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ビッグデータを活用して、バス路線の最適化を始めた杭州市

浙江省杭州市は、ビッグデータを活用して、バス路線を最適化する事業に着手し、その最初の路線の運行が始まった。データ分析をしてみると、従来のバス路線設計の常識とはまったく違った結果も生まれている。今後、杭州市のバス路線は、ビッグデータを活用して改善がされていくことになると杭州網が報じた。

 

スマホ乗車で詳細データを収集

ビッグデータを活用して路線の最適化が行われたのは、杭州市の345路。地下鉄郊外駅の彭埠(ポンブー)駅と郊外の町、天都城(ティエンドゥーチャン)を結ぶ。

以前から、NFC交通カードが使われているため、各バス停での乗車客数(降車客数はカード処理をしないのでわからない)、乗車時間などはデータ化されていた。しかし、杭州市は全国に先駆けて、交通カードのスマホ化、スマホ決済アリペイによるQRコード支払いへの対応を進めてきた。

これにより、乗降客の年齢、性別、住居地、職業などの属性データ、また、GPSデータを追跡することにより、バス乗車前後の行動までもがわかるようになった。今回、どのデータが活用されたかは報道では明らかにされていないが、「住居地からバス停までの歩行距離を最適化する」試みが行われているので、住居地データは活用されたものだと思われる。

決済だけを考えると、利用者にとってはNFCカードもスマホ決済も大きな差はないが、得られるデータの広がりはまったく違う。杭州市が交通カードのスマホ化を進めてきたのは、こういったビッグデータを路線計画の改善に利用する狙いがあった。

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NFCカード用とQRコード用の2つのリーダーがある杭州市のバス。QRコードは反応速度が遅く、交通用には不向きという声もあるが、スマホ乗車にすると利用者の属性や前後の行動など詳細なデータが得られる。

 

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スマホ乗車により描きだされたこの地域の移動マップ。杭州市はビッグデータによりバス路線を最適化する目的で、スマホ乗車を全国に先駆けて導入してきた。

 

周辺環境が大きく変わった345路バス路線

杭州市が345路の改善に最初に着手をしたのは、この路線の沿線環境が大きく変わったからだ。以前は、筧橋バスターミナルと郊外の町である天都城を結ぶローカル路線で、途中はほとんどが農地だった。ところが、この農地が再開発をされ、大型のマンション群が点在をし始めた。乗客数が大きく増えただけでなく、ローカル路線から通勤路線へ根本的な改良をしなければ、利用者のニーズを満たすことができなくなっていたからだ。

マンション住人は、以前は345路で終着の筧橋までいき、そこからバスを乗り換えて杭州市内や地下鉄駅などにアクセスしていた。今回、345路を地下鉄彭埠駅まで延長することで、直接地下鉄にアクセスできるようになった。

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▲天都城のバス停。以前は乗客も少ないローカル路線だった。しかし、沿線にマンション群が建ち始め、周辺環境は大きく変わった。

 

バス停は等間隔にする必要はない

最も大きな改善は、バス停間の間隔だった。それまでのバス停の考え方は、「700mから800m程度の等間隔に設置をする」というもの。等間隔に設置することで、利用者の多くが最短距離でバス停に歩いていけるようになるという考え方だった。

ところがビッグデータを活用して、「乗客全員のバス停までの歩行距離累計を最小化する」バス停配置を探ったところ、2kmほどバス停がない区間が何ヶ所か生まれた。

この部分は、農地であってほとんど民家がないか、あるいは他のバス路線があるために345路を利用する人が極端に少ない区間なのだ。

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▲地下鉄の駅まで延伸され生まれ変わった345路。バス停間隔が長いところが何箇所かある。ここで遅れを取り戻して定時運行率を上げる。

 

迂回ルートで乗客の平均歩行距離を最短化する

逆にバス停を増設した箇所もある。この不思議な三角方式の迂回は、以前は東西の幹線道路を直行し、そこにバス停が設けられていた。しかし、三角部分の内側と東側は大規模マンション群で、多くの人が345路を通勤に利用している。そのため、わざわざ迂回をしてバス停を2つ作ることで、この地域の人の平均歩行距離は、550mも短くなった。歩行時間にして7分程度の短縮となる。

この迂回によるバスの遅延は2分から3分程度で、定時運行に大きな影響はないという。

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▲以前は、東西に走る幹線道路を直行していた。それを三角状に迂回し、バス停を設置した。グレーの部分は大規模マンション群であるため、乗客の歩行距離が最短化された。

 

運行時間短縮ではなく、定時運行率を高めるのが目的

このような最適化を行うのは、到着時間の短縮が目的ではない。以前は約40分で運行していたが、地下鉄駅まで延伸しても約50分で運行をしている。運行時間を短くしても、利用者の利便性は向上しない。50分かかるところを45分にしたところであまり意味はない。

それよりは定時運行率をあげてもらう方が利用者にとっては好ましい。定時運行率が上がれば、到着時間が読めるようになるからだ。

バス停を最適配置することで、バス停間隔が空いた区間は、遅れを取り戻すのに絶好の区間となる。また、バス停を最適配置することにより、乗降客数の偏りが生まれづらくなり、多人数が乗降するために遅延をするということも少なくなる。バスは余裕を持って走行することができるようになり、定時運行率が高まるのだ。

 

時間がかかるバス路線の最適化

345路とほぼ同じ地域には他のバス路線もある。345路が最適化されたことで、今度は他のバス路線にも影響が出てくる。当然、他の路線も345路と同じようにして、ビッグデータを使い最適化をしていく。他路線が改善されれば、再び345路にも影響が出ていく。そういう最適化サイクルを回していくことになる。

それでもバス路線の変更には時間がかかる。杭州市公共交通クラウド科技の丁志強副総裁は、杭州網の取材に応えた。「データの収集は最低でも半年以上はしなければなりません。それから分析と設計に3ヶ月。その案を各方面、沿線住民に提示をして意見を聞き、調整するのに8ヶ月から9ヶ月かかります」。つまり、最短でも1年半はかかってしまうのだ。杭州市の場合、データ収集はすでに始まっているので、すぐに分析設計に入れたとしても1年以上はかかる。

このビッグデータによるバス路線の最適化が全市に及ぶまでには相当な時間がかかりそうだ。杭州市は、昨年の運賃支払いスマホ対応をした時から、バス路線を最適化する遠大なプロジェクトに取り組んでいる。

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▲この地域には、345路の他にも3路線が絡み合いながら走っている。345路の最適化により、他の路線も影響を受けるので、順次最適化をしていくことになる。