中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

電子決済は、経済を血液サラサラ体質に変える

電子決済は、便利、効率的というだけでなく、消費者の消費マインドを刺激し、個人消費経済が円滑に回すようになるというメリットがある。中国で、今、クレーンゲームビジネスが伸びているが、これもスマホ決済の影響が大きいと36クリプトンが報じた。

 

毎年50%成長しているクレーンゲームビジネス

通貨は、経済の血液に例えられることがある。電子決済が普及をするということは、消費が円滑になり、経済が血液サラサラ体質になるということだ。アリペイ、WeChatペイのスマホ決済が普及をした中国では、この血液サラサラ体質が効いて、あらゆるビジネスに新たな可能性が生まれている。

例えば、ぬいぐるみやフィギュアなどをクレーンでつかむクレーンゲームは、現在の日本のゲームセンターでも稼ぎ頭で、平成25年度の売上は1886億円、設置台数14.7万台となっている。しかし、ここ10年は、ぬいぐるみやフィギュアの人気により上下をしながら、減少していく傾向が続いている。

一方で、中国は2013年ごろからクレーンゲームが設置されるようになり、毎年50%成長をし、現在は全国で200万台を超えているという。ゲームセンターという施設がほとんどない中国では、クレーンゲームは、地下鉄の地下通路、ショッピングセンター、大型レストラン、公園の入り口、映画館など、人通りの多いところであれば、どこにでも置かれている。

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▲先玩后付機能のついたクレーンゲーム。スマホ決済のQRコードをかざして遊ぶ。ゲーム機の中にも、硬貨投入口がないものが増えていっている。

 

スマホから遊んで、景品は宅配

なぜ、中国のクレーンゲームは好調なのか。答えは、スマホ決済対応とネットワーク化にある。

歓楽抓娃娃、天天抓娃娃の2社は、ネットワーク対応のクレーンゲームを提供しているスタートアップだ。リアルなクレーンゲーム機を、人通りの多いところに設置をし、そこで遊ぶこともできるが、スマホアプリを通じて、遠隔地からクレーンゲームを楽しむこともできる。

アプリを起動すると、ぬいぐるみなどの景品の一覧が表示され、自分の欲しい景品を選ぶと、遠隔地のクレーンゲームに接続される。クレーンの操作タイミングがずれると、操作感が悪くなるので、回線状況も考慮して、適切なクレーンゲームに接続するようになっていて、遅延は平均76ミリ秒に抑えられている。

景品を取った場合、ネットから遊んだ場合は、クレーンゲームの回収ボックスに自動的に落ちるようになっていて、利用者には宅配便で景品が送られる。

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スマホからクレーンゲームを遊ぶには、先に、自分の撮りたい景品を選ぶ。すると、待ち時間の少ない空いているクレーンゲームに自動的に接続される。


スマホからなら24時間遊べて、場所を問わない

現在、このネット経由の利用が好調だ。クレーンゲームをショッピングモールなどに設置した場合、営業時間はショッピングモールの営業時間に制限を受けざるを得ない。しかし、クレーンゲームだけは、24時間営業が可能だ。昼の人通りが多い時はリアルのお客、夜の人通りの少ない時はネットからのお客を受け入れることができる。また、人通りがあまりない不利な場所でも、ネットからの利用で、売り上げを立てることができる。中には、従来のクレーンゲームの5倍以上の売り上げを上げているケースもあるという。

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▲実際のクレーンゲームの映像を見ながらプレイする。操作の遅延が起きないように工夫をされている。

 

先に体験させ、後から請求

また、遊戯具メーカー数娯科技は、スマホ決済に対応しただけでなく、先玩后付(先に遊んで、あとで払う)機能をつけたクレーンゲーム機の販売を始めている。

中国の都市住民の多くは、現在、ほとんどの支出をスマホ決済を利用し、現金はほとんど使わなくなっている。これは、特定個人の支出状況がデータとして取得できるということだ。これを利用して、アリペイを運営するアリババと、その子会社であるアントフィナンシャルは、芝麻信用という社会信用スコアを算出するサービスを行っている。アリペイの支出状況、残高などの行動履歴、そもそもの社会信用度などを勘案して、個人の信用スコアを計算するサービスだ。これに基づいて、サービス提供企業は、高スコアの利用者にさまざまな優待を提供している。

数娯科技のクレーンゲームの場合、信用スコアに基づいて、50元(約850円)または100元(約1700円)の利用枠が与えられる。スマホをかざして、クレーンゲームを遊んでも、プレイ代が累積で50元または100元に達しないと、料金が引き落とされないというものだ。言い換えれば、49元まで、または99元まで遊んで、その後遊ばなければ、無料でクレーンゲームが楽しめることになる。

数娯科技では、先玩后付機能を搭載したことにより、通常よりも売り上げが30%以上は伸びたという。

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▲先玩后付の機能。50元の枠があれば、50元遊ばないとお金は引き落とされない。49元までは無料で遊べる。現金社会で、同じことをするのは難しい。電子決済社会では、このような消費刺激策が可能になる。

 

「お試し無料」はリアルの世界でも通用する

人は、新しいゲーム機を見かけた時、なかなか試してみようとは思えないものだ。しかし、数回であれば無料、しかもうまく景品が取れたら持って帰れるとなると、多くの人が「お試し」感覚で、遊んでみる。遊んでみて面白ければ、お金を払ってでもやってみようと思えるようになる。しかし、現金社会で、このような先玩后付サービスを提供することは難しい。このような工夫が簡単にできることが消費を刺激し、ビジネスを回していくことになっている。まさに、電子決済の血液サラサラ効果だ。

さらに、スマホ決済を利用して遊ぶということは、その人の属性もデータとして収集できる。どのような人が、どのような景品であれば遊ぼうと考えるのか、それを分析することで、さらにニーズの高い景品を揃えていくことができるようになる。

数娯科技のクレーンゲームは、現在29省、128都市に約1000台程度が導入されている段階だが、この先玩后付機能をプロモーションして、一気に広げていきたいとしている。すでに、月に3000台から4000台を生産できる設備が準備済みだという。

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