中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

買い物は、行くものではなく、届けてもらうもの

料理店で料理を受け取り宅配する出前サービス「餓了么」。アリババに買収されて以来、その役割が変わり、ECサイトで注文された商品を2時間配送するようになっている。アリババの新小売戦略の重要な役割を果たすようになると新零售智庫が報じた。

 

料理の出前をしてくれる外売サービス

外売サービスというのは、スマートフォンで注文した料理を料理店まで受け取りに行き、自宅まで配送してくれるサービス。中国ではどの料理店も以前からお持ち帰りに対応していたため、ほぼすべての料理店の料理が注文できる。スマホで店を選び、メニューを選んで注文。あとは30分から1時間程度で自宅に運ばれてくる。

配送料は店によって異なるが、だいたい10元程度。また、この料理店のこの料理と、あっちの料理店のあの料理と、組み合わせて宅配してもらうこともできる。出前というより「買い物代行サービス」だ。

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▲電動スクーターで街中を疾走する外売スタッフ。昼食時、夕食時は、道路が外売のスクーターで溢れるばかりになることもある。

 

競争が激化する外売サービス

主な業者は、最近香港市場に上場した美団外売(メイトワン)と、アリババに買収された餓了么(ウーラマ、お腹すいたでしょ?の意味)が2強。そこに、ライドシェアの滴滴(ディーディー)が新規参入をして火花を散らしている。

外売サービスは、ウーラマがアリババに買収されたことにより、その役割を変えてきた。アリババは、オンライン販売とオフライン販売を融合する新小売戦略を進めている。これは、ECでの購入体験と店舗での購入体験を融合しようという挑戦だ。

 

狙いは店舗売上ではなく、スマホ注文

例えば、アリババが運営するスーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)では、生鮮食材を揃え、その食材を使った料理も提供するグローサラント(グロッサリーストア+レストラン)だが、3km圏内であれば自宅からスマートフォンで食材や料理を注文し、30分で宅配してもらうこともできる。

すでに単位面積当たりの売り上げは、既存スーパーの4倍に達し、売上の50%以上がスマホ注文という、常識外れのスーパーになっている。この宅配を担うのが、ウーラマの外売スタッフたちだ。

また、アリババ系のスーパー「RT-Mart」、ネットスーパー「Tmallスーパー」、ECサイト「菜鳥」などでも1時間配送、2時間配送を実現している。いずれもスマホで注文を受けて、配送先にいちばん近い店舗から在庫をピックアップして、宅配する仕組みだ。

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▲フーマフレッシュ店内。店内は閑散としていて客は少ない。商品ピックアップをするスタッフだけが忙しく動いている。流行っていないスーパーなのかと勘違いしてしまうが、店舗売上よりも宅配売上の方が多い。店舗は商品を体験する場所になっている。


店舗を宅配拠点として利用する

特に「菜鳥」は、料理の外売の雑貨版といったところで、30省100都市でサービスを提供し、対応店舗はドラッグストア「ワトソンズ」、男性服飾「マーク・フェアホエール」、女性服飾「Lily」など。いずれも注文が入ると、スタッフが店舗に向かい、商品をピックアップして宅配する。

また、コンビニ「ファミリーマート」とも提供して、30分配送を始めている。

つまり、料理を運んでいた外売サービスは、料理以外のものにも拡大をし、「お買い物代行サービス」になろうとしている。中国では、日用生活品は、買いにいくものではなく、届けてもらうものになるかもしれない。

 

スタッフに最適な指示を出すシステム

ウーラマでは、このような大量の需要に応えるため、外売スタッフをどのように配置し、指示をすればいいのかを人工知能で分析し、指示するシステム「箱舟」を開発、現在全国2000の市県で運用をしている。現在、1級都市、2級都市が中心だが、今後、3級都市、4級都市にも拡大していく予定だ。

  

「店舗で体験、スマホで購入」が新小売のポイント

この「近隣に宅配をする」というのがアリババ新小売戦略の大きなポイントだ。実体店舗が徒歩圏内にあるので、消費者はその店について、その商品についてある程度の知識がある。知っている商品だから、気軽に宅配注文ができるのだ。

フーマフレッシュはまさにここをついていて、何度か店舗を訪れ、食材や料理の質の高さを知った消費者はスマホから宅配注文を利用するようになる。それが宅配売上が全体の50%以上という驚きの数字を達成し、売上を拡大し続けている。

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▲コンビニ「ファミリーマート」もウーラマと提携して24時間宅配を開始。深夜帯の売上は、来店売上よりも宅配売上の方が多くなっている。


小規模店舗も新小売戦略で生き返る

これは、フーマフレッシュのような大規模店だけでなく、夫婦でやっているような小さな店にも効果がある。北京市東三環双井戸で、まだ若い夫婦が、わずか50平米の小さなスーパーを営んでいる。典型的なパパママショップで、周囲にはセブンイレブンや快客といったコンビニがあり、何も手を打てなければ倒産していく他ない運命にあった。

しかし、二人はアリババのTmall店舗となり、近隣の消費者はアリババのシステムを使って、この夫婦のスーパーの商品を注文し、24時間宅配してもらえるようになった。あっという間にスマホからの注文が、店舗売上を上回り、一年の売上は300万元(約5000万円)を超えた。

周辺の消費者たちは、よく知っている店から運ばれてくる商品だから、気軽にスマホで注文できるのだ。ECサイトでは、包装された加工食品や家電など、どこで買っても品質が同じ商品は扱える。しかし、生鮮食品などのようにどこで買うかにより品質が異なる商品についてはなかなか扱いが難しかった。新小売戦略では、店舗で品質を体験してもらうことで、スマホから注文しやすい環境を作っている。その宅配の要となるのが外売サービスなのだ。

買い物は、もはや行くものではなく、届けてもらうものになりつつある。

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北京市内の小さなスーパーを営む若夫婦。近隣にコンビニがあり、そのままでは経営は行き詰まるばかりだったが、新小売戦略に参加し、宅配売上が大幅増加。年商は5000万円を超えた。