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保険金の支払いは投票で決める。加入者1億人を突破した「わりかん保険」

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明日、vol. 053が発行になります。

 

「わりかん保険」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。日本では保険ベンチャーのjustincase(ジャストインケース)が「わりかんがん保険」を発売しています。

一般の保険では、保険会社が、病気になる確率などから設計を行い、掛金を決定して、毎月決まった保険料を支払います。ところが、わりかん保険は後払いなのです。加入者の中から病気になる人が現れて規定の保険金を支払うと、それを加入者全員で割り算をして、その月の保険料が決まります。加入者の中から病気になる人がでてこなければ、支払額は0円になります。一方で、多数の人に保険金支払いが行われると、毎月の保険料も上がります。保険金支払額に、一定割合の管理費を乗せて、これを加入者全員でわりかんし、後払いする仕組みです。

日本の場合は、保険料が低額になることや、仕組みの合理性から、現役世代のセカンド保険として人気が出ています。

 

日本のわりかん保険は、法令上、少額短期保険の枠組みで運用されていて、保険業と同じレベルの規制を受け、「P2P保険」などと呼ばれています。中国では、わりかん保険は保険商品には当たらないと解釈され、保険とは別の枠組みの規制がかけられています。そのため、「ネット互助」と呼ばれています。

現在、加入者が最も多いのは、1.18億人が加入する「水滴互助」(シュイディー)です。2016年5月からサービスを提供し、テンセントの出資を受けています。中国では、もはやお決まりとなっていますが、この水滴の登場に反応をして、アリババ傘下のアリペイ運営会社「アントフィナンシャル」が「相互宝」(シャンフーバオ)を2018年10月に開始しました。これが瞬く間に加入者を増やし、一時水滴を抜く勢いとなり、このアリババとテンセントの競争が火付け役となって、百度、滴滴、美団などの主要テック企業が参入しているという状態です。

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▲主なネット互助。ここでもアリババとテンセントの2強が競い合い、それを新規参入したテック企業が追いかける構図になっている。

 

このようなP2P保険、ネット互助は、仕組みがシンプルであるために、数々のメリットがあり、保険業界のインシュアテック・イノベーションの起点になっています。

1:テクノロジーとの相性:ネットで完結。ブロックチェーン管理、人工知能の活用

2:公平性と透明性:支払い案件はプライバシー情報以外すべて情報公開。分担金の計算もすべて公開。疑わしい案件は加入者全員の投票で、支払い可否を決定

3:圧倒的なコストパフォーマンス:プラットフォームによる管理自動化により、人の手が不要となり、分担金対互助金のパフォーマンスがいい。分担金は数元と低額。

4:保険ユーザー体験価値のイノベーション

などのメリットがあり、このような要素は、一般の保険にも影響をしていくことになります。

 

1から3までのメリットはなんとなく想像がつくかと思います。このネット互助の最大のイノベーションは、ユーザー体験価値です。

従来の保険商品、例えば生命保険は、価値を感じる瞬間は自分が死んだ時です。疾病保険では病気になった時、傷害保険であればケガをした時に初めて保険の価値を感じることができます。保険金支払いをするときにはご家族から涙を流して感謝され「ありがとうございます」と頭を下げられますが、担当者はそれに笑顔で応えることはできません。保険の仕事をしていて、最もやりがいを感じる瞬間であるのに、世の中の役に立った喜びを露わにすることは厳禁なのです。加入者の状況を考えれば仕方のないことです。

現在の保険業界では、ここに課題感を持っている方がたくさんいらっしゃいます。保険金支払い以前の加入期間に価値を感じてもらえる保険商品は作れないのか。このようなことから生まれてきたのが健康増進型保険です。

これは生命保険、疾病保険などですが、健康増進プログラムが併設されていて、そのプログラムに従って健康増進活動をすると、保険料がどんどん安くなっていく仕組みです。保険会社としても、加入者が健康になると、保険金支払額が抑えられることになるので、保険料を安くすることができるわけです。

このような保険では、支払われる保険金だけが価値ではありません。健康増進プログラムを使って、健康になることも大きな価値になります。そして、加入者から「この保険のおかげで健康になった。ありがとう」と言われた時、担当者は満面の笑顔で応えることができるのです。

 

ネット互助も、加入期間に価値を感じられる仕組みになっています。普通の保険商品では、毎月保険料を支払うだけで、他の加入者が病気になったのかどうかを知る方法は、保険会社がまとめる統計情報に限られます。しかし、ネット互助では、1つ1つの案件の詳細が公開されます。毎月、何人に互助金が支払われ、どのような状況であったのかを知ることができるのです。

また、互助金を支払うべきかどうか迷う案件では、情報が公開され、加入者による投票が行われ、その結果にもとづいて支払いが実行されるのです。これにより、毎月支払っている分担金が、具体的に誰かの役に立っているということがわかります。わずか数元程度の分担金で、世の中の誰かを助けることができている。それを実感できる仕組みなのです。

従来の保険は、保険会社とだけの関係しか視野に入ってきません。一方で、ネット互助は、加入者同士の関係も視野に入る互助の仕組みです。毎月、この仕組みの価値を感じることができる。このユーザー体験が最も大きなことで、ここに惹かれて加入している人も多いのです。

今回は、このようなネット互助のうち、アリババ系の相互宝を例に、ネット互助がどのような仕組みになっているかをご紹介します。

 

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