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10年前に誘拐された子どもをテンセントの顔識別技術で発見。7人の子どもを親元に返すこと成功

10年前、3歳の時に誘拐された子どもの3歳時の写真と現在の写真が同一人物かどうかを判定する人工知能技術をテンセントが開発した。四川省公安では、この技術を使って、7人の子どもを親元に返すことに成功したと新華網が報じた。

 

10年前に誘拐された子どもを顔識別技術で特定

今年2019年5月に、四川省の公安が、粘り強い操作により、誘拐された4人の子どもを発見することに成功をした。4人が誘拐されたのは10年前のこと。顔は親が見ても、道ですれ違った程度では気がつかないほど変わっている。中には、幼い頃に誘拐されたので、自分の名前や出身地もよくわからない子もいる。

この特定に貢献したのが、テンセントの顔識別技術だ。人工知能が年齢による変化を学習して、幼い頃の写真と10代になった時の顔で、同一人物であるかどうかを判定した。これにより、氏名などが判明し、親とのDNA鑑定を経て、10年ぶりに親の元に戻された。

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▲テンセントは以前から、誘拐された子どもの情報プラットフォーム「牽挂儞」を公開している。今回の年齢変化を考慮した顔識別技術も搭載され、疑わしい子どもの顔写真をスマホで撮影すると、登録されている子どもの中に同一人物がいないかどうかを判定してくれる。

 

記憶が曖昧な3歳以下の子どもが狙われる

捜査を担当した四川省公安庁刑偵局の蒋暁玲所長は、当時のことを思い出す。誘拐された子どもの両親から、捜査資料として子どもの写真を借りるが、どの親も「絶対になくさないでください。絶対に返してください」と何度も頭を下げる。「親にとっては、子どもが残してくれた唯一のものなのです」。

2008年から2010年にかけて、3歳前後の子どもが連続して誘拐されるという事件が起きた。そのうちの一人桂豪は、四川省武勝県の沿口鎮にある酒屋の子どもだった。

両親は当時のことをよく覚えている。2009年6月12日午後5時、桂豪は店の前で他の子どもたちと遊んでいた。母親は仕事をしながら、その姿を見守っていたが、日が傾いて寒くなってきたので、子どもの上着を取りに家に入ったわずかな時間だけ、目を離してしまった。その数分で、桂豪はいなくなっていた。

この3年間で、中国で誘拐された子どもは57人。しかし、90年代、00年代は毎年数百人の規模で子どもが誘拐されていた。多くの場合、養子が欲しい家庭に売られて、そこの子どもとして育てられる。3歳以下の子どもが狙われるため、自分の名前や生まれに対する記憶も曖昧なため、時間が経ってから親元に返すのは至難の技だ。

2009年から公安は、誘拐された幼児のDNAデータベースの構築を始め、これにより6108人の子どもが親元に返された。

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▲「牽挂儞」には、誘拐された子どもの情報や顔写真が登録されている。

 

成長して顔が変わることが捜査を難しくしている

2014年、四川省公安は、子どもを誘拐して売っていたある男を逮捕した。その男は約10名の子どもを誘拐して、広東省の各地にすでに売っていた。誘拐された子どもがどこにいるかが特定できれば、DNAデータベースと照合することで身元がわかるが、どこで暮らしているのかもわからない状態では、3歳の時の写真しか手がかりがない。3歳の時に誘拐された桂豪は、すでに8歳になっている。顔は大きく変わっていて、捜索は難航した。

蒋暁玲所長は言う。「訪問調査、成長した姿を想像した似顔絵、ネット広告などできることはすべて試しましたが、10名の子どもは見つかりません。犯人は、自分で直接子どもを売るのではなく、中間業者に売ります。この中間業者を逮捕しないとどこに売られたがわからないのです」。

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▲耳の形は、年齢でもあまり変わらないと言われ、今回の開発でも実際にそうであることが確かめられたという。人工知能はこのような点を頼りに、年齢を超えて同一人物であるかどうかを判定する。

 

顔の年齢変化に使えるモデルが存在しない

この捜査に、テンセントの優図ラボが顔識別技術を使って協力することになった。しかし、優図顔識別アルゴリズム研究の責任者である李新博士は、「これは難しい」と感じた。現在の写真があれば、同一人物であるかどうかを照合するのは簡単なことだ。しかし、3歳の時の写真と、この時点で11歳になっている人物が同一人物であるかどうかを判別するのは至難の技だ。

李博士は言う。「作業は難航しました。人の顔が年齢によりどのように変化するかというモデルはまだ成熟したものが存在しないこと、学習に利用できるサンプルが少ないということが大きな課題でした」。

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▲異なる人物の相違点、同じ人物の年齢による相違点を人工知能に学習させることで、年齢による相違点を打ち消して、年齢を超えて同一人物であるかどうかを判定させる。

 

年齢変化による相違点を学習させ、人工知能を鍛える

この問題をクリアするのに半年かかった。「簡単に言うと、人工知能を先生にして、人工知能を学習させたのです」。同一人物だが年齢が異なる顔を顔識別させると、一致度は同じ年齢の異なる人物の顔同士よりも下がる。この時、人工知能がどこの部分を相違点として見ているかを解析して、この相違点がなくなるように人工知能を学習させ、年齢による変化による影響を打ち消していった。

つまり、通常の顔識別人工知能を「反面教師」として、年齢による変化を学習させていったのだ。異なる人物の相違点は異なる人物として完成し、年齢による変化については同一人物として判定する人工知能が完成した。最終的に、年齢が異なっても同一人物として判定できる正解率は96%に到達したという。

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▲年齢変化を考慮して同一人物であるかを判定できる顔識別技術がテンセントにより開発された。年齢変化による不一致点を人工知能に学習させ、モデルを構築した。写真は、テンセントがデモとして公開したもので、実際の被害者ではない。

 

疑わしい子どもの写真を入手し、同一人物かどうかを判定する

その後、四川省公安が捜査やDNA鑑定で、身元を特定した4人の子どもの顔写真を使って試験をしてみると、4人のうち3人を同一人物として判定することができた。

さらに四川省公安は、聞き込み調査などから「誘拐された子どもではないか」と疑われる子どもの現在の写真を入手、テンセント優図ラボの顔識別技術を使って、身分を特定。裏どり捜査をした上で、DNA鑑定をするという手法で、この犯人が誘拐した10人の子どものうち、7人を親元に返すことに成功した。この中には、桂豪も含まれていた。

テンセント優図ラボでは、さらに学習を進め、現在の正答率は99.8%に達しているという。この成功により、すでに各地の公安からは協力の依頼が相次いでおり、中国公安部でもこの技術を全国的に応用する施策の検討に入っている。