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次々と上場する伝統老舗「老字号」。伝統技術と現代技術の融合が成功の鍵

中国商務部が伝統老舗を認定する老字号制度。その老字号企業が、次々と上場をしている。しかし、伝統技術と現代技術を融合して、事業を拡大し、伝統を現代にまで継承する企業もあれば、拡大をして失敗をする伝統老舗もあると中国新聞網が報じた。

 

次々と上場をする伝統老舗「老字号」

中国には歴史のある小売業、製造業、ブランドを「老字号」として認定する制度がある。1956年以前に創業し、一定の条件を満たすと商務部に申請をすることができ、商務部の中華老字号振興発展委員会の審査を経て、承認されると、老字号を名乗ることができるようになる。

有名なところでは、杭州漢方薬製造「胡慶余堂」、北京の羊肉しゃぶしゃぶ「東来順」、漢方薬「同仁堂」、中国靴「内聯昇」などがある。いずれも、歴史のある料理店や工芸品を扱う製造小売業が多い。

いわゆる中国の歴史のある老舗だ。ところが最近になって、このような老字号が次々と上場をしている。

 

時代に合わせて変化した刀鍛冶「張小泉」

張小泉は、創業400年を超えるはさみの製造小売で、深圳証券取引所に上場をした。

張小泉の創業は明時代の1628年に遡ることができ、元々は刀鍛冶だった。それが清朝、民国から現在に至る中ではさみを主力製品とし、2006年に老字号の称号を取得した。

中国の刀鍛冶は「南に張小泉あり、中に曹正興あり、北に王麻子あり」と言われる3つが有名だ。しかし、1840年に創業した曹正興は1995年をピークに生産量が減少し、現在は生産を停止している。1651年に創業した北京王麻子は数年間の赤字が続き、2020年5月に広東の企業に買収され、広東王麻子という新しいブランドになった。

一方で、張小泉は好調だ。2017年から2019年の売上は、それぞれ3.36億元、4.03億元、4.80億元となり、利益は4890万元、4380万元、7230万元となっている。

張小泉が上場ができたのは、伝統技術だけにこだわるのではなく、積極的に新しい製造技術を取り入れ、その時代にあった製品を製造してきたからだ。現代生活の中でも使えるはさみ、ナイフ、包丁などを製造し、プロの料理人に支持をされている。ブランドの伝統と現代技術をうまく融合させている。

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▲張小泉は元々刀鍛冶だったが、ハサミや料理包丁、ナイフなど、伝統技術を活かして現代でも使われる製品を作ることで、上場企業になっている。

 

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▲創業400年を超える刃物メーカーの張小泉の最初の店舗(復元)。元々は刀鍛冶だったが、現在も刃物メーカーとして生き残り、プロの料理人に支持されている。

 

上場する中国茶、鶏肉、ちまきの老舗

1949年に創業した老字号「中国茶葉」は、上海証券取引所に上場した。中国茶としても最初の上場企業になる。2017年から2019年の売上は、それぞれ12.29億元、14.90億元、16.28億元。利益は1.81億元、1.45億元、1.66億元となる。

また、1692年に創業した鶏肉の「徳洲扒鶏」も上場準備に入っている。1921年に創業した中華ちまきの「五芳斎」は、アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)、カフェ「喜茶」などとコラボして、若者向けの味付けの中華ちまきを発売したり、中華ちまき味のポテトチップ、アイスクリームなどを発売し、市場を広げ、上場を目指している。

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▲中華ちまきの五芳斎は、アリババのフーマフレッシュ、喜茶などと提携して、若者向けの新商品を開発して、上場を目指している。

 

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▲鶏肉料理の徳洲扒鶏も上場準備に入っている。上場後にどのような展開をするのか注目されている。

 

伝統を忘れ、苦しむ「狗不理」「全聚徳」

現在、上場をしている老字号は50社にも上る。その多くの老字号が企業価値を大きく増やし、新しい市場を獲得することで、老字号の伝統技術を後世に残そうとしている。

しかし、老字号の上場のすべてがうまくいくわけではない。天津の包子の老字号「狗不理」は、2020年5月に上場を廃止した。本来、包子は庶民の食べ物で、安価でお腹いっぱいになるのがウリだったのに、高級化を図り、価格が上昇したため、客離れを招いてしまった。

また、北京ダックで有名な「全聚徳」も苦しんでいる。2019年の売上は15.66億元で、前年から11.87%の下落、利益は4460万元で38.9%の下落と2005年の水準に戻ってしまった。2017年から連続3年下落が続き、深圳証券取引所では現在管理銘柄になっている。全聚徳も北京ダックで有名な飲食店であるのに、次第に他の料理に力を入れ、総合レストランになろうとした。観光客はくるものの、地元の常連客離れを起こしてしまった。「狗不理は包子を忘れ、全聚徳は北京ダックを忘れた」と言われる。

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▲国際的にも有名な北京ダックの名店、全聚徳。総合レストランに変わろうとして、地元客離れが起きてしまい、売上減少が続いている。

 

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▲天津で有名な狗不理。庶民向けの安くてお腹いっぱいになる包子が有名な店だったが、高級化路線を取ろうとして失敗。上場を廃止している。

 

伝統と革新を組み合わせることで、継承を図る老字号

上場して成功している老字号の多くは、伝統技術は守り、従来お客さんではなかった市場で冒険をして成功をしている。旧来のお客には長年変わらない老字号として対応し、新しい市場には思い切った製品展開で、中国ブランドを活かして新しい商品を展開している。

伝統と革新をうまく組み合わせることができる老字号が成功をしている。それは現代に限った話ではなく、老字号は創業当時から伝統と革新を組み合わせることで成長をしてきたのだ。伝統を保守的に守っているだけの老字号は消えていく。伝統を忘れてブランドだけに頼る老字号も消えていく。老字号には大きな好機が訪れるとともに、大きな転換期を迎えている。