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コロナ禍により上海オフィスビルに異変。スタバは満席でも長期課題が山積

上海の観光スポット「外灘」から見える対岸の高層ビル群「陸家嘴地区」。285棟ものオフィスビルが建ち並び、コロナ禍による退居も少なく、日常の風景が戻ってきている。しかし、長期ではさまざまな課題があり、陸家嘴地区も転換点に差し掛かっていると上観新聞が報じた。

 

コロナ禍でも、上海に大規模オフィス地区開発

アリババ傘下の新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が本部を、上海市に建設中の陸家嘴浜江センターに移転すると発表した。陸家嘴浜江センターは面積20.4万平米(東京ドーム5個分)、8棟のビルが建設予定で、この陸家嘴浜江地区で最大のオフィスビル群となる。1/3がオフィス用途になるが、すでにテック企業、金融企業などを中心に埋まっている。

しかし、新型コロナの感染拡大で、リモートワークが定着する中、上海のオフィスビルの入居率、家賃ともに低下をしているという話もよく耳にするようになっている。実態はどうなっているのだろうか。上観新聞の記者が、上海を取材した。

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▲建設中の陸家嘴浜江センター。陸家嘴地区最大のオフィスパークとなる。しかし、これが最後の大規模開発になるかもしれない。

 

上海陸家嘴地区のスタバは3月から盛況

平日の午前10時、通称「栓抜きビル」とも呼ばれるワールドフィナンシャルセンターの1階にあるスターバックスにはほとんど空席が見当たらない。陸家嘴地区には285棟ものビルが建ち並び、スターバックスが40店舗以上もある。この地区の繁栄ぶりが、中国経済を観測する窓になっていると言っても過言ではない。

この地区の企業に勤める女性によると、3月頭に職場復帰が始まると、この辺りのスターバックスはすぐに以前と同じように空席を探すのがたいへんな状況に戻ったという。また、コロナ禍が原因で、移転したという企業は聞いたことがないとも言う。

国金センターのスターバックスにも行ってみて、同じことを尋ねたが、答えはほぼ同じだった。企業活動もすっかり以前と同じに戻っていると言う。

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上海市内にあるスターバックスの高級業態「リザーブ・ロースタリー」。シアトルに次ぐ2号店。常に満席であるほどの人気で、上海人のスタバ好きが実感できる場所。

 

コロナ禍でも、入居需要は旺盛、家賃相場は上昇

米国に本社を置く不動産サービス「CBRE」の中国地区研究部の謝晨主管が、上観新聞の取材に応えた。「新型コロナの感染拡大期だった年初は明らかに入居を希望する企業数が減少しました。しかし、3月から職場復帰が始まると、需要が増え、家賃相場も回復しています。2020年Q2の陸家嘴地区の入居率は85%以上を維持しています。医療関連、テック関連、オンラインワーク関連、オンライン教育関連、新小売関連の企業が以前と変わらず増えています。私たちの予測では、2020年下半期の家賃相場は、昨年を上回ると見ています」。

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▲陸家嘴地区には、この狭い地域にスターバックスが40店舗以上もある。小さなピンクのタグもスタバのスタンド店。現在は、いずれも席を探すのが難しいほど来店客があるという。

 

全体では需要低下、著名ビルでは需要増加

陸家嘴ビル発展サービス室の陳晨主任補佐が上観新聞の取材に応えた。「陸家嘴全体を見れば、感染拡大以降、家賃と入居率の両方が下落していることは否定できません」。

今年6月の段階で、入居率が90%を超えているのは92棟、95%を超えているのは52棟にすぎないと言う。「ランドマークになっている著名なビルでは高い入居率が維持できています。例えば国金センターは99%で、ワールドフィナンシャルセンターは97%になっています。また、瑞明ビルのように、この機会に家賃を調整する施策を行い、入居率を90%にまで高めたビルもあります」。

 

退去したのは外資系投資企業

陸家嘴の世紀匯広場には2棟のオフィスビルがある。このビルを管理する上海晟際物業管理の都好総経理によると、この数年のこの地区の入居率は91%前後で安定をしていると言う。「コロナ禍による入居率の低下は1%程度です。退居したのは多くが海外の投資企業や移民手続き関連企業です。一方で、保険、証券、テック関連の企業はあまりコロナ禍の影響を受けていないようです」。世紀匯広場では、家賃相場の下落は起きてなく、むしろ会社が成長をしたため追加で賃貸する申し出があるほどだと言う。

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▲1998年の陸家嘴地区。東方明珠塔が最も高い建築物だった。わずか20年で、その姿は大きく変わった。

 

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▲上海、外灘から眺める陸家嘴地区のビル群。観光客にとっては、行くたびに景色が変わる観光名所だったが、陸家嘴地区も曲がり角を迎え、新しいビルの建設は少なくなるかもしれない。

 

小売業は大きな打撃

一方で、店舗を中心にした小売業は大きな打撃を受けている。ある仲介業者によると、上海の一部の地区ではショッピンモールの店舗退居率が50%を超えたところもあると言う。上海市全体の小売業の売上は2020年第1四半期に30%下落し、あるショッピンモールの責任者によると、モールの閉店率が15%を超えたと言う。

世紀匯広場のショッピングモールでは、コロナ禍による下落幅は小さく、以前95%だった入居率は、現在でも91%を維持できていると言う。「しかし、状況は楽観できません。最上階のシネコンが営業を続けるのか、撤退するのかが大きな鍵になります」と関係者は言う。

また、海外ブランドは保守的で、新規出店の速度が明らかに鈍っている。コロナ禍は、モールの入居率、家賃相場に確実に悪い影響を与えている。モール運営会社は、家賃補助とリフォームを進めることでこの難局を乗り越えようとしている。現在、モールの多くの店舗が正常営業をし、人手は例年の9割、売上は例年の8割ぐらいまでは復活している。

都好総経理は、モールの復活にも希望が見えてきていると言う。「コロナ禍の影響は短期的なものだったと感じています。4月からは、著名ブランド、高級品、スポーツ用品の店舗では、売上が昨年よりも伸びています。上海全体のショッピングモールの空き室率は10%以下で、健康的な状態を保っています」。

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▲世紀匯広場。背後の2棟のオフィスビルは入居率の低下は1%程度とわずかだったが、手間のショッピングモールは大きな打撃を受けている。

 

オフィスビルの長期展望は課題が山積

コロナ禍という短期の影響を見れば、陸家嘴地区は地力の強さで、健康状態を維持しているように見えるが、長期を展望すると、盤石とは言えない。入居率、家賃相場を長期で下落させていく要因が存在するからだ。

ひとつは金融市場が乱高下をしたため、海外の金融、投資関連の企業が、中国進出計画を停止していること。中国のコロナ禍は終息をしたが、本国が終息をしていない国も多いため、進出計画がいつ再開されかは不透明だ。

もうひとつは、中国のテック企業、金融企業が、自社ビルを続々と建設していることだ。自社ビルが完成をすれば、それまでの賃貸オフィスを退居していくことになる。

また、早くから発展してきた陸家嘴では、すでに再開発が必要になっている地域もある。華潤時代広場は、開発されてからすでに20年が経ち、オフィスビルの施設も現代の企業の要求に応えることができなくなっている。そのため、設備の入れ替え工事を行なっているが、空き室率は30%以上となり、大きな決断が必要な時期に差し掛かっている。

また、それ以外のオフィスビルでも、人と人の接触機会を減らすために通路を一方通行化できる設計、殺菌機能のある空気清浄機、無接触で操作できるエレベーターなど感染症対策を施した設備を入れ替える必要が出てきている。

 

曲がり角にきている上海陸家嘴地区の高層ビル群の風景

これから数年、上海市オフィスビル面積は、毎年80万平米から100万平米ずつ増えていくことが確実になっている。現在上海のオフィスビルの総面積は1500万平米で、中国の都市では最も大きいが、それでもニューヨークの1/4、東京の1/3、ロンドンの2/5にすぎない。

今後は、成長する企業の本社の入居をいかに促せるかにかかっているという。本社が上海に居を構えると、その関連企業も上海にやってくるからだ。今年2020年上半期には、9社の本社が陸家嘴に入居した。これにより関連する金融機関が12社、国際資産管理会社が5社、融資関連会社が2社、陸家嘴に入居した。

上海随一の観光スポットである外灘(ワイタン)から臨める陸家嘴地区の高層ビル群。1年見ないと、必ず新しいビルが増えているほど、急速な発展をしてきた。その姿は今後は変わらなくなるのか、あるいは今後も変わり続けるのか。陸家嘴は転換の時期を迎えている。