コロナ禍で大きな痛手を受けた飲食業。しかし、終息後に速やかに回復をしている飲食店も出てきている。中には、深夜1時半になっても行列が絶えず、来店客が倍増した店舗もある。そのような回復に成功した3店舗を鉛筆道が取材した。
仙品小龍蝦:創業者、劉賓
今年2020年の売上は、1日平均で、1月が9万元、2月が0元、3月が5万元、4月が2万元、5月が8万元とまるでジェットコースターのようです。
私の店は「仙品小龍蝦」というザリガニ料理の店で、現在、河北省の保定市と石家荘市に合計2軒のお店を出しています。石家荘市の店では、新型コロナの感染拡大以前は1日平均9万元、月に260万元(約4000万円)の売上がありました。
しかし、感染が拡大すると休業せざるを得ず、売上は0元になりました。同じ通りに100軒ほどの飲食店がありますが、私の感覚だと、8割の飲食店が、閉店、商売替え、居抜きで売却などをしたと思います。
▲河北省の仙品小龍蝦。デリバリー用メニュー、セントラルキッチンの導入などで、味を落とさずにコストを下げることで、コロナ禍を乗り切っている。
デリバリーでは利益が出ない
問題は2つあります。ひとつは政策で、営業制限がかけられているため通常営業ができません。もうひとつは消費者が感染を恐れて外食をせず、自宅で食事を取るようになったことです。
私たちは外売(持ち帰り、フードデリバリー)に対応をしていませんでした。やはり、できたてを食べるのが美味しいですし、デリバリーに対応すると手数料がとられ利益が出なくなるからです。しかし、コロナ禍で、デリバリーに対応せざるを得ませんでした。
デリバリーをするには、価格を安くしなければ競争できないので、店で使っているザリガニよりも小ぶりなものを選び、味付けでは冷めても美味しく食べられるように工夫をしました。何度も試作をして、ようやく納得のいく水準に達しました。
もうひとつ行ったのが、セントラルキッチン方式を導入して、人件費を圧縮したことです。ザリガニを店舗に食べにくるお客さんは、価格には敏感ではありません。安さよりも美味しさを重視する方が多いのです。私たちは、売上が下がる分、コストを圧縮し、利益を増やし、お客さんに支持をされている味を落とさないようにしました。
クラスターが発生すれば、売上はすぐ落ちる
6月に、北京の農産品市場でクラスターが発生しました。河北省は北京からそう遠くないので、心配になりました。すると、やはり客足が一気に落ちたのです。ザリガニも海鮮品ということで、食べるのを避けられるようになってしまったのです。1日の売上は2万元にまで落ちてしまいました。それでも、北京のクラスターが落ち着くにつれ、売上は8万元にまで戻ってきています。
さまざまな業種が、コロナ禍により痛手を受けていますが、私は飲食業というのは実は被害が小さな業種だったかもしれないと思っています。映画を見なくても耐えることはできますが、ご飯は食べなければ耐えることはできないからです。やり方さえ、工夫をすれば、痛手は最小限に抑えられるはずです。
兜約:副総経理、王未靖
私たちは創業して14年、上海に29店舗、その他の都市に32店舗を展開し、コロナ禍の前は1店舗あたりの月の売上は45万元(約690万円)ほどです。
しかし、新型コロナの感染が拡大すると、平均の売上が20万元ほどになってしまいました。2月は月の赤字が500万元にもなりました。特にオフィス地区の店舗が厳しく、ホワイトカラーの人が在宅リモートワークになってしまったために、客足が途絶えてしまったのです。以前は店内とデリバリーの売上比率は1:1でしたが、デリバリーの売上比率が90%にもなってしまいました。1日営業すれば、赤字が累積する状態になり、賃貸契約の更改を迎えた店舗から整理をしていく他ありませんでした。
▲上海市の兜約。デリバリー注文に陰りが出たところで、店舗にお客を呼び戻すために接客品質をあげた。お店で食事をしたいという消費体験を満足させることで、コロナ禍以前よりも大きな売上を達成した。
ライブ配信、衛生管理、デジタル化を強化
新型コロナが終息するに従って、売上は徐々に回復しています。私たちは3つのことを重視しました。
ひとつは、ネットプロモーションを強化したことです。ライブ配信とショートムービーでの発信を強化しました。
2つ目が、食品と店舗の衛生管理を強化したことです。社内に衛生監査チームを設立し、毎日、各店舗の衛生状態を監査しました。私たちが毎日どのような消毒を行っているのか、来店客にお願いする手の消毒の手順などはショートムービーにして、入り口でお客さんに見せるようにしました。
3つ目がデジタル化です。オラクルのシステムを導入し、食材管理から注文までのすべてをデジタル化しました。
デリバリーが落ち始めたら、接客品質を上げる
同時に私たちは店舗での売上に集中することにしました。なぜなら5月になると、フードデリバリーの売上が落ち始めたからです。デリバリーが好きなお客さんもいるかもしれませんが、多くの方が仕方なくデリバリーを利用していたので、終息が見えてくると、やはりお店で食べたいと考えるようになったのです。このお客さんを兜約にきていただくようにしなければなりません。また、デリバリーの利益は薄く、経営的にも店舗売上を増やすことを考えた方が得策なのです。
そこで、店舗にSOP(Standard Operating Procedures)制度を導入しました。ドアの前に立ち、お客様をお迎えする、接客などを細かく規定し、それを遵守させるようにしました。以前は、ドアの前には招き猫の置物があるだけで、注文はお客さんのスマートフォンからセルフでしてもらう方式でした。
現在では、接客レベルを上げ、ドアの前に2人のスタッフがお迎えをし、テーブルまで案内をし、スタッフがテーブルにお伺いをし、メニューを説明しながら注文をとるという方式に変えました。
注文するときに、メニューのQRコードを読み込んでもらうので、お客さんの来店履歴などが把握できます。二度目に来店したときには料理を無料サービスし、お客さんの誕生日に来店していただくとさまざまな特別サービスを提供するようにしました。
6月には、コロナ禍以前よりも大きな売上を達成
このような接客レベルを高めたことが功を奏し、6月の全体売上は1月の120%になりました。店舗売上は135%にもなり、1テーブルの利用率は、以前は1日2組だったものが4組に上昇し、ある店舗では7組にも達しました。
私たちは、他の飲食店が導入しているセントラルキッチン方式は採用しませんでした。セントラルキッチンで料理を作り、店舗で加熱して提供するという方法では、お客さんの舌を満足させることはできないと考えているからです。多くの飲食店がコストダウンを図ることを考える中、私たちは接客サービスを厚くすることを考えました。他店とは違ったことを実行したことがよかったのだと思います。自然に差別化ができ、客足も回復をしています。最近、ある投資企業から投資話が持ち帰られるようにもなっています。
吼堂火鍋:創業者、袁燁
私はザリガニの屋台売りから初め、成都市に覇王蝦を開店しました。そして、昨2019年12月に、火鍋の店「吼堂火鍋」を開店したばかりだったのです。客単価は120元と安く抑えたため、すぐに人気となり、1日200組のお客さんが訪れてくれ、毎日午後11時ごろまで店前の行列が途絶えません。
1月下旬からの春節期間は、多くのお客さんがやってくるだろうと期待をしていましたが、新型コロナの感染が拡大してしまいました。その時、私が最初に考えたのは経営のことではなく、お客さんの安全のことでした。しかし、専門家でも確かなことが何も言えない中で、何をどうしたらいいのかがわかりません。ただ、休業することしかできませんでした。
▲成都市の吼堂火鍋。早く再開し、客単価を下げることで、現在は深夜でも行列ができるほどの人気店になっている。
早く再開したことが成功の要因となった
成都市の感染者数が落ち着きを見せたので、まずフードデリバリーから再開することにしました。成都市民にとって、火鍋は特別な料理ではなく日常食です。再開するとデリバリーの注文はすぐに伸びていきました。他店よりもいち早くデリバリーを再開したことが評判になって、1日の売上は10万元を超えました。
4月初め、店舗営業を再開しました。その初日、行列ができたのです。テーブルは間引きをして、ソーシャルディスタンスを確保していたにもかかわらず、400組のお客さんがきてくれました。これは営業開始以来の新記録です。
客単価を下げたことで、深夜でも行列
コロナ後は、お客さんの消費欲も下がるだろうと考え、メニューも再構成し、客単価を120元から100元になるように調整しました。また、少人数で来店するお客さんにも満足してもらえるように、少量のメニューも用意しました。
デリバリーで評判になったこと、少人数でも1人でも来店しやすくなったこと、価格が下がったことなどが相まって、今では深夜1時半でもまだ30組みほどの行列が絶えません。
デリバリーの需要は徐々に下がり、店舗の需要が大きくなっていることを感じています。世間で言われるようなリベンジ消費というのは私たち飲食業にはないようにも感じています。コロナ前とコロナ後で、お客さんのニーズは明らかに変化をしているので、それを見逃さず、お客さんのニーズにあったメニューを提供していくことが何よりも大切で、これで第2波がやってこなければ、回復は見えましたし、その先の成長も見えてきています。