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スタートアップでも大ヒットを生むことができる網紅食品の世界

女性3人が開発したオートミール食品「王飽飽」が大ヒット食品になっている。女性にターゲットを定め、「美味しいけど太らない」食品を開発し、SNSでのプロモーションを行った結果だと陳歓的新小売進化論が報じた。

 

スタートアップが発売した食品が大ヒット

日本でも爆発的な人気になるスイーツ、ドリンク、食品があるように、中国でも若い世代に爆発的な人気となる食品がある。そのような食品は、網紅食品と呼ばれる。網紅とは「ネットで人気になった」という意味。中国の食品の流行は、SNSによる拡散、網紅(中国版ユーチューバー)による拡散が発信源となることが多い。

2018年5月に発売されたオートミール食品「王飽飽」(ワンバオバオ)シリーズは、爆発的な人気となり、最初の一月で販売数が200万個を突破し、11月11日の独身の日セールにはたった1日で300万個が売れ、購入者数も累計で4000万人を突破した。

王飽飽は有名な食品企業が発売したのではなく、個人といってもいいほどの零細企業が発売したものだ。それが爆発的に売れ、王飽飽は2019年になって、1000万元(約1.5億元)のエンジェル投資を受け、正式に起業をすることになった。

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▲王飽飽の製品。低温焙煎処理をした食べやすいオートミールだが、抹茶ラテ味、酸味フルーツ味などバリエーションを作り、パッケージもSNS映えするものにした。

 

ただのオートミールが網紅食品になった理由

王飽飽は、網紅食品としてさまざまな工夫がされているものの、オートミール食品であることには変わりない。そのままスナックとして食べたり、牛乳やヨーグルトに浸して食べる。他の食品企業からも類似の食品はいくらでも発売されている。

基本は400g入りで種類によって49.9元と59.9元(約920円)。また33gの一食分パックが3つ入ったセットもあり、こちらは19.9元(約300円)。決して安価な食品ではない。それがなぜ、王飽飽は爆発的な人気となったのだろうか。

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▲王飽飽は、オートミールだが、さまざまな味をつけたドライフーズが入っている。牛乳やヨーグルトをかけるだけでバランスのいい朝食となり、低糖質食品であるので太らないということが受けている。

 

中国の消費行動に現れた網紅と国産化の2つのトレンド

王飽飽の創業者は、姚婧(ヤオ・ジン)という女性。彼女は、以前から網紅の影響力を活用した網紅経済に注目をしていた。元々化粧品の代理購入ビジネスをしていた。海外や独自のルートで安く化粧品を仕入れ、それをSNS「ウェイボー」を使って消費者に転売をするというビジネスだ。年商は2000万元(約3億円)を超えていた。その中で、KOL(Key Opinion Leader=インフルエンサー)と呼ばれる網紅の影響力の強さを実感していった。

姚婧が感じたもうひとつの潮流は、国産ブランドの成長だ。姚婧が代理購入ビジネスを始めた頃の化粧品は、欧米や日本、韓国といった海外ブランドが圧倒的に強かった。しかし、4年間の代理購入ビジネスをする中で、次第に中国ブランドの化粧品を使う人が増えていくことを実感した。

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▲王飽飽を創業した3人の女性。左が姚婧CEO。それぞれ代理購入ビジネス、ネットプロモーションなどで成功をしていたが、食品製造販売についてはまったくの素人だった。

 

商品のファンよりも、先にSNSのファンを獲得する

この網紅経済と国産ブランドという2つの潮流を活かしたビジネスを起こせないものか。友人の何亜渓に相談をすると、商品を発売するのに大事なのは、まずファンを獲得することだとアドバイスされた。何亜渓はメディア運営の経験があり、化粧品やグルメのネットプロモーションを仕事にしている。網紅にも知り合いが多い。彼女が言うファンとは、SNSでのファンのことで、まずSNSでプロモーションを行い、そのSNSのファンを先に獲得すべきだということだ。

化粧品であるなら、ただ化粧品の効能を宣伝するだけでなく、その化粧品を使っている網紅を登場させる。その化粧品を使ったらどんな素晴らしい人生が開けるかを想像させるコンテンツを発信する。そのSNSアカウントをエンターテイメントとして楽しむファンをまず作る。すぐに商品を買ってくれないかもしれないが、SNSのファンは近い将来、商品もリピートして買う商品のファンにもなってくれるのだ。

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▲王飽飽が発信したSNSのコンテンツ。商品の宣伝ではなく、その商品に付随するダイエット情報やSNS映えする写真が主体になっている。

 

「食べることは好きだけど、太るのは怖い」心理を焦点にする

さらに共通の友人の徐丹青を加えた3人は、姚婧と何亜渓が運営している化粧品関連のSNSアカウントのファンの発言を調べて、その人たちにうってつけの商品を開発して、SNSを通じて販売しようということで話がまとまった。

彼女たちのSNSのファンに共通していたのは「食べることは好きだけど、太るのは怖い」ということだった。ここを掘り下げるべきだという意見がまとまった。美味しけれど太らない食品があれば売れる。

彼女たちが注目をしたのが、燕麦を使ったオートミールだった。燕麦は低糖質食品として、朝食に食べる人が増えていた。しかし、あまり美味しくないことと、少し食べ過ぎただけで胸焼けがするのが問題だった。そこで、彼女たちは研究をして、燕麦を低温焙煎処理することにした。こうすると口あたりがよくなり、胸焼けもしなくなる。しかも、そのままスナックとして食べることもできるし、朝食として牛乳やヨーグルトをかけて食べることもできる。

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▲アリババのECサイト「Tmall」が分析した食品に求めらる消費者ニーズ。グローバル、代理食品(食事として食べられる)、網紅、低糖質、老舗、小分け包装などが強いニーズになっている。

 

販売とともにSNSでプロモーション

こうして生まれた王飽飽を2018年5月に、ECサイトタオバオ」で販売を始めた時に、彼女たちは自分のSNSでさまざまなプロモーションを行った。ショートムービーを多用し、商品の紹介だけでなく、ダイエット方法の紹介やどのようなシチュエーションで王飽飽を食べるとSNS映えするかなどの周辺情報を発信し、優待クーポンなどもSNSで配布をした。

さらに人脈を活かして、多数の網紅に商品を紹介した。網紅たちは、自分のメディアを使って、王飽飽を紹介してくれた。

ネットメディアなどの広告も行なったが、広告宣伝費は30万元(約460万円)ほどしか使わなかった。一方、ネットでは、200人の網紅に声をかけ、4000万人以上のファンを獲得した。こちらの費用は60万元(約920万円)程度で、明らかに網紅によるプロモーションの方が効率がはるかによかったことになる。

 

小さな成功が次々と支援者を呼び寄せる

王飽飽を創業した3人の女性は、SNSプロモーションの世界では達人だったが、食品製造販売については素人も同然だった。しかし、最初の1月で200万個を販売するというスタートダッシュに成功したため、世間から注目をされ、王飽飽を支援する人たちが次々と現れてきた。

最初に支援を申し出たのはECサイトタオバオだった。タオバオでは、出品者に対して販売ノウハウを教えるタオバオ大学を開催している。タオバオは、タオバオ大学の受講資格を提供した。王飽飽の3人は、ここでクレーマーに対応するノウハウ、SEO対策、物流、店舗運営などのノウハウを学ぶことになる。

さらに大手食品企業からもコラボの申し入れがあった。徐福記などとコラボしたオートミール食品を発売している。

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▲専用のペーパーバッグも開発。パッケージと同様に、女性に受けるデザインを採用している。

 

網紅経済で最も重要な資本は「ファン」

製品開発は簡単ではなかったという。食品ついては素人の3人は、100種類以上のオートミール食品を分析し、食品工場に通い詰めて、どのような製造が可能か、食材はどこから手に入れて、どのような加工をすればいいのかを一から学んでいった。さらに、大変だったのが食品安全法を学び、それを実施することだった。

それを乗り切れたのは、次から次へと支援してくれる人が現れたからだった。なぜ、周辺は彼女たち3人を支援するのか。それは、彼女たち自身がSNSメディアを持ち、大量のファンをすでに獲得しているからだ。そのファンたちが望むものを製造して発売すれば、成功することは目に見えている。だからこそ、支援する人たちが現れてくる。

資本主義経済で最も重要なのは資本=お金だ。しかし、今中国で起きている網紅経済で最も大切な資本はファンなのだ。