どの国でも試みられているコーヒーや軽食のドローン配送。しかし、都市部では墜落リスクがあるために、なかなか正式運用ができない。中国スタートアップ「迅蟻ネット」は、墜落リスクの少ない山間部や孤島の郵便物からドローン配送を始め、いよいよ都市近郊でスターバックスなどの軽食の配送を始めたと浙江工人日報が報じた。
スタバやケンタッキーの軽食は空からお届け
浙江省杭州市西部にあるスタートアップパーク「夢想小鎮」のスターバックスでは、コーヒーのドローン配送が始まっている。スマートフォンによる注文から配達まで約20分。朝9時から夕方5時まで利用でき、8杯までのコーヒーが注文でき、配送料は1杯3元(約50円)だ。
この他、ケンタッキーや貢茶、吉祥饂飩などのファストフード店がドローン配送に対応している。
▲杭州市のスタートアップパーク「夢想小鎮」のスターバックスでは、コーヒーの配達をドローンで行っている。
山間部、孤島など墜落リスクのない場所で実績を積む
ドローンの飛行技術はすでに成熟をしている。しかし、それでも、「万が一墜落をした場合どうするのか」という問題がある。荷物とドローンを失うだけであればまだしも、地上の建築物に損害を与えたり、最悪なのは人に損害を与える心配だ。
夢想小鎮がこの問題をクリアして、ドローン配送を始められたのには、3つ理由があるという。
ひとつは夢想小鎮が、杭州市西郊外にある新開発区であるという点だ。周囲は人家がほとんどなく、利用していない土地が広がっている。夢想小鎮内にしか人がいないので、異常飛行が発生したドローンは、パーク外に誘導することで、最悪の事態が避けられる環境にある。
また、浙江省地域は、運河のある街が多く、夢想小鎮も例外ではない。そこで、飛行ルートの大半を運河の上を飛ぶように設定している。万が一墜落した場合でも、損害を与えるリスクを最小限にすることができる。
3つ目が、このドローン配送を行うスタートアップ「迅蟻ネット」(シュンイー)の実績だ。迅蟻は3年前に創業されたスタートアップだが、すでに郵便、宅配、出前、医薬品などのドローン配送を行っている。しかも、実験運行、試験運行ではなく、固定路線を設定した営業運行を始めている。
この実績が買われて、スタートアップパークという人が多い場所でのドローン配送が許可されることになった。
▲利用者のアプリに表示される飛行ルート。飛行ルートの多くは川。川の上を飛ぶことで、万が一の墜落リスクを最小限にしている。
無人カートよりは無人ドローン
2015年、現CEOの章磊(ジャン・レイ)が、ドローン配送を行う「迅蟻ネット」を創業した時、ドローン配送は将来有望なビジネスと思われていたものの、現実には、墜落した場合の保障リスクが高いとも見られていて、投資資金はまるで集まらなかった。「起業する前は、リスクを回避するため無人カートによる配送を考えていましたが、どう調べてみても、無人カートでは黒字化できる気がしませんでした」。
ドローン配送に対する理解が次第に深まっていくのを感じた章磊は、ドローン配送に資源を集中して辛抱強く待った。そして、2016年4月、100万ドル(約1億1000万円)のエンジェル投資を獲得して、ようやく本格的な開発ができるようになった。
山と海。ドローン配送による効果が大きなところから着手
迅蟻マーケティング部の余顕朗(ユ・シエンラン)総監は、浙江工人日報の取材に応えた。「当初は、奥深い山地や孤島での配送を行うことから始めました」。リスクの大きい都市部を避けて、実績を積もうと考えたのだ。
エンジェル投資を受けた迅蟻は、すぐに浙江省の安吉に、郵便配送の固定ドローン路線を開設した。10.5kmのルートを山地を、郵便物が小包を乗せて、約15分で配送し、市街地の配送拠点と山間の村の配送拠点を結ぶ。
この郵便配送ルートは、すでに浙江省、四川省、貴州省、福建省、陝西省、江蘇省、安徽省、河北省、内モンゴルなどの数百路線に広がり、約50台のドローンがこの路線を日中ほとんど休みなく飛び回っている。
また、昨年10月には、福建省莆田市と湄州島の間の郵便配送路線を開設。中国で初めて、海を越えるドローン配送路線となった。
▲ドローンが運ぶパッケージ。意外にラフな入れ方だが、特に問題は起きていないという。
▲発着スポットで飛行を待つドローン。届け先のオフィスビルにも発着スポットが設置され、そこに自動的に飛行をし、荷物を切り離し、戻ってくる。
農村から都市を包囲する戦略
迅蟻はこのような墜落をしてもリスクが少ない場所での営業運行を重ね、ドローン運行のノウハウを磨き上げてきた。余顕朗総監は言う。「2年前、ドローンの発着スポットは直径3mほどが必要でした。現在では直径1mで十分になっています。さらに現在では、積載重量は7kgで最大航行距離30kmに達しています」。
こうして技術を磨きながら、人口密度の小さい山間地や海で実績を重ね、次は郊外に建設されたスタートアップパークのような場所で運用をする。このようにして、次第に人口密度の高い場所までカバーしていき、最終的には市街地までカバーをしたいという。
▲迅蟻の公式ビデオ。ここでは夢想小鎮でケンタッキーの軽食を届ける映像が紹介されている。飛行時間は約6分。配達先スポットには、けっこうラフな置き方をするが、特に問題は起きていないという。
都市部では無人カートを組み合わせることも
今年4月、浙江大学医学院付属第二医院と提携して、緊急時に医薬品をドローン配送する救急医療モデル地区の実証実験も始めた。ドローンは操縦をするのではなく、ルート設定をするだけで自動的に飛行してくれるのが最大の利点だ。ルート設定は、スマートフォンからカーナビを設定する感覚で行うことができるので、専門家がいなくても救急隊員などもわずかな研修でドローン配送を利用できるようになる。
迅蟻は「ドローン配送の企業ではない」と言う。企業のミッションは「短距離物流を効率化して、生活利便性を高めること」だと言う。そのため、現在はドローン配送を中心にしているが、都市中心部では安全性を考慮して無人カートによる配送を組み合わせることも考えている。
わずか3年で、夢の技術は現実の技術に
なお、現在まで、ドローン機不調により、飛行中止、緊急着陸などの事態は何件が起きているが、墜落は一度もなく、地上の建築物や人に損害を与えたことはないという。
迅蟻が起業してわずか3年。いつまでも試験飛行を繰り返すのではなく、リスクが少ない場所を選んで、いち早く営業運行を始め、リスクと技術のバランスを見ながら、都市周辺部までたどり着いた。
ドローン配送はもはや「夢の技術」ではなくなって「現実の技術」になっている。
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