中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

進化が止まらないライブコマース。自動車、マンション、ザリガニまでも

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 040が発行になります。

 

日本でもライブコマースがだんだんと増えてきました。手軽に体験できるものでは、ヤフーショッピングのライブコマースなどがあります。その他、専用のサービスも続々と登場しています。

しかし、中国と日本のライブコマースは印象が大きく違います。中国のライブコマースは、「淘宝」(タオバオ)、Tik Tok、快手の3つが主なプラットフォームです。このうちの快手(kuaishou)は、日本のアプリストアからもダウンロードでき、ライブコマースも視聴することができます(残念ながら商品の購入はできません)。見比べてみると、違いが見えてくると思います。

 

日本のライブコマースは、番組として洗練されているように思えます。出演者は、芸能人や著名インフルエンサーであることが多く、テレビ番組の通販番組のフォーマットに沿っているように思います。ショップの店長、スタッフが出演をしているケースもありますが、みなさん、ルックスもよく、話も流暢です。

一方で、中国のライブコマースのほとんどは、ショップの店長、スタッフという素人で、話も決して流暢ではありません。多くの場合、商品をなんとか売ろうと必死で、早口で話し、笑顔も少なく、笑顔があっても目が真剣で、日本人の感覚からすると少し怖く感じるかもしれません。接客態度も洗練されてなく、視聴者が少ないと、ライブ配信を止めずに、麺を食べたり、お菓子を食べ始める配信主もいるほどです。

しかし、これがリアルなのです。まさに、中国の商店街であちこちのお店を覗いている雰囲気そのままなのです。中国のライブコマースは、春節休みという一年でいちばん楽しい時期にコロナ禍で外出を自粛せざるを得ない、場合によっては強制的に外出が禁じられるという状況の中で爆発的な人気を得ました。春節は、都市に出稼ぎに行っている家族も戻り、一家が一緒に休みを楽しめる貴重な休暇です。家でごろごろしたり、近所の新年の模様し物を見物したり、家族でぶらぶら買い物に行ったりする時期です。その時に、スマートフォンで、買い物をしているのに近いリアルな体験ができるライブコマースに人気が集まりました。家族で一緒にライブコマースを楽しむということも結構あるということです。

 

もうひとつ大きく違うのが、ライブコマースの位置付けです。日本のライブコマースは、実体店舗のある小売チェーンやEC店舗が付加機能としてライブコマースを行っているケースが多いように思います。

一方で、中国でも、大手の小売チェーンはそのような使い方をすることもありますが、多くはライブコマースのみで勝負をしています。ですからみな真剣そのものです。雰囲気としては、映画「フーテンの寅さん」に登場する啖呵バイのデジタル版と言った方が近いかもしれません。

 

ライブコマースの配信数も圧倒的です。夕食が終わってから、夜寝るまでのだいたい午後7時頃から、深夜1時ぐらいまでがライブコマースのゴールデンタイムで、この時間は無数の配信が行われています。面白いそうなものを選んで、合わなければ次、合わなければ次とやっていると、それだけで賑やかな商店街を歩いている気分にさせてくれます。

売っているものは、化粧品、服飾品、食品がいちばん多いというのは、日本と同じですが、販売商品はどんどん拡大をして、中古車、生きているザリガニ、ペット、コスプレ用品、家具なども目立つようになりました。また、面白いのはオンライン講座のライブコマースもあります。かなり内容のしっかりとしたオンライン講座で、授業料も決して安くはないものの、一部を見せながら、ライブコマースで入会者を募るというものです。さらにクラウド旅行も人気になっています。現地スタッフが観光地からライブコマースをし、施設のチケットやホテルなどをその場で販売するというものです。

商品バラエティが増えてきて、商店街やショッピングモール並みになってきたどころか、それ以上になってきているのです。

今回は、どんどん進化をするライブコマースが、中国でどのように活用されているのか、実例を交えながらご紹介します。

 

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利用者が一気に10倍。アリペイミニプログラムが中心化+分散化モデルでWeChatミニプログラムを追撃開始

WeChatが始めたミニプログラムが、飲食店、小売店、生活サービスなどの分野で重要なツールとなっている。一方で、追従するアリペイ、百度、Tik Tokなどは成果がなかなか上がらなかったが、アリペイミニプログラムの中から勢いのあるミニプログラムが現れ始めていると略大参考が報じた。

 

経済回復に大きく貢献しているWeChatミニプログラム

中国の経済が回復をしている。2020年Q1は-6.8%と大きく落ち込んだが、Q2には+3.2%と成長側に戻した。さらに「2020年下半期マクロ経済展望報告」(植信投資研究院)によると、Q3、Q4はそれぞれ7.0%、7.8%になると予測されている。

この経済の回復に寄与しているのがミニプログラムだ。ミニプログラムは、2016年にテンセントのWeChatが搭載した機能。WeChatの中からのみ利用できるウェブアプリだ。一般のネイティブアプリと比べて、インストールする必要がない、アカウント登録が必要ない(WeChatアカウントが使われる)、決済方式の設定が必要ない(WeChatペイが使われる)ということから、初めてのサービスでも気軽に利用することができる。

飲食店、小売店などが続々とミニプログラムを公開し、新規顧客を獲得するツールとして活用し、現在240万件以上のミニプログラムが公開されている。また、テンセントによると、2019年の1日あたりのアクティブユーザー数は3億人を突破し、ミニプログラム経由の流通総額は8000億元(約12.5兆円)を超えた。

 

成功例が生まれ始めたアリペイミニプログラム

この成功を見て、2017年には、アリババのアリペイ、百度、Tik Tokなどが追従してミニプログラムに対応をした。しかし、即速応用の調査によると、2019年末時点のアリペイミニプログラムは20万件、百度ミニプログラムは15万件と低迷をしている。

ところが、アリペイミニプログラムの中から成功例が生まれてくるようになった。その鍵は、トラフィックの中心化と分散化をいかにうまく組み合わせるかにあった。アリペイでは、この仕組みを「扶優計画」と名付け、1000件の「スーパーミニプログラム」を生み出すと宣言している。

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▲アリペイミニプログラムが始めた「扶優計画」。市民センターなどの生活基本サービスメニューに選ばれたサービスを登録することで、利用しやすくなり、利用率が大きく上がるミニプログラムが現れてきている。


ミニプログラムで利用者が一気に10倍以上

2015年、古着を回収するビジネス「白鯨魚」がスタートした。当時としては、一般的な手法で、ウェブを開設し、検索をしてきてくれるお客さんを待つというものだった。しかし、無名のサービスが検索だけに頼って、お客さんを待つのでは、なかなか利用者が増えない。

2018年になって、アリペイから話があって、アリペイミニプログラムを開発をし公開をした。すると、一気に20万人の利用者を獲得した。1日の利用者も以前は2、300人程度であったものが、一気に4、5000人に増え、週末には1万人を超えるようになった。

創業者の方暁東によると、「私たちのビジネスは、古着を回収して、それを東南アジアやアフリカに販売することで利益を得るというものです。しかし、海外の市場は未発達なので利益はものすごく小さい。以前は、回収にかかるコストも賄えないほどでした。しかし、アリペイミニプログラムにより、大量の顧客を獲得することができ、利益が得られる道筋が見えてきました」。

コロナ禍により、利用は落ち込んだが、終息後はV字回復をしている。6月になると、1日の利用者は1.5万人となり、最も落ち込んだ2月の75倍にもなっている。

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▲古着回収をする「白鯨魚」のアリペイミニプログラム。アリペイに取り上げられ、利用者は一気に10倍以上に増えた。

 

起業してすぐ成功できるアリペイミニプログラム

同じようにアリペイミニプログラムで業績を大きく伸ばしたのが、引越しサービスの「易豊搬家」だ。2012年に創業したが、2020年4月からアリペイミニプログラムを公開した。わずか1ヶ月で、日間アクティブユーザー数(DAU)は、1月の10倍になった。

アリペイによると、今年の1月から3月で、アリペイミニプログラムは25万件も増加をした。倍増したことになる。しかも、その多くが起業したばかり、開始したばかりの企業、サービスで、アリペイミニプログラムの爆発力を活かして、成功するところが続々と登場しているという。

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▲引越しサービスの「易豊搬家」も、市民センターの中に登録されることで、利用者が大きく伸びている。アリペイでは、優れたサービスをメニュー化することで、ミニプログラム利用を促していく。

 

分散モデルのWeChatミニプログラムでは無名企業は成功できない

WeChatミニプログラムが成功したのは、月間アクティブユーザー数(MAU)が10億人を超えるという圧倒的なトラフィックがあることだ。この人たちが、各サービスのミニプログラムを利用するため、1つあたりのミニプログラム利用者も大きくなる。人通りの多い賑やかな通りに店舗を出したのと同じ効果がある。このように、WeChatが集めた巨大なトラフィックを各ミニプログラムに分配する方式は、分散モデルと呼ばれている。

しかし、この分散モデルには、大きな弱点がある。それは、利用者がWeChatの中でサービス名を入力して検索しなければならないということだ。そのため、無名の起業したばかりのサービスでは、利用者が集められないという弱点がある。

ネイティブアプリが開発できるほど資力のある企業は、アプリやウェブ、ライブ配信というマルチチャンネルを用意して、ミニプログラムに誘導することもできる。ミニプログラムにはリンク、二次元コードなども用意されていて、ダイレクトにアクセスする方法が用意されているからだ。

しかし、資力のない企業は、開発経費がアプリの1/2程度と言われるミニプログラムしか用意することができない。ミニプログラムをメインの消費者チャンネルにした場合、どうやって見つけてもらうかが大きな問題になる。

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▲WeChatミニプログラムは、原則、名称を検索してアクセスするので、無名のサービスはなかなか利用されない。現在地近くに店舗があるミニプログラムを検索する「付近を検索する」がよく使われる。

 

中心化+分散化モデルで成功するアリペイミニプログラム

ところが、アリペイミニプログラムを利用した白鯨魚の場合、すぐにトラフィックの90%がアリペイミニプログラムからのものとなった。

なぜ、アリペイミニプログラムでは、利用者に馴染みのないサービスでもトラフィックを獲得できるのか。これはアリペイで「中心化+分散化」モデルと呼ばれている手法が大きく貢献している。

アリペイは、決済アプリに特化をしていて、決済に関連するさまざまな生活サービスがメニュー化されている。チケット購入、タクシー配車、ホテル予約、光熱費支払い、フードデリバリーなど、生活に関連するサービスのほとんどがメニュー化されており、そこからサービスを利用してアリペイ決済ができるようになっている。

アリペイが始めた「扶優計画」とは、サービスの内容や品質などを審査して、優秀と思われるミニプログラムを、このメニューに登録するというものだ。

例に挙げた「白鯨魚」や「易豊搬家」は、「市民センター」というメニュー項目の中に登録された。古着を処分したいと考えているが、白鯨魚のことを知らない利用者は、とりあえずアリペイの市民センターを開く。そこで白鯨魚を発見して利用するということになる。アリペイではこれを中心化と呼んでいる。アリペイが集めたトラフィックをメニューに中心化したミニプログラムに配分をしていくので、中心化+分散化モデルと呼んでいる。

つまり、WeChatのミニプログラムはグーグル検索のようなもので、無名なサービスにとっては浮上するまでに相当の努力をする必要がある。一方で、アリペイミニプログラムはYahoo!のようなリスティングサイトのようなもので、メニュー階層をたどっていけばサービスにたどり着けるので、無名のサービスでも早い成長が可能になる。

また、すべてのミニプログラムが中心化(メニュー登録)されるわけではなく、アリペイが優秀と認めたものだけなので、利用者は未知のサービスであっても安心をして利用することができる。

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▲市民センターの中の「環境公益」メニュー。この中の古着環境保全回収の項目に、白鯨魚が登録されている。この中心化により、白鯨魚の利用者が大きく伸びた。

 

アリペイミニプログラムが競争力をつけてきた

アリペイでは、この「中心化+分散化」モデルを使った「扶優計画」で、生活関連サービスの1000のミニプログラムを市民センターなどのメニューに登録をし、消費者にとっては生活サービスを利用しやすくし、企業にとっては無名であっても、サービスの質がよければアリペイの「扶優計画」により、大きく成長できる可能性がある。この扶優計画による中心化を行ったミニプログラムは、利用者数が平均で4倍以上になっており、MAUが1万を超えるミニプログラムが毎週100件ペースで生まれているという。

ミニプログラム全体では、先行したWeChatに分があるのは言うまでもない。後発となったアリペイは、少数精鋭で優れたサービスを採用して、アリペイ自身のサービスを拡充していくという道を選んだ。ミニプログラムを使った企業にもメリットがあり、それがアリペイのサービスそのものも充実させていく。アリペイは、中心化+分散化モデルで、WeChatとは違った形で競い合おうとしている。

 

次々と上場する伝統老舗「老字号」。伝統技術と現代技術の融合が成功の鍵

中国商務部が伝統老舗を認定する老字号制度。その老字号企業が、次々と上場をしている。しかし、伝統技術と現代技術を融合して、事業を拡大し、伝統を現代にまで継承する企業もあれば、拡大をして失敗をする伝統老舗もあると中国新聞網が報じた。

 

次々と上場をする伝統老舗「老字号」

中国には歴史のある小売業、製造業、ブランドを「老字号」として認定する制度がある。1956年以前に創業し、一定の条件を満たすと商務部に申請をすることができ、商務部の中華老字号振興発展委員会の審査を経て、承認されると、老字号を名乗ることができるようになる。

有名なところでは、杭州漢方薬製造「胡慶余堂」、北京の羊肉しゃぶしゃぶ「東来順」、漢方薬「同仁堂」、中国靴「内聯昇」などがある。いずれも、歴史のある料理店や工芸品を扱う製造小売業が多い。

いわゆる中国の歴史のある老舗だ。ところが最近になって、このような老字号が次々と上場をしている。

 

時代に合わせて変化した刀鍛冶「張小泉」

張小泉は、創業400年を超えるはさみの製造小売で、深圳証券取引所に上場をした。

張小泉の創業は明時代の1628年に遡ることができ、元々は刀鍛冶だった。それが清朝、民国から現在に至る中ではさみを主力製品とし、2006年に老字号の称号を取得した。

中国の刀鍛冶は「南に張小泉あり、中に曹正興あり、北に王麻子あり」と言われる3つが有名だ。しかし、1840年に創業した曹正興は1995年をピークに生産量が減少し、現在は生産を停止している。1651年に創業した北京王麻子は数年間の赤字が続き、2020年5月に広東の企業に買収され、広東王麻子という新しいブランドになった。

一方で、張小泉は好調だ。2017年から2019年の売上は、それぞれ3.36億元、4.03億元、4.80億元となり、利益は4890万元、4380万元、7230万元となっている。

張小泉が上場ができたのは、伝統技術だけにこだわるのではなく、積極的に新しい製造技術を取り入れ、その時代にあった製品を製造してきたからだ。現代生活の中でも使えるはさみ、ナイフ、包丁などを製造し、プロの料理人に支持をされている。ブランドの伝統と現代技術をうまく融合させている。

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▲張小泉は元々刀鍛冶だったが、ハサミや料理包丁、ナイフなど、伝統技術を活かして現代でも使われる製品を作ることで、上場企業になっている。

 

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▲創業400年を超える刃物メーカーの張小泉の最初の店舗(復元)。元々は刀鍛冶だったが、現在も刃物メーカーとして生き残り、プロの料理人に支持されている。

 

上場する中国茶、鶏肉、ちまきの老舗

1949年に創業した老字号「中国茶葉」は、上海証券取引所に上場した。中国茶としても最初の上場企業になる。2017年から2019年の売上は、それぞれ12.29億元、14.90億元、16.28億元。利益は1.81億元、1.45億元、1.66億元となる。

また、1692年に創業した鶏肉の「徳洲扒鶏」も上場準備に入っている。1921年に創業した中華ちまきの「五芳斎」は、アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)、カフェ「喜茶」などとコラボして、若者向けの味付けの中華ちまきを発売したり、中華ちまき味のポテトチップ、アイスクリームなどを発売し、市場を広げ、上場を目指している。

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▲中華ちまきの五芳斎は、アリババのフーマフレッシュ、喜茶などと提携して、若者向けの新商品を開発して、上場を目指している。

 

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▲鶏肉料理の徳洲扒鶏も上場準備に入っている。上場後にどのような展開をするのか注目されている。

 

伝統を忘れ、苦しむ「狗不理」「全聚徳」

現在、上場をしている老字号は50社にも上る。その多くの老字号が企業価値を大きく増やし、新しい市場を獲得することで、老字号の伝統技術を後世に残そうとしている。

しかし、老字号の上場のすべてがうまくいくわけではない。天津の包子の老字号「狗不理」は、2020年5月に上場を廃止した。本来、包子は庶民の食べ物で、安価でお腹いっぱいになるのがウリだったのに、高級化を図り、価格が上昇したため、客離れを招いてしまった。

また、北京ダックで有名な「全聚徳」も苦しんでいる。2019年の売上は15.66億元で、前年から11.87%の下落、利益は4460万元で38.9%の下落と2005年の水準に戻ってしまった。2017年から連続3年下落が続き、深圳証券取引所では現在管理銘柄になっている。全聚徳も北京ダックで有名な飲食店であるのに、次第に他の料理に力を入れ、総合レストランになろうとした。観光客はくるものの、地元の常連客離れを起こしてしまった。「狗不理は包子を忘れ、全聚徳は北京ダックを忘れた」と言われる。

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▲国際的にも有名な北京ダックの名店、全聚徳。総合レストランに変わろうとして、地元客離れが起きてしまい、売上減少が続いている。

 

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▲天津で有名な狗不理。庶民向けの安くてお腹いっぱいになる包子が有名な店だったが、高級化路線を取ろうとして失敗。上場を廃止している。

 

伝統と革新を組み合わせることで、継承を図る老字号

上場して成功している老字号の多くは、伝統技術は守り、従来お客さんではなかった市場で冒険をして成功をしている。旧来のお客には長年変わらない老字号として対応し、新しい市場には思い切った製品展開で、中国ブランドを活かして新しい商品を展開している。

伝統と革新をうまく組み合わせることができる老字号が成功をしている。それは現代に限った話ではなく、老字号は創業当時から伝統と革新を組み合わせることで成長をしてきたのだ。伝統を保守的に守っているだけの老字号は消えていく。伝統を忘れてブランドだけに頼る老字号も消えていく。老字号には大きな好機が訪れるとともに、大きな転換期を迎えている。

 

コロナ後にV字回復をした飲食店。鍵は他店とは異なる工夫をすること

コロナ禍で大きな痛手を受けた飲食業。しかし、終息後に速やかに回復をしている飲食店も出てきている。中には、深夜1時半になっても行列が絶えず、来店客が倍増した店舗もある。そのような回復に成功した3店舗を鉛筆道が取材した。

 

仙品小龍蝦:創業者、劉賓

今年2020年の売上は、1日平均で、1月が9万元、2月が0元、3月が5万元、4月が2万元、5月が8万元とまるでジェットコースターのようです。

私の店は「仙品小龍蝦」というザリガニ料理の店で、現在、河北省の保定市と石家荘市に合計2軒のお店を出しています。石家荘市の店では、新型コロナの感染拡大以前は1日平均9万元、月に260万元(約4000万円)の売上がありました。

しかし、感染が拡大すると休業せざるを得ず、売上は0元になりました。同じ通りに100軒ほどの飲食店がありますが、私の感覚だと、8割の飲食店が、閉店、商売替え、居抜きで売却などをしたと思います。

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▲河北省の仙品小龍蝦。デリバリー用メニュー、セントラルキッチンの導入などで、味を落とさずにコストを下げることで、コロナ禍を乗り切っている。

 

デリバリーでは利益が出ない

問題は2つあります。ひとつは政策で、営業制限がかけられているため通常営業ができません。もうひとつは消費者が感染を恐れて外食をせず、自宅で食事を取るようになったことです。

私たちは外売(持ち帰り、フードデリバリー)に対応をしていませんでした。やはり、できたてを食べるのが美味しいですし、デリバリーに対応すると手数料がとられ利益が出なくなるからです。しかし、コロナ禍で、デリバリーに対応せざるを得ませんでした。

デリバリーをするには、価格を安くしなければ競争できないので、店で使っているザリガニよりも小ぶりなものを選び、味付けでは冷めても美味しく食べられるように工夫をしました。何度も試作をして、ようやく納得のいく水準に達しました。

もうひとつ行ったのが、セントラルキッチン方式を導入して、人件費を圧縮したことです。ザリガニを店舗に食べにくるお客さんは、価格には敏感ではありません。安さよりも美味しさを重視する方が多いのです。私たちは、売上が下がる分、コストを圧縮し、利益を増やし、お客さんに支持をされている味を落とさないようにしました。

 

クラスターが発生すれば、売上はすぐ落ちる

6月に、北京の農産品市場でクラスターが発生しました。河北省は北京からそう遠くないので、心配になりました。すると、やはり客足が一気に落ちたのです。ザリガニも海鮮品ということで、食べるのを避けられるようになってしまったのです。1日の売上は2万元にまで落ちてしまいました。それでも、北京のクラスターが落ち着くにつれ、売上は8万元にまで戻ってきています。

さまざまな業種が、コロナ禍により痛手を受けていますが、私は飲食業というのは実は被害が小さな業種だったかもしれないと思っています。映画を見なくても耐えることはできますが、ご飯は食べなければ耐えることはできないからです。やり方さえ、工夫をすれば、痛手は最小限に抑えられるはずです。

 

兜約:副総経理、王未靖

私たちは創業して14年、上海に29店舗、その他の都市に32店舗を展開し、コロナ禍の前は1店舗あたりの月の売上は45万元(約690万円)ほどです。

しかし、新型コロナの感染が拡大すると、平均の売上が20万元ほどになってしまいました。2月は月の赤字が500万元にもなりました。特にオフィス地区の店舗が厳しく、ホワイトカラーの人が在宅リモートワークになってしまったために、客足が途絶えてしまったのです。以前は店内とデリバリーの売上比率は11でしたが、デリバリーの売上比率が90%にもなってしまいました。1日営業すれば、赤字が累積する状態になり、賃貸契約の更改を迎えた店舗から整理をしていく他ありませんでした。

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上海市の兜約。デリバリー注文に陰りが出たところで、店舗にお客を呼び戻すために接客品質をあげた。お店で食事をしたいという消費体験を満足させることで、コロナ禍以前よりも大きな売上を達成した。

 

ライブ配信、衛生管理、デジタル化を強化

新型コロナが終息するに従って、売上は徐々に回復しています。私たちは3つのことを重視しました。

ひとつは、ネットプロモーションを強化したことです。ライブ配信とショートムービーでの発信を強化しました。

2つ目が、食品と店舗の衛生管理を強化したことです。社内に衛生監査チームを設立し、毎日、各店舗の衛生状態を監査しました。私たちが毎日どのような消毒を行っているのか、来店客にお願いする手の消毒の手順などはショートムービーにして、入り口でお客さんに見せるようにしました。

3つ目がデジタル化です。オラクルのシステムを導入し、食材管理から注文までのすべてをデジタル化しました。

 

デリバリーが落ち始めたら、接客品質を上げる

同時に私たちは店舗での売上に集中することにしました。なぜなら5月になると、フードデリバリーの売上が落ち始めたからです。デリバリーが好きなお客さんもいるかもしれませんが、多くの方が仕方なくデリバリーを利用していたので、終息が見えてくると、やはりお店で食べたいと考えるようになったのです。このお客さんを兜約にきていただくようにしなければなりません。また、デリバリーの利益は薄く、経営的にも店舗売上を増やすことを考えた方が得策なのです。

そこで、店舗にSOPStandard Operating Procedures)制度を導入しました。ドアの前に立ち、お客様をお迎えする、接客などを細かく規定し、それを遵守させるようにしました。以前は、ドアの前には招き猫の置物があるだけで、注文はお客さんのスマートフォンからセルフでしてもらう方式でした。

現在では、接客レベルを上げ、ドアの前に2人のスタッフがお迎えをし、テーブルまで案内をし、スタッフがテーブルにお伺いをし、メニューを説明しながら注文をとるという方式に変えました。

注文するときに、メニューのQRコードを読み込んでもらうので、お客さんの来店履歴などが把握できます。二度目に来店したときには料理を無料サービスし、お客さんの誕生日に来店していただくとさまざまな特別サービスを提供するようにしました。

 

6月には、コロナ禍以前よりも大きな売上を達成

このような接客レベルを高めたことが功を奏し、6月の全体売上は1月の120%になりました。店舗売上は135%にもなり、1テーブルの利用率は、以前は12組だったものが4組に上昇し、ある店舗では7組にも達しました。

私たちは、他の飲食店が導入しているセントラルキッチン方式は採用しませんでした。セントラルキッチンで料理を作り、店舗で加熱して提供するという方法では、お客さんの舌を満足させることはできないと考えているからです。多くの飲食店がコストダウンを図ることを考える中、私たちは接客サービスを厚くすることを考えました。他店とは違ったことを実行したことがよかったのだと思います。自然に差別化ができ、客足も回復をしています。最近、ある投資企業から投資話が持ち帰られるようにもなっています。

 

吼堂火鍋:創業者、袁燁

私はザリガニの屋台売りから初め、成都市に覇王蝦を開店しました。そして、昨201912月に、火鍋の店「吼堂火鍋」を開店したばかりだったのです。客単価は120元と安く抑えたため、すぐに人気となり、1200組のお客さんが訪れてくれ、毎日午後11時ごろまで店前の行列が途絶えません。

1月下旬からの春節期間は、多くのお客さんがやってくるだろうと期待をしていましたが、新型コロナの感染が拡大してしまいました。その時、私が最初に考えたのは経営のことではなく、お客さんの安全のことでした。しかし、専門家でも確かなことが何も言えない中で、何をどうしたらいいのかがわかりません。ただ、休業することしかできませんでした。

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成都市の吼堂火鍋。早く再開し、客単価を下げることで、現在は深夜でも行列ができるほどの人気店になっている。

 

早く再開したことが成功の要因となった

成都市の感染者数が落ち着きを見せたので、まずフードデリバリーから再開することにしました。成都市民にとって、火鍋は特別な料理ではなく日常食です。再開するとデリバリーの注文はすぐに伸びていきました。他店よりもいち早くデリバリーを再開したことが評判になって、1日の売上は10万元を超えました。

4月初め、店舗営業を再開しました。その初日、行列ができたのです。テーブルは間引きをして、ソーシャルディスタンスを確保していたにもかかわらず、400組のお客さんがきてくれました。これは営業開始以来の新記録です。

 

客単価を下げたことで、深夜でも行列

コロナ後は、お客さんの消費欲も下がるだろうと考え、メニューも再構成し、客単価を120元から100元になるように調整しました。また、少人数で来店するお客さんにも満足してもらえるように、少量のメニューも用意しました。

デリバリーで評判になったこと、少人数でも1人でも来店しやすくなったこと、価格が下がったことなどが相まって、今では深夜1時半でもまだ30組みほどの行列が絶えません。

デリバリーの需要は徐々に下がり、店舗の需要が大きくなっていることを感じています。世間で言われるようなリベンジ消費というのは私たち飲食業にはないようにも感じています。コロナ前とコロナ後で、お客さんのニーズは明らかに変化をしているので、それを見逃さず、お客さんのニーズにあったメニューを提供していくことが何よりも大切で、これで第2波がやってこなければ、回復は見えましたし、その先の成長も見えてきています。

 

中国のAIユニコーン企業「曠視科技」が上場失敗。中国AI、初めての挫折

中国人工知能業界のスター企業「曠視科技」が香港の上場に失敗をした。曠視科技はアリババに顔認証技術を提供するなど、AIスタートアップとしては最も期待されていた企業だ。失敗の原因は商用化の難しさが指摘されている。今後、AIスタートアップにはいかに商用化、黒字化をするかが求められるようになると電商報が報じた。

 

人工知能のトップ企業が上場を断念

曠視科技(Megvii Technology)は、中国AIスタートアップの中でも最も名前が知られ、有望視されていた企業だ。アリババが曠視科技のテクノロジーをアリペイの顔認証決済などに採用したことで、一気に曠視科技の名前が知られるようになった。さらに、アリペイのペット保険では鼻紋識別の技術も使われている。これはスマホを使って、ペットの鼻紋で個体識別を行い、ペットの治療時、死亡時などに速やかに保険金を支払うというものだ。

人工知能を使った認証技術を次々と開発している曠視科技が香港上場を断念せざるを得ない状況になっている。

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▲アリババのスマホ決済「アリペイ」が提供している顔認証決済ユニット。普及の途上で、コロナ禍となり、多くの人がマスクをするようになったことも大きな逆風となった。

 

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▲曠視科技のFace++技術は、防犯カメラにも利用されている。アリクラウドの「都市ブレイン」では、防犯カメラから顔認識をし、公安局のデータベースと照合して、身分を割り出す。逃亡犯などの検挙につながっている。

 

中国最強のAIチームと呼ばれた曠視科技

曠視はアリババが注目をするのも当然のAIスタートアップの中でのトップ企業だ。創業者の印奇(イン・チー)は、清華大学の「姚クラス」の出身。姚クラスとは清華大学の理系の学生から選抜されたエリートチームで、数学オリンピック物理オリンピックなどの選手を養成するクラスだ。スポーツでのオリンピックチームに相当する。

印奇はこの姚クラスに属し、26歳で曠視を起業した。創業メンバーの3/4清華大学出身者で占められている。創業すぐに顔認証プラットフォームFace++を公開、2016年にはフォーブス誌の「30 under 30アジア版」の一人に選ばれた。

マイクロソフトやグーグルの中国研究チームを立ち上げたことで知られる李開復は、曠視を評してこう言ったことがある。「彼らは近年見たことがない最強のチームだ。普通の開発チームは優れた技術を1つか2つ持っている。でも、彼らはすべてにおいて優れているのだ。このようなパワフルなチームというのは、黎明期のグーグルぐらいしか他に知らない」。

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▲創業者の印奇は、2016年にフォーブス誌の「30 under 30アジア版」の一人に選ばれている。

https://www.forbes.com/30-under-30/2020/asia/#7bd0f0fd6938

 

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▲創業メンバーの多くは清華大学出身者。中国トップクラスの若手人工知能研究者が集まって創業したのが曠視科技だ。

 

アリババに技術提供をすることで急成長

曠視の名前が知られるようになったのは、ジャック・マーのおかげだ。2015年、ドイツのハノーファーで開催されたデジタル展示会CeBITで、メルケル首相も出席したプレゼンテーションで、ジャック・マーは、顔認証を使ってアリペイ決済をし切手を1枚購入するデモを行った。この顔認証技術を曠視が提供していた。

これ以降、曠視は、アリババのスマート物流、芝麻信用スコアなどに顔認証技術、人工知能技術を次々と提供していく。アリババ傘下のアントフィナンシャルが曠視に投資をし、曠視の最大の株主となるまでになった。これにより、曠視は中国AI関連最大のユニコーン企業となった。

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▲2015年、ドイツのハノーファーで開催されたデジタル展示会CeBITで、ジャック・マーは顔認証決済で切手を購入するというデモを行った。この技術を提供していたのが曠視科技だった。

 

黒字化が果たせない中国人工知能スタートアップ

20198月、ジャック・マーが引退をする1ヶ月前、曠視は香港証券取引所に上場を申請した。しかし、一部には急ぎすぎという声もあった。果たして、香港市場は上場を認めず、上場に失敗をしてしまった。

その最大の理由は黒字化が果たせていなく、黒字化ができる目処も立っていないことだ。2016年、2017年、2018年の損失は、3.428億元、7.59億元、33.5億元と拡大をしており、2019年上半期には損失が52億元を超えた。黒字化どころか、赤字幅がどんどんと拡大している最中なのだ。

さらに、昨201910月に、米国の輸出規制をするエンティティーリストに登録をされてしまったことがダメ押しとなってしまった。つまり、米国企業が曠視に何かを販売しようとする場合は、個別に輸出許可を得ることが必要になる。事実上の輸出禁止措置だ。曠視がどの程度米国企業に依存をしているかは不明だが、打撃になっていることは間違いない。

さらに、人工知能産業が踊り場にきていることも影響していると言われている。この数年、中国では人工知能がブームとなり、多くのスタートアップが登場している。ところが、商業化に手間取り、利益を出せない時期が長引いているため、投資家の撤退が目立つようになっている。曠視でも、株主構成の変更があったため、投資家の撤退気分が広がっているのではないという観測がされている。曠視では「経営陣を改善するための措置で、撤退をした株主はいない」と説明しているが、疑問を拭い切れているとまでは言えない。

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マイクロソフトの「小氷」(シャオアイス)は、歌を聞いたり、絵を見たりして、模倣し、そこから創造をするという人工知能エンジン。技術力は高いが、商業化が難しく、マイクロソフトから分離をすることになった。

 


【好想你 I Miss U】Joyce Chu 四葉草 ft. Microsoft Xiaoice 微軟小冰 (Audio Version)

▲中国マイクロソフトが開発をした人工知能「小氷」。歌を聞いて学習して歌えるようになる。

 

マイクロソフトも「小氷」を分離、人工知能業界に吹く逆風

20207月には、マイクロソフトが開発した人工知能プラットフォーム「小氷」(シャオアイス)がマイクロソフトから分離をして独立会社となった。チャットができて、歌が歌えて、絵が描ける人工知能だが、人が歌うのを聞いて、実際の絵を見て、模倣をすることで学習をし、歌えたり、新しい絵画を描けたりできるようになるクリエイティブな人工知能だ。

その技術力には目を見張るものがあるが、商業化が難しい。ここが問題になって、マイクロソフト本体から切り離されて、自分たちでお金を稼ぐ道を探さなければならなくなった。

中国のAI界に起きている異変はある意味シンプルだ。投資家たちは「そろそろお金を稼いでくれ」と言っているのだ。曠視が「急ぎすぎ」と言われながらも上場を急いだのもこの辺りに理由があるのかもしれない。

しかし、AIのトップユニコーン企業が上場に失敗をした衝撃は大きい。他のAIスタートアップでも、商業化が急がれることになる。それがAIの普及に寄与をすることになるのか、あるいは未成熟なAIが蔓延し、AIのイメージを悪化させてしまうことになるのか、それはわからない。中国のAI産業は踊り場に差し掛かっている。

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高齢化する農業に自動運転。アグリテックスタートアップが続々参入

中国の農業も、若者から嫌われ、高齢化と労働力不足が深刻になっている。一方で、テック企業にとっては参入空間の大きな領域に見えることから、スタートアップの参入が相次いでいる。その中で、極飛科技は、農業用自動運転車の量産を始めたと農機通が報じた。

 

農業の高齢化問題とテクノロジー

中国の農業は厳しい問題に直面している。生産量は毎年増えてつ続けているものの、2000年からの20年で農業人口は25%も減少した。さらに、55歳以上の高齢農業人口が34%を超えている。省力化が進んでいるとは言うものの、就業人口の急速な減少と、急速な高齢化が大きな問題になっており、本格的な労働力不足の前夜にあると言われている。原因は若者が農業に就くのを嫌うからだ。

一方で、農業をテクノロジーによって効率化する事業が必要とされ、広大な成長空間があることから、農業テック関連のスタートアップも次々と生まれている。

その中でも、極飛科技(ジーフェイ)は成長が目覚ましい企業で、農業用の自動運転農機R150の量産を開始した。

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▲ケースを取り付けて、収穫物の運搬をさせることもできる。収穫場所と集積場所を自動的に往復させることが可能。

 

農薬散布、運搬以外にも利用できる合体ロボR150

極飛が生産するR150には、3つのバージョンがある。噴霧版、運搬版、拡張版の3つで、いずれも車体、操作系統などは共通している。

噴霧版は、農薬などを噴霧する機構が取り付けられたもの。高圧気流により、液体をマイクロメートルの微顆粒にし、霧状にして噴霧する。顆粒のサイズは調整可能。目標とする範囲に、ムラなく噴霧することができる。路面が荒れていても、サスペンションで吸収をして、設定範囲に噴霧することができる。最高で1時間あたり80ムー(約5.3ha)に噴霧をすることができる。

運搬版は、農作物などを運搬する機構が取り付けられたもの。最高積載重量は150kg、充電15分で4時間運搬することができる。一度、スマホからルート設定をしておけば、自動的に往復することも可能だ。

拡張版は、さまざまな農機具を後づけできるものだ。

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▲農薬散布をするR150。ノズルは360度稼働するようになっている。

 

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▲農薬散布をするR150。あらかじめ設定した作業道を通り、指定された量の農薬を散布する。

 

狭い作業道、荒れた農地を自動運転

R150にはさまざまなテクノロジーが使われている。農地を走行することから、動力にはトルク1000ニュートンメートルのブラシレス直流モーターを採用、最大登坂能力は30度となり、ほぼすべての農地を走行できる。

地上に設置した基地局から位置情報データを利用するRTK(リアルタイムキネマティック)を採用し、ミリメートル級の位置情報を利用することで、狭い農地を自動走行する。

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▲リモコンを持った人を追従させることもできる。

 

ドローンと同じ操作体系、姿勢制御技術を採用

操作系統は、すでに農業で多く使われているドローンの操作方法を採用している。スマホアプリで、ルートを設定するだけで、あとは自動走行ができる。5分程度で基本操作ができるようになるという。また、リモコンを持った人を追従させることも可能だ。リモコンによるマニュアル操作ももちろん可能になっている。

また、姿勢制御などにもドローンの技術が使われている。農地を走ると、障害物に乗り上げたり、斜面を走行して、転倒をすることが予想される。R150では姿勢を測定し、安定性を失いそうになるとルートを微調整して、転倒しないように制御される。このような技術にはドローン技術が転用されているという。

高齢化が問題になっている農業だからこそ、テックスタートアップの参入空間がある。極飛科技だけでなく、さまざまなアグリテックスタートアップが登場してきている。

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▲シンプルな部品構成になっているため、耐久力が高い構造になっている。

 

 

 



 

すべての小売業は新小売になる。既存小売はどこまで新小売化を進めているか?

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 039が発行になります。

 

アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)はさまざまな予言をすることでも知られています。しかも、その予言が数年後にずばりと的中するので、世間が驚くのです。しかし、ジャック・マーのそれは、予言ではなく、ロジックに基づいた予見なのです。ただ、その内容があまりにも大胆であり、短い期間に実現することから、みな驚いてしまうのです。

 

そのジャック・マーの予言の中でも、2016年に杭州市の雲栖で開催したコンベンションでの発言が注目され続けてきました。

「インターネット時代になり、伝統的な小売業はECに圧迫されています。未来では、オフライン小売とオンライン小売は深く結合し、さらに物流、マーケティングビッグデータクラウドなどの新しいテクノロジーを利用するようになり、新しい『新小売』という概念を構築していくことになります。ECの時代は終わり、伝統的な小売は改革され、すべての小売業は新小売にアップグレードされることになるでしょう」。

この言葉は要約されて「ECは死に、新小売が始まる」「すべての小売業は新小売になる」という言葉になって広がっています。淘宝網タオバオ)の成功で急成長をしたアリババの創業者が「ECの時代は終わる」と言ったのですから、世間が注目をするのも無理もありません。

しかし、では、ジャック・マーの言う「新小売」とはなんなのか、この時は誰も理解できていませんでした。

 

2017年7月に、アリババが上海市金橋に新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を開店した時ですら、多くの人は新小売の意味が理解できていませんでした。

新小売とは、オンライン購入体験とオフライン購入体験を融合して、消費者が都合に合わせて消費スタイルを選択できるようにする仕組みです。フーマフレッシュでは、通常の店舗スーパー以外に、スマホからの注文を受け、半径3km以内に30分で配達するというものでした。

これは店舗と配達の二本立てではありません。「来店/スマホ注文」「持ち帰り/配達」を自由に組み合わせることができます。

1)来店をして、商品を自分の目で選んで、持って帰る。従来のスタイルです。

2)来店をして買った商品を配達してもらう。重たい水や油を買った時に利用します。

3)スマホで注文して、配達。店舗ECのスタイルです。

4)スマホで注文して、店舗受け取り。レジャーに出かける時など、時間の節約になります。

 

このフーマフレッシュは、アリババのライバルである京東にいた侯毅(ホウ・イ)が考案したものです。生鮮ECで用いられている「前置倉」の考え方では、消費者は自分の目で生鮮食料品の品質を確かめることができません。これでは、若い単身者は使うかもしれませんが、スーパーにとって最大の顧客であるファミリー層や中高年はなかなか利用しないだろうと考えました。

そこで、倉庫ではなく、店舗にして、店舗と倉庫の機能を兼ね備えた「店倉合一」という新しいスタイルを考案します。

その企画を京東の上層部に提案をしますが、EC企業である京東は、店舗経営をするということに難色を示し、却下されてしまいました。そこで、侯毅は京東を出て、独立をすることを考えます。その中で、アリババの張勇(ジャン・ヨン、ダニエル・チャン)と知り合い、これこそまさにジャック・マーの予言した新小売の典型例ではないかという話になりました。そこで、侯毅は京東からアリババに移籍をして、フーマフレッシュを始めることになったのです。

 

フーマフレッシュは大成功でした。坪効果(単位面積当たりの売上)では、既存同規模スーパーの3倍から4倍という脅威的な成績をあげます。それもそのはずで、売上の60%はスマホ注文なのです。スマホ注文は坪効果と無関係ですから、この数字は無限にあげていくことが可能です。

面白いのは、当初、メディアはフーマフレッシュを軽く見ていたことです。それはわからないでもありません。実際にフーマフレッシュの店舗を訪れてみると、夕方や休日ではない平日の昼間だと閑散としているのです。普通の感覚では、「客が入っていない」と感じてしまいます。しかし、店舗の客よりも多い消費者がスマホで注文を入れているのです。ここを理解していないメディアは、「フーマは苦戦をしているのではないか」という報道をしたこともありました。

しかし、よく見ると、客は閑散としていても、ピックアップスタッフが忙しく商品をピックアップしていることに気がつきます。バッグに詰められた生鮮食料品は、天井を走るレールにより、次々とバックヤードに送られていきます。よく観察をすれば、来店客以上の客がネットの向こう側で買い物をしていることに気がつきます。

 

今では、ジャック・マーの予言「すべての小売業は新小売になる」を否定する人はいません。店舗営業だけで、客が来るのを待っているだけの商売はもう生き残っていけないというのが一般的な見方になっています。あらゆる小売業は、オンラインを意識した新小売化をしなければ生き残っていくことはできません。

しかし、それに気がつくまでの時間に、人によって大きな違いがありました。フーマを見て、イノベーションが起きたと悟った人もいれば、フーマを見て、客が閑散していることから「アリババのスーパーは失敗」と考えて、いまだに新小売というものを理解しようとしない人もいます。

百貨店、スーパー、コンビニ業界の人たちは、小売業のプロたちですから、この新小売という概念に早くから気がつき、自社の新小売化を進めています。しかし、その速度に違いがあり、成功例と失敗例という結果が出始めているのが今の状況です。

とはいえ、どの小売業もフーマフレッシュの真似をすればいいわけではありません。フーマはあくまでも参照モデルであって、それぞれの小売業はそれぞれの特性に合った新小売を構築していく必要があるのです。

今回は、百貨店、スーパー、コンビニが、どのように新小売化を進めているのか、実例を紹介しながらご紹介します。

 

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