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女性ユーザーが半数以上。バトルゲーム「王者栄耀」の異変

中国で大人気のMOBAバトルゲーム「王者栄耀」に異変が起きた。調査会社、企鵝智酷の調査によると、ここ半年で女性ユーザーが急増、なんとユーザー比率で女性が男性を上回ったという。なぜ、中国の女性たちはバトルゲームに惹かれるのか。

 

ポケモンGOを抜いた王者栄耀

スマートフォンゲーム「王者栄耀」(おうじゃえいよう)の勢いが止まらない。アカウント数は2億件を超え、1日あたりのアクティブユーザーは8000万人を超える。月の売り上げも30億元(約500億円)を超え、世界の課金売り上げランキングでPokemon Goを抜いた。

王者栄耀は、テンセントが2015年末にリリースしたスマートフォンゲーム。ネット上で5人までのチームをつくり、敵陣地にある塔を破壊するバトルゲームだ。いわゆるMOBA(マルチプレイヤー・オンライン・バトル・アリーナ)と呼ばれるもののひとつだ。

登場するキャラクターは、三国志水滸伝項羽劉邦孫悟空李白武則天、チンギスハンといった中国伝統のキャラクターから、宮本武蔵や日本製ゲームのキャラクターなど、いわゆるオールスター。自分が好きなキャラクターを選んで、戦闘で得たり、実際のお金で購入したコスチュームを着せ、個性を出すことができる。

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王者栄耀では、自分のキャラを選んで、他のプレイヤーと協力して戦う。男性キャラはいずれもイケメンだ。女性に人気の高い三国志趙雲のキャラも、史実を無視したイケメンキャラになっている。

 

収益に限界が見えたPay to Play方式

この王者栄耀が大ヒットをした要因は、Pay to Funというコンセプトを採用したことにある。これは王者栄耀だけでなく、世界的なヒットをしているゲームのほとんどがPay to Funの考え方を採用している。

日本のスマホゲームの多くは、Pay to Winの考え方に基づいている。つまり、課金をすればするほど、キャラクターが強くなり、ゲームが進んでいく。ランキング表示やSNSを使ってプレイヤー同士で競争をさせ、課金を煽っていくというもの。全体ランキングの上位には重課金プレイヤーばかりが並ぶということになる。このPay to Win方式は、課金収益を上げるのに優れた方法で、日本でも高収益を上げるスマホゲームが続出した時期がある。

しかし、現在では、Pay to Fun方式の方が収益面でも有利だとする考え方が支配的になりつつある。Pay to Funとは、課金をしてもキャラクターが強くなったり、ゲームが進んだりすることはない。では、何に課金をするのかというと、自分の分身であるキャラクターのコスチュームや装飾品などを買うために課金をする。課金をしたからといって、ゲームの進行に影響はない。これがPay to Funの考え方だ。

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王者栄耀のゲーム画面。5人までのチームを作り、相手チームと戦う。各キャラの強さも重要だが、チームの戦術も重要になる。

 

ゲームのライフタイム収入ではPay to Funが勝る

なぜ、Pay to Funが優れているのか。それはPay to Funの方が、収益が高くなるからだ。Pay to Winのゲームの場合、確かに一人あたり、単位時間あたりの課金額は高くなり、収益に爆発力が生まれる。しかし、長く続かないのだ。プレイヤーは、一定期間遊ぶと、「お金を投入した分、ゲームが進む」という構造に気がついてしまい、続けても同じことを繰り返しているだけの感覚を味わうことになり、いわゆる「ゲーム疲れ」を起こして、離脱してしまう。

一方で、Pay to Funのゲームでは、自分の操作テクニックが向上すればゲームが進んでいく。操作テクニックは、長く遊んでいれば自然に向上をしていく。そのため、長く遊べば遊ぶほど、高レベルのプレイヤーと対戦できることになり、長続きをするのだ。長く遊べば、自分のキャラクターに愛着が湧き、いろいろなコスチュームを購入して着飾りたくなる。Pay to Winのような収益の爆発力は生まれないが、プレイ期間が長くなるため、ゲームの寿命が延び、ゲームのライフタイムの総収益は、Pay to Winよりも高くなると考えられている。

 

スポーツと同じ構造のPay to Funゲーム

これは、野球やサッカーのスポーツとまったく同じ構造だ。野球で、お金をかけたから上手くなるということはない。上手くなるには、時間と労力をかけて、経験を積んでスキルを上げていく以外に方法はない。しかも、少年野球から初めて、高校野球プロ野球と、ステージが上がるたびに、新たな高いレベルの対戦相手との出会いがあり、飽きるということはない。

強いプレイヤーになるには、野球やサッカーと同じにように、才能を持った人間が修練を積み重ねていく以外ない。だからこそ、eSportと名付けられて、世界大会が成立をするのだ。Pay to Winのゲームでは、世界大会をやる意味はない。

 

観戦をするという楽しみ方もあるeSport

このeSportの特徴は、プレイするだけでなく、観戦をするという楽しみも生まれるということだ。Pay to Winのゲームでは、人のプレイを見ても、面白くもなんともないが、MOBAでは、プレイヤーは考え抜いた戦術と積み重ねてきたテクニックを駆使して戦うので、一流プレイヤーのプレイは鑑賞に値する。女性がMOBAである王者栄耀で遊ぶ理由はこれがあるからだ。サッカーや野球、テニスを楽しむように、観戦して楽しみ、そして自分でもやってみようという考える女性プレイヤーが増えているのだ。

 

ここ半年で急増した女性ユーザー

企鵝智酷の調査によると、女性プレイヤーの51.7%が始めて半年以内で、女性が急増したのはここ半年であることがわかる。しかも80.6%が王者栄耀が初めて遊ぶMOBAだと回答している。

王者栄耀を遊び始めた理由として挙げているのは、「友人が遊んでいるを見て」(61.7%)、「友人から勧められて」(36.6%)という、「周りが遊んでいるから」という理由が多い。

また、キャラクターを選ぶ基準でも、女性が突出して多いのが「見た目が好きだから」というもの。課金をする理由も「キャラクターの外観をよくするため」が圧倒的に多い。

気になるのは「王者栄耀を始めて、減少した他の娯楽時間は?」という質問で、男性は「他のゲーム」と答えているが、女性は「映画、テレビを見る時間」と答えていることだ。

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女性ユーザーの多くは、始めてから半年未満。ここ半年で、女性ユーザーが急増した。

 

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女性が王者栄耀を始めた理由の多くは「友人」。人のプレイを観戦するだけでも楽しめるMOBAは、ユーザーの拡大がしやすい。

 

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課金をするケースを尋ねると、女性は「キャラの外観をよくするため」が多い。一方で、男性は「他のキャラを使うため」が多く、見た目を楽しむ女性と、プレイを楽しむ男性にきれいに分かれているようだ。

 

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王者栄耀を始めて、減ったと思われる時間を尋ねた。女性は映画やテレビドラマを見る時間が減ったと答えた。MOBAを楽しむ女性が増えると、テレビや映画に影響しそうだ。

MOBAはゲームではない、アリーナだ

つまり、女性たちは、周りの友人たちがスマホで王者栄耀を遊んでいるのを見て、観戦することから始め、自分でもキャラクターを選んで遊び始めている。その代わりに、テレビドラマや映画を見なくなっているということのようだ。

ゲームというのは、日本の常識では、運営側が用意したシナリオや謎解きを楽しむもので、映画や小説に近い感覚になっているが、世界で起きている新たなゲームの潮流は、運営側は場所だけ用意して、あとはプレイヤーが自分の戦術やテクニックで楽しむスポーツに近い感覚になっている。MOBAの最後のAはアリーナ(競技場)の略であり、MOBG(ゲーム)とはなっていないことに注意をしていただきたい。

ゲームではなくスポーツにすれば、男性だけでなく、女性、そして老若男女という幅広い市場が拓けてくる。スマホゲームの世界は、今、大きく変わろうとしている。