中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国の投資動向を決めているBATJ。人工知能とシェアリング経済に集中投資

テンセント科技とIT橘子は、共同して「中国投資領域資金傾向報告」を公開した。それによると、シェアエコノミーに対する投資は依然と強く、さらに人工知能関連への投資も高くなってきたという。

 

雨後の筍創業のステージは終わり、収穫のステージへ

2017年上半期のスタートアップ状況は、創業企業数が大幅に減少をした。一方で、投資利益率は上がっているので、「なんでもかんでも創業」という時期は終わり、有望なスタートアップだけが創業をし、手堅く利益を生み出している状況だと言うことができる。

投資資金では、自動車交通関連が905億元(約1兆5300億円)と目立つ。自転車ライドシェアだけでなく、無人バスや路面電車などの開発も進んでいるため、大型投資案件が増え続けている。ライドシェアサービスの滴滴出行が、55億ドル(約6100億円)の投資資金の調達に成功したことなども話題にもなった。

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▲2016年下半期から起業数は大きく減少した。しかし、投資利益率は上がっており、雨後の筍のように起業する時期が終わり、収穫期に入ろうとしていることがわかる。

 

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▲分野別投資資金額。最大は自動車交通関連で、ライドシェア企業への投資。ただし、滴滴出行に大型投資が行われたことを考慮に入れておく必要がある。単位は億元。

 

人工知能分野では基礎技術に投資が集中

現在、投資が集中しているのが、人工知能とシェアリング経済の2分野だ。人工知能分野への投資を見てみると、件数が圧倒的に多いのが人工知能ロボットの分野。しかし、面白いことに投資金額は自然言語処理クラウド計算に集中をしている。人間と会話ができる人工知能ロボットは、話題になりやすく、スタートアップも数多く登場しているが、それよりも重要なのは基礎技術となる自然言語処理や画像処理、クラウド計算などで、このような基礎技術分野に投資が集中しているのは健全なことで、5年後、10年後に大きな見返りとなって返ってくる可能性がある。

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人工知能分野への投資件数と投資金額。件数が多いのはロボットだが、額が多いのは自然言語処理クラウド計算という基礎技術開発。投資企業が長期展望に基づいて投資判断をしていることが伺われる。

シェアリング経済への投資は一段落

シェアリング経済への投資は、一段落をした。サービス地域をまだ拡大しているシェア自転車に対してはまだ多くの投資資金が流れこんでいるが、その他のシェアリング経済に対しての投資額は少なくなっている。バッテリーや雨傘といった安価なもののシェアリングサービスが増えてきて、大きな投資資金も必要としていないこともある。

シェア自動車への投資金額が突出しているのは、滴滴出行が55億ドルの資金調達をしたことが大きい。

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▲シェアリング経済分野への投資件数と投資金額。シェア自転車とシェア自転車への投資が多い。シェア物流という地味な分野への投資金額が大きいことにも注目しておく必要がある。

 

スタートアップは3年で成功か倒産かが決まる

投資をしたスタートアップ企業が必ず成功するなどという保証はどこにもない。むしろ、倒産してしまうスタートアップの方が圧倒的に多い。その倒産数もだいぶ減ってきた。創業するスタートアップ数も減っているので当然と言えば当然だが、スタートアップの平均寿命も33ヶ月と短期間である状態が続いている。

驚くのは、中国のスタートアップ企業の勝負の速さだ。平均寿命も3年足らずだが、企業価値が5億ドルから10億ドルを超えるユニコーン企業化の平均年数も同じく3年弱だ。つまり、中国のスタートアップは2年から3年で、成功するか失敗するか結果が出てしまうことになる(シリコンバレーではユニコーン化まで平均7年かかる)。このスピード感が、中国の変化の激しさの源泉になっていると思われる。

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▲スタートアップの倒産件数と平均寿命。2015年下半期に大量倒産が生じ、劣悪なスタートアップの淘汰が起きたと考えられる。平均寿命は3年弱と極端に短いが、ユニコーン化への平均年数も3年弱であり、中国のスタートアップは勝負が早いことがわかる。

 

中国の投資動向を決めているBATJの4社

中国の大手IT企業は、百度、アリババ、テンセントの3社。頭文字をとって、BATと呼ばれることがある。このBATの投資動向は、中国のIT業界において、最も重要なニュースだ。投資機関もBATの動向を探りながら、投資先を考えている。

そのBATの投資件数も落ち着きを見せ始めているが、それぞれの企業により、傾向は異なっている。百度は、自社事業と技術的なシナジー効果の得られる分野に投資をする傾向がある。アリババも自社事業とのシナジー効果を狙った投資をするが、技術的シナジー効果というよりは、ビジネス的なシナジー効果を狙う傾向がある。例えば、スマホ決済のアリペイを補完する金融サービスなどに投資を行う。テンセントは、ゲームなど投資分野を定めると、積極投資をして、その分野での支配的な地位を確立しようとする傾向がある。

この違いは、スタートアップの段階別投資を見ると、より明らかになる。百度は圧倒的に発展期のスタートアップに投資をしているが、アリババはバランスが取れている。一方で、テンセントは圧倒的に成熟期の企業への投資が多い。

また、中国内か国外かのデータを見ても、百度は国内外にこだわりを持たず、アリババ、テンセントは国内の企業への投資が多い。

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▲BATと呼ばれる百度、アリババ、テンセントの投資金額推移。百度は額がばらつき、アリババは安定している。テンセントは全体の投資金額の推移とほぼ連動している。3社それぞれに異なる投資戦略を持っていることがわかる。

 

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▲BATがどのステージの企業に投資をしているか。百度は発展期の企業に集中し、アリババはバランスよく、テンセントは成熟企業に投資をしている。

 

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▲BATの国内投資、国外投資もそれぞれに特色が現れている。百度は国内外問わず、アリババとテンセントは国内中心だ。同じ投資でも、3社は考え方がそれぞれに異なっている。

 

中国の投資はBATJを中心に回っていく

この報告のデータを見ると、中国のITビジネス革命はかなり落ち着いたステージに入ったことがうかがわれる。発芽期が終わり、今後は次第に収穫期に入っていくと思われる。中国のIT業界は、百度、アリババ、テンセント(それに加えて京東をあげる人もいる)のBATJの4社を中心に、しばらくは回っていくことになるだろう。

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