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成長する新小売、生鮮EC。既存店舗チェーンの参入で競争が激化

新型コロナの感染拡大で、生鮮食料品を宅配してくれる新小売スーパー、生鮮ECの需要は急増した。業界にとっては市場は大きく拡大する好機となった。一方で、既存の小売店舗チェーンが新小売化をする動きが進んでいる。今後、新小売、生鮮ECではさらに競争が激化していくと電商報が報じた。


新型コロナで需要が急増した生鮮EC

新小売、生鮮ECと呼ばれるサービスが、消費者の間での地位を確立した。生鮮ECとは、野菜、肉、魚といった生鮮食料品をスマートフォンで注文すると、1時間ほどで宅配をしてくれるサービス。2012年頃から次々と登場し、合計で4000社とも言われる激しい競争を行っていた。そのうち、黒字化を達成しているのはわずか1%で、採算ライン上が4%、95%は赤字状態になっていると言われる。特に2019年は、資金が保たずに倒産をする生鮮ECが続いた。

その中で、生き残ったものが2020年を迎え、新型コロナウイルスの感染拡大により、利用者が急増。どこも3倍から7倍の需要があった。終息後にどの程度、利用者が残留しているかはまだ不明なものの、生鮮ECにとっては、利用者を拡大する好機となったことは間違いない。

 

中高年は新小売スーパーを、若者は生鮮ECを利用している

生鮮ECの分野でも、そのスタイルによりさまざま企業が存在している。

1)ECによる生鮮食料品販売:天猫生鮮、京東生鮮など。ECサービスが生鮮食料品も扱うもの。当日配送、翌日配送が基本。日本のアマゾンフレッシュと同じ方式。

2)新小売スーパー:盒馬鮮生(フーマフレッシュ、アリババ)、超級物種(永輝スーパー)、7フレッシュ(京東)。EC企業、スーパーチェーンなどが出店する新小売スーパー。スマホでも店舗でも購入ができ、30分から1時間で配送する。

3)スタートアップ生鮮EC:毎日優鮮、ディンドン買菜など。店舗をもたず、スマホ宅配のみをするサービス。30分から1時間で配送する。

このうち、1の既存ECによる生鮮食料品販売は伸び悩んでいる。翌日配送が基本になっているため、使いづらいからだ。他の商品を購入するついでに生鮮食料品も購入するという使い方が主流になっている。

最も利用されているのは、新小売スーパーと生鮮EC。新小売スーパーは現物を自分の目で確かめられる安心感から中高年に、生鮮ECはその手軽さから若年層に支持されている。

 

既存店舗が新小売化、生鮮EC化

しかし、この3つの他に、近年、もうひとつの生鮮ECが頭角を表してきている。それは店舗を基本にした小売チェーンが生鮮ECを始め、結果として店舗でもスマホでも購入できる新小売スーパーと同じ業態を実現するというものだ。

その代表格は、豚肉小売チェーンの「銭大媽」(チエンダーマ)と果物小売チェーンの「百果園」(バイグオユエン)だ。

銭大媽は13都市1600店舗を展開する豚肉小売チェーンだが、京東が投資をしたことにより、企業価値は85億元から100億元(約1500億円)に達したと見られている。京東は、第2位の株主となった。

この企業も、最初は1軒の豚肉販売店にすぎなかった。

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▲銭大媽の店舗。元々は豚肉専門店。今でも「宵越しの肉は売らない」がキャッチフレーズになっている。

 

「宵越しの肉は売らない」手法で人気になった豚肉販売店

銭大媽は、2012年4月に、東莞市の長安農貿市場の中に豚肉販売店を開くことから始まった。創業者の馮冀生(フォン・ジーシェン)は、売れ残りの豚肉の売れ行きが悪いことに気がついた。中国人は、豚肉の鮮度を気にする人が多く、その日の朝におろした豚肉を好んで買い求めることに気がついた。

そこで、馮冀生は午後になると豚肉の値段を下げ、閉店時まで残っていた豚肉は無料で、しかも近隣であれば無料配送までした。これによって、今日の豚肉を明日に残さないことで、「あの店の豚肉は新鮮だ」という評判を得ることができた。

これがうまくいったため、2013年に、深圳市羅湖区に豚肉を中心とした生鮮食料品を開店した。

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▲現在の銭大媽は、豚肉だけなく野菜なども販売をしている。これらすべて、19時から割引率が上がっていく。

 

30分ごとに割引率を上げていくダイナミックプライシング

この時に打ち出した広告が、「宵越しの肉は売らない」というものだ。しかも、それが本当に実行されていることを仕組みで示すために、午後7時から全品を1割引きにする。午後7時半になると2割引になる。午後8時には3割引。こうして、午後11時半にはゼロ、つまり無料となり、しかも無料の宅配までしてくれる。店舗を閉めたスタッフが、配送をして、それから帰宅するのだ。

しかし、実際に無料で販売することは少ない。多くの場合、午後9時か10時にはすべての商品が売り切れて、店を閉めてしまうことになる。消費者はその様子を見て、「宵越しの肉は売らない」がほんとうであることを知り、銭大媽を信頼する。

銭大媽によると、割引を求めて、遅い時間にやってくる客は少なく、平均して1割引き程度の販売価格で売ることができているという。つまり、1割引にすることで、消費者の信頼感をつかむことができている。プロモーション費用として考えれば決して高いものではない。

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▲銭大媽の価格表。19時に9割価格(1割引)、19時30分に8割価格(2割引)となり、30分ごとに割引率が上がっていく。23時30分には無料になり、配送までしてくれる。

 

自前の野菜と豚の生産基地を建設

創業2年後、店舗数は4店舗までに増えていた。銭大媽の独特な販売スタイルは好調だった。しかし、この4店舗で、経費と利益がバランスしてしまい、さらなる店舗拡大をすることができないでいた。

このやり方では4店舗が限界だと感じた馮冀生は、ここで思い切った勝負に出る。それは、広東省に野菜の生産基地、黒毛豚の生産基地を建設し、12万平米の加工配送基地も建設をした。つまり、商品を仕入れるのではなく、自前で生産することで、仕入れコストを抑え、品質を上げようとした。

ここから、銭大媽の急速な成長が始まる。肉も野菜も朝方、自社の生産基地から搬送し、その日のうちに売り切ってしまう。それが多くの消費者に歓迎された。

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▲銭大媽では、独自の生産基地を建設し、野菜や豚肉を自社生産している。これが価格を下げ、品質を上げることにつながり、急成長するきっかけとなった。

 

既存店舗の新小売化により競争はさらに激化

しかし、昼間に買い物に出ることができる主婦や中高年には受け入れられたが、仕事がある中年以下の層には食い込めないでいた。夕方、仕事を終えてから、銭大媽にいくと、目当ての商品が売り切れていることが多いからだ。

そこで、銭大媽はWeChatミニプログラムに対応して、新小売化を図った。WeChatミニプログラムを開くと、位置情報から近隣の店舗のページが表示され、どの商品が売り切れているかがリアルタイムでわかるようにしたのだ。しかも、商品を注文して、取り置き、あるいは宅配を頼むこともできる。

これにより、銭大媽は新たな顧客層をつかもうとしており、計画では2020年末に2500店舗を展開する予定だ。これが実現すると、マクドナルドの店舗数を超える。

新小売スーパーはフーマフレッシュ、生鮮ECは毎日優鮮、ディンドンなどが業界のリーダーとなり、ほぼ勢力図が固まり始めていた。しかし、今度は、既存小売チェーンが新小売化をすることで、この領域への参入を始めている。再び、この分野は熾烈な競争が始まることになりそうだ。

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▲銭大媽のWeChatミニプログラム。開くと位置情報から最も近い店舗のページが自動的に表示され、店頭で売り切れている商品がリアルタイムでわかるようになっている。スマホで注文して、店舗受取、自宅配送が可能。