中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

IT化がようやく進み始めた中国の病院。投資家の狙いは健康スコア

先進国に比べて遅れていると言われている中国の医療。ようやくIT技術を導入し、前に進み始めた病院が現れるようになったと南方網が報じた。

 

問題の多かった中国の医療

中国の病院と言えば、つい最近までお世辞にも先進国とは言えない状態だった。日本の外務省の海外安全情報でも、都市部の病院の状況は良好としながらも、地方都市や農村部では「衛生状態も悪く、本来治療の必要がないような比較的軽い病気でも死亡例の報告が見られます」と怖いことが書いてある。

問題は、中国の医療はビジネスだということだ。そのため、回収リスクを避けるため、医療費を先払いする習慣になっている。治療後、過不足の清算が行われるが、商売上、預かった医療費を使い切るために、不必要な検査をし、不必要な薬を出すことが常態化している。

そこで多くの人が、信頼できる一部の病院に殺到し、治療を受けるために長い時間並ばなければならないということになっている。

 

毎日2000組の受付をする医療ロボット「小易」

医療関係者もこの状態をよしとしているわけではない。ITや人工知能の技術を活用して、さまざまな改革が病院で行われ始めている。

深圳市の北京大学病院には、「小易」という名前のロボットがロビーにいる。目の前に立つと、「こんにちは、僕は医療ロボットです。どんな御用でしょう」と言う。胸の部分にはタッチパネルがつけられていて、簡単な問診の質問が表示される。これに答えていくと「小児科に行ってください」と答え、小児科の受付が行われる。北京大学深圳病院の李粉玲看護副主任は、南方網の取材に応えた。「ロボットはどこの科にいけばいいかを答えるだけでなく、行き方の案内もします。問診内容はドクターに伝えられます。患者さんが複雑な状況を抱えていて、ロボットで対応できない場合は、問診カウンターにいくような指示が出ます」。

この案内ロボットはすでに活躍していて、3台のロボットが毎日2000組の患者の案内をしている。

李粉玲看護副主任は言う。「病院全体の案内業務は、1日1万件近くに登るのです。手際が悪く、複数の科にかかる患者さんの問診を1回で済ませられない、連絡ミスにより同じ患者さんに同じ内容の問診を行うということが日常化していました。ロボット導入により、このような無駄がほとんどなくなりました」。

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北京大学深圳病院のロビーに配置された受付ロボット。簡単な問診に答えると、行くべき科が案内され、受付も済ませられる。

 

人工知能が早期癌を4秒で診断

深圳市中病院では、テンセントが開発した人工知能による画像解析診断を利用している。胃カメラによる撮影写真を解析することで、4秒で胃がんの可能性があるかどうかが判断される。同病院の胃カメラセンターの郭紹挙主任は南方網の取材に応えた。「以前は、中期、後期の食道がんはすぐに診断できましたが、早期癌の疑いの診断が問題でした。診断には時間がかかっていたのです」。

現在のシステムの正答率は90%以上で、早期癌の疑いがあった場合は、すぐに精密な医療検査をする。見逃しがほとんどゼロになったことがなによりも大きいという。

このシステムは、深圳市南山区人民病院でも使われている。

 

大好評のスマホ予約システム

中国でお産をするのは非常に手間がかかる。検査の回数が多く、毎回、行列に並んで長時間待たなくてはならないからだ。特に産科は待たされることが多く、利用者からの不満も大きかった。

そこで、宝安区婦幼保健院では、顔認証による予約システムを導入した。必要な検査のスケジュールがスマホに表示され、予約をすることができる。予約をしておけば、2階にあるキヨスク端末に顔を見せるだけで顔認識により受付が済む。宝安区婦幼保健院の看護師は南方網の取材に応えた。「この端末に妊婦さんの顔写真が保存され、以降は顔認証だけで受付が済むようになります。予約もできるので、長い時間待たされることはなくなります」。

顔認証で受付をすると、端末からQRコードが印刷されたレシートが出てくる。ロビーには血圧計や体重計などなどが用意してあるので、待っている間に自分で測定をし、QRコードをかざすと、測定値が自動的に電子カルテに入力される。「看護師の作業負担を減らすだけでなく、妊婦さんに自分の健康状態をより意識してもらえるようになりました」。

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▲宝安区婦幼保健院では、スマホでの受付システムを導入した。血圧などは自分で測定し、スマホのアプリに自動記録される。

 

処方薬もクラウドチェック、配送は自動運転カート

北京大学深圳病院では、薬の処方にもIT技術が活用されている。医師が処方した薬はクラウド上で検査がされ、薬の組み合わせ、分量などに問題がある場合は、薬剤師側に警告が表示される。薬剤師は内容を検査して、医師に確認をする。通常ではない処方が、誤りなのか、意図的なものであるかが、そこではっきりとする。

処方された薬は小さなボックスに入れられ、QRコードがつき、ネットで追跡管理される。病室へは、自動運転のカートが薬を届ける。1台のカートで約10人分の薬を届けることができ、1人の看護師が同時に3台から4台のカートを操作して、薬を配っていけるという。

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▲薬剤関連もIT化され、処方ミスのチェックがクラウド上で行われる。薬の配達は無人カートで行われる。

 

スマート点滴などのIoT化も進む

この病院ではスマート点滴容器も使っている。点滴容器内の残量が5ml以下になると、看護師が携帯しているPDAにアラートが表示される。北京大学深圳病院の脊柱外科孫咏梅看護副主任は南方網の取材に応えた。「以前は、交換する必要のある点滴があるかを確かめるため、必要がなくても病室を巡回していました。このシステムが導入され、必要な時だけ病室に行けばよくなりました。看護師の作業負担が軽くなり、ミスが減っています。患者さんへの対応にも余裕が出てきています」。

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▲点滴容器もIoT化され、残りが少なくなると、看護師が携帯しているPDAにアラートが飛ぶ。

 

注目される電子カルテによる健康スコアビジネス

中国の病院は積極的にIT技術を使おうとし始めている。と言っても、まだまだ導入段階で、日本の先端的な病院の方が、IT活用ははるかに進んでいる。

しかし、IT系の投資家たちは医療分野の成長を期待している。それは、宝安区婦幼保健院のように、スマートフォン、IoT機器との連携が始まろうとしているからだ。単なる予約システムだけではなく、電子カルテクラウド化して、複数の病院で共有できるようにし、そこにスマホから得られる日常情報(食事、睡眠、排便、移動量など)を使い、個人の健康スコアのようなものが利用できるようになるからだ。

この健康スコアが可視化できるようになれば、保険、健康食品、スポーツ関連などさまざまなビジネスが生まれてくることになる。

先進国では電子カルテは、高度なプライバシー情報であるために、扱いには極めて慎重だが、中国はそのハードルがとても低い。この分野で、中国のIT産業が再び成長をする可能性は十二分にあると考えておいた方がよさそうだ。

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