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動画前、途中のインストリーム広告を使わないビリビリは、どうやって収入を得ているのか

若者から圧倒的に支持されている動画共有サイト「ビリビリ」。ビリビリは動画の前や途中に入るインストリーム広告を採用していなことも歓迎されている。動画がすぐ見れて、途中でじゃまもされない。しかし、インストリーム広告を採用しないため、ビリビリはさまざまな広告手法を考えだしていると電商報が報じた。

 

インストリーム広告を採用していないビリビリ

中国の若者に、どの動画共有サイトを使っているかを尋ねると、圧倒的に多い答えが「ビリビリ」だ。

ビリビリは、日本のニコニコ動画と同じように、視聴者の入力した弾幕が画面に表示される。一人ではなく、大勢で動画を一緒に楽しんでいる感覚が得られる。それだけでなく、ビリビリはインストリーム広告を採用していない。インストリーム広告とは、目的の動画が始まる前や再生途中に表示される動画広告のことだ。多くの動画共有サイトが採用しており、中には180秒という長いものまである。

動画共有サイトを運営していく上で必要不可欠な広告だが、視聴者にとってはわずらしく感じることもある。

しかし、ビリビリはこのインストリーム広告を採用していない。そのため、目的の動画をすぐに再生して、最後まで途切れることなく見ることができる。ビリビリに使い慣れた若者は、他の動画サイトを使うと、インストリーム広告の煩わしさに辟易し、ビリビリに戻ってきてしまうのだ。

なぜ、ビリビリはインストリーム広告を使わないのだろうか。そして、どうやって収入を得ているのだろうか。

 

インストリーム広告を嫌うビリビリの文化

ビリビリがインストリーム広告を使わない理由は単純だ。ビリビリは、2009年に初音ミクの動画を共有する場所MikuFansとして始まったのがそもそもだ。その後、ACG(アニメ、コミック、ゲーム)に特化した動画共有サイトとして人気が出て行ったが、その人気の理由は、違法共有だった。そのため、広告など取りようがなかったのだ。現在では、権利処理をきちんと行うようになっているが、当時のまま、現在でも広告を表示しない。

2014年には、権利者から正式に動画を購入するようになったが、それでも永久にインストリーム広告を表示しないことを宣言している。

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▲2014年にビリビリは、視聴体験のじゃまになるインストリーム広告を永遠に使わないことを宣言している。

 

広告を表示したところ、炎上騒ぎに

しかし、ビリビリもインストリーム広告に挑戦したことがある。2016年に、「Re:ゼロから始める異世界生活」などのアニメ番組を購入して放映した時に、権利者からの要望でトレイラー広告を再生前に表示した。しかし、視聴者たちが「約束が違う」と大炎上し、結局、ビリビリは問題のアニメ番組を削除する騒ぎになっている。

しかし、この広告を再生しないというのは、視聴者にとっては快適な体験となるが、ビリビリにとっては収入を得る道を塞いでしまうことになる。YouTubeは90%が広告収入で、中国の愛奇芸も20%が広告収入になっている。

 

広告動画を配信して広告収入を確保

ところがビリビリは広告収入がゼロではない。2019年の広告収入は9.107億元(約144億円)で、前年から76%も増加している。2020Q2は新型コロナ感染拡大の影響もあり、広告収入は四半期で3.5億元(約55億円)となり、昨年同時期から108%も増加と倍増している。

ビリビリが広告ビジネスをしていないわけではない。広告主が制作した広告動画を「おすすめ」に広告という表示をして掲載している。また、up主が自分の広告ページにバナー広告を貼ることもできるようになっている。

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▲動画一覧のおすすめのコーナーの先頭には、その人の視聴履歴に基づいて、広告動画が表示される。

 

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▲右側にはup主が広告バナーを貼ることができる。これもup主とビリビリの収入になる。

 

up主にご飯を食べさせてあげなくちゃね!

しかし、ビリビリ独特なのが、広告主とup主をつなぐビジネスだ。今年5月、ケンタッキーはオリジナルチキンのプロモーションとして、ビリビリのup主「翔翔大作戦」「兎叭咯」などにオリジナルチキンを使った動画を制作させ公開するということを行った。元々が人気up主であり、ケンタッキー側で、自社の商品の購買層とup主のファン層の重なりを調べて依頼をしているため、広告効果は高い。

視聴者にしてみれば、人気のup主がお金をもらって商品を宣伝する内容になるため、反発もある。しかし、多くのup主が内容を工夫する。例えば、兎叭咯は科学的な解説動画をアップして人気になっているup主だ。ケンタッキーの依頼を受けて、ケンタッキーの歴史をたどる解説動画を作成して、他の動画と同じように興味が持てるものにしている。

視聴者の反応は概ね好評のようだ。再生回数は40万回を超えている。いいねは3.5万、よくないは4800程度だ。弾幕の内容を見ても、サブカルサイトなので素直な言葉ではなく、「ご飯を食べさせてやれ」という言葉が目立つ。これはお金をもらって広告動画を作ったことに対する批判の意味合いもあるが、同時に、「仕方ないよね、up主もご飯を食べていかなきゃね」という消極的同意のニュアンスもある。

 

https://www.bilibili.com/video/BV13Z4y147Dd

▲ケンタッキーの依頼を受けて製作した兎叭咯の動画。兎叭咯の他の科学解説動画と同じノリで、ケンタッキーの歴史が解説されている。

 

広告主とup主を結ぶビリビリ独特の仕組み

ビリビリは今年2020年8月に「ビリビリ花火」というプラットフォームを開設した。これは広告を出したい企業とup主を結びつけるプラットフォームだ。企業側が自社のプロモーションに会うup主を登録して、広告動画制作の依頼ができる。一方、up主は企業に対して動画制作の提案ができる。こうして双方の意思が合致すると、実際に動画が作成され、広告主が支払った報酬の5%がビリビリのものになるという仕組みだ。

ビリビリは出自が、違法配信ということもあり、広告ビジネスが展開しづらかった。しかし、それが誰もが邪魔に感じている動画広告を導入させず、その代わりに、さまざまな広告手法を考案することになっている。ビリビリの中には広告動画や広告バナーもあるが、嫌な人は無視をすればいい。無視できず強制的に見なければならない動画広告は存在しない。多くの人が、最も快適な動画共有サイトはビリビリと口を揃える理由になっている。

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▲ビリビリ花火のサイト。up主と広告主を結びつけて、広告動画を配信してもらうためのプラットフォーム。up主に対する報酬の5%がビリビリの収入となる。