中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

広州に登場した充電もできるスマート街灯。狙いは5Gの普及

広州市の天河南二路に35基のスマート街灯が設置され、話題になっている。夜間照明だけでなく、スマホの充電、電気自動車の充電、WiFi、5G基地局などさまざまな機能を持っていると金羊網が報じた。

 

スマホの充電ができる街灯

広州市に登場したスマート街灯にはUSBポートが設置され、スマホの充電ができることが話題になっている。2.1Aの急速充電にも対応している。利用料は無料だ。「助かる」という人もいれば、「街頭で充電って…」と戸惑う人もいる。街灯なので屋根のようなものはなく、雨が降った時は傘をさしながら充電しなければならない。

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広州市の天河南二路に設置されたスマート街灯。街灯を利用し、5G基地局を普及させていこうとしている。

 

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▲屋根はないので、雨の日には傘をさしながら、スマホの充電をしなければならない。

 

EVの充電も可能、道路は駐禁に

また、電気自動車(EV)の充電もできるようになっており、専用アプリから充電量に応じて支払いをする。標準的なEVで、30分の充電で80%の充電ができる仕様になっている。

街灯の前の道路は、充電をするEV専用の駐車スペースとなるため、警察も放置車両を厳しく摘発している。そのため、違法駐車車両がなくなり、街並みがすっきりとする効果もあるようだ。

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▲電気自動車EVの充電機能もある。街灯前のスペースがEV専用となったことで、違法駐車の取り締まりが厳しくなり、街並みがすっきりしたという効果もあった。

 

5G、WiFiも完備

また、5Gアンテナ、WiFiも設置予定。さらにはタッチパネルも備えられ、周辺の観光地、商店、交通情報などを調べることができる。さらに緊急通報ボタンもあり、ボタンを押して、音声で救急車や警察などの助けを呼ぶことができる。

さらに交通量を調べるセンサー、排水溝からの水溢れなどを計測し、関係部署に情報を送信する機能もある。

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▲情報パネルも設置され、周辺情報や交通情報などを調べることができる。

 

街灯を利用して5G基地局を設置する

広州供電局によると、このスマート街灯のいちばんの狙いは、5G基地局なのだという。5G通信は、中国の国家戦略ともなっていて、その普及が急がれている。しかし、5Gで使われる電波の周波数帯は高いため、直進性が高く、ちょっとした遮蔽物で遮られてしまう。そのため、街中に4Gよりも多くの基地局を設置する必要がある。広州市では街灯を5Gミニ基地局として利用することにした。現在、36基中、4基がミニ基地局となっていて、最終的には20基に増やし、結果を分析した後、この5Gミニ基地局スマート街灯を広州タワー、花城広場など、市内の主要箇所に広げていく計画だ。

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▲スマート街灯が設置された天河南二路。違法駐車が減り、街並みがすっきりした。ここに35基のスマート街灯が設置された。

 

まずは全部入りでやってみることがスピード感を生む

あまりに機能が多すぎて、盛り込みすぎと感じられる方もいるかと思うが、これが中国のやり方だ。何かを変える時は、思いつく機能をとにかく入れてみる。そして、不評な機能は削っていくのだ。どの機能を入れて、どのようにデザインするかを考えるよりは、まずは「全部入り」で試してみる。普及のスピードを何よりも重視をしている。広州市の中心部どこでも5G通信が利用できるようになるのは、意外に早いかもしれない。

 

大型会場、駅、空港の警備は二輪車で。各地警察が正式採用

中国製のセグウェイタイプの二輪車「Pevia」が、杭州G20サミットの警備に採用されたことで、成都などの警察で採用され始めている。歩道を時速20kmで走行できることから、大型イベント会場、駅、空港などの警備、警邏に使われることになると特種装備網が報じた。

 

イベント会場などの警備に使われる二輪車

杭州海賽智能科技が開発したセグウェイタイプの二輪車「Pevila」が、公安部をはじめとして、成都、福州、天津などの警察に正式採用されている。2016年に杭州で開催されたG20サミットで、警備用の移動ツールとして、Pevilaが公式採用されたことから広まり、大型イベント会場、駅、空港などの警備に活用されている。

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杭州G20サミットの警備に実際に使われた時の写真。警備員が大きな会場の周辺を警邏するのに利用された。

 

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▲巡邏用のPevila。人が乗って、ハンドルと体重移動で操縦する。

 

最高時速は20km、航続距離は60km

Pevilaは、前後に体重移動することで加速、減速ができ、ハンドル操作で曲がることができるという二輪車。4時間から7時間のフル充電で約60kmの走行が可能。最高速度は時速20km。4G通信に対応し警備センターとの通信が可能。また、GPSが標準装備されている。重量は43kgで、150kgまでの積載が可能。価格は1万6800元(約27万5000円)。

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▲ハンドルで方向を決め、前後の体重移動で前進後退する。杭州海賽智能科技によると、「1分間で乗れるようになり、10分で熟達する」とのことだ。

 

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▲開発をした杭州海賽智能科技は、このPevilaが2016年の杭州G20サミットの警備に採用されたことで、名前が全国区の企業になった。

 

レジャー用二輪車はすでに価格競争に入っている

杭州海賽智能科技は2013年創業。セグウェイタイプの二輪車の開発を始め、2016年には杭州G20サミットの公式パートナー企業となったことで名前が全国区になった。

Pevilaは警備用だけでなく、ゴルフなどのレジャー用も開発されている。また、海外展開も視野に入れていて、G20では韓国のムン・ジェイン大統領もPevilaに試乗した。

この二輪車の領域もすでに複数のメーカーが存在し、価格競争の段階に入っている。ECサイトタオバオ」などで検索すると、レジャー用のものは3000元(約5万円)程度から販売されている。

中国の街中で、この二輪車に乗る警官を見かける機会が増えていくことになるかもしれない。

 

手がふさがっている状況でスマートスピーカーは生きてくる。女性の化粧に着目した「天猫精霊Queen」

米国では普及をしているスマートスピーカーだが、日本や中国では普及率はまだまだ低い。アリババは、コスメミラーと合体したスマートスピーカーを発売する。化粧中に手が離せない女性にとって、スマートスピーカーは利便性が高いため、普及の弾みがつくのではないかと期待されていると新華網が報じた。

 

米国は41%、日本は6%の普及率

スマートスピーカーの普及率は、米国では2018年にすでに41%に達しているという。一方、日本は、電通デジタルの調査によると6%、利用用途は「音楽」「天気予報」「アラーム」「ニュース」となった。

2018年後半から売行きは伸びてきているが、本格的な普及はまだこれからだ。

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▲調査会社カナリスの調査によると、2018年後半から再びスマートスピーカーの売行きが伸びている。

 

中国も米国に次いで第2位の市場になってきている

スマートスピーカー市場は、アマゾンエコーとグーグルホームが牽引しているが、中国メーカーの製品も伸びてきている。調査会社カナリスの調査によると、2018年の世界市場で、アリババはすでに11.4%、シャオミーは9.1%、百度は4.6%のシェアを占めるようになっている。この3社の出荷台数合計は1960万台。トップのアマゾンが2420万台なので、それに迫りつつある。

アマゾンとグーグルは世界展開をしているが、アリババなどの販売先はほとんどが中国市場。スマートスピーカーの最大の市場は米国だが、中国も第2位の市場に成長してきている(3位は英国)。

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▲世界市場でのスマートスピーカーシェアの3位以下にアリババを始めとする中国企業が入ってきて、中国が世界第2位の市場になっている。

 

女優ミラーとスマートスピーカーが合体した女性向け製品

アリババ人工知能実験室は「天猫精霊Queen」という女性向けのスマートスピーカーの発売をアナウンスした。価格と発売時期は4月に公表される。

このスマートスピーカーは、化粧用ミラーとスマートスピーカーを合体させたものだ。直径8インチのミラーがつき、その周囲にはLEDが配置され、いわゆる「女優ミラー」として使える。環境の明るさをセンシングし、化粧に最も適した明るさで点灯する。

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▲ミラーの周囲にはLEDが埋め込まれ、顔を照らしてくれる女優ミラーの機能がある。

 

美容関連の機能が充実

当然、スマートスピーカーの機能も備えていて、ニュースを聞いたり、音楽を聞いたりすることができる他、その日の紫外線指数などを尋ねることもできる。

開発には10社以上の化粧品メーカーが参加しており、美容に関するQ&Aに答えてくれる他、専用アプリで肌の写真を撮ると、化粧のアドバイスもしてくれる。

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▲化粧をしている時は手がふさがっていてスマートフォンを使えない。この状態で、音声で天気予報や交通情報を聞いたり、家電を制御できる。

 

どこに置くかで使用頻度が違ってくる

この天猫精霊Queenは女性用であるため、売行きは限定的なものになるだろうが、スマートスピーカーの用途を考えるきっかけになるかもしれない。

スマートスピーカーをリビングに置いてしまうと、結局、音楽を聴くぐらいにしか使わなくなってしまう。しかし、手が離せない状況が多いキッチンやダイニングに置くと、タイマーを始めとした別の使い方が生まれてくる。料理レシピ検索なども充実してくれば、料理のガイドから家電コントロール、調味料などの注文なども使われるようになってくるだろう。

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▲女性向けであるために、音声は男性の声を複数の中から選べるようになる。

 

手がふさがっている化粧の時に声で操作

天猫精霊Queenが、「化粧」という手が離せないシーンに注目したことは、スマートスピーカーの新たな需要を発掘することにつながるかもしれない。化粧をしているときは、10分から20分程度、手がふさがってしまい、スマートフォンの操作ができなくなる。この間に、化粧をしながら、天気予報や交通情報を調べたり、家電を制御したり、将来的には通話もできることになる。

スマートスピーカーをリビングやオフィスに置いてしまうと、多くの場合、スマホも使える状況なので、不慣れなスマートスピーカーよりもスマホを使ってしまう。しかし、スマホが使えないキッチン、ダイニング、トイレ、浴室などの場所、シーンではスマートスピーカーの機能が活きてくることになる。

中国では2000万台以上のスマートスピーカーが出荷されているが、それでも人口を考えると、普及率はまだまだ低い。天猫精霊Queenのようなユニークなスマートスピーカーが増えていくことで、普及に弾みがついていくかもしれない。

 

高速道路を走ってはいけない電気自動車

中国で進んでいる「EVシフト」。実際に街を走る電気自動車も増えてきている。しかし、高速道路では空気抵抗が増して、航続距離が半分程度になってしまうため、EVで高速道路を走ってはいけないと備胎説車が解説した。

 

ネットでは評判が芳しくない電気自動車

中国で電気自動車(EV)などの新エネルギー車への転換「EVシフト」が起きていることになっていて、確かに街中で新エネルギー車専用の緑色のナンバープレートをよく見かけるようになっている。

しかし、「EVがよく売れている、人気」という報道がさっぱり出てこない。EV自動車メーカーは売れ行きは好調だとアナウンスすることが多いが、その多くは法人需要であって、個人需要はまだまだ掘り起こせていないと指摘する報道もある。

一方で、車好きが集まるネットコミュニティーでのEVの評判は芳しくない。中には、「ゴミ」と断言する人までいるほどだ。その中で、自動車専門メディア「備胎説車」(スペアタイアが自動車を語るの意味)が、EVで高速道路を走ってはいけないと警告し、自動車愛好家の間で話題になっている。

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▲増えてきた新エネルギー車専用の緑ナンバー。さまざまな優遇が用意されている。優先的に駐車できる、料金が割引になるなどの特典が都市ごとに用意されている。

 

空気抵抗によりカタログ値の半分になる航続距離

問題は、高速走行をすると、空気抵抗も車速の2乗に比例をして増していくということだ。特にEVの多くは、短距離の街乗りを想定したものが多く、高速走行では空気抵抗が増し、効率が悪くなる。

例えば、上海蔚来汽車の蔚来ES8は、補助金適用価格で40.3万元から41.1万元(約660万円)。自動車評価サイト「汽車の家」でのオーナー評価は5点満点で4.73点と高評価を受けているEVだ。

カタログでは、満充電で512km走行できると書かれている。しかし、高速道路を時速120kmで走行すると、実際は242kmしか走行できなかった。空気抵抗の負荷がかかるためだ。

備胎説車は、多くのEVが、高速走行ではカタログデータの半分程度しか走れないと警告をしている。

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▲上海蔚来汽車の蔚来ES8。日本円で600万円以上するかなりの高級車で、オーナーからの満足度も高い。それでも高速道路を走行すると、バッテリー切れで立ち往生する危険性がある。

 

次の充電ステーションまでたどり着けない

しかも問題は、充電ステーションだ。高速道路のサービスエリアの4カ所に1カ所は充電ステーションを用意しなければならない規定になっていて、その設置が急がれている。

しかし、これは計算すると平均200kmに1つの充電ステーションということになり、蔚来ES8であってもギリギリだ。

中華H230EV(16.98万元から)や長安奔奔mini-e(8.28万元から)では、カタログデータでも、満充電での走行距離は150km程度。カタログ通り走れても充電ステーションに到達できないことになる。ましてや、実際の走行距離は半分程度になってしまうので、高速道路を絶対に使ってはいけないと警告している。

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▲中華H230EV。280万円ほどの大衆車EV。しかし、それでも満充電の航続距離は150kmで、休日に高速道路を使って遠出することはできない。EVはまだまだ個人所有するには難しい面が多すぎる。

 

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長安奔奔mini-e。130万円程度の低価格EV。満充電の航続距離は150km。街乗り専用車だ。

 

充電設備の不足、故障が問題になっている

さらに、高速道路の充電ステーションを拡充しているといっても、簡易型充電ステーションも数に入れられている。これは充電設備が1台分あるいは2台分しかないものだ。これを利用しようと思ったら、すでに別の人が使っていて、充電が終わるのを待たなければならないということもあり得る。

消費者問題を取り上げるテレビ番組「315晩会」では、充電ステーションの問題を取り上げ、故障していることが多く、修理もすぐには行われていないという問題を取り上げていた。高速道路の充電ステーションが故障をしていたら、立ち往生してしまう可能性がある。

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▲高速道路のサービスエリアの4カ所に1カ所は、EV用の充電施設を設けなければならないことになっている。これは平均すると200kmに1カ所になり、航続距離が短いEVでは200kmを走りきることができない。

 

バッテリー寿命の詳細データが公開されていない

さらに、備胎説車は生命の危険をも指摘する。EVが交通事故を起こした場合、バッテリーが発火し、爆発をする危険性まである。2018年の前半で、すでに高速道路乗で追突事故を起こし、発火爆発まで至ったケースが2件起きている。

また、バッテリー寿命に関してもメーカーは正確な情報を消費者に公開していない。長寿命バッテリーだといっても、バッテリーの劣化によって航続距離が短くなっていくので、5年ほどで交換しなければならないのであれば、ガソリン車よりもかなり高くついてしまうことになる。

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▲EVが事故を起こすと、発火、爆発をするというニュースが大きく報道されている。しかし、構造としてEVだから危険度が高いということはなく、単なるバッテリーの安全対策がまだレベルに達していないだけ。

 

EVはあくまでも短距離の街乗り専用

備胎説車は、EVにも数多くの利点があって、都市内の移動には適しているが、このようなリスクを知り、高速道路には乗ってはいけないと警告している。

読者コメントを読むと、備胎説車の主張に賛同して、「EVは詐欺」と発言する人もいるが、一方で、「高速道路の充電ステーションはよく整備されていて故障率は低い」「発火事故は起きているのものの稀な現象」というコメントもある。また、多くの人が「新エネルギー車に関してはトヨタかホンダを買うのが安心」ともコメントしている。

中国のEVシフトはまだ始まったばかり。国内メーカーの品質がまだ一定レベルに達していないEVも市場に出回っている。

いつもながら、中国はこうした騒動を経て、前に進んでいくことになる。

 

空港でのタクシー待ち時間を機械学習で40分から10分に短縮

海浦東空港で、タクシー配車システムを刷新し、平均待ち時間が40分だったものが10分に短縮することに成功したと上海交通が報じた。

 

空港や駅から脱出できなくる!

中国内を国内線や中国版新幹線「高鉄」で移動すると、空港や駅で詰んでしまい、外に脱出できなくなることがある。多くの国内空港や高鉄には、地下鉄が接続しているが、切符を買おうとすると長い行列。バスは、次の次のバスまですでに満席。あきらめてタクシーを使おうとすると、こちらも長い行列。空港や駅から1時間ほど脱出ができずに立ち往生してしまうことがある。しかも、大きな荷物を抱えていることが多く、着いた途端に疲弊してしまうことも少なくない。 

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▲以前のタクシー乗り場の様子。春節などのラッシュ時季には、タクシー待ちの行列が延々と長くなっていた。現在は昼間は10分以内、深夜でも15分程度でタクシーに乗れるようになった。

 

タクシーの待ち時間を40分から10分に短縮

今年の春節から上海浦東空港を始めとする10の空港が24時間化を始めている。大量の人が国内を移動する春節に合わせて、輸送量を少しでも増やすために深夜便の対応を始めたのだ。

しかし、深夜に空港についても、公共交通は終わっている。市内への移動はタクシーしかない。深夜に空港について疲れているのに、またタクシーの行列に1時間も並ぶのかと思うと、中国人でもげんなりしてしてしまう。

そこで、上海浦東空港では、交通管理システムを刷新し、タクシーの平均待ち時間を40分から10分に短縮することに成功した。

 

春節の混雑時にも10分以下でタクシーに乗れた

浦東空港のタクシー乗り場には25台のタクシーが同時に止めることができる。これに次々と乗客を乗せて、出発していく。

春節の期間、浦東空港から出発したタクシーは合計11万1759台で、16万8464人の乗客を乗せた。平均待ち時間は3.35分で、混雑時に限っても平均待ち時間は6.33分になった。それまで40分は行列に並ぶというのが常識だったのだから、待ち時間は大きく短縮された。深夜の到着便が重なる時間帯では、公共交通が終わっているためほぼ全員がタクシーに殺到するが、だいたい15分を見ておけばタクシーに乗れるようになったという。

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▲新しくなったタクシー乗り場。パネルに現在の待ち時間が表示される。

 

市内から遠い空港ではタクシーが集まらない

海浦東空港は、タクシーにとって長い間、頭の痛い問題だった。浦東空港は市内から50kmほど離れたところにあるため、市内のタクシーは空車のまま浦東空港には行きたがらない。浦東空港に行く客を捕まえて、帰りも浦東空港から市内に客を乗せて帰ってきたい。そのため、そもそもタクシーの絶対数が足らない。

また、空港付近にタクシーが駐停車することは厳しく禁じられている。タクシー専用のタクシー溜まりが用意されているが、そこは空港から7kmも離れたところにある。タクシー乗り場のスタッフが、乗客が増えたことをタクシー溜まりに伝えても、タクシーがやってくるまでに時間がかかる。これが待ち時間を長くしていた大きな原因だった。

 

タクシー需要予測に基づいてタクシーを配車する

2015年から浦東空港は、「大型交通中枢タクシースマート配車管理システム」の開発を進めていた。これは過去の実績データ、到着便、利用客の移動先などのビッグデータを解析して、需要予測をするものだ。

さらに、タクシー乗り場の乗客の数、行列の進む速さなども測定して、必要なタクシーの台数を予測し、実際に到着しているタクシー台数との差を割り出す。

スタッフは、システムが表示する不足台数、過剰台数のデータに対応して、タクシーをタクシー乗り場に呼び寄せればよくなった。

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▲上海浦東空港のタクシー乗り場。最高で25台のタクシーが並ぶことができるが、これでも平均待ち時間は40分だった。

 

タクシー利用率は機械学習で予測する

このシステムを運用するためには、「到着便」「到着便乗客数」「タクシー需用量」の3つのデータが重要になる。

2017年、浦東空港は、空港のシステムを一部公開し、「浦東準点」というアプリを公開した。これは、浦東空港に到着する航空便の遅延状況をリアリタイムで見られるというものだ。配車管理システムを開発していた交通保障部は、このデータを参照することで、到着便の正確な時刻を知ることができるようになった。

実際の乗客数は、国内便の場合、データを公開することになっているので、これを参照する。国際便の場合、データを公開していない航空会社もあるので、この場合は、過去のデータから推測をすることにした。

最も難しかったのは、到着した乗客のどのくらいの乗客がタクシーを利用するかだ。これは公共交通機関の運用状況によっても変わってくるので、過去のデータを機械学習させて予測することにした。

 

タクシー回転率を上げるチケット方式

もうひとつ大きな問題が「短距離チケット」だった。すべての乗客が上海市内に向かうとは限らない。例えば、浦東空港近くのホテルに行く場合もある。このような近場の客を乗せる場合、運転手は乗り場のスタッフに「短距離チケット」を発行してもらうことができる。条件は22km以内で、1時間以内に乗客を送り、空港に戻ってこれるというものだ。

この短距離チケットを持っているタクシーは、空港に戻ってきても、タクシー溜まりに寄らずに、優先的にタクシー乗り場で次の乗客を乗せることができる。

運転手としては、長距離の客を乗せたいので、短距離客は避けたい。しかし、この短距離チケットがあれば、すぐに次の客を乗せることができる。こうして、タクシーの回転率を上げることで、不足するタクシー台数を補おうという制度だ。

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▲近場に送客するタクシーに発行される「短距離チケット」。これがあると、次の客を優先的に乗せることができるため、偽造が相次いでいた。

 

GPSを装着してチケット悪用もシャットアウト

しかし、この短距離チケットの偽造が横行した。乗車時間を改竄して、何度も優先してもらうという運転手がいる。

配車管理システムでは、この短距離チケットも自動化をした。2015年から、すべてのタクシーにGPSを装着し、そのデータをシステムが参照できるようにし、実際の走行が短距離に相当するかどうかをシステムが自動判別するようにした。偽造チケットをスタッフに見せても、スタッフ側ではGPSデータから偽造であることがすぐにわかってしまうことになった。

これにより、短距離チケットの発行率は以前は37%であったものが、システム導入後は12%まで減少した。

 

他の空港からの視察も相次いでいる配車システム

この浦東空港のタクシー配車システムは、他の空港からも注目をされており、すでに導入の動きもあるという。特に24時間化を計画している空港からの視察が相次いでいるという。

 

顔認証ロッカーが女性差別?背が低くてカメラに映らない女性がご立腹

顔認証ロッカーが普及し始めている。顔を登録すれば利用でき、顔を見せるだけで自分のロッカーの鍵が開けられる。しかし、顔認証カメラの位置が高すぎて、背の低い女性が利用できないというツイートが拡散して話題になっていると娯楽古意が報じた。

 

利便性の高い顔認証ロッカー

顔認証がさまざまなところに浸透し始めている。カルフールなどのスーパーでも顔認証決済端末を導入した他、宅配ボックスやコインロッカーでも顔認証対応のものが増え始めている。

スーパーなどではコインロッカーを設置しているところが多い。コンビニや他のスーパーで買い物をして、レジ袋をすでに持っている場合、そのままスーパー内に入ると、万引きをされてしまう、あるいは万引きをしたと疑われてしまうため、入り口付近にコインロッカーを設置し、荷物をいったん預けて、買物の清算後に荷物を出して帰るというのがルールになっている。利用料金は無料の場合がほとんどだ。

このようなスーパー用のロッカーが顔認証対応になっている。センサーに顔を見せ、登録ボタンを押すと、空いているロッカーの扉が自動的に開く。そこに荷物を入れ、取り出すときに再び顔を見せると、自分のロッカーの扉が開くというものだ。どこに入れたのかを覚えておく必要がない。鍵を持ち歩く必要がない。スマホすら使う必要がない。

運営側からは、鍵の紛失に対応する必要がない他、鍵穴にいたずらをされる心配もない。今後、宅配ボックスやコインロッカーでは顔認証が普及していくと見られる。

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▲ロッカー途中にある顔認証センサーに顔を映して、ボタンを押すとロッカーが利用できる。

 

顔認証カメラの位置が高すぎる!

ところが、あるブロガーがアップした内容が話題を呼んでいる。それは顔認証センサーの位置が高すぎて、背の低い女性は使えないというものだ。

ある女性が顔認証対応のコインロッカーを使おうとしたら、センサーの位置に顔が届かない。

顔を上に向けて、なんとかセンサー位置に顔を入れてみたが、顔が上を向いているため、顔認識されず登録ボタンを押してもエラーになる。

背伸びをして、顔をなんとかセンサーの位置に入れてみたが、やっぱり認証ができない。結局、あきらめて買い物をせずに帰ったという。

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▲この女性は背が低く、顔認証カメラに頭しか映らず、顔認証することができなかった。

 

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▲背伸びして無理に顔を写そうとしても、上向きの顔になってしまい、顔認識されない。

 

背が低いのは不美人?

中国の美人の条件のひとつは背が高くてスラリとしていること。背が低いために顔認証が利用できなかったこの女性は、機械から不美人だと言われているようで、ちょっとひどいと話題になっている。

深く考えずに設計をしてしまったロッカー開発業者の落ち度だが、その後、顔認識センサーの前に踏み台を置くことで対応したようだ。

こうした数々の笑い話を生みだしながら、中国は顔認証の時代に移り始めている。

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▲背伸びをしても顔が写りきらない。現在では足元に踏み台が置かれるようになっている。

 

 

アリババがデマ判定器を開発。正解率は81%

中国では、SNSを通じて、さまざまなデマが拡散している。よく考えればありえない話であっても、信じ込んでしまい、愚かな行動をとってしまう人もいる。アリババのDAMOアカデミーの研究員が、このようなデマを判別する人工知能を開発したと銭江晩報が報じた。

 

SNSでのデマの拡散が止まらない

SNSが発展し、中国でも他の国と同じようにデマが流布することが多くなっている。その多くは、食品や健康に関するものだ。

例えば、以前から廃棄した食用油を回収して、再利用する「地溝油」が問題になっている。ドブから回収した油という言葉の響きがある。地溝油でないかどうかを調べるにはニンニクを入れてみればいいというもの。地溝油であれば、中に含まれるAFTという化学物質と反応して、ニンニクが黒くなるという。

あるいはアフリカで流行した豚コレラが中国にも上陸し、鄭州で多くの人が死亡している。あるいは、キクラゲを栽培している農民が液体を噴霧している映像付きで、キクラゲの栽培には除草剤や殺虫剤を大量に噴霧するので食べてはいけない。新築の部屋、新車の車内はホルムアルデヒドが充満をしているので、みかんの皮で丁寧にこするとホルムアルデヒドを除去できる、などなど。

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▲日本でも有名になった地溝油。ニンニクを入れておくと、地溝油であれば黒く変色するのでわかるというデマが流れた。

 

デジタルに関するデマも増えている

また、この時代ならではのデジタル系のデマもある。

また、WeChatなどのメッセージに@を使わない方がいいというデマもある。システムは@を検索をして、そのメッセージの主を監視し始めるからだというもの。ATMでお金を下ろす時は、暗証番号を盗まれないために、カードを入れる前に、取消ボタンを2回押しておくといい。ガソリンスタンドで給油中に、子どもがスマートフォンを触っていたら、その電波によって着火し、爆発した事故が起こった、などなど。

 

人工知能がデマかどうかを判別する

アリババの研究機関DAMOアカデミーシアトルオフィスの李泉志研究員は、このようなSNS上に流れるデマを、人工知能を使って判別するシステムを開発した。このシステムの判別率は81%に達しているという。

このシステムは、3段階でデマを判別していく。

1:発信者を分析し、発信者のプロフィールを調べる。その人の専門領域、デマを発信、拡散した経験、所属している機関、アカウントを作成してからの時間、発現パターンなどだ。さらに、発言とは異なる内容を発信している人の比率、その発信者のプロフィールなども調べて、デマ判定をしていく。

2:ネット上のすべての発信源を調査し、その発信源が例えば新華社などの報道関係、政府医薬管理局などの信頼できる発信元があるかどうかを調べる。

3:メッセージの内容を解析し、知識データベースと照合し、矛盾がないかどうかを調べる。

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▲デマ判別人工知能を開発した李泉志研究員。清華大学卒業後、米国で博士号を取得。ロイター通信で情報処理担当者をしていたこともある。

 

人間と同じ思考方法でデマを判別していく

李泉志研究員は銭江晩報の取材に応えた。「このAIシステムは、人間の思考プロセスを模したものです。人間と同じように、発信者が確かな人であるかどうを確かめ、信頼できる機関も同じ内容を発信しているかを調べます。システムはさらに大量の知識データベースと矛盾がないかどうかを調べますが、人間の場合、この知識データベースは小さいのです」。

このシステムは、アリババのサービスの中での運用はまだしてないという。しかし、データを取得して学習は進めている。世の中が必要とするのであれば、短い時間で本格運用することも可能だという。

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▲デマに踊らされる人は多く、各地の警察、関係機関は定期的にどのようなデマが流布しているかを警告している。

 

剽窃、盗作にも応用できるデマ判別器

このシステムは、さまざまな方面に応用が可能だ。例えば学術論文の内容が剽窃でないかどうか、文学作品などが盗作でないかどうかも、内容と書き方から判別できるようにもなるという。

また、デマの流布に関しては、発信源の追跡を容易にする。誰が発信をして、誰が転載をしたのかがわかり、内容をコピーして二次創作したケースも分析ができる。

李泉志研究員は言う。「しかし、まだ多くの学習が必要です。人がメッセージを拡散するときには、その内容を否定するコメントをつけたり、風刺をしたりします。また、暗喩で反対の意思を表すこともあります。そのような転載者の感情まで理解する必要があるのです。現在、このようなことまではできません。しかし、大量の学習を経ることで可能になると考えています」。