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水墨画を筆で描く人工知能。人間を超える創造力を獲得することはできるのか?

清華大学のチームが水墨画を模倣する人工知能を開発した。ロボットアームに筆を持たせ描くために、人間が描いた水墨画と見分けがつかない。しかし、チームが目指しているのは画家の模倣ではなく、人工知能に創造力を持たせることだと雷峰網が報じた。

 

人工知能が筆を持ち、ロボットアームで描く水墨画

2020年8月7日、深圳市の前海華城JWマリオットホテルで、「2020世界人工知能・ロボットサミット」(CCF-GAIR2020)が開催された。この中で、清華大学未来実験室の高峰博士の講演「人工知能芸術とデザイン」が話題になっている。

高峰博士は、研究チームとともに6年間の時間をかけて、「道子智能絵画システム」を開発した。この人工知能は、水墨画を描くシステムだ。水墨画の作家から絵のタッチなどを学習し、写真などを水墨画に変換をする。

また、水墨画はデータで出力するのではなく、絵筆を持ったロボットアームが制作をするため、人間が描いた水墨画と見分けがつかなくなる。

さらに、古代中国の青銅器に見られる饕餮紋(動物の顔を図案化したものと言われている)の学習に成功し、饕餮紋風のデザインを生成することもできるようになった。

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人工知能が描いた水墨画。画家の作風を学習し、写真から水墨画を描くことができる。

 

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▲古代中国の青銅器に見られる饕餮紋を学習した人工知能が生み出したデザイン。精華大学のチームは、人工知能に創造力を持たせる研究を行っている。

 

人工知能は模倣ではない創造力を持つことができるか

高峰博士は、科学と芸術の境界領域の研究をしている。その中で大きなテーマになっているのが、人工知能が人間の芸術を学習して模倣するだけでなく、自らの創作意思を持てるかどうかだという。「現在、ディープラーニングは、人間が設定した目標を達成することができます。これは言い換えれば、自らの意図や発想というのは持っていないということです。創造力や意思は持っていないということです。しかし、いつか人工知能が自らの意思を持つようになる可能性がありますが、私たちは倫理、法律、道徳の面でじゅうぶんな準備ができているでしょうか。私たちの目標は、芸術作品の世界で、自らの創作意図を持つ強いAIを開発することです」。

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▲さまざまな画家の画風を学習して、人工知能が描いた水墨画。ロボットアームを使い筆で描くために、普通の人には画家が描いたものと見分けがつかない。

 

人工知能が描いた水墨画を当てるバラエティ番組

中央電子台のテレビ番組「機智過人」(機械の知能は人を超えるかという意味)の中では、エビの水墨画で有名な画家、斉白石の画風を学習した人工知能が描いた水墨画が扱われた。斉白石の画風を学習した人工知能に、実際のエビの写真を見せ、エビの水墨画を描かせた。

同様に、2人のプロの画家にも、斉白石風のエビの水墨画を描いてもらい、ゲストに3枚の水墨画の中から、どれが人工知能が描いたものかを当ててもらおうというものだ。しかも、判定するゲストの1人は、斉白石の孫娘である斉慧娟さんというもの。100人の観客にも投票をしてもらったが、当てることができたのは100人中16人だった。

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▲テレビ番組「機智過人」で出題された3つの水墨画。ひとつは人工知能が描いたもので、2つはプロの画家が描いたもの。

 

専門家は正解。画家の意図の風格を見抜く

圧巻だったのは、斉慧娟さんがずばりと人工知能が描いた絵を当てたことだ。人間の画家が斉白石の水墨画を模倣して描いたとしても、それは完璧な模倣にはならなず、必ずその画家の風格というものが現れる。墨の濃淡のつけ方、エビの造形、構図などに必ずその人特有の意図が読み取れる。

しかし、人工知能が描いた水墨画は、斉白石の風格を正確に再現していた。斉慧娟さんによると、斉白石が描くエビは正確なエビの形ではない。絵として面白くなるように造形をデフォルメしている。例えば、晩年になると、6節あるエビが5節になり、小ぶりになっている。これは小さなエビを描いたのではなく、小ぶりにした方がエビらしくなるという斉白石の意図なのだ。

人工知能が描いた水墨画は、このような斉白石の意図まで正確に再現をしていた。それで当てることができた。


《机智过人第二季》 厉害了!人工智能“道子”系统挑战画出齐白石大师的神韵! 20181020 | CCTV

▲中央電子台のテレビ番組「機智過人」。人工知能が描いた水墨画と画家が描いた水墨画を並べ、どれが人工知能が描いたかを当てる。会場の観客は当てられなかったが、専門家はずばりと見抜いた。

 

人工知能を進化させられるのは人間だけ

これはAI芸術にとって、どのような評価になるのだろうか。人工知能はまだ人間の芸術家を超えていないということになる。斉白石の画風を精密に模倣することはできるようになり、専門家でも斉白石の水墨画人工知能が模倣した水墨画を区別することは難しい段階まできているが、他の人間の作家と比べると区別できてしまう。それだけ、人間の芸術家には中から滲み出てしまう画風があり、人工知能はこの画風を模倣することはできるが、独自の画風を自ら創り出すことはまだできていない。

人工知能が自らの創造力を持つには、人工知能技術に大きなブレイクスルーが必要で、そのブレイクスルーを起こせるのは人間の創造力だけだ。強いAIが生まれる前夜に私たちは今いるのかもしれない。

筆ペンからはじめる水墨画

筆ペンからはじめる水墨画

  • 作者:小林 東雲
  • 発売日: 2006/09/20
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