中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

日本人が中国で作った炊飯器が日本に逆上陸?

中国のスマートフォンメーカー「シャオミー」は、数々の家電製品も開発、販売している。その中の圧力IH炊飯器は、元三洋電機の日本人エンジニアが開発をした。この炊飯器「米家」が日本でも販売され、中国で話題になっていると水素科技が報じた。

 

シャオミーの炊飯器は、2年で100万台突破

中国スマートフォンメーカー「小米(シャオミー)」。雷軍CEOは、スティーブ・ジョブズのような出で立ちで、製品発表をすることから、「中国のスティーブ・ジョブズ」ともかつては呼ばれた。

そのシャオミーは、現在、家電製品を次々と開発している。そのうちの、炊飯器「米家圧力IH炊飯器」が、発売2年で100万台を売った。ただし、この数はそう大きいものとは言えず、まだまだ一部のファンが買っているというのが実情だ。なぜなら、日本国内の出荷台数は年間600万台程度であり、中国の出荷台数は年間5000万台程度だからだ。

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▲中は、日本製炊飯器と同じ感覚。鉄釜は7層からなっていて、かなりの工夫がされているという。

 

日本製品を超えることに特別な思いがある中国人

この「米家」炊飯器に、中国人は特別な思い入れがあるようだ。なぜなら、記事の中には、「以前は中国人が日本に炊飯器を買いに行ったが、今や日本人が中国に炊飯器を買いにくる」という記述がある。確かに、面白がって「米家」炊飯器を買う日本人もいるかもしれないが、それはかなり珍しいことではないかと思う。

また、日本旅行をしたある人が、日本で「米家」炊飯器が販売されているのを目撃して、写真をウエイボーにあげ、「中国では999元(約1万7000円)のものが、日本では2万4000円以上もしている。日本人は、多くお金を出しても中国の炊飯器を欲しがる」というメッセージをつけ、これがかなり拡散をした。

さらに、「米家」炊飯器を作ったのは、圧力IH炊飯器を発明した日本人なのだというコメントも見え、いろいろ、明らかな嘘というわけではないにしても、白髪三千丈的な過剰表現が多く、それだけ中国人にとって、「日本の炊飯器を超えた」ということが自尊心をくすぐっているのだと思われる。

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日本旅行をした人が、「日本でも米家炊飯器が販売されていた!」とウェイボーに投稿して話題になった写真。日本米に適合するようにしてきたら、日本でも売れてしまうのではないだろうか。

 

米家の開発責任者は「おどり炊き」のヒット開発者

「米家」炊飯器が日本の炊飯器を超えたかどうかは、微妙なところだが、公平に見て、じゅうぶん日本製と肩を並べるところまできていると言うべきだ。少なくとも、「粗悪な中国製」というイメージはどこにもない。

まず、開発責任者となったのが、元三洋電機関連会社出身の内藤毅氏。この方は、苦戦をしていた三洋電機の炊飯器部門で、「おどり炊き」という新しい方式を開発し、それを鳥取三洋で製造し、ヒット商品にした人物だ。覚えている方も多いと思うが、鳥取三洋は当時、おどり炊き炊飯器やau用のストレートケータイ「インフォバー」、ポータブルカーナビ「ゴリラ」などの尖った製品を開発し、「三洋電機がなくなっても、鳥取三洋は別会社として生き残れる」と言われていた企業だ。現在でも、三洋電機とは別に三洋テクノソリューションズ鳥取として、ヒット商品を開発、製造している。

「おどり炊き」は最初のIH炊飯器で、その意味では、内藤毅氏を「圧力IH炊飯器の発明者」と表現するのはあながち間違いとは言えない。雑誌「通販生活」などで取り上げられヒット商品となり、料理のプロに愛好されるという優れた製品だった。

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▲開発責任者の内藤毅氏を紹介した雷軍CEOのウェイボーメッセージ。「優れた炊飯器を開発して、日本に売る」と宣言している。

 

機能はアプリに、デザインはシンプルに

確実に日本製品を超えているのが、デザインとインタフェースだ。白一色の外観であり、日本の炊飯器にありがちなごちゃごちゃした液晶表示がほとんどない。LED時刻表示などは、カバー下に埋め込まれ、スイッチを入れた時だけ表示される。通常は、何も表示されない白い箱になる。

日本市場は「多機能なほど売れる」状況が続いていて、多くの炊飯器が「玄米」「炊き込みご飯」「おかゆ」「おこげ」などといった機能を、液晶にでかでかと表示をする。売り場で機能を消費者にアピールするために、デザインを犠牲にしているのだ。

さらに、シャオミーらしく、専用アプリから炊飯や予約などの操作ができる。米家はケーキ、ヨーグルト、蒸し煮などが作れる機能もあるが、それはアプリに入れてしまい、本体デザインはあくまでシンプルにしている。

デザインとIoT連携。この点では、悲しいことだが、日本製品よりも優れていると言わざるを得ない。

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▲非常にシンプルなデザイン。炊飯中に、時刻と炊飯の進行を示すリングのLEDが点灯する。ご自宅の日本製炊飯器とぜひ比べていただきたい。

 

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▲シャオミーの家電は、スマートフォンで操作できるのが当たり前になっている。様々な機能は専用アプリに入れてしまうので、本体デザインをシンプルにできる。

 

どんどん安くなる本体価格

肝心の炊飯機能については、評価のしようがない。内藤毅氏が開発を担当しているので、レベルは高いと思うが、当然ながら中国のお米に適合するようにしているはずなので、そのまま日本のお米を炊いた場合は実力を発揮できないところもあるはずだ。「米家」炊飯器は価格999元(約1万7000円)、後に599元(約1万円)と399元(約6800円)の2種類を追加販売している。炊飯容量を小さくしているが、先行している機種と性能、品質は同じ。量産効果により価格を下げられたのだとシャオミーは言っている。雷軍CEOも、シャオミーはハードウェアでは5%以上の利益を出さないようにしているので、時間とともに価格を下げていくと公言している。

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エンジニアは、お金よりもやりがいを求めている

内藤毅氏自身も、インタビューの中で「中国の開発者のレベルは高い」と言っており、しかもデザインと品質のチェックに関しては、明らかに日本よりも厳しいという。

日本の優秀なエンジニアが、中国で仕事をする時代になろうとしている。本気で考え、優秀なエンジニアに「やっぱり日本で仕事をした方がいい」と言わせるようにしないと、取り返しのつかない事態になる。エンジニアたちは、高い報酬に目がくらんで中国に行っているのではない。思い切った仕事をさせてくれるから、やりがいを求めて中国に渡るのだ。

内藤毅氏は、シャオミーに誘われた時、こう答えたという。「優れたエンジニアは、永遠に優れた製品を作り続けたいと願うものなのです」。