中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

インドでユーチューバーが急増。トップクラスの収入は平均の30倍

インドでショートムービー「Vmate」の発信者が急増している。Vmateの開発元である中国UCWEBが養成担当の女性を派遣し、インド各地でセミナーを開催しているからだ。収入面だけでなく、地位の低かった女性を中心にインド社会をも変えつつあると橋報網が報じた。

 

インドにも登場した稼げるユーチューバー

インドでTik Tok型のショートムービーが流行し始めている。その多くは、中国の網紅(ワンホン)と同じで、ムービー内で紹介した商品のアフィリエイト収入、ムービーに対する投げ銭収入の2つを柱にしている。インドでの1月の平均収入は6000ルピー(約9000円)程度だが、トップクラスの網紅は20万ルピー(約30万円)になるという。

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▲インドの女性たちが発信しているVmateのショートムービー。特に女性の発信が多い。

 

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▲個人商店も発信を始めている。この布地屋は、商品を紹介するムービーを発信し、商売にもいい影響を与えている。

 

インドで網紅を養成する中国女性「高晨」

インドでなぜ急に網紅が登場してきたのか。その背後には、アリババ系のUCWEBの努力がある。UCWEBは、スマートフォン用のUCブラウザーを開発した企業。Android標準のChromeよりも軽快に動くことから、中国を中心としたアジア圏で使われている。そのUCWEBが開発をしたのが、Tik Tok型のショートムービー共有アプリ「Vmate」だった。

UCWEBは、このVmateを普及させるため、大市場であるインドに女性エバンジェリストを送り込んだ。それが高晨(ガオ・チェン)だ。湖北省出身の高晨は、UCWEB社内でVmateチームの「網紅養成係」に任命され、2018年5月にインドに渡り、1年のうち、200日から300日はインドで仕事をしている。約1年の活動で、これまで4000名の網紅を発掘し、育成してきた。

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▲高晨とインドの子どもたち。インドで年間300日活動し、ショートムービーを広め、網紅を養成している。

 

インド各地を巡回し、ショートムービーセミナーを開催

彼女たちのチームは、数名の中国人と30名以上のインド人からなる規模の大きなものだ。数チームに分かれて、インドの都市、農村を巡回し、そこで、ショートムービーセミナーを開催する。どのような題材にしたらいいか、どのような服装にすればいいのか、どうやって撮影すれば見栄えがよくなるのかを教えていく。

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▲高晨のチームが開催しているショートムービーセミナー。網紅として成功すると、高収入が得られるということから、セミナーには多くの人が集まる。

 

網紅の養成は、インド社会にとっても意義のある仕事

高晨によると、インドでショートムービーを普及させる仕事は、インド社会にとっても意義のあることだという。インドは、社会階級と男尊女卑の観念が強く、女性の地位は低い。しかし、家庭の主婦がショートムービーを発信することで、自分の口から意見を言い、しかも自分の手による経済的な報酬も得られ、女性の地位を向上させることに大きく寄与しているという。

コマル・シンは、インドの東北部のありふれた若い主婦だった。友人から教えられてVmateにハマり、自分でもダンスの映像を発信するようになった。しかし、そのダンス映像は部屋の中で、壁を背にしたものばかりだった。高晨がコマルのムービーに注目をして、会った時に部屋の中で撮影する理由を聞くと、本名や住んでいる場所が特定されることを漠然と恐れていた。

高晨は屋外でも場所が特定されない撮影方法を教えた。コマルはそれに従って、村の中や近所の美しい風景、面白い風景の中でダンスをするようになった。これが若い主婦層に受け、すでに190万人のファンを獲得している。収入も夫を超えてしまい、コマルは撮影に忙しくなってしまったので、今では夫が家事を担当しているという。

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▲高晨は、特にインドの女性たちに共感し、ショートムービーで発信することで、インドの女性たちの意識を変え、インド社会を変えられると信じている。

 

インドの社会交流を変えるかもしれないショートムービー

高晨は言う。インドの女性たちは、近所の人としか交流がない。それがショートムービーを共有することで、まったく別の場所にいて、まったく異なる考え方をする人と交流することができるようになった。

中国の社会がSNSやショートムービーによって変わっていったように、インドもSNSとショートムービーが社会を変えていくことになる。そう高晨は信じて、今日もインドの各地を巡回している。

 

郵便配達は無人カートで。仙桃市で、郵便配達の営業運用が始まる

中国郵政が、湖北省仙桃市で郵便の配達を無人カートで行っている。現在は、官公庁など、郵便量の多い配達先を巡回する固定路線を走っているが、その間は公道を走行する。問題点を洗い出し、次第に他の配送先、他都市に展開していく予定だと人民網湖北が報じた。

 

5年以内に宅配の無人化が始まる

中国で、郵便、小包の無人配送車の運用が始まっている。中国では、宅配を絡めた消費者向けサービスが拡大している。通常のECに加えて、野菜や肉を宅配してくれる新小売スーパー、生鮮EC。さらに、料理を届けてくれるフードデリバリー外売。外売は料理だけでなく、薬品、コンビニ商品など扱い品目を拡大している。今まで、自分で足を運んで、商品を買ったり、食事に行ったりしなければならなかったものが、自宅に届けてもらえるようになり、このような新しいライフスタイルは「ものぐさ消費」とか「ものぐさ経済」とまで呼ばれるようになっている。

このようなものぐさ経済でネックとなるのが、宅配だ。宅配業務は人がやらなければならず、年々人件費が高騰して、ものぐさ経済関連企業の経営を圧迫している。しかし、それでもこの分野には新規参入が相次いでいる。それは多くの専門家が、中国は5年以内に無人配送時代が始まると見ているからだ。

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▲外売企業「ウーラマ」の配達の様子。現在は人が配送しているが、5年以内に無人配送へと切り替わっていくと見られている。

 

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▲中国郵政が開発した無人配送カート。時速は15kmで、200kgの郵便物と、30個の小包を配達できる。

 

無人配送にいちばん乗りになったのは中国郵政

すでに無人配送は始まっている。新石器科技などを始めとする複数の企業が、無人配送車の量産を始めていて、大学や企業のキャンパス内、マンションの敷地内などでの配送に使われるようになっている。走る宅配ボックスの感覚だ。問題は、この無人配送車が、いつ公道を走るようになり、集積ステーションと自宅を直接無人配送車で繋ぐかだった。企業間で、荷物を運搬するのに無人配送車が使われている例はあるが、あくまでも固定路線を走り、試験運用という建前だった。

本格的に無人配送時代に進むには、「公道を」「非固定路線を」「営業運行」することが大きなステップになる。

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▲試験走行中の無人配送カート。10日間の試験運用では問題が出なかったため、現在は営業運用になっている。

 

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▲出動する無人カート。配達が終わると、自分で駐車場まで戻ってくる。

 

地方都市で始まった無人配送の営業運用

そこに最初に手をつけたのは、中国郵政(中国の郵便事業を行う国営企業)だった。2019年9月2日から、湖北省仙桃市で、10日間の試験運用が始まり、大きな問題がなかったため、そのまま営業運用に入った。

この中国郵政が開発した無人配送車は、全長2m、幅0.8m、高さ1.5m。最高速度は時速15km。200kgの郵便と、30個の小包を一度に運搬することができる。人や障害物を自動判別し、停止または回避し、交通信号も認識し、交通ルールを遵守して走行する。防水構造になっているので、雨の日も配送ができる。配送先は限定されているが、すべての配送先に郵便物があるわけではないので、最適な配送ルートを自分で考えて走行する。

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▲郵便物をセットする中国郵政職員。配送準備、受け取りなどすべてはスマホアプリから行う。

 

受取人は路上でQRコード認証で開錠

受取人に対しては、到着10分前に合成音声による電話をかけ、同時に受け取り番号を記載したショートメッセージを送る。受取人は、路上で無人配送車を待ち、到着したら、無人配送車に描かれているQRコードスマホで読み取り、受け取り番号を入力すると、自分の郵便が入っているドアが開く。

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▲受取人には事前にスマホに合成音声による電話とSMSが送られてくる。受け取る時はQRコードをスキャンし、SMSで送られてきた受取番号を入力すると、自分の郵便物が入ったドアが開錠する。

 

「公道を」「非固定路線で」「営業運行」する無人カート

自宅のポストに入れてくれるわけではなく、路上で待っていなければならないなど、利便性の点ではまだまだ改善の余地があるが、現在は仙桃市政府を中心とした行政施設への郵便配送を主体に運用されている。このような施設は、郵便物の量も多く、郵便物に対応するスタッフが常駐しているからだ。

この営業運用の結果を見て、次第に企業や個人にも配送範囲を広げていく予定だ。また、仙桃市での運用状況を見て、他の都市にも広げていく。拡大がどのぐらいのペースで進むのかはまだ不明だが、初めて「公道を」「非固定路線を」「営業運行」

する無人配送車が登場したことは大きい。民間企業も、これに刺激を受けて、無人配送の運行競争が始まっていく可能性がある。

 

メディアでは報道されなかったファーウェイ創業者、任正非のエピソード

ファーウェイの創業者、任正非は異色の経営者だ。貴州省の貧困の村に生まれ、文化大革命に人生を翻弄され、44歳という年齢でファーウェイを起業した理由は「食うため」だった。朱邦凌はメディアにでは報道されていない任正非の人柄がわかるエピソードを紹介している。

 

「食うため」にもがき続けた任正非

ファーウェイの創業者、任正非(レン・ジャンフェイ)は、現代のテック企業経営者の中でも異色の存在だ。1944年に貧しい家庭に生まれ、44歳でファーウェイを創業するなど、多くのスタートアップ経営者とは世代も出自も違っている。

苦労人という言葉では収まらない、中国の激動の近代史に翻弄され続けた人だ。大学に進学したのは「食うため」であり、人民解放軍に入隊したのも「食うため」であり、ファーウェイを創業したのも「食うため」だった。任正非の人生は、食うことが常に大きなテーマであり、自殺を考えたことも何度もあると言う。

朱邦凌は、その任正非の人柄がわかるエピソードを紹介している。

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▲ファーウェイの創業者、任正非。中国の近代史に翻弄され続けた遅咲きの経営者。ファーウェイを創業した理由は「食うため」だったという。

 

リムジンのお出迎えは無駄遣い

任正非が、新疆ウイグル地区に視察に行った時、その地区の責任者は抜擢されたばかりで、任正非の考え方をまだよく理解していなかった。任正非に対する敬意を表すため、リンカーンのリムジンを借りて、それで空港に迎えに行った。

空港について、飛行機から降り、そのリムジンを見た任正非は怒り出した。「無駄遣いだ。時間の無駄だ。無駄以外の何物でもない。なぜ迎えになどくるのだ。あなたのやるべきことは執務であって、私の横に座ってお供をすることではない。お客様が私たちの衣食の父母なのだ。自分の時間をお客様のために使いなさい」。

 

スーツを着たコックが実は創業者

1994年、金森林という新入社員が、製品試験をする部署に配属された。当時、ファーウェイは電話交換機の量産を始めたところだったが、計測機器は粗末なものしかなく、金森林の仕事は忙しく、職場に寝泊まりするしかなかった。食事は、食堂から届けられ、その場で食べていた。

ある晩、コックのチーフが慰問にやってきた。ワゴンを押し、何人かのコックを引き連れていた。金森林は知らなかったが、このコックのチーフが実は、ファーウェイの創業者の任正非だった。金森林はただのコックだと思い込んでいた。

一ヶ月後、新入社員の集まりがあり、そこに創業者の任正非も出席すると知った金森林は、自分の名前を覚えてもらおうと、かなり早い時間に会場に入った。すると、そこにはもう先にきている人がいる。例のコックだった。金森林は不思議に思った。コックは白衣ではなく、スーツを着ていたからだ。集まりが始まり、創業者の任正非が紹介されると、そのスーツを着たコックがステージに上がっていった。金森林は心底驚いたいという。任正非は挨拶をした。「新入社員のみなさん、ようこそファーウェイへ。私が任正非です。みなさんがファーウェイという会社が好きになってくれることを希望します」。

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▲社員食堂に現れた任正非。現在でも、贅沢なことを嫌い、質素な生活をしていると言われる。

 

世間知らずでお金を騙されて左遷される

任正非はファーウェイを創業する前、人民解放軍で施設担当をし、その後、深圳南油集団の副社長を務めた。しかし、市場経済というものがわかってなく、結果を出すことができず、退職せざるを得なかったと本人が述懐している。中国社会が改革開放によって大きく変わる時期で、テクノロジーを知らず、ビジネスを知らない任正非のような人たちは、生きていくことすら難しく、社会の端に追いやられていた。

南油集団の時代に、任正非は人に騙されて、200万元(約3000万円)以上の損害を会社に与えたことがある。一般的な都市のサラリーマンの月給が100元(約1500円)に満たない時代のことだ。この時代、任正非は仕事も家庭も最も辛い時期だったという。妻は、父親が南油集団の幹部であったために、南油集団に転職後、出世をして経営層に入った。一方で、任正非は南油集団の子会社に移ったが、その会社は長い間赤字が続いていてまったくお金がない。仕事には希望が持てない、家では妻に頭が上がらない、さらに両親や兄弟姉妹も生活を任正非に頼って、同居をしていた。任正非は当時、プレッシャーに潰される寸前だったという。

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▲若い頃の任正非。食うためには大学に行って、いい仕事につくしかなかったが、文化大革命の時期にあたり、就職などできず、仕方なく、すぐに食べられる人民解放軍に入隊をした。

 

ファーウェイを創業したのは「食うため」

任正非は、44歳という遅い時期にファーウェイを起業したが、ファーウェイを世界的な企業に成長させようなどとは考えていなかった。お金に困り、落ちぶれた状況をなんとかするためで、両親や子どもたちを養わなければならないことから創業をしたと述懐している。創業をした人が成功をすると、後から、当時は大きな夢を描いていたと言いがちだが、自分はそんなことはなく、生活をなんとかしようとして創業したのだと言う。

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▲ファーウェイの最初の社屋。それなりに立派そうな建物だが、実は、深圳市で勤めていた南油集団の社員住宅。その一室がファーウェイ創業の地だ。

 

過去少なくとも2度、自殺を考えている

ファーウェイを創業してからも、会社が何度も危機に陥り、自殺を考えたこともあると言う。2002年には、当時のITバブルが弾け、経営が苦しくなり、任正非は半年の間、ほとんど寝ることができなくなった。2006年にも自殺を考えたことがある。この頃、食事をしているところに、内モンゴルの少女たちがやってきて、1曲400円程度で歌ってくれると言う。貧しさの中にいるのに、楽しそうに笑う彼女たちの笑顔を見ていて、任正非は涙が溢れてきた。それで自殺を思いとどまったと言う。

 

安易な社名の付け方を後から後悔

ファーウェイ(華為)という社名にはあまり深い意味はないという。起業するため、社名を決めなければならず、たまたま壁に「中華有為」(中華には大きな前途がある、可能性があるといった意味)という標語があって、そこから取ったにすぎない。

任正非は後からこのネーミングに後悔をしていたという。ひとつは「ホワウェイ」という発音がおとなしく、華やかさがないこと。もうひとつは、外国人から「ハワイ」と発音とスペル(huawei)が似ているため、しばしば間違えられるから。10数年にわたって、社名変更をすることが議論されたが、結局ファーウェイの名前が有名になったしまったため、社名変更はしない結論になったという。

 

給与の支払いは自社株で

ファーウェイは、社員に自社株を気前よく与えることで有名だ。そのため、現在のファーウェイにはファーウェイ株を大量に持っている資産家社員がたくさんいる。

ファーウェイが創業したばかりの頃、従業員に約束をした給料が支払えないことが常態化していた。その度に、任正非は社員に対して、借用書を書いていた。

ファーウェイの事業が軌道に乗っても、過去の莫大な社員に対する借金をきれいにできるほどの資金的余裕はなかった。そこで、借用書と自社株の交換を始めた。これが現在の社員株制度につながっている。

 

チョモランマの頂上に基地局を作るプロジェクト

任正非はチョモランマの頂上に携帯電話基地局を設置するプロジェクトを進めている。そんなところに基地局を作っても、ファーウェイの利益には何も貢献しない。しかし、登山者の命を救いたいのだという。ファーウェイは戦略的に上場をしていない。そのため、会社の利益にそぐわないことでも、ファーウェイの理想にかなうプロジェクトを進めることができる。これがファーウェイの強さなのだと任正非は言う。

 

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スタートアップでも大ヒットを生むことができる網紅食品の世界

女性3人が開発したオートミール食品「王飽飽」が大ヒット食品になっている。女性にターゲットを定め、「美味しいけど太らない」食品を開発し、SNSでのプロモーションを行った結果だと陳歓的新小売進化論が報じた。

 

スタートアップが発売した食品が大ヒット

日本でも爆発的な人気になるスイーツ、ドリンク、食品があるように、中国でも若い世代に爆発的な人気となる食品がある。そのような食品は、網紅食品と呼ばれる。網紅とは「ネットで人気になった」という意味。中国の食品の流行は、SNSによる拡散、網紅(中国版ユーチューバー)による拡散が発信源となることが多い。

2018年5月に発売されたオートミール食品「王飽飽」(ワンバオバオ)シリーズは、爆発的な人気となり、最初の一月で販売数が200万個を突破し、11月11日の独身の日セールにはたった1日で300万個が売れ、購入者数も累計で4000万人を突破した。

王飽飽は有名な食品企業が発売したのではなく、個人といってもいいほどの零細企業が発売したものだ。それが爆発的に売れ、王飽飽は2019年になって、1000万元(約1.5億元)のエンジェル投資を受け、正式に起業をすることになった。

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▲王飽飽の製品。低温焙煎処理をした食べやすいオートミールだが、抹茶ラテ味、酸味フルーツ味などバリエーションを作り、パッケージもSNS映えするものにした。

 

ただのオートミールが網紅食品になった理由

王飽飽は、網紅食品としてさまざまな工夫がされているものの、オートミール食品であることには変わりない。そのままスナックとして食べたり、牛乳やヨーグルトに浸して食べる。他の食品企業からも類似の食品はいくらでも発売されている。

基本は400g入りで種類によって49.9元と59.9元(約920円)。また33gの一食分パックが3つ入ったセットもあり、こちらは19.9元(約300円)。決して安価な食品ではない。それがなぜ、王飽飽は爆発的な人気となったのだろうか。

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▲王飽飽は、オートミールだが、さまざまな味をつけたドライフーズが入っている。牛乳やヨーグルトをかけるだけでバランスのいい朝食となり、低糖質食品であるので太らないということが受けている。

 

中国の消費行動に現れた網紅と国産化の2つのトレンド

王飽飽の創業者は、姚婧(ヤオ・ジン)という女性。彼女は、以前から網紅の影響力を活用した網紅経済に注目をしていた。元々化粧品の代理購入ビジネスをしていた。海外や独自のルートで安く化粧品を仕入れ、それをSNS「ウェイボー」を使って消費者に転売をするというビジネスだ。年商は2000万元(約3億円)を超えていた。その中で、KOL(Key Opinion Leader=インフルエンサー)と呼ばれる網紅の影響力の強さを実感していった。

姚婧が感じたもうひとつの潮流は、国産ブランドの成長だ。姚婧が代理購入ビジネスを始めた頃の化粧品は、欧米や日本、韓国といった海外ブランドが圧倒的に強かった。しかし、4年間の代理購入ビジネスをする中で、次第に中国ブランドの化粧品を使う人が増えていくことを実感した。

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▲王飽飽を創業した3人の女性。左が姚婧CEO。それぞれ代理購入ビジネス、ネットプロモーションなどで成功をしていたが、食品製造販売についてはまったくの素人だった。

 

商品のファンよりも、先にSNSのファンを獲得する

この網紅経済と国産ブランドという2つの潮流を活かしたビジネスを起こせないものか。友人の何亜渓に相談をすると、商品を発売するのに大事なのは、まずファンを獲得することだとアドバイスされた。何亜渓はメディア運営の経験があり、化粧品やグルメのネットプロモーションを仕事にしている。網紅にも知り合いが多い。彼女が言うファンとは、SNSでのファンのことで、まずSNSでプロモーションを行い、そのSNSのファンを先に獲得すべきだということだ。

化粧品であるなら、ただ化粧品の効能を宣伝するだけでなく、その化粧品を使っている網紅を登場させる。その化粧品を使ったらどんな素晴らしい人生が開けるかを想像させるコンテンツを発信する。そのSNSアカウントをエンターテイメントとして楽しむファンをまず作る。すぐに商品を買ってくれないかもしれないが、SNSのファンは近い将来、商品もリピートして買う商品のファンにもなってくれるのだ。

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▲王飽飽が発信したSNSのコンテンツ。商品の宣伝ではなく、その商品に付随するダイエット情報やSNS映えする写真が主体になっている。

 

「食べることは好きだけど、太るのは怖い」心理を焦点にする

さらに共通の友人の徐丹青を加えた3人は、姚婧と何亜渓が運営している化粧品関連のSNSアカウントのファンの発言を調べて、その人たちにうってつけの商品を開発して、SNSを通じて販売しようということで話がまとまった。

彼女たちのSNSのファンに共通していたのは「食べることは好きだけど、太るのは怖い」ということだった。ここを掘り下げるべきだという意見がまとまった。美味しけれど太らない食品があれば売れる。

彼女たちが注目をしたのが、燕麦を使ったオートミールだった。燕麦は低糖質食品として、朝食に食べる人が増えていた。しかし、あまり美味しくないことと、少し食べ過ぎただけで胸焼けがするのが問題だった。そこで、彼女たちは研究をして、燕麦を低温焙煎処理することにした。こうすると口あたりがよくなり、胸焼けもしなくなる。しかも、そのままスナックとして食べることもできるし、朝食として牛乳やヨーグルトをかけて食べることもできる。

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▲アリババのECサイト「Tmall」が分析した食品に求めらる消費者ニーズ。グローバル、代理食品(食事として食べられる)、網紅、低糖質、老舗、小分け包装などが強いニーズになっている。

 

販売とともにSNSでプロモーション

こうして生まれた王飽飽を2018年5月に、ECサイトタオバオ」で販売を始めた時に、彼女たちは自分のSNSでさまざまなプロモーションを行った。ショートムービーを多用し、商品の紹介だけでなく、ダイエット方法の紹介やどのようなシチュエーションで王飽飽を食べるとSNS映えするかなどの周辺情報を発信し、優待クーポンなどもSNSで配布をした。

さらに人脈を活かして、多数の網紅に商品を紹介した。網紅たちは、自分のメディアを使って、王飽飽を紹介してくれた。

ネットメディアなどの広告も行なったが、広告宣伝費は30万元(約460万円)ほどしか使わなかった。一方、ネットでは、200人の網紅に声をかけ、4000万人以上のファンを獲得した。こちらの費用は60万元(約920万円)程度で、明らかに網紅によるプロモーションの方が効率がはるかによかったことになる。

 

小さな成功が次々と支援者を呼び寄せる

王飽飽を創業した3人の女性は、SNSプロモーションの世界では達人だったが、食品製造販売については素人も同然だった。しかし、最初の1月で200万個を販売するというスタートダッシュに成功したため、世間から注目をされ、王飽飽を支援する人たちが次々と現れてきた。

最初に支援を申し出たのはECサイトタオバオだった。タオバオでは、出品者に対して販売ノウハウを教えるタオバオ大学を開催している。タオバオは、タオバオ大学の受講資格を提供した。王飽飽の3人は、ここでクレーマーに対応するノウハウ、SEO対策、物流、店舗運営などのノウハウを学ぶことになる。

さらに大手食品企業からもコラボの申し入れがあった。徐福記などとコラボしたオートミール食品を発売している。

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▲専用のペーパーバッグも開発。パッケージと同様に、女性に受けるデザインを採用している。

 

網紅経済で最も重要な資本は「ファン」

製品開発は簡単ではなかったという。食品ついては素人の3人は、100種類以上のオートミール食品を分析し、食品工場に通い詰めて、どのような製造が可能か、食材はどこから手に入れて、どのような加工をすればいいのかを一から学んでいった。さらに、大変だったのが食品安全法を学び、それを実施することだった。

それを乗り切れたのは、次から次へと支援してくれる人が現れたからだった。なぜ、周辺は彼女たち3人を支援するのか。それは、彼女たち自身がSNSメディアを持ち、大量のファンをすでに獲得しているからだ。そのファンたちが望むものを製造して発売すれば、成功することは目に見えている。だからこそ、支援する人たちが現れてくる。

資本主義経済で最も重要なのは資本=お金だ。しかし、今中国で起きている網紅経済で最も大切な資本はファンなのだ。

 

 

上海臨港地区に誕生した自動運転の聖地「Future LAIV」

人工知能産業の推進を力を入れている上海市は、臨港地区に2.3兆円をかけて、人工知能パークの整備を進めている。そこに、L4自動運転+5G通信=無人運転を意識した自動運転車の総合試験場「Future LAIV」がオープンしたと上海汽車報が報じた。

 

人工知能で巻き返しを狙う上海

上海市は、中国随一の経済都市だが、IT方面に関しては立ち遅れている。まとめ買いECサイトの「拼多多」(ピンドゥードゥー)ぐらいしか目立ったIT企業がない。IT関連だけに限れば、北京、深圳、広州、杭州などに遅れをとっているだけでなく、重慶西安武漢などの中堅都市にも追いつかれようとしている。

その上海が巻き返しを狙っているのが人工知能だ。上海市政府は、人工知能系の企業、スタートアップを誘致し、上海を人工知能産業の都市にしようとしている。

その拠点となるのが、上海臨港地区だ。315平方キロという、東京23区の面積の半分ほどの広大な土地に、人工知能だけではなく、さまざまな産業拠点を作ろうとするものだ。上海市政府は、臨港地区の開発にすでに1500億元(約2.3兆円)を投資している。

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上海市は、車で1時間の距離にある臨港地区に2.3兆円を投資し、人工知能産業の拠点にしようとしている。浦東国際空港や国際港も近い立地だ。

 

自動運転の総合試験場「Future LAIV」

今年2019年8月に、この臨港地区に上海臨港知能網聯汽車総合測試示範区がオープンした。通称「Future LAIV」と呼ばれるもので、自動運転車の総合試験場だ。

中国ではすでに自動運転車の公道試験だけでなく、運行も行われている。武漢市では、L4自動運転バスに正規のナンバーが交付をされ、一般乗客を乗せた試験運行が始まっている。長沙市では、百度のロボットタクシーが一般乗客を乗せた試験運行を始めている。一定期間、大きな問題が出なければ、そのまま営業運行に移動することを見据えたものだ。

ただし、L4自動運転は、一定条件下での自動運転。条件を外れる運転や緊急の場合は、人が介入して運転をする必要がある。そのため、自動運転といっても、監視員が運転席に座り、緊急時には運転操作を行う。無人運転にはならないのだ。

そこで注目されているのが、5G通信だ。遅延のない5G通信を使い、自動運転車のリモート監視を行い、緊急時には人がリモートで介入して運転をする。この方式であれば、監視員や運転士が不要の無人運転が実現できる。L5の完全自動運転のひとつ前のステップとして注目をされている。

バスやタクシーなどの自動車系公共交通の需要が突発的に急増した時、車両は割と簡単に手配ができる。しかし、運転士の手配がつかなく、増発ができないということが多い。L4+5G無人運転であれば、このような事態にも対応できることになる。

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▲Future LAIVは、上海臨港地区に建設された自動運転車のための総合試験場。5G通信が完備されていて、L4自動運転+5G通信により、無人運転を目指す自動運転車にとって最適の試験場になっている。

 

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長沙市で、試験営業が始まっている百度のロボットタクシー。市内の許可が下りている135kmの公道で、一般乗客を乗せている。

 

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武漢市で、試験営業免許が降りたL4自動運転バス。すでに乗客を乗せた運行が行われている。

 

人工環境を作り出す全長500mのトンネル試験設備

Future LAIVでは、このような自動運転のニーズを考慮して、さまざまな環境の試験道路が用意されているだけでなく、5G通信も完備されている。

もっとも注目されているのは、全長500mになるトンネル型試験道路だ。トンネル内ではGPS信号が遮断をされているので、自動運転車はセンサーから得られる情報だけで走行をしなければならない。トンネル内の照明は、さまざまな設定ができるようになっていて、昼間や夜といった状況を模擬的に作り出すことが可能だ。

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▲全長500mのトンネル型試験道路。GPS信号を遮断し、トンネル内では照度を制御し、人工的にさまざまな天候を再現できる。

 

雨や霧を人工的に作り出す試験道路

また、人工降雨道路も用意されている。光学センサーで状況を探査するシステムの場合、豪雨や濃霧は大きなノイズとなり、障害物と判断をして停止してしまうことがある。また、交通信号を画像解析で判定している場合も、雨や霧や障害となる。

この人口降雨道路では、人為的に雨を降らしたり、霧を発生させることができる。

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▲雨や霧などを人工的に再現できる試験道路。ミリ波レーダー、レーザーレーダーなどは、雨や霧などが大きな障害となるため、最近ではより波長が短く、微粒子まで判別できるレーダーが使われるようになっている。そのような試験が行える。

 

5G通信による無人運転が試験できる試験場

Future LAIVには、このような試験道路が合計で26.1km設置されている。また、3平方キロの閉鎖区域も用意され、公道試験の許可が降りていない自動運転車の試験走行も可能になっている。

さらに、閉鎖区域内には、1.2kmの高速道路を模した試験道路が用意され、この道路には5G通信設備が用意されている。この通信設備は、細かく制御が可能で、部分的に5Gから2Gに落とすなどということもできる。

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▲自動運転車の閉鎖区間試験場。公道での試験免許がまだ取れない自動運転車がここで走行試験を行う。

 

陸海空の無人操縦の拠点を目指す上海臨港地区

臨港地区では、このFturure LAIVを中心にして、自動運転車試験の聖地とし、周辺に人工知能企業を集めようとしている。臨港地区では、昨2018年「陸海空無人システム総合模範区計画」を発表していて、将来的には自動車だけではなく、航空機、ドローン、船舶などの無人運転の試験センターに育てていく計画だ。すでに上海汽車、図森未来などの自動運転システムを開発している企業が、このFuture LAIVで走行試験を始めている。

 

 

1/3の都市で起きている「縮小都市現象」。都市の再編が始まっている

都市でも一定基準以上の人口密度、経済活動がある地域を実体都市として研究をすると、1/3の都市で人口が減少していることがわかった。大都市は周辺に拡大をするドーナツ現象が起き、地方都市は中核都市に集約される都市の再編が始まっていると中国城市中心が報じた。

 

一定基準以上の人口密度、経済活動のある実体都市の研究

都市の人口を正確に知ることは難しい。多くの国では住民票のような現住所登録を元に算出し、日本では多くの人がきちんと住民登録をしているのでほぼ正確に都市人口を算出することができる。しかし、中国では住民票(戸籍)を簡単に移すことができないので、多くの人が元の場所に戸籍を置いたまま、他都市で暮らしている。特に近隣の農村や地方都市から仕事を求めて大都市に出てきている人は多く、「○○市の統計上の人口は○○万人だが、実際は××万人を超えていると言われる」などという曖昧な言い方がされる。

そこで、百度地図慧眼と清華大学建築学院は共同して、都市の実体人口の研究を進め、その成果を公表した。すると、大都市であっても、実体人口が減少している「縮小都市」が広がっていることがわかった。

 

地図アプリから人口動態を割り出し実体都市を定義する

日本のグーグルマップと同じように、中国でも百度地図は頻繁に使われ、位置情報の照会は1日に1200億回もある。月間アクティブユーザーは11億人に達し、ほぼ全国の都市農村で使われている。

百度地図慧眼は、この百度地図から得られるデータを活用して、さまざまな研究活動、コンサルティングを行っている。百度地図の利用データを追跡すると、その人が住民登録にかかわらず、どこを生活拠点にし、どこで仕事をしているかがわかる。ここから、都市の正確な昼間人口、夜間人口、移動動態を分析することができる。

 

大きなズレがある行政区分都市と実体都市

都市人口を正確に知るための問題は、住民票の問題だけではない。行政都市範囲と実体都市範囲に大きなずれがあることも問題になる。

中国の多くの都市は、周辺の県や地方都市を併合していって拡大をしている。例えば、北京市の面積は1万6400平方キロあるが、その2/3は山地だ。人口密度、公共施設、経済活動、一人当たりのGDPなどから、実質的な都市だと呼べる地域は、1420平方キロ程度でしかない。

研究チームは、この実体都市の基準を作成し、2017年1月と2019年1月の実体都市の実体人口を、百度地図から得られたデータで比較を行った。つまり、行政区分の都市ではなく、都市実体がある場所での人口の比較を行った。1日の間で、人が激しく移動する都市のリアルな比較が行えるようになった。

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北京市と地方都市との石家庄の比較。北京市は周辺に拡大をしているので、農村までもが北京市になっているため、実体都市は行政区域の一部でしかない。地方都市の石家庄では、周辺の成長が始まっていないため、実体都市と行政区域がほぼ一致をしている。

 

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▲各都市の実体都市と行政区域。都市の行政区域は周辺部に拡大し、農村なども飲み込んでいる。そのため、都市とは言えない地域も都市面積に含まれてしまっている。百度地図慧眼と清華大学建築学院は、人口密度、経済活動などに基準を設けて、実体都市の人口動態を研究した。

 

全都市の34.9%で人口が減少している

その結果によると、全国の実体都市3022都市の増加率の平均はわずか0.8%でしかなかった。しかも、1506の実体都市は人口が減少していて、全都市数の34.9%にあたる。さらに178の実体都市では人口減少率が15%を超えるという状態になっている。

一方で、人口が増加した実体都市は1516で、平均増加率は9.4%だった。

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▲縮小都市の分布。大都市が飽和をしてドーナツ化するケースと、地方都市で衰退が始まって縮小するケースがある。

 

都市の発展時代から広域地域の発展時代に

研究チームは、実体都市の実体人口が5%以上減少している都市を縮小都市と定義をした。縮小都市は全部で217都市で、全体の7.2%にあたる。

この縮小都市の特徴は、発展が遅れた地方都市だけではなく、中国を代表する大都市も含まれている。例えば、中国で最も発展している地域として、北京を中心にした京津冀(北京、天津、河北省)地域、珠江デルタ(広州、深圳、東莞、マカオなどの三角州地帯)が挙げらるが、いずれも今回の研究では縮小都市になっていることが明らかになった。

図を見ていただけるとわかるが、中心地の実体人口が減少して、その周辺の衛星都市の人口は減少をしていない。つまり、ひとつの都市による発展はすでに飽和して、広域の都市連合による地域発展のフェーズに入っていることがうかがわれる。

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珠江デルタ地域(左)と京津冀地域(右)の人口動態。いずれも中心部では人口が減少(緑色)しているが、衛星都市では人口が減少していない(灰色)。実体都市が拡散をして、地域として発展をしている姿が見える。

 

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▲実体都市を見ると、人口が減少している縮小都市が全体の34.9%になった。大規模都市でも縮小都市になっているところがある。北京市などは、すでに中心部が飽和をしてドーナツ化現象が起きている。

 

地方の小都市は、中核都市への集約化が始まっている

縮小都市には2種類がある。違いは、実体人口は減少しているが、就業人口が増加をしている縮小都市と、実体人口、就業人口の両方が減少している縮小都市だ。実体人口が減少しても就業人口が増加をしている実体都市は、居住地域が郊外に移動をしているが、実体都市の経済は発展をしている。縮小都市といっても、衰退をしているのではなく、中心部が飽和をしてドーナツ化現象が起きていることになる。中規模都市以上で、商業地の整備が進んでいる場合、このような現象が起きる。このような縮小都市は24あり、縮小都市の11.1%になる。

一方で、実体人口も就業人口も減少している縮小都市は、地方の小都市に多く、より大きな中核都市に実体人口、就業人口のいずれも集約化が進んでいる。このような実体都市ではGDPも低下をしている。このような縮小都市は、147あり、縮小都市の67.7%になる。

 

市単位の行政は、時代に合わなくなっているとの指摘も

いずれの場合でも、縮小都市の縮減は、経済の衰退ではなく、都市の広域化に伴う現象だ。地方都市は、地方の中核都市に集約が起こり、その中核都市を中心にして大都市化をしていく。すでに大都市になっている都市では、隣接する都市との連携が深まり、広域地域としての発展が始まっている。

中国では市政府の権限が強く、都市ごとに独自政策を打ち出せるようになっているが、すでに市政府という行政単位を再考すべき時期にきていると指摘をする識者もいる。市政府同士が連携をするのではなく、より大きな都市連合政府のような仕組みを検討すべき時期にきているとする見方だ。

従来は、このような都市人口の流入、流出は、住民統計を基礎にして推計で語るしかなかった。しかし、百度地図などに代表される地図サービスを多くの人が使うことによって、実データを基礎にして語ることができるようになっている。

「地図感覚」から都市を読み解く: 新しい地図の読み方

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文字を脳から直接入力する脳波タイピング。1文字あたり0.413秒の世界新記録

北京で開催された世界ロボット大会で、脳波を使って文字を入力する速さを競うコンテンストが開催された。優勝したのは、天津大学の大学院生で、1文字あたりの入力に0.413秒しかかからないという世界新記録を樹立したと新京報が報じた。

 

脳波入力のコンテストの記録は1文字あたり0.413秒

中国北京市では、2015年から世界ロボット大会が開催されている。中国科学技術協会、工信部、北京市政府などが主催をするもので、今年2019年で第5回目の開催となる。2019世界ロボット大会は、北京市大興区にある亦創国際会展センターで行われた。

このE館では、脳から直接文字入力をするコンテンストが開催され、天津大学の学生、魏斯文が、毎分691.55ビットの成績で優勝をした。これは英文を入力した場合、1文字あたり0.413秒に換算できるという。

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▲コンテストで優勝してインタビューを受ける魏斯文さん。天津大学の大学院生で、今回1文字あたり0.413秒という記録を出した。

 

タイピング入力よりも速い脳波入力

このコンテンストには、3名の選手が出場し、45種類の文字と記号を脳波を使って入力するというトライを4回ずつ繰り返した。3名による4回ずつのトライ、合計12回の中で、最も好成績を挙げたのが、天津大学神経工学の修士2年生の魏斯文だった。毎分691.55ビットというもので、2位の成績は他の選手による451.99ビットというものだった。

この毎分691.55ビットは、英文字入力に換算すると1文字あたり0.413秒になる。一般的に英文は1分100文字が「速いタイピング」の目安になっている。これは1文字あたり0.6秒になるので、手でタイピングするよりも速く、脳波タイピングができたことになる。

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▲世界ロボット大会で開催された脳波タイピングコンテストのスコアボード。出場選手は3人だけだったが、それでも手による入力を上回るタイピング速度の記録が出た。

 

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▲出場した3選手。2位、3位は、手入力よりも遅い速度しか記録することができなかった。

 

文字ごとに異なる明滅周期と脳波をシンクロさせる

入力方法は、頭皮に直接触れる電極をつけ、目の前の文字パネルを見る。この文字パネルの各文字は、すべての文字が異なる周期で明滅をしている。ここで、選手は入力したい文字に意識を集中させる。その文字の明滅周期と脳波の周期が一致した時に、その文字が入力されたということになる。

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▲入力時の様子。パネル上の文字はそれぞれ異なる周期で明滅している。選手が入力したい文字に意識を集中させると、脳波がその文字の明滅周期にシンクロをする。これで文字が入力できる。

 

本選は2000名が参加、40名が決勝に進出

ただし、この脳波タイピングは誰にでもできるというものではないようだ。脳波タイピングのシステムを開発した精華大学医学院西部医学工学の高小榕教授によると、脳波タイピングコンテストはすでに3回目の開催となるという。今回もすでにコンテストが開催されていて、2000名余りが参加をし、40名が決勝に進んだ。

今回の世界ロボット大会に出場した3人は、いずれも決勝進出者で、今回は世界記録を出すためのコンテストだったという。

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▲同じ会場で、電動車椅子を脳波でコントロールするシステムの展示も行われ、多くの人が体験をした。

 

入力速度よりも創造力トレーニングや医療への応用

専門家によると、手よりも速くタイピングすること自体に大きな意味はないが、この仕組みは人の注意力、創造力、記憶力などを鍛えることに応用ができるとしている。また、医療関係者はALSなどの難病患者とのコミュニケーションを取る方法として期待ができるという。

このようなコンテンストは、現在のところ、世界ロボット大会のみで行われているため、1文字あたり0.413秒という成績が、現在のところ、世界新記録ということになる。