中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

家賃が高すぎて起きているIT企業の「逃離北上広深」現象

最近、大都市に拠点を構えるIT企業が、地方都市に一部移転をする傾向が出てきている。その原因のひとつが、大都市の不動産価格、賃貸価格が高騰して、従業員の生活が苦しくなっていることだと言われる。網易データは4大都市の賃貸価格、シェアハウス価格を調査した。

 

IT企業から始まっている「北上広深から逃げる」現象

中国の4大都市は、北京、上海、広州、深圳。この4都市が「一線都市」(一級都市)と呼ばれる。IT企業もこの一級都市を拠点としていることが多い。北京には検索サイトの「百度」(バイドゥ)、携帯電話メーカーの「小米」(シャオミー)、Tik Tokの「バイトダンス」、ライドシェアの「滴滴出行」。上海には外売サービスの「餓了么」(ウーラマ)、まとめ買いサイトの「拼多多」(ピンドォードォー)。広州にはポータルサイトの「網易」(ワンイー)。深圳には総合IT企業の「テンセント」、携帯電話メーカーの「ファーウェイ」などがある。

ところが、このようなIT企業の「逃離北上広深」現象が起き始めている。ファーウェイは、深圳の隣の東莞市に松山湖基地を開設、研究機関を中心とした一部移転を行なった。また、北京のシャオミーは、武漢市に「武漢本部」を建設し、昨年から一部移転を始めている。いずれも完全移転ではなく、分散化ではあるものの、関連企業の中にも追従して移転をする企業が現れ、北上広深から逃げる現象が始まっている。

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▲ファーウェイが深圳市の北の東莞市に建設した松山湖基地。ヨーロッパのお城風のデザインで、高山列車も走っている。この電車で、施設内を移動する。

 

再開発、拡大がもう難しくなっている大都市

その理由は、企業オフィスの家賃の問題もあるが、従業員の生活コストが上昇していることも大きいという。実際、一級都市の賃貸相場は上がり続けている。住宅の新規供給が難しくなっているからだ。

以前は、市内に毛沢東時代の古い建物、平屋の住宅などが存在したが、現在ではそのような場所はすべてオフィスビルや高層マンションに生まれ変わっている。もう開発する土地がないのだ。

そこで、各都市とも地下鉄を郊外まで延長して、隣接市町村を市に編入をし、ベッドタウン化を進めている。しかし、中心部までの通勤時間はもはや1時間を越えようとし、拡大政策も限界が見え始めている。

 

大都市では賃貸価格が高騰している

この状況下で、賃貸価格が上昇している。北京では、最低家賃が3742元、最高が7490元。広さの平均は50平米から60平米だ。ちなみに日本ではワンルームが24平米、1LDKで45平米、2LDKが60平米、3LDKは70平米以上というのが標準になっている。同じく、上海では、最低家賃が3806元、最高が6166元。深圳では最低が4373元、最高が6757元。広州では最低が3303元、最高が5041元。どの都市も5万円から10万円程度の感覚だ。

不動産流通推進センターの統計によると、平成30年3月時点で、東京圏の賃貸マンションの平均家賃相場は、ワンルームで7万2880円、1LDK-2DKで10万8349円、2LDK-3DKで13万4595円になっている。中国一級都市の賃貸マンションは、さすがに東京ほどではないにしても、日本の地方都市郊外のマンションとほぼ同じ程度になるのではないだろうか。

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若者はシェアハウスを利用するケースも多い

さらに問題なのが若年層だ。大手IT企業では、入社直後から年収数千万円ということもあるが、これはほとんどの場合、研究職であり、人数も毎年数名程度しか採用されない。実績主義である中国は、入社時の給与は決して高くなく、実績をあげるとそれに応じて急上昇していくというパターンが多い。

そのため、一般の若者は、賃貸マンションを借りることもできず、シェアハウスに入居するのが一般的だ。

シェアハウスには、共用のLDKがついていることが多いが、プライベート空間である自室は12平米程度(日本のワンルームの半分)で、ベッドを置いたらいっぱいになってしまう。このため、大手IT企業では、社内にカフェや図書室などを設置して、従業員に「居場所」を提供している。

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北京市のあるシェアハウス。ベッドを置いたらほとんどいっぱいになってしまうほど狭い。それでも家賃が高騰している。

 

そのシェアハウスの家賃まで高騰

このシェアハウスの家賃もかなり高い。北京では最低が1628元、最高が3680元。上海では最低が1719元、最高が3303元。深圳では最低が1597元、最高が2716元。広州では最低が1406元、最高が2328元になる。2万5000円から5万円程度の感覚だ。

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上海では収入の60%が家賃に消える地域も

問題は、シェアハウスを利用する若年層は収入も低いということだ。シェアハウス賃貸料の収入に占める割合は、北京で最低39.22%、最高86.88%。上海で最低31.35%、最高60.77%。深圳で最低36.60%、最高54.69%。広州で最低26.75%、最低44.28%にもなる。

一般に、家賃は収入の1/3以下が適切とされているので、一級都市のシェアハウス居住者のほとんどが高すぎる家賃に悩んでいることになる。

 

地方都市は家賃が安く、人材も眠っている

一方で、地方都市の家賃は安い。さらに、地方都市は仕事が少なく、地元の大学を出ても就職口が見つからない優秀な人材があぶれている。「逃離北上広深」の企業はこの一挙両得を狙っている。

一級都市から地方都市に従業員を転居させることで、家賃コストを下げ、生活を楽にする。賃上げと同じ効果がある。一方で、現地にいる優秀な若者を採用することができる。

 

二級都市「杭州」を拠点としたアリババの成功

このような現象が生まれたのは、アリババの成功が大きい。アリババは、創業者のジャック・マーが杭州市出身であったため、杭州で創業された。杭州市はそれまで小さな地方都市にすぎず、観光ぐらいしか大きな産業がなかった。それがにわかにIT産業の都市になった。アリババの給与水準は高く、生活コストは低いため、アリババ社員の生活には余裕がある。生活に余裕があるから、いい仕事ができるという好循環が生まれている。

北上広深から完全移転をすることはないにしても、地方都市に拠点を作り、一部移転をするIT企業はこれからも増えていくことになるだろう。

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