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面積あたりの売上3.7倍。宅配売上50%超。アリババ「フーマフレッシュ」の秘密(下)

中国アリババが今最も力を入れている「新小売」戦略。その目玉となっているのが「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)だ。グローサラント+宅配という業態だが、すでに既存スーパーの面積あたり売上は3.7倍になっている。その秘密はどこにあるのか。人人都是産品経理が解説した。

 

宅配(スマホ注文)が50%を超えるグローサラント

フーマフレッシュは、既存の業態にあてはめれば、グローサラント(グロッサリーストア+レストラン)+宅配ということになるが、一般的なグローサラントとは考え方がまるで違っている。

グローサラントは店舗の魅力を高めて、店舗に集客をするという考え方のもの。一方で、フーマフレッシュは店舗は商品のショールームであり、宅配(スマホ注文)に集約させようというものだ。

その目論見は今のところうまくいっていて、宅配(スマホ注文)の売上は、全体の50%以上であり、単位面積あたりの売上は既存スーパーの3.7倍という驚異的な数字を達成している。

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▲フーマフレッシュアプリの注文画面。これだけでは、食料品の品質を見極めることができない。そのために店舗があり、そこで品質を体験できるようになっている。

 

店舗は買い物を体験する場所

この目的を達成するため、ダニエル・チャンCEOは「食・支払い・配送」の3つを重要項目として定めた。

食に関しては、販売している食材を利用した料理を提供する。海産物に関しては、清蒸(蒸し料理)などの調理というよりは加工に近い料理も提供する。また、調理コスト、加工コストはぎりぎりまで低くする。なぜなら、料理で利益を出すことが目的ではなく、食材の品質の高さのプレゼンテーションであり、食材を「体験」してもらうことが目的だからだ。

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▲店舗では、お菓子作り教室など、さまざまな体験型のイベントが行われる。

 

決済は専用アプリから

支払いに関しては、フーマフレッシュ専用アプリからの決済しか原則できない。面白いことに、アリババが運営しているのに、アリペイから直接支払うこともできないのだ。もちろん、フーマアプリから支払っても、アリペイと紐付けされているので、アリペイから支払うことになるのだが、決済時はあくまでもフーマアプリで決済をする。

専任のガイドスタッフが常駐していて、フーマアプリのインストールやアリペイとの紐付け方法を丁寧に教えてくれる。

これもフーマアプリを使ってもらい、最終的にスマホ注文に誘導することが目的だ。店舗でフーマアプリを使って決済をすると、購入履歴がアプリ内に残る。次は、この購入履歴から商品をタップするだけで注文ができ、宅配をしてもらえるようになる。また、購入履歴から商品のリコメンド、優待クーポンの送付などを行い、消費を刺激することもできるようになる。

ただし、この「専用アプリからでないと決済ができない」というやり方は、当局から問題視された。それは中国人民銀行法によると、小売店は現金支払いを拒むことができないことになっているからだ。

そこで、フーマフレッシュでは、現金支払いの場合は、専用カウンターで現金を受け取り、フーマアプリに購入記録を転送するようにしている。あくまでもアプリを使わせる。

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▲フーマフレッシュアプリの注文決済画面。下には、おすすめの商品が表示される。また、クーポン券なども送られてくる。アリババは、最終的にすべての買い物を店内にいても、このアプリ内から行うように誘導しようとしている。

 

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▲フーマフレッシュには有人レジもあるがセルフレジも用意されている。商品点数が少ない時はこちらが便利。顔認証決済ができる。

 

購入者のシナリオから逆算した30分配送

配送に関しては、30分配送を実現するために、さまざまな工夫をしている。30分という時間は、都市部での通勤時間が30分から45分程度、3kmのフーマ区の自宅に店舗から歩いてい帰るのに30分程度というところから導き出されている。つまり、仕事が終わって帰宅する途中の地下鉄やバスで、フーマフレッシュに注文をすると、帰宅とほぼ同時に届いている。フーマフレッシュの店舗で買い物をしても、重たい飲料であるとか食用油のようなものは、自分で持って帰らず、帰り際にスマホから注文して宅配してもらうと、帰宅とほぼ同時に届いているというシーンを想定している。

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▲店内の天井にはレールと落下防止網が張り巡らされている。スタッフが宅配商品をピックアップしすると、バッグがこのレールによってバックヤードに送られる。

 

30分配送を実現するためにIT技術を利用する

これを実現するために、ピックアップ10分、配送20分の標準時間をスタッフに課している。フーマフレッシュの店内を見上げると、天井にレールが走っている。スタッフが商品をピックアップしてバッグに入れると、リフトで天井のレールに持ち上げられ、レールを伝ってバックヤードに運ばれる。バックヤードには配達員が待機をしている。もちろん、すべてのバッグが電子的に管理され、ピックアップスタッフ、配送スタッフともに、業務用アプリの指示に従って業務をこなせばいいようになっている。

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上海市のフーマフレッシュの店舗。ブルーの部分が宅配地域。大都市の中心部は、ほぼすべての場所をカバーできている。

 

新しいECの考え方、それを実現する「新小売」戦略

フーマフレッシュは、スーパーやグローサラントと似ているように見えて、まったく発想が異なっている。実態は、ショールーム付きECと言った方が理解しやすいかもしれない。

そのため、都市密度が粗い都市、地域に出店することは難しい。出店の立地条件に関してはシビアな判断が必要となる。しかし、そのデータもアリババはすでに持っている。都市部の対面決済の90%以上がスマホ決済になっていて、アリペイは6割から7割のシェアを持っている。つまり、アリババは、対面決済の約半分のデータを握っているのだ。どこに出店をすればペイできるのか。アリババは容易に計算することができるだろう。

フーマフレッシュは、かつてなかったコンセプトの業態だ。一見スーパーに似ているので、新しいスタイルのスーパーぐらいに考えてしまうが、ビジネスの設計の仕方が従来のスーパーやグローサラントとはまったく異なっている。だからこそ、既存スーパーの単位面積あたりの売上が3.7倍という驚異の数字をマークできた。アリババが「新小売」戦略の目玉だと胸を張るのには、それなりの理由があるのだ。