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10年前に誘拐された子どもをテンセントの顔識別技術で発見。7人の子どもを親元に返すこと成功

10年前、3歳の時に誘拐された子どもの3歳時の写真と現在の写真が同一人物かどうかを判定する人工知能技術をテンセントが開発した。四川省公安では、この技術を使って、7人の子どもを親元に返すことに成功したと新華網が報じた。

 

10年前に誘拐された子どもを顔識別技術で特定

今年2019年5月に、四川省の公安が、粘り強い捜査により、誘拐された4人の子どもを発見することに成功をした。4人が誘拐されたのは10年前のこと。顔は親が見ても、道ですれ違った程度では気がつかないほど変わっている。中には、幼い頃に誘拐されたので、自分の名前や出身地もよくわからない子もいる。

この特定に貢献したのが、テンセントの顔識別技術だ。人工知能が年齢による変化を学習して、幼い頃の写真と10代になった時の顔で、同一人物であるかどうかを判定した。これにより、氏名などが判明し、親とのDNA鑑定を経て、10年ぶりに親の元に戻された。

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▲テンセントは以前から、誘拐された子どもの情報プラットフォーム「牽挂儞」を公開している。今回の年齢変化を考慮した顔識別技術も搭載され、疑わしい子どもの顔写真をスマホで撮影すると、登録されている子どもの中に同一人物がいないかどうかを判定してくれる。

 

記憶が曖昧な3歳以下の子どもが狙われる

捜査を担当した四川省公安庁刑偵局の蒋暁玲所長は、当時のことを思い出す。誘拐された子どもの両親から、捜査資料として子どもの写真を借りるが、どの親も「絶対になくさないでください。絶対に返してください」と何度も頭を下げる。「親にとっては、子どもが残してくれた唯一のものなのです」。

2008年から2010年にかけて、3歳前後の子どもが連続して誘拐されるという事件が起きた。そのうちの一人桂豪は、四川省武勝県の沿口鎮にある酒屋の子どもだった。

両親は当時のことをよく覚えている。2009年6月12日午後5時、桂豪は店の前で他の子どもたちと遊んでいた。母親は仕事をしながら、その姿を見守っていたが、日が傾いて寒くなってきたので、子どもの上着を取りに家に入ったわずかな時間だけ、目を離してしまった。その数分で、桂豪はいなくなっていた。

この3年間で、中国で誘拐された子どもは57人。しかし、90年代、00年代は毎年数百人の規模で子どもが誘拐されていた。多くの場合、養子が欲しい家庭に売られて、そこの子どもとして育てられる。3歳以下の子どもが狙われるため、自分の名前や生まれに対する記憶も曖昧なため、時間が経ってから親元に返すのは至難の技だ。

2009年から公安は、誘拐された幼児のDNAデータベースの構築を始め、これにより6108人の子どもが親元に返された。

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▲「牽挂儞」には、誘拐された子どもの情報や顔写真が登録されている。

 

成長して顔が変わることが捜査を難しくしている

2014年、四川省公安は、子どもを誘拐して売っていたある男を逮捕した。その男は約10名の子どもを誘拐して、広東省の各地にすでに売っていた。誘拐された子どもがどこにいるかが特定できれば、DNAデータベースと照合することで身元がわかるが、どこで暮らしているのかもわからない状態では、3歳の時の写真しか手がかりがない。3歳の時に誘拐された桂豪は、すでに8歳になっている。顔は大きく変わっていて、捜索は難航した。

蒋暁玲所長は言う。「訪問調査、成長した姿を想像した似顔絵、ネット広告などできることはすべて試しましたが、10名の子どもは見つかりません。犯人は、自分で直接子どもを売るのではなく、中間業者に売ります。この中間業者を逮捕しないとどこに売られたがわからないのです」。

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▲耳の形は、年齢でもあまり変わらないと言われ、今回の開発でも実際にそうであることが確かめられたという。人工知能はこのような点を頼りに、年齢を超えて同一人物であるかどうかを判定する。

 

顔の年齢変化に使えるモデルが存在しない

この捜査に、テンセントの優図ラボが顔識別技術を使って協力することになった。しかし、優図顔識別アルゴリズム研究の責任者である李新博士は、「これは難しい」と感じた。現在の写真があれば、同一人物であるかどうかを照合するのは簡単なことだ。しかし、3歳の時の写真と、この時点で11歳になっている人物が同一人物であるかどうかを判別するのは至難の技だ。

李博士は言う。「作業は難航しました。人の顔が年齢によりどのように変化するかというモデルはまだ成熟したものが存在しないこと、学習に利用できるサンプルが少ないということが大きな課題でした」。

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▲異なる人物の相違点、同じ人物の年齢による相違点を人工知能に学習させることで、年齢による相違点を打ち消して、年齢を超えて同一人物であるかどうかを判定させる。

 

年齢変化による相違点を学習させ、人工知能を鍛える

この問題をクリアするのに半年かかった。「簡単に言うと、人工知能を先生にして、人工知能を学習させたのです」。同一人物だが年齢が異なる顔を顔識別させると、一致度は同じ年齢の異なる人物の顔同士よりも下がる。この時、人工知能がどこの部分を相違点として見ているかを解析して、この相違点がなくなるように人工知能を学習させ、年齢による変化による影響を打ち消していった。

つまり、通常の顔識別人工知能を「反面教師」として、年齢による変化を学習させていったのだ。異なる人物の相違点は異なる人物として判定をし、年齢による変化については同一人物として判定する人工知能が完成した。最終的に、年齢が異なっても同一人物として判定できる正解率は96%に到達したという。

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▲年齢変化を考慮して同一人物であるかを判定できる顔識別技術がテンセントにより開発された。年齢変化による不一致点を人工知能に学習させ、モデルを構築した。写真は、テンセントがデモとして公開したもので、実際の被害者ではない。

 

疑わしい子どもの写真を入手し、同一人物かどうかを判定する

その後、四川省公安が捜査やDNA鑑定で、身元を特定した4人の子どもの顔写真を使って試験をしてみると、4人のうち3人を同一人物として判定することができた。

さらに四川省公安は、聞き込み調査などから「誘拐された子どもではないか」と疑われる子どもの現在の写真を入手、テンセント優図ラボの顔識別技術を使って、身分を特定。裏どり捜査をした上で、DNA鑑定をするという手法で、この犯人が誘拐した10人の子どものうち、7人を親元に返すことに成功した。この中には、桂豪も含まれていた。

テンセント優図ラボでは、さらに学習を進め、現在の正答率は99.8%に達しているという。この成功により、すでに各地の公安からは協力の依頼が相次いでおり、中国公安部でもこの技術を全国的に応用する施策の検討に入っている。

 

成功するインフルエンサーは投稿時間も戦略的。統計でわかった週末午前9時のスイートスポット

卡思データは、中国版Tik Tok「抖音」(ドウイン)内のインフルエンサーが動画を公開している時間とその効果の関係を分析した「抖音ショートムービー公開時間報告」を公開した。これによると、ファン数300万以上のインフルエンサーは、他とは違う行動をしていることがわかった。

 

中国版Tik Tokはインフルエンサーにより大きなお金が動く

抖音は中国版Tik Tok。と言うより、中国北京市のバイトダンスが運営する「抖音」が本家で、その海外版がTik Tokだ。グローバルでのアクティブユーザーは5億人を突破している。

一般に、音楽、ダンス系のショートムービー共有アプリとして知られるが、本家の中国ではすでに音楽やダンス以外のグルメ、旅行、ファッション、ペットという動画共有も盛んで、特に紅人(インフルエンサー)と呼ばれる人の動画は、莫大なお金が動くビジネスになっている。インフルエンサーが着ている服、装飾品などをファンが購入するからだ。現在では、それを意識して、家電製品やスイーツ、化粧品を積極的に紹介する動画も投稿されている。

 

視聴者の反応は、水金土が多い

この報告書では、インフルエンサーたちがどの日のどの時間に投稿をしているか、そしてそれがどの程度のハート(いいね)、コメントを獲得しているかを分析している。

一週間の曜日では、投稿数に大きな違いは見られない。週末も土曜日がやや多いぐらいで、日曜日はむしろ少なくなる。

しかし、ファンの反応には曜日による違いがある。ハートの獲得数、コメントは水曜日、金曜日、土曜日が多いのだ。水曜日はコメントが多く、金、土はハート獲得数が多い。

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▲Tik Tokの動画投稿数全体では、平日も週末(周六が土曜日、周日が日曜日)も大きな違いはない。むしろ日曜日はやや少ないほど。

 

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▲ところが、ファンの反応には違いがある。水曜日(周三)と金曜日(周五)、土曜日(周六)に、点賛(いいね)、評論(コメント)が多い。

 

トップインフルエンサーは、金土に動画を投稿する

この違いが生まれる理由は、ファン数の多いインフルエンサーほど、意識的に金、土に動画を投稿していることだと思われる。ファン数が300万人以上のインフルエンサーは、明らかに金、土の投稿数が多く、ファン数が10万から30万とインフルエンサーとしては影響力が大きく無くなるほど、投稿数が平均化していく。

これは獲得するハート数、コメント数の統計でも同じだ。ファン数300万人以上のインフルエンサーは金、土、水にハートとコメントを獲得しているが、ファン数10万から30万のインフルエンサーになるほど平均化していく。

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▲ファン数300万以上のトップインフルエンサーたちは、金土に多く投稿し、日月火は少ない。ファン数が10万から30万という少ないインフルエンサーほど、投稿日が平均化していく。

 

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▲点賛(いいね)の数も、ファン数300万以上のトップインフルエンサーでは、水金土に集中する。ファン数の少ないインフルエンサーほど平均化していく。

 

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▲コメント数も、トップインフルエンサーほど曜日による違いが大きく、ファン数の少ないインフルエンサーほど平均化をしていく。

 

平日は男性向け動画、週末は娯楽系動画

つまり、ファン数の多いインフルエンサーほど、投稿する日を定めて、計画的に行動していることがわかる。

インフルエンサーのジャンル別に見ても、平日は科学技術系、自動車系という男性向けのインフルエンサーの投稿数が多く、金土日の週末では、萌え系、ゲーム系のインフルエンサーの投稿するが多くなる。

 

投稿時間は、昼食、夕食を狙う

1日の中で見ると、投稿の多いのは午前11時から午前12時、午後5時から午後7時の間に集中している。いわゆる昼食時間、夕食時間を狙って投稿していることがわかる。この傾向は、平日、週末ともの大きな違いはない。ただし、週末は夕方の投稿が減り、午後の投稿がその分多くなる。

平日は多くの人が仕事をしているため、午後の時間に投稿をしても再生数が伸びない。その分が夕食時間に集中するのだと思われる。

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▲1日の中での投稿時間は、昼食前、夕食前の時間にピークがある。

 

新たに分かった週末午前9時のスイートスポット時間帯

ファンの反応も投稿数に比例をするが、週末の午前9時には獲得ハート数が多くなるという現象が現れている。朝起きて、ゆっくりと朝食をとりながらTik Tokを見ることが多いのだろう。この現象は、もっと利用されていいはずなのだが、現在のところ、週末の朝に投稿数が増えるという現象は起きていない。

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▲ファンの反応は、圧倒的に夕食前の時間が多い。平日(工作日)では帰宅時間にあたり、週末では夕食前の時間にあたる。そして、今回、統計から新たに分かったのが、週末の午前9時のピークだ。週末に遅い朝食をとりながら、Tik Tokを見る人が多いのではないかと推測される。

 

トップインフルエンサーは、投稿時間にも狙いがある

ファン数の異なるインフルエンサーの投稿時間では、やはりファン数300万人以上のインフルエンサーは計画的に投稿していることがわかる。平日は午後5時から午後7時に投稿が集中している。ファン数が少なくなるほど、他の時間に平均化していく傾向がある。

週末も、ファン数300万人以上のインフルエンサーは午前11時から12時、午後5時から7時に投稿が集中し、その他の時間は少なくなる。ファン数が少なくなるほど、投稿時間が他の時間帯に分散をしていく。

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▲トップインフルエンサー(赤)ほど、夕食前の時間に投稿をしている。反応がいい時間帯を狙って、戦略的に投稿しているのだと思われる。

 

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▲週末もトップインフルエンサー(赤)ほど、夕食前の時間を狙って投稿している。しかし、午前9時のファンの反応がいいスイートスポット時間帯には、トップインフルエンサーたちもまだ気がついていないようだ。

 

成功するインフルエンサーは投稿も戦略的に行っている

つまりは、ファン数を多く獲得するインフルエンサーほど、自分の投稿が見られる時間帯を狙って計画的に投稿をしているということがデータからもはっきりした。また、週末の午前9時という投稿数がさほど多くないのに、ハートが獲得できる時間帯があることもわかった。このスイートスポットのような時間帯を利用するインフルエンサーも今後出てくるものと思われる。

 

赤字のままでナスダック上場を果たしたラッキンコーヒーの秘密

中国で異常な勢いで成長し、スターバックス超えが現実的になっているカフェチェーン「ラッキンコーヒー」が、赤字のまま米ナスダック上場を果たした。赤字でも上場できたのは、モバイルオーダーを利用して、徹底して店舗運営コストを抑えたコスト構造にあると青年横財発展会が報じた。

 

「戦略的赤字」を出し続けるラッキンコーヒー

瑞幸珈琲(ルイシンカーフェー、ラッキンコーヒー)が2019年5月17日に米ナスダック市場に上場し、5億6100万ドル(約600億円)を調達した。創業わずか2年足らずでの快挙だ。

しかし、米証券取引員会への提出書類では、2018年の売上は1億2500万ドル、オペレーションコストは3億6300万ドルで、最終損失は2億4100万ドルとなっている。それどころではない。ラッキンコーヒーの銭治亜CEOは、今後3年から5年にわたって「戦略的赤字」を出し続けると公言している。

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▲ラッキンコーヒーのブルーに鹿のカップは、もはや中国では馴染みのあるものになっている。

 

赤字上場する企業の大半は、将来の利益が約束されたサブスク企業

赤字のまま上場する企業がないわけではない。しかし、その多くは音楽ストリーミングサービスのSpotifyなどのサブスクリプションサービスだ。サブスクでは、「会員が辞めない」「新規会員の獲得」の2つの施策がしっかりしていれば、黒字化すれば安定して収益を上げ続ける。その構造が評価されて上場が可能になる。

しかし、小売で赤字上場は珍しい。赤字であるだけでなく、将来の収益も保障されていない。極端な話、強力なライバルが登場すれば、一瞬で転落する可能性もゼロではないのだ。

 

投資資金を燃やしながら走り続けるラッキンコーヒー

専門家の間にはラッキンコーヒーの将来性を危ぶむ人もいる。中国では「投資資金を燃やしながら走っている」と形容されているほどだ。しかし、それでも上場ができ、その株を購入する人がいる。ラッキンコーヒーは、コーヒーのコスト構造に革命を起こしたからだ。

 

原材料コストは安いが店舗コストが高いカフェ

コーヒーの原材料コストは極めて低い。これがコーヒービジネスの基本にある。一般的にコーヒー豆、ミルク、砂糖、カップなどのコストは一杯あたり4元から5元程度だと言われる。

かといって、カフェが大儲けをしているわけではない。人件費、店舗費用、家賃、内装などのコストがかかる。これが一般的には一杯あたり10元から12元になる。

合計して、一杯のコーヒーのコストは14元から17元程度になり、これを24元で売ると、7元から10元の利益が出ることになる。

コーヒーの原材料コストは店舗運営コストの3分の1程度なのだ。つまり、カフェでコーヒーを飲む人は、コーヒーを買っているのではなく、空間を買っていることになる。

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▲コーヒーの原価構造。ラッキンコーヒーはコーヒーそのものにコストをかけて、店舗のコストは極限まで抑えている。一般的なカフェでは、店舗にコストがかかっている。

 

コスト構造をカフェとは逆転させたラッキンコーヒー

一方で、ラッキンコーヒーのコスト構造は逆転をしている。原材料コストが高く、店舗コストが安い。なぜならコーヒー豆、ミルク、砂糖なども高級品を使い、コーヒーマシン、用具なども高級品を使っているからだ。

それだけでなく、スタッフの時給も高い。北京ではカフェの仕事であれば時給23元程度が相場だが、ラッキンコーヒーでは30元を出している。美味しいコーヒーを質の高いスタッフが作る。

ラッキンコーヒーの一杯あたりの原材料コストは11元から12元。一般的なコーヒーの2倍から3倍にあたる。

一方で、店にはお金をかけない。店舗コストは1元から2元程度だ。一般的なカフェの10分の1から12分の1だ。

結局、ラッキンコーヒーの1杯あたりの総コストは13元程度になり、これを24元(ラテの場合)で販売をして11元の利益を得ている。ただし、さまざまなクーポンやキャンペーンを行なっているので、実際は20元以下で販売していることが多い。特にキャンペーン費用はオペレーションコストの3分の1にもあたり、これが赤字の原因になっている。

つまり、ラッキンコーヒーは、キャンペーンを縮小していけば、いつでも黒字にできる構造になっている。

 

モバイルオーダーで店舗コストを下げ、ユーザー体験をあげる

しかし、どうしてここまで店舗運営コストを下げられることができるのだろうか。

理由の中で最も大きなものが、レジがないということだ。ラッキンコーヒーを購入するには、スマホアプリからモバイルオーダーをする。この時に、支払いもスマホ決済で同時に行われる。それから店舗に行き、スマホを見せて、コーヒーを受け取る。

モバイルオーダー専門店であるために、レジが不要。しかも、注文カウンターも不要。スタッフの人数を減らせるだけでなく、利用者も注文のために並ぶ、レジに並ぶということがなくなり、ユーザー体験は著しく向上する。そして、コーヒーの味は個人の好みがあるとはいえ、他のカフェよりも高級な原材料を使っているので美味しい。

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▲ラッキンコーヒーのスタンド店の典型例。カウンターだけで席はない。テイクアウト専門店だ。

 

スタンドでコーヒーだけを提供するラッキンコーヒー

ラッキンコーヒーの店舗には3種類がある。優享店、快取店、外売厨房店の3種類がある。優享店というのはいわゆる普通のカフェで、テーブルやソファがある店。快取店はスタンドで、カウンターなどを用意していることもあるが、原則テイクアウトになる。外売厨房店は出前専門の店だ。

ラッキンコーヒーは、このうちの快取店=スタンドに力を入れていて、全店舗の91.3%が快取店になる。面積は20平米から60平米と狭く、店舗運営コストは低く済む。さらに、改装も楽なので、戦略に合わせて、素早く店舗を開店したり、閉店するという機動力もある。

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▲ラッキンコーヒーの出店状況。テイクアウトを主体にしたスタンド店を急増させている。ソファがあるカフェはごく一部でしかない。

 

中国人の7割はコーヒーをテイクアウトする

しかし、他のカフェのようにゆったりと店でコーヒーを楽しみたいのでは?と思う人もいるだろう。中国では、カフェでは70%の人がテイクアウトをし、店内で飲む人は30%にすぎない。

多くの消費者が店舗を必要としていない。オフィスや自宅で飲むか、モールのベンチなどで飲む。中国人のコーヒーに対する習慣を熟知しているラッキンコーヒーは、優享店はイメージを高めるために使い、主力は快取店で大量のコーヒーを販売している。これで1杯あたりの店舗運営コストを大きく下げることができている。

さらに、ラッキンコーヒー特有の仕組みとして、企業アカウントというのがある。企業で会議や打ち合わせで大量注文するためのもので、企業の口座から支払いができる。注文量に応じて、さまざまな割引がされるため、多くの企業で利用されている。この売上が大きい。

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▲対抗するスターバックスは、カフェ空間に大きなコストをかけている。上海のリザーブ・ロースタリーは焙煎施設を併設した高級店だ。しかし、中国人の7割はコーヒーをテイクアウトして飲むため、カフェ空間を必要としていない。

 

モバイルオーダーでデータを分析し、クーポンを個別配信

専用アプリからのモバイルオーダーを基本にするということは、すべての注文の詳細なデータが取れるということだ。どこに住んで、どのくらいの年齢の人が、どのコーヒーをどこの店で購入したかがわかる。

これにより、消費者に適した優待クーポンをアプリに送信することができる。アレンジコーヒーが好きな人なのに、試したことがないアレンジコーヒーがあれば、優待クーポンを送って、消費を刺激することができる。

さらに、ビッグデータを解析することで、消費量の予測もできるようになる。原材料、人員の最適配置も可能になる。もはや、現金でレジを使って購入する消費者は、匿名でデータの取れない消費者になっていて、商店からすれば、割増料金を取ってもいいぐらいなのだ。

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▲ラッキンコーヒーのアプリ。企業アカウントがあるのが独特。コーヒーは仕事中に飲む、会議などで飲むということが多いので、企業の決済口座から注文ができる。この売上がかなり大きいと推測されている。

 

「徒歩5分でラッキンコーヒー」を実現するための大量出店

ラッキンコーヒーの唯一の弱点は、「近くに店がない」ということだ。出前もあるが、距離が遠ければコーヒーが冷めてしまうし、時間がかかる。モバイルオーダーであっても、結局は店に行かなければならない。これが大きな課題だ。

そこで、ラッキンコーヒーは主要都市の中心部では「歩いて5分以内にラッキンコーヒーがある状況」を作ろうとしている。これを達成するため、ラッキンコーヒーは2021年末までに1万店舗の出店計画を立てている。

すでに店舗数は3000店を超え、スターバックスの3500店舗に次ぐ、中国第2位のコーヒーチェーンになっているが、2019年中にはスターバックスを超えて、中国第1位のコーヒーチェーンになることが現実味を帯びている。

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北京市のラッキンコーヒーの出店状況。コンビニよりも密に出店している。目標は「徒歩5分以内に店舗がある」状況を作り出すこと。

 

クーポンの切れ目が縁の切れ目の不安

この2021年末の1万店出店計画が完了するまでは、ラッキンコーヒーは赤字経営を続けることだろう。しかし、それが完了をすれば、きわめて強力なコーヒーチェーンになることは確実だ。

ただし、課題もある。最近、優待クーポンの量と回数、内容などが抑えられ、一部のヘビーユーザーから不満の声が起きている。いつまでも大量のクーポンを配布して消費者を引きつけていたのでは黒字化ができなくなる。1万店舗計画の完了に合わせるように、クーポン戦略も適正なレベルに寄せていく必要がある。

消費者は、優待クーポンがなくても定価でラッキンコーヒーを利用するのか、それとも優待クーポンがなければよそのカフェに逃げてしまうのか。これはラッキンコーヒーの最大の課題になる。

スターバックスもアリババと提携して、外売(出前)を始めている。ラッキンコーヒーに学んで、モバイルオーダーを取り入れるカフェも登場してきている。勢いが止まらないラッキンコーヒーだが、じわじわと難しい局面を迎えている。

 

小学校で人工知能の授業。次世代教育の柱は人工知能の理解

中国の小学校で、人工知能の授業を取り入れる試みが始まっている。中国教育部は各都市に「スマート教育モデル地区」を指定、実験校では人工知能の授業が展開されていると新京報網が報じた。

 

小学校で人工知能の授業を取り入れる試み

中国の小学校で、人工知能の授業を取り入れる試みが進んでいる。北京第一師範学校附属小学校では、小学4年生から人工知能の授業を取り入れている。

機械学習では手書き文字をどうやって判定しているのか、グーグルがWeChatミニプログラムの形で提供している「猜画小歌」(指で絵を描くと、それが何かであるかを人工知能が判定してくれる)は、どうして絵が何であるかを知ることができるのか、サングラをしていても顔認証できるのはどうして?など、身近なAI体験を通じて、人工知能の仕組みを教えていく授業だ。

第一師範学校附属小学校は、北京市東城区の「小学人工知能学習資源の開発と実践」実験校のひとつになっていて、今学期から人工知能の授業を取り入れた。そして、一学期が終わり、「小学人工知能」上下巻という教科書を成果として編纂した。

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▲WeChatミニプログラムの「猜画小歌」。「桶」というお題に応じて、指で絵を描くと、人工知能がそれが何かを類推していく。人工知能は「クギ、コップ、コーヒーカップ」などと推測した。時間内に人工知能が正解を出すような絵を描けばミッション成功。

 

顔認証人工知能を騙すゲーム的な授業

北京市東城区は、中国教育部より「スマート教育モデル地区」のひとつに指定された。北京第一師範学校附属小学校、府学胡同小学校、培新小学校など6つの小学校が実験校に選定され、第1期の成果である教科書「小学人工知能」を使って、人工知能の授業を展開する。

授業といっても、講義のような形式ではなく、ゲーム性を取り入れている。例えば、顔認証の仕組みを理解する授業では、生徒たちに人工知能に挑戦をしてもらう。サングラスをかけたり、マスクをしたり、うさぎの耳がついた帽子をかぶったりして、どうしたら人工知能を負かすことができるかを競う。そのプロセスの中で、人工知能の仕組みを体感してもらうというものだ。

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▲実際の授業。変顔をしたり、変装したりして、顔認証の人工知能を騙せるかを試す授業。

 

1000名規模の教員育成プログラムも始動

北京市東城区では人材育成も同時に行われている。数十名の校長クラスの人材、100名程度のリーダー教師、1000名程度の実践教師を2022年までに育成する計画が進んでいる。

人材育成計画はすでに5期目に入り、合計144名が研修を受けている。小学校教師をしながら、3年から5年の養成研修を受け、卒業後は全国の小学校に派遣をされて、人工知能教育のリーダー的存在となっていく予定だ。

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▲小学校4年生程度での使用が推奨されている教科書「AI上智慧生活」の一部。AIを利用したロボット、ドローン、家電製品などが紹介されている。

 

中国政府は、人工知能教育を次世代教育の柱と位置づけている

このような試みは、北京市だけでなく、他都市でも盛んに行われいてる。2017年に国務院が公表した「次世代人工知能発展計画」の中で、小中高での人工知能教育を推進することを表明したためだ。

華東師範大学ではすでに小中学校用の人工知能教科書6冊を出版している。「AIの不思議な動物」「AIのスマートな生活」「AIの変形工房」「AIの可愛い電子ペット」「AIスーパーエンジニア」「AIの幕裏の英雄(Python)」の6冊で、2019年中に4冊の教科書が追加される。

低学年向けの「スマートな生活」「電子ペット」では、身近なIT家電ーお掃除ロボット、ドローン、スマートスピーカーやロボットの簡単な仕組みを理解するものだが、小学校高学年、中学になるとScratchやPythonなどを使った実践プログラミング、電子部品を使ったメーカー体験も行われる。

どの教科書をどの学年で使うかは、現在のところ、各学校、各学区に任されているが、今の中国では保護者からの人工知能教育の要望も強いことから、多くの小中学校でAI教育が行われると見られている。

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▲華東師範大学が出版した6冊の小中学校用教科書。Pythonを使った簡単なプログラミングまで行う。さらに、追加の教科書が出版準備中。

 

 

Apple IDの不正アクセスが急増。フィッシングサイトから流出か

Apple IDに不正アクセスをされ、Appストアなどでゲームのアイテムなどが購入されるという事件が中国で起きている。その多くは、5月下旬に集中しており、アリペイとアップルの間で賠償責任の所在を巡って問題も起きていると華夏時報が報じた。

 

勝手にAppストアで22万円分の買い物をされる

陝西省西安市の韓さんは、華夏時報の取材に応えて被害の内容を語った。5月27日の夜に、韓さんのアリペイで、648元(約1万円)の買い物が22回、合計約1.4万元(約22万円)の出金があったことに朝起きてから気がついた。調べてみると、アップルのAppストアでゲーム用コインを購入していて、深夜に西安市とは異なる場所から不正アクセスされ、買い物をされてしまっていた。支払い用に紐づけているアリペイから出金をしていた。

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▲韓さんが提供した支払い履歴。寝ている間に約22万円が使われ、換金性の高いゲームコインなどが買われていた。

 

アリペイは賠償を拒否、アップルも返金を拒否

アリペイでは「アリペイの問題によって、金銭的被害を受けた場合は全額返金をする」と謳っていて、それが消費者の信頼の源になっている。韓さんは、アリペイで起きた問題だからと、すぐにアリペイのコールセンターに連絡を入れた。

しかし、調査をしたアリペイ側では、アリペイの問題ではなく、Apple IDの不正アクセスによる問題なので、アップルに返金を求めるべき事案だとした。韓さんはその後、すぐにアップルのコールセンターに連絡をしたが、アップルは調査をした上で、返金を拒否してきた。「得られたのは、おざなりな謝罪の言葉だけでした」と韓さんは語った。

 

同じ被害にあっていた人が60人以上も

韓さんは、再度アリペイに連絡をすると、アリペイ側は返金について、再度調査をした上で検討をすることを約束、同時に韓さんは警察に被害届を出した。

さらに、韓さんはSNSで同様の被害にあっている人を探すと、同じ被害にあった人60人ほどがグループを作っているの発見した。そこで尋ねると、みな、同じ手口の被害にあっていた。

深夜、普通であれば寝ている時間に、Apple IDに不正アクセスをされ、朝までにゲームアイテムやコインなどを購入されている。朝、起きてから被害にあっていることに気がついたという人がほとんどだった。

ところがアップルからすでに返金をしてもらっている人もいる。韓さんは再び、アップルに連絡をして、なぜ自分は返金してもらえないのか尋ねたが、アップルはその理由を開示することを拒否した。韓さんは現在でも、アリペイからもアップルからも返金をされていない。

 

アリペイ側の主張はあくまでも「Apple IDの不正アクセス

アリペイは華夏時報の取材に応えた。今回の事件は、Apple IDの不正利用が原因で、アリペイはその支払元として紐付けられていたにすぎない。そのため、アリペイの賠償範囲の外にある。消費者にはアップルに連絡をするようアドバイスをし、アリペイにも随時情報提供してもらえるようお願いをした。アリペイはアップルと協力をして問題解決にあたるという。

 

フィッシングサイト経由でApple IDが盗まれている

アップルは昨年2018年10月にも、フィッシングサイトによりApple IDが盗まれ、利用者に被害が起きていることを公表し、2ファクタ認証を設定するように呼びかけている。

華夏時報が各方面を取材をし、集計をすると、同様の被害は2017年から起きており、現在までに訴えがあっただけでも453件にのぼっているという。

警察の捜査がまだ終わっていないので、原因は不明だが、多くの識者が指摘するのがフィッシングサイトだ。被害者は、アップルを装ったフィッシングサイトにアクセスをし、自分でApple IDとパスワードを入力してしまった可能性が高い。2ファクタ認証を設定しておけば被害を免れたが、被害者はほぼ全員がパスワード認証しか設定していなかった。

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▲フィッシングサイトに誘うSMS。いずれもApple IDの状態に問題があるので、ログインし直して欲しいというもの。発信元やリンク先のURLをよく見ればおかしいことがわかるが、意外に多くの人がアクセスしてしまう。

 

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▲報告されているApple IDのフィッシングサイト。URLを確認しなければ、多くの人が騙されて、Apple IDとパスワードを入力してしまう。

 

グレービジネスの横行により、アップルの調査に時間がかかっている

もうひとつの問題は、アップルはなぜ、返金を行ったり、拒否したりするかという問題だ。

アップルはそもそも利用者の立場に立って、返金はかなり寛容に行っていた。例えば、「子どもが親のiPhoneを使ってしまい、勝手にAppストアで課金をしてしまった」という利用者側の落ち度が大きいものでも返金に応じてきた。

これに乗じたグレービジネスが「アップル代理返金」だ。彼らは、どのような訴えをすればアップルが返金に応じるかを心得ていて、利用者に代わって返金の交渉をしてくれる。そして、返金額の数十%を手数料として徴収をする。

この返金代行の問題は、正規で購入した課金であっても返金請求してしまうことだ。例えば、ゲーム内のコインチャージを大量に行って、ゲームで遊び、それから返金代行を依頼する。手数料を払っても、得になるというわけだ。

このようなグレービジネスあるいは違法行為が横行しているため、アップルは返金をするときに調査に時間がかかってしまうのではないかと推測されている。

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ECサイトタオバオ」を検索すると、iPhoneの問題解決と呼ばれる1元の商品が無数に見つかる。正規に使ったApple IDの課金を、利用者に変わって返金交渉してくれるというグレービジネスだ。アップルの寛容なサポートポリシーにつけ込んだ限りなく犯罪に近い行為。

 

性善説ポリシーは必ず付け込まれる

公平に見て、アップルは中国のカスタマーサポートでは、利用者の視点に立ち、性善説的な対応をし続けてきた。しかし、そこにつけ込む代理返金ビジネスが横行したため、アップルは方針を変えざるを得なくなっている。

アリペイも「アリペイ側の問題により生じた損害は、全額保証する」という利用者の視点に立った賠償ポリシーを採っているが、そこにつけ込むグレービジネスは生まれていない。なぜなら、そのような行為を行うと、アリペイに連動した信用スコア「芝麻信用」のスコアが著しく下がることになるからだ。場合によっては、アリペイのアカウントの凍結もあり得る。今の中国で、アリペイが利用できなければ、生活は著しく不便になる。

アリペイは、利用者の視点に立ったサポートポリシーを採っているが、一方で、悪質な行為を行う利用者には容赦をしない。これがアリペイの安全性を確保することにつながっている。性善説のサービスは悪人に付け込まれる、性悪説のサービスは真っ当な利用者から嫌われる。中国でのサポートポリシーは、アメとムチの両輪で回していかなければならない。

 

農民が発明した立体交差の構造が特許取得。通行量10倍の意外な発想

江蘇省徐州市の農民、伊江西さんが発明した立体交差の構造が話題を呼んでいる。交通信号はなく、通行量は数倍から10倍になる。すでに中国の特許も取得し、ネット民からは1日も早く実現してほしいと声が上がっていると車輪的生活が報じた。

 

バイパスとのインターチェンジが渋滞の原因になっている

中国の都市の交通は限界に達している。自動車の数が多すぎて、渋滞が当たり前になっている。

典型的な都市の道路の構造は、東西、南北という縦横に大きな通りが走り、それを何重にも環状バイパスが取り巻くというもの。環状バイバスの信号は極力減らし、少しでも車の流れをよくしようと工夫をしている。

しかし、問題はこのバイパスとのインターチェンジだ。バイパスから一般道に入る車、一般道からバイパスに入る車が車列をなし、これが原因でバイパス、一般道の渋滞の原因となっている。

 

北京市にある摩訶不思議な道路標識の謎

北京市には不思議な道路標識がある。まるで、ドイツの焼き菓子「プレッツェル」か、Macのコマンドマークのように見える。これは立体交差で右折をする時に、直接側道を右折するのではなく、3回ないしは5回ターンをしてから右折しろということを示している(中国は右側通行)。

実際、北京市の西直門立体交差では、7時から20時までは、黄色いラインのように3回ターンをしないと右折ができない。カーナビがないと、途中で自分がどちらに向いているのかわからなくなってしまうそうだ。

本来は、赤いラインのように右折をすれば簡単なのだが、通行量が多いときは、右折待ちの車が列をなし、横方向の一般道まで並ぶ。これが一般道の渋滞の原因となってしまう。

黄色いラインのように遠回りさせることで、車列を側道で吸収することで、渋滞を起こさないようにする工夫だ。

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北京市にある不思議な交通標識。西二環インターチェンジから、環状バイパスに入るには、5回のループを経て、右折して入らなければならない。流入線を長くすることで、渋滞による行列を吸収しようという苦肉の策だ。

 

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▲最も渋滞の多い西直門立体交差の通行図。西(左側)から走ってきて、環状バイパスに入り、南(下側)に行きたい時、本来なら赤い線に沿って右折をすればいいはず。しかし、渋滞の列が東西方向の道路にも及び、激しい渋滞となるため、7時から20時の間は、黄色い線に従って右折をしなければならない。

 

直進2層、ラウンドバウト1層の3層構造の立体交差

このような状況で、徐州市の農民、伊江西さんが考案した立体交差が話題になっている。信号もなく、通行可能量は通常の立体交差の数倍から10倍というもの。

この立体交差は3層になっている。まず、東西、南北の直線道路で2層。基本的に直進をする。右左折をしたい人は、側道を登って、最上層のラウンドバウトに行き、ここで右折、左折を行う。

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▲最上階はラウンドバウトになっている。右左折したい車はすべてこのラウンドバウトを使う。

 

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▲下の2層は、東西方向の道路と南北方向の道路の直進のみ。右左折したい人は3層のラウンドバウトに上がる。

 

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▲この立体交差は、東西、南北の直線道路が2層になっていて、右左折する人は3層目のラウンドバウトに上がる。信号がないので流れがよくなり、交通量は数倍から10倍になると見られている。

 

必要な用地は少なく、建設費も嵩まない

すでに特許も取得してある。専門家によると、この新考案の立体交差は一見構造が複雑で、建設費がかさみそうだが、既存の立体交差も側道の構造が複雑であるため、比較をすると建設費は一般の立体交差とそう変わらないのではないかという。

また、既存の立体交差は側道を建設するために、交差点付近の用地をかなり使うことになるが、この新考案の立体交差は、道路以外の用地を必要としない点も優れている。

ネット民からは、すぐにでも実現すべきだという称賛の声が上がっている。中国にこのような立体交差が登場する日がやってくるかもしれない。

▲伊江西さんが発明した立体交差を報道するニュース番組。構造がCGでわかりやすく説明してある。

 

 

ポイント還元をむしり取る「羊毛党」は、IT企業をも倒産させる

大量のスマートフォンを用意して、大量のポイント還元をむしり取るグレービジネス「羊毛党」が下火にならない。それどころか、IT企業は新規顧客獲得のために、ポイント優遇を大型化しているため、ますます羊毛党が暗躍することになっていると電商馬小雲が報じた。

 

組織立って行われる「ポイント還元」のむしり取り

ネットサービスが始まる時やキャンペーン期間などに、大型のポイント還元が行なわれることはもはや珍しくない。この還元ポイントを一生懸命集める人が出てくるのもごく普通のことになっている。

しかし、中国のポイントを集める人たちはレベルが違う。数千台のスマートフォンを用意して、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)のようなスクリプトを書き、一晩で数万元から数十万元の利益を上げる。組織立って行われているグレービジネスなのだ。

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▲ある羊毛党のアジト。大量の中古携帯を並べて、PCからスクリプトで自動操作をしていく。羊毛党の間では、昔からRPAが使われていた。

 

ドラマのエピソードにちなんで「羊毛党」と呼ばれる

このような人たちは「羊毛党」と呼ばれる。1999年の春節に中央電子台が放送したドラマ「昨日、今日、明日」に出てくるエピソードからそう呼ばれている。貧しい時代の中国で、牧場で働いていた年老いた妻が、毎日少しずつ羊の毛を隠れて持ち帰り、それで糸を紡いで夫のためにセーターを編むという話だ。

このエピソードから、小額の還元ポイントを集める人たちのことを羊毛党と呼ぶようになった。

 

企業をも倒産させる羊毛党のポイントむしり取り

しかし、今の羊毛党は、セーターを編むなどという可愛いものではない。2016年8月、上海大智慧がライブ放送アプリ「視吧」をスタートさせた。同時に、ユーザー登録をしてもらうために大型のキャンペーンを行なった。ユーザー登録をして、1日に10分のライブ放送を見ると、30元もらえるというものだ。1日目から3日目までは毎日30元、それ以降は予定した資金がある限り毎日10元がもらえるというものだった。

視吧では、このキャンペーンに16億元(約250億円)の資金を投入し、年末には112万人の新規ユーザーを獲得した。しかし、そのほとんどは羊毛党で、視吧はほとんど売上が上がらず、10億元(約150億円)の損失を出して、親会社の株式は監理銘柄となってしまった。

上海のある企業は、新発売の理財商品をプロモーションするため、資料請求登録者に紅包を配布した。スマホ決済のポイント還元のような仕組みだ。ところが、3日後に登録者の90%の情報がデタラメであることが発覚をした。この企業は、ポイント還元を急遽中止したが、今度は登録をしたのにまだ紅包をもらっていないユーザーたちが騒ぎ出し炎上した。結局、この企業は、新商品の発売そのものを中止せざるを得なくなった。

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▲羊毛党たちが使っている猫池(モデムプール)。大量のSIMカードを挿すことができ、PCから操作して、次々と携帯電話の操作をして、ポイントやクーポンを取得していく。

 

サイトのバグにたかる羊毛党たち

羊毛党は、システムのバグにも目ざとい。ECサイト「拼多多」は2019年1月下旬に、1人1枚のはずだった100元のクーポン券が、システムのバグにより1人で何枚でも取り放題になってしまうという事故を起こし、ネットはお祭り状態になった。

この時、額にして200億元以上(約3100億円)のクーポンが取得されてしまった。拼多多では、すぐにバグを修復し、クーポン券を無効にし、ユーザーに謝罪をしたが、その時にはもうすでに遅かった。羊毛党たちは、手に入れたクーポン券を使って、携帯電話の料金チャージなど、換金性の高い商品をすでに購入していたのだ。このもはや取り戻せない損失でも数千万元以上はあると言われている。

 

それでもポイント還元をやめられない企業の事情

このような羊毛党が跋扈する背景には、新規ユーザーの獲得コストが上昇し続けていることがある。サービスによっても異なるが、1人の新規ユーザーを獲得するには、広告やプロモーション費用が数百元かかるというのが常識で、最近では1000元(約1万6000円)を超える例もあるという。

であれば、運営側としては、50元(約780円)のキャッシュバックで新規ユーザーが獲得できるのであれば、そちらの方がずっと効率的ということになる。

ECサイトなどでは、50元のクーポンを配布するような例が多かったが、クーポンの効果は薄れてきている。現金(スマホ決済に還元)やすぐに換金性のある商品が購入できるようにしておかないと、ユーザーはなかなかユーザー登録をしてくれなくなった。ここが羊毛党たちに狙われている。

 

1万件の電話番号を駆使して、一晩で100万円以上を稼ぐ

典型的な羊毛党は、数人のグループで、携帯電話番号を1万件ほど所有している。大量の携帯電話のSIMカードを「猫池」と呼ばれる装置に挿入すると、PCからプログラムで発信ができるようになる。PC上では、RPAのようなスクリプトを書いておき、目的のサービスにアクセスをして、入会手続きをし、クーポン還元を取得する操作が自動で行われるようにしておく。これを猫池を使って、1万件の携帯電話番号から自動実行していくのだ。

わずか8元の還元キャンペーンであっても、スクリプトを書く作業に数時間かけて、あとは監視をするだけで、一晩で8万元(約125万円)の売上になる。

こういった専業羊毛党が無数に存在をし、ネットサービスのプロモーションが行われるたびに、大量のアクセスが集中するようになっている。そのため、数字的には「新規会員◯◯百万人突破!」などと景気のいいことを言えても、そのうちの90%は羊毛党によるゾンビ会員であることも珍しくなくなっている。

 

羊毛党対策をすればするほど、離脱率が高くなる

ネットサービス側も対策はしている。例えば、銀行口座との紐付けを必須にして実名確認をする。顔認証登録を必須にする。あるいは検証コードをショートメッセージではなく、音声通話で送るなどだ。しかし、このように羊毛党対策をしていくと、それは本当に欲しい真のユーザーの離脱につながってしまう。

現実には決め手となる対策はなく、サービス側は真のユーザーの含有率を高める工夫をするぐらいのことしかできない。

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▲ある羊毛党のライブ配信。個人で羊毛党行為を趣味にしている人も多く、ライブ配信SNSで、やり方などの情報交換を頻繁に行っている。

 

典型的な羊毛党グループは3人で年間1500万円の売上

セキュリティ企業「深圳永安在線科技」のセキュリティチーム「威脅猟人」の推計によると、羊毛党が所有している携帯電話番号は累計で1億件に達するのではないかという。そして、1回線あたり年間で100元程度の利益を上げているという。

典型的な羊毛党グループ規模は3人で1万件なので、年間収入は100万元(約1500万円)。中国ではまずまずの収入であり、頑張れば2倍にも3倍に増やすことができる。

中国工信部では、携帯電話の実名制度を進めてきて、2017年6月には、実名登録のない回線を強制停止するという手段で、完全実名制を達成した。現在、携帯電話を購入するには身分証が必要であり、所有できる回線数も特別の事情がない限り5本程度に制限されている。

 

企業用Iot専用SIMカードを大量購入して利用する

羊毛党たちは、どうやって1億件もの携帯電話番号を所有することができるのか。その8割はIoT機器用のSIMカードだ。自動販売機、シェア自転車、カーナビといった通信を必要としている機器はたくさんある。このようなIoT機器のためにデータ専用のSIMカードが販売されている。

多くの場合低価格または無料で、従量料金を支払うだけで利用できる。ただし、一般の人は購入することができない。IoT機器を使う企業が大量に一括購入するのが基本だ。

羊毛党たちは、このようなデータ専用SIMを、架空の会社を設立して購入するか、あるいは携帯キャリアの内部の人間から横流ししてもらう。

 

無記名で購入できる海外販売のSIMカードも利用

また1割から2割程度は、海外SIMを輸入して使っている。東南アジア各国は、もはや中国と関わらずにビジネスを進めることができず、中国出張が多い。その時、中国国内で使えるSIMカードが低価格で販売されている。ミャンマーベトナムインドネシアなどでは、このような中国用のSIMカードが実名登録なしで購入できるため、このような海外SIMを大量購入して、中国国内に持ち込んで使っている。

 

羊毛党は違法とはいえないグレーな行為

セキュリティチーム「威脅猟人」では、過去の通信履歴から、どの番号が羊毛党のものであるかをほぼ正確に把握をしている。であれば、ネットサービス側は羊毛党からの通信を遮断してしまえば済む話だ。

しかし、それができない。ユーザー登録をした後で、そのサービスを利用するかどうかは本人の自由。ポイントをもらう行為に違法性はない。唯一の問題は、登録時に住所や名前といった個人情報に虚偽の内容を登録していることだが、あくまでも民民の問題で、公安が捜査をするのは簡単ではない。

最近では、ちゃんとしたユーザーさえ、ポイント還元や割引がなければサービスを利用しないようになっているため、サービス側はポイント付与をやめられない。しかも、競争に埋もれないために、より大型のポイントキャンペーンを打ち出していかざるを得ない。その大部分は、消費者ではなく、羊毛党の稼ぎに消えてしまうのだ。

非常によくないスパイラルにはまってしまっているが、そこから脱出するきっかけが誰にもつかめないでいる。識者も、このままでは新しいサービスが生まれても、そこにたかってくる羊毛党につぶされることを繰り返すことになると警告しているが、では、どうすればいいのかと問われると誰も口を閉じてしまうのだ。羊毛党がIT産業の成長を頭打ちにする大きな重しになろうとしている。

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