、衝突を回避する。

 

各戸配達ではなく、動く宅配ボックス感覚

ただし、無人カートが家の前まで運んでくれるわけではない。無人カートは、配送地域の中に定められた配送ポイントに自動停車し、そこで利用者のスマートフォンに通知が飛ぶ。利用者は、配送ポイントまで数分の距離を歩いてきて、自分で荷物を受け取る必要がある。

顔認証、または携帯電話に送られてきた検証コードの入力、あるいはアプリを起動してかざすなどの方法で荷物を受け取ることができる。

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▲618セール用の特別仕様車も3台投入された。基本は量産型カートと同じだが、外装が特別仕様になっている。

 

実際は、配送拠点と地区担当配達スタッフの中継に使われる

この受け取りがまだ面倒なのが難点で、自分で受け取りにくる人はあまり多くないようだ。そこで、配送拠点と配達スタッフの中継に使われるケースが多いという。配達スタッフは受け持ち地域にいて、無人カートが配送拠点から荷物を運んでくる。配達スタッフは、荷物を自分の車や三輪自転車に移し、地域の各戸に配達をする。空になった無人カートは自動的に配送拠点まで戻り、次の荷物を積んで、往復を繰り返す。配達スタッフは、いちいち配送拠点まで戻る必要がなく、配達地域に張り付くことができるので、配達の効率は著しくあがることになる。

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▲交差点も普通に通過する。画像解析により、信号の色も見分けられる。配送ポイントに自動停止をする。動く宅配ボックスという感覚だ。

 

京東の正式運用に刺激され、他都市でも期待が高まる

京東では、昨年から大学構内での無人配送を始めていたが、他社に先駆けて、公道走行する無人配送する仕組みを正式にスタートさせたことになる。現在、アリババ、テンセントなども系列会社が、北京、上海、天津、広州などで無人カートの公道走行を行っているが、あくまでも試験運用であり、正式運用にこぎつけた京東は他社を一歩リードしたことになる。

他企業も、この正式運用に刺激されていることは間違いなく、中国では一気に無人カートによる宅配が各都市で行われるようになる可能性がある。


京东配送机器人走上街头

▲ネットメディアによる報道。裏道にも侵入していき、すでに街の風景に馴染んでいる。試験運用でなく、正式運用であるということに注目する必要がある。他都市でも正式投入が今後相次ぐことになると見られている。

 

 

買い物は、行くものではなく、届けてもらうもの

料理店で料理を受け取り宅配する出前サービス「餓了么」。アリババに買収されて以来、その役割が変わり、ECサイトで注文された商品を2時間配送するようになっている。アリババの新小売戦略の重要な役割を果たすようになると新零售智庫が報じた。

 

料理の出前をしてくれる外売サービス

外売サービスというのは、スマートフォンで注文した料理を料理店まで受け取りに行き、自宅まで配送してくれるサービス。中国ではどの料理店も以前からお持ち帰りに対応していたため、ほぼすべての料理店の料理が注文できる。スマホで店を選び、メニューを選んで注文。あとは30分から1時間程度で自宅に運ばれてくる。

配送料は店によって異なるが、だいたい10元程度。また、この料理店のこの料理と、あっちの料理店のあの料理と、組み合わせて宅配してもらうこともできる。出前というより「買い物代行サービス」だ。

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▲電動スクーターで街中を疾走する外売スタッフ。昼食時、夕食時は、道路が外売のスクーターで溢れるばかりになることもある。

 

競争が激化する外売サービス

主な業者は、最近香港市場に上場した美団外売(メイトワン)と、アリババに買収された餓了么(ウーラマ、お腹すいたでしょ?の意味)が2強。そこに、ライドシェアの滴滴(ディーディー)が新規参入をして火花を散らしている。

外売サービスは、ウーラマがアリババに買収されたことにより、その役割を変えてきた。アリババは、オンライン販売とオフライン販売を融合する新小売戦略を進めている。これは、ECでの購入体験と店舗での購入体験を融合しようという挑戦だ。

 

狙いは店舗売上ではなく、スマホ注文

例えば、アリババが運営するスーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)では、生鮮食材を揃え、その食材を使った料理も提供するグローサラント(グロッサリーストア+レストラン)だが、3km圏内であれば自宅からスマートフォンで食材や料理を注文し、30分で宅配してもらうこともできる。

すでに単位面積当たりの売り上げは、既存スーパーの4倍に達し、売上の50%以上がスマホ注文という、常識外れのスーパーになっている。この宅配を担うのが、ウーラマの外売スタッフたちだ。

また、アリババ系のスーパー「RT-Mart」、ネットスーパー「Tmallスーパー」、ECサイト「菜鳥」などでも1時間配送、2時間配送を実現している。いずれもスマホで注文を受けて、配送先にいちばん近い店舗から在庫をピックアップして、宅配する仕組みだ。

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▲フーマフレッシュ店内。店内は閑散としていて客は少ない。商品ピックアップをするスタッフだけが忙しく動いている。流行っていないスーパーなのかと勘違いしてしまうが、店舗売上よりも宅配売上の方が多い。店舗は商品を体験する場所になっている。


店舗を宅配拠点として利用する

特に「菜鳥」は、料理の外売の雑貨版といったところで、30省100都市でサービスを提供し、対応店舗はドラッグストア「ワトソンズ」、男性服飾「マーク・フェアホエール」、女性服飾「Lily」など。いずれも注文が入ると、スタッフが店舗に向かい、商品をピックアップして宅配する。

また、コンビニ「ファミリーマート」とも提供して、30分配送を始めている。

つまり、料理を運んでいた外売サービスは、料理以外のものにも拡大をし、「お買い物代行サービス」になろうとしている。中国では、日用生活品は、買いにいくものではなく、届けてもらうものになるかもしれない。

 

スタッフに最適な指示を出すシステム

ウーラマでは、このような大量の需要に応えるため、外売スタッフをどのように配置し、指示をすればいいのかを人工知能で分析し、指示するシステム「箱舟」を開発、現在全国2000の市県で運用をしている。現在、1級都市、2級都市が中心だが、今後、3級都市、4級都市にも拡大していく予定だ。

  

「店舗で体験、スマホで購入」が新小売のポイント

この「近隣に宅配をする」というのがアリババ新小売戦略の大きなポイントだ。実体店舗が徒歩圏内にあるので、消費者はその店について、その商品についてある程度の知識がある。知っている商品だから、気軽に宅配注文ができるのだ。

フーマフレッシュはまさにここをついていて、何度か店舗を訪れ、食材や料理の質の高さを知った消費者はスマホから宅配注文を利用するようになる。それが宅配売上が全体の50%以上という驚きの数字を達成し、売上を拡大し続けている。

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▲コンビニ「ファミリーマート」もウーラマと提携して24時間宅配を開始。深夜帯の売上は、来店売上よりも宅配売上の方が多くなっている。


小規模店舗も新小売戦略で生き返る

これは、フーマフレッシュのような大規模店だけでなく、夫婦でやっているような小さな店にも効果がある。北京市東三環双井戸で、まだ若い夫婦が、わずか50平米の小さなスーパーを営んでいる。典型的なパパママショップで、周囲にはセブンイレブンや快客といったコンビニがあり、何も手を打てなければ倒産していく他ない運命にあった。

しかし、二人はアリババのTmall店舗となり、近隣の消費者はアリババのシステムを使って、この夫婦のスーパーの商品を注文し、24時間宅配してもらえるようになった。あっという間にスマホからの注文が、店舗売上を上回り、一年の売上は300万元(約5000万円)を超えた。

周辺の消費者たちは、よく知っている店から運ばれてくる商品だから、気軽にスマホで注文できるのだ。ECサイトでは、包装された加工食品や家電など、どこで買っても品質が同じ商品は扱える。しかし、生鮮食品などのようにどこで買うかにより品質が異なる商品についてはなかなか扱いが難しかった。新小売戦略では、店舗で品質を体験してもらうことで、スマホから注文しやすい環境を作っている。その宅配の要となるのが外売サービスなのだ。

買い物は、もはや行くものではなく、届けてもらうものになりつつある。

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北京市内の小さなスーパーを営む若夫婦。近隣にコンビニがあり、そのままでは経営は行き詰まるばかりだったが、新小売戦略に参加し、宅配売上が大幅増加。年商は5000万円を超えた。

 

どこのバス停でも5分でやってくるライドシェアバス

中国深圳市で、スマートフォンで呼べるライドシェアバスの試験運行が始まっている。バス停であれば、どこからでも呼ぶことができ、目的のバス停まで直行してくれる。路線は乗客の需要に応じて自動計算される。乗客からも地下鉄よりも便利だと評判になり、試験区域を深圳市全域に広げる予定だと雪花新聞が報じた。

 

バス停で呼べば5分でやってくるライドシェアバス

深圳市でライドシェアバスU+BUSの試験運行が始まっている。ライドシェアバスというのは、従来のバスと違って固定した運行路線がない。バス停でスマートフォンアプリを使って呼ぶと、バスがやってきて、指定したバス停まで乗せていってくれる。ここはタクシー感覚だ。

しかし、他の乗客もいる。どのようなルートを走行すれば、全員の移動を最も効率的にできるのかは、クラウド上でリアルタイム計算されて運転手に指示される。そのため、目的地までの最短ルートではなく、多少遠回りすることもある。その代わり、路線バスを乗り次ぐ必要がある目的地であっても直行してくれる。今後、都市交通の利便性を高める公共交通となるのではないかと期待されている。

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▲深圳市で試験運行が始まっているライドシェアバスU+BUS。12人乗りで必ず座れ、目的のバス停まで直行してくれる。どのバス停でも呼べば5分以内に来るように配車されている。

 

5km以内移動に最適なライドシェアバス

このシステムを開発したのは滴滴優点科技で、運行は深圳バス集団が行っている。試験運行は、深圳市の東浜路より南の南山蛇口地区で、100人の市民テスターを募集をして行った。一ヶ月の試験運行で、80%の乗車が乗り換えなしで直行できることがわかった。試験区域外が目的地である人は、他のバス路線、地下鉄などに乗り換える必要があるが、そういう人は意外に少ない。多くの人が「5km以内」の移動にU+BUSを利用していることもわかった。

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▲バス停でスマートフォンを使ってU+BUSを呼ぶ。目的地のバス停を指定する。乗客全員の乗車地点、下車地点、道路渋滞などを加味して、最適ルートが計算され、運転手に指示される。


12人乗りバスで、必ず座れるのも好評

利用の仕方は、区域内のバス停でスマートフォンを使って、U+BUSを呼び、目的地を指定しておく。U+BUSはどこのバス停にいても5分以内に到着するように配車されている。

乗り込んだら、スマホをかざして乗車賃を決済する。地下鉄の料金と同じになるように設定されていて、通常のバス代よりは高いが、乗り換えで2路線乗るのであればU+BUSの方が安くなる。

バス内部は12人乗りで、必ず座れるというのもU+BUSの利点だ。


U+BUS

 

配車アルゴリズムの開発は簡単ではなかった

問題は、適切な配車計画を立て、実行できるかということだ。配車数が少ないと、5分以内到着ができなくなり、乗車しても、他の乗客を乗降りさせるために、遠回りをすることが多くなり、かえって時間がかかってしまうことになる。

滴滴優点の主席科学家、馬江山博士は記者発表会でこう述べた。「乗客を10分以上待たせるのではU+BUSの利便性が確保できません。しかし、5分以内配車を実現するには、伝統的なアルゴリズムではリアルタイム計算が難しかったのです。そこで私たちはモデルとデータを利用するまったく新しいアルゴリズムから開発をしました」。

ライドシェアバスの試験運行が始まって1ヶ月。大きな問題は出ていないどころから、テスターからの評判もいい。今後、運行地域とテスターを拡大し、最終的には深圳市全域に広げて行く予定だ。

 

中国シャオミーは、アップルや無印良品からなにを学んでいるか

中国産スマートフォンとして、最初に海外にも知られるようなったシャオミー。現在は家電製品ばかりでなく、家具や洋服なども手がけ、中国の無印良品のようなポジションになりつつある。そのシャオミーが、中国伝統医学で使われる抜罐器を発売したと駆動之家が報じた。

 

中国ではポピュラーなカッピング療法

抜罐器というのはカッピング療法に使われる器具。中国整体などで使われるツボのような形をした器具で、アルコールを含ませたガーゼに火をつけツボに入れ、取り出したら、背中などの凝っている場所につける。ツボの中の空気が冷えると、真空に近い状態になり、背中の皮膚が引っ張られ、うっ血を解消し、凝りをとってくれるというものだ。

中国の伝統的なマッサージ店では、この療法をやってくれるところが多いし、日本でも中国整体などの店で施術してもらえる。

効果があるのかどうかはそれぞれの感じ方次第だが、うっ血を解消して、背中の凝りが取れると感じる人が多い。ただし、抜罐器の跡が半日から1日程度残るというのが嫌だという人もいる。

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▲カッピング療法。アルコールの炎でツボの中を真空にし、背中などのうっ血を取るために使う。中国整体などで施術してくれるところがある。

 

おしゃれなカッピングカップが1800円でシャオミーから

その抜罐器がなぜかスマートフォンメーカーのシャオミーから発売された。大8個、小6個入りで、これにハンドルがついている。シャオミーの抜罐器は火を使わず、ハンドルを引いて真空状態を作り出すもので、安全であり、片手で操作できるので、自分で肩や太ももの患部を治療することができる。

シャオミーの直販サイトでは、価格は109元(約1800円)となっている。

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▲シャオミーが発売した抜罐器。炎ではなくハンドルで真空を作る方式なので安全であり、手が届けば自分一人でも施術することができる。

 

中国のアップルと呼ばれたシャオミー

シャオミーは、「中国産のスマートフォンも品質が悪くない」と海外に初めて認めさせたメーカー。スマートフォンだけでなく、その新作発表会でも、雷軍CEOがスティーブ・ジョブズばりの服装でステージに立つことから「中国のアップル」と呼ばれ、口の悪い人は「スマホから売り方までアップルのパクリ」と言われた。

それがインスパイアなのかパクリなのかはともかく、シャオミーはこのような枝葉末節のことではなく、ブランド構築という本質的なことでアップルをよく研究し、真似ている。

当初、シャオミーはEC直販サイトのみで販売をしていた。現在も、直販サイトと直営ショップを原則としている。これはアップルのアップルストアの真似で、販売チャンネルを絞ることでブランド価値を演出し、同時に購入というユーザ体験を高めようとしている。

tamakino.hatenablog.com

 

アップルの本質的な部分も学んでいるシャオミー

もうひとつ、大きいのが、ユーザとメーカーの距離を縮めていることだ。iPod発売以前のアップルは、アップルとユーザの距離が近く、公式の掲示板に例えば「4Kビデオを撮影をしてテレビのバラエティ番組に使いたい。どんな機器を揃えればいいか」という質問を投げれば、アップルの担当者や場合によってはデザイナー、エンジニアが気軽に応えてくれる企業だった。これがアップルのファンを増やすことにつながっていき、現在のアップルストアの「ジーニアス」につながっている。

シャオミーも同じように、ネットで気軽に相談ができるチャットチャンネルを開設している。このようなことから、シャオミーを気にいる人が多く、中国では「ミーファン」と呼ばれる熱狂的なシャオミーファンを生んでいる。

「アップルの真似」と言われればそうなのかもしれないが、決して表層的なことだけでなく、アップルの本質的で素晴らしい部分も真似あるいは学んでいるのだ。

tamakino.hatenablog.com

 

無印良品に学ぼうとしているシャオミー

そのシャオミーは、現在、家電製品なども販売をしている。家電だけでなく、家具、衣服、テレビ、PC、調理器具、シューズ、美容家電、食品、健康器具など、生活に必要なものはほとんど手がけている。

もちろん、すべてをシャオミーが製造しているわけではなく、OEM供給をしてもらっているものがほとんどだが、デザインコンセプトは統一されていて、「シャオミー有品」として都市の若い者を中心に受け入れられ始めている。

この抜罐器もそうだが、シャオミーの製品のデザインはしゃれている。お気づきだと思うが、極めて無印良品に雰囲気が似ているのだ。そのため、今度は「無印をパクっている」と言われるようになっているが、アップルとの時と同じように、単なる表層だけパクっているのではない。無印で最も重要な「ライフスタイルの提案をすること」を「パクって」おり、なにからなにまでシャオミー製品で揃えるという第二世代のミーファンを生み出しているのだ。

 

パクリの段階を脱し始めた中国製造メーカー

中国の「パクリ」は、もはや日本のアニメキャラクターを勝手に使ってしまうというレベルは脱している(地方の弱小メーカーではまだそんなことが起きてはいるが)。優れたブランドの表層的な部分ではなく、ビジネスの本質的な部分をパクるようになっている。これはもはやパクリではなく「学び」であり、雷軍CEOもあちこちで無印良品の素晴らしさを口にし、はっきりと「中国の無印良品になりたい」と公言している。

このような本質部分のパクリは、もう少し時間が経てば、オリジナリティーの創造につながっていく。シャオミーはすでにその段階に到達している。

 

中国都市通勤者。60分以内通勤は実現できたか?

中国の各都市では、平均通勤時間60分以内を実現するように都市計画が進められている。極光ビッグデータは「2018年中国都市通勤研究報告」を公開し、主要都市では通勤時間60分以内がほぼ実現できていることが明らかになった。

 

都市病の主要因は「60分以上通勤」

都市というのは、経済活動にとっては適した場所だが、生活をするには必ずしも最適な場所ではない。人はストレスを感じ、「都市病」が蔓延しがちだ。この都市病を防ぐには、通勤時間を短くすることが有効だとして、どの都市でも「平均通勤時間60分以内」の実現を目指した都市計画が進められている。

極光ビッグデータの調査は、国内GDPのトップ10の都市の通勤時間を調べたもの。この調査結果によると、おおむね60分以内が実現できていることが明らかになった。

 

中国都市通勤者の平均通勤時間は約45分

トップ10都市すべての通勤時間は、男性が45.8分、女性が44.8分となった。年齢別にみると、若い世代の通勤時間が短いことがわかる。若い世代は、マンションを所有せず、賃貸が多いため、職場が変わればその近くに引っ越すからだと思われる。また、概ね女性の方が通勤時間は短い。男性は仕事の内容で職場を選ぶ傾向が強いのに対して、女性は家から近い範囲の中で職場を選ぶ傾向が強いからではないかと考えられる。

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▲年齢別に通勤時間を見ると、若いほど短く、女性が短い。若い人ほど、気軽に職場のそばに引っ越すからだと思われる。

 

最悪の北京市は平均通勤時間56分

都市別に60分以内通勤者の割合を見ると、武漢市が97.7%と、60分以内をほぼ実現できている。ただし、上海市重慶市北京市といった大都市では、さすがに60分以内通勤者の割合は90%以下になってしまう。

それでも最も通勤時間が長い北京市であっても、平均通勤時間は56分であり、「60分以内」はほぼ実現できている。

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▲60分以内通勤者の割合。武漢市ではほぼ全員が60分以内通勤ができている。大都市である上海、重慶、北京では割合が低くなる。

 

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▲都市別の平均通勤時間。最悪の北京市でも56分と、ほぼ60分以内通勤は実現できている。

 

都市内の「都心」を数カ所に分散させる都市計画

なぜ、大都市でありながら、60分以内通勤を実現できているか。それは都市計画にある。ビジネス街である「都心」をひとつに集中させず、例えば、金融、IT、製造などで異なったビジネス街を設定し、都市の中で分散させる。これにより、都市内での一極集中を防ぎ、通勤者の方向も分散できることになる。

北京や上海といった大都市では、どうしても通勤時間は長くなるが、一方で、反対通勤者の割合も多い。反対通勤者とは都心から郊外に通勤する者のことだ。ビジネス街を郊外に建設することにより、ラッシュの方向とは逆に移動する通勤者を意図的に作り出している。

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▲反対通勤者(都心から郊外へ通勤する人)の割合。大都市ほど、反対通勤者を産み出すように都市計画がされているので割合は高くなる。

 

業種により企業拠点を分散させ、通勤者の流れも分散させる

中国は、現在でも土地の私的所有が建前上は認められていない。あるのは、建物の居住権で、居住権を売買することにより、あたかも土地を売買するかのような効果を生み出している。そのため、民民の世界では、資本主義社会と何も変わらないが、都市政府が再開発をするときなどは、市民の権利が大幅に制限される。資本主義社会と比べて合理的な都市計画を実行しやすい。

上海では、陸家嘴ビジネス地区、張江高科、漕河涇開発区と大きな企業拠点が3箇所あり、地理的にも分散している。陸家嘴は金融、張江はバイオ、漕河涇はITとジャンルも分散している。

このような企業拠点が地理的に分散しているために、通勤者も分散し、反対通勤者も生まれ、全体の通勤時間を短くしているのだ。

北京でも、金融街、国貿、豊台科技園と企業拠点があり、それぞれ金融、貿易、ハイテクとジャンルも分散し、地理的にも離れている。

当然、各都市ともこのような都市計画に基づいて、道路や地下鉄なども計画されている。北京の地下鉄総延長は527km、上海の地下鉄は548km(東京は304km)であり、まだ延長工事が進んでいる。

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北京市の通勤ヒートマップ。3つの企業拠点に分散していることがわかる。

 

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▲同じく上海市の通勤ヒートマップ。こちらも業種ごとに3箇所に分散をしている。このような分散方式が、中国の都市計画の基本になっている。