中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ホテルの客室が狙われる。巧妙になる4K盗撮カメラ

中国の各地で、ホテルの客室での盗撮事件が起きている。中央電視台財経チャンネルの番組「経済半小時間」が、この問題を取材したところ、想像以上に蔓延していることが大きな話題になっている。

 

ユニクロの試着室に盗撮カメラ事件

中国で盗撮事件が続いている。深圳市の龍華ICOモール内のユニクロで買い物をしていた女性が、試着室の中に盗撮カメラが仕掛けられているのを発見した。その女性は言う。「試着室の中で着替えていたら、鏡の中にボタンのような小さな黒い点を見つけたんです。触ってみると熱を持っていることがわかりました。おかしいと思って、引っ張ってみるとカメラだったのです」。

まさかスタッフが仕掛けとは思えないが、悪質な客が仕掛けるにも、それなりの工作が必要になる。スタッフは気がつかなかったのか。現在、龍華公安が捜査に入っている。

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▲ピンホール型の盗撮機。壁に埋め込み、小さな穴を開けておけば、なかなか気づかれない。工作のしやすさから、洋服店の試着室が狙われている。

 

ホテルの客室も盗撮されやすい場所のひとつ

ホテルの客室での盗撮事件も、以前から時々起きていた。しかし、大きな問題にならなかったのは、そもそもが隠しカメラがわかりやすく、客が気がつくことが多かったからだ。ホテルにクレームを入れると、ホテルはだいたい「私たちは知らない。前に泊まった客が忘れていったものではないか」ととぼけるが、カメラは撤去される。気分は悪いものの、盗撮は免れる。

盗撮カメラは、ワイヤレスで映像を盗撮主のPCなどに飛ばさなければならないので、電源を必要とする。コンセント近くに設置されているか、内蔵バッテリー動作の場合はバッテリー切れになっていることも多い。画質も悪い。そういった事情で、盗撮事件は起きているものの、大きな問題になることは少なかった。

 

現在では4K映像も簡単に撮影できる

ところが、テクノロジーの進化によって、盗撮テクノロジーも大きく進歩した。多くのホテルにはWiFiが整備されているので、映像はインターネット経由で送られる。カメラもピンホールのような小さな穴となり、なかなか気づかない。省電力であるために、内蔵バッテリーでも長時間動作する。しかも、現在の盗撮装置の多くが4K映像の撮影が可能になっている。

宿泊客が気づかないうちに、鮮明な映像を長時間撮影され、その映像がネット上で密かに売買されている。

 

道端で売っている数々の盗撮機器

中央電視台財経チャンネルの番組「経済半小時」は、この問題を取材した番組を放映した。多くの市民が、鮮明な4Kの盗撮映像が撮影できることに驚き、大きな話題となっている。

記者は、まず深圳市の華強北(ホワチャンベイ)で、盗撮機器を買い求めることから始めた。華強北は、中国の秋葉原とも呼ばれる電気街で、だいぶ少なくなったとはいうものの、未だに小さなパーツ屋が軒を連ねている。盗撮機のような特殊な電子機器を買うのであれば、華強北に行くというのが常識だ。

盗撮機の販売は、当局の規制もあり、ECサイトも違法商品として、出品を規制している。当然、一般的な電気店では販売されていない。華強北でも手に入るのだろうか。記者は不安な思いで華強北を尋ねると、すぐに盗撮機を見つけた。通りに立っている中年女性が盗撮機を販売していたのだ。

その女性は1枚の紙にまとめたカタログを持っているだけで、盗撮機そのものは持っていない。公安や城管に咎められても、「カタログを拾っただけ」と言い逃れをするためだろう。盗撮機を買うという話がまとまると、販売をしている人物を紹介してくれる。

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▲深圳市の華強北の路上では、手にカタログを持った女性が普通に盗撮機を販売していた。

 

コンセント型の盗撮機も

指示されたカフェで待っていると、いかにも電気店の店員風の男が現れた。警戒をして、店舗に連れていかず、カフェで販売交渉をするようだった。その男が出してきた商品は、壁用のコンセントのような電子機器だった。見た目はコンセントだが、コンセントではない。中央の穴の奥にカメラが仕込まれている。

この装置は、壁に貼り付けるだけでコンセントとしては機能しない。しかし、壁掛けテレビの横の壁に貼り付けておけば、不審に思う人は少ない。バッテリー駆動で充電も可能。内部にはSDカードのスロットがあり、映像はこのSDカードに保存をされる。

記者が試し撮りをしてみると、映像は鮮明で音声もきれいに入っている。

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▲コンセント型の盗撮装置。壁に貼り付けておけば、ほとんどの人が気がつかない。中央の穴にカメラが収められている。

 

違法であるのに堂々と販売されている盗撮機

さらに、記者は華強北を歩いて、盗撮機を販売している店を見つけた。太平洋安防市場という防犯機器を販売している店が集まっている市場の3階の3C96の位置にある店だ。先ほどのコンセント型の盗撮機が説明なしに展示してあった。

話を聞いてみると、記者が買った盗撮装置とよく似ているが、性能は大幅にグレードアップされていて、この店の商品では4K映像が撮影できる。WiFiにも対応していて、盗撮映像をスマホでリアルタイムに見ることも保存することもできるという。

華強北の電子世界2号店3階の「飛揚デジタル」という名前の店では、盗撮ができるスマートウォッチや万年筆型の盗撮装置が販売されていた。

店主によると、このような商品の販売は違法で、工商局の職員が巡回にくるときは、販売をせず、商品も隠してしまうのだという。店主は言う。「ここではどの店も盗撮装置を売っています。法律によって販売が禁止されていることは知っていますが、この儲けるチャンスを誰も逃したくありません。当局の巡回の頻度は多くなり、厳しくなっていますが、店主の隠し方も上手くなっています。だから、販売が続いているのです」。

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▲華強北の店舗では、万年筆型などさまざまな盗撮機が販売されていた。

 

人民日報も注意喚起をする事態に

このような状況を受けて、人民日報のウェイボー公式アカウントは、盗撮に関する注意喚起を行った。どのような盗撮装置があるかを紹介したものだ。

それによると、キャラクターバッジ、ライター、コンセント、フック、煙感知器、スニーカー、飲料缶、シャンプー、ティッシュボックス、電動歯ブラシWiFIルーター、万年筆、ヘアドライヤー、テレビ、照明の壁スイッチ、時計、ACアダプター、杖などに仕込まれている盗撮装置が発見されている。

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▲人民日報が公式ウェイボーで注意喚起を行う事態に。このような機器に盗撮カメラが仕込まれていることが多いという。場所は、ホテルの他、バスの中、スーパーなどが多いという。

 

スマホカメラを使って、盗撮カメラは発見できる

また、特に盗撮が多いのはホテルの客室で、盗撮カメラをスマホを使って発見する方法を紹介している。それは、客室のカーテンを閉め、電気を消して、真っ暗な状態にして、スマホのカメラであらゆるところを見てみる方法だ。

真っ暗にしか映らないが、もし盗撮カメラがあった場合、光の点として映る。最近のカメラは、撮影するときに、赤外線を発して鮮明な映像を撮る仕組みになっているため、その赤外線にスマホのカメラが反応するのだ。ただし、古いタイプの盗撮カメラでは赤外線を使ってないものがあり、この方法では発見できない。

また、通風孔の奥、コンセントの穴の中などは、スマホの懐中電灯の光をあてると、カメラレンズが反射して見つけることができる。

特に天井から見下ろす位置、顔の高さから水平に撮影できる位置、膝の高さからやや上向けに狙う位置などに多く盗撮装置が仕掛けられている。場所としては、ベッド付近と浴室が多い。

また、バスの車内、スーパーなどにも盗撮装置が仕掛けられている例がある。

 

意外に軽い盗撮の罰

盗撮装置を使って、重大な結果を招いた場合は、中国の刑法により、2年以下の懲役または社会奉仕活動となる。さらに、中国治安管理処罰法では、盗撮行為そのものに5日以下の拘留または500元以下の罰金、盗撮内容のプライバシー侵害度が大きい場合は、10日以下の拘留または500元以下の罰金となっている。

盗撮行為は、その罰が意外に軽い。まだまだ盗撮事件は起こりそうだ。

 

 

中国のIT革命の起点となったタオバオ。初めての出品は2台の日本製カメラ

中国のIT革命は、2003年に開設されたアリババのEC「タオバオ」から始まる。ここからスマートフォン決済「アリペイ」が生まれ、中国人の生活は様変わりをした。そのタオバオで最初に売れたのは2台の日本製カメラだったと九零的新媒が報じた。

 

宝探し感覚で楽しまれた「タオバオ

中国の現在のテクノロジー革命の原点は、2003年のECサイトタオバオ」だ。個人でも商店でも商品を出店し、購入できるCtoC型のEC。当時すでに米国にはeBayが存在していたので、大いに参考にしたのだろう。

このタオバオが、中国ではエンターテイメントとして受け入れられた。当時の中国では、粗悪品、偽物商品なども多数出品されていたが、そういうものをつかまされてしまうのも楽しみのひとつだった。タオバオ(淘宝)とは宝探しの意味。川の砂をザルに入れて、砂金を見つけるようなイメージの言葉だ。まさに、「タオバオ」することが娯楽のひとつになった。

 

粗悪な出品人を排除するための仕組み「アリペイ」

しかし、次第にPCで注文をして、宅配で届けられるという利便性が注目されるようになった。特に2002年に中国南部で起きたSARSアウトブレイク以降、買い物にいかずECを使う人が激増した。こうなると、宝探しなどとは言っていられない。粗悪品、偽物商品が大きな問題になった。

そこで導入されたのが「アリペイ」だった。アリペイは当初、タオバオ内で使えるポイント通貨だった。消費者はまずアリペイポイントを購入し、そのポイントを使って商品を購入する。出品者はアリペイポイントで代金を受け取る。しかし、商品にクレームがあった場合は、アリペイの現金化ができなくなるという仕組みだった。

 

アリペイは決済を超えた生活プラットフォーム

このアリペイは、他のECサイトでも導入されていった。そして、それが街中の商店でも採用されるようになり、現在、現金よりも使われる主要な決済手段になっている。

アリペイは、現在ではキャッシュレス決済として有名になっているが、その出自はネット決済手段だった。そのため、アリペイアプリの中からは、ほとんどのものが購入できる。例えば、新幹線、特急、航空機のチケットは、アリペイアプリの中から検索をし、座席の空き状況も見ることができ、購入、決済ができる。電子チケットとなるので、スマホと身分証を持って駅や空港に行けば乗ることができる。その他、外売(フードデリバリー)、光熱費、各種ショッピングなどがアリペイアプリの中からできるようになっている。

アリペイは、通貨を電子化したというだけでなく、生活サービスそのものを電子化した。これが中国のIT生活革命の本質になっている。

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▲アリペイのメイン画面。「火車票機票」のアイコンから、新幹線、列車、飛行機のチケットが購入できる。アリペイに実名登録していれば、別アカウントは不要で、決済もアリペイから自動的に行われる。電子チケットとなるので、そのまま駅や空港に向かえばいい。その他、光熱費の支払い、タクシーを呼ぶ、フードデリバリー、証明書の申請など、生活関連の大体のことは、アリペイの中からできるようになっている。

 

タオバオに最初に出品されたのは2台の日本製カメラ

この原点であるタオバオに最初に出品をした人は、山西省出身の崔衛平という人だ。崔衛平は若い頃、日本に留学した経験があり、音楽プレイヤーなどの日本製品を輸入する仕事をしていた。当時、崔衛平の元に日本製のカメラがあったが、お客の中にカメラを買う人はなく、放置したままになっていた。

その時、崔衛平はタオバオというウェブサービスが開設されたことを知り、早速、登録をしてみて出品してみた。この2台のカメラが、タオバオの最初の出品となった。

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タオバオに最初に出品をした崔衛平氏日本製品を輸入して販売するビジネスをしていた。アリババは崔衛平氏に1.5億円の融資枠を与えている。

 

アリペイ導入後になってようやく売れる

このカメラに興味を持つ人は何人も現れたが、取引は成立しなかった。カメラは当時の中国人にとっては、相当に高価な商品でもあった。崔衛平という未知の人をすぐに信用することはできなかったからだ。

2003年5月に出品された2台のカメラは数ヶ月間売れなかった。10月になって、タオバオはアリペイの機能をリリースした。それでようやく取引が成立をした。

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▲アリババの前身となる企業を北京で創業した頃のジャック・マー。一介の英語教師なのに、語る夢のスケールだけは大きく、多くの人が詐欺師の類だと感じたという。この映像でも「私は中国で最大のウェブサイトを作ることができるのです」と豪語している。それは数年後、本当のことになる。

 

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▲ジャック・マーが最初にビジネスにしようと考えたChinaPages。中国企業の紹介を掲載し、海外企業と繋ごうと意図したもの。中国企業から掲載料を取るビジネスモデル。しかし、1件も契約が取れない空ページの状態で営業活動をしたため、どこからも相手にされなかった。会社は解散をすることになるが、後にビジネスモデルを変えて、Alibaba.comで成功する。

 

小米の創業者、雷軍も出資を断った地方のスタートアップ「アリババ」

この頃は、タオバオそのものすら信用していいものかどうか怪しかった。なぜなら、アリババなどという不思議な名前の企業は、中国人のほとんどが聞いたことがなく、実際、当時のアリババは、ジャック・マーを中心にした10人程度のスタートアップ企業にすぎなかった。

アリババのビジネスは、あまりにネットサービスに寄りすぎていたため、ジャック・マーは銀行を走り回って、資金を借りようとしたがすべて断られていた。銀行は、ネットの未来価値を正しく評価できなかったのだ。

この頃、後に小米(シャオミー)を創業することになる雷軍が、ソフトウェア大手金山軟件のCOOを務めていた。ジャック・マーは雷軍を訪ねて、出資を求めたが、金山軟件はアリババへの出資を断っている。

タオバオに出品をし、アリペイを使って売れたという経験は、崔衛平にとっても自分のビジネスを成長させるきっかけになったが、アリババにとっても自分たちのタオバオがちゃんと機能するということを知ることができた大きな経験となった。

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最初の出品者に与えた融資枠1.5億円

アリペイの中には花唄という機能がある。いわゆる消費者金融機能だが、どちらかというと、クレジットカードの機能に近い。花唄の限度額は、社会信用スコア「芝麻信用」によって自動的に定められるが、アリペイの残金と花唄の限度額の合計が表示され、利用者には「今使える金額」が知らされる。利用者はその範囲内で買い物をし、花唄で借りた分に対しては毎月自動的に返済が行われていく。

借金といえば借金なのだが、手持ち資金と信用資金を合わせてアリペイの財布の中に表示するという、今までにない新しい消費スタイルの試みだ。

アリババは、タオバオに最初に出品してくれた崔衛平に感謝をし、この崔衛平の花唄の限度額を特別に1000万元(約1.5億円)に設定している。これは花唄の限度額の中でも最高額だという。

当時は、杭州市という地方都市で創業したスタートアップに、カメラを出品してみたら売れたという小さな出来事でしかなかったが、ここから中国のIT革命が始まった。今から振り返れば、大きな事件だったのだ。

 

 

タクシーのEVシフト。課題の多い深圳方式。順調な杭州方式

公共交通、タクシーなどのEVシフトが進んでいる。急速充電をする深圳方式とバッテリー交換をする杭州方式の2種類があるが、深圳方式は課題が多く、杭州方式は今のところうまくいっている。EVシフトを進めるには充電ステーションなどのビジネスが成り立つエコシステムを構築することが重要だと第一電動網が報じた。

 

政府主導で進む公共交通のEVシフト

中国のEVシフト(電気自動車への転換)は、民間需要はなかなか大きくならないが、法人需要は伸びている。中国政府は2009年から2012年まで「十城千輌」工程を進めた。これは、科技部、財政部、発展改革委員会、工信部が共同して行なっているもので、毎年10の都市を選んで、1000台分の新エネルギー車購入の補助金を出すというものだ。公共交通、タクシー、公用車、郵便配達車などが対象。

これが公共交通のEVシフトの始まりとなり、その後は、各都市が独自でEVシフト施策を打ち出し、公共交通のEVシフトが進んでいる。

 

急速充電の深圳方式。バッテリー交換の杭州方式

この中で、深圳市と杭州市は電気自動車のタクシーの導入を始めた。深圳市はBYDのE6急速充電車を採用し、杭州市は衆泰の朗悦のバッテリー交換方式車を採用した。この方式の違いから、急速充電方式が深圳モデル、バッテリー交換方式が杭州モデルと呼ばれる。

2016年には、タクシーをすべてEV化した都市も現れた。山西省太原市だ。人口350万人の太原市では、政府の巨額の補助金を利用し、8929台のタクシーをすべてBYDのE6に変えた。深圳モデルを採用したことになる。

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▲太原市が導入したBYDのE6急速充電電気自動車。カタログでは満充電で400km走行可能になっているが、実際は300km前半。タクシーにとっては充電時間の確保が大きな課題となる。

 

カタログ通りではない満充電航続距離

しかし、太原市では、すでにEVの問題点が明らかになっている。

E6はカタログ数値では、満充電で400kmの走行が可能になっており、タクシーとしてはじゅうぶんな走行距離だ。しかし、実際は、新車の状態でも、急加減速をせずに、できるだけ経済速度を保つ運転を行っても、だいたい360km程度しか走ることができない。走行距離が10万kmを超えるようになると、夏にエアコンを入れると300km程度、冬にヒーターを入れると250kmも走ることができない。

タクシーにとって、航続距離の問題は大きい。充電量が減っている時に、郊外の長距離の乗客を捕まえた時は、運転手としては稼ぐチャンスなのに、断らざるを得ないことがあるからだ。

 

充電時間が大きな問題になるタクシー

太原市では、導入時に車両台数の4倍の充電ステーションを設置したため、充電ができずに困るということはほとんど起きていないが、残量が20%程度の時に充電をすると、満充電になるまでにだいたい1時間半かかる。これは運転手にとって頭の痛い問題だ。充電をしている間は、稼ぎにならないからだ。

多くの運転手が「2シフト制」を採用している。つまり、1台の車両を2人の運転手でシェアをして、12時間交代で使う。EVでは、車両を交換する時間帯に充電時間を取らなければならなくなった。さらに、長距離の客を乗せた後はバッテリーが著しく減るので、常務時間中であっても充電をしなければならないこともある。運転手にとっては、稼ぎがその分、少なくなってしまうのだ。

 

課題が多い急速充電の深圳方式

すでに30分で80%まで急速充電ができる技術も開発されているが、対応している充電ステーションは最高出力が120kWで、現在整備されているのはほとんどが30kWから60kWのもので、1時間から2時間の充電時間が必要になる。30分充電が可能な急速充電ステーションを整備するのにはまだまだ時間がかかる。

また、米テスラは250kW出力で、5分で充電できる技術を開発したが、中国の場合は電力網に対する負荷の問題などがあり、すぐには実践投入できない。

専門家は、10分から15分で充電ができる技術ですら、市場投入できるのは2020年以降と見ている。

急速充電方式の深圳モデルは、充電時間の問題をクリアし、なおかつ航続距離の問題も克服しなければならない。

 

概ねうまくいっているバッテリー交換の杭州方式

一方の杭州モデルは概ねうまく行っている。杭州モデルはバッテリー交換方式だ。杭州市以外では、北京市が積極的に導入をしている。北京市では、北京汽車新能源汽車のEUシリーズを4000台以上導入し、バッテリー交換ステーションも100箇所設置している。北京市政府も車両購入費を最大7.38万元までの補助を出している。

バッテリー交換は3分程度で済むため、ガソリン給油とほぼ変わらない感覚で利用できる。バッテリーを満充電にしない、残量ゼロにしないという、バッテリーに優しい使い方をすることで、バッテリー寿命を20%程度伸ばすことができ、コストを抑えることもできる。深圳方式に比べて、設備コストは高くなるが、運用コストは安くなる。

問題はガソリン車よりも総コストが高くなることだが、技術が進めば、下がっていくことが期待されている。課題はバッテリーの互換性がないため、車種やメーカーごとに交換ステーションを用意しなければならない点だ。これも互換性は次第に進んでいくと見られている。

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杭州市が導入した衆泰の朗悦。バッテリー交換方式に対応。交換ステーションで、底部に入っているバッテリー交換をする。交換時間は3分程度で済む。

 

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北京市が導入した北京汽車新能源汽車のEUシリーズ。バッテリー交換方式であり、4000台導入に対して100カ所の交換ステーションが設置されている。

 

1日46台以上の交換で黒字化できる交換ステーション

北京汽車によると、交換ステーションに必要な面積は67.5平米で、これは5台分の駐車スペースでしかない。これで1日300台のEVのバッテリー交換に対応できる。設置も、電気設備が整っていればわずか4時間で済む。

第一電動網では、5人のスタッフで運営するバッテリー交換ステーション事業の損益分岐の試算をしている。これによると、1日46台以上のバッテリー交換を行うことで黒字化が可能になる。実際には、ある程度の利益を出すことが必要なので、第一電動網では、1日60台の交換をすることが、交換ステーションがビジネスとして成立するかどうかの分岐点になるのではないかという。

現在北京市では、4000台のEVが投入され、交換ステーションは100カ所設置されているため、1日1回交換するとしても、1ステーションの交換台数は40台となり、多くの交換ステーションが赤字状態だと推測される。しかし、現在北京市には7.1万台のタクシーが走っているので、これがEVシフトをすることで、交換ステーションのビジネスが成立するようになり、タクシーのEVシフトがうまく回り始めると思われる。

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▲バッテリー交換ステーションも設備もパッケージ化されているため、電気系統さえ確保できれば、設置そのものは4時間程度で済むという。

 

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▲バッテリー交換ステーションの内部倉庫。バッテリーを常に充電しておく。交換したバッテリーはすぐに充電する。

 

周辺ビジネスが成立するエコシステムの構築が鍵になる

将来、急速充電技術が市場投入できるほど進むまでは、バッテリー交換の杭州方式が現実的だ。第一電動網は、EVシフトを成功させるには、補助金をつけて、やみくもに導入を進めるのではなく、交換ステーション、充電ステーションなどの周辺ビジネスが成立する環境を整えながら進めていくことが重要だとしている。

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▲バッテリーは車両の底部に装着されているので、これを交換する。交換時間は3分程度で済むので、ガソリンを補給する程度の感覚で利用できる。

 

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▲第一電動網が作成したバッテリー交換ステーションの試算表。1日46台のバッテリー交換を行うことで黒字化できる。現実的には60台ぐらいの交換でビジネスと成立する。

 

 

5000を超える公的機関のTik Tokアカウント。人気は警察と軍関係

Tik Tokの本家「抖音」の公的機関の公式アカウントが5000件を超えている。広報ビデオよりも短く、親しみがあるため、多くの人が閲覧をし、広報の目的を効果的に達成できるからだ。その中でも人気なのは、警察と軍関係の公式アカウントだと娯楽資本論が報じた。

 

5000以上の公的機関が参加する中国版Tik Tok「抖音」

Tik Tokの本家、中国の「抖音」(ドウイン)はもはや若者がダンス映像を披露する場所ではなくなっていて、ショームービー共有のプラットフォームになっている。ショートムービー版YouTubeといった感覚だ。

この抖音に昨2018年ごろから、公的機関の公式アカウントが次々と開設されている。警察や軍隊などが目立ち、日頃市民から遠い存在である公的機関が、自分たちの活動や広報を発信し、親しみを持ってもらおうというものだ。以前から公式サイトや動画共有サイトでこのような活動は行われていたが、より広く拡散させるために抖音を利用する機関が増えている。

抖音の運営会社であるバイトダンスでは、すぐにこの傾向を察知した。2018年8月には「公的機関メディア成長計画」を公表し、このような公的機関の公式アカウントをサポートする施策を始めた。この成果もあり、2018年末の段階で、公的機関の公式アカウントは5724件にもなった。

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▲2018年の公的機関の公式アカウントのファン数ランキング。警察や軍関係の公式アカウントが上位を占めている。従来の広報ビデオは、あまりにもきちんとしすぎたものであったため、警察官や兵士が普段の感覚で出演するショートムービーに新鮮さを感じている人が多いのだと思われる。


コント仕立てで防犯意識を高める動画

その中でも人気になっているのが、吉林省の地方都市、四平市公安局が運営する「四平警事」アカウントだ。すでに128件の動画を公開し、ファンの数は1400万人を超えている。どの動画も平均で70万から80万の「いいね」を得ている。

四平市は、長春市の南側に位置する人口300万人程度の地方都市にすぎない。その公安の動画が人口の4倍以上ものファンを獲得した理由は、面白いからだ。ほとんど警察コントになっている。

基本的なパターンは、ちょっと間抜けな2人の犯罪者が登場して、警察官に取り調べを受けるというもの。2人は警察官の追及を逃れようと知恵を絞るが、自ら墓穴を掘ってしまう。ショートコントとして楽しめるだけでなく、撮影は実際の四平市公安の建物や装備を使い、コントのネタも実際に起きた事件を元にしているなど、公安の広報ビデオとしてもちゃんと成立している。暇つぶしに見て、笑っているうちに、公安の仕事を理解するという内容だ。

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▲四平市公安局の公式Tik Tokアカウント「四平警事」。警察コントを中心に、公安局の広報映像も混ぜられ、ファン数は1400万人を超えている。人口300万人の四平市の広報としては大成功だ。

 

普通の広報ビデオでは市民に伝わらない

四平警事がここまでファンを獲得するのは簡単ではなかった。四平市公安局でも、以前から公式サイトや動画共有サイトを使って、広報ビデオを公開する活動は行っていた。しかし、それはごく常識的なものだった。警察官の仕事を紹介するビデオや、市民との交流会の様子を真面目に紹介するものなどだった。

当時から広報ビデオを担当していた四平市公安局の董政警務補助員は言う。「公安局の中を走り回って、同僚や上司にファンになってもらうようにお願いしました。それでもファンは45人でした」。つまり、内部の人間が義務的に見ているだけの広報ビデオだったのだ。

 

考えが甘かった「Tik Tokで公開すればファンがつく」発想

2018年6月になって、四平市公安局の上層部でこの広報ビデオの件が問題になった。まったく広報ビデオとして機能していないということが問題にされた。そこで、四平市公安局は、董政補助員にすべての決裁権を与え、広報ビデオを改革するように命じた。

董政補助員が考えたのは、Tik Tokに公式アカウントを作ることだった。理由は単純で、当時本人がTik Tokに夢中になっていたので、多くの人が見ているTik Tokに広報ビデオを流せば、今よりは多くの人に見てもらえるだろうと考えた。

しかし、考えが甘かった。2ヶ月経っても、ようやく100人程度のファンがついただけだった。

 

プロの司会者とつくった警察コントが大受

そこで、董政補助員は、四平市では有名なローカルFM局の司会者、呉爾渥に相談をした。呉爾渥は答えた。「警官コントをやればいいじゃないか!」。しかも、呉爾渥はノリノリで、自ら出演するという。

2人はすぐに警官コントのビデオをスマートフォンで撮影した。呉爾渥が酔っ払いの運転手となり、3人の警官に飲酒の検査を受けるというものだ。コントとしては、酔っ払いの運転手が飲酒検査を受け、数値がオーバーしているのに「酔っ払っていない」と言い張るありがちなものだが、中国的なシャレが織り込まれている。

この運転手は、車に乗っている時に歩行者を怒鳴る。これは中国語では習慣的に「牛を吹く」と表現される。そして、飲酒検査は「気を吹く」。つまり、牛を吹いていた運転手が、気を吹くことになるというシャレになっている。それでいて、酒酔い運転をすると、どのような危険があるのか、どのような取り締まりを受けるのかがわかる広報ビデオにもなっている。

このショートムービーは69万回再生され、1.7万の「いいね」を獲得した。

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▲最初に公開した警察ショートコント。酔っ払いが酒気帯び検査を受けるという単純なものだが、中国語のシャレが折り込まれている。コントでありながら、どのように酒気帯び検査がされているのか広報ビデオとしても機能している。

 

テンポのよさがショートムービーの秘訣

手応えを感じた董政補助員は、さらに地元で有名な映画俳優である張浩に声をかけた。張浩は「四平青年」「二龍湖浩哥」「二龍湖愛情物語」など、ネット映画、ネットドラマに主演をしている俳優だ。

張浩が加わることで、呉爾渥と張浩による「間抜けな二人の犯罪者」と、それを取り締まる警察官、董政というスタイルが確立し、3人は次々と警察コントを発表していった。人気はうなぎのぼりに高まり、1400万人のファンを獲得するに至った。

ただふざけているだけでなく、現実の事件をモチーフにし、公安局の仕事も紹介し、広報ビデオとしても成立しているため、公安局の上層部も満足しているという。

董政は言う。「Tik Tokに公開するビデオは長くも1分間。最初の5秒で、登場人物の関係がわかるようにしなければなりません。テンポのいいリズム感がユーザーを惹きつけるのです」。

 

ファン数100万人を超える北京SWATアカウント

バイトダンスが公開した「2018年ビッグデータ報告」では、公的機関の公式アカウントのファン数のトップは「四平警事」になっている。その他、公安局もあるが、多いのは軍事機関だ。人民解放軍もさまざまな広報活動を行っており、そのTik Tokの公式アカウントが人気になっている。

その中でも人気なのが、北京市のテロ対策隊の公式アカウント「北京SWAT」だ。こちらはコントなどの演出は不要だ。隊員の日常訓練、狙撃演習、実践演習などのストレートなショートムービーを公開し、人気となり、ファン数は100万人を超えている。

四平警事と北京SWATの成功を見て、公安、人民解放軍のみならず、交通局や地方政府もTik Tokの公式アカウントを公開し始めている。公的な広報も、退屈な公式ビデオではなく、テンポのいいショートムービーの時代に移ろうとしている。

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▲北京SWATの公式アカウント。日常の訓練風景や隊員の普段の様子など、従来の公式広報ビデオでは演出されてしまうような内容が、素の状態で紹介されている。そこが人気になっているようだ。

 

 

急速に増える「プライベート映画館」。なぜか大学の近くに集中する理由

中国の各都市で、プライベート映画館が急増している。個室で映画を見られるというもので、カップルやグループでの利用を見込んでいる。しかし、なぜか大学のそばに集中することが多く、個室の中で何が行われているかわからず、社会問題化しようとしていると一起拍電影が報じた。

 

プライベート映画館が1万6000軒

中国の各都市で、プライベート映画館が増えている。3時間100元前後(約1500円)で個室を借りることができ、ゆったりと映画を楽しむことができる。多くの場合、食べ物や飲み物などを注文することができる。2人で映画を見る場合と比べて、少し割高になるが、周りを気にすることなく、楽しめるので、決して高いという感覚はない。

プライベート映画館は、2013年には100軒程度しかなかったが、2018年には1万6000軒に達し、特に学生の多い大学近辺に集中しているという。

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▲あるプライベート映画館の個室。チープだが賑やかで、女性が好みそうな内装になっている。この感覚は、日本のラブホテルとよく似ている。

 

安全基準をクリアしていない非合法プライベート映画館も

この1万6000軒という数字はプライベート映画館の業界団体が補足をしているものだけで、実態はその数倍以上はあるのではないかと言われている。なぜなら、プライベート映画館の営業は合法とも非合法とも言えないグレーなものだからだ。

中国では2017年3月から「映画産業促進法」が施行されていて、映画館を営業するには政府が定めた設備や安全設備の基準をクリアしなければならない。このようなプライベート映画館は、マンションやオフィスビルなどの一室を利用したもので、規定をクリアしていないものも多い。そのため、多くは、バー、喫茶店、ビリヤード場などとしての営業許可を取得し、「映画も放映している」体裁を取っている。

このような営業形態をとっているため、放映する映画も権利処理されていない海賊版であることがほとんどだ。

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▲プライベート映画館のメニュー。ほとんどが誰でも使える映像配信系アプリ。日本で言えば、NetflixやHuluが利用できる感覚だ。それでも大学生たちが利用するのは、プライベートな空間を求めているからだ。

 

人件費が安く済むプライベート映画館

プライベート映画館は、ネットカフェやカラオケ(KTV)から改装しているパターンが多いという。なぜなら、運営スタッフが少なくて済むからだ。KTVでは技術スタッフが必要で、さらに盛り上がる場所なので騒ぎも起こり、警備スタッフも必要になる。また、大量の接客スタッフも必要になる。接客スタッフは、違法なカラオケ店では性的なサービスも提供するが、健全店でも一緒にカラオケを楽しむコンパニオン、料理やドリンクを届けるスタッフなどが必要だ。消費金額が大きいので、繁盛をすれば大きな利益が期待できるが、客が少ないと固定費がかかるために損失も大きい。

ネットカフェは、接客スタッフは不要だが、しばしばネットにトラブルが起きるので技術スタッフは必要。一方で、プライベート映画館では、多くの場合、大型のスマートテレビを設置するか、タブレットをプロジェクターに接続しているだけなので技術スタッフも不要。同規模のネットカフェを運営するには常時7人のスタッフが必要だが、プライベート映画館であれば5人で済むという。

 

恋人たちにラブホテル代わりに使われている

プライベート映画館で見られる映画は、動画サブスクサービスで見られるものばかり。日本で言えば、HuluやNetflixのようなサービスを使えるだけで、新作映画が放映されていることはほとんどない(海賊版を放映し、新作映画が見られることをウリにしているところもある)。つまり、自宅やスマホで見られる映画が見られるだけだ。それでなぜ多くの人が利用するのか。

個室の中でどのようなことが行われているかは、誰も見ることができないが、利用者のほとんどは学生カップルで、場所によっては同性愛カップルもよく見かけるという。つまり、恋人たちのラブホテル代わり、個室喫茶代わりに使われているのだ。

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▲安全基準、海賊版、個室内の風紀など、プライベート映画館は多くの問題を抱えている。当局も警戒を強めていて、営業停止になるプライベート映画館も増加している。

 

大学生に不足をしているのはプライベートな空間

中国のホテルは、未だに利用するのに身分証の提示が必要で、すでに形骸化しているとはいうものの、法律上は、未婚の男女が同室に泊まることはできないことになっている。大学生は今でも学生寮に入ることが原則になっていて、学生寮は4人から6人が同室になる。プライベートな空間はほとんどない。そのため、若い恋人たちは、プライベート空間を求めている。その需要がプライベート映画館を生んでいる。

しかし、営業許可の問題、放映する映画の版権処理の問題、個室内部での風紀の問題など、問題は多く、各都市の当局は警戒を強めている。実際、海賊版映画を提供していた、営業許可書に不備があるなどの理由で、営業停止になるプライベート映画館も出始めている。

 

SNS導入で売り上げを10倍にしたくだもの屋。規模が小さいほどテック導入の効果は大きい

町のくだもの屋がSNSとそれに連動する会員管理システムを導入して、売り上げを10倍に増やすことに成功した。妻と二人で運営する小さな商店では、テック導入のコストは安く、効果は大きいと済南同創教育諮詢が報じた。

 

流行するスタートアップ「くだもの屋」

中国でスタートアップ創業といえば、ITサービスというのが常識だが、ITとは別に人気のビジネスがある。それは「くだもの屋」だ。

中国のくだものは単価が低いので、仕入れ代金も多くはいらない。商品が重たいので、遠くのスーパーよりは近くのくだもの屋を使う人が多い。市民の間に広まる健康志向で、くだものを食べる人が増えている。お菓子を食べるくらいならくだものを食べるという人が多く、需要がある。商品が傷みやすいので、新小売スーパーや生鮮ECによる宅配で扱うには難しい面がある。などなど、手軽に起業ができ、うまくはまれば儲かるということから、くだもの屋を起業する若者が増えている。

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▲今、起業を目指す若者の間で、くだもの屋が注目を浴びている。比較的少ない資金で始めるとこができ、テックと組み合わせることで大きな日銭が稼げ、さらにはチェーン店化も可能だからだ。

 

ただのくだもの屋では近隣のライバルに負けてしまう

もちろん、くだもの屋を開いたからといって、自動的にうまくいくわけではない。ITツールをうまく組み合わせていく必要がある。

その中で、わずか30日間で、売上を10倍に伸ばしたくだもの屋がいる。

このくだもの屋の主人、孫さんは、住宅地の中でくだもの屋を開いている。1日の売上は約1000元(約1万5000円)で、可もなく不可もなくというところだ。売上が伸びない原因は明らかだった。周辺にくだもの屋が7軒もあって、しかもそのうちの1軒は大手スーパーの大潤発だった。周辺の住民の多くは、くだものを大潤発で買っていた。大潤発のくだものは品質はそこそこ、価格は少し高い。孫さんのくだもの屋の方が、質が高いくだものを安く買えるのだが、日常の食材と一緒に買えるため、多くの人が大潤発で買ってしまう。

しかし、孫さんは昨年結婚したばかりで、なんとかしなければならなかった。

 

若者に向けて無料宅配を実行

孫さんが近隣の住民の調査をしてみたところ、一般的な地区よりも、若者の割合が多いことに気がついた。ここに商機があると考えた。若者には3つの特徴がある。価格に対して細かくはない。自由な時間は少ない。宅配を好むの3つだ。

そこで、孫さんは1000枚のチラシを印刷してポスティングをした。そのチラシの内容は次のようなものだった。

「この地区にお住いのみなさま。よりよい生活を実現するため、私たちは送料無料でくだものの戸別配送をいたします。また、無料でゴミの引取をおこない、私たちで分別処理をいたします。配送先の住所をおしらせください。また、WeChatの私たちのグループに参加をしてください」

 

SNSに登録させることで、配送の効率を上げた

ゴミの分別回収をするというところが受けた。中国ではゴミの分別回収が始まり、多くの市民の頭を悩ませている。今までやったことがないので、どのように分類をすればいいかがわからないからだ。

もうひとつは、SNS「WeChat」のグループに参加させたことだ。配送は近隣だけなので、さほど大きな手間ではない。最大の問題は、不在の家があることだ。すぐに傷んでしまうくだものをドアの前に置きっぱなしにするわけにはいかない。不在の場合は、商品を持って帰らなければならず、無駄足となる。これが大きな問題になる。

そこで、配送に出る前にWeChatのチャットで在宅かどうかを確認する。返事が返ってきた家から配送をしていく。孫さんは無駄足を踏むことがなく、消費者から見ても、WeChatでのやり取りがあってから配送されるので安心できる。

しかも、グループ全体に「本日は、新鮮なリンゴが入荷しています」などというお勧めメッセージを送ることもできる。

この施策を始めてわずか5日間で、売上は5倍になった。

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▲町のくだもの屋は、以前は夫婦で運営する個人商店が主体だったが、百果園などのチェーン店が増えている。百果園は2800店舗を展開している。一方で、個人商店は競争が厳しくなり減少しつつある。

 

独自にポイント制度を行いリピーターをつかむ

孫さんは、ここで手を緩めなかった。次の施策として、ポイント制度を導入したのだ。1箱のくだものを買うと、ポイントが1点たまる。5点になると、購入代金の5%を割引するようにした。

また、毎回、購入代金の5%は会員カードに溜まる仕組みにし、好きな時に支払い代金に充当できるようにした。

これが、リピーターを増やし、1日の売上は1万元を突破した。施策を始める前から考えると、売上は10倍以上になっている。

 

個人商店だから小さな投資で大きな効果が得られる

孫さんは大掛かりな投資をしたわけではない。WeChatと連動する会員管理アプリを導入しただけのことだ。月数十元で利用できるという安価なものだ。孫さんの店の以前の客数は1日20人程度、それが今では200人程度になったにすぎない。この人数であれば、本格的なシステムを導入しなくても、じゅぶんにやっていくことができる。

お店の多くが無料配送を頼むようになり、店舗に来るお客の数は減った。店番は妻に頼めばじゅうぶんになり、孫さんは1日中配達に回っている。それでじゅうぶん運営していけるのだ。

このような個人商店は、売上規模が小さく、客数も少ない。そのため、簡単なアプリで会員制度を導入することができ、スマホだけで管理をすることができる。それで売上が10倍になるほどの効果が出る。規模が小さいだけに、IT導入の効果は大きい。

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2018年から急激に増加した自動運転地下鉄。アジア地域が世界をリード

国際公共交通連合(UITP)は、世界の無人運転地下鉄の状況をまとめた「World Report on Metro Automation 2018」(世界地下鉄自動化報告)を公表した。2018年から自動運転地下鉄路線は急激に増加し、自動運転時代がやってくる。

 

世界の無人運転地下鉄の半分はアジア地域

UITPは世界の公共交通機関1300団体が参加する国際組織。本部はベルギーのブリュッセルにある。そのUITPが地下鉄の自動運転の状況についてリポートを公開した。これによると、2018年3月に上海で新路線が開通し、世界の無人運転地下鉄の総延長がマイルストーンとされていた1000kmを超えた。総延長は1026kmとなり、世界42都市で64の路線で無人運転が実施されている。

世界の無人運転地下鉄の半分はアジア太平洋地域であり、アジアが無人運転地下鉄の先進地域であることが明らかになった。

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▲地域別の無人運転路線の総延長割合。アジア地域が圧倒的に進んでいる。

 

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▲国別の無人運転路線の総延長ランキング。韓国が圧倒的に進んでいる。

 

高密度路線の無人運転化が進む北京、ソウル、香港など

国別に無人運転地下鉄の総延長を見ると、世界で最も進んでいるのが韓国、そしてアジア地域では、シンガポール、マレーシア、日本、中国、台湾と続いている。しかし、このうち、日本と台湾は遅れをとっている。

UITPでは、地下鉄路線を高密度路線(列車あたり乗客が700人以上)、中密度路線(300人から700人)、低密度路線(300人以下)に分類をしていて、日本と台湾はいずれも中密度以下の路線で自動運転を行なっている。北京、ソウル、香港、クアラルンプール、シンガポールでは高密度路線での自動運転が実施されている。

東京の東京メトロでは、千代田線の一部区間丸ノ内線でATO(自動列車運転装置)を使い、運転手兼車掌のワンマン運転を実施している。運転手はATOの発車ボタンを押すだけで、安全監視と車掌業務を行う。完全な無人運転は実施していない。

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▲自動運転のレベル階級。GoA1はATP(Auto Train Protection、日本の自動列車停車装置や自動列車制御装置に相当)を導入しただけ。GoA2は自動運転を導入するが、運転士が乗務し、緊急時には手動対応する。GoA3は運転士は乗務せず、緊急時には監視員兼車掌が手動操作をする。GoA4は完全無人運転になる。日本はGoA2とGoA3の中間型で、運転士が乗務するが運転はせず、車掌業務を兼任する。

 

無人化の狙いは、臨時増発、トラブル時の運転士確保問題の解消

自動運転の最大の狙いは、人手不足に対処することだ。列車の運転技術はすぐに身につくものではなく、養成には一定の時間がかかる。将来は運転士の絶対数が不足することが明らかであり、長期的にはこの問題に対処するための技術だ。

もうひとつ、短期的な狙いとしては、臨時増発、トラブル時の運転再開がしやすくなるということがある。従来であれば、まずは運転士の割り当てをしなければならなかった。運転士が詰所が現地に移動するまでの時間も必要になるし、安全確保のため、運転士には一定時間の休息が義務付けられていて、これを超過する場合は運転ができない。自動運転では、このような運転士の確保問題が解消されるため、本来は高密度路線でこそ自動運転が活きてくる。

東京と台湾が中密度路線でのみ自動運転を行なっているのは、まだ本格活用に至ってなく、安全性の検証を行いながら導入を進めている段階だからだ。

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▲既存路線を無人運転化した路線と新設の無人運転路線の割合。韓国は新設路線を無人化しているが、シンガポールやマレーシアは既存路線を無人化している。

 

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▲各地域別に、運行されている自動運転路線(左)と、2028年までに計画されている自動運転路線(右)。すでにアジアは自動運転路線の先進地域になっているが、今後10年で圧倒的な先進地域となる。

 

新設路線は原則無人運転路線

アジアの中でも、都市ごとに自動運転に対する戦略は異なっている。韓国、中国、台湾は、基本的に新路線を自動運転として建設している。一方で、シンガポール、マレーシア、日本、欧州は、既存路線を自動運転化する方向で進んでいる。

つまり、韓国、中国、台湾はまだ地下鉄そのものが不足をしている。新路線を建設するのであれば、自動運転が前提になっているということだ。

UITPでは、2028年までに、自動運転地下鉄の総延長は3800kmになると予測している。これは各都市で計画されている87の新路線と、既存路線の自動運転化計画に基づいた予測だ。

近い将来、地下鉄は自動運転するのが当たり前の時代になる。

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▲自動運転路線は、2018年から急激に増加をし始めた。今後は、自動運転地下鉄が当たり前の時代になる。

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