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若くて経験不足だからこそ成功したTik Tok開発チーム

ショートムービー共有プラットフォーム「Tik Tok」は、中国では1日のアクティブユーザー数が2.5億人を超え、もはやダンス映像だけでなく、動画共有プラットフォームに成長している。このTik Tokを開発したのは、まだ若く、経験もまるでない素人集団だった。経験不足だからこそ、正解はユーザーに聞くしかなく、その真摯な姿勢こそがTik Tokを成功させたと字節范児が報じた。

 

経験不足のチームが作ったTik Tok

15秒という短い時間に何ができるか。文字を打つなら10文字、歩くなら20m、文字を読むなら100字でしかない。しかし、Tik Tokであれば、ムービーを1本見ることができる。

Tik Tokは、2018年に中国でブレイクし、現在1日あたりのアクティブユーザー数は2.5億人に達している。さらに、日本、韓国を始めとする海外でもブレイクし、150の国と地域のアプリストアでランキング入りをしている。

しかし、Tik Tokの開発チームは、決して経験豊富ではなかった。わずか10人足らずのチームで開発が始まり、プロデューサーは初めてのプロデュース業務であり、チーフデザイナーは初めてのチーフ業務だった。コーディングは、業務経験のない学生インターンが行なった。「経験が少なすぎる」。それが最初のチームリーダーのチームに対する評価だった。

2016年中頃から開発が始まって1年余り、最初のTik Tokがリリースされた時でも、チームのメンバーは13人にすぎなかった。この時に撮影された記念写真がある。この13人のメンバーは、現在でも一人も離職をしていないという。結束力だけがこのチームの強さだった。

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▲Tik Tokの開発チーム。全員が経験不足だった。しかし、結束力は強く、立ち上げメンバーは1人もまだ離職していない。

 

突然、呼び出しを受けたインターン学生たち

小安は、2014年の大学2年生の時にバイトダンス社でインターン実習をしたことがあった。2016年大学4年になって、就職活動を始めた頃、バイトダンスの王暁蔚から電話がかかってきた。「新しいプロジェクトを始めようと思っている。話を聞きにこないか?」というものだった。

王暁蔚は、バイトダンス社の主力製品であったニュースアプリ「今日頭条」のワールドカップキャンペーンの仕事を終えたばかりで、音楽のショートムービーをテーマにした新規事業を始めるため、スタッフを集めている最中だった。

 

バイトダンスが目論む「テキスト」「画像」「動画」の3領域

バイトダンスは、創業当初から「テキスト」「画像」「動画」の領域でサービスを展開することを目論んでいたが、当時は大画面スマホがまだ普及してなく、パケット通信料も割高であったため、動画サービスの開発は見送られていた。しかし、2016年になると、にわかに動画共有サービスが次々と登場してきていた。「快手」などは地方都市を中心に1日のアクティブユーザーが数千万人というブレイクをしていたし、上海のスタートアップが開発した音楽ムービー共有サービスmusical.lyは米国でヒットしていた。

 

縦長動画、再生ボタンもない常識破りのTik Tokコンセプトモデル

バイトダンスを訪れた小安が見せられたのは、後のTik Tokのコンセプトモデルだった。「大画面スマホでアプリを起動すると、画面いっぱいの動画が勝手に再生されます。なんだこれはと。こんなの見たことないと驚きました」。

当時の動画の常識は、テレビと同じ横長の画面が表示されて、再生ボタンを押さないと動画が始まらない。それからスマホを横向きに持ち替えて見るというものだった。ところが、Tik Tokのコンセプトモデルは、縦長の画面いっぱいに表示される動画が、何もしなくても次々と再生されていく。

 

焼肉屋で結成されたチームは、誰もが未経験

その後、小安は王暁蔚に連れられて、会社近くの焼肉屋で食事をし、そこで他のメンバーに紹介された。プロデューサーの張禕はエクストリームスポーツが好きで、週末になると山野をバイクで走り回っているような男だ。プロデューサーの経験はなかった。コンテンツ運営の佳靚は、マイナー音楽に詳しかったが、学生インターンを経て正式入社したばかりで、自分が何の仕事をするのかすらよくわかっていなかった。ユーザー運営の李簡は、大学生の時に人気となった中国版ユーチューバーだったが、仕事をした経験はなかった。

 

若者にとっては、1分動画も長すぎて退屈

チームは当時市場に出回っていた動画関係のアプリ、ソフト100点を集めて、評価をすることから始めた。すると、ショートムービーを売りにしているものでも5分や1分というものはあったが、15秒というものはない。若者、特に大都市の95年代生まれ(20歳前後)は15秒ショートムービーを受け入れてくれるのではないかと思われた。

それを確かめるため、近所の中学生、高校生を会議室に集めて、自分たちのコンセプトモデルを見せて、意見を聞いていった。すると、若者たちは動画の時間は短い方を好むばかりでなく、1分以上の動画には退屈さを感じていることなどが浮かびあがってきた。

 

できあがったβ版は、無残な仕上がり

しかし、経験のないチームであったため、β版が完成したが、その内容は悲惨だった。そもそも起動しない。うまく起動しても、映像と音声がずれる。それはわずか2、300ミリ秒程度のことだったが、リップシンクをするTik Tokでは、大きな違和感につながる。チームの友人たちにアカウントを作ってもらったが、ほとんど誰も投稿してくれない。投稿動画がないので、バグ出しも進まないという八方塞がりの状態だった。

それからは、修正しなければならないバグリストが短くなることはなかった。全員でバグを潰しても、その間に新たなバグが見つかってリストがどんどん長くなっていく。深夜2時まで仕事をするのが当たり前だったが、もはや、その時間に帰れることもほとんどなくなっていった。

しかも、小安にとってつらかったのは、面白い動画を自分たちも考えることができなかったし、テストユーザーたちの投稿する動画もありきたりのものでしかなかったことだ。どこかで見たことがあるようなPVの真似にしかすぎない。こんなに苦労をして開発しているのに、果たしてTik Tokは面白いショートムービープラットフォームになるのだろうかと不安は大きくなるばかりだった。

 

ユーザーを信じて生まれたヒットダンス

その状況の中でも、リーダーの王暁蔚は「自分たちのユーザーを信じろ」と言い続けていた。ユーザーが望んでいるものを作り続ければ、ユーザーは必ず応えてくれると言い続けていた。

王暁蔚のその言葉通りのことが起こった。テストユーザーの「劉西籽」が投稿したスクラブダンスがチームとテストユーザーの間で大受けをしたのだ。いわゆる手振りダンスで、腕を水平に起き、もう片方の拳をその腕の上下から突き出すという動作が特徴的で、中国では「垢すりダンス」と呼ばれている。

このスクラブダンスはテストユーザーがすぐに真似をし出して拡散した。難しいダンスではなく、1回見れば誰でも真似ができそうなほどに簡単なことが素晴らしかった。

開発チームは、これこそTik Tokの進むべき方向だと確信した。王暁蔚の言葉通り、ユーザーがTik Tokの方向性を指し示してくれたのだ。


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▲Tik Tok成功の要因となった手振りダンス。開発チームが作ったものではなく、ユーザーの中から生まれてきた流行だった。

 

ユーザーの拡散を加速するのがチームの仕事

チームは、このスクラブダンスの15秒の映像をあちこちの動画共有サイトに投稿し、スクラブダンスが拡散し始めた頃を見計らって、2017年2月、Tik Tokを正式リリースした。すぐにTik Tokを使って、スクラブダンスの映像を投稿する人たちが殺到した。5月には、1日あたりのアクティブユーザーが100万人を突破して、早くもチームの目標が達成された。

それ以来、現在のアクティブユーザー2.5億人になるまで、チームがやってきたことは「ユーザーを信じる」ということだった。どのようなダンス映像が流行るのか、どのような映像が拡散するのか、チームが決めるのではなく、すべてユーザーが生み出し、ユーザーが拡散をする。チームは、その小さな拡散を素早く発見して、他のユーザーにリコメンドする作業に集中している。そのため、Tik Tokは、常に新しい流行が起きていると感じられるプラットフォームになっている。

 

経験不足だから、正解はユーザーに聞くしかない

なぜ、ユーザーの気持ちに寄り添えるプラットフォームが作れたのか。メンバーは全員が「若くて経験がなかったから」と答える。経験がなかったから、答えはユーザーに教えてもらうしかない。そのユーザーの声に真摯に耳を傾けてきたのが成功の理由だと考えている。

Tik Tokは、今、グローバルでの流行を狙っている。アジア圏ではすでに流行し、定着をしたが、欧米圏ではまだこれからだ。バイトダンスの張一鳴CEOは、創業6周年のお祝いの席上で、こう述べた。「グローバル化という線路を走るには、機関車を大きく改造する必要がある。しかし、走りながら改造しなければならなず、速度を落としてもならず、前に進みながら改造しなければならない」。

グローバル展開の経験のないTik Tokチームは、再び未経験のことに挑戦をしている。